経 ViewPoint 営相 談 減損会計の基礎知識 米澤潤平 2016.3.1 相談部 東京相談室 昨今、上場企業などの有価証券報告書などにおいて、減損会計の適用による「減損損 失」が、損益計算書の特別損失に計上されている例が非常に多くなっています。新聞 などでも「○○事業について減損処理を行い、○○億円の減損損失が計上された」と いった記事が頻繁に見受けられようになり、その名称は一般にも定着してきました。 今回は、このような状況を踏まえ、減損会計の意義や目的などを改めて確認し、減損 損失計上に至るまでの過程などについて、事例を示して解説します。 1. 減損会計とは [1]意義・目的 企業は、将来の収益獲得のため固定資産に投資をしますが、投資した案件の中には予想に反して収益 性が低下し、投資額の回収が見込めなくなってしまうものもあります。このような状態を「固定資産の 減損」と言います。減損会計は、固定資産の減損が生じた場合には、一定の条件の下で、固定資産の帳 簿価額を減額させることを求めています。この処理を「減損処理」と言い、その際には帳簿価額を減額 するとともに、同額を「減損損失」として損益計算書の特別損失に計上することになります。 固定資産の減損は、いずれ売上の減額や固定資産の除却損などで顕在化しますが、減損会計では将来 に損失を繰り延べないため、減損が生じた時点での減損処理を求めています。このような目的・性格か ら、減損処理は金融商品に適用される時価評価(決算日時点の保有資産の時価を貸借対照表に計上し、 評価損益の把握を目的とする)とは異なるものです。 [2]適用関係 「中小企業の会計に関する指針」および「中小企業の会計に関する基本要領」では、技術的困難性 などの理由から、中小企業には減損会計の厳密な適用を求めていません。したがって、直接的に減損 会計の適用を受けるのは、上場企業やその子会社等の金融商品取引法適用会社および会社法上の会計 監査人設置会社ということになります。しかし、固定資産の減損が生じた場合には、将来に損失を繰 り延べないため、減損処理(過大な帳簿価額の減額・減損損失の計上)を行うという減損会計の趣旨 を理解しておくことは、中小企業経営においても非常に有用といえます。 1 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.3.1 2. 減損損失の計上過程 [1]資産のグルーピング 減損会計は、企業が投資をした固定資産(有形固定資産のほか、のれん等の無形固定資産なども含 む)を適用対象としますが、通常、固定資産は他の固定資産と相互に関連して収益やキャッシュ・フ ロー(以下、CF)を生み出すものと考えられます。 こうしたことを踏まえ、減損会計では、減損処理の検討を行うにあたり、まずCFを生み出す固定 資産の単位を決定することを求めています。これを「グルーピング」と言い、その際の単位は「概ね 独立したCFを生み出す最小の単位」とされています。これは、後述しますが、グルーピングの単位 が大きくなるほど減損処理を求められる可能性が小さくなり、また減損処理を求められる場合の減損 損失の金額が小さくなるなどの理由によるものです。 例えば、小売業を営む甲社は、乙エリアにA・B・Cの3店舗を展開し、各店舗個別に収益管理を 行う一方、それとは別に乙エリア全体の収益管理も行っているとします(下図)。このような場合には、 減損会計を適用するグルーピングの単位は原則各店舗となり、乙エリアをグルーピングの単位とする ことは原則として認められません。 グルーピングにおける「概ね独立したCFを生み出す最小の単位」の考え方は難しい部分もありま すが、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位などを考慮してグルーピング の方法を定めることになると考えられます。 乙エリア (エリア全体の収益管理) A店舗 (店舗別収益管理) B店舗 (店舗別収益管理) C店舗 (店舗別収益管理) [2]減損の兆候の判定 資産のグルーピングを終えた後は、当該資産グループについて、3つのステップに従って、減 損処理を行うかどうか、また減損処理を行うとすればいくらの減損損失を計上するのか――を検 討していきます。 ■減損会計の3ステップ ① 兆候 ② 認識 ③ 測定 最初のステップである「兆候」の判定とは、主に利益操作の排除や実務負担への配慮という側面か ら求められるものです。企業はさまざまな投資を行っていますから、グルーピングされたそれぞれの 2 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.3.1 資産グループについて1つひとつ減損処理の検討を行っていくことは困難です。そこで、各資産グル ープについて、まず収益性低下などの減損の「兆候」があるかどうかを確認し、実際に兆候がある資 産グループについては次のステップに進みます。反対に言えば、兆候がない資産グループについては、 この時点で減損処理が「不要」と判断できるということです。 減損の兆候として、会計基準では下表のような状況を示しています。検討を行う資産グループがい ずれかに該当する場合は、次の「認識」のステップに進まなければなりません。なお、下表で示した 兆候の「概要・例示」は、紙幅の都合により、代表的なものを列記しています。 