グローバル・マクロ・ トピックス

グローバル・マクロ・
トピックス
2016/
5/18
投資情報部
シニアエコノミスト
宮川 憲央
一進一退の動きが続く日本経済
~日本・GDP(2016年1-3月期)
 1-3月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率+1.7%と2四半期ぶりのプラス成長となり、市
場予想も上回る結果となった。
 ただし、今回のGDPにはうるう年にともなう日数増加の影響が含まれており、実態よりも強め
に出ている可能性には留意が必要。基調としてみれば、過去4四半期はプラス成長とマイナ
ス成長を繰り返しており、一進一退の動きにとどまっているといえよう。
 日本経済は方向性として回復に向かっていくものの、需要面での明確なけん引役が不在とい
う状況に変わりはなく、そのペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。
実質GDP は 予想を
上回る成長率に
1-3月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率+1.7%(前期比+0.4%)と2四半期ぶ
りのプラス成長となり、市場予想(ブルームバーグの集計では前期比年率+0.3%)も
上回る結果となった。また、前年同期比では▲0.0%となった。
需要項目別の動きは次ページ表の通りである。主な動きをみると、民間最終消費
支出(個人消費)は前期比+0.5%となった。雇用環境の改善が続くなかで、実質雇用
者報酬が同+1.3%となったことが支えとなった。もっとも、今年はうるう年であるため、
例年に比べ日数が増加する分、消費が押し上げられている点には留意が必要であ
る。また、財貨・サービスの輸出が同+0.6%となる一方、輸入が同▲0.5%となったた
め、純輸出(輸出-輸入)のGDPに対する寄与度は同+0.2%となったほか、公的需要
(政府消費や公共投資等)も1-3月期のGDPを押し上げた(寄与度は同+0.2%)。一
方、民間企業設備(設備投資)は同▲1.4%と3四半期ぶりの減少となった。
名目GDPは前期比年率+2.0%(前期比+0.5%)となり実質GDPの伸びを上回った。
GDPデフレーターは前期比+0.1%(前年同期比では+0.9%)となった。GDPデフレー
ターは前期比で上昇したものの、控除項目である輸入デフレーターの下落によると
ころが大きく、国内需要デフレーターは前期比▲0.5%となっている。また、交易利得
(交易条件の変動によって生じる実質所得の変動額)が改善したため、実質GDI(国
内総所得)は前期比年率+4.0%と高い伸びとなった。原油価格の下落等にともない、
所得の海外流出の度合いが和らいだことが背景にあり、企業のマージン等を下支
えしているとみられる。ただ、こうした動きが個人消費や設備投資の増加に結びつき
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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づらい状況が続いている点には留意が必要であろう。なお、GDIに海外からの所得
を加味した実質GNI(国民総所得)は前期比年率+1.3%となった。1-3月期は実質
GDPの伸びを下回ったものの、サービス収支や所得収支等、貿易以外のルートで
海外の成長を取り込む動きは継続するとみられる。
実質GDPの推移(前期比年率、寄与度)
(四半期:2012/3~2016/3)
(%)
10
5
0
▲5
▲ 10
純輸出
民間在庫
民間企業設備
実質GDP
▲ 15
公的需要
民間住宅
民間最終消費
▲ 20
12
13
14
15
16
(年)
出所:内閣府「四半期別GDP速報」のデータよりみずほ証券作成
実質GDPの推移
(前期比:%)
2014年度
1-3月
4-6月
名目GDP
2.0
▲ 0.1
実質GDP
1.3
▲ 0.4
(前期比年率)
5.4
▲ 1.7
*国内需要
1.2
▲ 0.1
*民間需要
1.3
▲ 0.3
民間最終消費支出
0.2
▲ 0.8
民間住宅
2.1
2.2
民間企業設備
