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第2部:キャリア教育はどのように推進され,どのように変容・成長
を促しているのか
解説
第2部は,キャリア教育の方法に関することを扱ったテーマと,キャリア教育で育てる
能力を扱ったテーマを収めている。
第 1 部 の 知 見 を 改 め て 思 い 起 こ す と ,学 校 で 得 た 知 識 及 び そ の 有 用 性 を 感 じ 取 れ た か が ,
その後の行動を変えうることがうかがわれる。知識にかぎらず,教育活動を通して身に付
けさせた力がその後の行動の基盤になることは,自明なことかもしれないが,決して強調
しすぎることはない重要な点である。ましてや,将来の社会的・職業的自立に必要な力を
育むキャリア教育においては,現在の力がその後の行動の基盤となることは目指すところ
でもある。
このように考えてくると,キャリア教育をどのように進めていけばよいのか,キャリア
教育を通じてその後の自立に必要な能力をどのように育んでいけるのか,という視点は,
極めて重要なものの一つである。
そこで,下記の五つの章を設定した。
第 4 章 は「 小 学 校 で「 課 題 対 応 能 力 」
「 キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 」を 育 て る に は 」で あ
る。小学校段階においては,進路指導の蓄積がないために,キャリア教育に相当する既存
の活動をキャリア教育として整理し,取り組み始めてからそれほど時間がたったわけでも
ない。育む能力についても,よく指導されているものも,相対的に指導されていないもの
もある。これを生み出す背景と今後の展開について,分析・考察した。
第5章は「キャリア教育における『卒業生の体験発表会』の意義」である。キャリアモ
デルを考えさせるきっかけとして,社会人や職業人の話を聞く経験や上級学校等の体験を
することがあるが,自分と近い経験をしている自校の卒業生に話を聞くということが持つ
積極的な意義を考察している。
第6章は「インターンシップにおける事前指導・事後指導の影響」である。体験活動に
おける事前指導・事後指導の重要性は繰り返し指摘されてきた。事前指導・事後指導を行
うことで,インターンシップのみの場合と基礎的・汎用的能力の伸びがどのように異なる
のかを解説している。
第7章は「高等学校における基礎的・汎用的能力と生徒の学習意欲」である。キャリア
教育が学習意欲の向上に寄与することが各所で述べられてきた。学習意欲の向上を説明す
る図式の一つとして,キャリア教育を通じて育まれる能力である基礎的・汎用的能力の高
低が学習意欲に結び付くかを検討している。
第 8 章 は「『 キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 』と キ ャ リ ア 教 育 諸 活 動 と の 関 連 」で あ る 。基 礎
的・汎用的能力の表れである具体的な行動に着目することを試みた。あることができるよ
うになったという認識が必ずしも一貫するわけではないという結果から,個々人の能力等
が様々な経験によって揺れ動くことについて議論を提起している。
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第 2 部 各 章 の 知 見 を 抜 粋 し ,下 記 に ま と め て い る(「 知 見 の 概 要 」で 掲 載 し た も の の 再 掲 )。
いずれの章も確認してもらいたいが,特に関心を呼ぶ記述があれば,その章から読み進め
るのもよいだろう。詳細は各章の記述に当たっていただきたい。
第4章
小 学 校 で「 課 題 対 応 能 力 」「 キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 」 を 育 て る に は ( 33-38 ペ
ージ)
・ 小学校のキャリア教育では「課題対応能力」と「キャリアプランニング能力」の育成に向
けた指導に重点が置かれにくい。
・ これらの指導が不十分になりがちな理由としては,教員たちがキャリア教育に関する指導
の方法や内容についてどうしたらいいかわからないという点がある。
・ そして,これらの指導を充実させるには,校内外の研修や授業研究会への参加が有効であ
ることがうかがえるため,これらに参加できるような仕組みを整えることが重要である。
第5章