兆候 概要・例示 営業活動から生ずる損益またはCFが ・概ね過去2期がマイナス(事業の立ち上げ時などにお 継続してマイナスの場合 いては該当しない場合もあり) 使用範囲または方法について、回収可能 ・事業の廃止や再編成(事業の大規模縮小などを含む) 価額を著しく低下させる変化がある場合 ・著しい稼働率の低下や著しい陳腐化 経営環境の著しい悪化の場合 ・材料価格の高騰、販売量の著しい減少 ・重要な法律改正、規制緩和や規制強化 市場価格の著しい下落の場合 ・市場価額が帳簿価額の 50%程度以上、下落した場合 [3]減損の認識の判定 減損の兆候の判定ステップで「減損の兆候あり」と判断された資産グループは、次の減損の「認 識」の判定ステップに進みます。減損の「認識」の判定とは、減損の兆候ありとされた資産グル ープについて、本当に減損損失を認識(計上)する必要があるかどうかを判定することです。 具体的には、対象となる資産グループを使用・売却するなどにより、将来生み出すCFが、当 該資産グループの帳簿価額を下回る場合は、「減損損失を認識すべき」と判断します。なお、将 来CFは、その算定期間が長期にわたるため、通常はお金の時間価値を鑑み割引計算を行います が、ここでは割引前の将来CFを用います。これは、割引前の時点の将来CFが現在の帳簿価額 を下回るのであれば、将来的に損失が発生する可能性が高く、減損の存在は相当程度に確実であ ろう、との考えに基づきます。 資産グループの 割引前将来CF 資産グループの 帳簿価額 減損損失を 認識する必要あり! ここで、第1項「資産のグルーピング」で紹介した小売業・甲社のA店舗について、減損の認識の 判定(「減損の兆候あり」と判定されたものとします)を行ってみます。次ページの表はA・B・C 3 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.3.1 各店舗および乙エリア全体(共用資産などはなく、3店舗の単純合計)の資産グループの帳簿価額と 割引前将来CFを一覧にしたものです。 単位:千円 A店舗 B店舗 C店舗 乙エリア全体 帳簿価額 18,000 22,000 15,000 55,000 割引前将来CF 16,000 25,000 20,000 61,000 この場合、A店舗は割引前将来CFが帳簿価額を下回っているため、「減損損失を認識する必要あ り」と判定されます。しかし、仮に第1項「資産のグルーピング」の段階で、乙エリア全体を「独立 したCFを生み出す最小の単位」としてグルーピングの単位とした場合は、割引前将来CFが帳簿価 額を上回っているため、減損損失の認識は「不要」と判定されてしまいます。この点は、第1項でも 説明しましたが、「グルーピングの単位が大きくなるほど減損処理を求められる可能性が小さくなっ てしまう」ことから、留意が必要です。 [4]減損損失の測定 減損の認識の判定ステップで「減損損失を認識する必要あり」と判定された資産グループは、 最後の減損損失の「測定」ステップに進みます。減損損失の「測定」とは、文字どおり減損損失 をいくら計上すべきかを測定することです。 計上すべき減損損失の金額は、資産グループの「帳簿価額」と「回収可能価額」との差額とな ります。回収可能価額とは、資産グループを構成する固定資産を①売却した場合の「正味売却価 額」と、②継続して使用した場合の割引後の将来CF(基本的には第2項「減損の兆候の判定」 で算出した割引前将来CFを現在価値に割引計算したもの)である「使用価値」を比較し、どち らか大きい方となります。 資産グループの 帳簿価額 回収可能価額 (正味売却価額 or 使用価値) 減損損失計上額 (P/L特別損失) 甲社のA店舗の固定資産の正味売却価額が 10,000 千円、使用価値が 13,000 千円であったとす ると、A店舗における減損損失の額は以下のようになります。 18,000 千円(帳簿価額)-13,000 千円(使用価値=回収可能価額)=5,000 千円 なお、一度計上した減損損失は、たとえ将来に収益性が回復したとしても、戻入れを行うこと はできません。 4 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.3.1 3. 税務との関連 法人税においては、会計上の減損損失は固定資産の評価損を計上したものとされます。法人税に おける固定資産評価損の損金算入要件は、減損会計の減損処理要件と異なるため、多くの場合、減 損損失は法人税における評価損の損金算入要件を満たしません。この場合、会計上の減損損失の額 (土地等の非償却性資産に係るものを除く)について、税務上は減価償却費として損金経理したも のとされ、償却限度額を超える部分の金額は損金不算入とされます。 なお、損金不算入とされた場合は、税務上と会計上の固定資産の帳簿価額に差異が発生(将来減 算一時差異)するため、本来は税効果会計を適用していく必要があります 内容は2015年9月25日時点の情報に基づいて作成されたものです。 本情報は、法律、会計、税務などの一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家 (弁護士、公認会計士、税理士など)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写・複製(コピー)することは著作権法 上での例外を除き、禁じられています。 みずほ総合研究所 相談部東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 5
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