Market Flash

Market Flash
誤解を覚悟で追加緩和?
2016年6月2日(木)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・5月ISM製造業景況指数は51.3と市場予想(50.3)に反して4月から0.5pt改善。地区連銀サーベイ、
Markit版PMI、シカゴPMIが示唆していたよりも強い結果に違和感を覚えるが、内訳をみるとヘッド
ラインのような強さは感じられず、違和感の大部分は解消する。内訳は、重要度の高い生産(54.2→
52.6)、新規受注(55.8→55.7)が低下し、雇用(49.2)も改善がみられず、指数を押し上げたのは専ら
入荷遅延(49.1→54.1)であった。在庫(45.5→45.0)の低下により新規受注・在庫バランスは改善した
ものの、在庫指数の50割れは11ヶ月連続で、ここまで在庫抑制的な活動が続くと、そのこと自体が経済を
シュリンクさせる可能性がある。製造業の苦境はしばらく続きそうだ。
60
ISM・地区連銀サーベイ
80
ISM
ISM新規受注・在庫バランス
60
55
40
50
20
地区連銀平均
45
0
40
-20
-40
35
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
13
14
15
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
16
13
14
15
16
・5月ユーロ圏製造業PMI(確報)は51.5と速報値に一致して4月から0.2ptの軟化を確認。国別ではドイ
ツ(4月51.8→5月速報52.4→確報52.1)が速報値から下方修正されたものの4月からの改善を確認、フ
ランス(48.0→48.3→48.4)が速報値から僅かに上方修正され4月からの改善を確認、新たに公表された
イタリア(53.9→52.4)、スペイン(53.5→51.8)は共にまとまった幅で軟化した。
・5月英製造業PMI(確報)は50.1と市場予想(49.6)を大きく上回った。4月は2013年3月以来で初め
て50を割れていたが、一段の悪化は回避された。EU離脱を巡る問題が製造業活動の足かせになっている
可能性が指摘できよう。
65
ユーロ圏PMI・製造業生産
(%)
65
30
60
20
60
PMI
55
10
50
0
45
40
55
-10
製造業生産(右)
英 製造業PMI
-20
35
-30
30
-40
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 生産:3ヶ月前比年率
50
45
40
10
11
12
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
14
15
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反発。NYダウはほぼ横ばいもS&P500はプラス圏で引け。当初、下落して寄り付いた米株
現物はISMの予想比上振れをきっかけに買い優勢に転じた。WTI原油は49.01㌦(▲0.09㌦)で引け。
OPEC総会を控えて売り買い交錯。サウジアラビアが生産枠の復活に前向きな見解を示した一方、イラ
ンがそれに消極的との観測報道もあったが、大きな動きはみられず。
・前日のG10 通貨はJPYの強さが目立った反面、GBPの弱さが目立った。GBPの弱さの背景にはBrexitがあり、
直近の世論調査が影響している。他方、USD/JPYは日本時間午後からのリスクオフのなかで110を割り、米
国時間午前には109前半まで下落した。EUR/USDも1.12付近まで水準を切り上げた。
・前日の米10年金利は1.835%(▲1.0bp)で引け。当初は、財新PMIの悪化等を背景としたリスクオフの米債
ラリーが観察されていたが、ISMが予想を上回って着地すると結局は金利低下。他方、欧州債はコア堅
調、周縁国軟調。ドイツ10年金利が0.136%(▲0.3bp)で引けた一方、イタリア(1.382%、+2.6bp)、
スペイン(1.495%、+2.2bp)、ポルトガル(3.119%、+5.6bp)が金利上昇。3ヶ国加重平均の対独ス
プレッドはワイドニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株はUSD/JPY下落を嫌気して安寄り後、下落幅拡大。昨日夕刻に首相は消費増税先送りを正式にアナウ
