地方拠点強化税制の創設

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営相
談 地方拠点強化税制の創設
坂本和則
木本 泉
2016.11.1
相談部 東京相談室
相談部 大阪相談室
本社機能を地方へ移転することを計画中である場合や、分散した研究所施設や教育研
修所を地方に集約化することなどを検討している場合などには、平成27年度税制改正
により創設された「地方拠点強化税制」を活用することが考えられます。この制度は、
法人が本社機能などを東京23区から地方へ移転させたり、地方において拡充しようと
することにより、国が認めた地域を活性化する一定の場合について、税制面などで優
遇しようとするものです。
今回は、税制面を中心に、この制度の概要を解説します。
※個人事業者についても、法人と同様の措置が講じられていますが、ここでは法人に対する措置を前提に
解説しています。
1. 概要
[1]優遇措置を受けられるケース
重要な役割を担う事業所(以下、「特定業務施設」)の地方への移転や地方における拡充を行う一定
の場合について、
「認定事業者」
(次項[2]参照)は、
「特定業務施設の新設または増設に関する課税
の特例(オフィス減税)
」や「特定業務施設において従業員を雇用している場合の課税の特例(雇用促
進税制)」などの優遇措置を受けることができます。
これらの優遇措置を受けられる業種に制約はありませんが、工場や店舗などは、
「特定業務施設」に
該当しません。なお、
「認定事業者」は、上記のほか、特例措置として中小企業基盤整備機構による債
務保証や、企業の地方拠点強化に係る地方税について、一定の優遇措置を受けることができます。
■該当する事例
● 東京に本社を置く企業が、創業の地である地方都市に新社屋を建設し本社を移転
● 研究開発部門の成果をいち早く量産に結びつけるため、当該部門を地方の主力生産工場のある
地域に集約
● 複数の事業所で分散して実施していた教育機能を一元化する目的で、地方に総合研修施設を建設
など
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[2]認定を受けるには
地方拠点強化税制を受けるためには、下記(1)に掲げた①~③の条件に適合した事業者が、
「認定
地域」に建物を建設または取得し、事業に用いることなどを内容とする「地方活力向上地域特定業務
施設整備計画」
(以下、
「計画」)を作成し、都道府県(注1)から認定を受けることが必要です(以下、
認定を受けた事業者を「認定事業者」
)。なお、認定地域は「産業立地支援サイト」
(http://ritti.net)
などで確認することができます。
注1:一定の地域再生計画で認定を受けているもの。
(1)認定を受ける条件
① 都道府県が策定する「地域再生計画」に適合すること。
② 本社機能において、従業員数が 10 人(中小企業者(注2)の場合は5人)以上増加すること(下
記(3)で解説する「移転型」の場合は、従業員の過半数が東京圏からの移転)
。
③ 円滑かつ確実に実施されると見込まれること。
注2:
「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」の第2条で定義される中小企業者。詳しくは、中小企業庁ホー
ムページ(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shinpou/chikujou_kaisetu/)をご参照ください。
(2)認定前後の流れ
(3)拡充型と移転型
事業者が作成する「計画」には、①地方において本社機能を拡充する場合=「拡充型」②本社機能
などを東京 23 区から認定地域へ移転などをする場合=「移転型」――の2タイプがあり、それぞれ
税制優遇措置の内容が異なります。
2. 拡充型:地方において本社機能を拡充する場合
[1]拡充型の具体例
・地方に本社を置く企業がその本社建物を増築する
・東京 23 区以外に本社を置く企業が地方都市に移転する
――など、地方において本社機能を拡充する場合は、税制上の優遇措置の適用を受けることができ
ます。
[2]オフィス減税
「認定地域」において、その「計画」に記載された「特定業務施設」を建設または取得し事業の用
に供した場合は、以下の特別償却または税額控除の選択適用ができます。
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(1)内容
建物等の取得価額に対し、特別償却 15%または税額控除4%のいずれかを選択することができま
す。ただし、計画認定が平成 29 年度(平成 29 年4月1日~平成 30 年3月 31 日)の場合は、税額控
除が2%となります。
例
対象地域に「特定業務施設」である建物等を 2 億円で建設し、税額控除(4%)を選択
した場合
⇒⇒⇒ 2億円 × 4% = 800 万円の税負担の軽減
