2012年度数学IA演習第2回

2012 年度数学 IA 演習第 2 回
理 I 1 ∼ 10 組
5 月 7 日 清野和彦
問題 1. 0 < a1 < 1 とし、数列 {an }∞
n=1 を
an+1 =
an (3 − an )
2
によって定義する。{an }∞
n=1 は収束することを示し、極限値を求めよ。
∞
問題 2. 0 < a1 < b1 とし、数列 {an }∞
n=1 と数列 {bn }n=1 を
an =
√
an−1 bn−1
bn =
an−1 + bn−1
2
∞
によって定義する。このとき、{an }∞
n=1 と {bn }n=1 は収束し、しかもその極限値
は等しいことを証明せよ。
∞
問題 3. 数列 {an }∞
n=1 が正実数 a に収束しているとする。数列 {bn }n=1 を
bn = an sin
2nπ
3
によって定義するとき、{bn }∞
n=1 の上極限を求めよ。
問題 4. 次の数列 {an }∞
n=1 の上極限、下極限が存在するならばこれを求めよ。
(1) an = n{(−1)
n}
(2) an =
π
1
sin
n
n
(3) an = cos
nπ
4
問題 5. 数列 {an }∞
n=1 について次の命題は正しいか? 正しければ証明し、誤りな
らば反例を挙げよ。
)
(
)(
(1) an が収束し lim sup bn が存在すれば lim sup(an bn ) = lim an
lim sup bn
n→∞
(2) an > 0 かつ lim sup an = 0 ならば
n→∞
n→∞
{an }∞
n=1
n→∞
は収束する。
∞
問題 6. 有界な数列 {an }∞
n=1 に対し、数列 {sn }n=1 を
(
)
sn = sup ak = sup{ak | k ≥ n} = sup{an , an+1 , an+2 , . . .}
k≥n
と定義する。このとき {sn }∞
n=1 は収束し、
lim sn = lim sup an
n→∞
が成り立つことを証明せよ。
n→∞
n→∞
∞
問題 7. {an }∞
n=1 を有界な実数列とする。次の手順で帰納的に作った部分列 {ank }k=1
は収束することを証明せよ。
(これは、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理
の別証明です。)
(1) すべての an を含む閉区間 [b, c] を一つ選び、an1 = a1 , b1 = b, c1 = c
と定義する。
k
(2) ank , bk , ck まで決まったとする。閉区間 [bk , bk +c
] が無限個の an を
2
含むとき、その中のから n > nk であるものを一つを選んで ank+1 とし、
bk+1 = bk
ck+1 =
bk + ck
2
k
k
] が有限個しか an を含まないときは [ bk +c
, ck ] に
と定義する。[bk , bk +c
2
2
含まれる an の中から n > nk であるものを一つを選んで ank+1 とし、
bk+1 =
bk + ck
2
ck+1 = ck
と定義する。
問題 8. 数列 {an }∞
n=1 を an =
√
n によって定義する。この数列は条件
任意の正実数 ε に対して正整数 N が存在して
n > N =⇒ |an+1 − an | < ε
が成り立つ。
は満たすがコーシー列ではないことを示せ。
問題 9. 実数列 {an }∞
n=1 を
an =
n
∑
sin k
k=1
2k
によって定義する。{an }∞
n=1 は収束することを示せ。
問題 10. 漸化式
a1 = 1
an+1 = 1 +
1
an
で定義される数列 {an }∞
n=1 が収束することを示し、極限値を求めよ。
2012 年度数学 IA 演習第 2 回解答
理 I 1 ∼ 10 組
5 月 7 日 清野和彦
今回は、実数に独特の性質である「実数の連続性」が数列の収束を議論する上で大変有効であ
ることを感じてもらうのが目標です。具体的には「有界で単調な実数列は収束する」「ボルツァー
ノ・ワイエルシュトラスの定理」
「コーシーの判定法」という三つの定理の理解と応用です。
「ボル
ツァーノ・ワイエルシュトラスの定理」と「コーシーの判定法」を比べると、数列が収束すること
と同値であるコーシーの判定法の方が重要に感じられがちなのですが、実際にはボルツァーノ・ワ
イエルシュトラスの定理の方が連続関数の話に入ってから活躍します。
なお、講義は「Rn の距離と点列の収束、開集合と閉集合」まで話が進んでいますが、前回の演
習と今回の演習の間に講義が三回あったのに、今回の演習と次回の演習の間には講義が一回しかな
いので、これら「Rn の話」は次回の演習に回すことにします。あしからずご了承ください。
目次
1
実数
2
実数の連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.1
1.2
数列と実数の連続性
1.3
実数列の収束を示す例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
問題 2 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
4
5
上極限・下極限
2.1 有界な数列の状況 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
6
上極限・下極限の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
9
1.3.1
1.3.2
2
2.2
2.3
2.4
問題 1 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
実例:問題 3、4、5 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.3.1
2.3.2
2.3.3
問題 3 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
問題 4 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
問題 5 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
有界数列における上極限・下極限の存在 : 問題 6 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
11
12
問題 6 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
13
実数列の収束に関する二つの定理
3.1 ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
14
14
3.2
3.1.1 問題 7 の解答:ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の別証明 . . . .
