NAB2015— 「HFR」……松野 茂美

No.139 − NAB 2015 −
松野 美茂 今年もまた NAB に来た、そろそろ NAB
りと時差調整をする事になったのである。
もちろん、アメリカにおいては映画業界
詣でも終わりにしようかと考えながらの
この時差調整が効果を発揮してカンファ
の動向は映像産業全体で注目されている事
2015 年の NAB である。
レンス中は至って元気で日程をこなす事が
や、映像クォリティ意識に関してはダント
来年の様に土曜日のコンファレンスから
出来た。
ツである事など各映像業界が映画に対して
参加の予定なので金曜日の夕方に開くレジ
参加しているは「テクノロジー・サミット・
一目置くのは普通であり、その普通の事が
ストレーション窓口を当てにしての木曜日
オン・シネマ」ではここ数年は参加者が減
普通に出来ているだけとも言えるのである
の深夜着の便を取った。
って来ている様で会場はだんだんと小さく
が。
土曜日から始まるカンファレンスは開
なって来ている。最盛期の半分ぐらいのサ
どうしてもアメリカでは映画業界がこう
始時間が早い、早いものでは 8 時ごろか
イズで今年も開催されていた。
やるぞと決めると TV 業界が引っ張られな
ら始まっている。今回も参加予定なのは
その様な関係もあってかスポンサー企業
がらしぶしぶやる感じが多かったが、今年
「テクノロジー・サミット・オン・シネマ
も小粒で数が増えていた、ここにも中国資
は一緒に進もうと言う意識が強く出ていた
(Technology Summit on Cinema)」であ
本の姿が登場している。
様に思う。
る。
しかし参加人数の減少を正面から捉えた
初日のテーマでは HDR が大きく取り上
このカンファレンスは早い事で有名だっ
のか、今年の運営は SMPTE と NAB や関
げられ、もちろん 2020 で昨年から注目で
たが今年からは 9 時開始となっていた、こ
連団体の連携が良くとれているカンファレ
はあるが , この場合の HDR は規格化される
の時点で気が付いても良かったのだがラス
ンスとなっていた。
以前のレベルでの話である。
ベガスについてから確認すると、どうやら
今までは DCI や SMPTE が NAB を間借
HDR 技術に関しては撮影時の環境キャプ
今年は金曜の夕方のレジストレーションが
りしている感じが否めなかったのであるが
チャーを CG が、その後 VFX やポストプロ
無いらしい。
今年はなんだか仲良くやっている形があり
ダクションの中間フォーマットとして、そ
ショックを受けて今回の金曜日はゆっく
ありと判る感じである。
の世界ではおよそ 15 年以上も前から使わ
用語解説
「HFR」 (High・Flame・Rate)
HFR、ハイフレームレートは映画のフィルム上映の世界の中で
いた。フィルム技術が完成の域に達していた 90 年代でも切れて
は古い技術とも言える。
しまう事やジャムってしまう事からは逃れられなかったのである。
そもそもフィルム上映の当初は様々なフレームレートが混在し
この事から考えても、近年の商業的に展開できたショウスキ
ており 24 コマのフレームレートに落ち着くまでは時間が掛かっ
ャンが 60fps で実用化されていた事は驚くべき点でる。この
ている。
フィルムによる上映時代はフレームレートは撮影時のみならず
60fps は当時人間が知覚できる限界の情報量を持つと言われ
(70mm フィルムを使用している)フィルム上映の最高峰の画質
上映時に重要だったともいえる、それは上映プロジェクタに対す
とも言われていた。
る回転数、イコールスピードで有ったからである。
実際には普及した TV 受像機の再生レートが画像の半分づつで
上映時にフレームレートが高い方が観客にリアルさの驚きを提
はあるが(フィールド再生でフレームではない)60 分の 1 秒で
供できる事は周知の事実で有ったろうが現実には高フレームレー
有った為に最低限の対抗措置とも考えられる。
トで再生するとふぃるむが物理的に切れやすくなり劇場の現場で
この様に 60fps はフレームレートとしては先行事例が多いが
のメンテナンス性が著しく悪くなる事も明白であったのだ。
現実の HFR は未だ 48fps に留まっている、これは HFR 技術が
回転数の高速化はフィルムの技術が進化していない時代であれ
3D 立体視の画質改善を目的に現在は利用されている為でチラつ
ばとても現実的な選択と言えない様な状況だろう、実際に私も
き防止や解像感向上に役立っている様である。
90 年代に日本の特撮現場で体験しているが高回転の高速度カメ
但 し、48fps の HFR 撮 影 で あ ろ う と も 撮 影 コ ス ト や CG、
ラを使用する場合、フィルム速度が安定するまでに暫くは空回し
VFX などのポストブロダクションコストが倍近くの処理になって
をせねばならずフィルムは常にスタートストップで無駄に回る上
しまう為、高コスト化してしまい普及にはまだ途上である。
にフィルムが切れてしまう(物理的に破壊)リスクも毎回伴って
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FDI・2015・05
れており日常化している技術であるが映像
制作の最初から最後までを通して必要性が
語られるのは初めてと言う事になる。
故に CG や VFX 業界に席を置く人々に
とっては今更なのであるが、その効果を見
て頂ければ過去の CG 業界が苦労してたど
り着いた HDR と言う業績の力を御理解い
ただけると思う。
ンツツでは通常の劇場作品の再生レートで
