「資料2」 先進国経済の見通し: 評価と政策上の課題 クリスティーナ D. ローマー デビッド H. ローマー 2016年5月19日 I. 先進国の経済情勢 1 短期的な状況 • 年初に比べれば、経済情勢は落ち着いているように見え る。 • OECD諸国の失業率をみると、国によって、かなりのばら つきがある。 • ほとんどの先進国において、依然として、マイナスの需給 ギャップが存在している。 2 先進国の失業率(2016年第1四半期) 14 12 Percent 10 8 6 4 2 0 Canada France Germany Italy Japan UK US Euro Area G7 OECD 出所: OECD. 3 -16 Australia Austria Belgium Canada Chile Czech Republic Denmark Estonia Finland France Germany Greece Hungary Iceland Ireland Israel Italy Japan Korea Mexico Netherlands New Zealand Norway Poland Portugal Slovak Republic Slovenia Spain Sweden Switzerland Turkey United Kingdom United States Euro area (15 countries) OECD - Total Percent 先進国経済の需給ギャップ(2015年) 2 0 -2 -4 -6 -8 -10 -12 -14 出所: OECD. 4 見通しへのリスク要因 • 中国やブラジルなどの新興国経済が、さらなる景気減速 や景気後退に陥るリスク。 • 政治的あるいは政策的リスク (英国の欧州連合離脱に関 する国民投票、 欧州域内での対立、米国大統領選挙)。 5 長期的な問題 • 持続的な低インフレ。 • 生産性上昇率の低迷。 6 G7各国のコアインフレ率(1994年~ 2015年) 6.0 5.0 Percent 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 Canada Germany Japan-Adjusted United States 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 -2.0 1994 -1.0 France Italy United Kingdom Euro area (19 countries) 出所: OECD (一部は筆者が計算) 7 先進国経済の労働生産性上昇率 出所: Jason Furman, “The United States and Europe: Short-run Divergence and Long-Run Challenges,” May 11, 2016. 8 II. 財政政策 9 債務についての考察 • 多くの先進国経済において、政府債務の水準は高く、今 後、数十年にわたって上昇すると予想されている。 • こうした状況によれば、伝統的な財政による景気刺激を 行うべきでないとの議論となる。 10 先進国経済における純政府債務残高の対GDP比率 出所: IMF Fiscal Monitor, April 2016. 11 賢明な二本柱の戦略 • 短期的な財政刺激(あるいは財政引き締めスピードの緩 和)と、財政健全化の後ろ倒し・長期にわたる取組み、を 組み合わせる。 • 財政健全化の後ろ倒しは、過去に使われ成功を収めてき た。 • 国際協調は有益だが、不可欠ではない。 12 長期的に成長を促す財政刺激策 • インフラ、基礎科学、教育、育児への公的投資。 • (若年労働者の失業率の高い国においては、)若年労働 者のための公的雇用や賃金補助。 • 投資、研究開発、教育への税制上の優遇措置。 • 包括的な減税、所得移転、リターンの低い政府支出は避 けるべき。 13 III. 構造改革 14 労働市場改革 • 労働供給を促すための財政措置(例えば、育児への公的 投資、若年失業者を減らすための施策)。 • 生産性向上のための教育や訓練への投資。 • 労働市場の柔軟性を増すための改革は、望ましいが、不 可欠というわけではない。 15 生産物市場改革 • 自由貿易を後退させようとする圧力への抵抗。 • 起業やイノベーションを促す改革(規制緩和、税制の簡素 化)。 16 IV. 金融面の安定 17 2008年以降の大きな進展 • 大きな構図: 政策担当者および民間関係者の警戒心が 非常に高まった。 • 具体的な事象: 差し迫った問題が生じるという主要な兆候 は見当たらない。 18 銀行の健全性指標 1.不良債権比率(%) 2.Tier1自己資本比率(2015年、%) 出所: IMF Global Financial Stability Report, April 2016. 19 残された課題 • 様々な問題についての国際協調がもたらす潜在的な効 果。 • 金融危機の記憶が薄らいでいく中でも警戒心を維持でき るような、長期的な手段を講じることが必要。 20 V. 金融政策 21 持続的な低インフレがもたらす課題 • 低インフレは、経済における資源が十分に活用されてい ないことの結果である可能性がある。 • 低インフレによって、民間及び政府債務の調整が遅れる 可能性がある。 • 低インフレは、負のショックに対して、中央銀行が利下げ で対応する余地を低下させる。 • インフレ率が非常に低いと、経済はうまく機能しないように 思われる。 22 インフレ率引き上げのための 具体的な金融政策の手段 • 安全資産の短期金利がゼロ%となっても、様々な手段が 存在する(量的緩和、フォワードガイダンスなど)。 • 純粋な金融政策ではないが、金融政策の有効性を増強さ せ得る2つの手段: • 政府がコントロールできる料金や価格を年2%、政 府がコントロールできる賃金を年3%上昇させていく 政策。 • 中央銀行によってファイナンスされたソブリンウェル スファンド。 23 インフレ率を引き上げるための幅広い手段 • 全体の枠組みと目標が明確かつ正確であるほど、個々の 金融政策の措置の有効性が増す。 • 中央銀行が、枠組みを強化するために取り得る、2つの 方法: • インフレ目標を維持しつつ、目指している目標の達 成時期をより明確にし、かつ、それを確実に達成す るために必要であれば具体的な手段を調整する。 • 物価が毎年2%ずつ上昇していく場合の物価水準 を目標経路として採用する。 24 G7サミットに向けたインプリケーション • 公式な金融政策の協調を行う、強い必要性は存在しな い。 • 金融政策は強力かつ有効な手段であり、国内的に正当な 理由があれば、緩和的な金融政策は完全に適切である、 という明確な声明は有益だと思われる。 25
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