コーシー列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.2.1 問題 8 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
16
17
19
3.3
コーシーの判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
20
21
2.4.1
3
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
3
3.3.1
問題 9 と問題 10 の解答
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
第 2 回解答
実数
1
1.1
実数の連続性
数列の収束の定義の問題点(使いにくいところ)は、定義自体に極限の値が入ってしまっている
ことです。具体的に数列が与えられてもその数列の極限の見当を付けられるとは限りませんし、ま
してや一般論を展開することなどとてもできません。しかし、前回紹介した「数列のグラフ(図
1)」を思い出してみると、縦軸のどこかに点が集まっているような数列はその縦軸上の点に対応す
る数に収束しているはずです。つまり、「直線のどの点にも数が対応している」という直観が正し
ければ、「収束しそうな数列は本当に収束する」ことになるでしょう。
1
極限値
0
1
5
10 20
図 1: 第 1 回解答プリント 4 ページ図 2 再掲
ということは、図形としての直線の満たす性質を「数直線」が満たしていれば嬉しいということ
になります。「数」として有理数だけに限ったのでは力不足で、ちょうど「数直線=直線」となっ
てくれる「数」として実数を舞台に選ぶのだということは第 1 回解答プリントの第 2.1 節の直前で
説明しました。そして、実数のなす数直線が図形的な直線にふさわしいということを、図形的な言
葉を使わずに表すのが、次の実数の連続性だということまでは紹介しました。
実数の連続性
実数の空集合でない部分集合は、上に有界ならば必ず上限を持つ。
もちろん、これは
実数の空集合でない部分集合は、下に有界ならば必ず下限を持つ。
と同値です。すべての要素の符号を逆にした集合を考えればよいだけです。なお、実数の連続性は
関数の連続性とは全く関係ない概念です。混同しないように気を付けてください。
さて、実数の連続性が「平行でない二直線は一点で交わる」という図形的な状況に馴染みやすい
ことは第 1 回解答プリントの第 2.1 節の直前で説明しましたが、数列に適用するには、「上限」と
いう概念を(直接には)使わない形に言い換えておいた方が便利です。次にそれを説明し、それを
使って問題 1 と問題 2 の解答を書きます。
3
第 2 回解答
1.2
数列と実数の連続性
集合が上に有界であることを数列にそのまま適用して、上に有界な数列という概念を作ることが
できます。
定義 1. 数列 {an }∞
n=1 が上に有界であるとは、集合 {an | n = 1, 2, 3, . . .} が集合として上に
有界であること、つまり、n によらない実数 M で、任意の n に対して an < M が成り立つ
ものが存在することを言う。
もちろん、下に有界も同様に定義します。また、上にも下にも有界なとき「その数列は有界であ
る」と言います。集合の場合と全く同じですね。
さて、数列 {an }∞
n=1 が上に有界なら、実数の連続性から集合 {an | n ∈ N} は上限 s を持ちま
す。しかし、s が {an | n ∈ N} の最大値の場合、例えば a1 = s となっているような場合、a2 か
ら先は a1 を超えない範囲でどうなっているか全く分かりませんので、数列 {an }∞
n=1 が収束する
かどうかとか収束したとしてもその極限値がどういう値かということと s を結びつけることはほ
とんど不可能です。やはり、数列 {an }∞
n=1 の収束や極限値と s が直接結びつきそうな数列として
すぐ思いつくのは、n が増えるにつれて an も s に向かってだんだんと大きくなっていくような状
況でしょう。そのような状況をスッキリと述べるために、言葉を一つ用意します。
定義 2. 任意の n に対して an ≤
an+1 が成り立つとき、{an }∞
n=1
は単調増加であると言い、
任意の n に対して an ≥ an+1 が成り立つとき単調減少であると言う。
以上のように言葉を準備した上で、実数の連続性は数列の言葉で次のように言い換えることがで
きます。(講義の定理 1.3 です。)
実数の連続性(数列バージョン)
上に有界な単調増加数列は収束する。
このような数列の極限はもちろん supn an (= sup{an | n ∈ N}) です。また、下に有界な単調減少
数列は inf n an (= inf{an | n ∈ N}) に収束します。
証明は、講義のノートを参照して下さい。
普段何気なく使っている無限小数、例えば
3.1415926535897932384626433832795028841971693 · · ·
というものが本当に実数を表しているということは、今証明した「実数の連続性(数列バージョ
ン)」によって保証されます。なぜなら、上に例として書いた無限小数は、
3
3.1 3.14 3.141 3.1415 3.14159
...
という数列の極限値を意味するのであり、この数列が単調増加で上に有界(例えば、すべての項が
4 以下)なので必ず収束するからです。このように、「実数の連続性」というなんだか取っつきに
くい概念も、実は普段そうとは知らずに使っているとても身近な考え方なのです。
1.3
実数列の収束を示す例
問題 1 も問題 2 も「実数の連続性(数列バージョン)」を使って収束することを示し、それとは
別に、数列を定義する漸化式を利用して極限値を計算するという考え方の例になっています。
4
第 2 回解答
重要なことは、
極限値がわからないのに収束することが示せてしまう
ということです。そもそも、数列の収束の定義には極限値があらわに使われています。にもかかわ
らず極限値なしで収束することが示せてしまうのは、実数の連続性のおかげなのです。だから、例
えば有理数だけを数だと思ってしまった場合、これからするような議論は出来ないわけです。
1.3.1
問題 1 の解答
解答. まず、{an }∞
n=1 は上に有界であることを示しましょう。漸化式は
(
)2
1
3
9
an+1 = −
an −
+
2
2
8
と変形できます。よって、 0 < an < 1 なら an+1 も同じ不等式 0 < an+1 < 1 を満たします。a1
はこの条件を満たすことが仮定でしたので、すべての an がこの不等式を満たすことになります。
よって、特に数列 {an }∞
n=1 は有界です。
次に {an }∞
n=1 が単調増加であることを示しましょう。
an+1 − an =
an (3 − an )
an (1 − an )
− an =
2
2
なので、0 ≤ an ≤ 1 ならば an+1 − an ≥ 0 となり、an+1 ≥ an が成り立ちます。すべての an が
(図 2。)
0 < an < 1 を満たすことを上で示してありますので、{an }∞
n=1 は単調増加です。
y
O
x
1
a1 a2 a3 a4 a5
図 2: 問題 1 の数列の様子。
以上 {an }∞
n=1 は上に有界な単調増加関数なので、実数の連続性により収束します。
lim an = a とおくと lim an+1 = a であり、また収束する数列の和や積はそれぞれの極限値の
n→∞
n→∞
和や積に収束するので、
(
a = lim an+1 = lim
n→∞
n→∞
an (3 − an )
2
)
=
3
1
a − a2
2
2
すなわち a2 − a = 0 が得られます。これを満たす a の値は 0 と 1 です。すべての an が 0 < an < 1
を満たすことと {an }∞
n=1 が単調増加であることから 0 < a ≤ 1 でなければなりません。よって
a = 1 です。 □
5
第 2 回解答
この問題は実数の連続性(数列バージョン)の応用例です。繰り返しますが、「収束すること」
と「極限値」は別に議論しなければなりません。{an }∞
n=1 の収束を示す前に漸化式の両辺の極限
を取って、
{an }∞
n=1 は収束するとすれば極限値は 0 か 1 である。
とするのは正しいですが、たとえ極限値は 1 だと正しく予想できたとしても、実数の連続性を使わ
ずに直接 |an − 1| がいくらでも小さくなりうることを {an }∞
n=1 の定義式から示すのは結構面倒な
のではないかと思います。(興味のある人は是非考えてみてください。)
また、漸化式の両辺の極限を取って「a = 0 または 1」が得られるからといって、初項がどのよ
うな値でも {an }∞
n=1 は必ず 0 か 1 に収束する、と考えるのは間違いです。実際、例えば a1 = −1
としてみると、
a2 = −2
a3 = −5
a4 = −20
a5 = −230
...
