「相続後を見据えた分割方法」を考える

経 ViewPoint
2017.1.4
営相
談 「相続後を見据えた分割方法」を考える
坂本和則
相談部 東京相談室
相続による遺産の分割は、避けて通れない問題です。相続時にはスムーズに分割がで
きていたにもかかわらず、自宅の敷地を共有にしていたために、その後に問題が生じ
てしまうこともあります。
今回は、トラブルを起こさないための遺産分割のポイントを、遺言作成時に参考とな
るような項目にも触れ、事例を使って解説します。
1. 自宅の敷地を他の相続人と共有した事例
[Q]亡き親と同居していた私は、引き続きその家に居住することになりました。財産のほとん
どがこの家と敷地であったことから、他の相続人と共有する方法を考えています。共有と
した場合、何か問題がありますか。
[A]その後に生じる共有者の相続によっては、日頃から面識がない人と共有関係になることも
想定されるので、代償分割(代償金を支払う)などを使って、単独相続する方法を検討す
べるきです。
共有者の中に子がいない人が含まれている場合は、後にその敷地の処分などについて問題が生じる
ことがあります。具体的には、相続などによって、将来的に所有者が変動することにより、自由な処
分ができなくなる可能性があります。以下では、共有者となった人に子がいないケースを解説します。
共有者の相続における相続人は、配偶者と被相続人(共有者)の直系尊属(親や祖父母など)また
は兄弟姉妹となります。そのとき、当該敷地を共有者の配偶者が相続していると、権利関係が複雑に
なります。配偶者に相続が開始されると、配偶者の財産は、配偶者の直系尊属(親や祖父母など)ま
たは兄弟姉妹が相続することになります。当事例における敷地も同様です。結果として、あまり行き
来のない配偶者の関係者、場合によっては、一度も会ったこともない人と共有関係になってしまう可
能性は否定できません。
共有物件の処分について、自分の持分は他の共有者の同意なく譲渡や贈与などを行うことが可能で
すが、不動産の一部だけを購入してくれるとは一般的に考えられず、処分が困難な不動産となってし
まいます。また、建物の建替えのために銀行から借り入れを行う際には、共有者に担保提供をしても
らうための交渉が必要となります。
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2017.1.4
2. 自宅を配偶者が相続しなかった事例
[Q]自分の相続時は、二次相続を考えて、すべての財産を子に相続させようと考えています。
自宅不動産を同居している長男に相続させることとした場合は、何か不都合が生じますか。
[A]長男が長男の妻よりも先に亡くなってしまった場合、自分の妻が引き続き居住することが
できなくなる可能性がありますので、税負担が生じても、自宅は自分の妻が相続できるよ
うにしておくことが望ましいでしょう
長男の相続では、長男夫婦に子がいる場合は、長男の配偶者と子が相続人として財産を取得するこ
とになります(子がいない場合は、前項1「自宅の敷地を他の相続人と共有した事例」を参照)。相
続財産には、当然、当該自宅も含まれます。長男の子が、相続放棄をしてくれない限り、自分の妻が
相続することはできません。家族関係が良好なうちはよいですが、関係がギクシャクした場合は、そ
の家の所有権を持っていない配偶者は、所有者から退去を求められ居住できなくなることも否定でき
ません。そのようなトラブルを回避するためにも、自宅は自分の妻が相続するようにしておくことが
望ましいでしょう。
なお、最近の動きとして、相続における配偶者の権利を手厚くしようとする観点から、相続手続き
後も配偶者が引き続き居住を継続できるような方向で法改正が検討されています。
3. 会社の株式を兄弟で均等に分割した事例
[Q]今後も兄弟で会社を守ってもらいたいと考え、私が所有している会社の全株式を、役員に
就いている子2人に、それぞれ 50%持たせる内容の遺言を作成しようと考えています。何
か問題はありますか。
[A]兄弟がそれぞれ 50%の株式を保有すると、経営方針などをめぐって2人が対立した場合、
重要な決定が遅れる(場合によっては決定できない)など経営が不安定となります。後継
者は一人と定め、その者に安定した経営ができる株数を取得させるべきでしょう。
会社の業務執行は取締役が行いますが、取締役会を設置している会社では、業務執行の決定は取締
役会で行うことになります。取締役会の構成員である取締役間に対立があるとスムーズな決定ができ
ないことも想定されます。一方、取締役会を設置していない会社や、取締役会を設置している会社で
