数学は、日常の言葉で考える。 数学を話すときも、日常の言葉で話す。 数学を書くときも、日常の言葉で書く。 ただし、「きちんと、正確に」話す、書く、考える。 集合 集合 「もの」の集まりを集合という。集合に含まれる一つ一つの「もの」を、 その集合の要素、あるいは元という。 が集合 の要素であるとき、「 は に属する」、あるいは「 は に含まれる」、「 は を含む」な どといい、記号で と表す。 が集合 の要素でないことを、記号で と表す。 集合の表し方 集合の表し方には、大別して二種の表し方がある。いずれも、 んで表す。 集合の要素全部を書き表す。 で囲 要素の満たすべき条件を書く。 は整数 は整数 は正の整数 この方法で集合を表すとき、要素の記号には依存しない。すなわち、上 の集合 は は整数 と表しても同じである。 これらの例において、 は同じ集合である。 また、これら以外に、言葉で説明する方法もある。上の は、 以上 以下の整数の集合、 は正の整数全体の集合、などと表せる。このほ かにもいろいろな表し方が考えられる。要は、きちんと判断できるよう に表されていれば、どんな言い方でもよい。 空集合 要素を一つも持たない集合も考えることにする。この集合を空集合 く うしゅうごう といい、 と表す。すなわち、 である。 以下、思いつくままにいくつかの注意を述べる。 と表された集合を考えよう。 を実数の範囲で考え ると、 である。また、 を複素数の範囲で考えると、 である。このように、曖昧さの残るような表し方をしな いように注意しなければいけない。しかし、話の流れで間違いなく理解 できるときには、省略した表し方が許されるときもある。 正確には、 は実数 = は複素数 = と表せばよ い。また、実数の全体を 、複素数の全体を と表す習慣なので、こ = = とも表せる。正確には れを用いると = = と書くべきだが、臨機応変にこ のように略記することもある。 慣用的に用いられる記号としては、 のほかに、整数の全体を表す 、自然数の全体 正の整数の全体 を表す 、有理数全体を表す も用 いられる。 例題 は の約数 は、一つの集合である。 であり、 である。 とも表されるし、 とも表すことができる。 例題 で表される集合は、平面上の点 の集合で、原点中心、半径 の円周で ある。 原点中心、半径 の円周上の点 と表してもよいし、円周の図を描いて、 「この円周上の点の集合」と説明 することもできる。 例題 先ほどの慣用記号を、別の表し方で表してみよう。 は虚数単位 と表される。このほかにも表し方があるだろう。 「うまい」表し方を考え てみて下さい。 集合の包含関係 二つの集合 と について、すべての について が成り 立つとき、「 は の部分集合である」という。また、「 は に含ま れる」あるいは「 は を含む」といい、記号で と表す。つま り、 が の部分集合であるとは、 のすべての元が の元でもある ときをいう。 例題 とする。 である。 証明してみよ。 また、 である。何 故なら、 とすると、 は を満たす整数、すなわち、 のうちのいずれかであるから、条件 を 満たしている。故に、 である。 注意 どんな集合 についても、 である。また、 であ ると考えることにする。 集合 を図示するときに、マルやシカクを描いてその内部が を表 すと考えると便利なことが多い。 が に含まれることをこのような 方法で図示すると、 を表すマルが を表すマルよりも大きくなってい る。「 が を含む」という用語は、この状態と感覚的にうまく当ては まっている。 と書いたときには、 が一つ一つの要素 もの であることを 示している。これに対し、 と書くと は集合である。 二つの集合 と が「同じ」ということは、どちらも同じ要素からで きていることである。もう少し、きっちりと表せば、 であり、同 時に でもある時に、 と とは等しいといい、 と表す。 集合をマルで図示して考えると、どちらを表すマルも重なってしまって いる状態である。 であり、 であるとき、 は の真部分集合であるとい う。記号では または と表すことが考えられるが、あまり 使用されない。 注意 部分集合であることを 、真部分集合であることを と表す方法は、一般的ではない 岩波版「数学辞典」による。テキスト とは異なるが、この講義では、もちろん用いない。 例題 とする。 は の正の約数 は の正の約数 は の正の約数 は の正の約数 とすると、 である。 と には包含関係はない。ほかの包含関係はどうだろうか? 定理 三つの集合 について、 ならば である。 とする。 であるから、 である。さらに、 証明 より、 であるから、 であることが示された。 例題 である。 証明 これを示すにはどうすればよいだろうか の元であって、 の元ではないものが存在することを示せばよい。 でない実数とは、無理数のことである。つまり、 「これが無理数ですよ」 という例を一つ たくさんでもよい 示せばよいことになる。 たとえば が無理数であることを示せばよい。 証明してみよ。 そ の他、 も無理数なのだが、この証明は難しい。また、有理数なのか 無理数なのかが、いまのところ、判定できていない数もある。 集合の演算 「演算」とは、二つ 以上 の「もの」から、新しい「もの」を定める 方法をいう。こういうと難しいことのようだが、二つの「数」を足し算 すると「数」が求められる。足し算も一つの演算である。引き算、かけ 算、割り算という計算も、演算である。数学ではこれから「数」とは限ら ない「もの」を対象に、足し算やかけ算のような計算を考えるので、「演 算」と呼ぶのである。 共通集合、和集合 二つの集合 に対して、そのどちらにも属する要素の集合を、 と の共通集合といい、 と表す。