「自他の生命や人権を尊重し、思いやりのある生徒を育てる」 ―自尊感情

「自他の生命や人権を尊重し、思いやりのある生徒を育てる」
―自尊感情を育み、自己実現できる生徒を育むー
姫路市立夢前中学校
教諭 重近世都子
1 取組の内容・方法
(1)自尊感情を育むために
本校では、小・中一貫してライフスキル教育を行っている。
「ライフスキルとは、日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果
的に対処するために必要な能力である。」
○自分の能力や価値を信じられない。
←【セルフエスティーム】
○明確な人生の目標を持てない。
←【目標設定スキル】
○人生の重要な問題について思慮深く検討せずに決める ←【意志決定スキル】
○ストレスや怒りなどの感情を上手にコントロールできずに良好な人間関係をつくれない。
←【ストレス対処スキル、対人関係スキル】
セルフエスティーム(健全な自尊心)と行動
1
○高いセルフエスティーム
○低いエスティーム
・自分ができたことを誇りに思う
・自分の才能を卑下する
・人に依存しない行動をとる
・他者の影響を過度に受ける
・責任を引き受ける
・他者の失敗を責める
・欲求不満に耐える
・自分が好かれていない、必要とされていない
単
元
「自己イメージを改善しよう」
(ライフスキル教育プログラム)〈JKYB〉
2
趣
旨
○本学級の生徒は自ら考え自ら行動することを目標に、体育大会や文化発表会では、お互
いの気持ちを思いやりながら絆を深め積極的に取り組んできた。一方、自分自身の考え
や行動には自信がなく、友だちの言動に対して、正義感を持って発言したり、友だちの
意見に流されてしまったりするなど消極的な生徒も少なくない。自分自身をしっかりと
分析し改善しようとする態度を育みたい。
○ 思春期を迎えた中学生は、自分と他者を比べ、自分の良さを見失い、自信をなくしがち
である。自分には良いところがあり、前向きに行動できるようになれば、自己イメージ
を改善できるようになる。それがセルフエスティーム(健全な自尊心)を育むことにつ
ながる。本題材は自分の長所や短所を明確にし、短所でも、工夫して考え、行動しよう
とする態度を育てるのに適した教材である。
○自分の長所や短所をありのままに見つめ、自己イメージを改善しようと意識しながら、
自己イメージを改善するためにどのような考えや行動を取ると良いかをブレインストー
ミングの手法を用いて考えさせる。そこで挙げられた意見を各自でカテゴリーに分類さ
せる。最後に個人で発表させ、友達の考え方や行動を参考にし、工夫して自己イメージ
を改善できるように指導したい。
3
目
標
自分らしく、よりよく生きていく(自己実現)ための心を育てる。
4
人権教育の視点
自 己イ メー ジを 改善 す るこ とで 、セ ルフエ ス ティ ーム (健 全な自 尊 心) を育 み、 前向き
に困難に立ち向かおうとする実践意欲と態度を育てる。
5
学習の過程
のび太くんのイメージを使い、
自分の変えた
グループで、自己イメージを改
そのイメージを改善するため
いイメージを
善するためにできることをブレ
に必要なことを発表させる。
一つ挙げる。
インストーミングさせる。
学級全体で発表し、さ
らに、もっと良い改善
方法がないか考えさせ
る。
挙げられた改善方法
班員が出した意見を、各自で種
の中から、自分にでき
類に分けさせ、見出しを付け、
そうなものを選ぶ。
ワークシートに貼らせる。
(2)兵庫県版道徳副読本の具体的な活用
1 主題
人間としての在り方・生き方にせまる―生命尊重
2 資料名
「語りかける目」(警察官の手記、原題『この骨、どうしたん』)
3 指導にあたって
○握っている手を放した母の思いと、母の死を目にした少女の悲しみにふれさせて、
母を守り続ける少女の姿の中に見られる強さを感じとらせる。
○震災が少女にもたらした深い悲しみと少女の話を聞く作者の思いを感じとらせ、
突然の災害により生死を分けられた現実の苛酷さについて考えさせる。
○細かく部分的な扱いでなく、読み進める生徒の心情面を大切にした扱いをしたい。
4 ねらい
震災のもたらした状況の中で、母の思いや少女の悲しみの深さを感じとら
せるとともに、生命の重さを受け止めさせる。
5 内容項目
3−(2) 生命尊重
3−(3) 人間の弱さ、醜さの克服
6 指導過程
写真から
地震直後
のようす
を想像さ
せる。
少女の思いを感じとる:あまり
の悲しみに涙も出ない。大切な
母を失い、これからどうして生
きていけばいいのか、途方にく
れている様子を理解させる。
震災が奪った少女の大切な母の命の尊さ
を感じとらせ、震災が残してくれた少女
と少女の母との絆を理解させ、母の遺骨
を胸に抱いて、強く生きようとしている
少女の思いを学ばせたい。
神戸班別学習への意義について考えさせ
る:阪神淡路大震災で、失った悲しみを乗
り越え、自分たちの手で復興を成し遂げた
神戸の人々の思いや強くたくましく生きる
姿を学び、自分たちができることについて、
話し合わさせる。
作者の思いを感じとる:言葉を
かけたところで、少女の悲しみ
や運命が変わるわけではなく、
自分にできることが、思い浮か
ばない様子を理解させる。
少女のこれからを考える:大切な母を失
