メルマガ講座 i-Method連続講座 ~産廃業者の財務分析法~(第13回) 元千葉県産廃Gメン、「産廃コネクション」著者 石渡 正佳 <IM-P編> 6-1 IM-Pとは キャッシュフロー分析とは ------------IM-P(iメソッド・プロフェッショナルバージョン)の主眼とするところは、産 廃処理業者のキャッシュフロー分析である。 キャッシュフロー分析とは、一言で言えば「キャッシュフロー計算書」を用いた財務 分析の手法である。 キャッシュフロー計算書は、損益計算書、貸借対照表に次ぐ第3の財務諸表と呼ばれ ることがあるが、日本では上場会社にしか作成が義務付けられていないため、産廃処理 業者の多くは作成していない。したがって、産廃情報ネットの公開データでも、キャッ シュフロー計算書は公開されていない。 もっとも、キャッシュフロー計算書は、損益計算書と貸借対照表があれば、ある程度 まで導き出すことができる。実務的にも「間接法」によるキャッシュフロー計算書は、 損益計算書を修正して求めている。損益計算書の利益額を出発点として、減価償却費や 売掛金のように、実際のキャッシュの動きが異なる費目を調整し、税金や配当金を控除 して企業の手元に最終的に残る資金(フリーキャッシュフロー)を求めるのが、間接法 である。 これに対して、「直説法」は、現金の出納を直接集計することによって、フリーキャ ッシュフローを求める方法である。 どちらの方法でも、最終的な結果は一致する。 日米の会計原則の相違 ------------キャッシュフロー分析の一般的な手法の多くは、アメリカで開発されたものなので、 企業風土や金融風土の違う日本では、あまり役に立たないことが多い。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 1 ※無断転載禁止 直接金融(銀行融資によらず、投資家から直接事業資金を集める金融)が主流のアメ リカでは、投資家に対する情報開示を目的として、投資に対するリターンを分析する財 務分析手法が発達した。 日本の企業会計原則では、発生主義が現金主義よりも優れたものとされ、企業の利益 は「営業利益」か「経常利益」で評価するのが通例になっている。アメリカでは、営業 利益のかわりにEBITDA(税金、支払利息及び減価償却費控除前利益)を使うのが 通例になっている。これはキャッシュフローを生み出す直接的な企業力を表している。 日本では、税引前の当期純利益を最終的な事業利益とすることが多いが、アメリカで はNOPAT(税引後事業利益)を用いるのが一般的で、これは株主や銀行などの資金 提供者に対する配当原資を表している。 NOPATから資本コスト(支払利息・配当金)を控除したものがEVAで、企業に 残るフリーキャッシュフロー(内部留保)を表している。 このように、アメリカでは、投資家への情報開示を意識したキャッシュフロー会計が、 会計風土として定着している。 税金を利益に対する課税として最後に控除する日本と、収益を得るための必要経費と して早めに控除するアメリカの違いも大きい。 日本では、投資家保護の観点というより、銀行の融資資料として、キャッシュフロー 計算書の作成が求められることが常識となりつつある。これは、手持ち資金ショートに よる黒字倒産を防ぐことが主たる目的である。 短期資金調達の方法として、手形金融が常識化している日本では、手持ち資金ショー トの主な原因は、売掛債権回収期間の長期化、もしくはデフォルト(手形不渡り)であ る。 IM-Pのキャッシュフロー分析 ------------産廃処理業者は、そもそもキャッシュフロー計算書を作成していないので、IM-P がキャッシュフロー分析を行うといっても、経営学や会計学で一般的に通用しているキ ャッシュフロー計算書分析手法を用いることができない。 IM-Pの開発目的は、既成のキャッシュフロー分析の手法も取り入れながら、産廃 処理業者に特化したキャッシュフロー分析手法を確立することである。本稿の基礎編 3-1~5(第3回及び第4回)で論じたとおり、産廃処理には3つの特異な商品特性があ る。このことは、ひいては産廃処理業のキャッシュフローの特異性の要因になるのであ る。 したがって、IM-Pを理解するには、もう一度基礎編を復習しておく必要がある。 産廃処理の3つの商品特性を忘れた場合は、必要な都度、基礎編3-1~5を読み返して欲 しい。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 2 ※無断転載禁止 6-2 収集運搬業のキャッシュフロー 3つの収集運搬の業態 ------------収集運搬・積替保管なしという業態は、数の上ではもっとも多い産業廃棄物処理業の 業態で、およそ10万社あると言われ、処理業者数の約9割を占める。 