また、 と のいずれかに属する 要素の集合を、 と の和集合といい と表す。 これらの定義は、次のように表すこともできる。 かつ または さらに、集合をマルで囲んで図示すると、 を図で説明する こともできる。 「 かつ 」とは、二つの事柄 と が同時にみた されていることであり、 「 または 」とは、二つの事柄 と のいずれかがみたされていることである。日常語では、「お昼 ご飯に『トンカツ定食 または 天ぷら定食』をごちそうしてあげる」とい われて、「それでは『両方を下さい』」というと、常識を疑われるが、数 学で「 または 」というと、 の場合も含んでいる。 すなわち、 である。図で示すと一目瞭然である。 の時には、二つの集合 と は互いに素である、と言い 表す。 と が互いに素である状態をマルを使った図で表してみよう。 共通集合や和集合の定義から、計算のルールが導かれる。ほとんどは一 目瞭然の事柄である。図で示すとわかりやすいであろう。いくつかについ ては講義中で、定義に戻って詳しく証明する。以下の定理では、 を集合とする。 定理 が成り立つ。また、 であること と、 であることは同値である。 とすると、もちろん 「 または 」 を満たし 証明 ている。従って、 である。これで、 が示された。 も同様である。 であることと、 であることが「同値」である、とい うのは、 ならば、 であるし、また、 なら ば であると、両側向きの性質が成り立つことである。 と が「必要十分」である、ともいう。詳しくは命題についての 講義の中で説明するが、少しずつ慣れてほしい。 まず を仮定して を示そう。片側の包含関係 は、先に示した一般の性質から明らかである。逆の包含関係を確かめる ために、 とする。 なら より である。 なら、問題なく である。これは包含関係 を示 している。この二つから であることが分かった。 とする。 逆に、 と仮定して を示そう。 であるから である。これで が示された。 定理 集合 について、 が成立する。 証明 集合の演算は、二つの集合に対して定義したから、一度に つの 集合について演算を行うことはできない。そのため、 段階に分けて考え るのだが、 の集合は、いずれの順序で考えても のいずれか に属する要素の集合である。従って、どの順序で演算しても同じ集合が 得られる。このことから、この集合を と表しても、混乱、誤 解は生じない。 の集合が等しいことも、定義から明らかである。 当たり前の性質だけれども、新しい「演算」については、このような 事実を確かめてみなければならない。 定理 が成り立つ。また、 であること と、 であることは同値である。 定理 が成り立つ。 これらの定理は、それぞれ対になっている。どのように対になってい るだろうか?証明も対になっているので、同様にできるから、省略する。 共通集合と和集合の演算が混じった式の計算ルールとして、次の性質 が成り立つ。 定理 次の関係式が成り立つ。 この定理の第 式で、 をふつうの数と思い、 を に置き換えた式を考えてみると、 に、 を であり、ふつうの数に対する計算ルール 分配法則 と同じである。この ように式の表す「もの」を、すでに知っているものに置き換えて理解す ると新しい事柄になじみやすいと思う。しかし、第 式については同じ 類似は成り立っていない。 証明は、集合をマルで囲んで図示して考えるとわかりやすい。 これを手がかりに、定義に従ってきちんと述べてみよう。 証明 とする。 ならば であ でもある。また、 とすると り、同時に かつ であるので、いずれの場合も である。これで が示された。逆に とする。 ならば は当然で より でなければならない。同じ ある。 とする。 く、 である。従って、 であるから、 で ある。 とする。 かつ なのだから、 のときには であり、 のときには である。こ を示している。逆に れは とする。 なら より であり、同様 に のときも である。 の証明では、集合 の包含関係が示されたことを明確には述べずに、要素の関係だけを述べ た。もちろん「これで包含関係・ ・ ・が示された」と書くと丁寧ではある。 しかし、慣れてくれば二つの集合の等号関係を証明するにあたって、両 側向きの包含関係を示そうとしていることは、当然のこととして了解さ れているから、記述を簡明にするために省略したのである。 差集合、補集合 二つの集合 と の差集合 を と定義する。また、あらかじめ集合を考える要素の全体 を指定してお き これを全体集合という、集合 を常に の範囲で考えることにし ているとき、 と定義して、 の補集合という。補集合の記号には も用いられる。全 体集合をシカク、集合 をその中のマルで表すとき、補集合は の外側 で表される。 次の性質が成り立つ。以下の定理において は全体集合、, はその 中の集合とする。補集合の記号はわざと用いていない。補集合の記号を 用いて、定理を書き表してみることを勧める。 定理 次の等式が成立する。 証明 は の元であるか、またはそうではないかのいずれかで ある。これが である。 言葉を変えると、 であり同時に であることはできない。これが である。 の元であることを否定し、 それをもう一度否定すると、元に戻って、 であることになる。これが である。 定理 の定理 次の関係式が成り立つ。 証明 これは、図を描いて考えれば容易に分かる。 定理 次の つは同値である。 証明 が成り立つと仮定する。 が の元でないならば、仮 定から、 の元にもなり得ない。これで が得られた。 を 仮定する。 の元は の元ではないのだから、 と共通部分をもた ない。これが である。 を仮定する。 の元 が ならば であるから であるこれが 。残るは、 の証明であるが、これも同様なので省略する。 直積 二つの集合 と から、新しい集合 を と定義し、 と の直積集合という。 