平成28年度実施方針 材料・ナノテクノロジー部 1.件 名: (大項目)次

P15006
平成28年度実施方針
材料・ナノテクノロジー部
1.件 名:
(大項目)次世代構造部材創製・加工技術開発
2.根拠法
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法第十五条第一号ニ
3.背景及び目的・目標
3.1背景
航空機産業は、国際的な産業競争が激化する状況にある。世界の民間航空機市場は年率約
5%で増加する旅客需要を背景に今後20年間の市場規模は、累計約3万から3万5千機(4
~5兆ドル程度)となる見通しである。「産業構造ビジョン2010」では国内航空機産業
を2020年迄に2兆円にほぼ倍増させるとともに、2030年には売上高3兆円を達成す
ると、謳われている。厳しい競争の中で、航空機産業では高度な先進技術開発が進められて
きており、これらを他産業分野へ波及させることにより、輸送機器をはじめとした様々な分
野における製品の高付加価値化を進める上で、重要な役割を果たすことも期待されている。
また、燃費改善、環境適合性等の市場のニーズに応えるため、近年の航空機(機体・エンジ
ン・装備品)では軽量化のために構造部材として複合材及び軽金属等が積極的に導入されて
おり先進的な素材開発及び加工技術開発等が急務となっている。
国際的な産業競争が激化する状況下、サプライヤービジネスにおいても今後激しい競争に
さらされていくことが予想されるため、我が国においても航空機産業の国際競争力を維持・
拡大していく必要がある。
3.2目的・目標
航空機の燃費改善、環境適合性向上、整備性向上、安全性向上といった要請に応えるため、
複合材料及び軽金属材料関連技術開発を両輪として、航空機に必要な信頼性・コスト等の課
題を解決するための要素技術を開発する。これにより、航空機の燃費改善によるエネルギー
消費量とCO2排出量の削減、整備性向上、安全性の向上並びに我が国の部素材産業及び川下
となる加工・製造産業の国際競争力強化を目指す。
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[委託事業]
研究開発項目①「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発」
【最終目標(平成27年度)
】
(1)複合材構造部材
(a)広域分布歪み計測による航空機構造健全性診断技術の開発
広域分布歪み計測技術の信頼性及び耐久性が、航空機複合材構造に適用可能な技術を有
する事を実証する。
航空機搭載可能な広域分布歪み計測システムを試作し、実機あるいは実大構造を用いた
試験を行い、従来計測不可能であった分布歪みを従来の歪みのみを計測する方法と同等
レベルで計測できることを実証する。
航空機適用に必要な認証システムに合致した設計及び製造プロセスを設定する。
(b)光ファイバセンサによる航空機構造衝撃損傷検知システム実用化技術の開発
今まで試験室環境で実証されてきた衝撃損傷検知システムについて、新たな衝撃損傷検
知方法及び各種実証試験を通じて、実飛行環境化においても十分な信頼性/耐久性で衝撃
損傷検知が可能となる技術を開発する。
今まで試験機以外の量産航空機への搭載に対応していなかった衝撃損傷検知システムに
ついて、各種航空機器の設計技術及び光ファイバセンサ計測線の設計・敷設技術を用い
て、航空機搭載に適したシステムを試作する。
(c)ラム波を用いた航空機接着構造健全性診断技術の開発
接着剥がれ検知技術について、実構造に応じたセンサ/アクチュエータ配置を検討し、温
度等の環境影響がある中でも、検知精度が低下せず、十分な信頼性を有することを、部
分構造試験等で実証する。
検知範囲拡大に応じて再考したアンプ等の改良を盛り込んで、超音波ラム波計測装置を
試作し、実環境下でも、接着剥がれの検知精度に影響を及ぼさない超音波ラム波が計測
できることを実証する。
(d)熱可塑複合材製造プロセスモニタリング技術開発
熱可塑複合材の特性(ハイサイクル成形)を活かした部品自動成形を指向した低コスト、
高レート製造技術を確立する。一次構造部材にも適用可能な一方向材を用いた部材成形
法を技術成熟度TRL4(Technology Readiness Level 4)まで引き上げる。
接合(融着、接合等)を用いた部材一体化構造製造技術を確立する。従来、熱可塑複合
材の接着が困難であったが、融着、接合技術、新規表面処理技術を用いてTRL4の融
着、接合技術を確立する。
製造プロセスにおける圧力、温度、残留応力等をモニタし、製造品質を評価する技術を
確立する。従来、1次構造材にも適用可能な熱可塑複合材の成形モニタリングは困難で
あったが、センサ適用成形法を適用してTRL4のモニタリング技術を確立する。
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(e)光ファイバセンサによる航空機構造の成形モニタリング技術の開発
今まで測定不能だった複合材部品成型時の内部温度、歪、残量応力等について、新しい
光ファイバセンサの埋め込み成形及び計測・分析技術を用いて、成形不具合が検知可能
な成形モニタリング技術を開発する。
大型サンドイッチ構造に対し、今までは製造時と定期整備時の超音波検査でしか検知で
きなかった内部損傷に対して、光ファイバセンサを用いた成形モニタリング技術と運用
モニタリング技術を組み合わせることで、超音波検査に頼らずに構造強度に重大な影響
を与える前に検知可能な技術を開発する。
今までオートクレーブの大きさの制約を受けてきた大型複合材構造部品の製造を、光フ
ァイバセンサを活用した低圧成形プロセス技術を用いて、オートクレーブ外でも同等の
品質で製造する技術を開発する。
(f)高生産性・易賦形複合材の開発
従来の連続繊維プリプレグ対比、弾性率同等、強度8割保持しながら賦形性を向上させ
るUACS(Unidirectionally Arrayed Chopped Strands)技術を確立するとともに、
部材試作を行い、繊維うねり、ボイドが抑制されることを実証する。賦形シミュレーシ
ョンソフトを開発し、部材レベルで精度10%以内を実証する。
(2)軽金属構造部材
(a)チタン合金接合技術の航空機への適用研究
大型チタン部品(板厚5mm程度)を母材並の接合部特性で摩擦攪拌接合(FSW)する接合技
術を確立する。
接合部微小欠陥(0.3mm)の検査技術を確立する。
接合部組織と機械的特性の相関を解明する。
従来方法である厚板からの切削加工と比較して、部材製造コストを30%低減できる見
通しを得る。
(b)チタン合金粉末焼結技術の航空機への適用研究
本技術を実機適用化可能なTRL6とする。
冷間静水圧プレスを用いて複雑形状焼結体を成形する技術を確立する。
Ti-6Al-4V鍛造材以上の静強度、降伏強度、耐食性を達成する。
切欠き強度について、Ti-6Al-4V合金鍛造品の水準以上の疲労寿命(250MPaにて105回)
を達成する。
従来の製造法(厚板からの削り出し)と比較して、部品製造コストを30%低減できる
見通しを得る。
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(c)マグネシウム合金の開発と航空機への適用研究
サイズ:直径φ50mmに外接する押出形材
強度(Fty):急冷凝固KUMADAI マグネシウム合金は、400MPa以上
溶解鋳造KUMADAI マグネシウム合金及び超軽量マグネシウムリチウム合金は、
350MPa 以上
伸び(EL):急冷凝固KUMADAI マグネシウム合金は、5%以上
発火温度:750℃以上
腐食速度:0.6mm/年 以下
重量削減:現状のアルミニウム合金部品より15%の軽量化
(3)総合調査研究
航空機の材料評価から設計、製造、運航に至るまでの各フェーズにおいて、実用化のた
めに解決するべき課題を整理するとともに、国内外の技術動向や政策支援を調査し、本
研究開発の方向性、達成レベル等に係る開発戦略を明確化する。
研究開発項目①-2「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)
」
【中間目標(平成29年度)
】
(1) 複合材構造部材
アルミ構造と同等の高生産性・低コスト生産技術の要素技術を確立して、技術コンセプト
の確認をする(TRL3)。
複合材本来の特性を生かした軽量化を可能とする基礎技術を確立して、技術コンセプト
の確認をする(TRL3)。
複合材構造に由来する内部剥離などの検査技術について、想定環境下での実用可能性の
妥当性を確認する(TRL5)。
(2) 軽金属構造部材
マグネシウム合金の部材適用が判断可能な構造材料データを取得し、航空機の適用部位
を明確にして技術コンセプトの確認をする(TRL3)。
(3)総合調査研究
複合材構造及び軽金属構造について、国内外の技術動向や政策支援を調査し、本研究開
発の方向性、達成レベル等についての客観的判断材料を探索する。
【最終目標(平成31年度)】
(1)複合材構造部材
確立した高生産性・低コスト生産技術の要素技術を、航空機の適用部位を明確にして、
想定使用環境下での実用可能性の妥当性を確認する(TRL5)。
確立した複合材本来の特性を生かした軽量化を可能とする基礎技術を用いて、航空機の
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適用部位に必要な部材としての構造材料データを取得し、構造設計を行い想定使用環境
下での実用可能性の妥当性を確認する(TRL5)。
複合材由来の欠陥等の検査技術の外部審査によるTRL7を取得する。
(2)軽金属構造部材
マグネシウム合金において、明確にした航空機の適用部位に必要な部材としての構造材
料データを取得し、構造設計を行い想定使用環境下での実用可能性の妥当性を確認する
(TRL5)。
(3) 総合調査研究
航空機の材料評価から設計、製造、運航に至るまでの各フェーズにおいて、実用化のた
めに解決するべき課題を整理するとともに、国内外の技術動向や政策支援を調査し、本
研究開発の方向性、達成レベル等を明確化する。
研究開発項目②「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発」
【最終目標(平成27年度)
】
(1)小型タイプ自動積層装置の開発・実用化
装置の機能・機構を、中小型複雑形状部材の自動積層に適したものとすることで、高生
産性・低コスト生産に寄与可能な積層品質を実現する小型タイプ自動積層装置を開発す
る。
(2)中小型複雑形状部材の設計・製造技術を確立
開発した小型タイプ自動積層装置を用いて部材の試作を実施し、従来の製造手法である
手積層の場合とも比較しながら品質評価を行い、複雑形状積層に対する設計・製造技術
を習得して、航空機向け次世代構造材製造の真にクリティカルな技術とする。
研究開発項目②-2「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発(第二期)
」
【中間目標(平成29年度)】
(1)小型タイプ自動積層装置の製造適用に向けた開発
中小型複雑形状部材の積層に対し、将来の複合材部材製造の高生産性・低コスト生産に対応
可能な積層速度で、連続積層可能な小型タイプ自動積層装置を開発し、作業者による手積層
と同等の品質を確認する。
(2)実機部材形状に適用可能な設計・製造技術の開発
開発した小型タイプ自動積層装置を用いて中小型複雑形状部材の試作を実施し、その品質評
価により、製造適用に向けて高度化した設計・製造技術の妥当性を確認する。
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【最終目標(平成31年度)】
(1)小型タイプ自動積層装置の製造適用に向けた開発
種々の複雑形状の積層に対し、作業者による手積層と同等の品質を確認する。
将来の複合材部材製造の高生産性・低コスト生産に対応可能な積層速度で、連続積層可
能で、製造適用に必要な易操作性、易メンテナンス性を有し、汎用性を持つ安価小型タ
イプ自動積層装置を開発して装置仕様を決定する。
(2) 実機部材形状に適用可能な設計・製造技術の開発
種々の複雑形状に対し、開発した装置を用いて部材の試作を実施し、その品質評価により、製
造適用に向けて高度化した設計・製造技術の確立を確認する。
研究開発項目③「航空機用難削材高速切削加工技術開発」
【最終目標(平成27年度)
】
(1)チタン合金の切削加工技術開発
(a)手仕上げ不要な仕上げ加工技術の実部品形状への適用
ミスマッチ(手磨きの必要な加工段差等)の無い高速ポケット加工技術を確立する。チ
タン合金のための仕上げ加工用の革新的工具(エンドミル)の開発と新しいコーナ加工
技術の開発により、標準モデルに対し、平成24年度当初比で、仕上げ加工時間を30%
以上短縮する。
エンドミルによる荒加工のための革新的高圧クーラント利用技術の適用可能性を検証し、
実用化のための必要な技術課題を明確化する。最重要課題のひとつである工具について
は、高圧クーラント用のエンドミルを開発し、工具形状、クーラントノズル位置等の最
適化を図り、荒加工時間を10~20%短縮する。
