電圧制御液晶リターダーを利用した 高性能エリプソメーター 早稲田大学 先進理工学部 応用物理学科 教授 多辺 由佳 1 研究背景 光学機器の発展と普及 DVDプレーヤーやカーナビの位相補償、収差補正などに 液晶波長板(リターダー)が利用 水晶波長板 方解石 誘電体多層膜 偏光子 波長板 固定光学素子 液晶波長板 可変光学素子 2 液晶リターダーの利点 波長板(高分子フィルム、水晶、液晶 etc): 透過光の偏光状態を変える 液晶のよさ: • 光の波長を選ばない • 印加電圧を変えることで与える位相差を自在に制御 • 高精度空間変調が可能 DVDやCDのディスクチルト補正、 ディスクカバー層のむらによる球面収差補正 などに既に利用 3 液晶光学素子の利用例 光ディスクカバー層の厚さむらによる収差を液晶波長板で補正 by 岩﨑,小笠原,大滝 PIONEER R&D Vol.13 No.1 (web掲載より) 4 液晶リターダーの動作原理 α // Polyimide Film LC Molecule α⊥ φ Voltage 液晶分子の分極率異方性 →液晶の屈折率異方性 液晶リターダーの配向状 態によって透過する光の 偏光状態が変わる ITO glass 電場による配向変化→偏光を制御 5 液晶を利用した空間光変調器の例 浜松ホトニクス社の液晶 を用いた空間光変調器 LCOS-SLM 6 電圧による液晶リターダーの位相差制御 従来の液晶リターダー 考案した液晶リターダー 高インピーダンス抵抗 液晶セルが透過光に与える位 相差は印加電圧に非線形依存 両者の関係を与えるデータ シートが予め必要 位相差は電圧の逆数に比例 (データシート不要) 7 液晶リターダー電圧制御の条件 液晶セルのイ 1 Z LC = ンピーダンス: i ωC Vin Vin ≈ Z>>ZLCの時 I = Z + Z LC Z Vin Vin Z LC = 液晶セルにかかるCV: CV = C Z i ωZ 電場下で液晶セルが最適配向状態をとる時に光に与える位相差: ξ R = I (α , γ , v, θ ) R0 CV I (α , γ , v, θ ) = 2 π π /2 ∫ θ ⎛ ⎞ 1 ⎜ − 1⎟ ⎜ 1 − α cos 2 ϕ ⎟ ⎝ ⎠ (1 + γ sin ϕ )(1 − α cos ϕ ) dϕ 2 2 cos ϕ 2π d (ne − no ) K1 ⎛ S⎞ , R0 = Δε λ ⎝ d⎠ C : LC セルの静電容量 ξ = ⎜ ε1 ⎟ × π R ∝ Vin −1 8 液晶リターダーを利用したエリプソメーター エリプソメーターの考え方: 複素反射率比から試料の光学定数を割り出す 反射光の偏光は一般に 入射光の偏光からずれる 複素反射率比 ρ で表わす rp rs = ρ = tan Ψ exp(iΔ ) rp : P偏光の反射率 rs : S偏光の反射率 複素反射率比 ρ の実部 Ψ と虚部 Δ → 試料の厚さ・屈折率等の情報 9 従来のNull法による複素反射率比測定 P1, P2: 偏光子 Q: 波長板 L: レーザー PD: 光検出器 波長板と偏光子を少しずつ回転させ、光強度ゼロの位置を求める 試料の複素反射率比 利点:精度が高い(膜厚精度~1nm) 欠点:非常に時間がかかる 10 代表的なエリプソメーターの構成 (ウーラム社ホームページより) P:偏光子;C:波長板;S:試料;A:検光子;M:光変調器 11 現在市販されているエリプソメーターの特徴 タイプ 利点 欠点 偏光子・検光子 回転型 光軸調整が容易 モノクロメーターが必要 偏光子はほぼ理想的な特 光検出器の偏光依存性によ 性を持ち波長依存性がない る誤差 光弾性変調器に よる位相変調型 機械的に動かす素子がない 組み立て・キャリブレーション が複雑 温度による誤差大 波長板回転型 光軸調整が容易 素子の物性が波長に依存 モノクロメーターがいらない 回転に対する精度が悪い ヌル法のため理論上の精度 が高い いずれも比較的大型で、高価(最低でも1000万円超) 12 液晶リターダーを用いたエリプソメーターの構成 y 偏光子P: P軸方向から+45度 液晶リターダーR1: P 軸に平行 液晶リターダーR2: P軸から-45度 検光子 A: S方向 δ2 45度 x rp P δ1 45度 rs S D R1 R2 A ●物理的回転がいっさい不必要 ●2つの液晶セルへの印加電圧だけで複素 反射率比の実部・虚部が独立に決まる ●任意の波長に対応 高精度 コンパクト 安価 高速 13 光軸設定された各光学素子による偏光の変換 偏光子 試料 液晶リター ダー1 液晶リター ダー2 検光子 1 ⎛ 1 1⎞⎛ 0 0 ⎞⎛1 −1⎞ 1 ⎛1 1⎞ P: P = ⎜ ⎟⎜ ⎟⎜ ⎟= ⎜ ⎟ 2 ⎝ −1 1⎠⎝ 0 1 ⎠⎝1 1 ⎠ 2 ⎝1 1⎠ ⎛ rs S: S=⎜ ⎝0 0⎞ ⎟ rp ⎠ ⎛1 0 ⎞ R1: R1 = ⎜ iδ1 ⎟ 0 e ⎝ ⎠ 1 ⎞ 1 ⎛1 −1⎞⎛ 1 0 ⎞⎛ 1 1⎞ 1 ⎛1 −1⎞⎛ 1 = R2 : R 2 = ⎜ ⎟⎜ ⎟⎜ ⎟ ⎜ ⎟⎜ ⎟ 2 ⎝1 1 ⎠⎝ 0 eiδ 2 ⎠⎝ −1 1⎠ 2 ⎝1 1 ⎠⎝ −eiδ 2 eiδ 2 ⎠ 1 ⎛1 + eiδ 2 1 − eiδ 