第 章 実ユークリッド空間

第
章 実ユークリッド空間
次元実ユークリッド空間
の定義
本節においては
次元実ユークリッド空間
の定義とその基
とする
本概念の定義について考察する ただし
まず 次の定義を与える
定義
とする このとき 点集合 と 次元実計量
との複合概念
が 次元実ユークリッド空
ベクトル空間
間であるとは 次の条件
が成り立つことであると定義する
の点の任意の対
に対し
のベクトル が一つ定ま
る これを
と表す また
の任意の点 と
の
任意のベクトル に対し
となる の点 がただ一つ
定まる
このとき
ならば
となる
と表す
実ユークリッド空間を略式にユークリッド空間であるということ
がある
定義
点とベクトル 定義
の点を
の点であるといい
き
ルであるという
の記号を用いる このと
のベクトルを
のベクト
このとき
の点の対
に対し
であるための必要
となることである
十分条件は
また
であるとき
が成り立つ
の点の対
に対し
を有向線分であるといい
を始
点であるといい
を終点であるという
二つの有向線分
と
が同値であるとは これらが
の同
じベクトルを定めることであると定義する これを
と
表す
このとき 関係
は同値関係である すなわち 次の
が成り立つ
反射律
であるならば
対称律
であるならば
推移律
このとき 一つの有向線分
と同値な有向線分全体のつくる同
値類
と
のベクトル が 対 に対応している したがっ
によって定まる
のベクトル と有向線分
て 有向線分
の同値類
を同一視して
と表す 公理
の記号は
このことを見越して用いている
定義
原点と位置ベクトル 定義
の記号を用いる こ
の一つの点 を固定して これを原点であるという こ
のとき
のとき
の任意の点 に対し ベクトル
を点 の位
置ベクトルであるという
次に
における直線と線分の概念の定義を与える
定義
直線 の任意の点 の位置ベクトルを
と表し
のベクトル は でないとする このとき ベク
トル
を位置ベクトルとする点 全体のつくる集合を 点
ベクトル を持つ直線であるという
を通り 方向
定義
線分 の二つのベクトルを
と表し
であるとする いま
を位置ベクトルとする点をそれぞ
れ
であるとする このとき ベクトル
を位置ベクトルとする点 全体のつくる集合を 点
と表す
分であるといい これを線分
定義
平面 の任意の点
であるとし
の二つのベクトル
する このとき ベクトル
の位置ベクトルを
は 次独立であると
を位置ベクトルとする点 全体のつくる集合を 点
によって張られる平面であるという
トル
定義
し
を結ぶ線
を通り ベク
平行四辺形 の三つのベクトルを
は 次独立であるとする いま
を位置ベクトルとする点をそれぞれ
とき ベクトル
を位置ベクトルとする点
であるという
と
であるとする この
全体のつくる集合を平行四辺形
定義
三角形 定義
の記号を用いる いま
を位置ベクトルとする点をそれぞれ
このとき ベクトル であるとする
を位置ベクトルとする点 全体のつくる集合を
であるという さらに ベクトル
を位置ベクトルとする点
るという
次元三角形
全体のつくる集合を三角形
定義
において 式
で表される三角形
で表される 次元三角形
の周線である
一般に 次の線形多様体の定義を与える
であ
は式
定義
次元線形多様体 の任意の点 の位置ベクト
ルを
と表し
のベクトル
は 次独立
であるとする ただし
とする このとき ベクトル
を位置ベクトルとする点 全体のつくる集合を 点 を通り ベ
クトル
によって張られる 次元線形多様体であると
いう
いま 定義
の記号を用いて
の
次元部分空間を
と表すとき
は
のベクトルを位置ベクトルとする点全体の
の場合に対応すると考えること
つくる 次元線形多様体で
ができる このとき 一般の 次元線形多様体は
をあるベクト
ル
だけ移動させたものである
定義
において
次元線形多様体は
のとき直線を表
のとき平面を表し
のとき超平面を表す
し
定義
次元平行多面体 個のベクトルを
と表し
次独立であるとする このとき ベクトル
を位置ベクトルとする点
であるという
全体のつくる集合を
とする
の
