Acrobotの重心角に着目した出力零化と完全な線形化に関する研究

平 成 2 6 年 度 修 士 論 文 要 旨
ヒューマン・ロボティクス領域 6625009 漆原 巧治
Acrobot の重心角に着目した出力零化と完全な線形化に関する研究
1
序論
3
入力の数が一般化座標数よりも少ないシステムは劣駆動
システムと呼ばれている.劣駆動システムの代表例として 2
リンク劣駆動ロボットが大きく取り上げられている [1]. 山
北ら [2] は,第 1 関節を非駆動,第 2 関節を駆動関節とす
る 2 リンクロボットいわゆる Acrobot に対し重心角に着目
した出力零化制御を行い,Acrobot の運動量が一定のとき,
制御則の特異点曲線を示しているが,制御中にその角運動
量が変化するため,制御則の特異点曲線を示すことは困難
である.
一方,完全な線形化ができない Acrobot に対して,斎藤
ら [3] は時間軸変換を用いることで,重心角を出力とした
Acrobot の完全な線形化が可能なことを示している.しか
し入力変換に存在しうる特異点については言及していない.
そこで本研究では,Acrobot の重心角に着目した出力零
化と完全な線形化について研究を行い,その制御則に存在
する特異点曲線について解析する.出力零化における結果
については紙面の都合上,本論を参照されたいが,本稿で
は,Acrobot の時間軸変換を用いた完全な線形化について
の結果を示す.
2
時間軸変換を用いた完全な線形化
完全な線形化とは,非線形系を非線形の状態変数変換と
入力変換によって線形系に変換し,線形制御理論で得られ
た成果を利用しようとするものである [1]. しかし,完全な
線形化が可能な条件は非常に厳しく,その適用できない例
は多く,Acrobot もその一つである.ここでは,非線形系
である Acrobot に対して時間軸変換を用いることで完全な
線形化 [3] を行う.
状態変数を x = [x1 , x2 , x3 , x4 ]T = [q1 , q2 , q̇1 , q̇2 ]T と定
義すると,式 (1) は次式で表わされる.
ẋ = f (x) + g(x)u
(2)
実際の時間軸 t に対して,新たな時間軸 τ を
dt
= s(x) = M11 (q)
dτ
(3)
と定義する [3].ただし M11 は M 行列の (1, 1) 成分である.
式 (2) は式 (3) を用いて次式に書き直せる.
dx
= s(x)f (x) + s(x)g(x)u
dτ
準備知識
(4)
次に出力関数は次式で表される.
∫ q2
M12 (λ)
σ(x) = q1 +
dλ
M11 (λ)
0
Fig. 1 に示す Acrobot を考える.
(5)
ここで式 (5) は重心角 [1] と呼ばれるもので,Acrobot 全体
の重心回りの回転角速度を積分したものである.式 (5) を
用いて,新たな状態変数 z = [z1 , z2 , z3 , z4 ]T を次式で定
義する.
zi = Li−1
sf σ ; i = 1, · · · , 4
ただし,Lsf σ は Lie 微分 (sf に沿った σ の微分) を表す.
新たな入力を v とし,入力変換を
u=
v − Lsf z4
Lsg z4
(6)
とすると,時間軸を τ , 入力を v ,状態変数を z とするシス
テムは次式で表せる [3].
dz
= Az + N v
dτ
Fig. 1: Acrobot

Acrobot の運動方程式は次のように表せる.
M (q)q̈ + H(q, q̇) + G(q) = Bu
T
(1)
T
ただし,B = [0 , 1] ,q = [q1 , q2 ] を表し,
[
]
α1 + α2 + 2α3 cos q2 α2 + α3 cos q2
M (q) =
α2 + α3 cos q2
α2
[
]
−α3 (2q̇1 + q̇2 ) q̇2 sin q2
H(q) =
2
α3 q̇1 sin q2
[
]
−β1 sin q1 − β2 sin (q1 + q2 )
G(q) =
−β2 sin (q1 + q2 )
である. ここで,

2
2
 α1 = m1 lc1 + m2 l1 + I1
2
α2 = m2 lc2 + I2 , α3 = m2 l1 lc2

β1 = (m1 lc1 + m2 l1 )g, β2 = m2 lc2 g
g は重力加速度である.
0
 0
A=
 0
0
4
1
0
0
0
0
1
0
0


0
0
 0
0 
, N = 
 0
1 
0
1
(7)




(8)
特異点の解析
入力変換 (6) において Lsg z4 (q) = 0 となる特異点が存在
するかについて解析する.まず,
Lsg z4 (q) = −
3
M11
Λ(q)
|M (q)|
(9)
が得られる.ただし,
Λ(q) = β1 cos q1 (α2 + α3 cos q2 )
−β2 (α1 + α3 cos q2 ) cos (q1 + q2 )
+2α3 sin q2 (β1 sin q1 + β2 sin (q1 + q2 ))
(10)
であり,α1 ,
α2 ,
α3 ,
β1 ,
β2 は機械パラメータによって決まる
正の定数である.ここで Acrobot は M11 > 0 であるので
Λ(q) = 0 のとき,Lsg z4 = 0 が成り立つ.次に,式 (??) を
sin q1 , cos q1 についてまとめると次式が得られる.
π/2
(11)
q1 [rad]
Λ(q) = Γ(q2 ) sin q1 + Ψ(q2 ) cos q1
π
ただし,
Γ(q2 ) = (3α3 β2 cos q2 + 2α3 β1 + α1 β2 ) sin q2
0
−π/2
(12)
Ψ(q2 ) = −3α3 β2 cos2 q2 + (α3 β1 − α1 β2 ) cos q2
+ (α2 β1 + 2α3 β2 )
−π
−π
(13)
−π/2
0
q2 [rad]
π/2
π
これより次の定理が得られる.
定理 機械パラメータが
(α1 − α3 ) β2 = (α3 − α2 ) β1
(14)
Fig. 2: Curves of singular points not satisfy equation
14th
を満たさないとき,式 (6) は次式の特異点を持つ.
q1 = kπ − tan−1
Ψ(q2 )
Γ(q2 )
π
(15)
π/2

