ユーザー体験 「UX」

特集
千客万来 の
ユーザー体験
「UX 」
特 集
ヒントとなるのはUX(ユーザー体験)が考えられているかだ。
千客万来のユーザー体験「
多くのユーザーに評価されるWebシステムは何がすごいのか?
UXの考え方やプロセスを学ぼう。
評価が高く、ユーザーが急増しているWebシステムを参考に、
」
U
X
(堀内 かほり)
「お客様視点とシステムが融合する
このサービスには、利用者がPC(ま
が表示され、利用者はそれを見ながら
ことで、ようやく目指していたサービ
たはタブレット)と電話を使って相談
電話で会話する。相談は無料で受けら
スを実現できた」─。資生堂の三輪
する「おうちで美容相談」と、PCま
れ、利用時間は20分。相談件数は増加
紀子氏(日本事業本部 デジタル事業
たはスマホを使って相談する「チャッ
傾向にあり、多いときで月間2500件の
部 グループリーダー)が企画から携
トで相談」がある。このうち、おうち
利用がある。
わってきたネットを使った美容相談
で美容相談は同社の基本的な販売スタ
サービス「WebBCコンサルティング」
イルである「対面で相談しながら最適
が、大きく利用者数を伸ばしている。
な商品を選ぶ」ことを、Web上で再
なぜ、ここまで利用者の支持を集め
2012年4月のスタート以来、相談件数
現したもの(図1)
。Webブラウザーに
ることができたのか。最大の理由は、
は多いときには月に6000件、累計で約
は、Web専任のBC(ビューティーコ
利用者にWeb上でのカウンセリングを
12万件に達した。
ンサルタント)のリアルタイムの画像
心地よく受けてもらうための、利用者
利用者の視点に立った工夫を凝らす
視点での設計にある(図2)
。
資生堂の「WebBCカウンセリング」
(http://www.shiseido.co.jp/webbc/)
「おうちで美容相談」
そもそも三輪氏らがサービスを企画
したきっかけとなったのは「顧客の声」
だった。今やスマホで日常的に多くの
情報を得られるが、それゆえに「情報
がありすぎて、自分に最適な化粧品が
分からない」
という悩みがある。また、
同社は店頭でのカウンセリングを重視
するものの、対面のコミュニケーショ
画面の左側にBCのリアルタイムの画
像、右側に説明資料が表示される。
ユーザー側にカメラは不要
1 資生堂の「WebBCカウンセリング」
図
コンテンツの一つである「おうちで美容相談」は、Web上で化粧品の使い方や選び方など美容に関するカウンセ
リングを無料で実施する。パソコンの画面を見ながら、電話でBC(ビューティーコンサルタント)に相談できる
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ンが苦手な人や、ドラッグストアでセ
ルフで購入する人も多い。三輪氏は
「こ
うした顧客の中も、何を選んだらよい
のか悩んでいる人が多かった」と話す。
そこで考えたのが、Web上でのカウン
〈イラスト:Seishun / PIXTA(ピクスタ)〉
WebBCカウンセリングを
担当する部署のオフィス
BCを選べる
相談するBCを選
べる仕 組みを設
け、同じ人に相談
できるようにした。
その人のファンが
できるようになっ
たほか、B Cの意
欲 向 上 にも役
立っている
各ブースでBCがWebでのカ
ウンセリングや、チャットを担
当。中 央に座るチーフは、各
ブースの会話の内容を確認し
たり、申し込みが集中したとき
にコントロールしたりする。管
理画面上には、各ブースのBC
ごとにステータス
(仕事の内容
や終了予定時間など)
が表示
されている
音声認識を活用
相談内容に応じて、
メイク
の仕方などを実演する。
また、店頭のカウンターで
は制 服を着 用している
が、Web上でのBCは親し
みやすさを演出するため
に私服を着用
テキストチャットの
サービスでは、音
声認識も利用して
素早く入力できる
ようにしている
アドバイス内容
を1枚にまとめる
相 談 終了後に、
ユーザーの「マイ
ページ」にアドバ
イス内容をまとめ
た資料を掲示
特 集
カメラに向かって実演
千客万来のユーザー体験「
2 Webを使ったカウンセリングの付加価値を高めるための工夫
図
こうした設計の裏にはシステム側の
のWebブラウザーへと広げた。
だが、店頭ではできてもWeb上で
支えも大きい。WebBCの運用管理シ
Webのサービスからリアルの店舗へ
はできないことがある。そうした課題
ステムでは、BCのシフトやステータス
の動線ができるなど、想定外の効果も
はWebならではの強みに変えた。例
(作業状態)の確認、手が空いている
生 ま れ た。 当 初 はWebで 相 談 し て
えば、
BCが顧客にメイクを施す「実習」
BCへの優先着信などを実現。音声認
Webで購入するというシナリオを描い
は、BCがカメラ越しにメイクの仕方
識ソフトや文章要約ソフトも活用し、
ていたが、
「Webで相談した結果、薦
を見せる「実演」に変更。これにより
BCの作業を効率化している。
められた商品を店舗で購入するという
「プロがメイクする過程を見られる」
というWebならではの体験を可能に
ユーザビリティの向上が後押し
した。
実は、おうちで美容相談の立ち上が
利用者の体験を考えた工夫はほかに
りは決して順調だったわけではない。
もある。カウンセリングの中の画面に
「開始当初は認知度が低く、閑散とし
U
X
」
セリングだった。
流れができた。店舗の売り上げも伸び
ている」と三輪氏は語る。
ユーザーの「体験」をデザインする
ここ数年、
「また使いたい」
「誰かに
は、
右半分に資料や商品情報を表示し、
た状況だった」と三輪氏は振り返る。
薦めたい」と思わせるようなWebを
商品を指し示したり、資料に丸や線を
利用者が増え始めたのはサービス開始
使ったサービスが増えている。こうし
引いたりできるようにした。言葉の説
の約一年後、チャット相談を始めたこ
たサービスの特徴は、利用者が何を必
明だけでは分かりにくいことも、資料
ろ。手軽なチャットがきっかけとなり、
要としているのかを的確に捉え、課題
を見ながら聞くことで理解が深まる。
おうちで美容相談の存在が知られるよ
を解決する仕組みが盛り込まれている
また、入力欄やボタン類を一切表示せ
うになった。
点だ。
ず、利用者がカウンセリングに集中で
その後の飛躍的な伸びについては、
キーワードとなるのは「UX(ユー
きるようなシンプルなデザインにし
「ユーザビリティの向上が大きい」と
ザーエクスペリエンス)
」
。これは、製
た。
「BCを選べる」
「どのBCにすぐに
三輪氏は分析する。当初必要としてい
品やサービスを利用するプロセス全体
相談可能かをリアルタイムで表示す
た専用ソフトのインストールをなく
を通した「ユーザーの体験」を指す言
る」などの機能も、利用者の状況や気
し、対応するWebブラウザーもGoogle
葉だ。製品やサービスからユーザーが
持ちを考えた設計である。
ChromeやMozilla Firefoxを含む複数
感じることや、得られる体験すべてを
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