は
次元平行多面体
定義
と定義
のベクトル
は同じである
において定義した 次元線
とすると 次元平行多面体は定義
形多様体の部分集合である
特に 次元平行多面体は線分を表し 次元平行多面体は平行四
辺形を表し 次元平行多面体は平行六面体を表す
定義
平行 二つの 次元線形多様体
と
が平行で
あるとは これらが同一の 次元部分空間
をそれぞれあるベク
トルだけ移動して得られたものであることであると定義する この
と表す
とき
定義
の定義において 特に
のときは直線の平行性を
のときは平面の平行性を意味し
のときは
意味し
超平面の平行性を意味する
定義
平行移動 とする このとき 次元線
をそれと平行な 次元線形多様体
にベクトル だ
形多様体
け移動して重ね合わせることを
を
まで平行移動するという
定義
平行 は 次元部分空間
を平行移動して
得られた 次元線形多様体で
は 次元部分空間
を平行移
動して得られた 次元線形多様体であるとする ここで と は
必ずしも等しいとは限らないとする このとき
と
が平行で
あるいは
あるとは 部分空間としての包含関係として
のいずれかが成り立つことをいう このとき
と
表す
定義
長さ はベクトル
の点
のノルム
に対し 有向線分
の長さ
のことであると定義する
命題
の二つの有向線分
と
が同値であるため
の必要十分条件は
と
が同じ向きに平行で 長さが等しい
ことである この条件は
と
が平行移動によって互いに他方
と重ね合わせることがきることと同値である
命題
に対し 和
ベクトル和 は
の二つのベクトル
と
に等しい ここで 線分
は 線分
平行四辺形
の対角線を表す
と線分
を
辺とする
命題
倍 を実数とし
と
とする このとき
件
が満たされることと同値である
の二つのベクトルを
であることは次の条
点
が同一直線 上にあって 等式
のいずれかが成り立つ
満たし 次の
のとき 直線 上において
同じ側にある
と
は
に関して
のとき 直線 上において
反対側にある
と
は
に関して
定義
系
あるという
定義
のとき
直交座標系 の組
原点と座標軸 を固定する このとき
通る直線
座標軸であるという ただし
定義
を
となる
の
点
と
を
の完全正規直交
の直交座標系で
の一つの直交座標系
を原点であるといい 原点 を
を 軸であるといい あるいは第
とする
直交座標 の一つの直交座標系
を固定する このとき
の任意の点 の位置ベクトル
に対し 関係式
が成り立つ これによって 点 と実数の順序付けられた 組
が 対 に対応する このとき 実数の順序付けら
れた 組
を点 の直交座標であるという ま
た これを点 の直角座標であるということもある さらに 各座
標
を 座標あるいは第 座標という ただし
とする
いま 実数の順序付けられた
くる集合を
と表す これは
個の
組
全体のつ
の直積集合
であると考えられる
ここで
の一つの直交座標系
を固定する
このとき
の点 と の直交座標
を同一
視することによって
と
を同一視することができる このと
の元
を
の点であるという
き
このとき
の点と
の点の対応は点 と の直交座標
の対応によって与えられる
さらに
のベクトル は
のベクトルであるから 関係式
が成り立つ これによって
数ベクトル
したがって
から
トル空間としての同型
のベクトル と
の 次元
が 対 に対応する
への写像
によって計量ベク
が成り立つ
このとき
をベクトル の直交成分である
といい あるいは直角成分であるという
このとき 点集合
と 次元計量数ベクトル空間
との
複合概念
は 次元ユークリッド空間であると考える
と表すことが
ことができる これを 単純に
ある
このとき
の点 に その直交座標
を
の点として対応させ
のベクトル に その直交成分 を
のベクトルとして対応させることによって
と
を同一視することができる この
が 次元計量ベクトル空
間の構造を定めている したがって
次元ユークリッド空間とし
と
を同一視することができる
て
このとき
の 点
に対して定められるベクトル
に
対応する
のベクトルを求める
いま 点
の直交座標をそれぞれ