(b)環境対応切削における高能率化の検討
OOW(Oil On Water)のミストを用いる切削法を開発して、上記目標と合わせて手仕
上げ不要のチタン合金の高速切削を達成し、標準モデルの荒加工から手仕上げまでを含
む総コストを、平成24年度当初比で、30%以上削減する。
(2)先進アルミ合金の切削加工技術開発
(a)アルミリチウム長尺部材の高精度加工技術開発
制御パラメータ(工具・切削条件、切削工程・工具経路、クーラント)を検討して、ア
ルミリチウム合金加工後部品の変形(ひずみ)を、20~30%軽減する。
有限要素解析による残留応力の予測技術を確立する。
(b)手仕上げ不要なアルミ合金の切削加工技術の開発
ミスマッチの無い高速ポケット加工技術を確立する。アルミ合金のための仕上げ加工用
の新工具の開発と新しいコーナ加工技術(コーナの新しい加工法はチタン合金と同じ)
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により、標準モデルに対し、平成24年度当初比で、仕上げ加工時間を30%以上短縮
する。
エンドミルによる荒加工のための革新的高圧クーラント利用技術の適用可能性を検証し、
実用化のための必要な技術課題を明確化する。最重要課題のひとつである工具について
は、高圧クーラント用の革新的工具(チタン合金用とは工具材種や形状が全く異なる)
を開発し、工具形状、クーラントノズル位置等の最適化を図り、荒加工時間を10~
20%短縮する。
(3)炭素繊維複合材の切削加工技術開発
(a)炭素繊維複合材のドリル加工における切削力、切削温度、工具摩耗の予測技術開発
数値解析により航空機用複合材の切削力、切削温度、工具摩耗、切り屑流出方向の予測
技術を確立し、厚さや直径の異なる部位に最適等リルを設計・選択するための世界初の
支援システム・シミュレーションシステムを構築する。これにより、工具の異常摩耗、
高切削温度による炭素繊維複合材の劣化、許容レベル以上大きな剥離が発生しない工具
の選択並びに切削条件を導き出す。
(b)炭素繊維複合材-チタン合金重積材の切削予測技術開発
最大級の加工穴径のための最適な重積材用のドリル形状並びに加工条件を明確にし、新
しいドリル設計開発に利用可能なシミュレーション技術を開発する。
(c)重積材に対するドリル形状の設計
上記の予測技術を活用し、最大級の加工穴径のための革新的な形状のドリルを開発し、
得られた結果をベースに実用化の目処を得る。
(4)チタン合金の熱間ストレッチ成形技術開発
標準試験片に対し熱間ストレッチ成形を用いて適切な組織制御を行い、残留応力制御を
可能とする世界初の技術を確立する。これにより将来的な切り屑量(部品形状によるが、
現状比40-50%減)、切削時間(部品形状によるが、現状比30-40%減)の削減の目途を得
る。
(5)切削ロボットシステムによる柔軟性の高い切削加工技術開発
ロボットの最適姿勢を明らかにし、革新的な金属切削ロボットシステムを確立する。
アルミリチウム合金のスキンカット(ポケット加工)に適用し、従来加工機同等以上の
加工仕上がりを達成する。
研究開発項目③-2「航空機用難削材高速切削加工技術開発(第二期)
」
【中間目標(平成29年度)
】
炭素繊維複合材、チタン合金、先進アルミ合金の高速切削高性能工具の作製するための
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予測技術のプロトタイプを開発する。
切削・金属ディポジション複合加工を実現するため、加工条件の設定に適用可能な予測
技術のプロトタイプを開発する。
【最終目標(平成31年度)
】
予測技術の精緻化を図り、発展させて、加工費あるいは加工時間を30%以上削減する
高性能加工技術を確立する。
研究開発項目④-1「軽量耐熱複合材CMC技術開発(基盤技術開発)
」
【最終目標(平成27年度)
】
(1)CMC損傷許容評価技術開発
主要な要求特性である疲労、クリープ試験における寿命、損傷パラメータ及び非破壊検
査結果の関係から、運用時に安全に材料を使用できる非破壊検査の判定基準を決める手
法を設定する。
損傷の発生、進展を予測する手法を設定し、設計ツールを開発する。開発した設計ツー
ルによりあらかじめ損傷を予測し、供試体を用いて実証実験を行う。試験結果と最終的
な比較・評価を行い、設計ツールの妥当性を確認する。
(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVI反応条件の最適化
気相反応及び表面反応の寄与を定量的に明らかにして、CVIの含浸効率を従来比で
50%以上改善する。
副生成物の組成を解析して副生成物を半減する方法を確立する。
(b)CVIシミュレーション技術開発
工業的な構造のCVI炉におけるシミュレーション精度を確認し、CVI反応器設計を
可能とするシミュレーション手法を確立する。
(3)コーティング技術開発
CMCの損傷(マトリクス割れ)に対して、修理可能なコーティング技術を確立する。
コーティングの耐久性で課題となるサンドエロージョンに対し、精度の高いシミュレー
ション等を活用した加速評価の手法を提案する。
研究開発項目④-2「軽量耐熱複合材CMC技術開発(高性能材料開発)
」
【中間目標(平成29年度)
】
(1)CMC材料の開発
1400℃×400Hr曝露後強度低下20%以下を満足するCMC材料を製造可能な、
引張強度2.0GPa以上のSiC繊維を安定的に200kg/年供給できるバッチ焼結技術
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を確立し、繊維の供給を実施する。
第3世代SiC繊維の三次元プリフォームを製造可能とする条件を設定し、繊維体積割
合30%以上の織物を試作する。
1400℃の耐熱性を持つ安定したマトリクス含浸方法を開発する。
(2)高性能SiC繊維の開発
引張強度3.0GPa以上で高温クリープ特性に優れるSiC繊維を開発する。
繊維評価技術(クリープ特性)を開発する。
材料のミクロ組織を模擬した解析手法を設定する。
高性能SiC繊維によるプリフォーム製造方法を開発する。
高性能SiC繊維に適合したCMC部材の初回製造プロセス方案を決定する。
【最終目標(平成31年度)
】
(1)CMC材料の開発
1400℃×400Hr曝露後強度低下20%以下を満足するCMC材料を製造可能な、
引張強度2.0GPa以上のSiC繊維の低コスト量産プロセスを確立する。
室温引張強度200MPa以上、1400℃×400Hr曝露後強度低下20%以下を満足す
るCMC材料を開発する。
(2)高性能SiC繊維の開発
引張強度3.0GPa以上で高温クリープ特性に優れるSiC繊維を開発、さらに試作条件
を確立し、CMC部材評価用試料を供給する。
高性能SiC繊維における三次元プリフォームの量産を可能とするプロセスを開発し、
繊維体積割合30%以上のプリフォームを試作する。
開発したSiC繊維が、CMC材料に適用可能であることを確認する。
研究開発項目⑤「低コスト機体開発を実現するための数値シミュレーション技術開発」
【中間目標(平成29年度)
】
開発上の必要なツールの選定、シミュレーション技術及び解析ツールを開発し、低コス
ト機体開発を実現するための数値シミュレーションツールを設計する。
【最終目標(平成31年度)
】
解析検証を終了し、数値シミュレーションの実用性を確認する。
数値シミュレーションツールをソフトウェア化し、最適設計技術として確立する。
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4.実施内容及び進捗(達成)状況
4.1 平成23年度委託事業内容
経済産業省直執行として、以下の研究開発を実施した(以下、経済産業省直執行)
。
実施体制:㈱IHI-再委託
東京大学、東北大学、九州大学、金沢大学
(1)CMC損傷許容評価技術開発
平板形状の単純試験片にて材料試験と簡易な要素試験を実施し、損傷の発生及び進展の
メカニズムを検討して損傷パラメータの候補を選定した。
損傷の発生及び進展を予測するための解析手法の開発に着手した。
(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVIによる反応条件の最適化
SiC-CVIが行える実験炉を構築した。構築した実験炉を用いて反応実験に着手し
た。MTS(Methyltrichlorosilane)原料ガスを用いた際の反応温度及び圧力がマトリ
クス形成量に与える影響を調査した。
副生成物の組成を分析し、紫外線等を用いた副生成物の処理実験に着手した。
(b)CVIシミュレーション技術
シミュレーションに必要な定数を明らかにした。文献より定数を仮定して化学反応速度
モデルとガス流体モデル双方を考慮したシミュレーションを実施し、SiC-CVIで
のシミュレーションが実施可能な目処を得た。
(3)コーティング技術開発
コーティング材候補を調査し、高温曝露試験及び熱サイクル試験によるスクリーニング
評価により、CMC基板と化学的に安定で剥がれや割れを生じないコーティングの候補
を3種類程度に絞った。
4.2 平成24年度委託事業内容(経済産業省直執行)
。
研究開発項目③「航空機用難削材高速切削加工技術開発」
実施体制:東京大学-再委託
三菱重工業㈱、東京電機大学、東京農工大学、
新潟県工業技術総合研究所
(1)チタン合金の切削加工技術開発
航空機部品に非常に多くみられるチタン合金 Ti-6Al-4V のポケットの加工において、ポ
ケット壁面、底面、両者の間のフィレット部の高速仕上げ切削を実現するためのエンドミ
ルの工具形状を検討した。エンドミルの先端形状の候補としてボール(円形)形状、長円
形状、ラジアス形状を想定し、切削温度の抑制、仕上げ面粗さ、コーナでの切削性能、切
削時間の観点から、それらを理論的に考察し、ラジアスエンドミルが高速高精度切削に適
していることを明らかにした。びびり振動を防止し工具の長寿命化を図るため、不等リー
ド切れ刃を採用した工具を開発し、切削速度、切込み深さ、送り速度についての最適化を
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行うことにより、従来にない高いレベルに切削条件を設定することができた。
薄いポケット壁面のびびり振動を抑制するため、エンドミルの外周刃を適切な長さに設
定することにより工具径方向の切削抵抗分力を低減した。これにより、切削能率を落とす
ことなく高速・高能率でのポケット加工が可能なことを示した。試作工具では、切削温度
の上昇が抑えられるため、一つのポケットを加工するだけではほとんど摩耗せず、ポケッ
ト加工の途中での工具交換を想定する必要がない。本実験での切削速度は通常のチタン合
金の切削速度の3~5倍であるが、それでも摩耗が少ないのが特徴である。開発したエン
ドミルに対して、中仕上げ工程を含む適切な工具経路を設定すると、ポケット内面にミス
マッチが全く見られなくなり、手仕上げの不要な高速仕上げ削りを実現した。その結果、
従来の荒削り、仕上げ削り、手仕上げの3工程のうち、手仕上げの工程を無くすことが可
能となり、加工時間の短縮、加工コストの低減(重工メーカの試算では約 30%削減)
、さら
には加工面の高品位化が実現できることを明らかにした。
従来型のチタン合金の切削においては、高能率切削のため工具の大径化と切削液の高圧
化が進められており、工作機械は大量の電力を消費する。これに対し、消費電力を抑えた
環境対応型・低コスト型の高速仕上げ切削加工技術開発のため、切削温度の上昇を抑える
ことができるミスト潤滑(最小量潤滑:MQL)について検討を行い、水溶性切削油剤による
湿式切削と比較検討した。オイルミストと水油混合ミストを使用した切削実験を行い、水
油混合ミストがチタン合金のエンドミルによる仕上げ削りにおいて有効であることを明ら
かにした。
(2)先進アルミ合金の切削加工技術開発
アルミリチウム合金は、熱伝導率がアルミ合金より小さく切削温度が上昇しやすいこと
から、MQL切削での潤滑・冷却の促進に係わる課題を明確化し、工具への異常な切りく
ずの溶着等のトラブルを解消することを目指した。工具を想定した複数の種類の油穴(オ
イルミストの流路)を有する棒を3Dプリンターで作製し、油穴の先端ノズルから噴射さ
れるオイルミストの粒度を測定することにより、ノズル径とオイルミストの粒子径との関
係を明らかにした。数値流体解析を用いて油穴の先端ノズルから噴射される流れを解析し
た。以上の結果に基づいて、新しいタイプの工具ホルダーを試作し、それに所定の工具イ
ンサートを付け検証実験を行った。検証実験ではアルミリチウム合金のポケット加工を行
い、従来型工具と開発工具による切削実験の結果を比較検討した。その結果、開発工具の
方が、びびり振動が発生しにくいことが明らかとなり、開発工具の優位性を確認した。開
発工具では、工作物が逃げ面に凝着しにくいため、摩擦型びびりを抑制できたものと理解
される。
アルミリチウム合金の切削特性に関する情報が、我が国にはほとんどないことから、工
具-被削材熱電対法による工具すくい面温度の測定、赤外線放射温度計(サーモグラフ)に
