米沢工業高等学校継承される人材育成プロジェクト山形県立米沢工業高等学校の創立は 1897（明治 30）年、当時の地場産業であり米沢上杉藩由来の絹織物振興を主なねらいとして全国 6 番目に誕生した。歴史と伝統ある工業高校で、地域産業とのつながりが強く、山形県南部の置賜地区住民から強い期待を受けている。こうした背景から、米沢工業高校を中心として行なわれる研究プロジェクトは、長期間を要する大きなプロジェクトテーマが選択され、そのテーマは何代もの生徒たちに受け継がれるとともに地元企業の援助と県や市の支援を受け、産官学連携で実施されることが多くなっている。近年では、2008（平成 20）年から 3 年かけて実施された「ゼロエミッションプロジェクト」において、小型風力発電装置と太陽光発電装置、電気自動車、充電施設のエコ車庫をつくり、電気自動車は、2011（平成 23）年に東京ビックサイトで開かれた「次世代自動車展」にも出展された。これらは山形県の「地域産業の担い手育成プロジェクト」の一環としても行なわれたもので、他に専攻科の車いす照明も開発され、これは 2015（平成 27）年 3 月に特許取得に成功した（知的財産権利者は卒業生 3 名と NPO 法人夢創工房）。「ゼロエミッションプロジェクト」は 3 年で修了したが、人材育成の流れを終わらせてはならないという声が方々からあがり、米沢市が中心となり支援する形で「米沢市ものづくり地域産業化研究協議会」（米沢工業高校、地元産業界、山形大学、商工会議所、山形県置賜総合支庁）が 2011（平成 23）年 8 月に発足スタートし、「若い人を地元に定着させるための環境づくり」をテーマとして次のものが製作・実施された。 ①米工版スマートグリッドの挑戦（スマートエコハウス・マイクロ水力発電・バイオエタノール） ②電気自動車 2 号の製作 ③有機 EL 植物工場 ④ゼオライト等の活用 ⑤家庭 De 菜園プロジェクト ⑥車いす照明等と自然エネルギーを利用した発電 ⑦自転車通学安全グッズ・点字学習支援装置 ⑧小・中学、などへの出前授業や講習会これらは、全日制の 3 類 9 コース（機械生産類、電気情報類、建設環境類、それぞれに 3 コース）、定時制、専攻科（2003・平成 15 年創設、卒業後に専門的知識・技術・実務能力を養成する 1～2 年の履修コース）の生徒が横断的協力を行なった取り組みである。第 2 次プロジェクトの挑戦 2011（平成 23）年 8 月からのプロジェクトで取り組まれた主なものを紹介する。「米工版スマートグリッドシステム」は、太陽光、風力、水力の再生可能エネルギーを活用した小規模電力網である。そのなかの「スマートエコハウス」は、太陽の動きに合わせて建物自体が回転し、高温時には地下水を散水し屋根の上のソーラーパネルの効率のよい発電を目指す。動作は季節の太陽の位置をもとにコンピューターで制御されている。また、室内にも地下水の流通システムが整い、室温を一定に保つ。建設環境類クラブの生徒が設計し、回転部の製作を機械生産類クラブの生徒が担当した。「マイクロ水力発電装置」は校舎脇の農業用水路に設置され、用水路の流量によるが、一般住宅１軒の１日使用量の半分程度に相当する 500ｗ/h～1kw/h が発電でき、校舎内の側溝内の送電線を経て「エコハウス」と「エコ車庫」に送られる。機械生産類工業クラブの生徒が中心となり、各類クラブの生徒が協力製作した。「電気自動車 2 号機」は 2 人乗り四輪駆動車で、電力は「エコ車庫」から得る。全長 2.5 ｍ、幅 1.2ｍ、車高 1.6ｍ。充電 8 時間で 40 分の走行が可能で最高時速 45km。1 号機は 1 人乗りであったが、2 号機は縦 2 人乗りで、後部座席は車いすで乗り込むこともできる。機械生産類工業クラブの生徒が中心となり、各類クラブの生徒が協力製作した。いずれも日本の将来を形づくるような優れものであるが、今後、保守・点検・改良が加えられ、次代の生徒と教職員へと受け継がれていく。米沢工業高校の 2014（平成 26）年度の卒業生の 230 名（男 199、女 31）のうち 161 名（70％）が就職し、そのうち 108 名（就職者の 67％）が県内に職を求めた。クラブ活動は運動部、文化部ともに盛んで、特にレスリング部は多くの国際選手を輩出している。横戸隆校長初め、石垣太事務部長、斉藤昌広教頭ほか多くの先生方に校内を案内していただき、充実した教育環境に感銘をうけました。山形県立米沢工業高等学校の外観横戸隆校長校長室にて懇談ステップ裏に LED 照明を組込んだ車椅子水車に工夫を重ねるマイクロ水力発電装置エアーステーション電気自動車１号太陽を追尾し回転するスマートエコハウス２人乗り四輪駆動の電気自動車２号