立山室堂平での積雪断面観測 -積雪下層の環境シグナル変化谷口貴章(富山大・理) ,島田亙(富山大・理) ,朴木英治(富山市科学博物館) ,川田邦夫(富山大・理) 1. はじめに 融雪が起きない低温条件下では,積雪に沈着した化学成分は積雪内部に保持されると考えられている(Suzuki et al., 2012) 。この仮定を前提条件として,立山室堂平での積雪断面観測は積雪深が最大になる 3 月下旬から 4 月半ば の間に融雪期が始まる直前に実施されることがほとんどであり,山岳地帯における冬期間の気象特性や大気環境の 理解に役立てられてきた。しかしながら,積雪下層は地表面からの熱的影響を冬期間受け続けるため,上記の前提 が適用されるのかどうか疑問が残る。 そこで本研究では,積雪下層の環境シグナルが地表面からの熱的影響によって変化し得るのかを確かめるために, 11 月積雪と 4 月積雪の断面観測と積雪試料の化学分析を行った。 2. 研究手法 積雪断面観測は,立山室堂平(標高 2450 m,36.58 N,137.60 E)にて 2010 年 11 月 22 日,2011 年 4 月 16 日 18 日,2011 年 11 月 28 日,2012 年 4 月 20 日 22 日におこなった。現場では,まず地表面から雪面まで の鉛直断面を作成し,積雪層構造を観察した。次に雪温を測定し,採取した積雪試料の質量から密度を算出した。 これらの積雪試料は融解させずに持ち帰った。富山市科学博物館にて,イオンクロマトグラフ法によって積雪試料 の主要イオン濃度を測定し,続いて pH,電気伝導度の測定を行った。 3. 結果と考察 図は 2010 2011 年,2011 2012 年の各冬期の 11 650 2010 年 11 月の積雪は 102 cm であり,4 月の積雪は 600 646 cm であった。下層ではこしもざらめ雪が占め,中 550 層ではしまり雪が多い一方で氷板がほとんど無く,上 500 層は氷板が多数形成されていた。これらのことから, 2010 2011 年冬期は積雪層から季節変化が推測され るような典型的な冬期であったことがわかった。 2011 年 11 月の積雪は 62 cm であり,4 月の積雪は 610 cm であった。積雪のほとんどで 0℃近くであった ことから,冬期間で融雪イベントが度々あったことが Height (cm) 月積雪と 4 月積雪の層構造を示す。 450 400 i i i i i i i i 600600 550 i i i i 500500 i 450 i 400400 300 300300 600 500 700 700 650 650 600 600 550 550 500 500 450 450 400 400 350 350 300 300 250 250 200 200 150 150 610 cm i i i i i i i 400 300 250 250 120 i i i i 120 100 120 80 100 120 150 100 40 60 8080 80 60 120 100 120 60 100 80 100 100 40 80 6060 50 150 102 cmi ii i ii あられ 60 20 40 00 0 20 0 20 0 0 0 100100 i 20 60 4020 40 0 20 i i 80 40 20 6040 0 40 20 200 200200 200 100 120 ことから,本格的な融雪が既に始まっていたことが考 雪下層の環境シグナルの冬期間変化を述べる。 i i 350 推測された。また,積雪表面とその付近は 0℃であった 発表では 11 月と 4 月の化学分析結果の比較から,積 646 cm DL SL 650 i i 350 80 120 100 えられた。 700 700700 700 50 0 0 i i i i 100 100 50 0 2010-2011 0 62 cm 100 50 0 2011-2012 図 2010 2011年(左),2011 2012年(右)冬期 における11月と4月の積雪層構造。 引用文献 Suzuki et al. (2012): Chemical survey of the snowpack in central Japan. Bulletin of Glaciological Research, 30, 25-32.
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