特定居住用宅地等の取扱い【事例編】

経 ViewPoint
営相
相続税の小規模宅地等の特例
談
2016.4.1
特定居住用宅地等の取扱い【事例編】
福田和仁
相談部 東京相談室
個人が、相続または遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において、
被相続人等の事業の用の供されていた宅地等または居住の用に供されていた宅地等の
うち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下、小規模宅地等)について
は、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特
例を「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」といいます。
今回は、小規模宅地等のうち、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(以下、
特定居住用宅地等)の平成22年度税制改正後の取扱いについて、①二世帯住宅の宅地
等、②老人ホーム入居または入所(以下、入居等)の宅地等――を解説します。
特例改正の詳細は、「経営相談 View Point」のバックナンバー、2014 年6月2日発行「
『小
規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例』の改正(平成 25 年度税制改正事項)
もご参照ください。
☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/sl_info/view_point/pdf/sodan140602.pdf
1. はじめに
特定居住用宅地等で、一定の要件(注)を満たすものがある場合は、その宅地等の相続税評価額は一
定割合が減額されます。この特例の適用を受けるものとして選択した宅地等(選択特例対象宅地)につ
いて、相続課税価格に算入すべき宅地等の価額は、330 ㎡の限度面積まで、20%の割合を乗じて計算し
た金額(財産の評価額を 80%減額)とすることができます。
注:①被相続人の居住の用に供されていた宅地等で、被相続人と同居していた親族が取得し、相続税の申告期限までそ
の家屋に居住し、かつその宅地等を所有している場合。
②被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等で、その生計を一にしていた親族が取得し、相
続税の申告期限までその家屋に居住し、かつその宅地等を所有している場合。
③被相続人の居住の用に供されていた宅地等で、被相続人の配偶者および被相続人の相続人である同居親族がいな
い場合で、相続開始前3年以内に国内の自己またはその配偶者の所有する家屋に居住したことがない親族が取得
し、相続税の申告期限までにその宅地等を所有している場合(以下、本稿では便宜上「家族なし特例」
)
。
※被相続人の配偶者が取得した場合は、上記①~③の要件を満たす必要がなく、原則として特例の適用が受けられます。
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2016.4.1
2. 二世帯住宅と特定居住用宅地等
[1]区分所有なし:外階段/生計別親族が取得する場合
Q.
被相続人Aが所有する宅地の上に、Aの所有する建物があり、1階にAが居住し、2階に子
Bとその家族が居住しています(建物内部では行き来ができない構造)。AとBは別生計で
す。この場合、Aの所有する建物とその敷地をBが相続で取得し、相続税の申告期限までそ
の建物に居住し、その敷地を所有している場合、Bが取得した敷地は特定居住用宅地等に該
当しますか。
生計別
【2階】子Bと家族居住
【敷地・建物】A所有 → B取得
【1階】A居住
【敷地】A所有
A.
子Bが取得した敷地全体が、特定居住用宅地等に該当します。
区分所有でない1棟の建物に被相続人とその親族が居住していた場合は、被相続人の居住の用に供
していた宅地等の範囲には、その敷地のうち被相続人の居住していた部分だけでなく、被相続人の親
族(生計別親族も含む)の居住の用に供されていた部分も含まれます。また、Bは特定居住用宅地等
の取得者の要件である、相続税の申告期限における居住継続の要件と、所有継続の要件を満たす必要
がありますが、これらの要件も満たしています。したがって、子Bが取得した敷地全体が、被相続人
の同居親族が取得した宅地等として特定居住用宅地等に該当することになります。
[2]区分所有あり:外階段/生計別親族が取得する場合
Q.
被相続人Aが所有する宅地の上に、Aと子Bがそれぞれ区分所有する建物があり、1階には
Aが居住、2階にはBとその家族が居住しています(建物内部で行き来ができない構造)。
AとBは別生計です。この場合、Bが敷地全部と建物のうちAが区分所有する部分を相続で
取得し、相続税の申告期限までその建物に居住し、その敷地を所有している場合、Bが取得
した敷地は特定居住用宅地等に該当しますか。
生計別
【2階】子Bと家族居住
区分
所有
【1階】A居住
【2階】B所有
【1階】A所有 → B取得
【敷地】A所有 → B取得
【敷地】A所有
※土地は無償(使用貸借)
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A.
2016.4.1
子Bが取得した敷地全体が、特定居住用宅地等に該当しません。
区分所有の場合、被相続人の居住の用に供されていた宅地等の範囲は、被相続人が居住していた部
分に限られます。したがって、このケースでは、被相続人が区分所有していた1階部分に対応する敷
地のみとされ、そこに居住していなかった子Bは同居親族に該当しません。
また、子Bは生計を一にしていないため、生計一親族の居住の用に供されていた宅地等に該当する
部分はなく、さらにBは自宅として2階部分を所有していることから「家なし親族」にも該当せず、
Bが取得した敷地全体が、特定居住用宅地等に該当しないことになります。
[3]共有名義:外階段/生計別親族が取得する場合
Q.
被相続人Aが所有する宅地の上に、Aと子Bがそれぞれ区分所有する建物があり、1階には
Aが居住、2階にはBとその家族が居住しています(建物内部で行き来ができない構造)。
AとBは別生計です。この場合、Bが敷地全部と建物のうちAが区分所有する部分を相続で
取得し、相続税の申告期限までその建物に居住し、その敷地を所有している場合、Bが取得
した敷地は特定居住用宅地等に該当しますか。
生計別
【2階】子Bと家族居住
1/2 ずつ
共有
【1階】A居住
【2階】B所有
【1階】A所有 → B取得
【敷地】A所有 → B取得
【敷地】A所有
※土地は無償(使用貸借)
A.
