Ⅱ.パートタイム労働者のタイプと均等・均衡待遇の基本的考え方 Ⅰ 1 パートタイム労働者とは パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の対象となるパートタイ ム労働者(短時間労働者)は、「1 週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の Ⅱ 1 週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされています。 「パートタイマー」 、 「アルバイト」 、 「嘱託」 、 「契約社員」 、 「臨時社員」 、 「準社員」など、名称に 関わらず、上記に当てはまる労働者であれば、 「パートタイム労働者」としてパートタイム労働法 の対象となります。 「通常の労働者」とは、同種の業務に従事する「正社員」 、 「正職員」など、いわゆる正規型の労 働者がいれば、その労働者をいいます。 同種の業務に従事するいわゆる正規型の労働者がいない場合、同種の業務に従事するフルタイム Ⅲ の基幹的な働き方をしている労働者がいれば、その労働者が通常の労働者となります。 同種の業務に従事するいわゆる正規型の労働者もフルタイムの基幹的な働き方をしている労働者 もいない場合は、事業所における 1 週間の所定労働時間が最長の労働者が通常の労働者となります。 なお、本マニュアルは訪問介護業を対象としていることから、マニュアルにおける記載事項を分 かりやすくするために、パートタイム労働者であるヘルパーのことを「パートタイムヘルパー」と 呼称し、いわゆる「登録型」のヘルパーも含みます。また、 「ヘルパー」という際には、フルタイ ムで業務に従事するヘルパーと、短時間で業務に従事するヘルパーの双方を含んで呼称します。た Ⅳ だし、パートタイム労働法等関連法令の解説や、業種共通の制度や規定、仕組み等について解説す る際には、一般的な呼称( 「パートタイム労働者等」 )を用いることとします。 Ⅴ Ⅵ 4 Ⅱ.パートタイム労働者のタイプと均等・均衡待遇の基本的考え方 2 パートタイム労働者のタイプ Ⅰ パートタイム労働者はその就業の実態によって、適用されるパートタイム労働法上の規定が異な ります。雇用しているパートタイム労働者について、通常の労働者と比較して「職務の内容が同じ」 か、「人材活用の仕組みや運用などが同じ」かどうかを、以下のチャートにしたがって確認してく ださい。 職務の内容が同じかどうか Ⅱ 職務の内容とは、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいいます。職務の内容が同じか どうかについては、次の手順にしたがって判断します。 1 職務を比較 1 例:「介護職」「事務職」 職務を比較 同じ 異なる 同じ 異なる 例:「介護職」「事務職」 2 従事している業務のうち中核的業務で比較 実質的に同じ 異なる 2 業務の比較例 従事している業務のうち中核的業務で比較 実質的に同じ 異なる パート 介護サービス、記録、クレーム処理(初期対応) 業務の比較例 正社員 介護サービス、記録、クレーム処理(初期対応) パート 介護サービス、記録、新人指導、クレーム処理 ★中核的業務に○(何が中核的業務に当たるかは、 正社員 介護サービス、記録、新人指導、クレーム処理 同じ介護職でも個々の事業所ごとに異なります。) ★中核的業務に○(何が中核的業務に当たるかは、 同じ介護職でも個々の事業所ごとに異なります。) 「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、その職務を代表する中核的な ものを指し、与えられた職務に不可欠な業務、業務の成果が事業所の業績や評価に大きな影響を与える 「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、その職務を代表する中核的な 業務、労働者の職務全体に占める時間・頻度において割合が大きい業務という基準に従って総合的に判 ものを指し、与えられた職務に不可欠な業務、業務の成果が事業所の業績や評価に大きな影響を与える 断します。 業務、労働者の職務全体に占める時間・頻度において割合が大きい業務という基準に従って総合的に判 断します。 