平成 28 年司法試験・憲法分析コメント 第1 憲法 13 条違反について 性

平成 28 年司法試験・憲法分析コメント
第1 憲法 13 条違反について
性犯罪者継続監視法(以下「法」といいます。)は,継続監視の決定がなされた者に対して,GP
Sを体内に埋設した上で,そのGPSから送信される位置情報を把握することで,行動を継続的に監
視することを規定しています(法 21 条,22 条,2条)
。そこで,Aの付添人の立場からは,このよう
な継続監視は,Aの行動を監視されない自由を侵害するものであり,プライバシー権の侵害として憲
法 13 条に違反すると主張することが考えられます。プライバシー権が憲法上保護されることについ
ては,学説上ほぼ争いがありませんし,本問におけるAの自由がプライバシー権として保護されるこ
とや,プライバシー権に対する制約があることも,問題なく認められるでしょう。
違憲審査基準を定立するに当たっては,本問におけるプライバシー権の重要性の程度や,継続監視
がプライバシー権に対していかなる態様・程度の制約をもたらすものかについて,事案に即して具体
的に認定することが求められます。そして,継続監視によるプライバシー権の制約に必要性・合理性
が認められないことを丁寧に論証する必要があります。検察官の反論としては,主として,継続監視
によるプライバシー権の制約について必要性・合理性が認められることを論じることになるでしょう。
以上を踏まえて,私見を論じることになります。なお,継続監視によるプライバシー権の制約の必要
性・合理性に関するA側の主張と検察官の反論を論じるに当たっては,問題文中に示されている国会
審議におけるTの意見とUの意見が大きなヒントになると思われます。
第2 憲法 22 条1項違反について
法 23 条1項によれば,警察本部長等は,監視対象者が一般的危険区域のうち特定の区域を特定危
険区域として指定し,監視対象者に対し,特定危険区域に立ち入ってはならない旨を警告することが
できるとされ,また,法 24 条1項によれば,監視対象者が警告に反して特定危険区域に立ち入った
場合,特定危険区域に立ち入ってはならないことを命ずることができるとされています。そこで,A
の付添人の立場からは,法 23 条1項及び 24 条1項は,Aの移動の自由を侵害するものとして,憲法
22 条1項に違反すると主張することが考えられます。もっとも,憲法 22 条1項の居住・移転の自由
の保護範囲に関しては,生活の本拠を決定する自由に限られるとする見解(狭義説)と単に個人が居
所を変えて移動する自由まで含まれるとする見解(広義説)の対立があります。広義説を採る場合は,
本問におけるAの移動の自由も憲法 22 条1項の守備範囲に入るものと考えられますが,狭義説を採
る場合は,憲法 22 条1項の守備範囲外であり,憲法 13 条の問題として主張を構成することになると
思われます。
憲法 22 条1項違反と憲法 13 条違反のいずれの構成を採るにせよ,重要なのは,本問におけるAの
移動の自由がどの程度重要なものか,また,どの程度強い制約を受けることになるのかを具体的に論
じた上で違憲審査基準を定立することです。その上で,法 23 条1項及び法 24 条1項が,法目的を達
成する上で過剰な規制であり,必要性・合理性が認められないことを論じていくことになるでしょう。
検察官の反論としては,特定危険区域の指定ができるのは監視対象者が性犯罪を行う危険性がある
場合に限られているところ,その指定がされない場合は自由に移動ができるのであるし,指定がされ
た場合も,立入りが禁止されるのは3条所定の区域の内の特定の区域というように相当程度限定され
ることから,移動の自由に対する制約は強度のものとはいえず,必要性・合理性が認められることな
どを論じることになるでしょう。以上を踏まえて,私見を論じることになります。
第3 憲法 14 条1項違反について
Aの付添人としては,法は,過去に一定の性犯罪を行った者に対してのみ上記のような規制を及ぼ
しているところ,これは,性犯罪以外の犯罪を行った者との比較において平等原則(憲法 14 条1項)
に違反するとの主張をすることも考えられます。しかし,平等原則違反の主張は,上記の主張と重な
る部分が多いことや,設問文で特定の性的衝動に対する抑制が適正に機能しにくい者が存在すること
に科学的根拠があることを前提として論じるよう指示があり,別異取扱いの不合理性を論証するのが
容易でないことなどから,必ずしも独立して主張を立てることは求められていないと思われます。論
じるとしても簡潔にとどめるべきでしょう。
以
上
(参考文献)
渡辺=宍戸=松本=工藤・憲法Ⅰ120 頁以下,319 頁以下,小山=畑尻=土屋・判例から考える憲法 71
頁以下等参照。