Ψ(q2 )

 kπ − tan−1
, q2 ̸= (2n + 1)π
Γ(q2 )
q1 =


任意値, q2 = (2n + 1)π
q1 [rad]
ただし,k = 0, ±1, ±2, .... 機械パラメータが式 (14) を満
たすとき,式 (6) は次式の特異点を持つ.
0
−π/2
(16)
−π
−π
ただし,n = 0, ±1, ±2, ....
証明 Γ(q2 ) = 0 かつ Ψ(q2 ) = 0 が成り立つための必要十
分条件は式 (14) かつ cos q2 = −1 が成り立つことである
こと [4] から,機械パラメータが式 (14) を満たさないとき,
Λ(q) = 0 は sin(q1 − ϕ) = 0 と等価である.ただし,ϕ は式
(15) の右辺である.以下は,機械パラメータが式 (14) を満
たすとする.cos q2 = −1, すなわち,q2 = (2n + 1)π, 成立
する場合と成立しない場合を分けて考えると,式 (6) は式
(16) の特異点を持つことが示せる.
注:式 (14) を満たす Acrobot はその Up–Down あるいは
Down–Up 平衡点における線形近似モデルが不可制御であ
る.また, 定理から,機械パラメータに依存せず,式 (6) に
以下の特異点が存在することがいえる.
{
q1 = (2ξ + 1)π/2, ξ = 0, ±1, ±2, ...
(17)
q2 = ηπ, η = 0, ±1, ±2, ...
5
数値例
ここで,定理で示した特異点曲線を図に示す.まず,Acrobot の機械パラメータが,式 (14) を満たさない場合の
特異点曲線,式 (15) を Fig. 2 に示す.機械パラメータは
Spong[5] の値として次のような値を用いた.m1 = 1.0 kg,
m2 = 1.0 kg,l1 = 1.0 m,l2 = 2.0 m,lc1 = 0.5 m,
lc2 = 1.0 m,I1 = 1/12 kg・m2 , I2 = 1/3 kg・m2
次に,機械パラメータが,式 (14) を満たさない場合の
特異点曲線,式 (16) を Fig. 3 に示す.このような機械パ
ラメータとして論文 [4] を参考にし次のような値を用いた.
m1 = 1.0 kg,m2 = 1.0 kg,l1 = 6.0 m,l2 = 2.0 m,lc1 =
3.0 m,lc2 = 1.0 m,I1 = 3.0 kg・m2 , I2 = 1/3 kg・m2
Fig. 2,Fig. 3 より2種類の特異点曲線が共に真上平衡
点を挟む形で特異点曲線が存在していることがわかる.し
たがって特異点曲線の外側からの真上平衡点への安定化制
御を行う場合特異点曲線に触れる.また,内側からでも真
上平衡点への安定化制御において特異点曲線に触れないと
は言えないので,数値シミュレーションによる検証等が必
要である.数値シミュレーションの結果については本論を
参照されたい.
−π/2
0
q2 [rad]
π/2
π
Fig. 3: Curves of singular points satisfy equation
14th
6
結論
本研究では,時間軸変換を用いた Acrobot の完全な線形化
において,その入力変換における特異点について,Acrobot
の 2 つのリンク角度と機械パラメータによる特異点曲線を
解析的に与えた.また,数値例を用いて機械パラメータ条
件 (14) を満たす場合,満たさない場合の特異点曲線につい
て図示し,その特異点曲線について考察を述べた.さらに,
特異点曲線の安定化制御における影響を調べるために数値
シミュレーションによる検証を行った.
参考文献
[1] 美多勉. 非線形制御入門 - 劣駆動ロボットの技能制御
論. 昭晃堂, 2000.
[2] M. Yamakita, T. Yonemura, Y. Michitsuji, and
Z. Luo. Stabilization of acrobat robot in upright position on a horizontal bar. In Proceedings of the 2002
IEEE International Conference on Robotics and Automation, Vol. 3, pp. 3093–3098, 2002.
[3] A. Saito, K. Sekiguchi, and M. Sampei. Exact linearization by time scale transformation based on relative degree structure of single-input nonlinear systems. In Proceedings of the 49th IEEE Conference
on Decision and Control, pp. 5408–5413, 2010.
[4] 忻, 兼田. エネルギー制御法による劣駆動ロボットの振
り上げ制御とその動きの解析: Acrobot の場合. 計測自
動制御学会論文集, Vol. 42, No. 4, pp. 411–420, 2006.
[5] M. W. Spong. The swing up control problem for the
Acrobot. IEEE Control Systems Magazine, Vol. 15,
No. 1, pp. 49–55, 1995.