られた HFR は 120 コマだったのである。
ともかく今年の初日は HDR から始まっ
ある秒間 24 コマを超えた 48 コマ再生の
つまり、今後の映画の推奨標準フォーマ
た、それは最終段の劇場のスクリーン上映
劇場コンテンツが存在する。
ットは 4K、HDR 撮影、120 コマ撮影と
で最新技術のレーザー光源による劇場プロ
これは 3D 立体作品においてチラつきな
言う事になるのである。ちょっと行き過ぎ
ジェクターの運用が現実的になって来た事
ど立体視し辛い状況が有る作品などでフレ
の様な感じもしないではないが、良く考え
とどうやら密接に関係が有る気がしていた。
ームレートを上げる事で多くの劇場鑑賞時
れば家庭用の TV 受像機が 4K に移行しつ
もちろん関係性に関しては公に説明が有
での観覧者の負担を下げ、より作品をナチ
つある今、チケット代を貰って観る劇場は
る訳ではないのだがレーザープロジェクタ
ュラルに立体視で楽しんで貰うために使わ
家庭の環境を凌駕した映像体験を提供する
ーが高輝度な上映が可能であり、更にコン
れて初めている技術である。
必要に迫られている訳である。
トラストレンジの広さと HDR 画像の撮影
「ホビット 思いがけない冒険」などのホビ
そう考えると突飛に見えるかも知れない
が可能なデジタルシネマカメラの撮影レン
ット三部作で監督のピーター・ジャクソン
次世代フォーマットは直ぐに実行しなけれ
ジの話がどうにもシンクロして聞こえてし
が 2 倍のフレームレート 48 コマを使用し
ばいけないと考えても全くおかしいもので
まうからである。
て効果を実証し、ジェームス・キャメロン
はない事が判って頂けると思う。
このレーザーシネマプロジェクターは昨
もアバター 2 では HFR で制作すると言わ
その裏付けとして「テクノロジー・サミ
年の「テクノロジー・サミット・オン・シネマ」
れている。しかし、それが 48 コマである
ット・オン・シネマ」のカンファレンスの
会場で既にお目見えしており実際にプレゼ
かは不明である。
中で新しいデジタルシネマカメラの紹介と
ンテーションの機材として使われていた。
HFR は上げた分だけスムーズでクリアな
性能テスト状況の報告が有ったのだが、そ
しかし、この時点では未だ認可が下りて
画像が得られるのであるが。
のカメラのスペックは 120fps、
HDR 対応、
おらず講演の中で近々認可が下りる話にな
それは過去にダグラス・トランブルがシ
そして Over4K であった。
っていると再三繰り返していた事が鮮明に
ョースキャンを開発し 60 コマでの上映を
現実に NAB のエキジビジョン会場では
記憶に残っている。
可能にし実際に運用されている事からも判
殆どのシネマでの活用を見据えたカメラは
その昨年のカンファレンスでは劇場用の
っており逆に 60 コマ再生を実現する為に
この 3 点をクリアしており、特に 4K を超
認可が下りた後は順次家庭用へと降りてい
は高輝度なプロジェクターが必要になり、
える解像度で撮影できる事は必項であるか
くであろうと言う見解も語られていたので
現実的には運用の難しさから大きく普及は
のように混じたのである。
ある、もちろん去年のカンファレンスでは
しなかった経緯がある。
確かに必要スペックが公表されれば、そ
認可が下りる前提での講演だったので皆、
HFR を実現する為にはより高輝度なプロ
れ以上のスペックで撮影しておいて色々備
歯切れが悪かったのであるが。
ジェクタが必要であった訳である。
えておきたいのは当たり前であるだろうし
それが今年は認可も降りたので制作過程
また 3D 立体視上映に関してもチラつ
オーバースッペクで撮影したからこそオリ
も含めたロードマップと劇場作品の HDR
き以外に右目と左目の画像を時間を切り替
ジナル素材として役に立つと言うものであ
化によるレーザープロジェクタへの後押し、
えて上映する現在のプロジェクタ方式では
ろう。
もしくは逆のレーザープロジェクタ普及の
(IMAX を除く)3D 立体視上映時が通常の
そう考えると今後のハイエンド・デジタ
為の HDR 化を堂々と進めていると言う事
2D 上映時に比べて明るさが半分になって
ルシネマ用カメラのゴールは 6K ∼ 8K 対
ではないのだろうか。
しまうと言う現実問題にも高輝度プロジェ
応、240fps、より広域の HDR 撮影と言
この劇場に新しいプロジェクタが入ると
クタは必要とされていた。
う辺りで有るかも知れない。そう考えると
言う事は初日の時点では HDR 化とリンク
つまり、3D 立体視上映時の弱点である
出口であるレーザーシネマプロジェクタの
しているのだな、と感じる程度の物であっ
暗さとチラつきと言う環境改善と HFR に
持つ可能性に引っ張られてまだまだデジタ
たが 2 日目のカンファレンスに出てみて事
よる新しい動きの劇場体験、HDR による新
ルシネマは進化すると言えるのではないだ
はそれほど簡単ではなく色々な含みがある
しい高コントラスト画質体験を一度にレー
ろうか。
事が判って来た。
ザープロジェクタは可能にしてくれるとも
今後の各機材メーカーの対応に注目して
そこで 2 日目のテーマであるが、これが
言えるのである。
行きたいものである。
HFR(ハイ・フレーム・レート)であった
2 日目のカンファレンスを聞いて初めて
のである。御存知の様に既に一部のコンテ
この流れが見えて来た、そしてその中で語
Yoshishige Matsuno
VFX スーパーバイザー
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