微分方程式、差分方程式、q-差分方程式の多項式解 ∼ Risa/Asir を用いて計算しよう ∼ 勝島 義史 (東大数理) 可積分系ウィンターセミナー 2015 KKR 湯沢ゆきぐに 2015 年 2 月 2 日 今回の目標 • 線形の常微分方程式, 差分方程式, q-差分方程式について, 多項式解の 存在する条件を考える. • 計算機を用いて解の構成を実演する. 1. 微分方程式の場合 以下の方程式を考える. N ∑ dn f Lf (x) = an (x) n (x) = 0. dx n=0 (1) ここで, an (x) は多項式 an (x) = Nn ∑ an,k xk ∈ C[x] k=0 とする. このとき, 微分作用素 L の単項式 xj への作用を考えると (2) Lxj = N ∑ pn (j)an (x)xj−n (3) n=0 となる. ここで, pn (j) は xj を n 回微分したものの係数 { pn (j) = j(j − 1) · · · (j − n + 1) (j ≥ n), 0 (j < n) である. 微分方程式の多項式解については, 以下が知られている. (4) ∆ = {(n, k) ∈ N2 |an,k ̸= 0} とし, 整数 M を M = max {k − n} ∈ Z (5) (n,k)∈∆ と取る. bL (ν) = N ∑ an,n+M pn (ν) (6) n=0 とする. このとき, J 次以下の多項式の空間を VJ として 事実 1 bL (ν) = 0 の自然数根のうち, 最大のものを ν0 とすると, Ker(L : C[x] → C[x]) ∼ Ker(L : Vν0 → Vν0 +M ) が成り立つ. (線形同型, というよりも, 同値という方が気分が良い.) (7) ようは, 多項式解を見つけるには, bL を求めて, その自然数根を計算すれ ば, あとは有限次元の空間で, 線形写像の様子を見ればよい. 具体的には, Vν0 の基底を {1, x, . . . , xν0 } と取り, Vν0 +M の基底を {1, x, . . . , xν0 +M } と取り, L の表現行列の基本変形を適当に計算すれば良い. L(1, x, . . . , xν0 ) = (1, x, . . . , xν0 +M )AL AL −→ (8) (階段行列) 行基本変形 解の次元は, AL のランク r が ν0 以下の場合, dim(Ker) = ν0 + 1 − r とわ かる. r = ν0 + 1 の時は, 多項式解は存在しない. 計算代数キタコレ (ktkr)! 同様なことを, 差分方程式, q-差分方程式についても考えてみよう. 2. q-差分方程式の場合 σq : f (x) 7→ f (qx), q は不定元, とする. 考える線形 q-差分方程式を Lq f (x) = N ∑ an (x)σqn f (x) = 0 (9) n=0 とする. ここで an (x) は, an (x) = Nk ∑ an,k xk ∈ C[x, q] (10) k=0 の形であるとする. σq は, ある意味でオイラーオペレータのような振る舞い をする. つまり, σq xj = q j xj (11) と, 単項式の次数は変えないで, ちょっと (x に関して) 定数倍する役割 を果たす. ここで, M = maxn Nn = max{k|an,k ̸= 0} とし, bL (Λ) = ∑N n=0 an,M Λn とすると, 以下が成り立つ. 事実 2 bL (Λ) = 0 の根 Λj (q), j = 1, . . . , N を考える. Λj (q) = q νj とな る νj ∈ N の最大値 maxj νj を ν0 と書くと, Ker(Lq : C(q)[x] → C(q)[x]) ∼ Ker(Vν0 → Vν0 +M ) (12) となる. ここで Vj は C(q) 係数の, j 次以下の x の多項式の空間を表す. 結局有限次元の線形代数で片がつく (もっとも, 代数方程式 bL (Λ) = 0 の根 の計算が大変なことになっているが). 3. 差分方程式 (+1) の場合 線形差分方程式 Lf (x) = N ∑ an (x)σ n f (x) = 0, (13) n=0 σ : f (x) 7→ f (x + 1), an (x) = Nn ∑ an,k xk ∈ C[x] k=0 を考える. 方程式の degree を M= max n=0,1,...,N degx (an (x)) (14) とする. 