よる切削点近傍の工具表面温度の測定、ハイスピードカメラによる切りくず生成状態の観
察、切削動力計による切削力の測定等により、MQL切削における切削挙動並びに切削特
性を明らかにした。被削材が工具の逃げ面に凝着することが多いことを確認し、この事実
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から逃げ面摩耗の発達が凝着を促進していることが推察された。これを検証するため、逃
げ面の摩耗を故意に促進させたエンドミルを用いてアルミリチウム合金の切削したところ、
逃げ面に凝着が速やかに始まり、本仮説を支持する結果が得られた。本実験結果は、開発
工具の性能が良好であったことを支持するものであり、今後のMQL切削用エンドミルの
開発の方向性を明らかにした。
(3)炭素繊維複合材の切削加工技術開発
一方向強化炭素繊維複合材の二次元切削実験の結果等において、連続的な切りくず生成
が確認されていることから、金属切削用に開発された切削力、切削温度、工具摩耗の予測
シミュレーションが炭素繊維複合材料の切削にも適用できることを確認した。この事実に
基づき、基本刃形のドリルに対して航空機用炭素繊維複合材の切削力(スラストとトルク)
と切削温度を予測し、切削力の予測値が切削実験で測定されたスラストとトルクとよい一
致を示すことを明らかにした。工具が炭素繊維複合材から抜ける過程においても切削力の
予測値は十分な精度を有することが確認できた。炭素繊維複合材の積層による異方性を考
慮した切削シミュレーションを行い、大きな切削力変動を伴うより実際的な切削状態の解
析が可能であることを確認した。
複雑等リル形状に対応する前段階として、二段先端角ドリルによる切削シミュレーショ
ンを基本的な切削特性の解明のために検討を行った。二段先端角を採用することにより上
部切れ刃の先端角が小さくなるため、ドリルの抜け際での切削力が、剥離を生じにくい方
向に変化することが明らかとなり、ドリル刃形の設計指針が得られた。工具摩耗方程式を
適用し、炭素繊維複合材のドリル切削におけるドリルの摩耗量を予測し、切削力、切削温
度並びに工具摩耗の予測システムを構築した。
炭素繊維複合材の剥離と切削力の力学的な関連付けを行った。穴出口部の剥離状態を観
察し、繊維方向依存性等の炭素繊維複合材の剥離特性を調査した。これにより、切削力と
剥離の生起、規模を関連付けることができた。
研究開発項目④-1「軽量耐熱複合材CMC技術開発(基盤技術開発)
」
実施体制:㈱IHI-再委託
東京大学、東北大学、九州大学、金沢大学、
東京理科大学、JAXA
(1)CMC損傷許容評価技術
CMCの損傷発生及び進展のメカニズムを明らかにした。
平成23年度に選定した損傷パラメータの候補の有効性を検討後、損傷パラメータを取
得する検査手法を選定した。
平成23年度に平板形状の材料試験結果において合わせこみを行った解析手法にて、部
品形状を想定した要素試験結果の解析・評価を行った。
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(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVIによる反応条件の最適化
平成23年度に構築した実験炉を用いて反応実験を行い、原料ガス、反応温度及び圧力
がマトリクス形成量に与える影響を把握し、気相反応及び表面反応の寄与等を明らかに
した。CVIプロセスにおける主たる反応を特定して、シミュレーションに必要な反応
定数を求めた。
副生成物の発生抑制方法については平成23年度に引き続き検討を行い、副生成物を安
(b)CVIシミュレーション技術
(a)の検討にて明らかになった主たるSiCマトリクス形成反応を考慮した化学反応
速度モデル(原料ガス分解及び表面析出反応)及びガス流体モデル双方を用いたCVI
のシミュレーションのモデルを構築した。(a)の反応実験より得られた定数を用いて
シミュレーションを行い、含浸状態について反応実験の結果と比較・評価を行った。
(3)コーティング技術開発
コーティングを施工したCMCの高温長時間の曝露試験及び熱サイクル試験を実施し、
平成23年度に選定したコーティング候補の評価・改良を行った。コーティングを行う
CMC基盤表面の改質を行った。
実機環境で課題となるサンドエロージョンに対し、試験を行うための装置を準備した。
エロージョン量を予測可能とするため、シミュレーションモデルの構築に着手した。
4.3 平成25年度委託事業内容(経済産業省直執行)
研究開発項目①「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発」
実施体制:素形材センター-再委託
東京大学、京都大学、熊本大学、東北大学、
金沢工業大学、大阪大学、JAXA、AIST
(1)複合材構造部材
(a)広域分布歪み計測による航空機構造健全性診断技術の開発
モニタリングシステム・センサ部の耐圧性、可燃性及び耐静荷重性を評価し、十分な耐
久性を有することを実証した。モニタリングシステムのデバイス部については、耐久性
向上のため、振動/衝撃下における計測性能低下原因を特定し、その改善方法を策定した。
航空機搭載モニタリングシステムの試作では、コスト効果評価結果からモニタリングシ
ステムの適用ターゲットを航空機の胴体及び主翼構造と設定し、その適用ターゲットに
おける適用構想において必要なシステム仕様を設定した。
モニタリングシステムの設計、製造の妥当性評価方法について、外部有識者によるレビ
ューを通して、実用化への認証プロセスを設定するため、認証プランにおける適合性証
明リストを作成した。
13
(b)光ファイバセンサによる航空機構造衝撃損傷検知システム実用化技術の開発
光ファイバセンサによる衝撃損傷検知システムの実機適用を目標に、信頼性/耐久性向上
方法の検討の他、衝撃損傷検知システムの高性能化に向けた技術検討を実施した。
信頼性/耐久性向上方法の検討として、適用構想を検討し、システムの信頼性/耐久性要
求を明確にした。検知信頼性向上のために、衝撃損傷付与試験を通じて衝撃損傷検知の
アルゴリズムを再評価することで信頼性向上の目処を得た。さらに、実用化の課題の一
つである認証計画について米国連邦航空局(FAA)の認定代理人であるDERと協議を進
めた。
実機適用に向けたシステム高性能化として、光ファイバセンサ計測装置の構成要素に対
する環境耐久性評価試験を実施し、対応策を検討することで、装置高性能化のための開
発計画を策定した。同様にシステムを構成する光ファイバ、コネクタ類について、航空
機への光ファイバ適用が拡大していることを受け、航空機搭載実績又は見込みのある仕
様・規格・製品について調査した。
(c)ラム波を用いた航空機接着構造健全性診断技術の開発
超音波ラム波で比較的広い範囲の接着剥がれ検知を行うための課題抽出、航空機へ搭載
されるFBG光ファイバセンサ等の耐環境性の評価及び当該システムの認証取得に向け
た開発を進めた。
広域検知について、超音波ラム波の新たな解析手法を提示し、評価試験にてその成立性
を確認するとともに、センサ/アクチュエータの最適配置の検討が必須であることを確認
した。
多軸振動非接触自動計測システム(MaVES)による可視化や数値解析(ComWAVE)により、
広範囲におけるラム波の挙動を明確にした。
FBG光ファイバセンサ等の除氷液浸漬試験と塩水噴霧試験を行い、両環境に対して、
FBG光ファイバセンサ等が十分な耐久性を有することを確認した。
航空機構造健全性診断(SHM:Structural Health Monitoring)システムの認証取得向け
た準備作業の第一ステップとして、米国レギュレーションを参考にチェックリストを作
成した。
(d)熱可塑複合材製造プロセスモニタリング技術開発
(ア)熱可塑複合材の低コスト、高レート製造技術開発
従来の熱硬化プリプレグと同等の繊維体積含有率、板厚を達成可能なPPS、PEEK、
PEKKをマトリックス樹脂とする熱可塑プリプレグの試作を行った。
プレス成形条件を模擬した状況での粘弾性、発熱挙動、熱分解挙動から、基本的な成形
条件を設定した。成形試験の結果、熱可塑複合材の成形では、硬化発熱がないことから
昇温速度の制約が少なく、熱硬化複合材より成形条件の自由度が高いことが検証できた。
機械的特性は、圧縮強度、せん断強度、引張強度を評価し、熱硬化複合材と同等レベル
であることを検証した。
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(イ)熱可塑複合材の融着、接合による部材一体化技術開発
数種類の条件による接合の検討、目途付けを行った。超音波接合では、熱硬化複合材の
フィルム接着剤による接着強度と同等レベルの強度を発揮した。
(ウ)製造プロセスモニタリング技術開発
熱可塑性複合材の製造プロセスモニタリング技術開発にあたり、熱硬化性複合材につい
て、硬化収縮の後半部分において解析値と実験値は良い一致を示し、提案する手法の妥
当性が確認できた。
(e)光ファイバセンサによる航空機構造の成形モニタリング技術の開発
成形モニタリング手法としては、複合材の成形温度・圧力に耐え、成形性・強度に与え
る影響が小さい光ファイバセンサを用いた計測技術を検討し、試作試験を通じて評価を
行った。基礎となる複合材平板6体に加え、航空機部品形状を模擬した2体の供試体を
用いて成形モニタリング試験を実施し、複合材成形時の計測技術の目処が得られた。
発泡コア・サンドイッチ構造としては、亀裂進展抑制の役割を担うクラックアレスタに
光ファイバセンサを埋め込む構想を設定した。クラックアレスタ部における亀裂進展解
析及び熱応力解析を実施し、亀裂進展検知と成形モニタリングの双方に適した光ファイ
バセンサ配置を検討した。
低圧成形プロセスとしては、低圧成形用複合材料を用いて小型平板供試体を試作し、オ
ートクレーブ成形品と同等の品質・強度が得られる成形プロセスを検討した。また、試
作品の成形品質評価並びに強度試験によって、品質と強度を確認することができた。
(f)高生産性・易賦形複合材の開発
易賦形を実現しながら連続繊維プリプレグと比較して弾性率同等、強度80%保持可能
なUACSコンセプトを確立するため、UACSの切込パターンを最適化することによ
り、モデル材料(T700S/2500プリプレグ)ベースではあるが、積層時の取り扱い性に優
れ、強度発現率が高く、大きく伸張成形しても切込部が開口しない高表面品位の材料設
計を見出した。高効率にプリプレグに切込を挿入するUACS製造装置を設計、製作し
た。平板状の積層体を三次元形状に賦形する際に賦形性に支配的に関わるプリプレグ特
性を見出し、それらの特性の試験法を提案するとともに、その試験法に基づくプリプレ
グ特性の評価装置を設計、製作した。部材の成形過程における状態を予測し、安定的に
制御可能とするため、賦形シミュレーション技術の開発をスタートさせた。有限要素法
を用いた精度と計算コストを両立するモデル化案について調査を行うとともに、粒子法
を用いてUACSのミクロな流動を表現可能なアルゴリズムを開発した。
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(2)軽金属構造部材
(a)チタン合金接合技術の航空機への適用研究
(ア)接合技術
高品質接合法(FSW)を大型部品へ適用する接合技術開発のため、厚板チタン材の接合が
可能となる接合装置仕様を検討・設計し、既存装置を改造し、厚板の接合が可能である
ことを確認した。
接合組織と機械的特性の相関解明のため、FSW接合部のラメラ組織(針状組織)及び
等軸組織の組織制御をする手法を確立し、それらの組織と引張強度、硬度等の機械的特
性の関係を明確にした。
材質評価のため、FSW接合部の構成相であるα相及びβ相のサイズ、優先結晶方位、
元素分布等の観点から微細組織を解析し、接合プロセスが接合材の引張特性や疲労特性
等の力学的特性に及ぼす影響を金属学的に考察することで実用化の指針を得た。
(イ)接合欠陥の検出技術及び品質保証技術
微小欠陥の検出技術及び検査の自動化技術の開発として、金属構造物の検査に多用され
てきた共振周波数2~10MHzの超音波探触子を用いたレーザ励起超音波可視化探傷技
術をレーザ溶接部、FSW溶接部の微小欠陥検出に適用し、検出能を評価した。それら
の結果を基にして、欠陥を短時間で効率的に検出するための最適な検査条件を検討した。
微小欠陥検出による品質保証技術の開発として、検査用溶接・接合サンプルを製作し、
内部欠陥の発生状況を断面観察等で確認し既存非破壊検査方法や本開発検査方法での欠
陥検出状況を評価した。
(b)チタン合金粉末焼結技術の航空機への適用研究
シミュレーションを用いて複雑形状の圧粉体の変形を予測する技術を開発し、複雑形状
の圧粉体を安定して成形できる条件を明確にした。実機の部品を模擬した焼結体を試作
し、内部品質の均一性を評価した結果、単純形状の焼結体との同等の品質を持つことを
確認した。開発材の分極抵抗は溶製材と同等であり、耐食性に問題が無いことを確認し
た。航空機用材料ハンドブックへの記載に必要となる高温強度特性を評価した。
(c)マグネシウム合金の開発と航空機への適用研究
(ア)航空宇宙機構造用 KUMADAI マグネシウム合金(押出形材)開発
