株式消却益はあくまでも 時価で消却したもの として益金

2016年5月20日
Japan law update
EY弁護士法人
最新税務判例ポイント解説
株式消却益はあくまでも
時価で消却したもの
として益金に算入すべき
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サマリー
東京高裁は、
平成26年6月12日、
旧商法
規定により株式を時価で消却することが
できない場合でも株式消却益を時価で
消却したものとして益金に算入して法人
税を課すべきか否かが争われた税務訴
訟において、
これを肯定する判決を下し
ました。
I. 株式消却益の税務上の取扱い
東京高裁は、平成26年6月12日、旧商法規定により株式を時価で消却することが
できない場合でも株式消却益を時価で消却したものとして益金に算入して法人税
を課すべきか否かが争われた税務訴訟において、
これを肯定する判決を下しまし
た。
この判決は、
最高裁の上告受理申立不受理決定により確定しています。
法人に対して課される法人税の税額は、
一般に、
当該法人の各事業年度の「所得の
金額」
に税率を乗じて計算されます。
この各事業年度の「所得の金額」は、
「益金の
額」から
「損金の額」を控除した金額とされています。そして、
「所得の金額」の計算
上「益金の額」に算入すべき金額については、別段の定めがあるものを除き、一般
に、
資産の販売、
有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、
無償による資産
の譲受けその他の取引に係る当該事業年度の「収益の額」
とする旨定められてい
。
ます
(法人税法22条2項)
このように無償による資産の譲渡であっても、それに係る
「収益の額」を「益金の
額」に算入することとされているのは、法人が資産を他に譲渡する場合には、その
譲渡が代金の受入れその他資産の増加をもたらす反対給付を伴わないもので
あっても、
譲渡時における資産の適正な価額
(時価)
に相当する収益があるものと
して課税すべきだからとされています。
この考え方に従えば、
旧商法規定に基づく株式の消却は、
株式
の譲渡の一種と考えられるため、消却の際の払戻金額の有無
にかかわらず、
消却時における株式の適正な価額
(時価)
に相当
する収益があるものとして、
同額を「益金の額」
に算入して法人
税を課することになります。
II. 本件の争点
ところが、
本件においては、
旧商法規定により、
株式の消却に伴
い株主に払い戻す金額の合計が減少すべき資本の額等を超え
ることはできないとされていました
(旧商法213条1項、
375条
1項)。そして、消却時における株式の適正な価額(時価)は減少
すべき資本の額等を超えていました。そのため、
株式の消却の
際に、消却時における株式の適正な価額(時価)
を株主に払い
戻すことは許されない場合でした。すなわち、
もし株式を時価
で消却すると、旧商法規定に反し違法となる場合であったとい
えます。
株主の立場からすると、
消却時における株式の適正な価額
(時
価)
には、旧商法規定上収受することが許されない金額が含ま
れていることになります。そこで、
私法上収受することができな
い金額が含まれているにもかかわらず、
消却時における株式の
適正な価額(時価)
に相当する収益があるものとして、同額を
「益金の額」に算入して法人税を課することができるかが、本
件の争点となりました。
そして、法人税法においては、法人が保有する資産の評価換
えによりその帳簿価額が増額した場合でも、原則として、その
増額した部分(評価益)
は「益金の額」に算入せず
(同法25条1
項)
、
保有している段階では課税しないとする一方、
資産の売却
等によりその支配を離脱したときには、収益としてこれに課税
するという仕組みが採用されています
(同法22条2項、3項)。
従って、本件の株式の消却に伴い、その評価額である株式の
適正な価額
(時価)
を
「収益」
として計上し、
これを
「益金の額」
に
算入することは法人税法上の当然の帰結というべきことになり
ます。
本件は、法人税法上「益金の額」に算入して法人税を課すべき
か否かの判断は、
私法上収受することができる収益か否かの判
断とは異なりうることを示す判例といえます。
なお、裁判所は、私法上収受することができない金額の「寄附
該当性についても肯定しました。すな
金」
(法人税法37条7項)
わち、
私法上収受することができない金額のうち「寄附金」の損
金算入限度額を超える金額は「損金の額」
に算入できないもの
としました。
III. 裁判所の判断のポイント
この点について、裁判所は、次の理由から、株式の適正な価額
(時価)中に私法上収受することができない金額が含まれてい
るとしても、
そのことをもって、
直ちにその収益性を否定するこ
とはできないと判示しました。
【本件の争点の概念図】
会社
株式の消却
金銭の払戻し(※)
※ 消却時における株式の適正な価額
(時価)
の払戻しは旧商
法上不可
すなわち、法人税が企業の経済活動によって稼得された成果
(企業利益)を課税物件とするものであることに照らすと、法
人税法22条2項にいう
「収益」
とは経済的な実態に即して実質
的に理解するのが相当であり、
また、
このように解するのが同項
の趣旨でもある租税の公平な負担の観念に合致することにな
ります。
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