2 ⎞ iδ 2 / 2 ⎛ cos δ 2 / 2 −i sin δ 2 / 2 ⎞ = ⎜ ⎟=e ⎜ ⎟ δ δ − sin / 2 cos / 2 i 2 ⎝ 1 − eiδ 2 1 + eiδ 2 ⎠ 2 2 ⎝ ⎠ ⎛ 1 0⎞ A: A = ⎜ ⎟ ⎝ 0 0⎠ 全素子透過後の反射光電場: E out = AR 2 R 1SPE in = e iδ 2 / 2 δ2 δ 2 ⎞ E0 ⎛ 1 ⎞ ⎛ iδ 1 ⎜⎜ ⎟⎟ ⎜ rs cos − irp e sin ⎟ 2 2 ⎠ 2 ⎝0⎠ ⎝ 14 最終的な反射光強度: 2 I out rs ⎛ 2 δ 2 2 I in = δ2 ⎞ ( ) cos tan sin tan sin δ sin δ (1) + Ψ + Ψ + Δ ⎜ 1 2⎟ 2 ⎝ 2 2 ⎠ 2 (1)式からΨとΔをδ1とδ2から独立に求める方法 ∂ (I out I in ) rs = tan Ψ cos(δ1 + Δ )sin δ 2 z (1)式をδ1で微分: ∂δ1 2 2 任意のδ2に対し、光強度の1 階微分ゼロ, 2階微分>0にす るδ1(=δ1dark) を求める 3 Δ = π − δ1dark 2 Δが決定 2 z r ⎛ I δ δ ⎞ δ1をδ1darkに設定した時の(1)式: out = s ⎜ cos 2 − tan Ψ sin 2 ⎟ I in 2 ⎝ 2 2⎠ δ1=δ1darkの設定で光強度を ゼロにするδ2(=δ2dark)を求め る tan Ψ = cot 2 δ 2dark 2 Ψが決定 15 測定手順 LCR2への印加電圧 を制御 LCR1への印加電圧を 制御 光強度極小を与える 電圧を測定 LCR1を δ1darkに固定 (電圧)-1に比例定数をか けてδ1darkを求める 3 Δ = π − δ1dark 2 Δが決定 消光位を与える電圧を 測定 (電圧)-1に比例定数をか けてδ2darkを求める tan Ψ = cot 独立に 求められる δ 2dark 2 tanΨが決定 ※測定は完全自動※ 16 動作確認(測定例) 標準試料:1/4波長板 光源:He-Neレーザー 測定:波長板を回転し、各光軸角度にて複素透過率比を測定 2 π/2 tanΨ(理論値) 測定1 測定2 測定3 1.5 1 0 tanΨ Δ[rad] π/4 Δ(理論値) 測定1 0.5 測定2 測定3 平均誤差 -π/2 -π/4 0 π/2 π 0 3π/2 7π/4 光軸角度[rad] Δ 0.0512 [rad] tanΨ 0.0305 Graph. 1/4波長板の複素透過率比 17 想定される用途 • 現在エリプソメーターが用いられているどの 分野でも利用できる。(例:各種保護膜の厚 み・光学定数測定、リソグラフィーの薄膜解析、 成膜・エッチングプロセスの膜厚モニター) • 手のひらサイズにもしうるコンパクトさと安価 であることから、手軽なエリプソメーターとして の利用が期待できる。 • 多彩なオプションが可能なので、一般用から 研究用までさまざまな精度に対応できる。 18 実用化に向けた課題1:分光エリプソメーター 白色光源 LC リターダー2 (-45度) 集光レンズ LC リターダー1 (0度) 偏光子P (+45度) アレイ型PD グレーティング 検光子A(90度) Sample 検出器の空間分解能 ⇔ 高速測定、高感度測定 19 実用化に向けた課題 • 単色レーザー光源から白色光源に変えた分光 エリプソメーターの組立が現在進行中。 • 実用化に向けて、1分程度かかる測定を数秒に 短縮する必要あり。特にデータ転送が律速と なっているので、これから改良する。 • 小型化を目指し、検出器と液晶セル等を一体化 する。ネマチック安定温度域の広い液晶が必要。 • PD・回路・パソコン同士の接続をスリムにして 使い勝手をよくすることが求められる。 20 企業への期待 • 光学素子とPDの一体化及び配線・接続部の スリム化は、関連技術を持つ企業との共同研 究を希望。 • 分光エリプソメータ―におけるSN比の問題は、 白色光源とアレイ型PDの最適化等により、 解決したい。 • フィルム製作やコーティングに携わるメーカー に、簡便な膜厚測定・屈折率測定技術を提供 できると考えている。 21 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称:液晶リターダ駆動法 特許番号 : 3529699 出願人 :独立行政法人科学技術振興機構 発明者 :横山浩、多辺由佳 • • • • 発明の名称:電圧制御リターダの組み合わせによる万能リターダー 特許番号 : 3529700 出願人 :同上 発明者 :同上 • • • • 発明の名称:電圧制御液晶リターダで構成されたエリプソメータ 特許番号 : 3537732 出願人 :同上 発明者 :同上 22 お問い合わせ先 科学技術振興機構(JST) 技術移転促進部 シーズ展開課 技術移転プランナー 坂本 和夫 TEL :03-5214 - 7519 FAX :03-5214 - 8454 E-mail:[email protected] 23
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