は 関係のない、新しい「もの」である。 例題 実数の集合 に対して、直積集合 や とは直接 を考える。 である。この直積集合の元を平面の座標と考えることができるから、平 と定義すると、その元 面を と表すことが多い。また、 は空間の点を表すと考えることができる。 命題 命題 「 は偶数である」のように、何らかの判断を表す文や式を命題という。 「 ならば 」 と略記する の形で述べられた事柄も、判断を 表すので命題の一つである。 の部分を仮定 条件、 の部分を結論と いう。命題には正しいもの 真 と、正しくないもの 偽 とがある。真偽 の判定できないような事柄は、数学では命題とは呼ばない。真偽が判定 できるはずなのだけれど、難しくて今のところ判定できない事柄も命題 である。 例題 「 は偶数である」は、真の命題である。「 は、偽の命題である。 「 ならば である」は、真の命題である。 「 ならば 「 ならば である」は、偽の命題である。 である」 である」は、真の命題である。 「この店のトンカツは、おいしい」は命題とはいえない。食べる人に よっておいしいかどうかの判定が異なるからである。 命題が真であることを論証することが、「証明」である。 否定 「 でない」を「 である」の否定といい、 または と表す。 が成立するものの集合を と表すと、 の否定が満たすものの集合は、 補集合 で表される。この理由から、否定を補集合と同じ記号で表すの である。 命題「 ならば 」 「 である」ならば「 である」 を、このよう に集合で考えると と表される。 二つの条件 について、 「 かつ である」ことは、集合を用いる と で表される。また、「 または である」ことは、 で表 される。これらは、共通集合、和集合の定義に他ならない。 「 かつ である」の否定は、集合で考えて であるから、 「 でないか でない」、 「 でない、または でない」と 表される。 「 または 」の否定は であるから、「 でなく、かつ でない」である。 日常の言葉の感覚で 友達と会話するように、このことが分かること が大事である。 例題 「ポケットに 円玉か 円玉が入っている」ことの否定 は、「ポケットには 円玉も 円玉も入っていない」である。日 常の言葉としては、このように「は」が入ると分かりやすいだろう。 「家族全員が身長 センチ以上である」の否定は、「家族の誰かは 「家族には身長が センチに満たな 身長 センチ未満である」、 い者がいる」などと表される。 いずれも、形式的に である を でない に換えるのではなく、その 意味を考えて適切に表現しないといけない。表現の仕方は、一つには限 らない。 集合の表し方を用いて説明したが、これがわかりにくい人は次の例のよ うに考えてみてはどうだろう。 例題 「正整数 はともに奇数である」の否定を考えよう。 の奇数、偶数のあり方は次の 通りである。 奇 奇 奇 偶 偶 奇 偶 偶 従って、「 はともに奇数」の否定は 奇 奇 を除いた、 奇 偶 偶 奇 偶 偶 のいずれかである。これを数学の用語で表すと、「正整数 の少 なくとも一方は偶数である」となる。 「このクラブの学生はすべて女性である」の否定を考えよう。クラブ の人員構成のありかたは、すべてが男性、男性女性ともいる、すべ てが女性、の 通りであるから、すべてが女性、を否定すると、す べてが男性か、男性も女性もいる、となる。つまり、「このクラブ の学生の少なくとも一人は男性である」、 「このクラブの誰かは男性 である」 となる。 逆、裏、対偶 命題 と、条件や結論の否定を組み合わせると、別の命題が考 えられる。 命題 に対して を逆、 を裏、 を対偶 という。これらの命題の真偽について考えよう。もとの命題 が 真であるとき、その対偶も真である。このことは、集合で考えると分か りやすいだろう。 が真でもその逆は真とは限らない。このこと も集合で考えると分かりやすい。諺にも「逆は必ずしも真ならず」と言 われているとおりである。裏の真偽もまた、分からない。 一般に、 であるから、対偶の対偶はもとの命題である。 注意 「直角三角形の斜辺の平方 乗 の和は、他の二辺の平方の和に 等しい」ということがらは、命題である。たとえば、 「 において、 Æ ならば である」と書き表せば、 の形の命題の述べ方になっている。しかし、その逆、裏、対偶を述べる ときには、形式的に条件を否定するのではなく、その意味を考える必要 がある。 逆 裏 において ならば Æ である。 において Æ ならば である。 対偶 において ならば Æ である。 である。この命題は、ピタゴラスの定理と呼ばれる有名な命題 定理も命 題の一つである で、証明することができる。 例題 「 を より大きい自然数とするとき、 は整数解 をもたない」も命題である。 の形に 表してみよ。この命題は、 年 寛永 年、島原の乱勃発 に初めて述 べられたが、その真偽は永い間分からなかった。しかし 年 君たち が小学生の頃? 約 年ぶりに、ようやく、真であることが証明された の大定理。 必要条件と十分条件 命題 が成り立つ 真である 場合に は であるための必要条件 は であるための十分条件 であるという。 集合の包含関係で考えると、 であるから であるためには、必然的に でなければならない であるためには であればよい のであるから、必要、十分 という言葉の使い方は、日常と同じである。 かつ であるとき、 は であるための必要十分条 件であり、また も であるための必要十分条件であるという。この 場合、 と とは同値であるという。記号では と表すことが ある。 注意 必要条件、十分条件を考えるときには、主語が何であるかを明 確にして「 は であるための」なのか、 「 は であるための」なの かをはっきりさせなければいけない。 