第6章 インターンシップにおける事前指導・事後指導の影響

第6章
インターンシップにおける事前指導・事後指導の影響
1.普及してきたインターンシップ
就業体験活動(以下,インターンシップ)は,活動前までに学んできたことを働く場で
どのように活用できるのかを確認,実体験することができる重要な機会の一つである。ま
た,それらの経験からその後の進路を考えるきっかけとしても意義がある活動であり,ひ
いては形成してきた職業観・勤労観や態度を更に変容・成長させる機会になりうるという
意味でも,大切な活動として位置付けられる。
高 等 学 校 に お け る イ ン タ ー ン シ ッ プ は , 平 成 17 年 度 の 時 点 で は 59.3%の 公 立 高 等 学 校
( 全 日 制・定 時 制 )で 実 施 さ れ て い た が ,平 成 26 年 度 の 時 点 で 実 施 率 は 79.3%に 上 昇 し て
お り , 普 及 し て き て い る ( 注 1 )。
本報告書で分析に用いている「変容調査」に関しても,インターンシップの経験がある
生 徒 の 方 が 基 礎 的 ・ 汎 用 的 能 力 が 高 い と い う 結 果 が 報 告 さ れ て い る ( 注 2 )。
一方で,このような,大規模調査に基づいたインターンシップの効果が示される以前か
ら,インターンシップを充実させるという目的に照らして,事前指導・事後指導の重要性
が 繰 り 返 し 指 摘 さ れ て き た ( 注 3 )。こ れ ら の 指 摘 は ,イ ン タ ー ン シ ッ プ 経 験 が 基 礎 的・汎 用
的能力に影響することが明らかになったからこそ,以前より重要性が増している。
そこで,本章では,基礎的・汎用的能力へのインターンシップの影響に対して,事前指
導・事後指導がどのように関わりを持ちうるのかを検討する。具体的には,学校経由で実
施されたインターンシップについて,事前指導・事後指導の有無別に,基礎的・汎用的能
力 の 伸 び に 関 し て 分 析 す る ( 注 4 )。
分析に用いるデータは,
「 変 容 調 査 」の 生 徒 調 査 の う ち 第 4 回 及 び 第 6 回 調 査 と ,学 校 調
査の第3回分である。生徒調査の第4回調査は第2学年の後半で,第6回調査は第3学年
の後半で実施されている。また,学校調査の第3回は第3学年における実施状況を尋ねた
ものである。分析の対象を第3学年に焦点を絞る理由は,事前指導・事後指導に関する項
目が利用できるのが第3回調査に限られるためである。本章では,学校として実施したイ
ンターンシップについて着目するため,インターンシップを実施していない学校において
インターンシップに行ったと回答した(すなわち,学校とは関係なく自発的にインターン
シップを経験したと推定される)生徒は除外して分析する。
生徒調査には,基礎的・汎用的能力に関する項目が四つの領域(人間関係形成・社会形
成能力,自己理解・自己管理能力,課題対応能力,キャリアプランニング能力)それぞれ
に6項目が用意されており,各項目について四件法で尋ねている。本章では,この回答を
ま と め た 合 計 得 点 を 用 い る ( し た が っ て , 各 能 力 に つ い て 6~ 24 点 の 範 囲 で い ず れ か の 数
値 を 取 る )。学 校 調 査 か ら は ,イ ン タ ー ン シ ッ プ に 関 す る 変 数 ,及 び ,事 前 指 導・事 後 指 導
に 関 す る 変 数 を 用 い る 。な お ,変 数 に 関 す る 詳 細 は 参 考 資 料 欄( 66-68 ペ ー ジ )に 掲 載 し て
いる。
事前指導・事後指導の実施の別で,インターンシップが持つ基礎的・汎用的能力への影
響に違いが見られるのであろうか。
44
2.インターンシップの実施状況と基礎的・汎用的能力の推移
「 変 容 調 査 」の 学 校 向 け 第 3 回 調 査 が 実 施 さ れ た 時 点 で は ,第 3 学 年 に お い て イ ン タ ー ン
シ ッ プ を 実 施 し て い る 学 校 は 33 校 で , 全 体 の 15.7%を 占 め る ( 図 1 )。 実 施 し て い る 学 校
の 中 で ,イ ン タ ー ン シ ッ プ を 体 験 し た と 回 答 し た 生 徒 の 割 合 は ,全 体 の 14.2%( 748 名 )で
