APAST Essay_024A

APAST Essay 024A
2016 年 5 月 1 7 日
市民科学者
橋本正明
熊本平成群発地震に思う
今回の熊本を中心とした群発地震の始まりの大余震から1ヶ月が経過した。これまでに観測
された震度1以上の有感地震は1400回以上、これは阪神淡路大震災以降の日本において最
多の数字とされている。確かにこれだけの群発地震は我々の『記憶』には無い。しかし類似の
地震現象はこの地方には古くからあったようであるし、高々ここ数十年のデータで悠久に営ま
れてきた地殻変動をさも『見切った』かのように断じて判断するのは多分に危険であるだろう。
そしてもう一つ上記に付随して特筆すべきことがある。それは耐震建築基準を満たした住宅で
あっても大余震での震度7を耐えた後に再度本震での震度7の直撃を受け倒壊してしまったこ
とである。我々はまたしても『想定外』に直面してしまったのである。つまり『震度7は二度続け
て来ることは無い』という経験上における暗黙の大前提が崩れ去ってしまった事実をこれは意
味するのである。
一部の報道によると、京都大学の竹脇出教授(建築構造学)の研究グループの解析では震
度7の激震を2回耐えるには現行の住宅耐震基準の1.5倍の強度が必要、つまり一度の激震で
強度は65%へ劣化するのである。ここで確実にはっきりしたことは『例え堅牢な耐震補強を施さ
れた建築物であっても複数回の大きな地震を耐えきるだけの性能は保証できない』ことである
。これは勿論、一般住宅における問題ではある。しかし材料の劣化は強力な地震動によって
通常の経年劣化よりも激しく進行するのであり、目視では確認不能なクラックや破断が起こり得
る。それはいかなる建築物であっても物質で形成されている限り大なり小なり同様のことが考え
られるだろう。
それに例え地震自体のエネルギーの大きさを示すマグニチュードが低くても今回のような地
表面に近い地震動では深々度よりも強い揺れが襲い掛かるのは必然であり、それを数十回、
数百回と喰らったら原子炉格納容器自体の強度だけでなく、その他の周辺設備の強度や機
器の耐震性は担保できるのであろうか。
原子炉は一旦核燃料を装填し稼働するとその内部の補修・再整備は実質不能ではなかった
だろうか。ならば何を以て【安全】であると、まして火力発電プラントですら老朽扱いされる30年
を超えた『40年』どころか、『60年』もの長き間安全であると啖呵を切り、保証することができる
のか。だとすれば、現在稼働中の川内原発は即時停止、原子力規制委員会が認めた伊方原
発は当面再稼働見合わせ、玄海原発も同様に見合わせし、それぞれ全て廃炉の方向へ考え
直すべきである。我々は地震を始めとする自然災害大国日本に住んでいる。今一度、その自
覚を持ち机上の空論ではなく実機・実害の予測に基づいたリスクの回避と共に真の安全文化
を築き上げねばならないのではないだろうか。
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