例題 は であるための必要条件である。しかし十分 条件ではない。 ならば であることと であることは同値である。 証明の方法 命題の証明は、基本的には 一般法則 偶数は 個々の事実 結論 ゆえに で割り切れる。 は偶数である。 は で割り切れる。 という形の論理を、組み合わせて行われる。これを三段論法という。 一般法則を大前提、個々の事実を小前提ということもある。 証明の方法には、仮定から順に三段論法を用いて、結論に至る方法 直 接法 と、結論が成り立たないと仮定して、矛盾を導く 矛盾は小前提と 矛盾することも、大前提と矛盾することもある 方法 背理法 がある。背 理法は、証明したい命題の対偶を直接法で証明していると考えることも できる。 三段論法とは異なる証明法として 三段論法を組み合わせた、という方 が正しいかもしれない、数学的帰納法がある。すべての自然数 につい ての命題を証明するとき、 については、命題は正しい。 のとき命題が正しいと仮定すると、 のときも正しい ことを証明する方法である。ドミノ倒しのように、 からはじめて、 次々と証明できるから、どの についても正しいと結論できるのである。 論理式の計算 命題は、必ず真か偽に判定できる はず だから、命題 が真のとき にその値が であると表し、偽であるときには と表して、 の真偽 値という。それぞれ、 は の、 は ! の頭文字をとっている。 二つの命題 から、新しい命題を考える 計算する ことができる。 の値が 、かつ の値が のときだけ真偽値が となるような命 題を、 と の論理積といい、 と表す。また、 の値が 、また は の値が のときに真偽値が となるような命題を、 と の論 理和といい、 と表す。 の否定を と表す。 これらは、次のように真偽値の表を書いてみると分かりやすい。 論理式は、集合を用いて考えることもできる。 が真であることを、 集合 で表すと、 と の論理積は共通部分 、論理和は和集合 、否定は補集合 に対応している。 このように真偽値の表を用いて、論理式の計算ができる。たとえば、論 理式では という関係式が成立する。 両辺の真偽値は、次のように計算できる。 と、両辺の真偽値が一致するので、関係式が確かめられた。 この関係式も、集合で考えると となる。 命題 も、二つの命題 から定められる論理式である。そ の真偽値は、次のようになっている。 集合で考えると、真偽値が確かめられる。下の 段を見ると、正しくな い 偽の 仮定からは、正しい結論が得られることも正しくない結論が得 られることもあることが分かる。 命題の真偽値を と に対応させると、論理式に対応する電気回路を 実現できる。これの原理を用いてコンピュータができている。 これ以上、論理式には深入りしないでおこう。 集合演算と論理式 再訪 これまでの話題について、いくつかの話題を付け加える。一度で分か らなくてもよいが、これからの数学の勉強の中で少しずつでも理解する 努力を続けて欲しい。 まず、共通集合や和集合などの集合演算について、補足する。無限個の 集合について共通集合や和集合を考えることがある。 を集合 集合列ともいう とするとき、すべての について に属する 元の集合を と表し、どれかの について 集合を と表す、すなわち すべての について ある となる元の について である。 「ある について 」と書いても同じことであるが、 「全 部の ではなく、一つでもよいから、ある 」というニュアンスで と書いている。 シグマ記号を の意味で使うのと同様に、 という具合に、記号を用いているのである。 例題 を開区間 とする、すなわち とする。これに対して である。 例題 を閉区間 とする、すなわち とする。これに対して である。 例題 を半開区間 " # とする、これに対して # である。 定理 と同様に、次の分配法則が成り立つ。 定理 次の関係式が成立する。 この定理は、数学的帰納法で示すことはできない。 これまで「すべての・ ・ ・に対して」、「ある・ ・ ・に対して」という言葉 遣いが何カ所も出てきた。命題 を日本語で読むと、「すべての に対して、 である」となる。 便宜上、集合のように述べた 「す が、 「条件 をみたす、すべての について」と読みかえてもよい。 べての について」を略して「 に対して」と、書くことが ある。もっと省略して、命題 を と表すこと もできる。 命題 の否定は、集合で考えると でない、すなわち に属さない の元が一つはある、言い換えると、「ある に対して である」と言い表せる。このことを略して 、また は ! と表すことがある 書き方は人によって少しずつ 異なる。! は !$% % の省略形で、 !$% % は、 という 性質を持つ 、という意味である。これらの記号をうまく用いると、複 雑な論理関係が一種の計算のように取り扱うことができ、定理や証明の 記述に便利なことがある。 しかし、いつでも日常の言葉に書き戻せることが前提であり、よく理 解できるまではあまり使いすぎないように注意して欲しい。 無限個の集合の演算について、もう一言補足する。 無限個の集合は、いつでも番号を付けて のように表せるわ に対して、閉区間 けではない。たとえば、開区間 の各点 " # を考えれば、 のようには表せない。一般に 集合 & の元 & ごとに集合 を考えるとき、 & を集合 族、& を添え字集合ということがある。これらについても、演算を ある & に対して すべての & に対して と定める。これらについても、定理 と同じ分配法則が成立する。 & のときが、上で定義した集合列に対する演算であり、& のときが、最初に定義した、二つの集合に対する演算である。 写像 写像とは何か 関数 を思い起こそう。