平成27年8月01日 - So-net

院外茶話
vol.123
平成 27 年 8 月 1 日
色覚異常の人には
わからない色がある
色覚異常の人にだけ
わかる色がある
これは異常というべきものだろうか。私は単な
るマイノリティーだと思うのです。
人間の網膜には赤や緑、青など、それぞれの
色に反応する神経細胞があって、微妙な色を感
じとることができる。しかし、どれかの細胞が
うまく働かないと、その細胞が感じる色が普通
とは変わって見えるので、いろいろなタイプの
色覚異常ができる。実際、間違えやすい色とは。
赤と緑。
オレンジと黄緑。
緑と茶色。
ピンクと白や灰色。
信号機や車のテールランプが見にくくなった
り、芝生の色合いがわかりにくかったりして、
デザインやアパレルなど、色で勝負をする業界
で活躍する人は少し不利とされる。
色盲や色弱は今のところ差別用語ではない。
しかし、あのひまわりを描いたゴッホも、ロ
しかし、世間には色が全くわからない人という
マン主義の代表的なターナーも色覚異常であっ
偏見がはびこって、どうも響きが悪い。言われ
た。ネットの情報だけど。
た本人も、自分だけが色を区別できないという
それでも世界で超一流の画家になるのです。
喪失感に襲われる。
他人と同じ色を感じないということは、他人に
色覚異常は社会的弱者として扱われ、周囲
は見えない色を感じることでもあって、あなが
は過剰な反応を示す割に、何の対策もとられな
ち悪いことばかりでもない。
かった。何より、それを知らされた子供たちの、
独自の色彩の世界で暮すと、その人にしかわ
精神的なダメージが大きい。
からない精神世界ができるのかもしれない。黒
こういう訳で平成 15 年から、学校では色覚
沢監督はカラーの時代にあえて、モノクロの映
検査が行われなくなった。
画を作ったくらいだから。
同じ頃に用語も変更されて、全色盲や赤色
弱という言い方が消えた。かわりに登場したの
もともと色に対する日本人の感覚はとても大
が 1 色覚であったり、2 型であったり。しかし、
らかなもので、古典的な色は四つだけ。明るい
長年使い慣れた赤や緑という文字が、数字に変
色が赤、暗い色が黒で、そのほかには青と白。
わってしまうと、もう私には覚えられない。
この四色だけが、今でも形容詞として使われて
2 型 3 色覚といわれても、その都度教科書を いる。
開けてみないと、何のことだったかわからない
当時の赤や青は守備範囲がとても広くて、茜
のです。
色も茶色もオレンジも赤である。緑も藍も水色
その教科書を見ながら、色覚異常とは何か。
細かいことを言うときりがないけれど、色の感
じ方が大半の人と少し違っていること。ただ、
も全部青で、信号が緑でなく青と言っても、誰
も違和感をもたない。色覚異常など、無縁に暮
らすことのできる大らかな時代だった。
実際、自然の中で暮していれば、たそがれ時
になると木々の緑は、ただ黒く見えるだけ。そ
れでも何の支障もないのです。
しかし、現代は少し様子が違ってきた。無数
の電子機器についた各色のランプ。毎年変わる
流行の色。コンピューターのモニターに写し出
されるカラフルな画面。
色は生活をする上で、重要な情報になった。
学校の色覚検査がなくなって、進学の制限も撤
廃されたのはいい。しかし、その後 10 年あまり
がたって、微妙な色の判断が要求される職場に
も、色覚異常の人がたくさん進出した。
男性は 20 人に 1 人。女性は 500 人に 1 人の
割合です。当然、不都合が生じる。現場にも、
本人にも。
を産むことにためらいをもつ人がいて、差別感
を払拭することは難しい。
それは本来誰の責任でもない。それに今後、
技術が発展すれば、色覚異常そのものは治らな
いにしても、色を正確に見分けることもできる
ようになるだろう。
とはいえ、検査を受けるべきか判断をするた
めにも、色覚異常の遺伝について、知っておい
て損はない。
それは専門用語で X 染色体劣勢遺伝という。
人間の性を決める染色体には X と Y があって、
男性も女性も 2 つの染色体をもつ。女性は XX、
男性は XY である。
色はわからなくても信号機の赤は右と決まって
色はわからなくても信号機の赤は右と 決まって
いる。
色覚検査票を白黒で表してもなんだか。
色覚検査票を白黒で表してもなんだか。
最大の問題は職業の適性で、船舶の操縦士や
警察官にはなれない。それは安全上も仕方がな
いことだけど、長い間目指してきた職業を、直
前の色覚検査で断念するのだとすれば、なんと
も切ないこと。
これほど厳しい規則はないけれど、美容師の
資格をとっても、ヘアカラーがわからない。河
岸に行っても魚の鮮度がわかりにくい。
もし、もっと早くから自分の色覚に気付いて
いたら、別の職業を選んでいた。こんなことが
起きるかもしれないから、少しでもおかしいと
思ったら、進路を決める前に自ら検査を受けて
おきましょう。
実際、高校生の約半数は自分の色覚異常に気
付いていないのだから。
色覚異常にはもう一つ問題があって、それは
遺伝性疾患であるということ。子供の色覚異常
に責任を感じる親も多く、度を越せば親族まで
も責められる。
反対に、自分が色覚異常だとわかると、子供
赤と緑の色覚異常の遺伝子は X 染色体に存
在しているが、正常な染色体が一つでもあれば、
色覚異常にはならない。しかし、男性の場合は
X 染色体を一つなので、これだけで色覚異常が
決まる。
一方、女性は二つの X 染色体のうち、どちら
かでも正常であれば、色覚異常にならないので、
男性に比べると、その数は極端に少なくなる。
ただし、女性には保因者が存在する。
だいたいこんなところだけど、遺伝性の疾患
など山ほどあって、これを気にしていたらきり
がない。
ひと昔前には、3K という言葉が流行ったこ
とがある。これは高身長、高学歴、高収入のこ
と。ここに健康をいれて、4K などと言い始めた
ら色覚異常の遺伝子がなくて、緑内障や網膜色
素変性症の家族歴がなくて。あれもこれもなく
て。目の他にも先天性の病気など山ほどあるか
ら、こんなことを言う人は結婚をあきらめた方
がいい。
「できちゃった結婚」でもしない限り。