原油価格を知る~変動要因②:非OPECの供給

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ピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ 2016年6月2日
グローバル
Pictet Global Market Watch
原油価格を知る~変動要因②:非OPECの供給
石油輸出国機構(OPEC)に加盟していない非OPEC諸国の原油生産量は世界の原油生産量の約6割を占め、非
OPEC諸国の生産動向も原油価格に影響を与えます。2017年にかけて非OPEC諸国の原油生産量が減少すると
いう予想もあり、今後の原油価格の上昇要因のひとつになる可能性があると見ています。
原油価格を左右する6つの要因
図表I: 原油価格要因マップ
原油は資源の中でも主要な商品であり、原油価格の
変動は金融市場や実体経済に大きな影響を及ぼす場
合があります。2016年年初は原油価格の変動が金融
市場混乱の一因となりました。原油価格は金融市場は
もちろん、ガソリン価格や原材料費などを通して私たち
の生活にも影響を与えます。原油価格は様々な要因
の影響を受けて変動しますが変動要因としては、以下
の大きな6つの要因が挙げられます(図表I参照)。
①OPEC(石油輸出国機構)の供給、②非OPECの供給、
③OECD(経済協力開発機構)諸国(主に先進国)の需
要、④非OECD諸国(主に新興国)の需要、⑤需給バラ
ンス予測、⑥金融市場動向の6つです。①~⑤のよう
な需給動向はあらゆる市場と同様に原油価格の影響
を図る上でも基本となる事項ですが、加えて、⑥のよう
な米ドル為替レートや投機筋の動向なども影響を及ぼ
しています。
原油の価格動向に大きな影響を与えているのが
①OPECの供給動向です。OPECは世界の輸出取引量
を見ると世界の約6割を占めています。また、生産目標
を掲げ、生産調整を行うため、なかでも生産量の多い
サウジアラビアの影響度が大きくなっています。
②非OPECの供給に関しては、民間企業が主体である
ため、OPECと異なりほぼフル稼働で生産を行う傾向が
あります。非OPECの供給が低水準となれば、OPECに
増産が求められることとなり、OPECの価格影響力が増
すこととなります。
③OECD諸国(主に先進国)の需要は世界の原油消費
量全体の53%に相当しますが、消費量の伸び率は非
OECD加盟国(主に新興国)を大きく下回ります。経済
全体に占めるサービス産業の割合が原油等の燃料を
消費する製造業を上回る傾向が見られ、原油価格の
変動が原油需要に及ぼす影響が比較的小さいのが特
徴です。更に、省エネ化の進展とともにその影響度は
相対的に小さくなってきています。
ピクテ投信投資顧問株式会社
供給
①OPEC
需要
⑤需給
バランス予測
③OECD
原油価格
②非OPEC
⑥金融市場
④非OECD
※OECD:経済協力開発機構 ※OPEC:石油輸出国機構 出所:米エネ
ルギー情報局(EIA)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
④非OECD諸国(主に新興国)の消費量の伸びは、
OECD諸国(主に先進国)を大きく上回り、年々影響度
が大きくなっています。非OECD諸国の経済成長率は
原油需要に影響を及ぼし、原油価格を左右する大きな
要因となっています。特に、中国の原油消費量の伸び
が世界の原油消費量の伸びをけん引しています。
⑤需給バランスを見る上で、原油在庫は重要な指標で
あり、需給を均衡させる役割を果たしています。原油や
石油製品は、生産が消費を上回る局面では、予想され
る将来の利用に備えて在庫が増加します。一方、消費
が生産を上回る局面では在庫を取り崩すことによって
不足分を補っています。原油在庫は緊急時のためのス
トックと見なされています。
⑥実需筋、投機筋の原油先物市場動向、インデックス
ファンドや株式、債券、為替、その他商品市況なども影
響を及ぼすと考えられています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変
更される場合があります。
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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供給
②【供給】非OPEC
①OPEC
OPECと同様に原油価格に大きな影響を与えているの
が非OPEC加盟国の供給動向です。主なポイントは1)生
産量の変化、2)需要の伸びと供給の伸びのギャップ、