ある。ここからは,可能なかぎり比較する際の条件を合わせるため,第1学年及び第2学
年でインターンシップを経験したことがある生徒を除外し,第3学年で初めてインターン
シップを経験した生徒と,第3学年でもインターンシップを経験することがなかった生徒
( す な わ ち ,3 年 間 で 一 度 も イ ン タ ー ン シ ッ プ を 経 験 し な か っ た 生 徒 )の み に 焦 点 を 絞 る 。
な お , 第 3 学 年 で イ ン タ ー ン シ ッ プ を 経 験 し た 生 徒 は 485 人 , 経 験 が な い 生 徒 は 3,978 人
で あ る ( 図 2 )( 注 5 )。
これらの実施状況を踏まえ,体験したことがある生徒とない生徒の基礎的・汎用的能力
の推移を示すと,インターンシップ経験がある生徒の方がない生徒よりも基礎的・汎用的
能 力 の 数 値 が 高 く な っ た り , 差 を 縮 め た り と い っ た 特 徴 を 見 て 取 れ る ( 図 3 )。
4
実施
33
3,978
調査時点で未実施/3
485
年⽣以外で実施/実施
していない
180
0%
無回答
20%
40%
60%
3年⽣でインターン経験なし
図1
第3学年でのインターンシップ実施状
図2
況 ( N=217)
19.50
19.00
100%
3年⽣でインターン経験あり
第3学年でインターンを経験した生
徒 の 割 合 ( N=4,463)
20.50
20.00
80%
20.06
19.40
19.92
19.27
19.24
18.61
18.41
18.50
18.00
17.84
17.47
17.56
17.50
17.37
17.00
2年後半
3年後半
⼈間関係形成・社会形成能⼒
2年後半
17.42
17.17
3年後半
⾃⼰理解・⾃⼰管理能⼒
インターンシップ経験なし(N=3,955 ~ 3,972)
図3
18.87
18.69
18.41
2年後半
3年後半
課題対応能⼒
2年後半
キャリアプランニング能⼒
インターンシップ経験あり(N=483 ~ 485)
インターンシップ経験の有無別に見た基礎的・汎用的能力
45
3年後半
3.事前指導・事後指導の影響
他 方 で ,事 前 指 導・事 後 指 導 に つ い て 実 施 状 況 を 見 て み る と ,
「 変 容 調 査 」が 尋 ね て い る
九つの項目のうち,第3学年でインターンシップを実施している学校では,事前指導につ
い て は 体 験 活 動 の 目 的 を 確 認 す る 指 導 が ,事 後 指 導 に つ い て は 報 告 書・レ ポ ー ト の 作 成 が ,
多 く 行 わ れ て い る 指 導 内 容 で あ っ た ( 図 4 )。
事 前 指 導 に つ い て は ,「 就 業 体 験 の 目 的 を 確 認 す る た め の 指 導 」が 最 も 多 く ,61.8%で あ
った。
「 マ ナ ー 指 導( 礼 儀 作 法 や 挨 拶 の 方 法 の 指 導 等 )」が 47.1%,
「就業体験の内容に関す
る 事 前 の 調 べ 学 習 」 32.4%と 続 く 。
事後指導については,
「 報 告 書・レ ポ ー ト の 作 成 」が 最 も 多 く ,70.6%で あ っ た 。
「 訪 問・
受 入 先 に 対 す る お 礼 状 の 作 成 」が 32.4%,
「 就 業 体 験 に 関 す る 内 容 で の 個 人 面 談・個 人 指 導 」
が 17.6%,
「 就 業 体 験 に 関 連 し た 成 果 発 表 報 告 会 」が 11.8%と 続 く 。な お ,
「就業体験と教科
の 学 習 内 容 と を 結 び 付 け た 指 導 」 及 び 「 そ の 他 の 事 前 指 導 ・ 事 後 指 導 」 は 0.0%で あ っ た 。
80.0%
60.0%
70.6%
61.8%
47.1%
32.4%
40.0%
32.4%
11.8%
20.0%
17.6%
0.0%
0.0%
図4
事 前 指 導 ・ 事 後 指 導 の 実 施 状 況 (第 3 学 年 で イ ン タ ー ン を 実 施 し て い る 学 校 )( N=33)
20.50
20.00
19.50
19.60
19.00
19.05
20.21
19.95
19.71
18.71
18.46
18.50
18.00
17.39
17.00
2年後半
3年後半
⼈間関係形成・社会形成能⼒
2年後半
18.92