というように負の無限大に発散してしまいます。「収束することを証明する」というステップは省
くことが出来ないわけです。
次の問題 2 も問題 1 と同じ考え方で解きます。
1.3.2
問題 2 の解答
解答. 相加相乗平均の関係から、0 < an < bn ならば
0 < an <
が成り立ちます。an+1 =
√
an bn , bn+1 =
√
an + bn
an bn <
< bn
2
an + bn
ですので、
2
0 < an < an+1 < bn+1 < bn
が成り立つことになります。初項について 0 < a1 < b1 と仮定していましたので、帰納的にこの不
∞
等式はすべての n で成り立ちます。よって、数列 {an }∞
n=1 は単調増加、数列 {bn }n=1 は単調減
少です。さらに、任意の n について an < b1 と a1 < bn が成り立つので、{an }∞
n=1 は上に有界、
{bn }∞
n=1 は下に有界でもあります。以上により、実数の連続性からどちらも収束することが分かり
ました。
収束先をそれぞれ a, b とすると、
b = lim bn = lim bn+1 = lim
n→∞
n→∞
n→∞
an + bn
a+b
=
2
2
となりなますので、a = b です。 □
2
上極限・下極限
「実数の連続性(数列バージョン)」は数列に有界性と単調性を要求していました。単調性とい
うのはいかにも厳しい条件のような気がしますが、有界性の方はそうでもない感じがするのでは
ないでしょうか。実際、有界だが単調増加でも単調減少でもない数列にはしょっちゅう出会いま
す。しかし、数列は有界だからといって収束するわけではないことは皆さんよくご存じの通りで
す。an = (−1)n などという簡単な例がすぐに作れてしまいます。
6
第 2 回解答
とは言え、本来の「実数の連続性」の方は集合に有界性しか要求していません。(数列ではない
ので単調性なんて考えられませんから当然ですが。)ということは、数列についても有界性だけか
ら何か実数列独特の性質を導き出すことが出来るのではないでしょうか? それが、上極限と下極限
の存在です。
2.1
有界な数列の状況
収束しない有界数列の一般的な状況をグラフでイメージすると、図 3 のようになるでしょう。
ā
a
図 3: 有界だが収束しない実数列のグラフ。
収束していないのですから、縦軸の一点に向かって集まってくる感じにはなりませんが、有界なの
で上の方や下の方に逃げて行くわけにもいかず、やはり集まってきている場所というのが出来てし
まいそうです。その場所というのが図 3 のように幅を持つのか、それともぽつぽつとしか存在しな
いのかはわかりませんが、いずれにせよ、この図の ā のように
ここまでは集まってきているけど、これより上の場所には集まってきていない
という数と、a のように
ここまでは集まってきているけれど、これより下の場所には集まってきていない
という数があるでしょう。合格発表のときに、開門するとわーっと受験生がキャンパスになだれ込
みますが、合格発表の掲示板のところにしか人は集まらないわけです。そのとき、文 I の一番小さ
い番号の載っている掲示板が ā、理 III の一番大きい番号の載っている掲示板が a という感じで
す。あるいは、駅のホームに人が大勢待っているのに、入ってきた電車が短くてホームの端の方に
いた人もあわてて電車に駆け寄ってくる、そのとき一番前の車輌の一番前の扉が ā、一番後の車輌
の一番後の扉が a といった感じのイメージです。
さて、実数の連続性は「集まってきているように見えるところにはちゃんと数がある」というこ
とを保証してくれるような性質なので、この図の ā や a に当たる実数がちゃんとあるはずです。
それらを上極限・下極限として定義したいのです。
7
第 2 回解答
上極限・下極限の定義
2.2
数列の収束の定義は |an − a| < ε、すなわち a − ε < an < a + ε というように上下から挟んでい
ますが、先ほどの図でもわかるように、例えば ā については an < ā + ε は大きな n に対して成
り立つだろうけれども、ā − ε < an は全然成り立たないでしょう。なぜなら ā よりずっと小さい
値を持つ an がいくらでもあるからです。そこで、数列の定義から安直に片方の不等式を外して
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ an < ā + ε]
(1)
を上極限の定義としたらどうでしょうか?
と思ったら、これは全然ダメです。なぜなら、ā の値に対する大きい方からの制限が何もないの
で、ある値がこの条件を満たしたらそれ以上の値はすべてこれを満たしてしまうからです。例え
ば、ā = 10 で条件 (1) が満たされるなら、ā = 11 でも 12 でも 100 でも全部条件 (1) が満たされて
しまうからです。
前にもこれに似た状況があったのを憶えていますか? そう、上界と上限の関係にそっくりです。
だから、条件 (1) を満たすものの最小値を上極限の定義とすればよさそうです。とは言え、折角
ε-N 論法なるもので数列の収束について議論してきているのですから、ここでも最小値という言
葉を使わずに上のような ε-N 論法式の言い方で定義したいものです。
「条件 (1) を満たすものの最小値」とは、
その数自身は条件 (1) を満たすが、それよりちょっとでも小さい数は条件 (1) を満たさ
ない
と言い換えることができます。これなら ε-N 論法に当てはまりそうです。以上を踏まえて上極限
を次のように定義します1 。
定義 3. 実数 ā が数列 {an }∞
n=1 の上極限であるとは、次の 2 条件の成り立つことである。
どのような正実数 ε が与えられてもそれに応じて N を上手く選べば、N より大
きいすべての n について an < ā + ε が成り立つ。
および、
どのような正実数 ε とどんなに大きな自然数 N に対しても、N より大きい自然
数 n で an > ā − ε を満たすものが存在する。
数列 {an }∞
n=1 の上極限のことを記号で
lim sup an
n→∞
と書きます。また、上極限の定義の二つの条件を論理式で書くと、
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ an < a + ε]
および
∀ε ∀N ∃n [n > N ∧ an > a − ε]
となります。
見慣れない「∀ε ∀N ∃n」が出てきてびっくりしたかも知れません。二番目の条件は、要するに
1 下の定義の二番目の条件が上の「最小値」の言い換えになっていることの説明は(面倒なので)省きました。是非自分
で考えてみてください。
8
第 2 回解答
ā より小さいが ā にいくらでも近い an が限りなく存在する
と言っているわけです。なぜなら、例えば an1 > ā − ε だったとしたら、N としてこの n1 を取る
ことにより、n1 より大きい n2 で an2 > ā − ε を満たすものが存在することになるので、これを
繰り返せば ank > ā − ε を満たす無限数列 an1 , an2 , an3 , . . . ができてしまうわけですから。だか
ら、「有限個」とか「無限個」とかの言葉を使ってしまえば、一番目の条件は
任意の正実数 ε に対し an ≥ ā + ε を満たす an は(あったとしても)有限個しかない2 。
二番目の条件は
任意の正実数 ε に対し an > ā − ε を満たす an は無限個ある。
と言い表すこともできます。
なお、以上の条件で不等号の向きをすべて逆にし ε の前の符号をすべて取り替えたものが下極
限の定義です。つまり、
任意の正実数 ε に対し an ≤ a − ε を満たす an は(あったとしても)有限個しかない。
および、
任意の正実数 ε に対し an < a + ε を満たす an は無限個ある。
を満たす実数 a のことを数列 {an }∞
n=1 の下極限と言い、記号で
lim inf an
n→∞
と書きます。
∞
ここまでは、数列 {an }∞
n=1 が有界であることしか仮定していませんでしたが、{an }n=1 が収束
するとしたら、極限・上極限・下極限の間にはどのような関係があるのでしょうか。それはもちろ
ん次です3 。
定理 1. 数列
{an }∞
n=1
が収束するならば、
lim an = lim sup an = lim inf an
n→∞
n→∞
n→∞
が成り立つ。
証明. 上極限でも下極限でも同じですので、{an }∞
n=1 が a に収束すると仮定して上極限も a であ
ることを示しましょう。
lim an = a ということを論理式で書くと、
n→∞
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ |an − a| < ε]
が成り立つということです。
|an − a| < ε ⇐⇒ a − ε < an < a + ε
> ではなく ≥ となっているのは an < ā + ε の否定だからです。しかし、ε は任意なのですから ≥ を >
で取り替えても同値です。あまり神経質になる必要はありません。
3 逆に、講義の命題 1.5 で示されたように「上極限と下極限が一致しているなら数列はその値に収束する」ということ
も成り立ちます。しかし、話の都合このことには後に回します。
2 不等号が
9
第 2 回解答
ですので、特に
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ an < a + ε]
が成り立ちます。これで、a が上極限の定義の一番目の条件を満たすことが分かりました。
一方、a は
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ an > a − ε]
も満たします。そこで、自然数 M が任意に与えられてしまったとき、n として N と M の両方
より大きい自然数を取れば、
[n > M ] ∧ [an > a − ε]
が成り立ちます。これは上極限の定義の二番目の条件です。
(こう書くとなんだか大変なことのよう
ですが、二番目の条件は「an > a − ε を満たす n が無限個存在する」というもので、一方 {an }∞
n=1
が a に収束するなら「有限個を除いて an > a − ε を満たす」わけですから、二番目の条件が満た
されることは説明の必要もないほど当たり前なことです。)
これで a が {an }∞
n=1 の上極限であることが示せました。 □
2.3
実例:問題 3、4、5
まずは、実数の連続性とは直接関係のない、上極限・下極限の定義だけを使う実例に取り組んで
みましょう。
2.3.1
問題 3 の解答
問題では上極限しか要求していませんが、ほとんど同じですので下極限のことも一緒に考えてみ
ます。まず状況を把握して上極限の値と下極限の値を予想しましょう。
n = 1, 2, 3, 4, 5, 6, . . . のとき、sin 2n
3 π は
√
√
3
3
−
0
2
2
√
というように
3
2 ,
−
√
3
2
√
−
3
2
0
...