であるとすると 定義によって関係式
が成り立つ したがって 等式
が成り立つ ゆえに
トル
のベクトル
が対応することがわかる
したがって いま
の 点
が 関係式
に対し
に対し
のベク
のベクトル
によって定められるとすると
と
の複合概念
は定義
の 次元ユークリッド空間の公理系を満たすこと
がわかる
ゆえに
も
かる
の点が
第 座標という ただし
を
次元ユークリッド空間であることがわ
と表されているとき
を点
とする さらに 点集合
の
軸であるといい あるいは第 座標軸であるという ただし
とする
いま
の 本の直交軸上の単位点を
であるとするとき
次元数ベクトル
よりなるベクトルの系
は
の
完全正規直交系である ただし
であるとする
このとき
の原点
と
の完全正規直交系
の組
は
の直交座標系の
一つである
このとき
の 点
と
の間の距離
はピタゴラの定理によって関係式
を満たす すなわち 距離
がわかる
はユークリッドの距離であること
直線と超平面の方程式 解析的取扱
本節においては
次元ユークリッド空間
上の直線と超平面
の点の直交座標と
のベクトルの
の方程式を導く このとき
直交成分を用いる
次元ユークリッド空間
において 座標の方法を用いた解析
幾何学の方法によってユークリッド幾何学の研究を行うことができ
る 直線と超平面の方程式を導く問題は 解析幾何学の特別な問題
である
いま
は 次元ユークリッド空間であると
する ただし
とし
の原点を
であると
する
の点 と
の でないベクトル に対し 方
程式
を満たす
の点 全体のつくる集合は点 を通り 方向ベクトル
をもつ直線である 式
を直線のベクトル方程式であるとい
う このとき 点 と点 の直交座標を それぞれ
であるとし ベクトル
の直交成分を
であるとして 式
を直交成分を用いて
と表したとき 式
を直線のパラメーター表示であるという
式
においてパラメーター を消去して 直線の方程式は
と表すことができる 式
が普通の直線の方程式である
の点 と
の 次独立なベクトルの系
対し 方程式
に
を満たす
の点 全体のつくる集合は点 を通り 超平面
に平行な超平面である
の直
交補空間
は
の でないベクトル
を適当に選んで
と表すことができる ベクトル
を超平面
の法ベ
は点 を通り ベ
クトルであるという このとき,超平面
クトル
と直交する超平面である 超平面
上の点 は
とおくと 方程式
を満たす
超平面は
線である
方程式
のとき普通の平面であり
のとき普通の直
は 直交成分を用いて
と表される したがって 超平面はその上の点 の直交座標
の 次方程式で表される
逆に 点 の直交座標
が 次方程式
を満たす点
トル
は一つの実定数を表す
なぜならば 方程式
であるとすると
が成り立つ これを方程式
の全体のつくる集合はベク
と直交する超平面である ただし
を満たす
の
の 点を
に代入して 等式
を得る ゆえに
したがって
とおくと 等式
が成り立つ 逆に 方程式
を満たす
の点 の直交座標
が方程式
を満たすことは明らかである.これ
は方程式
が点 を通り ベクトル
と直交する超平面であ
ることを示している
以上により 次の定理が成り立つ
定理
の超平面はその上の点 の直交座標
の 次方程式で表される 逆に
の点 の直交座標
の 次方程式は超平面を表す
注意
定理
は直交座標に対して示されたが 一般のデ
カルト座標に対しても同様に成り立つことを注意する しかし 解
析幾何学の方法でユークリッド幾何学を考えるときには 直交座標
のみが意味をもつ
二つの超平面は それらの法ベクトルが平行であるとき平行であ
ることが容易にわかる
二つの超平面のなす角とは それらの法ベクトルのなす角のこと
であると定義する 特に 法ベクトルのなす角が直角であるとき二
つの超平面は直交するという
の直交座標系の変換
本節においては
の直交座標系の変換について考察する
の直交座標系
を第 の直交座標系
に変換したとき
の点
の座標
がどのように変換されるかをしらべよう
と
は
の完全正
規直交系であるから
と表すと行列
は直交行列である いま 点
に関する直交座標を
るとすると点 に関する点 の位置ベクトルは
