経 ViewPoint 2016.1.4 営相 談 決算書から不適切経理(粉飾決算)を 見抜く手法と事例解説 米澤潤平 相談部 東京相談室 一部の企業において、経理処理についての認識不足や赤字決算を避けるためなどの理 由により、不適切な経理処理や虚偽の決算書の作成(粉飾決算)が行われることがあ ります。そうした行為が疑われる企業との取引を事前に避けたり、取引を縮小するた めには、不適切経理や粉飾決算(以下、「不適切経理等」)の概要を把握し、決算書 に表れる財務上の影響を理解しておく必要があります。 今回は、一般に多く見られる不適切経理等について、事例と概要、財務に与える影響 などを解説します。 1. はじめに 不適切経理等を行っている企業と取引を続け、その不適切経理等が表面化した場合は、自社の側も大 きな損失計上や信用不安などの影響を受けかねません。このような取引先との取引を回避するためには、 企業の決算書を長期的な視点で分析していくことが有効な手立ての1つとなります。 不適切経理等を長期にわたって続けていると、財務上の影響が決算書に如実に表れます。企業財務の 専門家以外の者が実務上、外部から取引先の不適切経理等を見抜くことは容易ではありませんが、下 表に掲げた科目などの増減については特に注視する必要があるといえます。 科目など 長期的な推移や傾向 疑われる取引例とその影響(注) 売掛金などの売上債権 恒常的な増加、売上債権回収日数の長 期化(悪化) 架空売上による実在しない債権の存在 循環取引による不良債権の存在 商品などの棚卸資産 恒常的な増加、棚卸資産在庫保有日数 の長期化(悪化) 架空在庫による実在しない在庫の存在 循環取引による不良在庫の存在 仮払金・立替金 など 恒常的な増加(総資産の増加率よりも 明らかに大きい) 費用・損失を資産計上することによる 利益調整 ⇒ 費用の繰り延べ 引当金・未払法人税 など 金額が著しく少額または未計上 負債等の簿外化(それに伴う費用の未計 上)による利益調整 ⇒ 費用の繰り延べ 減価償却費 (償却性資産の残高) 金額が著しく少額または未計上 (残高の減少が緩やか) 償却負担回避による利益調整 ⇒ 費用 の繰り延べ(償却性資産の過大計上) 雑収入・特別利益科目 経常的に多額の金額を計上 関係会社間の不公正取引による利益 調整 注:不適切経理等に係るものであり、原因が経営不振による場合などは除きます。 1 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.1.4 2. 架空売上・架空在庫 [1]概要 架空売上 架空在庫 架空の注文書を作成し、実在しない商品の出荷を偽装するなどにより、売上を 水増しすること。 架空の発注書・納品書を作成し、実在しない商品を実在するよう見せかけて棚 卸資産(在庫)を水増しすること。 [2]財務上の影響 ●売上が増加し、原価はないため同額利益も増える ⇒ 原価率の不自然な低下。 ●売上と同額の売掛金が増加 ⇒ 実体のない債権の存在 ⇒ 実体がないため現 架空売上 金化不可 ⇒ お金の裏付けのない利益が発生する(キャッシュ・フローには 影響がない) 。 ●売上債権回収日数(=売上債権÷売上高×365 日)の長期化(悪化)。 ●売上原価が減少し、同額利益も増える ⇒ 原価率の不自然な低下。 ●売上原価の減少と同額棚卸資産が増加 ⇒ 実体のない在庫の存在 ⇒ 実体が 架空在庫 ないため販売・現金化不可 ⇒ お金の裏付けのない利益が発生する(キャッ シュ・フローには影響がない) 。 ●棚卸資産在庫保有日数(=棚卸資産÷売上原価×365 日)の長期化(悪化)。 [3]事例解説 A社は、決算直前に今期の予想利益が目標に達しないことが判明したため、期 末に架空の注文書を作成し売上 5,000 千円を計上した。 架空売上 ■A社の不適切経理等(単位:千円) 売掛金 5,000 / 実体のない債権(現金化不能) が貸借対照表に計上される。 売上 5,000 何も販売などをしていないのに、 損益計算書に売上が計上される。 B社は、当期の利益をかさ上げするため、期末に架空の商品を実在するよう見 せかけ在庫を 4,000 千円水増しした。 架空在庫 ■B社の不適切経理等(単位:千円) 商品 4,000 / 売上原価 4,000 実体のない在庫(販売・現金化 売上原価の計算上、売上原価が 不能)が貸借対照表に計上される。 減少し、その分利益が増える。 2 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.1.4 3. 負債などの簿外化 [1]概要 回収不能が見込まれる債権に対する貸倒引当金や、その他の計上すべき引当金、未払法人税等の 負債を計上しないこと。 [2]財務上の影響 ●引当金の繰入額や確定申告分の法人税等の額が減少することで、同額利益が増える。 ●お金の裏付けのない利益が発生する(キャッシュ・フローには影響がない) 。 ●貸借対照表に引当金や未払法人税等が計上されない ⇒ 翌期以降の費用や損失が増加する可能性 (費用・損失の繰延べ)。 [3]事例解説 C社は、赤字決算を回避(=税引後当期純利益を黒字化)するため、回収不能が予想される債権 額 2,000 千円について貸倒引当金の計上を見送った。また、翌期に納付する当期の確定申告分の法 人税等の額 3,000 千円についても未払い計上しないこととした。 ■C社の不適切経理等(単位:千円) 会計処理なし ★本来は、以下の会計処理を行うべきであり、行わない分利益が 5,000 千円増える ( 貸倒引当金繰入 2,000 ( 法人税、住民税および事業税 / 貸倒引当金 3,000 / 2,000 ) 未払法人税等 3,000 ) 4. 関係会社間の不公正取引 [1]概要 親子会社間などの関係会社間で、 単なる益出しのため有価証券や不動産などの売却を行うことや、 期末に商品の押し込み販売等など行うこと。売却した資産を翌期に買い戻すケースも多い。 [2]財務上の影響 ●益出し取引の場合、有価証券等の資産の売却益が計上され、売却資産の帳簿価額が減少する(注)。 ●押し込み販売の場合、売上と売上原価が増加し、対応する売掛金が増加し棚卸資産が減少する(注)。 注:これらは、会計処理に誤りがあるわけではなく、その取引自体の妥当性が問題となり、妥当性がなければ修正の 検討が必要となります。特に関係会社間で決算期が異なる場合は、注意が必要です。 3 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.1.4 [3]事例解説 D社は、期末になって当期の目標利益を達成するため、子会社E社に簿価 5,000 千円の投資有価 証券を 8,000 千円で売却した。さらに、D社は、E社の事業に不要な商品(簿価 2,000 千円)をE 社に 3,000 千円で販売した。 ■D社の不適切経理等(単位:千円) 現金預金 8,000 / 投資有価証券 5,000 有価証券売却益 3,000 売掛金 3,000 / 売上 3,000 売上原価 2,000 / 商品 2,000 合計 4,000 千円の利益を本 当にD社の実力と見てよい か? 5. 循環取引 [1]概要 複数の会社間で実需のない商品などの転売が繰り返されていくこと。循環取引の発端である会社 が、自社の販売した商品を買い戻し、さらにに転売していくケースが典型的。 循環取引に加担する会社は容易に売上と利益を伸ばすことができるが、その売上は実需に基づく ものではないため、会計上は架空売上に近い取引と考えられる。また、循環取引加担企業間での転 売にあたっては、取引価額に手数料(利益)が上乗せされるため、循環取引回数が増えれば増える ほど取引価額は膨らんでいき、いつかは加担企業の中で決済資金が捻出できない会社が現れ、破綻 してしまう。 [2]財務上の影響 ● 販売した商品などについての売上と売上原価が増加し、両者の差額が利益となる。 ● 売掛金も増加するが実際に決済(回収)されるため、回収後であれば売掛金の増加はない(架空 売上との違い) 。 ● 販売した商品などを買い戻す際の購入価額には、循環取引加担企業に対する手数料(利益)が上 乗せされている ⇒ 再度転売するまでの間、含み損のある棚卸資産(在庫)を抱えることになる。 ● 循環取引回数が増えれば増えるほど取引価額は膨らんでいくため、いつかは加担企業の中で決済 資金が捻出できない会社が現れる ⇒ 多額の貸倒損失等の発生リスクを抱えることになる。 ● 一連の循環取引で利益は増えるが、買い戻しによりキャッシュ・フローはマイナスとなる。 [3]事例解説 F社は、売上高をかさ上げするため、協力会社G社に簿価 800 千円の商品Xを 1,000 千円で販売 し、代金 1,000 千円を受け取った。その後、商品Xは協力会社H社およびI社を経由し、F社はI 社から商品Xを 1,600 千円で買い戻し、代金 1,600 千円を支払った。買い戻した商品Xは、F社の 期末在庫残高に含まれている。 4 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.1.4 ■F社の不適切経理等(単位:千円) 売掛金 1,000 / 売上 1,000 売上原価 800 / 商品 800 現金預金 1,000 / 売掛金 1,000 <その後> 仕入(商品)1,600 / 買掛金 1,600 買掛金 / 現金預金 1,600 1,600 買い戻しにより、キャッシ ュ・フローはマイナスとなっ てしまう! 内容は2015年9月4日時点の情報に基づいて作成されたものです。 本情報は、法律、会計、税務などの一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家 (弁護士、公認会計士、税理士など)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写・複製(コピー)することは著作権法 上での例外を除き、禁じられています。 みずほ総合研究所 相談部東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 5
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