√
0 の三つをこの順に繰り返します。よって、数列 {bn }∞
n=1 は
 √
3



an
n を 3 で割ったあまりが 1


2




 √
3
bn =
an
n を 3 で割ったあまりが 2
−



2







0
n が 3 で割り切れる
3
2 ,
となります(図 4)。
√
√
3
3
lim b3k+1 =
a
lim b3k+2 = −
a
k→∞
k→∞
2
2
となっているわけですから、 lim an = a が正のとき、
lim b3k = 0
k→∞
n→∞
√
lim sup bn =
n→∞
3
a
2
√
lim inf bn = −
n→∞
3
a
2
10
第 2 回解答
a1
a3
b1
a4
a
√
a2
b3
b4
3
a
2
√
−
b2
3
a
2
図 4: 問題 3 の数列のグラフ。
であるとわかります。
以上で、上極限(と下極限)の値が予想できたので、これを定義に従って証明すればよいという
ことになります。
解答.
√
lim sup bn =
n→∞
3
a
2
であることを証明しましょう。
はじめに、上極限の定義の一番目の条件、
どのような正実数 ε に対しても、N より大きいすべての n について
√
3
a+ε
bn <
2
の成り立つような N が存在する
ということを示しましょう。正実数 ε が任意に与えられたとします。{an }∞
n=1 は a に収束してい
るので、この ε に対して
n > N =⇒ |an − a| < ε
の成り立つ N が存在します。絶対値記号をはずすと、これは
n > N =⇒ a − ε < an < a + ε
と書き直せます。0 <
√
3
2 ε
√
3
2
< 1 なので、これを不等式に掛けても不等号の向きは変わらない上、
< ε ですから、n > N のとき
√
√
√
√
√
√
3
3
3
3
3
3
3
a−ε<
a−
ε<
an <
a+
ε<
a+ε
2
2
2
2
2
2
2
√
が成り立ちます。
n が 3 で割って 1 あまるとき、bn =
√
3
2 an
でしたので、この不等式の左側の部分から、
11
第 2 回解答
n > N で、しかも n を 3 で割ったあまりが 1 のとき
√
3
bn >
a−ε
2
が成り立つ
ということがわかります。3 で割って 1 あまる自然数は 3 つおきに存在しているので、N がどの
ような自然数であろうと、3 で割って 1 あまる N より大きい自然数は無限に存在します。これで、
上極限の定義の二つの条件のうちの二番目のものが成り立つことがわかりました。
一方、−
√
3
2
√
<0<
3
2
ですので、an > 0 なら
√
√
3
3
−
an < 0 <
an
2
2
が成り立ちます。よって、上の不等式の右側から、n > N でしかも an > 0 ならば
√
√
√
3
3
3
an < 0 <
an <
a+ε
−
2
2
2
(2)
の成り立つことがわかります。今 a > 0 なので、ε′ を a より小さな正実数とすると、
n > N ′ =⇒ 0 < a − ε < an < a + ε
の成り立つ N ′ が存在し、特に an は正です。よって、先ほどの N とこの N ′ のうち大きい方を改
めて N とすれば、n > N を満たすすべての n について不等式 (2) が成り立つことになります。bn
は−
√
3
2 an ,
√
0,
3
2 an
のどれかなのですから、この不等式は、n > N を満たすすべての n について
√
3
bn <
a+ε
2
の成り立つことを意味します。これで、上極限の定義のもう一つの条件も成り立つことがわかりま
した。
上極限の定義のふたつの条件を示せたので、
√
lim sup bn =
n→∞
3
a
2
であることが証明できました。 □
2.3.2
問題 4 の解答
問題 4 は問題 3 よりむしろ簡単です。雑に書いておきますので、問題 3 の解答を参考にして細部
を補ってみてください。
(ただし、(2) は定理 1 を直接適用するだけなので、これ以上詳しく説明す
る必要はありません。)
解答. (1) この数列は
1
2
1
3
4
1
5
6
...
1
2m − 1
2m
...
という数列です。よって、上に有界でないので上極限は存在しません。一方、すべての n に対し
て an > 0 が成り立っており、また、どのような正実数 ε に対しても n >
れば an =
1
n
< 0 + ε が成り立つので、下極限は 0 です。 □
1
ε
を満たす奇数 n をと
12
第 2 回解答
(2) この数列は 0 に収束します。実際 −1 ≤ sin nπ ≤ 1 なので、
−
1
1
π
1
≤ an = sin ≤
n
n
n
n
が成り立っていますから、はさみうちの原理により lim an = 0 です。よって、定理 1 により、
n→∞
lim sup an = lim inf an = 0
n→∞
n→∞
です。 □
(3) これは問題 3 を簡単にしたような問題です。an は
1
√
2
0
1
−√
2
−1
1
−√
2
0
1
√
2
1
...