である
の直交座標系
であ
の点 の最初の直交座標系に関する直交座標を
であるとし,第 の直交座標系に関する直交座標を
であるとする.このとき,
ところで
であるから,式
ゆえに 点
によって
の直交座標は 関係式
によって変換される これは 二つの直交座標系に関する点
置ベクトル
と
いて
と表される これは 行列と列ベクトル
の位
を用
を用いて
と表される このとき
ここで ユークリッド空間
の向き付けに付いて考察する
の二つの完全正規直交系
と
が式
を満たすとき と が同じ向きであ
るとは
が成り立つことであると定義する
と が同じ向
きであるという関係が同値関係であることは容易にわかる 直交行
列 は
であるか
であるかであるから
の完
全正規直交系全体の集合はちょうど二つの同値類に分割される し
たがって 一方の同値類を正の系であるとし 他方の同値類を負の
の完全正規直
系であると指定することができる このように
交系全体に対して 正の系と負の系を指定することによって
の完全正規直交系の向き付けが定義されるという
の完全正
規直交系の同じ向きであるという関係による二つの同値類のどちら
を正の系とし 他方を負の系とするか その指定の仕方は二通りあ
るので そのような向き付けはちょうど二通りあることになる
の二つの直交座標系
と
が同じ向きであるとは
の完全正規直交系
と
とが同じ向きであることであると定義す
の二つの直交座標系が同じ向きであるという関係
る このとき
は同値関係である したがって
の直交座標系全体のつくる集合
はちょうど二つの同値類に分割される.そこで 一方の同値類を正
の系であるとし 他方の同値類を負の系であると指定することがで
きる このような正の系と負の系の指定によって,
の直交座標
系の向き付けが定義される
の直交座標系の二つの同値類のう
ちどちらを正の系とし 他方を負の系とするか その指定の仕方は
二通りあるので そのような向き付けはちょうど二通りあることに
なる
次元ユークリッド空間
の向き付けが与えられるという
ことは その直交座標系の向き付けが与えられていることであると
定義する
の合同変換
本節においては
の合同変換について考察する
定義
次元ユークリッド空間
の点変換
が合同変換であるとは次の
,
が成り立つことであると定義
する
は
から
への全単射である.
は
と
ただし
いま
を
点
の距離を表す
の合同変換であるとする 点
に対し
であるとするとき
によって
の変換を定義すると 定義
ルムの定義によって
点
に対し
である
の
と
であるとすると
のノ
であるとすると三角形
と三角形
は合同である ゆえに
がこの順序で一直線上にあれば,等式
が成り立つ このとき 式
が成り立つから
の
に対し 等式
はこの順序で一直線上にある したがって
に対し
であれば
が成り立つ.すなわち
は
の線形写像である.ゆえに,命題
によって
は直交変換である 従って
は
の内積や
ベクトルのなす角も保存する ゆえに
は
の完全正規直交
系を完全正規直交系に写す
次に
の合同変換 を直交座標を用いて表そう 合同変換 に
よって
の直交座標系
が直交座標系
に関係式
によって変換されるとする このとき 関係式
が成り立っているとすると
の直交変換
は二つの完全正規
と
に関する表現行列とし
直交系
て直交行列
をもつ
に対し
とし と の に関する位置ベクト
ルを
であるとする このとき
このとき 等式
が成り立っているから式
ゆえに 第
式
式
の直交座標系に関する座標を用いて
と表せる ここで 位置ベクトル
と
の直交成分は
によって
と表すことができるから 式
は
と表すことができる これは 次の行列と列ベクトル
を用いて
と表すことができる このとき
のとき
から定まる
の直交変換
は完全正規直交
は
の向きを変えない このとき 合
系の向きを変えないから
同変換 はユークリッドの運動であるという 合同変換の全体およ
びユークリッドの運動の全体はそれぞれ写像の合成を積として群を
なすことが知られている このとき ユークリッド幾何学はユーク
の図形の合同変換群で不変な性質を研究する幾何学
リッド空間
であると考えることができる