17.99
17.13
16.91
17.34
16.50
18.62
18.27
17.57
17.50
3年後半
⾃⼰理解・⾃⼰管理能⼒
実施していない(N=190 ~ 191)
図5
0.0%
2年後半
3年後半
課題対応能⼒
2年後半
3年後半
キャリアプランニング能⼒
実施している(N=292 ~ 294)
マナー指導(礼儀作法や挨拶の方法の指導等)の実施別に見た基礎的・汎用的能力の推移
46
20.50
20.35
20.00
19.92
19.50
19.81
19.40
19.21
19.00
18.97
18.65
18.53
18.50
18.54
18.34
18.00
17.85
17.54
17.29
17.50
2年後半
3年後半
2年後半
⼈間関係形成・社会形成能⼒
3年後半
⾃⼰理解・⾃⼰管理能⼒
実施していない(N=245 ~ 246)
図6
17.30
17.23
17.03
17.00
2年後半
3年後半
課題対応能⼒
2年後半
3年後半
キャリアプランニング能⼒
実施している(N=494 ~ 497)
就業体験の目的を確認するための指導の実施別に見た基礎的・汎用的能力の推移
20.50
20.00
20.15
19.95
19.46
19.50
19.00
19.47
19.04
18.79
18.46
18.50
18.00
17.31
17.50
17.42
17.24
17.08
17.00
2年後半
3年後半
2年後半
⼈間関係形成・社会形成能⼒
3年後半
⾃⼰理解・⾃⼰管理能⼒
実施していない(N=263 ~ 265)
図7
18.95
18.49
18.34 17.76
2年後半
17.13
3年後半
課題対応能⼒
2年後半
3年後半
キャリアプランニング能⼒
実施している(N=218 ~ 220)
訪問・受入先に対するお礼状の作成の実施別に見た基礎的・汎用的能力の推移
21.00
20.09
20.00
19.00
18.00
19.32
19.43
18.43
18.63
18.32
17.43
19.28
18.54
18.44
18.40
17.17
17.50
17.07
17.00
16.46
16.00
2年後半
3年後半
⼈間関係形成・社会形成能⼒
2年後半
17.11
3年後半
⾃⼰理解・⾃⼰管理能⼒
実施していない(N=455 ~ 457)
図8
2年後半
3年後半
課題対応能⼒
2年後半
3年後半
キャリアプランニング能⼒
実施している(N=27 ~ 28)
就業体験に関連した成果発表会等の実施別に見た基礎的・汎用的能力の推移
47
この状況を踏まえ,学校における事前指導・事後指導の実施状況と生徒のインターンシ
ップ経験の有無を組み合わせて,基礎的・汎用的能力の伸びを示したのが図5から図8で
ある。なお,紙幅の関係から事前指導,事後指導から二つずつ取り上げるにとどめている
が , 取 り 上 げ て い な い も の に つ い て は 参 考 資 料 欄 ( 87-89 ペ ー ジ ) に 掲 載 し て い る 。
マ ナ ー 指 導 の 実 施 別 に 見 て み る と( 図 5 ),マ ナ ー 指 導 を 実 施 し て い な い 学 校 で イ ン タ ー
ンシップを経験している生徒の方が全般的に基礎的・汎用的能力の水準が高いが,2年生
後半から3年生後半にかけての基礎的・汎用的能力の推移に着目すると,人間関係形成・
社会形成能力や課題対応能力に関しては若干であるが差を縮めており,自己理解・自己管
理能力については同じく若干であるが差を広げている。
就 業 体 験 の 目 的 確 認 の 実 施 別 に 見 て み る と( 図 6 ),自 己 理 解・自 己 管 理 能 力 に つ い て は ,
実施している学校でインターンシップを経験している生徒の方がより高い数値を示すよう
になる。
訪 問・受 入 先 に 対 す る お 礼 状 の 作 成 の 実 施 別 に 見 て み る と( 図 7 ),マ ナ ー 指 導 に 同 じ く ,
礼状作成を実施していない学校でインターンシップを経験している生徒の方が基礎的・汎
用的能力の水準が高いが,基礎的・汎用的能力の推移に着目すると,こちらもマナー指導
と同様に,人間関係形成・社会形成能力に関しては若干であるが差を縮めており,自己理
解・自己管理能力や課題対応能力についても若干ではあるが,より伸びている。
