論 文 (206KB)

「論文」試験問題解答例(平成 27 年度)
論文試験では、論題の趣旨に的確に答える解答であることが求められる。設問は、
「①高
齢者の特性を踏まえ、②高齢者の衣生活を充実させるための対策を、③ファッション性、
実用性、快適性、機能性、安全性などのうち1~2項目をあげ、④繊維製品品質管理士の
視点から述べなさい」とあり、アンダーラインを引いた①から④までの4点についての解
答を 600~800 字にまとめることを求めている。なお対策は一般論ではなく、具体的に述
べる必要がある。
また論文試験では、表現の的確性や内容の深さに加え、論旨の一貫性が評価される。記
述に当たっては、原稿用紙(よこ書き)の正しい書き方に則り、誤字、脱字、当て字のな
いよう、また濃い鉛筆ではっきりとした字で書くなど、他人が見て読みやすいように心掛
ける必要がある。一般に論文には箇条書きや体言留めは相応しくないとされている。
高齢化が進んでいる社会の現状を詳しく解説しても設問の対象外であるので評価 されな
い。また設問と無関係な内容は、字数を増やすために書いたものとみなされる 。
高齢者には、ファッション性への関心が高い人、介護を必要とす る人など多様であり、
また繊維製品に求められる品質・性能もファッション性、実用性、快適性、機能性、安全
性など多岐にわたる。対策も企画、製造、検査、流通、販促、販売などの多くの段階で行
われる。
したがって色々な視点からの解答が考えられるが、ここでは解答例として 、健康な高齢
者を対象とする衣服の快適性とファッション性を論じたもの(解答例1)と、介護を必要
とする人を対象とする衣服の実用性と機能性を論じたもの(解答例2)の2例を示す。
[解答例 1]
高齢者といっても実態は様々だが、ここでは入院する程の疾病はなく、経済的なゆとり
があり、子供とは別居し、夫婦2人で自立して生活している人たちを想定することにする。
彼らの特徴は、若い世代と比較すると身体機能の衰えに関することと若い時とは異なる社
会との関わり方にあらわれる。
加齢による身体機能の低下には、体が硬くなり可動域が狭くなることと体温調節機能の
衰えがある。衣服にはこのような身体的機能の低下を補い「快適性」を保持することが求
められる。前者に関しては衣服が身体の動きを妨げることがないように、ストレッチ性に
富む素材を用い、ゆとりのあるデザインにする。後者に関しては夏用には吸汗速乾機能を
有する素材を、冬用には薄く軽い保温素材を使用する。スポーツなど他用途で開発された
新素材を高齢者向けの衣服に取り入れる動きは未だ不充分である。
元気な高齢者は地域活動やボランティア活動への参加、趣味あるいは海外ツアーなどで
多様な人と交わる機会も多い。そうした場に相応しい、若い時からの体型の変化をカバー
し、ファッショントレンドも加味された自分らしさが表現できる「ファッション性」に富
んだ衣服を求めている高齢者は多い。しかしそうしたものを満たす市場は未成熟である。
全ての人がファッションを楽しむ権利があるという理念のユニバ ーサルファッションの
観点からも、「快適性」と「ファッション性」は、同時に満足すべきものである。
繊維製品品質管理士は、高齢者が声には出していない潜在的なニーズを感じ取って企画
に反映する体制作りをする必要がある。その上でファッショントレンドを理解し、加齢に
よる身体機能変化に関する知識の習得及び新素材や新加工法の情報収集を行い企画に反映
させることと、販売の面では高齢者に商品の特徴をわかりやすく説明することが重要であ
る。
[解答例 2]
身体に障害があり介護を必要とする人の衣服の「実用性」としては、介護をする人の負
担軽減にも繋がる脱着のしやすさが重要である。例えばボタンを大きくする、ボタンの代
わりにマジックテープにする、足の出し入れをしやすくするためにパンツの裾にファスナ
ーを付けるなどの方策がある。繊維製品品質管理士としては、介護の現場で着脱の様子を
良く観察し、 老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することが
できることを目指す ユニバーサルデザインの理念を学習し、高齢者の要望に応える。
実用性では、洗濯などの取扱いに関する情報も重要である。新素材や新機能が取り入れ
られ注意すべきことが複雑になっている上、取扱い絵表示や注意表示が小さく高齢者には
見難いという問題点がある。さらに JIS L 0001 が制定され、家庭用品品質表示法の取扱
い絵表示も変わることになっている。高齢者にわかりやすく伝えることは繊維製品品質管
理士の責務である。
自宅介護の場合には、
「機能性」が特に求められる。閉め切った部屋に臭いが残る場合が
少なくない。消臭効果のある素材が有効であるが、臭いにも汗臭、加齢臭、排泄物臭など
があり、それぞれに悪臭成分が異なるため有効な消臭繊維の種類も違う。繊維製品品質管
理士としては、よく調べて実情に合った消臭繊維を選択する ことが求められる。
火災が発生した場合、要介護者が動けないため犠牲になる可能性が高い。病院などはカ
ーテンなどに消防法で防炎物品を使用することが義務付けられている。家庭には規制はな
いが、カーテンなどには一定以上の防炎性能を有する防炎製品を使用する。また綿やレー
ヨンなどのセルロース繊維で表面に起毛やパイルのある生地を使用した衣服は着火すると
炎が表面に瞬間的に広がる表面フラッシュ現象が発生し、やけどなどを起こし大変危険で
ある。繊維製品品質管理士は高齢者に配慮した衣服の設計に対し適切な提言をする。