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自由論題 東南アジアの政治
報告1
五十嵐 誠一(千葉大学法政経学部)
メコン地域主義の新たな政治的位相
The New Political Phase of Mekong Regionalism
本報告は、メコン地域における国際協力枠組みの急増と関与するアクターの多様化とい
う現実を踏まえ、もっぱらポスト古典的現実主義、新地域主義アプローチ、ネオグラムア
ン・アプローチを援用して、メコン地域の新たな政治的位相を開拓する。その目的は以下
の 3 点である。
第 1 に、メコン・コンジェスションと揶揄されるように、メコン地域では域外国もが関
与しながら多様な協力枠組みが形成されている。このような「上」からのメコン地域主義
の実態を、ポスト古典的現実主義の視角を援用しながら、長期的な経済的利益や経済能力
の最大化を目指す主家国家の利己的行動として捉え直す。その上で、主権国家による主導
権争いという側面を持つメコン・コンジェスションが、地域に秩序と安定をもたらすのか
否かを検証する。
第 2 に、市場を原動力として開発や投資を重視する「新自由主義型地域主義」という志
向性を持つメコン・コンジェスションに対して、市民社会アクターはそれに修正を迫るべ
く国際機関等への関与を試みている。いわば「下」からのメコン地域主義である。こうし
た主体間の協調・対抗関係を、非国家行為体を重視する新地域主義アプローチとトランス
ナショナルなヘゲモニーに着目するネオグラムアン・アプローチを用いて、地域の形成を
めぐる支配的・対抗的ヘゲモニーの鬩ぎ合いとして捉え直す。
第 3 に、メコン地域では、移民、疾病、漁業などの分野で、国境を隔てて隣接する地方
行政単位同士の越境協力が各地で進みつつある。国家政府と市民社会との間に位置しうる
地方政府・地方共同体による「下」からの「もう 1 つの」地域主義(トランスナショナルな
ローカル・イニシアチブ)である。このような越境的公共空間の形成は、主権国家体系を下
方から相対化させうる。本報告では、国境の相対化が進む経済回廊上の地方行政単位(ラオ
ス、タイ、カンボジア、ベトナム)同士の協力事例を取り上げて考察する。