トラック運送業(青ナンバー)の許可を取得するには、運搬車両が5台以上必要だが、 収集運搬業の許可には台数の制約がないため、ダンプ1台の個人事業主も多い。 一方、収集運搬には、積替保管ありという業態があり、これがない場合とはまったく 違った業態構造になる。 さらに、中間処理業や最終処分業の許可を持っている業者も、たいていは収集運搬業 の許可を併せて取得している。 このように、収集運搬業は、単純収集運搬、積替保管あり収集運搬、処分場あり収集 運搬の3つの業態があるといってよい。 そして、この3つの業態で、収集運搬のキャッシュフローもまったく異なるものにな ってくる。 料金の問題 ------------収集運搬業には、さまざまな問題があるが、最大の問題は、料金が標準化されていな いということである。 IM-Bでは、運搬料金を、売上高÷運搬量=平均単価として計算の対象にしたが、 IM-Pでは、運搬料金の決定方法について考察する。 収集運搬業では、運搬の品質には大きな差を求められないので、料金の差別化が重要 である。 残念ながら、収集運搬の料金は、1台いくら、あるいは1容器いくらというおおざっ ぱな見積もりであることが多く、運搬重量も運搬距離も関係がない。1台いくらという のが、いつでも誰でも同じならまだいいが、顧客によって倍以上に差があったりする。 高いのか安いのか、標準がないからわからないというのが、収集運搬の実態なのである。 しかも、顧客がわからないだけではなく、事業者もわからないことがある。 収集運搬単独の事業者なら、最終的に残ったキャッシュを見れば、利益が出たか出な かったかわかる。いわゆるドンブリ勘定である。 ところが、処分業や他の事業を兼業していると、果たして収集運搬業で利益が出てい るのかどうかわからないという、困った事態になる。 請求した料金が原価を上回っているかどうかが、わからないのである。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 3 ※無断転載禁止 運送業の許可があれば、運行管理者の配置が義務付けられているが、収集運搬業者の 多くは白ナンバーであるため、運行管理者がおらず、運送業の基礎的な知識すら持ち合 わせていない。 したがって、運送業者に作成が義務付けられているタリフ(標準運賃表)も、収集運 搬業者は作成しておらず、タリフという言葉すら知らないことも少なくない。 タリフがなければ、顧客に請求している収集運搬料金が適正かどうかわかるはずがな い。 もとより、これではキャッシュフロー分析もやりようがない。 そこで、収集運搬業で、どのようにしてタリフを作ったらいいのか検討してみたい。 6-3 タリフの作成 タリフ(標準料金表)のための原価計算 ------------収集運搬業者がタリフを作成するために必要な原価データは、次の4つである。なお、 単純化のために、車種は単一であることにする。実際には4トン車、10トン車、パッ カー車、コンテナ車などの車種がある。その場合は、車種別に原価データを作成し、タ リフも車種別に作成する。 (1)総走行時間 (2)総走行距離 (3)総運搬重量 (4)総運搬原価 総運搬時間は、全車両の走行時間の合計である。タコメーターがあれば、走行時間は 正確にわかるが、ない場合は、運転日誌の出車時刻と帰車時刻から求める。お昼休みは 1時間などと仮定すればよい。 総走行距離は、タコメータがなくても、出車時と帰車時のトリップメーターの数値を 記録しておけばよい。 総運搬重量は、トラックスケール(台貫)で記録している場合は正確にわかるが、な い場合は、マニフェスト記載数量などを用いる。マニフェスト記載数量が体積の場合は 比重換算する。比重はときどき計測して標準化しておくことが望ましい。 総運搬原価は、車両費、燃料費、高速道路料金、運転職員給与、駐車場料金などの直 接費の合計に、販売費・一般管理費などの間接費を賦課したものである。 まともな会社なら、これら4つの原価データは、かならず作成されているはずである。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 4 ※無断転載禁止 それにもかかわらず、タリフが作成されていないということは、単に知識がないとい うにすぎない。 4つの原価データから、タリフの作成に必要な原価指標は、次の3つである。 (1)平均走行速度 = 総走行距離 ÷ 総走行時間 (2)平均重量原価 = 総運搬原価 ÷ 総運搬重量 (3)平均時間原価 = 総運搬原価 ÷ 総走行時間 タリフ(標準料金表)の作成例 ------------10トン車のタリフ 重量 計量 kg 単位 m3 m3 kg m3 kg m3 kg m3 原価 b4.5/kg 走行 走行 2,10 距離 時間 0 a kg 3 4,20 0 6 6,30 0 9 8,40 0 12 10,50 0 時間 15 原価 \/h 1 d4,560 9,615 14,670 19,725 24,780 c3,800 42 2 9,120 14,175 19,230 24,285 29,340 7,600 63 3 13,680 18,735 23,790 28,845 33,900 11,400 84 4 18,240 23,295 28,350 33,405 38,460 15,200 105 5 22,800 27,855 32,910 37,965 43,020 19,000 126 6 27,360 32,415 37,470 42,525 47,580 22,800 147 7 31,920 36,975 42,030 47,085 52,140 26,600 168 8 36,480 41,535 46,590 51,645 e56,700 30,400 21 これが収集運搬業のタリフの作成例である。 運送業のタリフは「トンキロ」で作成することが法律で義務付けられている。トンキ ロとは、運搬重量と運搬距離のことで、タリフはこの2つを掛け合わせた表になる。 上記タリフ作成の基礎となった原価データは次の3つである。 a 走行速度 = 総運搬距離/総運搬時間 = 21km/h b 重量原価 = 総運搬原価/総運搬重量 = 4.5円/kg c 時間原価 = 総運搬原価/総運搬時間 = 3,800円/km 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 5 ※無断転載禁止 タリフの作成手順を説明する。まず、表の枠組みを作成する。 1日の走行時間は8時間までとし、時間に対応する運搬距離を縦に割り振る。顧客に は、走行時間ではなく、走行距離に応じて料金を見積もることになるからである。 運搬量は、荷台の容量を15立方メートルとし、比重を0.7と仮定して、満載重量を10.5 トンとしている。これを5区分にわけて横に割り振る。最低積載量の区分は、3立方メ ートル以下、2.1トン以下となる。 これで「トンキロ」のタリフの枠組みが完成した。区分はもっと細かくてもよい。 次に表の中の金額を設定する。 まず、最低料金として、dの欄を埋める。 d 最低積載量1時間料金 = 1時間原価+粗利(20%) = 4,560円 ここでは、1時間原価に粗利20%を加えて計算している。 つぎに、最高料金として、eの欄を埋める。 e 満載8時間料金 = 重量原価×満載重量+粗利(20%) = 56,700円 ここでは、満載時重量原価に粗利20%を加えて計算している。 残りの欄は、dとeの差額を、等差的または等比的に埋めていけばいい。ここでは等差 的に埋めている。 これで、どんな積載量で、何キロ走ったとしても、原価を回収して粗利20%を得られ るタリフが完成した。 運送業では、このタリフによって、運搬料金を請求している。 収集運搬業では、トンキロによる料金設定にしていないことが多いが、タリフを作成 しておけば、請求していた料金が適正かどうかを検証することができる。 もしも請求していた料金が、タリフよりも安ければ、赤字運搬だったことになる。逆 にタリフよりも高ければ、値下げ余地があることになる。 また、タリフがあれば、処分業との兼業であり、収集運搬と処分を込みで請求してい る場合であっても、収集運搬業と処分業に収益を按分し、事業別採算性を検証すること ができる。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 27(’15)年 1 月 第 74 号 6 ※無断転載禁止 「i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~」バックナンバー 62 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(1) 63 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(2) 64 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(3) 65 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(4) 66 号 i-Method連続講座~産廃業者の財務分析法~(5) 67 号 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