3.8
▲ 1.6
*民間在庫品増加
0.6
0.3
*公的需要
▲ 0.1
0.2
政府最終消費支出
0.3
0.5
公的固定資本形成
▲ 2.8
3.0
*公的在庫品増加
0.0
▲ 0.0
*財貨・サービスの純輸出
0.1
▲ 0.3
財貨・サービスの輸出
2.2
▲ 4.8
財貨・サービスの輸入
1.5
▲ 2.6
GDPデフレーター
3.2
1.4
(注) *の項目は前期比寄与度。GDPデフレーターは前年同期比
出所:内閣府「四半期別GDP速報」のデータよりみずほ証券作成
2015年度
7-9月
10-12月
0.7
▲ 0.2
0.4
▲ 0.4
1.6
▲ 1.7
0.3
▲ 0.5
0.4
▲ 0.5
0.5
▲ 0.8
1.7
▲ 1.0
0.7
1.2
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.0
0.2
0.7
▲ 2.2
▲ 3.5
0.0
▲ 0.0
0.1
0.1
2.6
▲ 0.8
1.7
▲ 1.1
1.8
1.5
1-3月
▲
▲
▲
▲
0.5
0.4
1.7
0.2
0.1
0.5
0.8
1.4
0.0
0.2
0.7
0.3
0.0
0.2
0.6
0.5
0.9
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
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景気のけん引役不在
の状況は続く
以上のように、1-3月期の実質GDPは2四半期ぶりのプラス成長となり、0%台前半と
される潜在成長率も上回る結果となった。ただし、うるう年の影響が含まれるため、
実態よりも強めの数値となっている可能性には注意が必要である。4-6月期はこうし
た影響がはく落するとともに、短期的には熊本地震の影響により、生産活動が押し
下げられる可能性もある。基調としても過去4四半期はプラス成長とマイナス成長を
繰り返しており、文字通り一進一退の状況といえるだろう。
今後について考えると、人手不足を背景に雇用環境の改善が続いていること等か
ら、日本経済は方向性としては持ち直しに向かっていく可能性が高いと考えてい
る。今年度予算の執行前倒しも当面の成長率を支える動きとなろう。
ただし、円高の進行等から企業収益の伸びが低下していることに加えて、需要面
で明確なけん引役が不在という状況には変わりがなく、持ち直しのペースは引き続
き緩やかなものにとどまる可能性が高い。個人消費は、春闘における賃上げ率が昨
年を下回る等、賃金の伸び悩みが続くなかで、消費者の節約志向は根強く残るとみ
られる。設備投資は人口減少にともない国内市場の拡大期待が持ちづらいという中
長期的な傾向に加えて、短期的には中国をはじめとする海外経済の減速や急速な
円高の進行等、外部環境の不透明感の高まりもあり、企業は国内での設備投資に
対して慎重姿勢を続けるとみられる。また、中国をはじめとする新興国経済の減速
が続くもとで、世界経済の成長ペースは金融危機以前に比べて低下していることに
加えて、企業の海外現地生産・調達の進展といった動きもあり、輸出の増加ペース
は緩やかなものにとどまる可能性が高い。
日本経済の問題は、企業収益が好調であったにもかかわらず、先行きに対する期
待成長率の低迷等から、設備投資や賃金の増加ペースが緩やかなものにとどまっ
てきたという点にある。今後、政府は追加の経済対策を実施するほか、2017年4月に
予定される消費税率引き上げを見送る可能性は高まっているとみている。ただ、金
融政策や財政政策はあくまで時間を買う政策であり、民間主導の自律的な回復を
実現しなければ、際限のない金融・財政政策におちいるリスクがある。このため、こ
れらの政策によって下支えをしている間に、人口減少対策のほか、企業の事業構
造の転換、潜在的に需要が期待される分野への新規参入や経営資源のシフト、イ
ノベーション等を促すための成長戦略を着実に実行していくことが、中長期的な日
本経済の成長期待を回復させるために必要であろう。
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