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マリーンランチング計画 -昭和54年度事例解析報告書-
誌名
マリーンランチング計画
著者
農林水産技術会議事務局,
掲載ページ
p. 1-138
発行年月
1980年3月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所
Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
一一
A和54年度事例解析報告書一
昭和55年3月
農林水産技術会議事務局
ま え が き
200海里漁業水域時代を迎え、外醐漁業水域における我が国漁獲量は、大幅に減少するものと見
込まれ、今後仮に外国漁業水域での過{去の実績の1/2が確保できたとしても20◎万トン近く、脚
ち現在の総漁獲量の2割近くの減少は必翌と見られている。しかも、その中の70万トン程度は、国
民の需要の大きい中・高級魚介類であり、その減産量は、我が国周辺海域における中・高級魚の漁獲
量にほぼ匹敵すると考えられている。
このことは、動物性蛋白質の半分を水産物に頼っている我が国の食生活に少なからぎる影響を与え
るものと考えられており、将来に向けて水産物を安定的に供給するために、我が国周辺海域における
漁業資源の増大を図ることが強く要請されている。
このような要請に応えるために、農林水産技術会議においては、「近海漁業資源の家魚化システム
の開発に関する総合研究」(マリーンランチング計画)を企画し、53年度より研究計画、研究体制
等について検討を行ってきたところである。
昭和54年度においては、53奪度の事前評価作業により整理された研究構想に基づき、具体的な
研究設計を行うため、水産増養殖における好適事例を摘出し、これを総合的に解析するいわゆる事例解
析を実施した。
本報告書は、この事例解析において硬究対象とした8事例について魚介藻類の作目、海中構築物の種類
ぐとにその解析結果の内容を取りまとめたものである。本書が、今後の「マリーンランチング計画」
の推進に寄与するとともに、広く海洋生物資源の培養聞題に関心を持つ方々の一助となることを期待
するものである。
なお、終りに本事例解析を担当された各位に対し、厚く謝意を表するものである。
昭和55年3月
農林水産技術会議事務局連絡調整課長
五十嵐 邊
目
次
「マリーンランチング計画」(事例解析)テーマー覧
A 澗川産卵型浮魚の資源管理・……………・…………・……・・…………………………・・………・…・ 1
8 沖合回遊型浮魚の資源管理………………・…・・……………・・……………・…・………………・・… 19
C 回遊型底魚の資源管理 ………・……・……………・…・・………・・………・………………・……… 43
D 二枚員類の資源管理 ………………・・…………’……・・………………………………’…●…”… 5g
暴 岩礁生物の資源管理 …………・・………………………・………・…’…….………”………’…… 83
F 海中構築物による環境改変 ……………….”………’………’……………●….’…………’…… 94
G 広域魚病への対策 ………….……曹…………’……’.……’…’……….………’…’…….●………110
H ブイロボットシステムの運用 …・………・…・………・・………・…・・……………’………………126
「マリーンランチング計画」(事例解析)テーマー覧
テ 一 マ 名
A 河川産卵型浮魚の資源
研究対 象
グループリーダー
所 属
サクラマス
待 鳥 精 治
遠洋水産研究所
北洋資源部
ニ シ ン
飯 塚 篤
北海道区水産研究所
管理
8 沖合回遊型浮魚の資源
管理
モ ジ ャ コ
(補佐)
クロマグロ
三谷 文 夫
企画連絡室長
南西海区水産研究所
外海資源部長
C 回遊型底魚の資源管理
マ ダ イ
禽 田 博
内海資源部長
ヒ ラ メ
D :二枚貝類の資源管理
イ タヤガイ
大 内 明
ア ワ ビ
日本海区水産研究所
浅海開発部長
ア カ ガ イ
E 岩礁生物の資源管理
南西海区水産研究所
菅野 尚
コ ンブ科
東北区水産研究所
増 殖 部 長
ホンダワラ科
F 丁丁構築物による環境
改変
人 工 岬
申 村 充
人工海山
水産工学研究所
水産土本工学部長
人工海底改変
G 広域魚病への対策
ブ リ
阪 口 清 次
養 殖 硫 究 所
病 理 部長
サクラマス
二枚丁字
H ブイロボットシステム
の運用
近 藤 正 人
藪海区水産研究所
海 洋 部 長
A 河川産卵型浮魚の資源管理
〔事例解析捻当乙名〕
担 当 者
所 属 及 び 職 名
鳥
精 治
遠洋水産研究所北洋資源部第一研究室主任研究官
旗
総一郎
北海道区水産研究所増殖部長
小
林
哲
夫
北海道きけ・ますふ二三調査課長
石
田
昭
夫
北海道さけ・ますふ化場調査課環境研究室長
