海外だより - JA 全中

D.C.通信
海外だより
連載 60
中村岳志 (JA全中農政部WTO・EPA対策課<在ワシントン>)
May, 2016
アメリカの国立公園保護制度と
次世代に対する教育
広大な国土と自然を有するア
迫る規模となっている。
メリカは、世界で初めて「国立
公園」という概念を生み出し、
■国立公園局の目的
その意義を世界に広めてきた。
国立公園局の使命は、
「人々
2016年はアメリカ国立公園局
が楽しみ、教育のために利用し、
■自然を愛する心を育む教育
設立100周年となる節目の年で
感動を受けることができる、自
筆者もこれまでにいくつかの
ある。
然・文化資源および価値を次世
国立公園を訪れたが、ビジター
代に引き継げるよう保つこと」
センターに豊富に用意されてい
■国立公園の数と規模
とされており、資源保護のみな
る展示や映像、レンジャーによ
アメリカ初の国立公園である
らず、保護に対する理解の促進
る教育プログラムには、大人は
イエローストーン国立公園が設
に向けた教育の必要性が強調さ
もちろん、子ども向けのものや
立されたのは、およそ140年前
れている。
親子で参加できるものも数多く
の1872年。当初の国立公園の管
そうした理由により、各公園
あり、子どもが気軽に参加でき
理は予算も少なく、体制も不十
内に設置された合計約900もの
る環境が整っていると感じた。
分であったが、1916年に国立公
ビジターセンターでは、常設の
昨年は、延べ80万人以上の子
園等の管理を専業で担う「国立
展示のほか、レンジャーと呼ば
どもたちがプログラムに参加し
公園局」が設立されて以降、現
れる専門家による多彩なプログ
ており、そうした取り組みの成
在に至るまで、連邦政府のイニ
ラムが行われており、地域の動
果を示しているが、政府の支援
シアチブのもと、アメリカの国
植物や歴史・地理について学べ
に基づくこうした地道な次世代
立公園システムは発展し続けて
る非常に充実した内容となって
への教育活動の積み重ねが、自
いる。
いる。
然保護の重要性への理解の広が
今日では、国立公園局の管理
こうした施設は、約 2 万人の
りや、22万人ものボランティア
区域は400程度存在する。これ
レンジャーに加え、年間約22
の参加につながってきているの
らには、自然保護区のような性
万人(延べ人数)ものボラン
ではないか。
格を持つ区域のほか、史跡や遺
ティアによって維持されており、
農業とは畑は違えど、次世代
跡、記念公園なども含まれてお
人々自らが自然環境の保護およ
への継続的な教育の重要性とい
り、その総面積は約34万 km2と、
び啓発活動に意欲的に取り組ん
う点において、参考となる事例
日本の国土面積(38万 km2)に
でいることがうかがえる。
ではないかと感じている。
イエローストーン国立公園のビジター
教育センター
2016/05
月刊 JA
33