この式の意味は、言うまでもなく、「実 数 を 乗したものを と書く」という意味である。 !'( なら「実 数 に対して、単位円周上の、 軸の正の部分から ラジアンの角度を もつ点 の 座標の値を とする」と説明できる。 要は、関数 とは実数 に対して、どのように を定めるか、 その定め方 規則 を表しているのである。言葉でも説明できるが、記号 と式で書くと簡単で、 数学に慣れた私たちには 便利である。 また、 を行列 とするとき、ベクトル る計算 Ü Ü を掛け も、ベクトル Ý を Ý Ü と書くことにすれば、 Ü に対して Ý を定め る定め方を表している。 これらのように、 「何かあるものに、何かあるものがどのように対応し ているかが表されている」ことを考察の対象にする。具体的な 乗などの 関数や、行列とベクトルの積のような「計算」ではなく、「対応の規則」 という もの を考えるのである。 前置きはこれくらいにして・ ・ ・ 定義 ! を つの集合とする。 の任意の元 に対して、! の 元 が、ただ一つ定まるとき そのような対応の規則が定められている とき、その対応の規則を、 から ! への写像 という。 写像を表す記号は、 " # $ % などが用いられることが多い。もちろん、ほかの記号が用いられること もある。また、写像という代わりに、関数、汎関数、変換などの用語も 用いられる。分野により、あるいは写像の性質によって用語を使い分け ている。人による好みもあるし、歴史的な事情も考えられる。要は、慣 れることである。 が から ! への写像であることを、 写像 ! と表し、 に対して定まる ! を と表す。 を写像の定義 域という。関数のときの記号の使い方と同じである。 は、 による像 と呼ばれる 関数のときは、値と言った。 は を に写す、あるいは には が対応するなどと言い表 す。まだほかのいい表し方をすることがあるが、日本語として 曖昧さが 無く 同じ意味であれば、どのように言い表してもよい。 二つの写像 と " が等しいとは、どちらも集合 ! について、写像 ! " ! となっていて、さらにすべての について " が成り立つときをいう。これは、常識的に当然であろう。 例題 る像が 例題 は を定義域とする写像 で、 に対す である。 ) は、 である。 を定義域とする写像 に対して、その像 ) が対応して いる。 このように、これまで考えてきた関数はすべて「写像」と考えられる。 ただ、写像と言うときは、定義域をはっきりさせなければいけない。写 像 ! 、と言うときには、 のすべてに元 に対してその像 ! が定まると約束しているからである。 写像で定まる部分集合 写像を考えると、それに応じて関連する集合が登場する。 写像 ! に対して で定まる集合を の値域 像、像集合 という。 は ! の部分集合 である。 そのため、値 という言葉がついている。 このように、新し い集合を定義するとき、要素のみたすべき条件を書く方法は便利である。 言葉で言い表すと、 「 は、 によって と表される ! の要 素をすべて集めた集合である」、「 は、! の要素で、ある に ついて と表されるものの全体である」などと述べることがで きる。 写像 ! を図形的にイメージするには、集合 ! を「マル」 で表して、 は の点 を ! の点 に矢印で移す 写す、と想像する とわかりやすい。 このようなイメージで考えると、 は写像であるが は写像ではない。 という図で表されるイメージは の点の像の全体が、陰をつけた ! の 部分集合である。この陰のついた部分集合が の値域 である。 一般の写像 ! を考えているときには、値域 と ! は必 ずしも一致しない。 を定義域と呼ぶのに対し、 ! を終域という。 例題 !'( とすると、 は は " # であり、 とは一致しない。 定義 写像 であるという。 ! から への写像である。値域 ! をみたすとき、 は全射 が もう一度イメージ図を描くと、 となっている。 写像 ! が全射であることを証明するには、任意の ! に 対して関係式 をみたす が存在することを示せばよい。 すなわち、方程式 が「解ける」、「解をもつ」ことを示せばよ い。ここでいう「方程式」とは、 次方程式、 次方程式といった代数方 程式だけでなく、広い意味の方程式である。これからのいろいろな科目 の講義の中で、様々の「方程式」に出会うだろう。 今度は、写像を用いて の部分集合を定めよう。 定義 ! を写像とする。 ! に対し、 の部分集合 を、 の原像 逆像 といい、 と表す。 この定義では、すべての ! に対してその原像を定義している。 の場合もありうる。言い換えると、 ! である。 について がただ 点である時、 は 定義 すべての 単射 対 、 であるという。 写像が単射であることを、別の表し方で述べよう。 定理 次の命題は、いずれも写像 値である。 ! が単射であることと同 ならば である。 ならば 証明 は である。 ならば である。 は定義をそのまま述べたものであり、 の言い換えにすぎない。 はその対偶である。 写像が単射であることを示すには、これらのいずれか一つを示せばよ い。 くれぐれもこの つを暗記しないように。単射の意味を考えれば、 自然に思い浮かぶはずである。 単射であることを方程式の言葉で言う と、方程式 の解が あるとすれば、ただ一つということであ る。これを方程式の解の一意性という。 定義 写像 ! が全射かつ単射であるとき、全単射 であるという。 身近な実数値関数について、これまでに出てきた概念の例を挙げる。 とする。定義域は で、写像 例題 になっ 、また、 ている。値域は " 、 のとき原像は である。この写像は全射でも単射でもない。 原像は定義によれば集合であるから、このように書いたが、分かって いれば、 、 と書いてもよい。 