成 果 発 表 会 の 実 施 別 に 見 て み る と( 図 8 ),こ ち ら も 就 業 体 験 の 目 的 確 認 と 同 様 に ,自 己
理解・自己管理能力については伸びが見られる。
4.インターンシップが持つ可能性と今後の課題
大幅な変化とは言えないものの,インターンシップにおいて事前指導・事後指導の実施
が基礎的・汎用的能力の伸長に対して関連を持つ様子がうかがわれた。
今回の数値を見る際に,事前指導・事後指導を実施していない方が基礎的・汎用的能力
の平均値は高かったとしても,当該の指導をしない方が良いことを意味するわけではない
こ と に は 留 意 が 必 要 で あ る 。紙 幅 の 関 係 か ら 詳 細 は 割 愛 す る が ,各 種 の 事 前・事 後 指 導 は ,
キ ャ リ ア 教 育 の 学 校・学 年 の 目 標 を 設 定 し て い る 学 校 で 実 施 さ れ て い る 傾 向 に あ る 。ま た ,
進学率が高くない,すなわち,普通科であっても就職が生徒にとっては身近な進路である
学校において,事前・事後指導が実施されている傾向にある。
これは何を意味するかといえば,基礎的・汎用的能力の水準の高低そのものよりも,そ
の事前指導・事後がその学校の生徒にとって必要な内容であり,かつ変容・成長につなが
っているかという視点がこのようなデータを眺める上でより重要である,ということであ
る。マナー指導やお礼状の作成も,体験活動に参加する上でも,生徒の将来にとっても,
それ自体に意義がある指導内容である。その学校の生徒にとって必要ならば実施すべきで
あるし,かつ,それが生徒にとって意義がある内容になっているかという点に着目した方
が,より有意義な活動内容になっていくことであろう。この観点から活動を点検したとき
には,既存の取組を充実させる手掛かりのみならず,既存の取組内容を精選,重点化して
いく手掛かりも併せて得られていくものと考えられる。
大規模調査のデータから,事前指導・事後指導が影響力を有している可能性はかいま見
られた。これを踏まえて本章では,事前指導,インターンシップ,事後指導をどのように
48
相互に関連付ければより有効な教育活動になるかについて,各校にとって必要な活動なの
かという視点から改めて点検し,その結果に基づいて精選や改善を図るという観点を提案
したい。
( 注 1 ) 国 立 教 育 政 策 研 究 所 生 徒 指 導・進 路 指 導 研 究 セ ン タ ー『 職 場 体 験・イ ン タ ー ン シ
ッ プ 実 施 状 況 等 調 査 』( 各 年 度 版 ) を 参 照 。
(注2) 『高等学校普通科におけるキャリア教育の実践と生徒の変容の相関関係に関す
る 調 査 研 究 』 平 成 26 年 度 報 告 書 ( 46 ペ ー ジ )
( 注 3 ) 例 え ば『 高 等 学 校 キ ャ リ ア 教 育 の 手 引 き 』
( 文 部 科 学 省 2011)で は イ ン タ ー ン シ
ッ プ 充 実 の ポ イ ン ト と し て 「 十 分 な 事 前 指 導 ・ 事 後 指 導 を 実 施 す る 」( 115 ペ ー
ジ )こ と を 挙 げ て い る 。事 前 指 導・事 後 指 導 を 十 分 に 実 施 し て い る ホ ー ム ル ー ム
担任の方がキャリア教育の成果を実感する割合が高いという調査結果もある
( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 生 徒 指 導 ・ 進 路 指 導 研 究 セ ン タ ー 2013『「 キ ャ リ ア 教 育 ・
進路指導に関する総合的実態調査」パンフレット-学習意欲の向上を促すキャ
リ ア 教 育 に つ い て - 』)。
( 注 4 ) 『 変 容 調 査 報 告 書 』で も 事 前 指 導・事 後 指 導 と 基 礎 的・汎 用 的 能 力 の 関 連 は 検 討
し て い る が ( 51 ペ ー ジ ), 事 前 指 導 の 一 つ で あ る 事 前 の 調 べ 学 習 の 実 施 が 基 礎
的・汎 用 的 能 力 に 対 し て 直 接 的 に 影 響 を 及 ぼ す か を 検 討 し て い る た め ,イ ン タ ー
ンシップと組み合わせた分析にも意義があるだろう。
( 注 5 ) 未 回 答 等 で 732 人 が 分 析 か ら 除 外 さ れ て い る 。
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