代数学入門 参考資料 2 2015 年度後期 工学部・未来科学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) § 約数と倍数 (続) ■ユークリッドの互除法 (復習) 定理 (互除法の原理) m, n, q, r を整数とし、m ̸= 0 とする。等式 n = m q + r が成り立つ ならば g.c.d.(n, m) = g.c.d.(m, r) が成り立つ。 babababababababababababababababababab 注: 1. この方法に基づく最大公約数の求め方は、ユークリッドの『原論』 第 7 巻 命題 1, 2, 3 に記されていることから「ユークリッドの互 除法」と呼ばれている。 2. この定理の証明自体はさほど難しくはないので講義で扱います。 ユークリッド 3. テキスト『数の不思議』の 6–19 ページでは、互除法を「タイル張りの問題」 「分数の 約分を用いた考え方」など、様々な角度から考察しているので良く読んでおくこと!! とにかく「互除法の考え方」に慣れることが肝心。 § 一次不定方程式 ■一次不定方程式の解の構造 定義 (一次不定方程式) a, b, d を 整数 とする。未知数 x, y に関する一次方程式 ax + by = c を (二元) 一次不定方程式 indeterminate equation of degree one と呼ぶ。 以降では、一次不定方程式の 整数解 について考察する。 注: − このような単純な方程式でも、考える対象を 整数解 に制限すると、整数解が存在しなかっ たり無数に存在したりと極端な振る舞いが観察され、実数解を求める問題とは全く異なった面 白さが味わえる。 − 整数係数の (不定) 方程式の整数解 (または有理数解) を求める問題は、 アレクサンドリアのディオファントスによる著書『算術 (アリスメー ティカ)』において系統的に研究された。したがって、不定方程式の整 数解 (有理数解) を求める問題のことを現在では ディオファントス問題 Diophantine problems と呼んでいる。ディオファントス問題は現在で も活発に研究が進められている整数論の一分野である。 アレクサンドリアの ディオファントス babababababababababababababababababab 命題 (一次不定方程式の解の構造) 一次不定方程式 ax + by = d (x0 , y0 ) を持つならば、(∗) の すべての 整数解は (x, y) = (x0 + b′ k, y0 − a′ k) · · · (∗) が整数解 (k は任意の整数) で与えられる。但し a′ , b′ は a = g.c.d.(a, b) × a′ , b = g.c.d.(a, b) × b′ を満たす数。 注: − 上の命題から、特に一次不定方程式が解を 1 つ持てば 無限個の整数解が存在する ことが分か ります。 − 上の命題を丸暗記するのではなく、解の導き出し方 (証明の手順) も含めて覚えるように心が けること!! babababababababababababababababababab 命題 (一次不定方程式が整数解を持つための必要条件) 一次不定方程式 ax + by = d · · · (∗) に対し、a と b の最大公約数 d0 が d の約数とな ること は、(∗) が整数解を持つための必要条件である。 つまり『d0 が d の約数となっていなければ (∗) の整数解は 存在しない (!)』ということです。次回 の講義では、『d0 が d の約数となること』が実は (∗) が整数解を持つための 必要十分条件 となっ ていることを、ユークリッドの互除法を用いて証明します。 ■演習問題 問題 2-1. (不定方程式の解の構造) 以下の各一次不定方程式に対して、与えられた整数組 (x0 , y0 ) が特殊解となっていることを確認し なさい。また、すべての 整数解を求めなさい。 (1) 3x + 5y = 1 (x0 , y0 ) = (−3, 2) (2) 4x − 3y = 2 (x0 , y0 ) = (2, 2) (3) 7x − 11y = 5 (x0 , y0 ) = (7, 4) (4) 6x + 3y = −12 (x0 , y0 ) = (−2, 0) (x0 , y0 ) = (2, −2) (6) 12x − 18y = 24 (5) 8x + 10y = −4 (x0 , y0 ) = (5, 2) 【演習問題解答】 問題 2-1. (1) 3 · (−3) + 5 · 2 = −9 + 10 = 1 より (x0 , y0 ) = (−3, 2) は特殊解。 