3 責任の程度を比較 著しくは異ならない 異なる 3 責任の程度を比較 著しくは異ならない 異なる 与えられている権限の範囲、業務の成果について求めら れている役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められ 与えられている権限の範囲、業務の成果について求めら る対応の程度、ノルマなどの成果への期待度などを総合 れている役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められ 的に判断します。 る対応の程度、ノルマなどの成果への期待度などを総合 的に判断します。 職 務 職 は 務 異 は な 異 る な る Ⅲ Ⅳ 職務は同じ 職務は同じ 「人材活用の仕組みや運用などが同じ」かどうか 通常の労働者とパートタイム労働者の人材活用の仕組みや運用などが同じかどうかについて は、次の手順に従って判断します。 1 1 2 2 3 3 4 4 転勤の有無を比較 転勤の有無を比較 ともに有り ともに有り 転勤の範囲を比較 転勤の範囲を比較 職務内容・配置の変更の有無を比較 職務内容・配置の変更の有無を比較 職務内容・配置の変更の範囲を比較 職務内容・配置の変更の範囲を比較 Ⅴ ともに無し 一方のみ有り ともに無し 一方のみ有り 実質的に同じ 異なる 実質的に同じ ともに有り ともに有り 異なる ともに無し ともに無し 実質的に同じ 実質的に同じ 一方のみ有り 一方のみ有り 人 材 人 活 材 用 活 は 用 異 は な 異 る な る Ⅵ 異なる 異なる 人材活用は同じ 人材活用は同じ 5 <参考> 「職務の内容」や「人材活用の仕組みや運用など」等の同一性の判断例 パートタイム労働者 通常の労働者 Ⅰ 判断 同じ 事業所近辺の介護サービス提供 事業所から比較的遠方の地域に おける介護サービス提供 担当する地域は異なっているが、業務遂行に必要 な知識や技術の水準及び業務に伴う責任の程度に ついては、パートタイム労働者と通常の労働者に 違いはなく、職務の内容は同じと考えられる。 異なる 職務内容の比較 Ⅱ 介護サービス提供、記録 介護サービス提供、記録、シフ ト作成・管理、苦情対応 ヘルパーリーダーを務める。 現場のヘルパーとして活動する だけでなく、新人パートヘル パーからの相談に対応して指導 的助言をすることやクレーム処 理(軽易なもの)に対応するこ とが求められる。 ヘルパーリーダーを務める。 現場のヘルパーとして活動する だけでなく、正規を含めヘル パーからの相談に対応して指導 的助言やクレーム処理(困難事 案)に対応することが求められ る。 パートタイム労働者と通常の労働者の中核的業務 を比較すると、パートタイム労働者は記録作成ま でであり、通常の労働者はそれに加えて、シフト 作成・管理、苦情対応も行っており、明らかに異 なる業務であると判断され、両者では職務の内容 が異なると考えられる。 異なる Ⅲ ヘルパーリ-ダーに登用され、 他ヘルパーの指導等を担当。 事業所間の異動もあるが、自宅 から通える範囲での転勤にとど まる。 Ⅳ 人材活用の仕組みや運用の比較 Ⅴ Ⅵ 6 異なる ヘルパーリ-ダーに登用され、 ヘルパーリ-ダーとしての役割は同じである。し 他ヘルパーの指導等を担当。 かしながら、通常の労働者は転居を伴う異動があ 事業所間の異動もあり、転居を るが、パートタイム労働者には、自宅から通える 伴うような異動もある。 範囲での異動しかないなど、転勤の範囲が異なり、 人材活用の仕組みが異なると考えられる。 ヘルパーリ-ダーに登用され、 他ヘルパーの指導等を担当。 ヘルパーリ-ダーに登用され、 事業所間の異動もあり、転居を 他ヘルパーの指導等を担当。 伴うような異動もあると規定さ 事業所間の異動もあるが、自宅 れているが、現に転居を伴う異 から通える範囲での転勤にとど 動をした人はおらず、今後も同 まると規定されている。 様の取扱いが続くことが見込ま れる。 訪問介護ヘルパー 事 業 所 が 1 か 所 で あ る た め、 転勤はない。担当は訪問介護の みであり、他の業務に従事する ことはない。 ヘルパーのリーダーを務めている点は同じであ る。しかしながら、パートタイム労働者は、新人 パートへの指導を求められているのに対し、通常 の労働者は新人パート以外のヘルパーも含めた指 導を行い、困難なクレーム処理の対応が求められ ることから、通常の労働者の方が業務に伴う責任 の程度が重くなっており、職務の内容は異なると 考えられる。 訪問介護ヘルパー 事 業 所 が 1 か 所 で あ る た め、 転勤はない。現在の担当業務は 訪問介護であるが、業務内容の 変更があり、 事業所の他部門 (総 務、企画等)の業務に従事する こともある。 同じ ヘルパーリーダーとしての役割は同じである。