(急冷凝固 KUMADAI マグネシウム合金)
航空宇宙機構造に必要な大きさと特性が得られるマグネシウム合金大型製造プロセス
(押出条件、熱処理等)を開発した。
クーポンレベルにて材料特性(静強度、耐食性等)の評価を行い、材料特性における課題
を明確にした。
開発合金に適した成形加工、表面処理、組立プロセスを検討した。
材料特性評価結果に基づき、製造可能な材料特性及び接合方法を考慮した押出形材の断
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面形状案を設計した。
(溶解鋳造 KUMADAI マグネシウム合金)
材料特性(静強度、耐食性等)の評価を行い、材料特性における課題を明確にした。
合金組成の最適化を行い、強度について目標を達成した。
材料特性及び接合方法を考慮した押出形材の断面形状案を設計した。
(イ)航空機構造用マグネシウム-リチウム合金(シート材)開発
既存マグネシウムリチウム合金の材料特性(静強度、耐食性等)を評価することにより、
課題を明確にした。
目標強度を達成するために合金組成の最適化を行い、材料を評価した。
マグネシウムリチウム合金に既存マグネシウム合金用の表面処理を施し、耐食性の評価
を行った。
(3)総合調査研究
(a)SHM実用化検討
(ア)エアバスとの協同研究
複合材料構造健全性診断技術に関しては、エアバスとのミーティングを通じて、課題の
抽出、今後の戦略、開発方向をまとめてプロジェクトの開発作業にフィードバックした。
(イ)運行技術調査
運航メーカに対するヒアリング調査を行い、SHM適用ニーズの洗い出しを行った。
エアラインよりエンジン関係のヘルスモニタリングの現状調査を行い、複合材構造健全
性診断技術開発の一助とした。
現在の航空機整備要目の設定、改定が成されて行く仕組みを理解し、共有するため
MRB(Maintenance Review Board)から航空機整備作業(定例整備)へ展開されるまでの
整備要目設定のフローについて、国土交通省より情報を入手した。
(ウ)FAA 承認取得方法調査
開発したシステムを機体へ搭載するための準備を進めた。
FAA DERより構造健全性診断技術承認取得方法を米国において調査実施。
適合性チェックリストを作成し、FAA DERにレビューを依頼。
(b)世界の技術動向調査
複合材構造及び軽金属構造に関し、JCE、SAMPE、SPIE、TITANIUM2013、TMS2014を調査し
てプロジェクトの技術レベルを確認し、入手情報をプロジェクトへフィードバックした。
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(c)技術委員会
総合技術委員会を開催して、外部有識者及び専門家から研究の方向性、成果に関する意
見を聴取する等、研究の進め方を審議した。技術委員会を開催して、実行計画、進捗、
成果の横通しを図った。
研究開発項目②「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発」
実施体制:川崎重工業㈱
航空機複雑形状複合材部材に対する複合材料の自動積層装置・技術の適用動向や特許調査
を行うとともに、開発する装置の概念仕様を検討・設定した。装置の主要構成要素を試作し、
動作試験を行って、機能確認・評価を実施した。
研究開発項目③「航空機用難削材高速切削加工技術開発」
実施体制:東京大学-再委託
東京電機大学、東京農工大学、東北大学、
新潟県工業技術総合研究所
(1)チタン合金の切削加工技術開発
航空機の機体部品に多用されるチタン合金製ポケット形状の仕上げ加工において、手仕
上げが不要な技術の開発とそれによる大幅な加工時間の短縮を実現するため、仕上げ加工
のための工具形状と切削条件を検討した。切削加工試験において、水油混合ミストよりも
冷却・潤滑に優れるOOWのミストを使用した。加工試験の結果、課題であったエンドミ
ルの底刃に生じる切り屑詰まりを解消し、より長い工具寿命を達成した。これと同時に、
4枚の底刃の間の溝を拡大し、さらなる高送りに対応できるラジアスエンドミルを新たに
開発した。仕上げ加工に要する時間も短縮させることが可能となった。仕上げ面粗さも良
好であることから、航空機部品の要求仕様を十分に満たす仕上げ加工技術を実現すること
が明らかになった。
(2)先進アルミ合金の切削加工技術開発
正面フライス切削では、熱電対による温度測定の結果より、切削時のアルミリチウム合
金の温度上昇が非常に高いことが確認された。アルミリチウム合金は熱伝導率がアルミ合
金より小さく、切削温度が上がりやすいためであるが、工具逃げ面にアルミリチウム合金
が激しく凝着する場合、非常に高い切削温度が誘発され、仕上げ面にも工作物の激しい凝
着がみられることも明らかになった。
切削加工後の被削材の曲がりや歪みの影響を定量的に予測するため、二次元切削状態の
有限要素解析を行い、仕上げ面残留応力を詳細に解析した。アルミリチウム合金とアルミ
合金の構成方程式(Johnson-Cook の式)は、切削実験データを利用し逆解析により求めて
いる。実測結果との比較より、アルミリチウム合金の切削における仕上げ面残留応力のレ
ベルが解析的に予測できることを明らかにした。
アルミ合金についても、びびりを抑制した手仕上げ不要のポケット切削加工技術を開発
した。開発した加工法はチタン合金における手仕上げ不要の切削と大きく異なる。実験で
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は、ポケットの深さ50mm、壁部の板厚3mm の薄肉ポケットの仕上げ加工において、手仕
上げ不要の加工が可能となることを示した。主軸回転速度は、再生びびりの安定ポケット
理論に基づいた高速値であり、本切削加工技術により、航空機部品の仕上げ加工工程を大
幅に効率化できるものと考えられる。
(3)炭素繊維複合材の切削加工技術開発
炭素繊維強化プラスチックの穴加工を対象とし、工具摩耗の増大する切削過程を解析し、
層間剥離の時系列的な予測シミュレーションを実施した。また炭素繊維強化プラスチック
とチタン合金のスタック材に対して、ドリル切削シミュレーションの妥当性を明らかにし
た。この成果により、ドリルの摩耗予測とこれに伴うスラストの変化の予測が可能となり、
これまでの実験的な層間剥離の評価を解析ベースで検討できるようになった。切削条件の
設定が難しいスタック材に対し、ドリル切削のシミュレーションに基づいて工具形状や切
削条件が検討可能になった。
(4)チタン合金の熱間ストレッチ成形技術開発
航空機用難削材である Ti-6Al-4V 合金を対象とし、残留応力を最小化できる塑性加工プ
ロセス条件を探査するため、熱間成形プロセス条件(成形温度、金型の形、曲率、加熱ツ
ール、冷却速度と冷却速度の分布、保持時間等)と残留応力との関連を、スモールスケー
ル物理シミュレーションによる巨視的観察及び結晶構造の微視的観察により定量的に明ら
かにした。実用的な加工温度は700℃程度であるが、750℃より高温になれば残留応
力は急激に低下し、V曲げ試験におけるスプリングバック量は非常に小さくなった。
研究開発項目④-1「軽量耐熱複合材CMC技術開発(基盤技術開発)」
実施体制:㈱IHI-再委託
東京大学、東北大学、九州大学、金沢大学、
東京理科大学、室蘭工業大学、JAXA
(1)CMC損傷許容評価技術開発
CMCに求められる主要な特性である引張、疲労、クリープの材料データを取得し、平
成24年度までに選定した損傷パラメータと特性変化、非破壊検査結果の関係を取得し
た。疲労試験における損傷の破壊メカニズムを解明した。
CMC部品形状を想定した要素試験片の強度試験を行い、要素形状での損傷パラメータ
の有効性を確認した。平成24年度までに合わせこんだ解析手法にて、部品形状を想定
した要素試験片の試験結果と比較・評価を行い、解析手法の課題を抽出した。
(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVI反応条件の最適化
平成24年度までの簡易な試験片(通常のシリコン基板)による知見を基に、更に含浸
が困難なCMCの織物を想定した試験片での反応実験を行い、実際の織物へCVIを適
用する場合の反応条件最適化の方針を設定した。
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副生成物の発生抑制方法については、副生成物を形成、処理できる実験炉を構築した。
副生成物を安定に分解する手法に目処を得た。
(b)CVIシミュレーション技術開発
平成24年度までに作製したCVIシミュレーションモデルの含浸率予測精度を改善し、
織物表面・内部での含浸率のムラをCVI実験の結果と比較・評価した。サイズのCV
I炉で、多数の部品を同時にCVIする場合のシミュレーションの課題を明らかにした。
(3)コーティング技術開発
実機環境で課題となるサンドエロージョンに対し、コーティング候補材及び表面改良C
MCを供した高温エロージョン試験を行い、エロージョンシミュレーションに用いるデ
ータを取得するとともに、平成24年度に整備した高温・高速エロージョン試験による
コーティングの評価を開始した。エロージョン量の予測結果と試験結果の比較を行い、
シミュレーションモデル構築の目処を得た。
4.4 平成26年度委託事業内容(経済産業省直執行)
研究開発項目①「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発」
実施体制:素形材センター-再委託
東京大学、京都大学、熊本大学、東北大学、
金沢工業大学、大阪大学、秋田大学、JAXA、AIST
(1)複合材構造部材
(a)広域分布歪み計測による航空機構造健全性診断技術の開発
モニタリングシステム・センサ部の温度変動や高度圧等の実運用環境下において、十分
な計測信頼性・耐久性を有することを確認した。デバイス部は実際の航空機運用環境条
下においても、地上と同等の計測信頼性及び精度を実現する目処を得た。
航空機の実運用環境において、計測信頼性を確保できる航空機搭載モニタリングシステ
ムを試作した。
モニタリングシステムの設計・製造の妥当性認定計画を、外部有識者のレビューを通し
て受け策定した。
(b)光ファイバセンサによる航空機構造衝撃損傷検知システム実用化技術の開発
本システムの実機適用に必要な信頼性/耐久性の評価として、実運用で想定される様々な
物体の衝突応答を試験及び解析で求め、衝撃損傷検知の目途を得た。エアバスとの協同
研究の枠組みを活用し、実機の複合材胴体構造の疲労試験を用いて本システムの実証試
験を開始した。耐久性の評価として、5種類の環境試験及び2種類の疲労試験を実施し、
平成24年度までに完了した分と合わせ、エアバスと合意した全耐久性試験項目を完了
した。
衝撃損傷検知システムの高性能化として、航空機搭載を想定した小型・堅牢で電磁適合
性も考慮した試作機を製造した。試作機に対して電磁環境を含む環境適合性の評価を実
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施した。
(c)ラム波を用いた航空機接着構造健全性診断技術の開発
複合材接着修理部の剥がれ検知において、要素試験、多軸振動非接触自動計測システム
(MaVES)による可視化、及び数値解析(ComWAVE)による検証を行い、設定した
FBG光ファイバセンサ、PZTアクチュエータの配置において、接着剥がれの進展が
検知可能なことを確認した。
FBGセンサ等のトイレ溶剤や有機溶剤等の耐環境試験を実施して、FBG光ファイバ
センサ等が十分な耐久性を有することを確認した。
SHMシステムの認証取得向けた準備作業の一環として、認証プランの作成を行い、有
資格者(米国DER)の評価を受けた。
(d)熱可塑複合材製造プロセスモニタリング技術開発
(ア)熱可塑複合材の低コスト、高レート製造技術開発
連続繊維熱可塑プリプレグのハイサイクル性を活かし、部品自動成形を念頭に置きつつ
一次構造部材形状にも適用可能な賦形・成形技術の適正化を図った。
クーポンレベルの供試体での熱可塑複合材の成形条件に伴う結晶化度等の評価を行い、
強度特性、成形品質との関係を把握した。
構造要素形状での賦形・成形条件の設定を行った。
(イ)熱可塑複合材の融着、接合による部材一体化技術開発
接合条件と強度特性、接着品質との関係を把握し、接合条件の適正化を行った。
要素形状への接合手法の適用についての課題の抽出を行った。
(ウ)製造プロセスモニタリング技術開発
複合材製造及び接合時の温度、圧力、物性変化のモニタリング試行を行い、モニタリン
グ手法、条件の適正化及び課題の抽出を行った。
(e)光ファイバセンサによる航空機構造の成形モニタリング技術の開発
平成25年度に開発した個々の要素技術を組合せて構造要素レベルの試作・試験評価を
実施し、成形モニタリングの基盤技術を開発した。
航空機構造成形モニタリング技術の開発として、複合材積層内部圧力の計測方法を、調
査、試作、試験評価等を通じて設定した。これにより複合材構造の製造時不具合の主因
である圧力不足を計測する目途が得られた。