3x + 5y = 1 および 3 · (−3) + 5 · 2 = 1 の辺々を引き算して 3(x + 3) + 5(y − 2) = 0 ∴ 3(x + 3) = −5(y − 2) 3 と 5 は互いに素なので、x + 3 は 5 の倍数であり、y − 2 は 3 の倍数となる。したがって x + 3 = 5k とおくと、 −5 (y − 2) = 3(x + 3) = 3 · 5 k ∴ y = 2 − 3k. したがって 3x + 5y = 1 の整数解は (x, y) = (−3 + 5k, 2 − 3k) (k は任意の整数)。 (2) 4 · 2 − 3 · 2 = 8 − 6 = 2 より (x0 , y0 ) = (2, 2) は特殊解。 4x − 3y = 2 および 4 · 2 − 3 · 2 = 2 の辺々を引き算して 4(x − 2) − 3(y − 2) = 0 ∴ 4(x − 2) = 3(y − 2) 4 と 3 は互いに素なので、x − 2 は 3 の倍数であり、y − 2 は 4 の倍数となる。したがって x − 2 = 3k とおくと、 3 (y − 2) = 4(x − 3) = 4 · 3 k ∴ y = 2 + 4k. したがって 4x − 3y = 2 の整数解は (x, y) = (2 + 3k, 2 + 4k) (k は任意の整数)。 (3) 7 · 7 − 11 · 4 = 49 − 44 = 5 より (x0 , y0 ) = (7, 4) は特殊解。 7x − 11y = 5 および 7 · 7 − 11 · 4 = 5 の辺々を引き算して 7(x − 7) − 11(y − 4) = 0 ∴ 7(x − 7) = 11(y − 4) 7 と 11 は互いに素なので、x − 7 は 11 の倍数であり、y − 4 は 7 の倍数となる。したがって x − 7 = 11k とおくと、 − 4) = 7(x − 7) = 7 · 11(y 1 1k ∴ y = 4 + 7k. したがって 7x − 11y = 5 の整数解は (x, y) = (7 + 11k, 4 + 7k) (k は任意の整数)。 (4) 6 · (−2) + 3 · 0 = −12 より (x0 , y0 ) = (−2, 0) は特殊解。 6x + 3y = −12 および 6 · (−2) + 3 · 0 = −12 の辺々を引き算して 6(x + 2) + 3y = 0 ∴ 2 1 6(x + 2) = − 3y 2 と 1 は互いに素なので、x + 2 は 1 の倍数であり、y は 2 の倍数となる。したがって x + 2 = k とおくと、 −y = 2(x + 2) = 2k ∴ y = −2k. したがって 6x + 3y = −12 の整数解は (x, y) = (−2 + k, −2k) (k は任意の整数)。 (5) 8 · 2 + 10 · (−2) = 16 − 20 = −4 より (x0 , y0 ) = (2, −2) は特殊解。 8x + 10y = −4 および 8 · 2 + 10 · (−2) = −4 の辺々を引き算して 8(x − 2) + 10(y + 2) = 0 ∴ 4 5 > + 2) 10(y 8(x − 2) = − 4 と 5 は互いに素なので、x − 2 は 5 の倍数であり、y + 2 は 4 の倍数となる。したがって x − 2 = 5k とおくと、 −5 (y + 2) = 4(x − 2) = 4 · 5 k ∴ y = −2 − 4k. したがって 8x + 10y = −4 の整数解は (x, y) = (2 + 5k, −2 − 4k) (k は任意の整数)。 (6) 12 · 5 − 18 · 2 = 60 − 36 = 24 より (x0 , y0 ) = (5, 2) は特殊解。 12x − 18y = 24 および 12 · 5 − 18 · 2 = 24 の辺々を引き算して 12(x − 5) − 18(y − 2) = 0 ∴ 2 3 > − 5) = > − 2) 12(x 18(y 2 と 3 は互いに素なので、x − 5 は 3 の倍数であり、y − 2 は 2 の倍数となる。したがって x − 5 = 3k とおくと、 3(y − 2) = 2(x − 5) = 2 · 3k ∴ y = 2 + 2k. したがって 12x − 18y = 24 の整数解は (x, y) = (5 + 3k, 2 + 2k) (k は任意の整数)。
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