を繰り返すので、
lim sup an = 1
n→∞
lim inf an = −1
n→∞
です。 □
2.3.3
問題 5 の解答
具体的な数列を扱わない抽象的な問題にも取り組んでおきましょう。
解答. (1) 誤りです。例えば、
an = −1
bn = (−1)n
とすると an bn = (−1)n+1 なので、
lim sup(an bn ) = 1
n→∞
ですが、
lim an = −1
lim sup bn = 1
n→∞
なので、
(
lim an
n→∞
n→∞
)
)(
lim sup bn = −1
n→∞
となり一致しません。 □
(2) 正しいです。
証明しましょう。上極限が 0 なのですから、上極限の定義の一番目の条件
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ an < ε]
が成り立っています。一方、an > 0 なのですから任意の正実数 ε に対して常に an > −ε が成り
立っています。この二つを合わせると、
∀ε ∃N ∀n [n > N ⇒ |an | < ε]
が得られます。これは {an }∞
n=1 が 0 に収束することの定義です。 □
13
第 2 回解答
2.4
有界数列における上極限・下極限の存在 : 問題 6
問題 6 は
任意の有界実数列が上極限を持つ
ということを保証してくれている点で重要です。
(当然、下極限も同様に存在します。)下の解答を
見てもらえればわかるように、この事実は「実数の連続性」を根拠とした実数ならではの性質です。
図 3 を左の方から徐々に消して行く(紙などで隠して行く)とわかるように、上極限というのは、
{an , an+1 , an+2 , . . .} の中の「最大値」の収束先
という感じのものです。ただし、最大値は存在するとは限らないのでそれを上限で置き換えた、そ
れが問題 6 の lim sn の意味です。この感じが本当に正しいということを証明して下さいという
n→∞
問題です。
なお、これは講義の定理 1.4 と同じ内容です。しかし、重要な上、証明がなかなか理解しにくい
と思うので演習問題としても出題しておきました。講義での証明も参照してください。
2.4.1
問題 6 の解答
解答. まず {sn }∞
n=1 が収束することを示しましょう。
sn = sup{ak | k ≥ n}
sn+1 = sup{ak | k ≥ n + 1}
であり、
{ak | k ≥ n + 1} ⊂ {ak | k ≥ n}
と部分集合になっていますので、
sn ≥ sn+1
∞
が成り立ちます。よって、数列 {sn }∞
n=1 は単調減少です。一方、数列 {an }n=1 は有界なのですか
ら、特に下界を持ちます。つまり、実数 R で、任意の n について an > R の成り立つものが存在
します。任意の n についてこれが成り立つのですから、R は集合 {ak | k ≥ n} の下界でもありま
す。よって、任意の n について sn > R が成り立つ、つまり数列 {sn }∞
n=1 は下に有界です。
これで {sn }∞
n=1 は下に有界な単調減少数列であることがわかったので、実数の連続性により
{sn }∞
n=1 は収束します。 lim sn = s とおきましょう。
n→∞
∞
次に、この s が {an }∞
n=1 の上極限であることを示しましょう。s は数列 {sn }n=1 の極限なの
で、任意の正実数 ε に対しても自然数 N で
n > N =⇒ s − ε < sn < s + ε
の成り立つものが存在します。sn は {ak | k ≥ n} の上限でしたので、左側の不等式から、
ak ≤ sn < s + ε
(k ≥ n)
の成り立つことがわかります。n は N より大きい任意の自然数でしたので、結局、N より大きい
すべての自然数 n について
an < s + ε
14
第 2 回解答
が成り立つことになります。これは s が {an }∞
n=1 の上極限であることの二つの条件のうちの一つ
です。
一方、N より大きい n1 を一つ取ると、s − ε < sn1 であることと sn1 が {ak | k ≥ n1 } の上限
であることから、
s − ε < am1
(m1 ≥ n1 )
の成り立つ自然数 m1 が存在します。この m1 より大きい自然数 n2 を一つ取ると、n2 > N なの
で s − ε < sn2 が成り立ちます。よって、全く同様に
s − ε < am2
(m2 ≥ n2 )
となる m2 が存在します。これを繰り返して、s − ε < ami の成り立つ自然数の無限列
m 1 < m2 < m3 < · · ·
が出来上がります。このことは、特に s − ε < an の成り立つ an が限りなく存在することを示し
ています。これは s が {an }∞
n=1 の上極限であることのもう一つの条件です。
以上で、s が {an }∞
n=1 の上極限であることが示せました。 □
問題には書きませんでしたが、下極限でも同様の事実が成り立ちます。つまり、
rn = inf ak = inf{ak | k ≥ n}
k≥n
とすると、rn は(上に有界な単調増加数列になるので)収束して、
lim rn = lim inf an
n→∞
n→∞
が成り立ちます。証明は、上の解答で不等号の向きや ε の前の符号を直すだけでできます。
実数列の収束に関する二つの定理
3
この節では、前半で「有界な実数列は上極限に収束する部分列を持つ」ということを一般化した
「ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理」を、後半では「上極限と下極限が等しい実数列は収
束する」ということを根拠としたコーシーの判定法を説明します。
3.1
ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理
結論から述べてしまいましょう。
ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理4
つまり、
有界な実数列は収束する部分列を持つ。
有界という条件だけでは収束はしないけれども、適当に不必要なところを捨てれば収
束する実数列だけ残すことができる
4 ボルツァーノは 19 世紀前半の、ワイエルシュトラスは 19 世紀後半の数学者の名前です。この定理の内容を端的に表
すよい名前がないので、このように長い名前が付けられてしまっています。
15
第 2 回解答
というわけです。この事実だけを聞いてもあまり重要なことではないような気がするかも知れませ
ん。しかし、例えば
有界閉区間 [a, b] を定義域とする連続関数は最大値を持つ
という高校のときから慣れ親しんできた最大値の原理は、このボルツァーノ・ワイエルシュトラス
の定理から導かれるのです。このように、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は具体的な実
数列に適用するというよりも、理論を展開する上で大変重要な定理であると言えます。
なお、最大値の原理は「有界閉区間」に当たる集合をうまく定義することで多変数関数の場合
にも成り立つようにできます。それを証明するキーポイントは、平面や空間を拡張した概念である
Rn というものにおける有界点列に対してボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を拡張した定
理です。点列のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理と有界閉区間に当たる集合については次
回紹介する予定です。
それでは(数列の)ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を証明しましょう。
証明. {an }∞
n=1 を有界な実数列、ā をその上極限とします。上極限とはどのような性質を持つ実数
だったかというと、任意の正実数 ε に対して
• n > N を満たすすべての n について an < ā + ε が成り立つような N が存在する。
• どんなに大きな自然数 M に対しても、n > M かつ an > ā − ε を満たす an が存在する。
が成り立つような値でした。このことから、{an }∞
n=1 の部分列で ā に収束するものを次のように
して選ぶことができます。
まず、自然数 N1 を、n > N1 ならば an < ā + 1 が成り立つように選びます。そして、N1 より
大きい n1 で an1 > ā − 1 が成り立つものを一つだけ選びます。そして、b1 = an1 と定義します。
次に、自然数 N2 を n > N2 ならば an < ā +
の両方より大きい n2 で an2 > ā −
1
2
1
2
が成り立つように選びます。そして、N2 と n1
が成り立つものを一つだけ選びます。そして、b2 = an2 と
定義します。
このようににして bk (= ank ) を選んだら、自然数 Nk+1 を「n > Nk+1 =⇒ an < ā +
成り立つように選び、Nk+1 と nk の両方より大きい nk+1 で ank+1 > ā −
一つだけ選ぶ、というようにして帰納的に実数列
{bk }∞
k=1
1
k+1
1
k+1 」が
が成り立つものを
を作ります。
すると、bk = ank であって
n1 < n2 < n3 < · · · < nk < nk+1 < · · ·
∞
となっているので {bk }∞
k=1 は {an }n=1 の部分列です。しかも、
ā −
1
1
< bk < ā +
k
k
すなわち
|bk − ā| <
1
k
が成り立っているので、任意の正実数 ε に対して、自然数 K を K >
1
ε
を満たすように選べば、
k > K を満たすすべての k について
|bk − ā| <
1
1
<
<ε
k
K
が成り立ちますから、{bk }∞
k=1 は ā に収束します。
これで、有界な実数列は上極限に収束する部分列を持つことが示せました。極限値が上極限であ
ることを忘れれば、有界な実数列は収束する部分列を持つ、という結論が得られます。これが示し
たいことでした。 □
16
第 2 回解答
この証明では上極限に収束する部分列を作りましたが、同様にして下極限に収束する部分列を作
れることもわかるでしょう。ということは、有界な実数列 {an }∞
n=1 が収束していない場合、収束
する部分列の極限値は少なくとも二つあることがわかりました。もちろん、
1
2
3
4
1 2
3 4
1
2
3
4
...