キ ャ リ ア 教 育 に お け る 「 卒 業 生 の 体 験 発 表 会 」 の 意 義 ( 39-43 ペ ー ジ )
・ 「 卒 業 生 の 体 験 発 表 会 」を 実 施 し て い る 中 学 校 は 3 割 に と ど ま る が ,26.7%の 卒 業 生( 第 2
位)が実施してほしかったと回答している。
・ 「卒業生の体験発表会」の意義は,同じ学校出身の先輩との交流を通して,生きた情報に
触れ,自分の進路について考えることにある。
・ 卒業生は「卒業生の体験発表会」において,特に「高等学校など上級学校の教育内容や特
色 」,
「 卒 業 後 の 進 路( 進 学 や 就 職 )に つ い て の 相 談 の 方 法 や 内 容 」
「高等学校などの上級学
校や企業への合格・採用の可能性」などを知りたいと考えている。
第6章
イ ン タ ー ン シ ッ プ に お け る 事 前 指 導 ・ 事 後 指 導 の 影 響 ( 44-49 ペ ー ジ )
・ インターンシップ経験は生徒の基礎的・汎用的能力を高めることに寄与する。
・ 事 前 指 導 に つ い て は ,「 就 業 体 験 の 目 的 を 確 認 す る た め の 指 導 」が 多 く 行 わ れ て お り 61.8%
で あ っ た 。事 後 指 導 に つ い て は ,
「 報 告 書・レ ポ ー ト の 作 成 」が 最 も 多 く ,70.6%で あ っ た 。
教科と関連付けた指導は行われていない。
・ インターンシップ経験が生徒の基礎的・汎用的能力を高めることに対して,事前指導・事
後指導が関連を持つことがうかがわれる。
・ 事前指導・事後指導が,その学校で行うインターンシップにとって必要な取組になってい
るかという視点から点検し,重点化を図ることが重要である。
第7章
高 等 学 校 に お け る 基 礎 的 ・ 汎 用 的 能 力 と 生 徒 の 学 習 意 欲 ( 50-56 ペ ー ジ )
・ 「 基 礎 的・汎 用 的 能 力 」が 高 い 生 徒 は ,
「 学 習 意 欲 」が 高 い 。よ り 厳 密 に は ,
「 基 礎 的・汎 用
的 能 力 」 の 自 己 評 価 が 高 い 生 徒 は 低 い 生 徒 よ り も , 約 15 ポ イ ン ト ~ 約 20 ポ イ ン ト 以 上 の
差 で 「 家 で の 学 習 に 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 」。
・ 「 学 習 意 欲 」が 最 も 低 下 す る 2 年 生 前 半 の 時 期 で あ っ て も ,
「 基 礎 的・汎 用 的 能 力 」の 自 己
評価が高い生徒は低い生徒よりも,
「 家 で の 学 習 に 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 」の 項 目 に「 あ
て は ま る 」 と 答 え る 割 合 が 約 8 倍 ~ 約 10 倍 高 い 。
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第 8 章 「 キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 」 と キ ャ リ ア 教 育 諸 活 動 と の 関 連 ( 57-63 ペ ー ジ )
・ キャリアプランニング能力を身に付ける者の割合は高等学校生活の進行とともに高まり,
高等学校生活に関する意識・態度の高まりとも関わっている。
・ 一 方 ,個 人 に 着 目 す る と ,
「 職 業 や 働 き 方 を 選 ぶ 際 に ,ど の よ う に 情 報 を 調 べ れ ば よ い か わ
かっている」に対する答えは,調査時期によって揺れ動いている。
・ 「 キ ャ リ ア プ ラ ン 等 の 作 成 」「 上 級 学 校 の 教 員 や 社 会 人 講 師 に よ る 出 張 授 業 ・ 講 演 会 」「 卒
業生による講演・体験発表会・懇談会」は,第1学年で行われると「職業・働き方につい
て の 情 報 源 の 理 解 」 に 寄 与 す る 。「 キ ャ リ ア ・ ポ ー ト フ ォ リ オ の 作 成 ・ 活 用 」 は 学 年 を 通
して,また特に第3学年において「職業・働き方についての情報源の理解」に寄与する。
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