海外だより[D.C.通信]49 アメリカ議会の法案審議プロセス

D.C.通信
海外だより
連載 49
中村岳志(JA全中農政部WTO・EPA対策課<在ワシントン>)
June, 2015
アメリカ議会の法案審議プロセス
法案を拒否する権利も有する。
拒否権が行使された場合、上
下両院において、それぞれ出席
環太平洋連携協定(TPP)交
付託された法案のうち、どれ
議員の 3 分の 2 で再可決すれば
渉参加国中、アメリカは最大の
を取り上げるかは、ほとんどの
覆すことができる。しかし、政
経済規模や政治的影響力を有
場合は各委員長(多数党)の判
党勢力が拮抗している状況では
し、その動向が交渉全体を左右
断となり、その権限は大きい。
難しい場合が多い。
するといっても過言ではない。
法案が審議されることとなれ
したがって、その動向の見極
ば、多くの場合、有識者や利害
■自らの政党と対立すること
めが重要となるが、そのために
関係者等から意見を聴取する
も多い大統領
はアメリカ議会への理解が欠か
「公聴会」を経て、審議に入る。
議院内閣制を採用する日本で
せない。そこで本稿では、アメ
審議では、修正案が出され、
は、通常、議会多数党トップが
リカ議会における法案審議の仕
その反映の是非について討議・
行政府の長たる首相を務める。
組みを見ていきたい。
投票が行われる。そして、それ
一方、アメリカでは大統領と議
らが一通り終われば、採択され
会議員が別個の選挙で選ばれ、
■米国議会の構成
た修正を含めた法案全体を本会
互いに独立しているため、大統
アメリカ議会は上院と下院か
議に報告するか否かについて、
領の所属政党と議会多数党が異
らなる。上院議員は州代表の性
最終的な投票が実施される。
なる場合も多く、法案に大統領
格を有し、50の州から各 2 人ず
 本会議
が拒否権を行使することも少な
つ、 計100人 で、 任 期 は 6 年。
本会議に報告された法案のい
くない。
一方、下院議員は、選挙区の住
ずれを審議するかの決定には、
また、大統領は所属政党の指
民代表としての性格が強く、計
上院では多数党の指導者(院内
導者ではないため、自らの政党
435人で、任期は 2 年である。
総務)が、下院では議長(多数
が多数党であるときでも、自党
両院とも、本会議と委員会か
党より選出)が、中心的な役割
と対立して議会運営に苦労する
ら構成され、ほとんどの議員が
を果たす。法案が審議入りし、
ことも珍しくなく、必ずしも日
共和党または民主党に所属する。
可決されれば、他方の院に送付
本のように「政府・与党は一体」
される。
というわけにはいかないことを
■法案審議プロセス
きっこう
頭に入れておく必要がある。
 委員会
■大統領の署名と法律の成立
法案は議員から提出され、一
上下両院を通過した法案 2 は、
旦本会議へ上程された後、所管
大統領が署名して初めて法律と
委員会に付託される1。
して成立する。一方、大統領は
1:必要に応じさらに小委員会に付託。
2:両院での議決が異なった場合は、
両院間の修正案のやりとりや両院
協議会を通じて調整が図られる。
2015/06
月刊 JA
33