などというくだらない例からもわかるとおり、上極限である 4 に収束する部分列と下極限である 1
に収束する部分列以外にも 2 や 3 に収束する部分列があるように、部分列の極限は上極限か下極限
だとは限りませんので注意してください。
3.1.1
問題 7 の解答:ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の別証明
上で述べたように、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理は連続関数の最大値の原理などを
導くときに重要な役割を果たします。その一方、具体的な数列に適応して何がしかの結論を導き出
すような使い方はあまりしません。そういうわけで、今回の演習にもボルツァーノ・ワイエルシュ
トラスの定理を使う問題は出題できませんでした。
ところで、講義ではボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の証明を上(下)極限を使って上
のようにしましたが、上(下)極限という概念が難しいためか多くの教科書では別の方法で証明さ
れています。その証明方法は区間縮小法という別名がつくほどよく使う有用なものなので、応用問
題の代わりにその別証明を紹介することにしました。それが問題 7 です。証明のポイントは、単調
増加な数列と単調減少な数列で極限が一致するものに挟まれるような部分数列を選び出すことで
す。それが選び出せれば、はさみうちの原理によってその部分数列の収束が結論できるというわけ
です。
解答. まず、任意の k について bk ≤ ck が成り立っていることを示しましょう。b1 = b, c1 = c で
すので k = 1 については成り立っています。また、
bk + ck
bk + ck
」 または 「bk+1 =
かつ ck+1 = ck 」
2
2
ですので、bk ≤ ck が成り立っているなら bk+1 ≤ ck+1 も成り立っています。これで数学的帰納法
により示せました。
「bk+1 = bk かつ ck+1 =
∞
次に、数列 {bk }∞
k=1 は単調増加であり、数列 {ck }k=1 は単調減少であることを示しましょう。
上に書いたように bk+1 = bk か bk+1 =
bk +ck
2
です。前者なら bk+1 ≥ bk が成り立っています。ま
た、bk ≤ ck ですので後者でも bk+1 ≥ bk が成り立っています。これで {bk }∞
k=1 が単調増加である
ことがわかりました。{ck }∞
k=1 が単調減少であることも同様に示せます。
以上より、
b1 ≤ b2 ≤ · · · ≤ bk ≤ · · · ≤ ck ≤ · · · ≤ c2 ≤ c1
∞
となっていることがわかりました。特に {bk }∞
k=1 は上に有界な単調増加数列であり、{ck }k=1 は
下に有界な単調減少数列なのでどちらも収束します。しかも
ck − bk =
ck−2 − bk−2
c1 − b1
ck−1 − bk−1
=
= · · · = k−1
2
2
2
2
ですので、
lim (ck − bk ) = 0
k→∞
∞
となっています。すなわち {bk }∞
k=1 の極限と {ck }k=1 の極限は一致します。その値を a と書くこ
とにしましょう。
17
第 2 回解答
∞
さて、{an }∞
n=1 の部分数列 {ank }k=1 は bk ≤ ank ≤ ck を満たすように選びました。k → ∞ の
とき bk も ck も a に収束するのですから、はさみうちの原理によって ank も同じ a に収束しま
す。これで証明できました。 □
3.2
コーシー列
上(下)極限の節(第 2 節)からここまでは主に収束しない有界実数列についてどのようなこと
が言えるかを考えてきました。しかし、もちろん収束する実数列もあるわけですから、これまでの
考察を収束する実数列に限って当てはめてみると何が言えるかが気になるところです。
「気になる」って何が気になるのか、具体的に説明しましょう。収束の定義の問題点(使いにく
いところ)は、定義自体に極限の値が入ってしまっていることです。実数列 {an }∞
n=1 が具体的に
与えられたとき、それが収束することを定義に従って示すには、
n > N =⇒ |an − a| < ε
を満たすような N を ε に応じて見つけようとする前にまず極限値 a を見つけなければなりませ
ん。これは、a が見つかるように工夫されている問題は別として、普通は望み薄です。
しかし、前節で議論した「有界実数列の上極限・下極限に収束する部分列」は、部分列ではある
けれども極限値はわからないがとにかく収束するということを言っています。上極限や下極限は具
体的な値はわからないがとにかく存在はする、というものだからです。一方、もし元の実数列がは
じめから収束しているならすべての部分列はそれと同じ極限値に収束します。ということは、上極
限に収束する部分列も下極限に収束する部分列も同じ値に収束することになります。つまり、
収束する
=⇒ 上極限 = 下極限
が成り立っているわけです。
(既に 8 ページに定理 1 として紹介してあります。)だから、実はこれ
の逆の
上極限 = 下極限
=⇒ 収束する
が成り立っているのではないか、そして、「上極限 = 下極限」ということを上極限とか下極限と
かの言葉を使わずに書き表すことができれば「収束する」ということを極限値を使わない条件に言
い換えることができるのではないか。それが「気になる」わけです。
まず、
上極限 = 下極限
=⇒ 収束する
が本当に正しいということを証明しましょう。
定理 2. 有界な数列
{an }∞
n=1
の上極限と下極限が一致しているなら、{an }∞
n=1
はその値に収
束する。
証明. 有界数列 {an }∞
n=1 が
lim sup an = lim inf an = a
n→∞
n→∞
を満たしているとします。a が上極限であることから、与えられた正実数 ε に対して
n > N+ =⇒ an < a + ε
18
第 2 回解答
の成り立つ自然数 N+ が存在します。一方、a が下極限であることから、同じ ε に対して
n > N− =⇒ an > a − ε
の成り立つ N− が存在します。よって、N = max{N+ , N− } とすれば、
n > N =⇒ |an − a| < ε
が成り立つことになります。これは {an }∞
n=1 が a に収束することを意味しています。 □
これで、あとは「上極限 = 下極限」という条件を上極限や下極限という言葉を使わずに書き表
せばよいことになりました。とは言え、上極限や下極限の定義をジッと眺めていても埒が明きそう
もないので、「いかにも収束しそう」ということのイメージを直接はっきりした言葉にしようとし
てみましょう。
「いかにも収束しそうな実数列」の意味を考えるために、「本当に収束している実数列」の定義
から極限値の情報を取り去ると何が残るか考えてみましょう。実数列 {an }∞
n=1 が a に収束してい
るとは、どんなに小さな「幅」ε が与えられても、ほとんど(つまり、有限個を除いてすべて)の
an が a を中心とした幅 2ε の中に収まってしまうということでした。この定義から安直に「a を
中心とした」という部分を取り去り、ε が任意であることから 2ε の 2 を取り去って ε にしてしま
