貸付事業用宅地等の取扱い事例【Q&A】

経 ViewPoint
営相
相続税の小規模宅地等の特例
談
2016.5.2
貸付事業用宅地等の取扱い事例【Q&A】
福田和仁
相談部 東京相談室
個人が、相続または遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において、
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等または居住の用に供されていた宅地等の
うち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下、小規模宅地等)について
は、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特
例を「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」といいます。
今回は、小規模宅地等のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用
に供されていた宅地等(以下、事業用宅地等)について、「不動産貸付業」「駐車場
業」「自転車駐輪場業」などの不動産貸付業等の用に供されている場合の特例の取扱
いを解説します。
1. はじめに
事業用宅地等で、一定の要件を満たす場合は、相続税の小規模宅地等の特例における「特定事業用宅
地等」として、400 ㎡を限度に 80%の評価減の適用があります。ただし、不動産貸付業等は、
「被相続
人等の事業」から除かれており、貸付事業等の用に供されていた宅地等で一定の要件(注)を満たすも
のは、一定の場合(同族会社に貸付けられている宅地等で「特定同族会社事業用宅地等」として、400
㎡を限度に 80%の評価減の適用がある場合)を除き、
「貸付事業用宅地等」として、200 ㎡を限度に 50%
の評価減が適用されます。
注:貸付事業用宅地等の適用要件
区分
適用要件
被相続人の貸付事業の用に供され
ていた宅地等
その宅地等を取得した親族が、その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申
告期限までに承継し、かつ、申告期限までその貸付事業を営んでいること、および
その宅地等を申告期限まで保有していること。
被相続人と生計を一にする被相続
人の親族の事業の用に供されてい
た宅地等
その宅地等を取得した被相続人と生計を一にする親族が相続開始前から相続税の申
告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を営んでいること、およびその宅地等を申
告期限まで保有していること。
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2. 賃貸アパートの事例
[1]空室がある賃貸アパート
Q.
被相続人Aの相続が開始し、Aが所有していた賃貸アパート1棟(貸室12室)とその敷地は、
Aの子Bが相続により取得し、相続税の申告期限までアパートの貸付事業を営み、その敷地
を所有しています。ただし、このアパートは、Aの相続開始時までに3室の空室が発生し、
相続開始時点でも空室のままだったため、不動産会社に依頼し入居者の募集を継続していま
す。このアパートの敷地は貸付事業用宅地等に該当しますか。
A.
3室の空室が一時的に賃貸されていなかったと認められる場合は、空室に対応する敷地部分も
被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等に含まれます。子Bは取得者の要件を満たし
ているので、敷地全体が貸付事業用宅地等に該当します。
被相続人Aの相続開始直前において、
このアパートには空室があり貸付事業の用に供していない部
分があります。しかし、新規入居者を継続して募集していることなどの事実関係から、一時的に貸付
事業の用に供していなかったと認められる場合は、空室部分に対応する敷地部分も含めて、敷地全体
が被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当することになります。そして、その宅地等を
取得した被相続人の相続人である親族が、相続開始から申告期限まで①事業承継・継続の要件、②宅
地等の保有継続の要件――を充足している場合、貸付事業用宅地等の適用を受けることができます。
このケースでは、子Bはこれらの要件を満たしています。
前述の「一時的に貸付事業の用に供されていなかったと認められるかどうか」は、例えば「旧賃借
人の退去後、速やかに新しい賃借人の募集を行っているか」
「空室の期間中に賃貸と異なる用途に使
用していないか」など、一定の事実関係によるものと考えられます。
[2]被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等
Q.
被相続人Aは賃貸アパート2棟とその敷地を所有し、貸付の用に供していました。Aに相続
が発生し、賃貸アパートのうち1棟とその敷地はAと生計を一にする親族Bが取得し、もう
1棟とその敷地はAと生計を別にする親族Cが取得し、それぞれAの貸付事業を引き継ぎま
した。B、Cはともに相続税の申告期限まで貸付事業を営み、これらの宅地等を保有してい
ます。BとCそれぞれが取得した敷地は、貸付事業用宅地等に該当しますか。
申告期限
相続発生前
【賃貸アパート】
【賃貸アパート】
【賃貸アパート】
【賃貸アパート】
被相続人A所有
被相続人A所有
親族B取得
親族C取得
【敷地】A所有
【敷地】A所有
【敷地】B取得
【敷地】C取得
※Bは生計一親族
※Cは生計別親族
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A.