例題 とする。これも写像 域は開区間 、 について ある。 になっている。値 ) であるから、単射で ) とする。これは写像 例題 る。値域は 、 ) であるから、単射である。 になってい と ) には ) という関係がある。これを、 と ) は互いに逆関数であるという。このことを、写像の場合に拡張し て、次のように考える。まず、合成関数の拡張から・ ・ ・ 定義 写像 ! と " ! & があるとき、 に対して " & を定める から & への写像を、これらの合成写像と呼び、 " Æ と表す。 言わずもがなのことだが、 が値をとる集合と " の定義域が同じであ るから、合成写像が考えられるのである。イメージ図でいうと の矢印 の終わりと " の矢印のはじめが、同じ集合なので、対応を表す矢印がつ ながるのである。 定義 全単射 ! を考える。任意の ! に対して となる がただ一つ定まるから、これを ! に対して を 定める写像と考えて、 の逆写像といい、 と表す。 ! で ある。 原像を表す と同じ記号を用いるが、混乱は起きないだろう。 写像の例として、関数を主に扱ってきたが、もっと抽象的な写像も考 えられる。 例題 集合 の任意の元 に対して、 自身を対応させる写像が考 えられる。これを恒等写像 といい、 と表す。 、任意の に対して である。 定理 写像 える。 ! " ! & と、合成写像 " Æ "Æ が単射ならば、 "Æ が全射ならば、 " は全射である。 特に ! ! & を考 と Æ" は単射である。 & であるとき、二つの合成写像 " Æ がともに全単射ならば、 は全単射である。 証明 とする。 " Æ " " であり、" Æ が単射だから、 である。 "Æ & とする。" Æ が全射だから、 " Æ となる が 存在する。 とおくと、" " であるから、" は全射である。 より従う。 定理 二つの写像 "Æ ! 、" ! が Æ " を満足するとき、逆写像 が存在して、" である。 証明 はそれぞれ全単射である。先の定理より、 は全単射と なり、逆写像 が存在する。仮定の関係式より、" である。 関数 !'( は、 から への写像と考えると、全射でも単射でも から " # への写像と考えると、全射にはなるが単射ではな ない。 から いので、逆写像は定義できない。もう一工夫して、 # " への写像と考えると全単射であるから、逆写像が定義できる。これが微 分積分で学んだ、逆三角関数 $!'( である。ここでの記号の使い方に 準じると、!'( と表すのが自然で、そのような記号の使い方もあるが、 微分積分の講義では $!'( と表した。 写像による集合の演算 集合の演算と写像の関係について調べることにする。 写像 ! と、! の部分集合 ! で定まる の部分集合 を、 の原像 逆像 という。 という記号が出てくるのは 回目だが、 その意味を混同しないように注意しよう。 次の定理は、まずイメージ図を描いて、その意味が分かるようになっ てほしい。 「ああ、そういうことか」と納得したら、それをきちんと言葉 で述べるようにすれば、証明が完成する。 定理 ! を写像、 を部分集合とする。 ならば である。 である。 である。 である。 証明 である。 よ とする。ある について り であり、 が従う。 とする。ある について であ とすると であり、 とすると る。 である。すなわち、 であるか ら、 が示された。逆に、 とする。 ならある について が成り立 ならある について である。いず つ。 れにしても の元で となるものが存在するから、 である。 とする。ある について とな る。 であることより 、一方、 である であるから '( である。これで ことより が示された。 とする。 より、ある について である。このとき、もし であるとすると の条件に反するので、 である。従って、 であ り、 であることが示された。 続いては、逆写像について。よく似ているが、少し違う。証明は、ほぼ同 じようにできる。 定理 ! ならば を写像、 ! を部分集合とする。 である。 である。 である。 である。 証明 り とする。ある について である。 だから、 である。仮定よ とする。ある について である。 であるし、 ならば で ならば であるから、 ある。したがって が得られた。逆に とすれ ば であることが導かれるので、 が示される。 とする。 が存在して であるが、 である。これを と表すと であり、 が示された。逆の包含関 係も同様に示される。 同様の議論で証明できるので、省略する。 最後に、部分集合からできる集合を紹介する。以下の話を読んで、頭 がごちゃごちゃになったら、一旦忘れて、ここはスキップしてよい。でき れば、あとでもう一度考えてみて下さい。 定義 集合 のすべての部分集合を要素とする集合を考え、これを のべき集合という。記号では または と表すことが多い。 記号 が 回出てきた。 ! の逆写像 ! は、写 像というからには、 が全単射の場合にのみ定義できた。一つの要素に 対する原像 や 部分集合に対する原像 は、一般の写像に 対して定義できるが、そのままでは写像ではない。しかし、べき集合へ の写像と考えることができる。このように考えると、記号 を つの 場合に使った気持ちが分かるだろう。これが、物事を難しく考えている のではなく、統一的に できるだけ単純に 考えようとした結果だと了解 ・ ・。 できれば、数学は楽しくなる 少なくとも私はそうなのだが・ 同値関係 一つの集合 の要素を、ある規則に従って分類することを考える。 例題 整数の全体は、偶数と奇数に分類される。 集合の要素を「分類する」と、その集合は、いくつかの組に「組み分 け」される。