えば、
どんなに小さな幅 ε が与えられても、ほとんどの an が幅 ε の中に収まってしまう。
となります。
とりあえず、この文が「いかにも収束しそう」という言葉の内容だと信じることにしましょう。
とすると、残っていることは「幅 ε の中に収まっている」ということを、幅の中心の情報を使わ
ずにどうやって式で表現するかという問題です。「ほとんどの」というのが考えるのに邪魔になる
ので、とりあえず「すべての an が幅 ε の中に収まっている」ということを式で表現する方法を考
えてみましょう。すべてが幅 ε の中に収まっているのだから、a1 と他のすべての an との差は ε
より小さいことになります。つまり、
∀n [|a1 − an | < ε]
です。これだけでよいでしょうか? いや、これは「a1 を中心にして幅 2ε の中に収まっている」と
いうことであって、目指していることとピッタリ同じではありません。大体、a1 だけ特別扱いす
る理由はどこにもないのに a1 を持ち出してくるからピントがずれるのではないでしょうか? a1 と
an の差が ε より小さいように、a2 と an の差も、a3 と an の差もすべて ε より小さいわけです
から。こう考えると、「両方とも特定しない」というのがよさそうに思えます。つまり、すべての
am と an との差が ε より小さい、式で書くと
∀m, n [|am − an | < ε]
となります。あとは「すべての」としていたところを「ほとんどの」つまり「有限個を除いて」に
直してやればよいだけです。これで次の定義にたどり着けました。なお、このような実数列のこと
を「いかにも収束しそうな列」と名付けてもよいかも知れませんが、初めて考えついた人の名にち
なんでコーシー列と呼ぶことになっています。
19
第 2 回解答
定義 4. 実数列 {an }∞
n=1 は、任意の正実数 ε に対して十分大きな自然数 N を取ると N より
大きい任意の二つの自然数 n, m に対して |an − am | < ε を満たすとき、つまり、
∀ε ∃N ∀n∀m [n > N, m > N =⇒ |an − am | < ε]
を満たすときコーシー列という。
どこを中心にばらついているかを問題にしていないところが、収束の定義とは違うところです
(図 5)。 なお、|an − am | < ε を |an − an−1 | < ε と誤解してしまうことが結構あります。n と m
幅ε
1
2
3 4
図 5: コーシー列。ある n から先の an は幅 ε の帯の中に収まっている。帯の中心は極限値
でなくてよい。
は(どちらも N より大きいという以外)何の関連もないというところがミソですので、くれぐれ
もご注意下さい。念のために実例として問題 8 を出題しておきました。
3.2.1
問題 8 の解答
まず、任意の正実数 ε に対して
n > N =⇒ |an+1 − an | < ε
を満たす N が存在することを示しましょう。
(√
√ ) (√
√ )
√
√
n+1− n
n+1+ n
1
1
√
n+1− n=
=√
√
√ < √
2 n
n+1+ n
n+1+ n
です。よって、任意の正実数 ε に対して、例えば N を
1
ε2
以上の自然数とすると、
1
1
ε
n > N =⇒ |an+1 − an | < √ < √ < < ε
2
2 n
2 N
が成り立ちます。これで示せました。
次に、コーシー列ではないこと、すなわち
任意の正実数 ε に対して
m, n ≥ N =⇒ |am − an | < ε
を満たす N が存在する。
20
第 2 回解答
は成り立たないことを示しましょう5 。示すべきことは、正実数 ε で
√ √
どんなに大きな自然数 N に対しても N より大きい二つの自然数 n, m で | n− m| ≥ ε
の成り立つものが存在する
の成り立つものが存在することです。ここで、n = 2m とすると、
(√
)√
√
√
√
√
n − m = 2m − m =
2−1
m
ですので、例えば ε = 0.4 とすると、どのような N に対しても m を N より大きい任意の自然
√
√
n − m ≥ ε が成り立ちます。これでコーシー列でないことが示せま
数とし n = 2m とすれば
した。 □
3.3
コーシーの判定法
前小節の考えの筋道からして「本当に収束している実数列は収束しそうな実数列でもある」とい
うことは当然なのですが、ちゃんと確認しておきましょう。つまり、
収束する数列はコーシー列である
を証明しておこうということです。
証明. {an }∞
n=1 を a に収束する実数列とします。ということは、任意の正実数 ε に対して自然数
N を上手く選べば、N より大きいすべての自然数 n に対して
|an − a| <
が成り立ちます。(ε ではなく
ε
2
ε
2
に調節しておいたのは、最後に得られる不等式が「< 2ε」で
はなく「< ε」になるようにするためです。実質的な意味はありません。)よって、三角不等式
|x + y| ≤ |x| + |y| を使うことにより、N より大きい任意の二つの自然数 n, m に対して、
|an − am | = |(an − a) + (a − am )| ≤ |an − a| + |a − am | <
ε ε
+ =ε
2 2
が成り立つことになります。これは {an }∞
n=1 がコーシー列であることを意味しています。 □
以上、前小節からここまでは、収束しそうということをどのように定義するか考えただけで、実
数の性質は一切使いませんでした。しかし、はじめに書いたように、期待していることは、
収束しそうな実数列は本当に収束している
ということが実数の連続性によって成り立っているのではないか、ということです。そして、それ
が本当に成り立っているのだ、ということを実数は完備性を持つと言います。
実数の完備性
実数列 {an }∞
n=1 はコーシー列ならば収束する。
∞
これで、極限のわからない実数列 {an }∞
n=1 が収束するかどうかを調べるには、{an }n=1 がコー
シー列かどうかを調べればよいということになるわけです。このようにして収束を判定する方法を
コーシーの判定法と呼びます。
それでは、証明しましょう。
5 問題の数列は発散しますので、既にコーシーの判定法を知っている以上、その対偶によってコーシー列でないことを結
論できます。しかし、ここではコーシーの判定法を使わずに、コーシー列の定義を満たさないことを直接示しておきます。
21
第 2 回解答
証明. まず、コーシー列は有界であることを示しましょう。これは、収束する数列が有界であるこ
との証明とほとんど同じです。{an }∞
n=1 がコーシー列なら、
∀m, n > N =⇒ |am − an | < 1
の成り立つ自然数 N が存在します。特に、n > N ならば |an | < |aN +1 | + 1 が成り立ちます。よっ
て、正実数 R を
R = max{|a1 |, |a2 |, . . . , |aN |, |aN | + 1}
とすれば、任意の n について |an | ≤ R が成り立ちます。これでコーシー列は有界であることが示
せました。
有界であることがわかったので、コーシー列は上極限とか極限を持ちます。後は、この上極限と
