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自由論題4「中国の政治と対外関係」
報告1
陳嵩(東京大学交流研究員)
「権威主義国家体制におけるハイポリティクス知識ギャップ形成のメカニズム―中国にお
ける尖閣諸島/釣魚島問題を事例として」
1970年代、アメリカの社会学者ティチェナーらは「知識ギャップ仮説」を提起した。今
までこの仮設に対する検証は、主にメディアの自由という同質性の外部環境を持つ自由民
主主義国家を対象に行われてきた。しかし、従来、メディアと支配権力との関係について
は、様々な見方が提起されている。その関係のあり方によって私たちの「政治はつねにメ
ディアの中にあるか、それともメディアはつねに政治の中にあるか」に対する見方が変化
する。今まで「民主主義体制」の国を対象として蓄積されてきた多くの知見は、必ずしも
「権威主義国家」に適用するとは思わない。というのは、政治制度を跨ぎ、メディアが置
かれた外的状況を考慮しないままでの国際比較では、結果として「知識ギャップ」があっ
たかどうかにかかわらず、その原因がメディアを取り巻く外的状況の差異にあるのか、そ
れともメディアの性質の違いに求められるべきなのかを判断するのは難しい。いわば「根
本的な帰属の誤り」を犯してしまう恐れがあるからである。このような誤りを回避するた
めに、権威主義体制を民主主義体制とは異なる、新たな外的状況と見なすべく、「メディ
アは常に政治の中にある」という前提に立ち、メディア接触と「知識ギャップ」の形成と
いう共変関係を考察していく必要があると考える。
「権威主義体制」の下では、ハイポリティクスに関するジャーナリズム活動が「民主主
義体制」とは異なり厳しく制限されている。そこで本研究では日中間の懸案である尖閣諸
島/釣魚島問題を事例として取り上げ、
「情報源側の特徴」と「オーディエンス」と「同問題
の関連知識の有無」を繋ぐメディア利用の諸変数を明らかにすることによって、中国民衆
間での同問題に関する知識ギャップの形成メカニズムを明らかにする。また、こうした個
別的な分析を踏まえ、権威主義国家体制のもとでのハイポリティクス知識ギャップ形成と
いう汎用性のある仮説の提示を目指す。