子Bが取得した敷地全体が、特定居住用宅地等に該当します。
建物が共有名義であっても、区分所有でない一棟の建物に被相続人が居住していたことに変わりは
ありません。したがって、このケースは[Q2]ではなく[Q1]と同様の取扱いとなり、敷地全体
が被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当します。
また、Bは特定居住用宅地等の取得者の要件である、相続税の申告期限における居住継続の要件と、
所有継続の要件を満たしています。したがって、子Bが取得した敷地全体が被相続人の同居親族が取
得した宅地等として特定居住用宅地等に該当します。
[4]区分所有あり:外階段/「家なし親族」が取得した場合
Q.
被相続人Aが所有する宅地の上に、Aと子Bがそれぞれ区分所有する建物(建物内部で行き
来ができない構造)が建ち、1階にはA(配偶者はいない)が単身で居住し、2階には子B
とその家族が居住しています。Aに相続が発生し、この敷地全部と建物のうちAが区分所有
する部分を、別の場所で5年以上前から賃貸アパートに居住中の子C(Aとは別生計)が相
続で取得し、相続税の申告期限まで所有している場合、Cが取得した敷地は特定居住用宅地
等に該当しますか。
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生計別
2016.4.1
【2階】子Bと家族居住
【2階】B所有
【1階】A居住
【1階】A所有 → 子C取得
【敷地】A所有
【敷地】A所有 → C取得
※土地は無償(使用貸借)
A.
子Cが取得した敷地のうち、Aが居住していた1階部分の敷地が特定居住用宅地等に該当します。
上記[Q2]のとおり、区分所有の場合、被相続人の居住の用に供されていた宅地等の範囲は、被
相続人の居住していた部分に限られ、
このケースでは被相続人が区分所有していた1階部分に対応す
る敷地のみとされます。Aの相続人である子Cが宅地等を取得した場合は、①被相続人Aには配偶者
がいないこと、②生計別親族の子Bは、同居親族に該当しないこと――から、Cは「家なし親族」に
該当します。さらに、Cは家なし親族としての取得者の要件である、相続税の申告期限における所有
継続要件を満たしています。したがって、Cが取得する宅地等のうち、被相続人が居住していた1階
部分の敷地が、特定居住用宅地等に該当することになります。
3. 老人ホーム入居等と特定居住用宅地等
[1]引き続き居住する親族が取得する場合
Q.
要介護の認定を受けていた被相続人Aと子Bは、Aが所有する宅地の上に建つA所有の建物
に同居をしていました。AとBの生計は一でした。Aが老人ホームに入居等をすることにな
り、その後Bは引き続きこの建物に居住していましたが、Aは一度もその建物に戻ることな
く相続が発生し、Bがその敷地と建物を取得し、相続税の申告期限までその建物に居住し、
その敷地を所有しています。Bが取得した敷地は、特定居住用宅地等に該当しますか。
A.
子Bが取得した敷地全体は、特定居住用宅地等に該当します。
相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、被相続人が
相続開始の直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受け、老人福祉法等に規定する特別
養護老人ホーム等に入居等をしていたときは、その被相続人により老人ホーム等に入居等をする直前
まで居住の用に供されていた宅地等は、次の場合を除き、相続開始の直前において被相続人の居住の
用に供されていた宅地等に該当するものとされます。
ここでいう「除かれる場合」とは、被相続人が老人ホーム等に入居等をした後に、その宅地等が事
業の用、または被相続人等(老人ホーム等への入居等の直前において、被相続人と生計を一にし、か
つ、その宅地等の上の建物に引き続き居住している被相続人の親族を含む)以外の者の居住の用――
に供されている場合とされます。なお、被相続人等以外の者の居住の用とは、新たに被相続人等以外
の者の居住の用に供されたことをいいます。
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このケースでは、敷地は、被相続人等以外の者の居住の用に供されていないので、被相続人の居住
の用に供されていた宅地等に該当します。そして、Bは相続開始の直前から相続税の申告期限まで引
き続きその建物に居住し、かつその敷地を所有していることから、特定居住用宅地等の取得者の要件
を満たしていますので、Bが取得した敷地は特定居住用宅地等に該当することになります。
[2]老人ホーム入居等の後に介護認定を受けた場合
Q.
被相続人Aと子Bは、Aが所有する宅地の上に建つA所有の建物に同居をしていました(下
図①)。AとBの生計は一でした。その後、被相続人Aは老人ホームに入居等をすることに
なりましたが、Bは引き続きこの建物に居住を継続していました(同②)。Aは、入居等の
後に介護認定を受け、一度もその建物に戻ることなく相続が発生し、Bが敷地と建物を取得
し、相続税の申告期限までその建物に居住し、その敷地を所有しています(同③)。Bが取
得した敷地は、特定居住用宅地等に該当しますか。
① 以前の状況
② ホーム入居時
▼ Aがホームに入居
A.
③ 相続発生時
▼ Aの介護認定
【建物:A所有】
・A居住
・子B同居
【建物:A所有】
・B居住
【建物:A所有】
・B居住
【敷地:A所有】
【敷地:A所有】
【敷地:A所有】
【敷地・建物】
A所有
→ B取得
子Bが取得した敷地は、特定居住用宅地等に該当します。
要介護認定等の認定を受けていたかどうかは、老人ホーム入居等の時ではなく、相続開始時点で判
定されます。このケースにおける敷地は、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されてい
た宅地等に該当します。また、子Bは特定居住用宅地等の取得者の要件を満たしていますので、Bが
取得した敷地は特定居住用宅地等に該当することになります。
内容は2015年9月30日時点の情報に基づいて作成されたものです。
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