3)予定外の供給停止量、4)予想生産量などです。
非OPECの原油供給~民間企業主導に
よる柔軟な生産体制が特徴
石油輸出国機構(OPEC)非加盟国による原油生産は、
世界の原油総生産の約6割程度を占めています。生産
は、主に、北米、旧ソ連の一部、北海等で行われてい
ます。
OPECが協調生産を行っているのに対し、非OPECの各
産油国は、独自に生産量を決定しています。また、
OPECでは国営石油会社(NOC)が生産の大半を担っ
ているのに対し、非OPECでは主に投資家が保有する
会社(IOC)などの民間企業が生産を行っています。
IOCは、株主価値の向上を追求し、経済要因に基づい
た投資判断を行います。IOCと同様の経営判断を行う
NOCもありますが、多くのNOCは雇用創出やインフラ
の供給など公的な目標も有しています。したがって、民
間企業が主体である非OPECはOPECよりも市況の変
動に対して、より柔軟に投資や供給能力の調整が可能
です。
非OPECの影響力~過去の減産時には
原油価格の上昇要因に
需要
⑤需給
バランス予測
③OECD
原油価格
②非OPEC
⑥金融市場
④非OECD
図表2-1: 非OPECの液体燃料生産量の変化と
原油価格の推移
四半期、期間:2001年1-3月期~2017年10-12月期(予想)
3.0
210
米ドル/バレル
百万バレル/日
2.5
非OPECの生産変化量(左軸、前年同期比)
175
予想
2.0
原油価格(右軸)
140
1.5
105
1.0
0.5
70
0.0
35
-0.5
0
-1.0
-35
-1.5
-2.0
-70
01年3月 04年12月 08年9月 12年6月 16年3月
※2016年1-3月期までは実績、2016年4-6月期からは予想
※原油価格:WTI原油先物
出所:米エネルギー情報局(EIA)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
当ページのデータは過去の実績であり、将来の成果等を示唆あるいは
保証するものではありません。
非OPECの石油企業は 通常、プライス・テイカーと見な
されます。生産調整により市場価格を動かそうとする
のではなく、市場価格に対応して生産量を決定するか
らです。また、非OPECはフル稼働あるいはフル稼働に
極めて近い水準で生産を行う傾向があり、余剰能力は
殆どありません。非OPECの供給が低水準となれば、
その他の条件が変わらない限り、世界の原油生産量
が減少するためOPECに増産が求められることとなり、
原油価格に上昇圧力がかかります(図表2-1参照)。ま
た、OPECに対して増産要求が強まるほど、OPECの価
格影響力が増すこととなります。図表2-1は、2005年か
ら2008年にかけて非OPECの生産量が減少し、原油価
格の上昇要因になったことを示しています。2016年か
ら2017年後半にかけては非OPECの生産量が減少す
ると予想されており、原油価格の上昇圧力となる可能
性を示しています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変
更される場合があります。
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巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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原油需要と供給の伸びのギャップも原油
価格の変動要因に
原油需要の伸びと供給の伸びのギャップも原油価格
の変動要因となります。図表2-2には、原油価格の推
移と、世界のGDP成長率(世界の原油需要の伸びを示
唆する指標)ならびにOPECと非OPECの生産能力の伸
び率を表しています。2005年から2008年にかけて世界
経済が高成長を記録し原油の需要が高まった一方、
生産能力の伸び率が鈍化したことが原油価格上昇の
一要因になったと考えられます。2015年はこのギャップ
が縮小し、原油価格は下落しています。2016年は徐々
にギャップが拡大し、原油価格の上昇圧力になるもの
と予想されています(図表2-2参照)。
非OPECによる技術革新と増産が原油
価格の下落要因になる可能性も
図表2-2: 世界の液体燃料生産能力、GDPならびに
原油価格の推移
四半期、期間:2004年1-3月期~2017年10-12月期(予想)
世界のGDP成長率(左軸、前年同期比)
9%
米ドル/バレル
世界の液体燃料生産能力の変化率(左軸、前年同期比)
8%
原油価格(右軸)
7%
予想
上昇圧力に
6%
ギャップ大
5%
上昇圧力?
