子どもたちの食育の原点、学校給食 を広く社会に知っていただくために

子どもたちの食育の原点、学校給食
を広く社会に知っていただくために
株式会社 SN食品研究所 代表取締役社長
財団法人 学校給食研究改善協会 理事
中村 信子
「食育の原点・学校給食」の核は栄養教諭・
学校栄養職員
続けてきました。ですから、平成17年に実
施された「栄養教諭」制度の施行は、この
この度、季刊誌「栄養教諭」に寄稿のご
実施に向けて長年、学校栄養職員の方々の
依頼をいただき、僭越ながらお受けするに
たいへんな苦労と努力をいつも目の当たり
当たりまして、たいへん感慨深いものがあ
にしてきた弊社にとっても、言葉では言い
りました。それは弊社創業者有吉義一が昭
尽くせない感動を禁じ得ませんでした。
和35年に発起人のひとりとして、財団法人
しかし、「栄養教諭」の配置が各県の判断
学校給食研究改善協会(以下改善協会)を
に委ねられている現状では、各都道府県間
設立し、その最も大きな設立の趣意と活動
で任用の大きな格差がすでに出てきており
の目的が「学校給食は次代を担う学童のす
ます。今後社会全体にどのようにその必要
こやかな心身を育むために計り知れない貢
性を認知してもらうか、どのように広報し
献があり、この学校現場で学童のための学
て理解を得るか、また学校給食そのものの
校給食を実施するにあたって、最も重要な
認識と理解を一般の人々に、いかに広げる
核となるキーマンは、学校栄養職員である
かといったことと併せて、これらのことは
と位置付け、学校栄養職員の業務活動や資
長年学校給食に携ってきた私ども企業にと
質向上の支援をすることによって、学童の
っても、取り組んでいかねばならない最重
心身の健康に寄与する。」というものである
要課題となっています。
からです。
同じように弊社も、当初は学校栄養職員
このように、私どもSN食品研究所は
の地位や評価は校内で非常に低く、正しい
「学校給食事業を営利追求だけではなく、わ
評価がなされず不当な扱いをされていた頃
が国の将来を担う子どもたちの心身の健康
から、この状況を何とか改善して、学校栄
を護るための聖域事業とする」という高い
養職員という任務の重要性が世の中に理解
企業理念を、昭和10年の創業以来ずっと堅
されるよう、その後も一貫して支援努力を
持し、今日まで実行してきた企業であり、
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規模は決して大きいものではありませんが、
があること、ビタミンカルピスを添加する
公的な役割と使命を担っている一員として、
ことでカルシウムが強化されるメリットな
全社員がこのことを常に誇りをもって業務
どを挙げて反論、遂にはGHQから「ビタ
してまいりました。
ミンカルピス」の添加は好ましいとの評価
では、学校給食の普及と推進を常に担っ
を受けるにいたったと聞いています。また
てきました弊社の簡単な歴史から、この稿
後者のキャンペーンチーズは、東京オリン
を始めさせていただきます。
ピックの時に、欧米と日本の選手の体格の
差は良質のたんぱく質である乳製品の摂取
すこやかな心身の源は薬や栄養剤ではなく、
量の違いだとして、当時ほとんど普及して
食品から
いなかったチーズを学童に食べさせるため
株式会社SN食品研究所は昭和10年
に、子どもの好きなキャラメル形個包装を
(1935)に創業者有吉義一が家族を結核で失
考案、将来を担う子どもたちの健康を願っ
ったことから、健康の源は薬や栄養剤では
て、目先の採算を度外視した雪印乳業株式
なく、食品であることを悟り、創業されま
会社の対応と協力とによって実現したもの
した。
です。
弊社が将来を担う大切な子どもたちの心
身の健康を育むために、わが国で初めて学
学校栄養職員自身による「全学栄製品」「全
学栄すいせん製品」の開発
校給食に学童用「低温殺菌牛乳」をお届け
また昭和49年(1974)に学校給食用優良
して本年で72年になりますが、当初は虚弱
食品として、「食品メーカー主導の開発に委
な子どもたちの栄養補給と体力づくりにも
ねるのではなく、子どもの成長発育に寄与
っぱら取り組んでまいりました。この取り
し、学校給食の現場で使用できる食品を学
組みの一環として弊社が学校給食用に開発
校栄養職員自身の手で作ろう・・」との趣旨
した食品は数多くありますが、その代表例
で全国の学校栄養職員から企画を募集し、
に、戦後アメリカからの救援ララ物資であ
昭和52年(1977)に製品化され、現在「全
る脱脂粉乳(当時栄養価は高いが不味いと
学栄製品」として5品(ニューミートップ、
不評)をなんとか飲み易くするためにビタ
チーズデザートMBP、グリーンボール、か
ミンカルピスを混入したわが国初の本格的
ぼちゃチーズロール、ポテトチーズロール)
な学童用強化食品となった強化ミルクや、社
があります。そして平成14年(2002)に再
団法人全国学校栄養士協議会、雪印乳業株
度、「新・全学栄製品」として企画募集し、
式会社、改善協会と共同開発し、今日のチ
摂取の難しい食
ーズ普及に大きく貢献したわが国初めての
物繊維、マグネ
学童用個包装キャンペーンチーズ(昭和40年)
シウム、亜鉛、
などがあります。前者の強化ミルクについ
カルシウム、鉄
ては占領軍からミルクに乳酸菌を混入して
分など新しい
は変質するからと中止の指導があったにも
「栄養所要量の基
拘らず、湿気の多い日本では乾燥した大陸
準」を充分考慮
向きの脱脂粉乳はもともと変質するおそれ
し、製品化され
全学栄すいせん製品・毎日骨太
MBPチーズキャッチ