サンドイッチ構造の成形・亀裂・衝撃損傷モニタリング技術の開発として、55体の発
泡コア・サンドイッチ供試体を製造し、成形モニタリング試験、亀裂検知試験、衝撃損
傷検知試験、耐久性試験を実施した。成形モニタリング試験と衝撃損傷検知試験は、光
ファイバセンサを埋め込んだ1体の大型供試体を用いて、成形・運用の双方のモニタリ
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ングが可能であることを示した。耐久性試験では、光ファイバを埋め込むことによるサ
ンドイッチ構造の疲労強度低下及び光ファイバセンサへの疲労荷重の影響の双方を確認
した。
光ファイバセンサを活用した低圧成形プロセスの開発として、平成25年度に確立した
小型平板の成形プロセスを改良し、構造要素の成形に適した成形条件を構築した。光フ
ァイバセンサを埋め込んだ供試体の成形試験によって、他の手段では難しい複合材構造
内部の温度計測が可能なことを実証した。
(f)高生産性・易賦形複合材の開発
平成25年度コンセプトを実証したUACSについて、適正化された切込パターンを航
空機一次構造材料用T800S/3900-2Bプリプレグに適用し、力学特性及び流動性のデータベ
ース取得を行い、構造・プロセス設計用データを得た。これを元に技術適用可能な部材
の選定、絞込みを行った。前年度見出した、平板状の積層体を三次元形状に賦形する際
に賦形性に支配的に関わるプリプレグ特性及び提案したそれらの試験法を元に、測定装
置を導入し、データベース取得を行った。これらプリプレグ特性を反映可能であり、低
計算コストを志向した有限要素法による賦形シミュレーション手法が要素形状の賦形試
験結果を模擬することを確認した。UACSのミクロな流動性を粒子法及び重合メッシ
ュ法によりモデル化した。
(2)軽金属構造部材
(a)チタン合金接合技術の航空機への適用研究
(ア)接合技術
FSWを大型部品へ適用する接合技術開発のため、薄板接合に対しては接合パラメータ
を最適化すると共に、強度試験等を実施することにより、基礎的な継手特性を確認した。
厚板接合に対しては接合条件と継手品質との関係を明らかにした。
接合組織と機械的特性の相関解明のため、厚板(5mm程度)のFSW接合を行い、接合条
件の最適化を試みた。得られた継手の組織評価を行った。
材質評価のため、FSWを施したTi-6Al-4V合金接合材の微細組織及び疲労特性を調査し、
平成25年度にTi-531C合金を用いて得られた結果と比較することにより、FSW接合の
合金種依存性を検討した。
(イ)接合欠陥の検出技術及び品質保証技術
平成25年度に開発した計測システムの改良を行うと同時に、溶接部欠陥エコーを明確
化する画像処理技術の開発を行うことで欠陥検出能の向上を図り、種々の欠陥サイズ及
び欠陥位置を有する供試体を用いて欠陥検出能の検証を行った。
微小欠陥検出による品質保証技術の開発のため、検査用溶接・接合サンプルに対して、上
記で開発した技術を用いて超音波探傷検査を行い、欠陥検出能が向上したことを断面観察
等により検証した。
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(b)チタン合金粉末焼結技術の航空機への適用研究
実機の運用の際に焼結によって製造した部品に問題が発生しないことを実証するため、
運用中の環境を模擬した試験を計画、実施した。適用される実機に近い表面処理を施し
た焼結体の耐食性を、材料の分極特性から評価した。航空機用材料ハンドブックの記載
に必要とされる各種物理特性(線膨張係数、熱伝導率等)を取得した。部品の強度計算
作業に必要となる切欠き疲労特性、破壊靭性値、疲労亀裂伝播特性を取得する。材料の
品質を保証するために必要な管理基準値を設定するため、合金成分、冷間プレス圧力、
焼結条件等の製造条件が最終的な焼結体の品質に与える影響を調査した。
(c)マグネシウム合金の開発と航空機への適用研究
(ア)航空宇宙機構造用 KUMADAI マグネシウム合金(押出形材)開発
(急冷凝固 KUMADAI マグネシウム合金)
前年度の結果を参考に量産製造に向けた合金組成等のチューニングを行った。
航空宇宙機構造用急冷凝固KUMADAIマグネシウム合金の製造プロセス開発について、押出
比、押出温度、ラム速度が動的強度に及ぼす影響を調査し、目標達成の為の押出固化成
形条件の更なる最適化を図った。製造プロセスライン案の設定を行うとともに、製造プ
ロセス模擬条件での素材の試作を行った。
平成25年度の材料特性評価結果を踏まえ、航空機部品として使用するために必要な材
料特性の評価を行った。
加工・組立プロセスの評価試験を実施した。
材強度、剛性の評価結果に基づき、押出形材断面形状の最適化を行うとともに、最適形
状での特性評価を行った。
(溶解鋳造 KUMADAI マグネシウム合金)
目標の強度特性と耐食性を兼ね備える合金に組成改良を行った。
開発合金に対し、航空機部品として使用するために必要な材料特性の評価を行った。
加工・組立プロセスの評価試験を実施した。
降伏応力402Mpa、発火温度975℃の合金を開発した。
他特性から急冷凝固KUMADAI マグネシウム合金に注力を判断。今年度で、評価を終了と
した。
(イ)航空機構造用マグネシウム-リチウム合金(シート材)開発
目標の強度と耐食性、発火特性を兼ね備える合金に組成改良を行った。
改良合金に対し、航空機部品として使用するために必要な材料特性の評価を行った。
マグネシウムリチウム合金と急冷凝固KUMADAIマグネシウム合金の低コスト接合技術検
討として摩擦撹拌接合の接合条件の検討を行った。
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(3)総合調査研究
(a)SHM実用化検討
(ア)エアバスとの協同研究
平成25年度と同様に、ミーティングを通じて得た情報を開発作業にフィードバックし
た。
(イ)運行技術調査
運航メーカに対するヒアリング調査を行い、SHM適用ニーズの洗い出しを行った。
SHMの実用化に関し、問題点等課題を整理するため国内エアラインより意見を聴取し
た。その結果SHM信頼性、適用箇所、接合等の実装における課題が明らかとなった。
(ウ)FAA承認取得方法調査
開発したシステムを機体へ搭載するための準備を進めた。
構造健全性診断技術の調査を実施した。
作成した適合性チェックリストのレビューをFAA DERより受けた。
(b)世界の技術動向調査
複合材構造及び軽金属構造に関し、AeroMat2014、EWSHM、AISC-SHMを調査してプロジェ
クトの技術レベルを確認し、入手情報をプロジェクトへフィードバックした。
(c)技術委員会
総合技術委員会を開催して、外部有識者及び専門家から研究の方向性、成果に関する意
見を聴取する等、研究の進め方を審議した。技術委員会を開催して、実行計画、進捗、
成果の横通しを図った。
研究開発項目②「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発」
実施体制:川崎重工業㈱
航空機複雑形状複合材部材に対する複合材料の自動積層装置・技術の適用動向や特許調査
を継続して行うとともに、開発する装置の仕様を検討・設定した。装置の主要構成要素を試
作し、それら構成要素を組み合わせて動作確認を行い、機能確認・評価を実施した。装置試
作品の設計を行うとともに、装置試作品で製作する試作部材の仕様を検討した。
研究開発項目③「航空機用難削材高速切削加工技術開発」
実施体制:東京大学-再委託
東京電機大学、東京農工大学、東北大学、
新潟県工業技術総合研究所
(1)チタン合金の切削加工技術開発
航空機部品の加工は、典型的な多種少量生産であるため、部品の生産量の割には非常に
多くの加工用NCプログラムの作成が必要になる。そこで、複雑な中仕上げの工程を、非
24
常に簡単なプランジ切削に置き換え、工具経路の単純化を図った。またラジアスエンドミ
ルの刃長を最適化し、壁面加工の時間短縮を検討した。その結果、平成25年度比で、加
工時間を約1/3に短縮した。プランジカットにより、コーナ加工時のピーク動力の大幅な
低減と加工動力の平準化、加工精度の大幅な改善が実現されることを明らかにした。特注
の工具を含む複数の工具により、切削性能の更なる向上と加工時間の短縮を検討した。
(2)先進アルミ合金の切削加工技術開発
有限体積法と分布を有する移動熱源の組み合わせにより、正面フライス切削における工
作物内の温度分布の予測システムを開発し、予測結果を熱電対による工作物温度の測定結
果と比較検討した。世界で初めての解析結果であり、他の情報と組み合わせることにより
切削現象の解明、切削残留応力の予測、アルミリチウム合金の工具への凝着防止、クーラ
ントによる工作物の冷却並びに残留応力への影響等を検討する際に利用可能であることが
明らかになった。
仕上げ面の残留応力並びに工作物の変形と歪みを詳細に予測するため、アルミリチウム
合金並びにアルミ合金の二次元切削過程を有限要素法により解析した。より精度の高い解
析を行うため、アルミリチウム合金の熱物性値の温度依存性を実測し使用している。工具
の切れ刃丸みやすくい角、切削速度が仕上げ面残留応力に及ぼす影響を解析で求めている
が、実測値とよく対応した結果が得られた。
切削残留応力による工作物の変形については、実測値から工作物の寸法の3乗に比例す
ることが示された。理論的には寸法の4乗に比例するので、違いを生ずる要因について検
討した。これらの結果より、残留応力に及ぼす寸法効果の影響は極めて大きいことが分か
るが、同時に板の断面曲線が分かるので、形状の矯正における参考曲線として使用するこ
とができる。圧延材の残留応力分布の実測値と組み合わせ、加工した工作物(板材)の変
形を簡便に予測する方法について検討した。
(3)炭素繊維複合材の切削加工技術開発
チタン合金/炭素繊維複合材/チタン合金からなる3層のスタック材のドリル加工の工程
設計と工具形状の決定を行った。穴径はボーイング787における最大級の寸法である。
標準的な直径のドリルを使用し、2回あるいは3回で穴あけを終了する工程を検討した。
ドリルはこれまでと同様に2段切れ刃とし、出口のバリ抑制と下層のチタン合金の穴あけ
時にチタンの切りくずが炭素繊維複合材の穴内面を傷つけないように理論的に考察し、2
段切れ刃の二つの先端角を決定した。3層の加工時の切削力(スラストとトルク)
、切削温
度、切りくず流出方向を解析的に求め、切削力については実測値と比較検討し、大口径の
ドリル加工における工具選択のストラテジーを確立した。
(4)チタン合金の熱間ストレッチ成形技術開発
通常のチタン合金の V 曲げ試験でスプリングバックが問題となる750℃以下の温度に
おいて、引張変形を伴う高ひずみ速度の V 曲げ試験をホットストレッチフォーミングとし
25
て実施し、主としてEBSD (Electron Back Scatter Diffraction Patterns)解析によ
り集合組織に及ぼす加工条件の影響を定性的に検討した。その結果、曲げ変形域における
結晶組織が、引張変形を付与することによって、よりランダムになり、集合組織が減少す
ることを明らかにした。この結果より、ホットストレッチフォーミングでは塑性加工によ
る異方性の増大が抑制され、残留応力の低減が期待されることが分かった。以上の知見に
基づき、EBSDのパターンに及ぼす板厚、引張変形(応力)及び温度の影響について検
討した。引張変形を伴う V 曲げ試験でのスプリングバック量、EBSDと加工条件の関係
を明らかにし、700℃前後の実用温度領域に適用できる加工条件を探索した。
(5)切削ロボットシステムによる柔軟性の高い切削加工技術開発
高精度な変位センサを組み込んだスピンドル一体型の加工計測システムを開発し、柔軟
性の高いアルミ合金切削用の高精度切削ロボットシステムを実現した。ロボットの可搬重
量は切削力の10倍以上の300kg であり、最大40、000回転/分の高速主軸端にエン
ドミルを取り付け、非常に薄い切りくずを排出するように設定し、ロボット切削システム
としては安定した切削状態を実現した。エアブローによる切削点の冷却や切削点からの切
りくず排除も除去を可能とした。ロボットの姿勢と切削合力の方向に関し、加工精度の観
点から、望ましい工具姿勢について検討した。エンドミルの刃形や切削条件が切削性能に
及ぼす影響を評価して加工条件の最適化を行い、機体構造用のアルミ合金板材の浅いポケ
ット加工に適用した。
研究開発項目④-1「軽量耐熱複合材CMC技術開発(基盤技術開発)」
実施体制:㈱IHI-再委託
東京大学、東北大学、九州大学、東京理科大学、
室蘭工業大学、JAXA
(1)CMC損傷許容評価技術開発
CMCに求められる主要な特性として、引張、疲労、クリープの材料データを取得中。
これをもとに、損傷パラメータと強度、非破壊検査結果の関係の把握、高温疲労試験に
おける損傷の破壊メカニズムの解析等を実施している。
平成25年度までに合わせこんだ解析手法の改良を実施中。解析結果と高温疲労試験結
果の比較・評価を行い、主な解析手法の課題解決に目途を得る。
(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVIによる反応条件の最適化