い、途方にくれていたが、弱さを克服し、
「ナベ」の中の母とともに、強く生きて
いく決心を伝えようとしている。
(3)郷土資料づくり
1 主 題
よりよい社会の実現をめざそう
2 資料名 「七ツ石」 (自作資料)
3 主題設定の理由
○本学級の生徒は、地域の中で生まれ、地域の人々に見守られながら、すくすくと成長し
てきた。そして、
「地域から愛される夢中生」を目指し、地域に足を運び、地域について
学びながら、地域と共に成長してきた。しかし、地域を誇りに思い、将来も地域に根づ
き故郷「八幡」を守ろうと考えている生徒はそう多くはないように思う。また、自分た
ちが、自分たちの集団をよりよくしていくことが、やがてはよりよい地域社会の実現に
つながることに気づいていない。
○本資料は、かつての「八幡村」に起こった大旱魃を救おうと、人々が知恵を出し合い、
何度も話し合いを重ねることで争いごとを解決した「七つの石」にまつわるお話である。
水がなければ生活できなかった先人たちは、話し合うことで解決策を見出し、
「七つの石」
が人々の対立を鎮め、生活を守りぬいたことから、話し合いの大切さや人々の幸せを願
った先人たちを誇りに思う気持ちを育てるのに適する資料である。
○今は歴史的役割を終え、
「歴史の証人」として才天満宮境内に大切に保管されている「七
ツ石」の謂れを紐解くことで、村の人々の思いに気づかせる。さらに、今なお「七ツ石」
の話が語り継がれていることから、地域の人々の願いや思いを考えさせることにより、
今を生きる自分たちの生活を振り返らせ、よりよい集団を築くために何を大切にしてい
けばよいのかについて、考えを深めさせたい。
4 ねらい 4−(2)社会連帯、よりよい社会の実現
○「七ツ石」の謂れについて知り、考えることを通して、自分たちの手でよりよい
集団を築いていこうとする態度を育てる
5 指導過程
水の役割
について
考える。
争いごとが
起こった理
由を考える。
人々は、争いごとを沈
めるためにどのような
解決策を見出したか。
自分たちが集団をよりよくしていくた
めにできることは何かを考えさせる。:
・問題点を出し合う・話し合いをもつ
・解決策を見出す・集団を大切に思う
・誰もが発言しやすい雰囲気づくりをす
る
石に『七ツ石』と
刻まれた理由を考
える。
『七ツ石』の話が、今も語り継がれてい
るのはなぜだろう:『七ツ石』に誇りを
感じている。争いごとは、話し合いによ
って解決してほしいから。
2 取組の成果
(1)学習を終えて、他人である「のび太」くんのイメージは改善できても、自己イメー
ジを詳しく分析することは難しかったが、「自分とはどういうものなのか。」を客観的に認
識するいい機会になった。また、友達に自己イメージを改善する方法を見つけてもらい、
その後の生活習慣を変えるきっかけになった。さらに、それがセルフエスティーム(健全
な自尊心)を育み、自己実現へとつながっていくことを願っている。
(2)授業を終えて、震災が少女にもたらした深い悲しみを理解させることはあまりにも
むずかしく、
「母の死」を経験したことのある生徒もない中で、少女の思いを感じ取らせる
ことはできない。が、その少女を目に前にして、なすすべもなく言葉もかけられないまま、
少女のこれからを祈ることしかできなかった警察官の心情を読み取らせることはできる。
神戸の街のほとんどが復興した今、震災遺稿やモニュメントによってしか、神戸の人々の
思いや願いを学びとらせることはできない。しかし、母の分まで強く生きようとしている
けなげな少女の「語りかける目」から、人間としてどう生きるべきかを考えさせ、生命を
尊重する心を育もうと試みた。また神戸班別学習で、実際に神戸を訪れて「1.17 希望の灯
り」の碑の前で、少女の思い、神戸の人々の思いを感じとらせることができた。
(3)
「七つ石」の資料づくりは、八幡小学校と協力して行われ、資料分析、指導案づくり、
授業の実施(小学校 6 年生、中学校 2 年生)にあたり、幾度となく話し合いを積み重ねた。
また、地域の方の協力により、昔の八幡校区の実情や歴史について勉強することができた。
古い地図なども借りたり、実際、授業の中で、昔の校区についての話をしていただいたり
もした。生徒たちも、自分の住んでいる地域でのお話なので、興味を持って耳を傾けてい
た。さらに、班での話し合いの結果をホワイトボードに書かせ、書画カメラを通して、大
型テレビで映し出すことで、子どもたちの発表もよりわかりやすいものとなった。
3
課題及び今後の取組の方法
ライフスキル教育は、小学校とも連携して行われ、大学・警察・姫路市教育委員会からのサ
ポートのもと、実施されている。
道徳教育では、自己を見つめ直し、自分と社会についての確かな認識を培い、アイデン
ティの確立を支援する必要がある。
人権教育では、自分だけではなく、他人も大切にし、思いやりを持って自ら行動できる
子どもたちを育む必要がある。
これらの教育は、総合・道徳・学活での授業だけではなく、学校での教育活動全般を通じて
行われる必要がある。
子どもたちが、自己を変えようと自分を見つめ直し、
「いのち」を大切に強く生きようと自ら
考え、
「地域から愛される夢中生」として自ら行動し、自己実現に向けて歩んでいくことを切に
願っている。