このことをこれまでの集合の言葉を用いて、次のように言 い表せる。 集合 が、互いに素な部分集合の和集合で表せるとき、すなわち、 ' となっているとき、 は分類された、あるいは組み分けされたという。ま た、 が直和分解されたとも言う。 集合 の分類の規則を言い表すには、それぞれの部分集合を表す条件 を述べればよい。 例題 いきなり、集合の条件を書くことにする。 とおく。言葉で述べれば、 はそれぞれ、 で割ったとき 余る整数の集合である。このことから、 と ( は、すぐに分かる。従って、整数の全体 は、 で割ったときの 余りを指標として、分類できる。 この例についてもう少し考える。分類するとは、もとの集合の異なっ た要素のうち、あるものを「同じ」と見なして組み分けすることである ともいえる。どれとどれが「同じ」であるかの規則の述べ方にも、いろ いろな方法があり得る。 二つの整数 が に属しているときには、 が で割り切 れる。 に属しているときも、 に属しているときも、 が で 割り切れる。また、 と が異なった と ( に属していれ ば、 は では割り切れない。 つまり、この例では、分類の部分集合を明示しなくても、もとの集合 の二つの要素についての関係 が で割り切れる を確かめれば、 二つが同じ部分集合に属していることが分かる。 これまでの考察を、一般の集合について述べることにする。 集合 の二つの要素 についての条件を、関係という。関係 を記号 で表し、 と に関係があることを と表す。 は一般の関係を表しているつもりで書いた記号で、具体的な関係では、 これまでの記号を用いる。 例題 において であることは、一つの関係である。しか し、 は と の間に記号があるが 関係ではない。 集合 の部分集合 に対して、 であることは 関係である。しかし、 や は関係ではない。 定義 集合 における関係 が、次の つの条件を満たすとき、 は における同値関係であるという。 すべての に対して、 である 反射律 に対し、 ならば である。 対称律 に対し、 ならば である。 推移律 が における同値関係であるとき、 に関して 同値であるという。 である要素 は 集合 が分類されているとすると、これに付随した同値関係が定義で きる。すなわち、次のようにすればよい。 ' と表されているとする。 に対して、 となる & がただ 一つ定まる。 に対し、 が同じ & に対して に属する とき、 として、 における関係 を定義する。この関係 が、 同値関係であることが確認できる つの条件を確かめよ。従って、集合 の分類から、同値関係が引き起こされる。 大事なことは、この逆が成立することである。すなわち、一つの同値 関係は、集合の分類を引き起こす。これを示そう。 を集合 上の同値関係とする。 に対し、 とおく、すなわち、 と同値な要素の集合を とする。次の性質が成 り立つことを、順に確かめる。 すべての に対し、 である。 に対し、 であることと、 が成り立つこ とは必要十分条件である。 は互いに素である、すなわち、 である。 ならば まず、 は、反射律 より明白である。 を示す。必 要条件であること、十分条件であることの二つを示さねばならない。ま ず、 とする。 とすると である。 であるか ら、 が分かる。すなわち、 である。これで が示された。同様に も分かるから、 である。 逆に、 とする。 であり、 であるから、 である。 を示す。もし ならば が存在す る。 であり、 であることになる。このとき、 より でなければならないが、これは仮定に矛盾している。 関係 により、 から定まる部分集合 を、 の同値類と 呼ぶ。 この考察をまとめると、次の定理が得られる。 定理 集合 に同値関係 があるとする。このとき、 による同値 類の全体は の分類になっている。また、 の分類があれば、ある同値 関係によって、分類の各部分集合は同値類になっている。 同値類 は、それに属する要素を一つ指定すれば定まる その選び方 はいろいろある。この要素を、同値類の代表元という。あるいは同値類 を、 を代表元とする同値類とも言う。 集合 の関係 による分類があるとき、その部分集合を要素と考え た集合を、 の による商集合といい、) で表す。 例題 整数の全体 を、 で割った余りでの分類 を再び考える。このときの同値関係 は、 が で割り切れるとき と表す関係である このことを、ふつうは )* と表 す。 の による商集合は ) であり、 はそれぞれ を代表元とする同値類である。 別の代表元を考えて みよ。 無限集合 可算集合 集合は、有限集合と無限集合に分けられる。有限集合とは、要素の個 数が有限であるような集合であり、無限に多くの要素を含んでいる集合 が、無限集合である。 二つの有限集合は、その要素の個数で大小を比較することができる。二 つの有限集合の個数は、等しいか、または、一方が他方より大きいかの いずれかである。 無限集合について、このような比較は可能だろうか? たとえば、数直線上の点の「個数」より、平面の点の「個数」の方が「大 きい」のだろうか?それとも「同じ」なのだろうか?包含関係が、 であり、真部分集合であるから、平面の方が「個数」が「大きい」、と考 えられそうだけれど、無限集合では、そのように考えると奇妙なことが 起きてしまう。 例題 整数の全体 と、自然数の全体 を考える。 であり、真部分集合であるから、 の方が「個 数」が大きいように思える。しかし、整数を と並べることにすれば、自然数 と一つ一つ対応させることができる。 これは、同じ「個数」であることを表しているように思われる。 このように一見奇妙に思える事態を整理して考えるために、まず、有 限集合の場合に集合を比較するときに、私たちがどのように考えている かを反省しよう。 