自由論題8「東・東南アジアの農村」 報告1 河野正(日本学術振興会特別

自由論題8「東・東南アジアの農村」
報告1
河野正(日本学術振興会特別研究員)
「中華人民共和国初期、河北省における互助組・初級合作社の組織過程―等価互利・余剰
労働力を中心に―」
中国共産党(以下中共)は中華人民共和国成立初期より農村において、土地改革に引き
続き農業集団化政策を展開してきた。これらの農業集団化については、村落における旧来
の互助慣行との連続を指摘する研究がある。即ち農民にとって中共の集団化政策は、農民
たちが旧来自主的に行っていた互助慣行からの連続と捉えられており、そのため農民が中
共の農業集団化政策を理解することができたという、旧来の互助慣行を農業集団化の「受
け皿」と見る議論である。
旧来の互助と中共の農業集団化には、連続として捉えられる点もあれば、異なる点もあ
り、また地域差も大きく、結局のところ一概に「受け皿」であるか否かを考えるのは難し
い。とは言え史料からは上級の意向と基層社会の実態において齟齬が見られる。即ち、農
業集団化政策の展開に当たり、中共の側が旧来の互助を基礎として、その上に新たな互助
合作政策の展開を意図したことは事実であるが、中共の求めた互助合作と、農村における
旧来の互助合作との差異は大きかった。そのため中共の農業集団化政策は順調に展開され
るどころか、旧来の互助が、その障害にもなっていたのである。
本報告では中共の集団化と旧来の互助について、河北省の農村を対象に、特に等価互利
と余剰労働力の 2 点に注目し、上級の意向と基層社会の実態において、如何なる齟齬が生
じていたのかを整理したい。この過程で主に使用する史料は『中国農村慣行調査』の他、
河北省檔案館所蔵の檔案や中共河北省委員会の機関紙などである。なお等価互利と余剰労
働力に注目する理由は、これらがまさに伝統的互助と中共による農業集団化との差異に関
わるためである。この作業を通じて本報告では、中華人民共和国初期の中共の諸政策と、
その受け手である基層社会との関係を再考したい。