し かしながら、規則上は転勤の有無に差があるが、 現実的には転居を伴う異動をした通常の労働者は おらず、今後も同様の取扱いが続くことが見込ま れることから、転勤の範囲は実質的には同じと考 えられ、人材活用の仕組みは同じと考えられる。 異なる 現在の職務内容は同じである。また、配置の変更 がないという点も同じである。しかし、パートタ イム労働者は担当する業務の変更がないのに対 し、通常の労働者は雇用されている期間に経験す る職務の範囲が広くなっており、人材活用の仕組 みや運用などが異なると考えられる。 Ⅱ.パートタイム労働者のタイプと均等・均衡待遇の基本的考え方 3 均等・均衡待遇の推進 Ⅰ パートタイム労働法では、以上の「職務の内容」と「人材活用の仕組みや運用など」に加え、契 約期間の 3 つの要件を通常の労働者と比較することにより、パートタイム労働者を 4 つのタイプに 区分し、それぞれのタイプごとに、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇について、事業主が講ず べき措置が次のように規定されています。 【パートタイム労働者のタイプ】 通常の労働者と比較して 人材活用の仕 及び責任) 教育訓練 職務関連賃金 左以外の賃金 職 務 の 内 容 組みや運用な ( 業 務 の 内 容 ど(人事異動 賃金 契約期間 等の有無及び ・基本給 ・退職手当 ・賞与 ・家族手当 ・役付手当等 ・通勤手当等 範囲) 職務遂行に必 要な能力を付 与するもの 福利厚生 左以外のもの (キャリアアップ のための訓練 等) ・給食施設 Ⅱ 左以外のもの ・休憩室 ( 慶 弔 休 暇、 ・更衣室 社宅の貸与等) タイプ① 通常の労働者と同視すべきパートタイム 労働者 同じ 全雇用期間を 通じて同じ 無期又は反復 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ Ⅲ 更新により無 期と同じ タイプ② 通常の労働者と職務の内容と人材活用の 仕組みや運用などが同じパートタイム労 □ - ○ △ ○ - △ - ○ △ ○ - △ - △ △ ○ - 働者 同じ 一定期間は同じ - タイプ③ 通常の労働者と職務の内容が同じパート タイム労働者 同じ 異なる Ⅳ - タイプ④ 通常の労働者と職務の内容も異なるパー トタイム労働者 異なる - - 【講ずる措置】◎:パートタイム労働者であることによる差別的取扱いの禁止 ○:実施義務・配慮義務 □:同一の方法で決定する努力義務 △:職務の内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案する努力義務 Ⅴ Ⅵ 7 4 業務分担表の作成について Ⅰ パートタイム労働者と正社員の職務内容について、事業主からみると明確な違いがある場合でも、 パートタイム労働者からみると同じように見えることがあります。このような場合には、パートタ イム労働者はなぜ正社員と待遇が違うのかという疑問や不満を持つことになります。事業主として は、パートタイム労働者から個別に説明を求められるたびに説明しなくてはなりません。このよう な問題を解消するためにも、あらかじめ職務内容の実態を踏まえて、業務分担表を作成しておくこ とをお勧めします。業務分担表の形でパートタイム労働者が担当する業務と正社員が担当する業務 Ⅱ を明確に整理することによって、パートタイム労働者の納得性も高まると考えられます。 業務分担表の例 パートタイム労働者 介護サービス提供 記録 クレーム処理(初期対応) Ⅲ 正社員 介護サービス提供 (困難ケースの対応、緊急時の対応) 記録 新人ヘルパーへの指導 クレーム処理 「職務分析・職務評価」に取り組むことで、パートタイム労働者と正社員との職務を整理す ることができます。また、パートタイム労働者と正社員の仕事の内容を比較することにより、 パートタイム労働者の処遇が職務の大きさに見合ったものとなっているか確認することができ Ⅳ ます。その結果を踏まえて処遇を改善すること等により、パートタイム労働者の仕事や処遇に 対する納得性を高めることが期待できます。 ※職務分析とは 職務に関する情報を収集・整理し、職務の内容を明確にすること。 ※職務評価とは 社内の職務内容を比較し、その大きさを相対的に測定すること。 Ⅴ 「職務分析・職務評価」の実施方法については、以下のアドレスをご参照ください。 厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1.html Ⅵ 8
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