二つの有限集合の個数を比較するには、ふつうそれぞれの個数を 個、 個というように数えて、 と の大小を比較する。これとは別に、一 方の集合の要素と他方の集合の要素を一つずつ組にしてゆき、余りがで た方の集合の個数の方が大きいと判定する方法もある。もちろん、余り がでなければ両者の個数が等しいと判定するのである。 運動会の玉入れ の判定をするのに、赤白同時に一つずつ玉を投げてゆく方法がこれにあ たる。 有限集合では、どちらの方法も可能で、同じ結果になるが、無限集合 では直接個数を数えることができない。そこで、後者の方法を採用する。 定義 二つの集合 の間に、全単射写像 が存在する とき、 と の濃度は等しいという。特に と自然数の集合 との間 に全単射写像 が存在するとき、 を可算集合という。 例題 を可算集合とするとき、その要素は と一列に並べることができる。全単射 を用いて、 とすればよい。 逆に、集合 のすべての要素を一列に並べることができるなら、 は 可算集合である。 例題 先に述べたように、整数の全体 対応は は可算集合である。 との が考えられる。式で表すと、 が全単射 が偶数のとき が奇数のとき になっている。 次の例は、大変興味深い。 例題 有理数の全体 は、可算集合である。 可算集合の性質を述べる。 定理 可算集合の無限部分集合は、可算集合である。 証明 を可算集合、 をその部分集合とする。 の元を一列に並べて とする。番号の順に見てゆき、最初に の元に出会ったらその番号 を書き留める。次にまた、順に の列を見て行き、 の元に出会ったら その番号 を書き留める。このようにして という一列に並んだ元の列かできる。この列が有限個で途切れることが ない、ということが定理の仮定である。このようにしてできる列は、部 分集合 のすべての元を一列に並べたものである。従って、 は可算集 合である。 定理 可算集合の有限個の和集合は可算集合である。さらに、可算集 合の可算個の和集合も可算集合である。 証明 可算個の可算集合の和集合が可算集合であることを示せば、有 限個の場合は、その部分集合であると考えればよい。 *+,-. は、それぞれが可算集合であるとする。各 を一列に並 べて と表すことができる。 の要素であることを示す番号を肩の で表 し、一列に並んでいることを添え字 ( で表している。これらを並べて、 次のような図を作る。 これが可算個の和集合 の要素のすべ てである。これを一列に並べる方法は、講義で述べる。 定理 すべての無限集合は、可算部分集合をもつ。 証明 を無限集合とする。 から任意に一つの元を選び、 と名 前をつける。 であるから、 から一つの元を選ぶこと ができる。これに と名前をつける。これを繰り返して、 が選ばれたとする。このとき であるから、これ からさらに一つの元を取り出すことができる。これを と名づける。 このようにして、 の元の列 を作ることができる。 このようにしてできる集合 は の部分集合で、 可算集合である。 これら一連の定理により、可算集合が無限集合の中で最も小さい無限 集合であることが分かった。また、無限集合は、その真部分集合との間 に全単射写像が存在することがあることが得られたが、これは有限集合 ではあり得ない現象である。このように無限集合には、有限集合とは異 なった現象が見られ、それらを厳密に取り扱えることが集合の考え方の 最大の利点でもある。 実数の非可算性 可算集合でない無限集合を、非可算集合という。 名前だけは定義したけれど、本当に非可算集合があるのだろうか? 定理 と の間の実数の集合は、非可算集合である。 証明 実数は、数直線で表される。区間 上の点 は、小数で表 示すると と、無限小数で表される。 小数を今、十進法で表しているとすると、各 について である。有限小数のときは、後ろに が並んでいると考える。 さて、区間 上の実数が可算集合であると仮定して、矛盾を導こう。 が可算集合であるとすると、その元を一列に並べて、 とできる。それぞれを小数表示して、 としよう。 このとき、新しい小数 を次のように定義する。すなわち、 のとき とする。 偶数 のとき 、 奇数 つまり、 を並べたときの対角線にあたる に注目して、 を定 義しているのである。 このようにして定義した は、 のどれとも異なってい る。それは、 の 桁目は の 桁目とは一致しないように構成して いるからである。 であることは明らかだから、これは のすべての元が 一列に並べられるという仮定に矛盾している。従って、実数の全体は、非 可算集合である。 ここで用いた証明法を、対角線論法という。対角線論法は、数学のいろ いろな分野で、理論の出発点となるような基本的な場面で、大事な事実 の証明に用いられる。諸君がこれから学ぶ 年間のうちに 回、対角線 論法に遭遇したら そのように勉強したら、「私は、数学を勉強した!」 と大いに自慢してよい。 終わりにあたって これで集合と論理の講義を終わる。試験に合格するかどうか不安だろ うが、講義ノート、演習問題、解答例、質問票の回答書など勉強の材料に は事欠かないだろう。質問も歓迎するので、ますます勉強できるという わけだ。 単位が取れたとしても、の話だが、 「合格したから、この科目はおしま い。」とは決して思わないで欲しい。これからの数学の勉強を旅に譬える なら、ようやく靴のひもを締め終わって、これから歩き始めようとする ところである。靴を脱いでしまったら、歩き続けられないではないか。便 利な交通機関で、楽に運んでもらえる旅ではない。自分の足で歩く 考え る 以外の旅 勉強 はない。プラトンの言葉「幾何学に王道無し」も、胸 に刻んでおこう。 では、+)( ,'')-
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