第55回- 使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例について 対

CIICメールマガジン-第55回-
公認会計士・税理士 井村
登
使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例について
[制度概要]
社
長
使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例のという制度があるそうですが、どういう制度
ですか。
会計士
普通法人を中心に説明しますが、法人が使途秘匿金を支出した場合には、通常の各事業年
度の法人税に加えて、その「支出額の 40%の法人税」を課するというものです。従って、
赤字法人(課税所得のない法人)でも別途負担が生じます。
[制度趣旨]
社
長
会計士
そもそも、どういう制度趣旨ですか。
この制度は、企業の相手方を秘匿するような支出等を極力抑制する観点から、平成6年度か
ら時限的な措置として使途秘匿金に対して政策的に追加的税負担を求める税制上の措置が
講じられたものです。
なお、平成26年度の税制改正では時限的措置から恒久的措置へ改正されています。
[使途秘匿金とは]
社
長
会計士
では、この追加課税の対象となる使途秘匿金とはどのようなものですか。
はい。概要と注意点は次のとおりです。
金 銭 の 支 出 (仮 払 金 等 支 出 含 む )で す か
No
金銭以外の資産の引渡しですか
Yes
No
Yes
贈与・供与等目的のためですか
Yes
相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていますか(注 1)
No
Yes
No
対
象
記載のないことに相当の理由がありますか(注 2)
Yes
No
資産の譲受け等の取引の対価として支払われたものですか(注 3)
Yes
No
税務署長において、記載がないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認められましたか
No
追 加 課 税 の 対 象 と な る 使 途 秘 匿 金
1
Yes
外
(注 1)記載時期の判定は、事業年度終了日の現況によるが、法定申告期限に記載があれば
上記の日に記載があったものとみなします。
(注 2)相当の理由がある場合とは、例えば次のような場合とされています。
①多数の者へのカレンダー・手帳等の広告、宣伝用物品等の贈与 ②小口謝金等の支出
(注 3)対象外となる金額は取引対価として相当であると認められるものに限ります。
[税負担例]
社
長
赤字法人でも税負担が生ずるとのことですが、黒字法人と赤字法人とで負担例を示して下さ
い。
会計士
次の2ケースで例示します。
(法人税率は25.5%とします。単位:1,000円)
①
②
③(①+②)
④(③×25.5%)
⑤(②×40%)
⑥(④+⑤)
当期利益
使途秘匿金(損金不算入)
課税所得
通常の法人税
追加課税
法人税計
黒字法人
10,000
1,000(加算)
11,000
2,805
400
3,205
赤字法人
△10,000
1,000(加算)
△9,000
―
400
400
(注 1)このように赤字法人でも追加負担が生じます。
(注 2)⑤の影響は法人住民税にも影響します。
(注3)⑤の税金は、留保金課税において留保した金額から控除する法人税に含まれますが、
中小企業者等が機械等を取得した場合(第54回でご紹介した生産性向上設備等の取得の場
合も同様)の法人税額の特別控除等の限度計算の基礎等には、含まれません。
[使途不明の交際費等]
社
長
ところで、法人が「交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその使途が明
らかでないものは経費にならない」という規定がありますが、それとどう違うのですか。
会計士
その規定は、支出の事実・支出先は明らかですが、支出の目的・効用・用途について説明の
つかないものをいい、これら使途が不明なものを損金とすることができないとするもので、
もともと使途を明らかにできない今回の使途秘匿金とは性格を異にします。
[使途秘匿先に代わって税負担]
社
長
会計士
最後に、この40%追加課税は使途秘匿先に代わって支出法人が税負担するものですか。
いいえ、この特例は決して秘匿で相手方に代わって支出法人に税負担させるもの(秘匿によ
る利益享受者に対する代替課税)ではありません。従って、この特例適用があっても相手方
の氏名等についての課税庁による質問・検査がなされます。さらに、この支出金について取
引を仮装して処理した際には、重加算税、青色申告の承認取消しとなることもあり、十分な
注意が必要となります。
(注)この記事は、平成 27 年 1 月 1 日現在の税制に基づいていますが、実際の制度適用等に当たっては
十分な検討をお願いします。
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