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たものが、現在
とと思いますが、しかし半世紀以上継続さ
6品(黒豆さつ
れてきたこの厳しい取り組みが、現在世界
ま、枝豆とじゃ
に冠たる日本の学校給食として評価される
この元気ボール、
ゆえんにもなっているということを、理解
ひじきの春巻、
していただくために、機会あるごとに説明
スクール豆グラ
してまいりました。将来を担う子どもたち
タン、豆乳チーズケーキ、かぼちゃのババ
が、健やかにバランスのとれた成人に育っ
ロア等)流通しています。そのほか全国学
ていくことは、日本全体の総合利益であり、
校栄養士協議会各支部と改善協会協力会員
企業の将来的な発展のためにも同様である
メーカー等の開発製品である「全学栄すい
はずですから、最近は徐々にメーカーの
せん製品」(毎日骨太MBPチーズキャッチ、
方々からも、この主旨に賛同していただく
スクールがんもどき、スクール糸かまぼこ、
ようになってまいりました。
全学栄すいせん製品・菜の花ふりか
け
ほぐしささみ水煮、白花豆コロッケ、味付
すなわち関係各省の指導下、学校栄養職
けもずく、ブルーベリーゼリーCFE、つぶ
員と、財団法人各都道府県学校給食会(以
つぶりんご&カムカムゼリー、菜の花ふり
下県学給)等の公的な組織が、営々と長年
かけ、カリフォルニアプルーン、洗剤のキ
子どもたちに安全安心な食材と調理を提供
ャンペーンS-100等)も多数あり、近々に
するために、終始一貫ぶれることなく護っ
は北海道産の素材品として用途が広く好評
てこられた高い基準や指導、きめ細かい取
の白花豆ペーストが新しく加わります。そ
り組みは、現在の日本の学校給食の礎とな
の殆どの製品開発において、改善協会とと
っています。そしてこのような姿勢と指導
もに弊社も可能な範囲内で協力させていた
が、私どもの取り扱い製品に対する認識の
だき、販売に携ってまいりました。
基準にもなっており、日本の学校給食での
食中毒発生率は、世界でも類を見ないほど
正しい食育の原点「子どもたちのための学
低い水準が保持されている要因にもなって
校給食」を護るために
います。
これまでお話した学校給食用製品につき
ましては、厳しい安全安心の基準が求めら
けれども、たいへん残念なことにこのよ
れておりまして、当然に、製品開発とその
うな、わが国の素晴らしい学校給食現場で
製品の流通を業務としている弊社に対しま
の取り組みは、国内の一般社会はもとより、
しても、その取り扱い製品については、た
学校関係者、就学児童をもつ家庭、周辺地
いへん重い責任が課せられています。した
域住民にも殆ど知られておらず、斯く言う
がって製造メーカーの方々にはアレルゲン
私自身も本職に就くまで、学校給食のこの
や添加物、残留農薬の書類提出や、製造工
ような状況を全く知らなかったのですから、
場視察などさまざまな方法で安全性をチェ
お恥ずかしい限りです。しかし就任後は、
ックさせていただき、手間のかかる対応を
学校給食の現場に度々足を運んで見聞し、
お願いしています。こういった対応につい
また全国大会の分科会などで発表される多
ては製造される側からも、恐らく本音の部
くの現場からの密度の高い報告を聴聞して、
分では、随分ストレスが溜っておられるこ
子どもたちのために心を込めて取り組まれ
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た学校給食の果たす役割がいかに大きいか、
私どもは、学校給食事業に長年携わるも
のとして、常に踏まえたい行動の基準を、
今では痛感しています。
その取り組みが子どもたちにとって、結果
学校・家庭・地域・社会にもっと気づかせ
的にプラスになるのか、マイナスになるの
て、知らせたい
かということに置かせていただいております。
近年、異様な犯罪が多発する中、こわれ
そしてこの姿勢が広く社会全体に浸透し
た生活習慣や食生活を根元から断ち切って
て、国を挙げて大切な子どもたちを温かく、
今すぐ改善しないと大変なことになると、
厳しく護っていく仕組みが構築されていく
学校内はもとより、家庭・地域・社会に対
ことを、切望してやみません。私どもは、
して、この事態をどのように一日も早く気
地味ですがこれからも諦めないで、本稿で
づかせていくか。
お話したことに対して実直に取り組んでま
長野県真田町(現上田市)の愛情のこも
った学校給食を毎日食べて、荒れていた学
いる所存でございますので、これまで以上
のご指導をお願い申し上げます。
校が非行ゼロになった例や、福井県の食育
を行政が推進して出生率が1.5近くにも上が
った例をみますと、決して諦めないで取り
組むことで、子どもから大人が変わり、地
域や社会も変わっていけるということが実
証されています。
学校給食を通じて、こ
のような大きい効果を得
られることの広報活動は、
学校栄養職員、県学給等
の重要な役割を世の中に
知らせて、理解を得るこ
とと同じように、弊社に
課されている重要な義務
当社会社案内より
昭和33年当時の学校給食風景(独立行
政法人日本スポーツ振興センター提供)
として、すでに私どもは取り組みを開始し
始めています。そして、その責任の重さに
身の引き締まる思いがしております。
子どもたちのために、それはプラスかマイ
ナスなのかで判断したい
では、昨今たいへん普及している「食育」
について、一貫して弊社が心がけているこ
とを最後に申し上げて、この稿を終えさせ
ていただきたいと思います。
当社会社案内より
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