APAST Essay_026A

APAST Essay 026A
2016 年 6 月 1 7 日
NPO 法人 APAST
筒井哲郎
核廃棄物の後始末
1.福島事故現場の後始末および使用済み核燃料の後始末
1年前にわたしは、福島第一原発事故現場の後始末について、デブリ取り出しを100年また
は200年後に行うべきだ、という報告書を書いた(注1)。
また、政府の機関である原子力発電環境整備機構(略称NUMO、近藤駿介理事長)は、高レ
ベル放射性廃棄物・ガラス固化体などを地層処分する(地下深く、たとえば1000mの深さに埋
める)ことを目指して、2000年に設立されて以来、過去15年余りの間、処分地の募集を行って
いるが、今のところ正式に応募した自治体はない(高知県東洋町は、正式な応募をしていない
)(注2)。
さらに、すでに48トン溜まっているプルトニウムは、処分方法が決まっていない。プルトニウム
は核兵器の原料だから、安全保障上の懸念を抱いている諸外国に対して、その方針を説明
する必要がある。
フィンランドではオルキルオト島の地下岩塩層内に、深さ420m、総延長42kmのトンネルを作
り、総重量5500トンの核廃棄物を搬入し、その後トンネルをベントナイト(粘土)で埋め殺す方
法を決定した。
ドイツでも、アッセというところで岩塩層に低・中レベル放射性廃棄物を地層処分する最終処
分場が20年ほど前に作られた。しかし、地下水の浸水などで岩塩層ドームの崩落などが危惧
されている(注3)。
これらの問題は、つとに「トイレなきマンション」と指摘されてきたが、さまざまな種類の後始末
が、「後世への最大遺物」になっている。
2.体制の準備や人材育成を求める声
冒頭のわたしの報告書に対して、「200年後に事故炉の中で作業する人びとに対して、きち
んとした技術情報はもちろん、必要な組織体制の在り方、そのための人材育成、技術の継承
を途切れることなく行うシステムを作らなければたいへんなことになる」と注意する人たちが少な
からずいる。
ヨーロッパの地層処分も、日本の地層処分も、10万年以上健全な状態で核廃棄物が保管さ
れることを追求している。そのさい、万一にも途中で誤ってその場所を掘り返したりしないように
、きちんとした標識を立てておかなければならない。クロマニヨン人以降1万年の歴史しかない
人類が10万年も伝わる標識を立て、判読される文字を残すことができるであろうか、などという
議論がなされている。
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3.後世の人々に委ねる「原罪」
1)福島事故現場の後始末
まず、200年後にデブリ取り出しを行うことを考える。わたしは、現在の技術情報をできるだけ
正確に書き遺しておけば、後世の人々が、少なくともわれわれ以上によい知恵を出して考えて
くれると思う。「原発の技術を知っているのは今の世に生きている21世紀の原発技術者だけで
、その人たちがあらゆるマニュアルを書いておいて、しかも刀鍛冶や伊勢神宮の宮大工のよう
に特殊な技術の伝承を行わなければ、うまく処理ができない」という考えには同調しない。もち
ろん、現状の正確かつ緻密な知見を書き遺すことは必要である。それさえあれば、200年後の
人々が、われわれよりも上手に考えてくれると思う。しかも、200年後まで、現在の東電や、現在
の政府機構が続くわけではない。社会組織からして変化しているのだから、現在の大学の原
子力工学科のような教育システムが続くわけがない(すでに、原子力工学科の志望者数は1/3
に減っている)。
200年前といえば、江戸後期の幕藩体制の疲弊が目立ってきたころで、文化文政期である。
そのころの人々がマニュアルを残したとしても、現代人がその通り作業をするなどとは思えない。
先の報告書では、条件によっては100年後ということも考えた。100年前といえば、日清・日露
の戦争の後、大陸に植民地を得て軍国主義に邁進を始めた時である。その結果、歯止めが利
かなくなってアジア・太平洋戦争へ直進する。その軍事行動の結果2千万人~3千万人といわ
れる東アジアの人々を殺した(注4)。その後始末をわれわれは近隣諸国から迫られているが、
100年前の人びとが後始末に生かせる知恵を有していたとは思えない。
2)核廃棄物の埋め殺し
地下深くに埋設して埋め殺し、後世の人びとの負担を無くするために、何もしないでも済むよ
うにしておこうというのは、善意を認めるけれども、それはそれで虫のよい考えだと思う。人間の
行うことに完璧はない。自然は完全に安定ではない。どんな装置でも故障する。10万年間安
定が保証される保管庫はできない。少なくとも何十年に一度、つまり各世代に一度は保管庫
内部を点検して、変形・劣化・漏出の恐れが認められれば補修作業を行うシステムを励行して
もらわなければいけないと思う。
3)「原罪」
人間は生まれつき、子孫に迷惑をかけるようにできている。目の前にうまそうなリンゴを見せら
れるとそれを口にしてしまう。その罪は当該世代で償うことができず、以後のすべての世代に
償いを強制する結果になる。
むしろ、そういう深刻な罪を犯したことを素直に認めて、頭を垂れ、身を慎んで、これ以上核
廃棄物を作らないことを実施する以上のことはできないのではないか。
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注1.特別レポート1「100年以上隔離管理後の『後始末』」原子力市民委員会、2015年6月8日
http://www.ccnejapan.com/20150608_CCNE_specialreport.pdf
注2.原子力発電環境整備機構(略称NUMO)ホームページ
https://www.numo.or.jp/about_numo/soshiki/
注3.Wikipedia「核廃棄物隔離試験施設」
https://ja.wikipedia.org/wiki/核廃棄物隔離試験施設
注4.「アジア・太平洋戦争での死者数」資料 憲法と戦争(22)
http://www.toyamav.net/~fc9/sPDF/78-9.pdf
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