ンスしたが、それは大半の市場参加者にとって織り込み済み。
・昨日発表の豪実質GDP成長率は前年比+3.1%と市場予想(+2.8%)を上回り、昨年4Q(+2.9%)か
ら加速。前期比では+1.1%と4Qから0.4%pt加速した。鉱業関連投資の抑制を背景に総資本形成(民間
投資+公共投資)が8四半期連続で前期比マイナスとなるも、個人消費の強さがそれを補い、全体として
は成長率が上向きつつある。RBAは6月7日の理事会で政策金利の据え置きを決定する公算大。
・昨日発表の5月中国財新製造業PMIは49.2と市場予想に一致して4月から0.2pt軟化。生産(49.9→
49.8)、新規受注(50.0→49.7)が僅かながら悪化した反面、雇用(46.1→46.3)が低水準から持ち直し。
製造業セクターの苦境が続いている。
・昨日発表の5月日本の日経製造業PMI(確報)は 47.7 と速報値から 0.1pt 上方修正されたものの、4月
からは 0.5pt 悪化した。生産(46.3)、新規受注(44.7)、新規輸出受注(44.8)が何れも失望的な水準
で停滞。4月鉱工業生産は予想外の底堅さをみせたが、5月以降はダウンサイドリスクに注意が必要だろ
う。
日本 PMI生産・製造業生産
70
60
65
PMI生産
60
50
40
60
40
55
20
55
45
中国 製造業PMI(Markit)
(%)
50
0
-20
製造業生産
(3ヶ月前比年率、右)
35
30
08
09
10
11
12
13
14
(備考)Thomson Reuters、Markitにより作成
45
-40
-60
15
16
40
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成
・米議会上院は1日、イエレン議長の議会証言(ハンフリー・ホーキンス)を6月 21 日に予定していると発
表。議会証言は通常2月と7月に実施されるが、今回は通常より4週間程度前倒しの日程が予定されてお
り、それは6月 FOMC(14・15)の6日後、7月 FOMC(26・27)のおよそ1ヶ月前にあたる。憶測の域を脱
しないが、6月 FOMC で利上げを見送った後、議会証言で7月 FOMC の利上げを強く示唆、1ヶ月程度の
“利上げ織り込み期間”を経て、7月 FOMC で利上げ実施とのシナリオが浮かび上がる。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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・本日予定されているECB理事会は無風通過が予想される。追加緩和に関するヒントがでるとは考えにく
く、また市場の追加緩和期待もほとんど盛り上がっていない。3月に発表された緩和措置(T-LTRO2、社債
購入)が6月から実施されるにあたり、その詳細な内容が若干の注目を浴びるに過ぎないだろう。EUR/USD
の変動を通じたUSD/JPYへの波及も見込まれない。株式市場の反応も限定的とみる。
・1日の日本時間午後からのUSD/JPY下落について「消費増税の先送りが日銀の追加緩和を難しくさせた」と
の説明があった。消費増税先送りの直後に追加緩和に踏み切った場合、それが市場参加者にヘリコプター
マネー(同義語としてマネタイゼーション、財政ファイナンス)として受け止められることを日銀が恐れ
るという考え方だ。しかしながら、日銀がこのタイミング(6月・7月)で追加緩和のカードを切ってく
る可能性は高まっている。財政拡大と追加緩和をセットで実施した方が、市場参加者のリスク選好が促さ
れ易く、円安・株高の流れを巻き起こし易いという事情があるほか、“日銀が遂にヘリコプターマネーに
手を染めた”と一部で話題になると、そのこと自体が緩和効果を高めることも考えられる。もはや、日銀
もそういった議論が盛り上がることを覚悟しているかもしれない。また、重要なこととして、FEDが同
じタイミングで利上げを検討していることも大きい。黒田バズーカは、そのタイミングを間違えると全く
効果を発揮できないことが1月末の会合で証明されたばかりだが、このタイミングの追加緩和は“日米真
逆の金融政策”を市場参加者にアピールする絶好のチャンスに成り得る。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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