海外だより - JA 全中

D.C.通信
海外だより
June, 2016
連載 61
中村岳志 (JA全中農政部WTO・EPA対策課<在ワシントン>)
アメリカにおける国(連邦)と
州の関係
アメリカ合衆国は、50の州か
が発せられたが、誕生したのは
らなる連邦である。日本人とし
1 つの国家ではなく、13の独立
合衆国憲法への署名
ては、州と県とは同様の地方自
主権国家(邦)であった。
は州政府に留保された。こうし
治単位であると考えがちである
これらの邦は規約を結んで連
た経過が、現在も州の権限が強
が、権限の範囲や、国との関係
合を形成したが、中央政府には
いことの原点となっている。
など大きな違いがある。
課税権や通商規制権限もなく、
各邦に対しての強制力を有して
■おわりに
■強大な州の権限
いなかった。そのため、連合の
こうした性格を持つアメリカ
州の権限は大きく、州議会が
財政は行き詰まり、治安等の混
においては、連邦による一律的
州における基本的な法律を決定
乱にも対処できなかった。
な政策実施が難しい部分もあり、
する。従って、例えば刑法、民
そこで、13邦の上に主権を持
環太平洋連携協定(TPP)交渉
法、商法などの法律は州ごとに
つ新しい統一国家(合衆国)の
においても、同国は州レベルの
異なっている。また、弁護士や
樹立が検討され、1787年より憲
市場開放は困難だと主張し、州
医師など、日本での国家資格を
法制定会議が招集された。しか
政府を含む連邦・地方自治体の
与えるのも州政府であり、原則
し、イギリスから独立を勝ち
公共工事などの発注(政府調
として、州ごとに免許を取得す
取ったばかりの諸邦にとって、
達)については、適用範囲の拡
る必要がある。福祉や公立学校
「なぜ独立国である13邦の上に
の費用も、かなりの部分が州政
新たに政府をつくる必要がある
る結果となった。
府によって賄われている。
のか」などといった疑念は極め
このように、アメリカの国家
これらからも分かるように、
て強く、各邦の主権維持を目指
としての仕組みは通商交渉など
アメリカは州に大幅な自治権を
す者からの強い反対があった。
にも影響しており、同国の姿勢
認める連邦国家なのである。
こうした制約から、後に制定
を正しく理解するには、上記の
された合衆国憲法では、連邦議
ような歴史的経過を理解してお
■現在の仕組みの由来
会には広範な一般的権限は与え
くことも重要になる。
州政府の権限の強さは、建国
られず、憲法に列挙された権限
の歴史に由来する。1776年 7 月
(例えば徴税、関税・通商、貨
(参考文献:久保文明他『アメリカ
4 日に、13の植民地代表が集ま
幣鋳造、戦争など)に限定され
政治』
、阿川尚之『憲法で読むア
りイギリスからの「独立宣言」
ることとなり、それ以外の権限
メリカ史』
)
大に向けてあらためて交渉をす
2016/06
月刊 JA
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