簡易な試験片(通常のシリコン基板)及び高アスペクト比トレンチでの反応実験による
知見を基にCVI反応条件の最適値を設定し、工業的なサイズのCVI炉での検証実験
を行った。反応メカニズム解析の精度向上のための織物を用いたCVI実験を実施。
副生成物の発生抑制方法については、副生成物が安定に分解できることを実証するため
の副生成物処理炉による実験を検討。
26
(b)CVIシミュレーション技術開発
織物含浸の予測精度を適用可能なレベルとし、工業的なサイズの炉におけるCVIシミ
ュレーションの主要な課題を解決するために、平成25年度までに作成したCVIシミ
ュレーションモデルを改良。
(3)コーティング技術開発
簡易試験片を用いたスクリーニング試験を実施し、コーティング材や表面改良CMCの
候補を選定した。これらについて高温でのエロージョン試験を実施し、シミュレーショ
ンに用いるデータを蓄積するとともに、シミュレーションモデルの結果との比較を行っ
ている。
4.5 平成27年度委託事業内容
プロジェクトマネージャーに NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 伊藤 浩久を任命し
て、プロジェクトの進行全体を企画・管理し、そのプロジェクトに求められる技術的成果及
び政策的効果を最大化させた。
東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 青木
隆平教授をプロジェクトリーダー
とし、以下の研究開発を実施した。
研究開発項目①「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発」
実施体制:素形材センター、三菱重工業㈱、川崎重工業㈱、富士重工業㈱、東レ㈱、
横河電機㈱、アンリツ㈱、㈱槌屋-再委託 東京大学、京都大学、
熊本大学、東北大学、金沢工業大学、大阪大学、秋田大学、東京理科大学、
JAXA、AIST
(1)複合材構造部材
(a)広域分布歪み計測による航空機構造健全性診断技術の開発
広域分布歪み計測によるモニタリングシステムの信頼性及び耐久性が航空機への適用が
可能なレベルにあることを実証した。実大構造試験において従来計測不可能であった分
布歪みを計測し基礎実験と同等レベルで計測できることを実証した。また、航空機運用
に必要な認証システムに合致した認証プロセスを設定し、設計及び製造プロセスへ反映
する手順を確認した。
(b)光ファイバセンサによる航空機構造衝撃損傷検知システム実用化技術の開発
複合材構造の構造健全性診断の一つである光ファイバセンサによる衝撃損傷検知システ
ムについて、実飛行環境化でも衝撃損傷検知が可能となる検知方法を開発した。この検
知方法の実証として、エアバスと共同で、実際の航空機構造を用いた実証試験を通じて、
十分な信頼性/耐久性で衝撃損傷検知が可能であることを確認した。
衝撃損傷検知システムの航空機搭載型システムの試作・評価を行った。システムを構成
する計測線は、前述のエアバス実証試験を通じて信頼性・耐久性を評価した。計測装置
27
は、筐体及び内部機器を設計変更し、試作品の評価を通じて温度特性、衝撃特性、電磁
環境特性が改善したことを確認した。また、計測ソフトも見直し、実際の航空機構造の
衝撃損傷検知に適した仕様に改良した。
(c)ラム波を用いた航空機接着構造健全性診断技術の開発
接着剥がれ検知技術について、環境温度の変化を考慮した部分構造試験を行い、温度変
化がある環境下でも、検知精度が低下することなく、十分な信頼性を持つことを実証し
た。さらに衝撃損傷についても、温度影響に対して十分な信頼性を持つことを実証した。
超音波ラム波計測装置の改良が、検知精度に影響を及ぼさないことを実証した。
超音波ラム波の多軸振動非接触自動計測システム(MaVES)による可視化、及び数値解析
(ComWAVE)により、超音波ラム波の伝搬挙動と損傷の関係を明らかにした。
光ファイバセンサ及びアクチュエータを貼付した供試体を用いて疲労試験を実施し、セ
ンサシステムが実際の運用環境に対して十分な耐久性を有していることを確認した。
当該システムの認証取得を行う準備として、認証プランに記載された適合性要件の証明
法(図面、解析、試験等)を明確にした。
(d)熱可塑複合材製造プロセスモニタリング技術開発
熱可塑複合材の特性(ハイサイクル成形)を活かした自動成形を指向し、一次構造部材
にも適用可能な一方向材を用いた低コストな高レート部材成形法を開発した。結晶化度
と強度、品質に関する成形条件の適正化を実施。また、構造要素形状での成形条件を設
定し、技術成熟度TRL4(Technology Readiness Level 4)まで引き上げることがで
きた。
接合(融着、接合等)を用いた部材一体化構造製造技術に関し、従来、熱可塑複合材の
接着が困難であったが、融着、接合技術、新規表面処理条件を強度特性、品質の観点か
ら適正化を行い、TRL4の融着、接合技術を確立した。成形、接合工程を対象に、従
来の熱硬化複合材のオートクレーブ成形、接着部材と比較して、30%低コストな高レー
ト製造技術を確立した。
製造プロセスにおける温度、残留歪等をモニタし、製造品質を評価する技術を確立した。
従来、1次構造材にも適用可能な熱可塑複合材の成形モニタリングは困難であったが、
光ファイバを埋め込む成形法を適用してTRL4のモニタリング技術を確立した。
(e)光ファイバセンサによる航空機構造の成形モニタリング技術の開発
複合材部品成型時の内部温度、歪、残量応力等を、部品に埋め込んだ光ファイバセンサ
によって計測・分析することで成形不具合を検知する成形モニタリング技術を開発した。
また、サンドイッチ構造に対して、光ファイバセンサを用いた成形モニタリング技術と
運用モニタリング技術を組み合わせることで、超音波検査に頼らずに構造強度に重大な
影響を与える製造時・運用時の内部損傷を検知する技術を開発した。実施した試験の中
には、光ファイバセンサを埋め込んだ大型供試体を用いた、成形モニタリング試験、衝
28
撃損傷検知試験、亀裂進展検知試験も含む。
オートクレーブの制約を受けない大型複合材構造部品用の低圧成形プロセスとして、光
ファイバセンサを活用し、オートクレーブ外でも同等の品質で製造する技術を開発した。
(f)高生産性・易賦形複合材の開発
次世代小型機構造部材を模擬した段差のあるC型部材の試作を行い、UACSを用いる
ことでプリプレグ対比シワが抑制されることを実証した。平成26年度に引き続き、平
板状の積層体を三次元形状に賦形する際に賦形性に支配的に関わるプリプレグ特性のデ
ータベース取得を行い、完了させるとともに、低計算コストを志向した有限要素法によ
る賦形シミュレーションの開発を完了し、試作に用いたC型部材のシワ発生状況を精度
10%以内で再現した。また局所的に大変形を伴うUACSの流動を表現するため、粒
子法を用いて、異なる切込パターン時の平板伸張、リブ成形時の流動性の違いを再現し
た。
(2)軽金属構造部材
(a)チタン合金接合技術の航空機への適用研究
難加工性のため製造コストの高いチタン合金を航空機部品製造に適用するための技術を
開発した。
航空機に多用されるTi-6Al-4V合金に対し、5mm厚の板のFSW接合手法を開発した。
大きさ0.3mm大の内部球状欠陥を、超音波探傷により効率的に検出するシステムを開発
した。
低入熱化で継手組織改善が可能であることを解明し、攪拌部硬度により機械特性が向上
することを把握した。疲労特性の評価を実施。
従来方法である厚板からの切削加工と比較して、部材製造コストを30%低減できる見
込みである。
(b)チタン合金粉体焼結技術の航空機への適用研究
素材使用量と切削加工工程の削減に資する紛体焼結によるチタン合金の複雑形状成形技
術を開発した。
冷間静水圧プレスを用いて成形した複雑形状の粉末焼結体が、Ti-6Al-4V鍛造品と同等
以上の静強度、降伏強度、切欠き疲労強度を持つことを確認した。本技術により製造さ
れた材料が目標の機械的特性を達成することを確認した。
競合技術である付加製造技術との比較を行い、強度特性とコストの比較を行った。比較
の結果から、現時点では、航空機構造部品の製造には焼結技術の方が適することを確認
した。
試作した素材の疲労強度試験を行い、目標とした疲労寿命(250MPaにおける疲労寿命105
回以上)に達することを確認した。そのミクロ組織及び破面観察から強度特性向上のた
めの指針を示した。
29
本技術の技術成熟度がTRL6相当であることを確認した。航空機の複雑部品形状を模擬し
た焼結素材の製作を行い、複雑部品形状から取得した試験片の静強度特性、疲労強度特
性が、設計許容値(S値)や実機運用環境での強度特性を取得している単純形状の試験片
の特性と変わりないことを確認した。ビルディングブロックアプローチにより、試作品
が実環境での使用上問題がないことを確認した。
従来の製造法(厚板からの削り出し)と比較して、部品製造コストを33%低減できる
見通しを得た。
(c)マグネシウム合金の開発と航空機への適用研究
(ア)急冷凝固 KUMADAI マグネシウム合金
昨年度作製した組成の材料で発火温度目標をクリアすることを確認した。
本年度実施した粉末加熱法による燃焼試験結果を参考に、発火温度目標を達成可能な合
金組成を検討、改良材のインゴット及び押出し材の作製を完了した。現在、本年度材の
燃焼試験を実施中であり、発火温度目標はクリアできる見込み。
製造プロセス開発について、昨年度までの熊本大学の知見と本プロジェクトでの成果か
ら、急冷凝固リボンの熱間プレス条件、押出条件の適正化を行い、直径φ50mmに外接
し、現状のアルミニウム合金部品より15%軽量化が可能なZ型押出材を製造。
本年度材料の強度、腐食特性の評価試験を実施中。強度目標はクリアできる見込み。腐
食速度についても表面処理/塗装状態では目標をクリア。本年度材組成が素材の腐食速度
に及ぼす影響を評価。
リベット結合による現用構造に対し、接着構造等のコスト・軽量化に有利な組立方法を
評価し、これらを活用した構造を提案できる見込み。
(イ)マグネシウムリチウム合金
合金の組成を変化させて素材の試作を行い、その強度と発火温度、腐食速度の評価を行
った。発火温度(758℃)及び腐食速度(0.59㎜/年)については、目標値を満足できる
素材を得ることができ、降伏応力も目標達成の目途を得た。
幅広の圧延材の試作を行い、幅600㎜を超える大型の圧延材の製造が可能であること
を確認した。
急冷凝固KUMADAIマグネシウム合金とマグネシウムリチウム合金を用いた航空機の水平
尾翼外板の重量試算を行い、現状のアルミニウム合金部品よりも28%の軽量化ができ
る見通しを得ており、目標となる15%の重量削減効果が達成できる目途を得た。
(3)総合調査研究
複合材構造及び軽金属構造について、国内外の技術動向や政策支援を調査し、本研究開
発の方向性、達成レベル等についての客観的判断材料を確認した。
複合材構造については、SHMシステムを航空機に活用する動きが活発化していること
を確認し、またエアバスとの協同試験や飛行実証試験計画も検討しており、今後の開発
30
戦略は明確になっている。
複合材構造に関する調査では、将来重要となる高生産性について研究開発の方向性を明
らかにした。
軽金属構造では、チタン接合技術及びチタン粉体焼結技術がコスト削減製造技術として
重要度を増していることを確認している。これら技術においては十分競争力のある研究
成果が出ているが、前者でLFW(Linear Friction Welding)の各種手法が開発され
FSWと合わせて適材適所使用することが好ましく、後者では特に航空機部品及び医療
用部品をターゲットとしてAM(Additive Manufacturing)技術が急速に発達しており、
これら技術に今後対応していく必要があると考えられる。
マグネシウム合金研究については文献調査及びBoeingとの意見交換なども行い、優位性、
今後の方針などを明確化した。
研究開発項目②「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発」
実施体制:川崎重工業㈱
(1)小型タイプ自動積層装置の開発・実用化
装置の主要構成要素について試作検討を繰り返し実施し、それら構成要素を組み合わせ
て動作確認を行い、機能確認・評価を実施し、高レート・低コスト生産に寄与可能な積
層品質を実現する要素技術を確立し、開発・実用化の目途を得た。
(2)中小型複雑形状部材の設計・製造技術を確立
装置試作品の設計・製作を行うとともに、装置試作品で試作部材を積層し、その積層動
作及び試作部材品質の評価を実施した。従来の製造手法である手積層と比較した品質評
価を行い、その評価結果より、複雑形状積層に対する根幹的な設計・製造技術要素技術
が確立できたことを確認し、複雑形状積層技術の製造適用に向けた技術的課題の一部を
明らかにした。
研究開発項目③「航空機用難削材高速切削加工技術開発」
実施体制:東京大学-再委託
東京電機大学、東京農工大学、東北大学、
新潟県工業技術総合研究所
(1)チタン合金の切削加工技術開発
(a)手仕上げ不要な仕上げ加工技術の実部品形状への適用