4%
3%
ギャップ大
2%
1%
0%
-1%
-2%
-3%
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
140
120
100
80
60
40
20
0
※2016年1-3月期までは実績、2016年4-6月期からは米エネルギー情報局
(EIA)による予想
※原油価格:WTI原油先物
出所:米エネルギー情報局(EIA)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
非OPECの生産の多くは、探査や生産コストが相対的
に高い地域で行われています。低コストで生産できる
原油資源の大半がOPEC加盟国にあるからです。非 図表2-3: 産油国の予定外の供給停止量の推移
OPECの石油企業は、沖合の深海油田や未開発地域 月次、期間:2011年1月~2016年4月
に進出するほか、オイルサンド等の非在来型資源の開 4
発に取り組んでいます。したがって、非OPECはOPEC
百万バレル/日
に対してコスト面で不利な立場にあります。一方、非
OPECの石油企業は、新しい生産技術の開発を主導し 3
OPEC諸国
てきました。新技術による原油生産により、当初は高コ
非OPEC諸国
ストの供給が増える場合もありますが、コストは技術進
2
化に伴って低下し、原油価格の下落要因となる可能性
もあります。
1
非OPECの原油生産に加え、天然ガス生産を通じた天
然ガス液(NGL)と呼ばれる液体燃料の供給が増えて
います。最近の天然ガスの増産は、天然ガス液の大幅 0
な供給増加をもたらしており、世界の液体燃料の供給 11年1月
増加により原油価格の上昇を抑えています。
予定外の供給停止や予想生産量の下
方修正は原油価格の上昇要因に
12年1月
13年1月
14年1月
15年1月
16年1月
出所:米エネルギー情報局(EIA)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
当ページのデータは過去の実績であり、将来の成果等を示唆あるいは
保証するものではありません。
非OPECによる増産が原油価格の下落をもたらす一方
で、非OPECの予定外の供給停止が世界の原油供給
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
を減少させ、価格を押し上げる可能性もあります。図表
容が変更される場合があります。
2-3は月次ベースの予定外の供給停止量の推計値で
す。予定外の供給停止量とは、閉鎖油井の実効生産
能力を示しています。予定外の供給停止は、原油の需
給を引き締め、原油価格の上昇をもたらす可能性があ
ります。予定外の供給停止は長期間継続する可能性
があり、生産の再開時期をめぐる不透明感が原油価
格の変動を高めることもあります。2016年は非OPECの
予定外の供給停止は大きな変化は見られていません。
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予想生産量と生産実績のギャップ
図表2-4: 非OPECの液体燃料予想生産量と生産実績
月次、期間:2012年1月~2016年5月
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原油価格は、非OPECの実際の生産量に限らず、将来
の予想生産量にも影響されます。予想生産量は市場環 58
57
境に応じて修正されていきます。
供給が予想を下回る場合、あるいは需要が予想を上回
る場合には、その他の条件が変わらない限り、価格は
通常上昇します。需要ならびに供給予想の変化が価格
に及ぼす最終的な影響は、需要と供給の変化の度合い
のバランス次第だということになります。
2005年から2008年にかけては非OPECの最終的な生産
量は、一貫して事前予想を下回りました。実際の生産量
が予想生産量を下回ったことで、世界経済はOPECに対
する依存度を高め、OPECの余剰生産能力を減少させ
る結果となりました。非OPECの予想生産量の下方修正
は、原油価格の上昇圧力となりました。また、2008年も
年間を通じて非OPECの予想生産量は下方修正されま
した。この期間中の実際の生産量が予想生産量を下
回っていたからです。一方、2009年、2010年は実際の
生産量が予想を上回りました。
百万バレル/日
56
55
54
53
12年1月
13年1月