(2)適用要件
対象となる建物は、事務所、研究所、研修所の建物、建物附属設備、構築物で取得価額(一の建物
およびその附属設備並びに構築物の合計額)が 2,000 万円以上(中小企業者(注3)においては 1,000
万円以上)です。本社機能以外に業務部門(工場など)を有する場合の設備投資額は、原則、本社機
能に係る部分のみを床面積按分により算出することになります。なお、親会社が取得したオフィスに
子会社が入り、事業の用に供した場合は対象とならないため注意が必要です。
注3:「租税特別措置法」第 42 条の4に規定される中小企業者。
詳しくは、国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5926.htm)をご参照ください。
(3)適用期間
「地域再生法の一部を改正する法律」の施行の日(平成 27 年8月 10 日)から平成 30 年3月 31
日までに、拡充先となる「対象地域」の都道府県知事から「計画」の認定を受けなければなりません。
なお、原則として計画開始(着工)前に申請する必要があります。
(4)限度額
税額控除を利用する場合は、当期の法人税額の 20%相当額が限度となります。
[3]雇用促進税制
「認定事業者」が、
「計画」の認定を受けた日から同日の翌日以降2年を経過する日までの期間内の
日を含む各事業年度において、雇用の増加について一定の要件を満たす雇用保険法の適用事業を行っ
ている場合は、雇用促進税制が拡充され、以下の控除の適用が受けられます。
(1)税額控除額
雇用促進税制の諸要件を満たした場合は、
「特定業務施設」における当期の雇用増加数に対して、法
人全体の雇用者増加率が 10%以上の場合は、当期増加雇用者1人当たり 50 万円、10%未満の場合には、
当期増加雇用者1人当たり 20 万円となります(ただし、法人全体の増加雇用者数を上限とします)
。
例
「特定業務施設」が 30 人を新規に雇用し、法人全体の雇用者増加率が 10%以上の場合
⇒⇒⇒ 当期に増加した雇用者1人当たり 50 万円 × 30 人 = 1,500 万円の税負担の軽減
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(2)適用要件
適用年度中に雇用保険一般被保険者の数が5人(中小企業者(前項[2]-(2)注3ご参照)の場合
は2人)以上増加すること。さらに、適用年度およびその前事業年度中に事業主の都合による離職者
(例えば、リストラなどによる整理解雇など)がいないこと、適用年度における「支払給与額」がそ
の前事業年度よりも、一定以上増加などの条件があります。
(3)限度額
税額控除額は、雇用促進税制とオフィス減税を合わせて、当期の法人税額の 30%相当額が限度と
なります。
3. 移転型:地方に本社機能を移転する場合
[1]移転型の具体例
・東京 23 区内に本社のある企業が、地方都市に新社屋を建設して本社を移転
・東京 23 区内に本社のある企業が、地方に東京本社の研究開発機能を移転
――など、地方都市に本社機能などを移転する場合は、拡充型より有利な移転型の税制優遇措置が
受けられます。
[2]オフィス減税
(1)内容
建物等の取得価額に対し、特別償却 25%または税額控除7%のいずれかを選択することができま
す。ただし、計画認定が平成 29 年度(平成 29 年4月1日~平成 30 年3月 31 日)の場合は、税額控
除が4%となります。
(2)その他
適用要件、適用期間、税額控除を選択する場合の限度額は、拡充型と同じ内容です。
[3]雇用促進税制
(1)税額控除額
拡充型で解説した雇用促進税制の諸要件を満たした場合は、「特定業務施設」における当期の雇用
増加数に対して、法人全体の雇用者増加率が 10%以上の場合は、当期増加雇用者1人当たり 50 万円、
10%未満の場合は、当期増加雇用者1人当たり 20 万円となります。さらに、東京 23 区からの移転者
を含む当該地方の事務所における当期の増加雇用者1人当たり 30 万円の税額控除が追加されます。
30 万円分については、継続雇用等の条件を満たせば初年度を含め3年間控除が認められます。
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地方移転に伴い、東京 23 区内から全社員 50 人が転勤し、「特定業務施設」で 20 人を新
規採用し、法人全体の雇用増加率が 10%以上の場合
例
⇒⇒⇒ 50 万円 × 20 人(新規雇用者数) = 1,000 万円
30 万円 × 70 人(当該地域増加分) × 最長3年間 = 6,300 万円
法人税負担額は 7,300 万円減少
(2)その他
適用要件、限度額は、拡充型と同じ内容です。
内容は2016年3月31日時点の情報に基づいて作成されたものです。
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