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いずれも貸付事業用宅地等の評価減の適用が受けられます。
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等を、相続または遺贈により取得した親族が、相続の
開始時から申告期限までの間に、被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限までその事業を継続し、
かつ、当該宅地等を保有継続している場合は、当該宅地等は貸付事業用宅地等に該当するため特例の
適用があります。相続または遺贈により宅地等を取得した親族については、生計一かどうかは適用の
要件となっていないため、生計一親族のB、生計別親族のCはともに特例の適用を受けることができ
ます。
[3]親族の貸付事業の用に供されていた宅地等
Q.
被相続人Aと生計を一にする親族Bと生計を別にする親族Cは、それぞれAが所有する宅地
を使用貸借(地代無償)により借り受け、アパート事業を営んでいました。Aに相続が発生
し、これらのアパートの敷地は、BとCがそれぞれ取得し、相続税の申告期限まで貸付事業
を営み、これらの宅地等を保有しています。BとCが取得したアパートの敷地は、貸付事業
用宅地等に該当しますか。
相続発生前
A.
申告期限
申告期限
【賃貸アパート】
【賃貸アパート】
【賃貸アパート】
親族B所有
【賃貸アパート】
親族C所有
土地無償
土地無償
親族B所有
親族C所有
【敷地】A所有
【敷地】A所有
【敷地】B取得
【敷地】C取得
※Bは生計一親族
※Cは生計別親族
親族Bは貸付事業用宅地等の評価減の適用が受けられますが、親族Cは受けられません。
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等を、相続また
は遺贈により取得した親族が、相続開始時から申告期限までその宅地等に係る貸付事業を継続して行
い、かつ、保有している場合、当該取得する宅地等は、貸付事業用宅地等に該当します。このケース
における生計一の親族Bは、これらの要件を満たしているため、特例の適用が受けられます。
一方で、被相続人と生計別の親族Cが取得した宅地等は、被相続人と生計を一にしていた被相続人
の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当しません。また、C所有アパートの敷地は使用貸
借であり、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等にも該当しません。したがって、貸付事業
用宅地等の特例の適用は受けられません。
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[4]事業的規模と減額割合
Q.
被相続人Aは生前に、所得税の取扱いにおける5棟10室基準による事業的規模により、不
動産の賃貸事業を営んでいました。所得税の確定申告では、不動産賃貸業として事業的規模
に該当するものとして、青色申告書を提出しています。Aに相続が発生し、Aの貸付事業は
Aと生計を一にする親族Bが承継しました(事業継続などの要件はすべて満たしています)。
この事業的規模で不動産の賃貸事業の用に供されていた敷地は、特定事業用宅地等に該当し
ますか。
A.
一定の要件を満たす貸付事業用宅地等に該当し、特定事業用宅地等には該当しません。
小規模宅地等の特定事業用宅地等(減額割合80%)には、不動産の貸付事業は含まれません。たと
え、所得税の取扱いにおいて事業的規模であっても、相続税の小規模宅地等の特例では、特定事業用
宅地等には該当せず、貸付事業用宅地等の要件を満たしている場合は、敷地の評価額の50%評価減が
適用となります。
3. 貸駐車場の事例
[1]駐車場と構築物の有無
Q.
被相続人Aは、生前に自宅付近の2カ所に所有する土地で駐車場事業を営んでいました。今
回Aに相続が発生し、一方の駐車場(時間貸し・舗装、パーキングメーターなどの施設あり)
を親族Bが取得し、他方の駐車場(青空駐車場・未舗装、施設などなし)を親族Cが取得し
ました。BとCは、申告期限までに当該駐車場業を承継し、申告期限まで継続して駐車場業
を営み、その駐車場を保有しています。この2カ所の駐車場の敷地は、貸付事業用宅地等に
該当しますか。
相続発生前
A.
申告期限
舗装等あり
舗装等なし
舗装等あり
舗装等なし
【敷地】A所有
【敷地】A所有
【敷地】B取得
【敷地】C取得
Bが承継した駐車場は貸付事業用宅地等に該当しますが、Cが承継した駐車場は該当しま
せん。
特例の対象となる宅地等は、個人が相続または遺贈により取得した宅地等のうち、相続開始の直前
において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で一定の建物または構築物の敷地の用に供さ
れていたものと定められています。構築物等の敷地の用に供されているかどうかは、事実関係による
ことになります。
このケースでは、親族Bが取得した駐車場は、舗装、施設等の構築物の用に供されていた宅地等と
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2016.5.2
して貸付事業用宅地等に該当する一方で、親族Cが取得した駐車場は、青空駐車場=土地の賃貸借で
あり、建物や構築物の敷地の用に供されていない宅地等として貸付事業用宅地等に該当しないことに
なります。
内容は2015年9月30日時点の情報に基づいて作成されたものです。
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