下極限が一致していることを証明すればよいわけです。{an }∞
n=1 をコーシー列とし、ā を上極限、
a を下極限としましょう。
{an }∞
n=1 がコーシー列であることから、与えられた正実数 ε に対して、
m, n > M =⇒ |an − am | <
ε
3
の成り立つ自然数 M があります。ā が上極限、a が下極限であることから、この ε と M に対
して、
n0 > M かつ an0 > ā −
ε
3
の成り立つ n0 と、
ε
3
の成り立つ m0 が存在します。以上の三つの不等式を合わせると、
m0 > M かつ am0 < a +
ε
2
> |an0 − am0 | ≥ an0 − am0 > ā − a − ε
3
3
が得られます。上極限と下極限の間には ā ≥ a という不等式が成り立ちますので、ā − a = |ā − a|
です。これを踏まえて上の不等式の最初と最後を整理すると、
|ā − a| < ε
となります。つまり ā と a の差は任意の正実数より小さい値、すなわち 0 であるということがわ
かりました。これで ā = a であることが示せたので、コーシー列は必ず収束することが証明でき
ました。 □
例によって、最後を「< ε」にするためにはじめの方で ε を 3 で割っておきました。もちろん最
初に証明を書き下したときはそんなことは気にせず全部 ε で書いておいて、最後が「|ā − a| < 3ε」
になったのを見てから前に戻ってすべての ε を 3 で割っただけです。
3.3.1
問題 9 と問題 10 の解答
さて、コーシーの判定法を使ってみましょう。問題 9 と問題 10 です。
∑∞
n
気づいた人も多いと思いますが、問題 9 は無限級数 n=1 sin
2n の収束を示す問題です。コーシー
の判定法を使うということは、|an − am | の大きさをいくらでも小さくできることを示すというこ
とです。問題 9 の場合、n > m として
n
∑ sin k |an − am | = 2k k=m+1
22
第 2 回解答
となるので、これに三角不等式を使ったあと | sin k| ≤ 1 であることを使えば上手くいきそうで
すね。
解答. n > m とすると、
an − am =
n
∑
sin k
2k
k=m+1
です。三角不等式 |x + y| ≤ |x| + |y| を繰り返し使うことにより、
n
n
n
∑ sin k ∑
∑
sin k | sin k|
=
≤
k
k
2 2
2k
k=m+1
k=m+1
k=m+1
が得られます。さらに | sin k| ≤ 1 であることから、
n
n
∑
∑
| sin k|
1
≤
2k
2k
k=m+1
k=m+1
となります。この右辺は
n
∑
k=m+1
1
1
= m+1
2k
2
n−m−1
∑
l=0
1
1
1 1 − 2n−m
1 1
1
=
< m+1 1 = m
2l
2m+1 1 − 21
2
2
2
という不等式を満たします。以上の不等式をつなげると、n > m のとき、
|an − am | <
1
2m
の成り立つことがわかりました。
よって、正実数 ε が任意に与えられたとき、
1
<ε
2N
を満たす自然数 N を一つ選べば、N より大きい任意の二つの自然数 n, m について、
|an − am | <
1
<ε
2N
が成り立ちます。これは、{an }∞
n=1 がコーシー列であることを意味しているので、コーシーの判定
法により {an }∞
n=1 は収束します。 □
問題 10 の数列は、漸化式
b1 = b2 = 1,
bn+2 = bn+1 + bn
で定義される数列(フィボナッチ数列という名前が付いています)の隣り合う項の比 an =
bn+1
bn
です。これの極限が黄金比と呼ばれる値に収束することをご存じの人もいるかもしれません。問題
10 はそれを証明する問題です。
解答. 初項 a1 が正なので、漸化式から帰納的にすべての an が正です。このことをもう一度漸化
式に入れると、すべての an = 1 +
1
an−1
は 1 以上であることがわかります。一方、漸化式の両辺
に an をかけて分母を払うと、
an an+1 = an + 1
23
第 2 回解答
となります。よって、任意の n について an an+1 ≥ 2 です。このことから、
(
) (
)
|an−1 − an |
1
|an − an−1 |
1
=
− 1+
≤
|an+1 − an | = 1 +
an
an−1
an−1 an
2
が得られます。この不等式を繰り返し使うと
|a2 − a1 |
1
= n−1
n−1
2
2
となります。よって、n > m > N を満たす三つの自然数に対し、三角不等式を繰り返し使うこと
により
|an+1 − an | ≤
|an − am | = |an − an−1 + an−1 − an−2 + · · · + am+1 − am |
≤ |an − an−1 | + |an−1 − an−2 | + · · · + |am+1 − am | ≤
=
1
2m−1
n−m−1
∑
k=0
1
2n−2
+
1
2n−3
+ ··· +
1
2m−1
1
1
1 1 − 2n−m
1
1
=
< m−2 ≤ N −1
1
k
m−1
2
2
2
2
1− 2
の成り立つことがわかります。よって、任意の正実数 ε に対し、 2N1−1 < ε が成り立つ自然数 N
を選べば、
n, m > N =⇒ |an − am | < ε
が成り立ちます。これは数列 {an }∞
n=1 がコーシー列であることを意味します。よって、コーシー
の判定法により {an }∞
n=1 は収束します。
{an }∞
n=1 の極限値を a としましょう。すると、漸化式の両辺で n → ∞ とすることにより、
1
a
という等式が得られます。分母を払って整理すると、これは
a=1+
a2 − a − 1 = 0
となりますので、
√
√
1− 5
1+ 5
または a =
a=
2
2
です。一方、すべての n について an ≥ 1 が成り立っているので、極限値 a も 1 以上です。よって、
√
1+ 5
lim an =
n→∞
2
です。 □
コーシーの判定法がいかに有用であるがよくわかったように感じるかも知れません。が、実は
コーシーの判定法を使って収束を証明できる具体的な実数列はあまりありません。コーシー列と
いう概念は収束する実数列と同値な概念なのでいかにも役に立ってくれそうなのですが、実用上
はおろか、1 年生の学ぶ範囲の数学では理論上もほとんど出番がありません。実際に活躍するのは
「単調増加な有界実数列は収束する」という定理やボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理なの
です。
(もっと専門的な数学においてはコーシー列は大変重要な役割を果たしますが。)だから、具
体的な実数列の収束を示そうとするとき、無理にコーシー列に持ち込もうとするのはやめた方がよ
いと思います。問題 9 も問題 10 もコーシーの判定法を使わずに、実数の連続性(数列バージョン)
で解くことができます。しかも、問題 9 の場合はその証明の方が無限級数を理解するのに役に立っ
てくれます。しかし、それについては無限級数の一般論を学ぶときに説明した方が混乱が少ないと
思うので、ここで紹介するのはやめておきます。