チタン合金製の航空機機体部品の多くは、ポケット形状に切削する加工が非常に多く、そ
の際に、ミスマッチと呼ばれる各工程間の繋ぎ目や微小段差等の加工不良が発生し、手仕上
げ(磨き)の修正を経て部品が完成する。加工時間とコストの削減のため、広範な航空機部
品への適用を目指して、様々なポケット形状に対応した手仕上げ不要な切削加工を実現する
切削条件及び工具経路生成法等について検討するとともに、それらが加工面性状に与える影
響についても検討を加えた。その結果、仕上げ加工用の革新的エンドミルの開発と新しいコ
ーナ加工技術の開発によりミスマッチのない高速ポケット加工を実現し、実部品相当の標準
31
ポケット加工において、平成24年度当初比で、手仕上げ時間の約50%、仕上げ加工時間
の80%以上の短縮を実現した。荒加工については、工具形状とクーラントノズル位置を最
適化した高圧クーラント用のエンドミルを開発し、さらに切削工程の決定手法を見直すこと
により、荒加工時間を10%以上短縮した。
(b)環境対応切削における高能率化の検討
チタン合金の切削においては、大径の工具を用い、大量の切削液を高圧クーラント装置で
供給することが世界的な動向となっている。これに対し、本技術開発のチタン合金の仕上げ
削りでは、電力消費を大幅に抑えた、冷却能力の高いOOW(Oil On Water)切削法を最適
化することにより、上記目標と合わせて手仕上げ不要のチタン合金の高速切削を達成し、標
準モデルの荒加工から手仕上げまでを含む総コストを、平成24年度当初比で、30%以上
削減した。これによりチタン合金の高効率な環境対応切削加工を実現した。
(2)先進アルミ合金の切削加工技術開発
(a)アルミリチウム長尺部材の高精度加工技術開発
アルミリチウム合金製の長尺部材では、切削により部材全体が変形する。変形の大きさは
部材内の残留応力に依存し、アルミリチウム板材の圧延時に生じた残留応力と切削加工によ
り仕上げ面内に生ずる残留応力の両者を考慮する必要があるが、薄板では、切削加工により
生ずる残留応力の影響が支配的である。そこで、フライス削りにおける残留応力と部材の変
形を、有限要素法を用いて予測する技術を確立し、刃形や工具経路等が切削温度や仕上げ面
残留応力に及ぼす影響を明らかにした。最終的に切削工程、刃形や切削条件、クーラントの
供給条件等を検討するとともに、新規に2種類の正面フライスを開発し、加工後のアルミリ
チウム合金部品の変形(ひずみ)を、20%以上軽減した。
(b)手仕上げ不要なアルミ合金の切削加工技術の開発
チタン合金の高速切削加工技術の成果である「手仕上げ不要なポケット切削加工技術」を
アルミニウム合金のポケット加工に適用し、チタン合金以上の大きな切り込みにおいてもび
びりを生じない手仕上げ不要な高速ポケット切削技術を開発した。標準モデルに対しては、
平成24年度当初比で、仕上げ加工時間を約40%短縮した。また、チタン合金と同様に、
高圧クーラント用のエンドミルの開発と切削工程の決定手法の見直しにより、荒加工時間を
10%以上短縮した。
(3)炭素繊維複合材の切削加工技術開発
(a)炭素繊維複合材のドリル加工における切削力、切削温度、工具摩耗の予測技術開発
切削エネルギー最小理論に基づくマクロな切削解析技術により航空機用複合材の切削力、
切削温度、工具摩耗、切り屑流出方向の予測技術を確立し、厚さや直径の異なる部位に最適
なドリルを設計・選択するための世界初の支援システム・シミュレーションシステムを構築
した。これにより、工具の異常摩耗、高切削温度による炭素繊維複合材の劣化、許容レベル
32
以上大きな剥離が発生しない工具の選択並びに切削条件を導き出すことが可能になった。ま
た炭素繊維複合材の剥離の予測精度を高めるため、繊維レベルでの微視的モデルに基づいた
有限要素シミュレーションツールを開発した。上記のマクロなモデルと融合し、切削条件の
選定、ドリル形状の設計に利用する。
(b)炭素繊維複合材-チタン合金重積材の切削予測技術開発
炭素繊維複合材とチタン合金のファスナー部では、両材料を同時に穿孔する必要があり、
工具形状や切削条件の最適化にはより高度な技術が必要となる。炭素繊維複合材に対して開
発した穿孔過程の予測技術を重積材に適用し、切削力と切りくず流出方向を解析し、シミュ
レーションモデルの適用性とその解析精度を確認した。また最大級の加工穴径のための最適
な重積材用のドリル形状並びに加工条件を明確にし、新しいドリル設計開発に利用可能な重
積材内部の温度予測技術を開発した。さらに大きな径の穿孔にはオービタル加工が使用され
るが、その切削状態を予測するためのプロトタイプを開発し、幅広い径の穿孔についての予
測技術が整ってきた。
(c)重積材に対するドリル形状の設計
重積材の穴加工における炭素繊維複合材層の穴内面の損傷を回避するためには、チタン合
金の切りくず流出方向の制御が重要となる。チタン合金のドリル切削において、ドリルの先
端角が切削力と切りくず流出方向に及ぼす影響をシミュレーションと切削試験によって明
らかにし、上記の予測技術を活用し、最大級の加工穴径のための革新的な形状のドリルを開
発した。また、工具のコーティングが穴内面の損傷に及ぼす影響について実験的に検討し、
得られた結果をベースに実用化の目処を得た。
(4)チタン合金の熱間ストレッチ成形技術開発
大型で曲率を有する航空機部品は、厚いプレート等から削りだした場合、素材の
90%以上が切り屑となる。その際、機械加工により内部応力が開放され、反りが発生する
ため応力除去プロセスが必要となる。熱間ストレッチ成形は、素材を機械加工前に部品形状
に合わせて成形する工法であり、成形・切削一貫プロセスによるニアネット化により機械加
工量を削減できるのみならず、材料購入時に内在している内部応力を最小限にできることが
期待される。熱間ストレッチ成形の特性を把握し、プロセス条件(成形温度、金型の形、曲
率、加熱ツール、冷却速度及びその分布等)が材料特性に及ぼすメカニズムを明確化するこ
とで、厚板に内在する大きな残留応力を最小限にするプロセスを開発する。高速・高温試験
機にセットできる寸法の小型試験片のV曲げ試験の結果によれば、曲げに引張を重畳するこ
とにより結晶粒が単純曲げよりも小さくなり、単純曲げより100℃程度低い温度で成形前
の供試材からほとんど粒子径を変えることなくスプリングバックを最小化できることが明
らかとなった。またスプリングバック量だけでなく、残留応力測定装置による試験片の残留
応力計測や結晶内応力解析により、熱間ストレッチ成形における引張の効果を確認した。こ
33
れにより将来的な切り屑量(部品形状によるが、現状比 40-50%減)、切削時間(部品形状に
よるが、現状比 30-40%減)の削減の目途を得ることができた。
(5)切削ロボットシステムによる柔軟性の高い切削加工技術開発
多種多様な航空機部品の加工にロボットを適用し、柔軟に加工システムを構築することが
期待されており、比較的手近なロボットでこのシステムを構築することができれば、波及効
果は極めて大きい。本技術開発では、切削条件や工具等の最適化を行い、コンパクトな加工
計測システムを主軸と一体化することにより、ロボットを本格的に利用した革新的な高精度
切削加工技術を実現した。またアルミリチウム合金のスキンカット(ポケット加工)に適用
し、従来ロボット加工機と同等以上の加工面の仕上がりを達成した。さらに、位置決め精度
の高い高剛性ロボットに出力の大きいスピンドルを付けた場合の加工能率、加工速度を明ら
かにし、ロボット切削が実用的にも適用可能であることを確認した。
研究開発項目④-1「軽量耐熱複合材CMC技術開発(基盤技術開発)
」
実施体制:㈱IHI-再委託
東京大学、東北大学、九州大学、東京理科大学、
室蘭工業大学、JAXA、NIMS
(1)CMC損傷許容評価技術開発
クリープ試験を実施し、損傷パラメータと非破壊検査結果の関係の把握及び試験片のき
裂観察結果から破壊メカニズムを解明した。これに平成26年度に取得した疲労試験結
果と合わせて非破壊検査の合否判定基準の設定手法を確立した。また、開発した設計ツ
ールについて、部品を模擬した構造供試体を用いた試験を実施し、試験結果と予測を比
較することにより妥当性を検証した。
(2)CVI(Chemical Vapor Infiltration:化学的気相含浸法)プロセス最適化
(a)CVI反応条件の最適化
CVI反応条件の最適値を設定し、工業的な構造の炉においても含侵効率50%向上を
達成できることを実証した。また、織物を用いたCVI実験を行い、総括反応モデルの
精度を改善した。
副生成物の組成を解析して、副生成物を半減できる方法を確立し、工業的な構造の炉に
おいて実証した。
(b)CVIシミュレーション技術開発
工業的な構造のCVI炉を対象として、改善した総括反応モデルを組み込んだシミュレ
ーション予測の精度を確認し、シミュレーション手法の妥当性を確認した。
(3)コーティング技術開発
平成26年度に絞り込んだコーティング材料について、平板のサンドエロージョン試験
による追加データを取得し、翼型におけるエロージョン量をシミュレーションで評価し、
34
実機に適用可能であることを確認した。
研究開発項目④-2「軽量耐熱複合材CMC技術開発(高性能材料開発)
」
実施体制:宇部興産㈱-再委託先:㈱IHI、川崎重工業㈱、シキボウ㈱、
山口東京理科大学、群馬大学、特殊無機材料研究所
(1)SiC材料の開発
SiC繊維を単繊維法で引張試験を行い、破断面を観察し破壊起点の特定を行い、破壊
起点の化学組成を分析し、欠陥の要因を調査した。欠陥要因毎の対策を立案した。
SiC繊維の製造プロセスにおける、原料繊維の熱分解、粒成長、焼結の各過程を科学
的に分析し、キーパラメータを明らかにした。
SiC繊維前駆体ポリマー中の異物分析とその除去方法を検討した。
引張強度2.0GPa以上、表面粗さRa2~3nmのSiC繊維を安定的に製造できる試作設
備の詳細設計を行った。
燃焼器パネルに適したプリフォーム製造手法及び構造の検討を実施した。
第3世代SiC繊維の三次元プリフォームを製造可能とする条件を設定するために、 プ
リフォーム製造時を想定したSiC繊維特性の把握並びに繊維のダメージを低減するた
めのコーティング方法の検討を実施した。
CVD/CVI法に加え、クラックシール剤の添加や耐環境コーティングの応力緩和層形
成に適合するSPIプロセスの最適化を検討した。
界面コーティングの施工条件出しを行うため、SiC繊維を観察し、界面コーティング
施工前後での変質有無を確認するための基礎データを取得した。
(2)高性能SiC繊維の開発
SiC繊維前駆体ポリマー中の焼結助剤成分とSiC繊維の特性との相関性を調査した。
高温クリープ特性に関しては、Al量の影響が非常に大きく、Al量とSiC繊維の高
温クリープ特性に強い相関性があることが明らかとなった。
研究開発項目⑤低コスト航空機体開発を実現するための数値シミュレーション技術開発
実施体制:東北大学-再委託
川崎重工業㈱、東レ㈱、上智大学、東京工業大学、
東京理科大学 -共同実施(自己負担) 三菱航空機㈱、JAXA
(1)分野横断(空力・構造・強度)シームレス機体設計シミュレーターの開発
概念設計、空気力学解析、簡易構造強度解析を連成させた主翼に関する数値シミュレー
ターの構築を行った。任意の航空機サイズに対応が可能であり、旅客数、航続距離を設
定することで、それに適した主翼形状を空気力学解析及び簡易構造強度解析を通じて決
定することができる。
川崎重工業の航空機開発で用いる空力解析ツール及び構造解析ツールと比較し、ツール
検証を実施。
35
(2)シミュレーション援用による認証プロセスの低コスト化
航空機の認定に必要な有孔引張試験及び衝撃試験について陽的有限要素法に基づくバー
チャルテスト解析ツール及び理論解を作成した。解析結果は実験結果をよく再現してお
り、かつ計算コストも低く抑えられている。
川崎重工業の航空機開発実績に基づき、複合材料・構造設計パラメーター、制約条件、
評価基準等のツール要求に応えるべく改良を加えている。
(3)着氷に関する非定常空力設計シミュレーターの開発
主翼の二次元翼型にGlaze-Horn-ice着氷モデルを配置したものに対して、数値流体力学
解析を行った。格子解像度・乱流モデルを変えて得られた数値流体力学解析結果を、同
様の着氷モデルを採用した風洞実験試験の先行研究データと比較することで、着氷によ
る空力的な影響を予測する数値流体力学解析の精度を検証した。
(4)複合材の特性を活かした機体構造設計シミュレーターの開発と実験的検証
従来の積層板構造にとらわれない繊維配向や繊維含有率を制御した最適構造設計シミュ
レーターの開発を目指し、平成27年度は面内で繊維配向を変える最適化手法として完
全流体の流線モデルを開発し、単層での有効性を円孔引張試験で確認した。
実験的検証のためにTow-steered composites製造装置ヘッドの仕様決定、設計及び一部
組み立てを行った。
成形に用いるプリプレグテープについても、複数の種類を入手し粘着性や繊維長などの
材料物性を確認し、仕様の明確化を行った。
市販の連続炭素繊維複合材料3Dプリンターを用いて、最適化に必要な繊維屈曲の上限
について検討した。
