『4Kでよみがえる浮世絵2』~HDR制作の経験でわかった課題整理

制作者が挑戦するHDR技術の表現力
立教大学映像身体学科 佐藤一彦教授制作
新作『4Kでよみがえる浮世絵2』
HDR制作の
経験でわかった
課題整理
前号(4月号)でレポートした立教大学映像身体学科の佐藤
一彦教授が制作する新作『4Kでよみがえる浮世絵2 歌川広
重「名所江戸百景」∼江戸の豊穣な色世界をめぐる∼』
(浮
世絵2)は4Kの高精細さと、最新の表現技術として注目され
るHDR技術とBT.2020規格を生かした制作に取り組んだも
のだ。前号では撮影段階での取り組みを佐藤教授と撮影カ
メラマンの本田茂氏に「HDR制作のねらいと取り組みの仮
説」を聞いた。そして、2月に編集と仕上げをIMAGICAで行
った。そこから見えてきた課題を取材した。
(レポート:吉井 勇・本誌編集長)
仕上げに入ったEditルームで
聞いた会話から
うな議論を耳にした。
ットと、同じ葉の映像で陽があたっていない
「この文字の白、まぶしくないかな」
時のカットを連続させようとしたとき、
「こ
「これまでの SDR なら問題ない程度ですよ」
れはまずいぞ。わかっちゃうな」と、HDR
1月末に 4K 撮影を終えた『浮世絵2』は、 「ビデオ IRE は 100%なんだけど」と「10bit
となったことでより繊細な表現の差が見えて
オフラインで仮編集を終え、最終段階のポス
CV(コードバリュー)と IRE、Nit/cd の換
トプロ作業を 2月半ばに IMAGICA で行っ
算表」を見ながらのコメント。その換算表を
ている。そのポスプロの最終段階の作業ぶり
を Edit ルームで取材した。立教大学4K 制
作の佐藤教授、撮影カメラマンの本田氏、そ
してテクニカル面を担当した立教大学助教の
しまったのである。
表示するタブレットを全員が見る。
「もう少し落とさないと、目が上がっちゃう
よ」
「これぐらいでどうですか」
カラリスト
(右)
と本田氏は原画
と見比べながら
グレーディング
作業を進めた
石山智弘氏と、IMAGICA の DIT、編集マン、 「何 % なの ?」
カラリストのスタッフたちが HDR 編集をあ
というように、テロップの白文字を輝度を決
る程度終え、テロップ入れに入っていた。
めるのに何度も確かめる。つまり、HDR と
シーン画面を紹介するテロップであるが、
いうダイナミックレンジの幅が広がったため
文字の色、
縁取りと文字を乗せる「ザブトン」
に選択する範囲が増えたのである。
と呼ぶ背景模様のバランスをどうするか、と
また、こんなとまどいもあった。実景の映
いうことで HDR 編集での課題を象徴するよ
像で葉に太陽光があたり、白く光っているカ
40
5-2016
換算表を表示す
るタブレットを
読みながら進め
る