差分方程式 (13) の決定多項式 D(Λ) を D(Λ) = N ∑ an,M Λn (15) n=0 とすると, 以下が成り立つ. 事実 3 差分方程式 (13) の多項式解の次元を d ≥ 1 とする. このとき, D(Λ) は Λ = 1 を根にもち, その重複度は d 以上である. 特に, 多項式解が 存在しないならば, D(1) ̸= 0 である. 決定方程式 D(Λ) = 0 の Λ = 1 での重複度を m とする. このとき, 事実 4 差分作用素 L = ∑N n=0 n n an (x)σ に現れる作用素 σ を ∑m np dp p=0 p! dxp に置き換えた, 微分作用素 L̃ を考える. 作用素 L̃ について, bL̃ = 0 を考え, その最大の自然数根を ν とする. 微分作用素 L̂ を, L の σ n を ∑ν n p dp p=0 p! dxp に置き換えたものとして定める. このとき, Ker(L : C[x] → C[x]) ∼ Ker(L̂ : C[x] → C[x]) (16) が成立する. 差分方程式の多項式解の空間を, 微分方程式の多項式解の空間で書き換えら れた. あとは事実 1 をもとに計算すれば, 差分方程式の多項式解が求まる. 4. Risa/Asir を用いた多項式解の計算 私のホームページの, Risa/Asir 練習場 http :// www . ms .u - tokyo . ac . jp /~ katsushi / Ris a _As i r_ r e n s h u . html に置いてある, q-pol.rr を Risa/Asir で読み込んで使う. 使う関数は • kt difkerpol(L,X,Dx) 微分方程式 Lf (x) = 0 の多項式解の空間の 基底を与える. L は考える微分作用素, X は独立変数, Dx は微分作 用素 d dx . • kt qkerpol(L,X,Q,S) q-差分方程式 Lf (x) = 0 の多項式解の空間 の基底を与える. L は考える q-差分作用素, X は独立変数, Q は不定 元 (q など), S は q-シフトのシンボル (sq に対応するもの). • kt difckerpol(L,X,Dx,S) 差分方程式 Lf (x) = 0 の多項式解の空 間の基底を与える. L は考える差分作用素, X は独立変数, Dx は X に関する微分作用素のシンボル, S は +1 のシフト作用素. 例 超幾何微分方程式 [ ] d2 d x(1 − x) 2 + {γ − (α + β + 1)x} − αβ f (x) = 0 dx dx (17) は, 例えば β が負の整数の場合, 多項式解を持つ. ここでは, β = −3 として 多項式解を計算する. 注 1 計算は多項式環の中で行う. Risa/Asir は多項式を決められた順序で 勝手に並べ変える. 微分作用素は “正規化” された形で入力することが望ま しい. 微分作用素の各項は, an (x) × (σ n or dn dxn ) の形であると仮定して解 を構成している. 例えば, Risa/Asir では s ∗ x = x ∗ s と解釈されるが, 差 分作用素環の計算では σx = (x + 1)σ となる. σx について考えたければ (x + 1) ∗ s または s ∗ (x + 1) と書くべきである. 差分作用素のかけ算は, 定 義すればできるが, まだ作っていない. 注 2 q-pol.rr には, 行基本変形や, 微分または差分作用素の表現行列を求 める関数を定義してある (Risa/Asir にもこのような関数は組み込まれてい るが, 変形したものを元の行列と同じにする仕様があって, 使いにくい). マ ニュアルはまだ作っていない. 今後の予定: サマーセミナーでは差分作用素の Addition のようなものを定義した が, まだ Risa/Asir で計算するまでに至っていない (やればできる). 差分方程式で, middle convolution に対応するものを作りたいが, 試 作品の意味付けがまだできていない. 差分方程式の代数的な解析をも う少し考えていきたい. 参考文献 •「D 加群と計算数学(すうがくの風景)」 大阿久 俊則, 2002 年, 朝倉 書店. 常微分方程式の多項式解の計算はこの本を参考にした.
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