36
4.3 実績推移
平成23年度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
委託
委託
委託
委託
0(NEDO)
0(NEDO)
0(NEDO)
0(NEDO)
需給勘定(百万円) 110(実績)
176(実績)
889(実績)
889(実績)
(経済産業省執
(経済産業省執
(経済産業省執
(経済産業省執
行)
行)
行)
行)
特許出願件数(件)
0
2
4
1
論文発表数(報)
0
1
11
15
フォーラム等(件)
1
7
26
14
実績額推移
平成27年度
委託
実績額推移
1705(実績)
需給勘定(百万円)
(NEDO)
特許出願件数(件)
0
論文発表数(報)
5
フォーラム等(件)
41
5.事業内容
プロジェクトマネージャーに NEDO 材料・ナノテクノロジー部 伊藤 浩久を任命して、プ
ロジェクトの進行全体を企画・管理し、そのプロジェクトに求められる技術的成果及び政策
的効果を最大化させる。
東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 青木
隆平教授をプロジェクトリーダー
とし、以下の研究開発を実施する。実施体制については、別紙を参照のこと。
5.1 平成28年度委託事業内容
研究開発項目①-2「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)
」
(1)複合材構造部材
アルミニウム合金構造と同等の高生産性・低コスト生産技術の研究開発、複合材構造に
由来する内部剥離等の検査技術確立及び複合材本来の特性を生かした軽量化技術開発を
実施する。
(2)軽金属構造部材
マグネシウム合金の開発、加工法の開発とその信頼性の向上検討を実施し、マグネシウ
ム合金の航空機構造材料への適用技術開発を実施する。
(3)総合調査研究
国内外の研究開発動向や政策支援の状況、ボーイング、エアバス等OEM及びエアライ
37
ンの動向等を調査・分析し、研究開発の方向性や目標レベル等を常に確認し、研究開発
を効率的・効果的に推進していくための調査を実施する。
研究開発項目②-2「航空機用複合材料の複雑形状積層技術開発(第二期)
」
民間航空機の中小型複雑形状部材の製造に適用可能な小型タイプ自動積層装置による、航
空機用複合材の積層技術を開発する。
(1)小型タイプ自動積層装置の製造適用に向けた開発
小型タイプ自動積層装置について、その製造適用に向け、障壁となる技術課題を要素技
術の深化・成熟化を通して解決し、複合材部材製造の高生産性・低コスト生産に対応可
能な安価で汎用性・量産性を持った装置を開発する。
(2)実機部材形状に適用可能な設計・製造技術の開発
小型タイプ自動積層装置による中小型複雑形状部材の設計・製造技術について、適用部
材拡大を念頭に置き、実機部材形状に適用可能な設計・製造技術を開発する。
研究開発項目③-2「航空機用難削材高速切削加工技術開発(第二期)」
航空機用難削材の高速切削、ロボット切削、並びに、切削・金属ディポジション複合加工
において、予測が必要なものは、加工力、工具や工作物の温度、仕上げ面残留応力、工具摩
耗、炭素繊維複合材の剥離寸法、クーラントの流れ、熱応力などであるが、難削材の種類や
加工プロセスによって、最低限必要なものが異なる。加工プロセスの予測には多大な時間と
コストが必要となるため、各プロセスの最適化や高性能な工具の開発にあたっては、最低限
必要な物理量を効率的に求められるよう、有限要素法や有限体積法に基づくシミュレーショ
ン技術及び切削理論に基づくコンパクトでかつ高度な解析技術を開発する。これにより、予
測技術をベースとしたスマートな航空機難削材高速切削加工技術の高度化を図り、革新的な
切削加工技術開発を促進する。
研究開発項目④-2「軽量耐熱複合材CMC技術開発(高性能材料開発)
」
(1)CMC材料の開発
(a)第3世代SiC繊維の生産技術の開発
焼結プロセスの知見を基に連続焼結プロセスの検討を行うとともに、不融化・焼成工程
を併せて連続化し、不融化工程から焼結工程までの連続プロセスの実現可能性を検証す
る。
昨年度明らかにしたSiC繊維の製造プロセスのキーパラメータについて、SiC繊維
の構造解析等を利用して最適化する。
試作設備の設置及び立ち上げを実施し、引張強度2.0GPa以上、表面粗さRa2~3nmの
SiC繊維を安定的に製造できる最適焼結条件を確立する。
バッチ焼結プロセスの知見を基に連続焼結プロセスの検討を行うとともに、不融化・焼
38
成工程を併せて連続化し、不融化工程から焼結工程までの連続プロセスの実現可能性を
検証する。
(b)第3世代SiC繊維の三次元プリフォームの開発
第3世代SiC繊維の取り扱いを容易にするためサイジング(糊付け)剤の開発及びサ
イジングプロセスの開発を行う。
屈曲等によるせん断力による繊維切断を防止することを目的とし、繊維補強方法を開発
する。
三次元プリフォーム作製のために施したサイジング剤を、後工程であるCMC化工程に
悪影響を及ぼさないように除去するためのデサイズ液及びデサイズプロセスを開発する。
三次元形状を有する燃焼器パネル用プリフォームの一部を模擬した試作を行う。
非破壊検査手法の検討を行う。
(c)安定して製造でき、かつ1400℃の耐熱性を持つマトリクス形成技術の開発
高性能CMCの製造方法・条件を検討する。繊維表面処理、マトリクス含浸について、
手法や製造条件を検討後に試作実験を行い、主要な課題を抽出する。
(2)高性能SiC繊維の開発
(a)引張強度3.0GPa 以上で高温クリープ特性に優れるSiC繊維を開発する。
SiC繊維前駆体ポリマー中の焼結助剤成分において、強度と高温クリープ特性を両立
する最適助剤成分量を検証する。
(b)繊維評価技術(クリープ特性)を開発する。
高温クリープ特性評価技術(単繊維法)の検討を行う。
(c)材料のミクロ組織を模擬した解析手法を設定する。
部品試作時の織物変形のメカニズムを検討し、織物の乱れや繊維配向を予測できるモデ
ルを検討する。複雑な構造をしたCMC組織のメゾスケールを模擬した解析手法を検討
する。
(d)高性能SiC繊維に適合したCMC部材の初回製造プロセス方案を決定する。
繊維の違いによる材料強度への影響を確認する。
研究開発項目⑤低コスト航空機体開発を実現するための数値シミュレーション技術開発
(1)分野横断(空力・構造・強度)シームレス機体設計シミュレーターの開発
平成27年度に開発した概念設計、空気力学解析、簡易構造強度解析を連成させた主翼
に関する数値シミュレーターに関して、川崎重工業(株)の航空機開発で用いる空力解析
ツール及び構造解析ツールとの比較を通じて検証を行う。
39
解析にかかる空気力学における計算コストを少なくすると共に、最適化、詳細構造解析、
ズームイン解析が行えるように拡張を行う。
(2)シミュレーション援用による認証プロセスの低コスト化
平成27年度に作成した航空機の認定に必要なクーポン試験について陽的有限要素法に
基づくバーチャルテスト解析ツール及び理論解の精度を高めると共に、ツールを構造供
試体にまで拡張する。
川崎重工業(株)からのツール要求を勘案し、認定時に利用可能なツールとなるように改
良を行う。
(3)着氷に関する非定常空力設計シミュレーターの開発
平成28年度は三次元後退翼について、最初に着氷のないクリーン形態に対して数値流
体力学解析を行い、風洞実験試験の先行研究データと比較することで、数値流体力学解
析の精度を検証する。その後、実際の着氷形態について数値流体力学解析を行い、着氷
による空力的な影響を評価・考察する。
(4)複合材の特性を活かした機体構造設計シミュレーターの開発と実験的検証
平成28年度は面内曲線繊維配向最適化に必要な基礎データを取得するとともに積層板
について最適化を実施する。Tow-steered composites製造装置については、引き続きヘ
ッド部の設計及び組み立て、制御システムの構築を行う。特に湾曲したテープの成形性
評価(非破壊、詳細観察、強度試験等)や繊維カットから再配置を行うプロセスについ
て実験的検証を行うことで、装置と材料に要求される課題を抽出し、改良を行う。
制御システムについては、最適化ソフトウェアの開発と連携を取りながら、最適化結果
を実際の成形に繋げられるようにする。
5.2 平成28年度事業規模
委託事業
需給勘定
1、275百万円
事業規模については、変動があり得る。
6.事業の実施方式
研究開発項目①-2、②-2及び③-2については、以下の方式で事業を行う。
6.1公募
(1)掲載する媒体
「NEDO ホームページ」及び「e-Rad ポータルサイト」で行う。
40
(2)公募開始前の事前周知
公募開始の約1ヶ月前に NEDO ホームページで行う。本事業は、e-Rad 対象事業であり、
e-Rad 参加の案内も併せて行う。
(3)公募時期・公募回数
平成28年4月に1回行う。
(4)公募期間
原則30日間以上とする
(5)公募説明会
関東で開催する(予定)
。
6.2 採択方法
(1)審査方法
e-Rad システムへの応募基本情報の登録は必須とする。 委託先の選定・審査は、公募要領
に合致する応募を対象に NEDO が設置する審査委員会(外部有識者で構成)で行う。審査委員
会(非公開)は、委託研究提案書の内容について外部専門家(学識経験者、産業界の経験者
等)を活用して行う評価(技術評価及び事業化評価)の結果を参考とし、本事業の目的の達
成に有効と認められる委託先を選定した後、NEDO はその結果を踏まえて委託先を決定する。
申請者に対して、必要に応じてヒアリング等を実施する。
審査委員会は非公開のため、審査経過に関する問合せには応じない。
(2)公募締切から採択決定までの審査等の期間
45日間とする。
(3)採択結果の通知
採択結果については、NEDO から申請者に通知する。なお、不採択の場合は、その明確な理
由を添えて通知する。
(4)採択結果の公表
採択案件については、申請者の名称、研究開発テーマの名称・概要を公表する。
7.その他重要事項
(1)評価の方法
NEDOは、技術的及び政策的観点から研究開発の意義、目標達成度、成果の技術的意義
並びに将来の産業への波及効果等について、外部有識者による評価を実施する。
研究開発項目①、②、③及び④-1については、事後評価を平成28年度に実施する。研
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究開発項目④-2及び⑤については中間評価を平成29年度、事後評価を平成32年度に実施す
る。研究開発項目①-2、②-2及び③-2については必要に応じて中間評価を平成29年度に実
施し、事後評価を平成32年度に実施する。
(2)運営・管理
研究開発全体の管理・執行に責任を有するNEDOは、経済産業省及び研究開発実施者
と密接な関係を維持しつつ、本事業の目的及び目標に照らして適切な運営管理を実施する。
具体的には、必要に応じて、技術推進委員会等における外部有識者の意見を運営管理に反
映させる他、随時、プロジェクトの進捗について報告を受けること等により進捗の確認及
び管理を行うものとする。また、早期実用化が可能と認められた研究開発については、期
間内であっても研究を完了させ、実用化へ向けた実質的な研究成果の確保と普及に努める。
(3)関係省庁の施策との連携体制の構築
NEDOが実施する「革新的新構造材等研究開発」や内閣府が実施する「戦略的イノベー
ション創造プログラム:革新的構造材料」の実施体制と緊密に連携する。
(4)複数年度契約・交付の実施
委託事業
研究開発項目①、②、③及び④-1は、平成27年度の1年契約を締結した。
研究開発項目④-2及び⑤は、平成27年~平成29年度迄の複数年度契約を締結した。
研究開発項目①-2、②-2及び③-2は、平成28年度からNEDOが指定する年度迄
の複数年度契約を締結する。
(5)知財マネジメントにかかる運用
「NEDOプロジェクトにおける知財マネジメント基本方針」に従ってプロジェクトを
実施する(研究開発項目①-2、②-2、③-2、④-2及び⑤)。
8.スケジュール
平成28年
4月中旬
公募開始
5月下旬
公募締切
6月中旬
採択審査委員会
7月上旬
契約・助成審査委員会
9.実施方針の改定履歴
(1)平成28年3月、制定
42
別紙
「次世代構造部材創製・加工技術開発」
実施体制
NEDO
プロジェクトマネージャー
NEDO材料・ナノテクノロジー部
伊藤 浩久
プロジェクトリーダー
東京大学
航空宇宙工学専攻
青木 隆平教授
委託
研究開発項目①-2
公募して決定する。
研究開発項目②-2
公募して決定する。
研究開発項目③-2
公募して決定する。
研究開発項目④-2
研究開発項目⑤
東北大学
共同実施(自己負担)
シキボウ㈱
㈱IHI
川崎重工業㈱
再委託
東京大学
東北大学
JAXA
再委託
㈱豊田自動織機
イビデン㈱
東京大学
宇部興産㈱
再委託
山口東京理科大学
群馬大学
再委託
川崎重工業㈱
東レ㈱
上智大学
東京工業大学
東京理科大学
(公財)特殊無機材料研究所
三菱航空機㈱
JAXA
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