14年1月
2013年の生産量(予想)
2014年の生産量(予想)
2015年の生産量(予想)
2016年の生産量(予想)
2017年の生産量(予想)
15年1月
16年1月
2013年の生産量(実績)
2014年の生産量(実績)
2015年の生産量(実績)
2016年の生産量(実績)
出所:米エネルギー情報局(EIA)のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
当ページのデータは過去の実績であり、将来の成果等を示唆あるいは
保証するものではありません。
原油価格が下落した2015年の予想生産量と実際の生
産量をみてみると、実際の生産量が予想を上回ってお
り、予想されていた以上の供給が原油価格の下落要因
のひとつとなったと見られます(図表2-4参照)。2016年
はこれまでの予想を下回る生産量となっており、原油価
格の上昇要因のひとつとなっています。2017年も引き続
き現在の水準をやや下回る生産量が予測されています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
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2016年の見通し変化~原油価格の
上昇要因が増加
図表II: 原油価格要因マップ 2015年
供給
①OPECの供給動向:OPECは原油価格の下落にかか
わらず2015年は増産に転じており、原油価格の下押し
圧力となりました。2016年年初来からは、原油の生産量
増加のモメンタムは低下し、生産余剰能力も低下が予
想されており、今後原油価格の上昇要因となると見られ
ます。
①OPEC
増加
⑤需給
バランス予測
③OECD
原油価格
下落
②非OPECの供給はシェールなどの非在来型の石油供
給の増加がけん引し増加しました。2016年に入って、コ
ストが高い不採算油井の閉鎖などを背景に、増加のモ
メンタムが急低下し、減少が予想されています。
③OECD諸国(主に先進国)の2015年の需要は原油価
格の下落を背景に増加しました。2016年は原油価格に
底打ち感も見られることから小幅増加が予想されます。
需要
増加
2015年年間
53.27ドル/バレル→37.04 -30%
増加するも
モメンタム低下
増加
②非OPEC
⑥金融市場
④非OECD
図表III: 原油価格要因マップ2016年 足元
④非OECD諸国(主に新興国)の2015年の需要はGDP
成長率の低下にもかかわらず、人口増、経済成長を背
景に消費量は引き続き増加しました。2016年も消費量
拡大が予想されます。
供給
需要
①OPEC
減少
⑤原油在庫を見ると、2015年は原油価格は現物価格以
上に先物価格が上昇し、将来的により高い価格で売れ
るとの思惑が働き、在庫は積み上がりました。2016年に
入ってからも在庫は高水準にありますが、足元では先
物価格以上に現物が上昇しており、在庫の取り崩しが
予想されます。
⑤需給
バランス予測
③OECD
小幅
増加
上昇
原油価格
年初来2016年5月23日まで
+30%の48.08ドル/バレル
②非OPEC
⑥金融市場
⑥金融市場を見ると、近年、原油価格とS&P500種株価
減少
指数の間には正の相関が見られる一方で、原油価格と
ドル・レートならびに米国国債との間には逆相関が見ら
マイナス要因
れます。2015年は、主要通貨に対してドル高傾向となり、
プラス要因
投機筋のネットポジションが低下するなど、原油価格に
はマイナス要因が多くなっています。2016年に入ってか
らはドル安傾向、投機筋のネットポジションは拡大して 図表IV:原油価格推移
月次、期間:1996年4月~2016年4月
おり、原油価格のプラスの要因が増加しています。(図 160
米ドル/バレル
表II、III参照)
140
④非OECD
増加
120
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
容が変更される場合があります。
100
80
60
40
20
0
96年4月
00年4月
04年4月
08年4月
12年4月
16年4月
※原油価格:WTI原油先物
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
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