も会社法や定款で株主総会の決議が必要な場合は、その都度株主総会の承認を得なければなりません。
本事例のように、2人の株主がそれぞれ 50%の議決権を持っている状況で、兄弟間に対立が生じて
しまうと決議が不可能となり、業務の停滞を招くことになります。
したがって、兄弟で会社を盛り立てていってほしいと考える親の気持ちはわかりますが、経営の安
定を図るためにも株式は後継者として定めた者に引き継がせるようにしておくべきでしょう。そのた
めには、日頃から自分の考えを子どもに伝えて、相続時に不要な争いが生じないようにしておくこと
も重要なポイントとなります。
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2017.1.4
4. 後継者と他の相続人で相続する財産に大きな差が生じる事例
[Q]社長である私の資産は、会社の株式や会社に貸している不動産など事業に関係するものが
多く、会社経営の安定のために後継者に相続させる旨の遺言作成を考えています。そうな
ると相続時には、後継者とそれ以外の相続人との間で、相続する財産に大きな差が生じて
しまいます。
現在は、会社経営に直接関係ない子も一応は納得してくれていますが、このような分け方
をすると、今後問題が生じないか心配です。相続発生時に問題が生じないようにするため
には、どのような点に注意すればよいですか。
[A]遺言があれば、遺言が遺産分割に優先するので、原則として、遺言のとおり相続手続きが
行われます。しかし、後継者と他の相続人との間にわだかまりが残る可能性があります。
生命保険などを活用し、相続人の間に不満が残らない方法を検討するべきでしょう。
遺産相続にあたっては、相続開始前に相続放棄や相続人間で遺産分割を行っておくことが認められ
ません。そのため、現在は納得していても、実際に相続が開始された時点で遺産分割協議を行うこと
になるので、あらかじめ決めていた分割方法に応じてくれるかどうかはわかりません。遺言を作成し
ておけば、基本的にその内容で分割ができますが、極端に不平等な内容である場合は、相続人の間に
わだかまりが残り、その後の付き合いなどに支障が生じる可能性も否定できません。
事業に関わらない相続人にとっては、特別な理由がない限り、会社の株式や会社に貸している資産
の取得は望まないと考えられます。そこで、そのような相続人には、事業と関係がない資産、例えば、
現金や上場株式などを相続させることになるでしょう。現金などの資産があまりない場合は、生命保
険を活用してバランスをとる方法もあります。相続人を死亡保険金の受取人とする生命保険等に加入
しておくと、相続時に死亡保険金が支払われます。事業に関係のない相続人が受け取る死亡保険金を
手厚くしておくことで、不満を解消することが可能となるかもしれません。
5. 相続財産のほとんどが生命保険である事例
[Q]一人の子だけに財産を残したいと考えていますが、遺言では遺留分があり、私が考えてい
ることを必ずしも実現することができません。そこで、生命保険の活用を考えていますが、
問題はありますか。
[A]生命保険金は、受取人に指定された人の固有の財産として取り扱われます。ただし、他の
相続人が相続する財産がないなど相続人の間に生じる不公平感が極端な場合は、特別受益
として分割を求められるケースがあります。
遺言には、一定の財産を法律で定められた相続人(遺留分権利者)に残しておかなければならない
遺留分制度が設けられているため、必ずしもすべての財産を相続させることができるとは限りません。
そこで、生命保険で資産を残すことを検討するケースがあります。
相続手続きにおいて死亡保険金は、受取人に指定された人の固有の財産として取り扱われるので、
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遺産分割の対象とはなりません。ただし、他に相続すべき財産がなく、死亡保険金を受け取った人だ
けが優遇されるようなことについて、他の相続人が不満を持ち、訴訟を起こした場合は、必ずしもそ
のように取り扱われるとは限りません。特別受益に準じて遺留分を認めた判決もあります。
そこで、相続時に相続人間に争いが生じないようにするためには、できるだけ不平等感を与えない
方法を検討することが重要となります。そのためには、他の相続人にも一定の財産が行き渡るような
配分を検討する必要があります。
内容は2016年8月31日時点の情報に基づいて作成されたものです。
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