トランプ旋風の背景 - みずほ総合研究所

海外通信 from New York
トランプ旋風の背景
― 目覚めた「普通」の米国人、苦悩するエリート ―
3 月を終え、共和党における大統領候補の座を巡
るレースは、まさかの実業家トランプ氏が独走して
いる。米国では主要メディアでトランプ氏の動静が
報じられない日はなく、とりわけテレビのニュース
番組はほぼトランプ氏一色である。
「普通」の米国人に支持されるトランプ候補
ランプ氏支持に傾くなか、エリートの苦悩は深まっ
ている。
2017年以降の米国
もっとも、トランプ氏が掲げる政策の実現可能性
は低い。メキシコ国境における壁建築は実現には程
遠く、経済政策においても、超党派の非営利団体であ
る責任ある連邦予算委員会(CRFB)の試算では、減税
規模は10年間で約11兆ドル(約1,200兆円)にのぼる。
公約通り、社会保障費を削減せず、かつ財政赤字を拡
大させずに減税を実現しようとすれば、中国をも上
回る8%前後の経済成長が必要と指摘されている。
仮に 2017 年にトランプ大統領が誕生しても、支持
者の期待は裏切られてしまうであろう。
「普通」の米
国人が目覚めたなか、誰が大統領になろうと、政治の
混乱が継続する可能性が高まっている。
このようなメディアの過熱報道がトランプ氏の躍
進を助長しているとの指摘もあるが、それだけでは
ないだろう。
米国の共和党は、銃規制反対など保守的価値観を
触媒に、富裕層と、いわば「普通」の米国人である中間
層という、経済的利害では対立しかねない支持基盤
に支えられてきた。中間層において、いずれ成功者に
なれるかもしれないというアメリカン・ドリームの
神通力があるうちは共存が成り立つが、幻想に過ぎ
ないと分かった瞬間、矛盾が露呈してしまう。
みずほ総合研究所 ニューヨーク事務所
2009 年以降の景気拡大局面においても、所得や富
所長 新形 敦
の格差拡大・固定化が続いている。夢が幻想だったと
[email protected]
意識されつつあるなかで、政治的には素人ながら、テ
レビ番組の司会を通じて抜群の知名度を
誇るトランプ氏が普通の米国人の「本音」
●米国の所得階層別世帯割合(実質所得)
を代弁することで、夢が破れた層の支持が
(%)
100
集中する結果となっている。
20万ドル以上
90
苦悩するエリート
トランプ氏の独走を受け、政治的エリー
トである共和党主流派は焦燥感にかられ、
前回同党大統領候補であったロムニー氏
はトランプ氏批判演説を行った。しかし、
中間層の期待を裏切ってきたエリートに
よる批判は、
「普通」の米国人にとっては逆
効果となり、トランプ氏の支持率がますま
す高まるという皮肉な結果となっている。
そもそも、人口構成で言えば、多数派は
「普通」の米国人である(図表)。多数派がト
12
7.5万∼ 20万ドル未満
5万∼ 7.5万ドル未満
5万ドル未満
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2000
02
04
06
08
(注)
2014年の実質中位世帯所得は5.4万ドル。
(資料)
米国商務省より、
みずほ総合研究所作成
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(年)