加
藤
史
彦
日本海区水産研究所資源部資源第三砺究室
徳
井
利
信
養殖研究所臼光支所長
加
藤
尊
田
中
石
田
加
藤
待
養殖研究所日光支所育種研究室長
実
影
養殖研究所日光支所繁殖研究室長
東海区水産研究所陸水部資源硯究室長
守
遠洋水産研究所北洋資源部第三研究霊
1.解析のねらい
日本に原産するサケ属はシロザケ、
カラフトマス、サクラマス、ビワマスの履種類である。いず
れも酬の上 宸ナ白州生枇繍ま融おて諸元画嚢送り・その全戸あるいは
一部が降海する。海洋で大型に成長し、数ケ月∼数黛後に母川へ帰る。このような生活史のうち、
死亡率の高い時期は親魚の河川遡上から産卵、幼稚魚の河川生活、沿岸滞二期であり、海洋生活期
聞は比較的安定した生残率が保たれると考えられている。
サケ・マスはこのような生活史の特徴のため、死亡率の高い淡水生活期に資源培養の鍵がかかっ
ており、人工管理によって、この時期の生残率を高める事により、大きな収獲が約束される。サケ
・マスの淡水への依存度はまちまちで、産卵床を泳ぎ出た稚魚がすぐ降歯する魚種と、1年あるい
はそれ以上河川に留まり、ある程度成長してから降海する魚種とある。稚魚の淡水域への依存度か
ら、蘭者を海洋型、後者を河川型と称すると、シロザケとカラフトマスは海洋型であり、サクラマ
スとビワマスは河川型である。醜者の稚魚は小型で生活力の弱い段階で降海するので、大型にし、
生活力を強めて降下させる事が資源培養のポイントとなる。後者の稚魚は降海するまでに十分な生
活力を備えるので、知何にして大量の幼魚を降海させうるかが鍵となる。
現在、日本で人工ふ化放流に成功している魚種は海洋型のサケ・マスであり、年間5万トン以上
の資源量を生産しうるようになった。しかし、河川型サケ・マスではまだ適切な資源培養法が確立
されていない。海洋型は淡水生活期が短いため、再生産部分を人為的に代行するにしても、小規模
な設備と少ない生物学的トラブルで済み、負担が増す頃には放流することができる。しかし、河川型
は死亡率の高い部分を人工管理下に置くためには、大規膜な設備と長期聞の管理、飼育が必要であ
一1一
り、諸々の生物学的トラブルも発生する。
しかし、河川型サケ・マスは海洋型サケ・マスより美味であり、河川に遡上しても、長期間海洋
時代と同様な銀白色の体色を保つ。海洋型サケ・マスの人工増殖により、量的水準が確保されつつ
ある現在、質的向上が要求され始めており、サクラマスやビワマスへの注目が高まりつつある。ま
た、これらの魚種は沿岸牲が強く、遡上期聞も長いため、長期間沿岸漁業の対象となり、食性の特
徴から一本釣りゃ曳釣りなどの特異な小資本漁業も可能である。このため、大挙して一時に来遊す
るシロザケと違った貢献を漁村にもたらす。
現在、サクラマスについては北海道を中心に保護水面管理箏業や人工ふ化放流事業が行われ、ビワマ
スについては岐阜県を申心に降海型資源の造成が試みられている。しかし、まだ十分な成果を上げ
うるには至っていない。ここでは、これらの魚種の資源培養に関連しそうな生物学的特姓を洗い鷹
すことにより、資源培養のネックとなりそうな問題点,上詑の諸事業の現状や問題点等の解明を図る。
2.技術の現状
(1)資源の現状
河川型サケ・マスの資源量は近年減少傾向が続いており、特に淘川に遡上する親魚の減少が顕
著である。ビワマスは昭瓢9隼の農林統計によると、淀川水系だけで7Gトンの生産量があった
カll)現在脹艮川水系で鞭数,。の燃甦産があるのみである識の剛iiでは瀬繭海緬
でも、伊勢湾方位でも天然親様の遡上は皆無になった。
サクラマスの遡上量も、北海道におけるサクラマス親魚の捕獲数の推移からみると、1940年
代後半から1950無代前半に比べると数分の1に減少したと見られる(図1)。本州方面につい
6
補
200
5
幾
数
漁
藷
獲
万
鍛
100
7
乙
三940 195G 1960 1970 1980
1960 1970
図A−2
図A−1
本州におけるサクラマスの内水面1鰻
北海道におけるサクラマス親魚の
量
捕獲数
(白丸部分は主要河川のみの漁獲量)
一2一
ては長期間同一基準で比較できる資料がないが、事情は北海道と同様である(図A−2)。
FA.0の統計によると、1973∼76駕の日本のサクラマス漁獲量は年平均3,748トンで、うち、
海藤3,671トン、内水颪77トンである。平均体重を1.6k望と仮定すると、234万尾に櫓当する。
これらのサクラマスは摂本とソ連の河川で再生産きれたもので、どの程度が日本の再生産分かは
8)
明確でない。しかし、玉930年当時の漁獲量が5,2◎0トンと推定されていることに比べて、日本の
再生産が相当後退したであろうことが伺われる。
(2)資源培養に係わる生態的特微
サクラマス及びその淡水型のヤマメは北海道から九州まで分布し、箱根二酉の表鼠本と瀬戸内
9)*)
海地方にはビワマスとその淡水型のアコゴが分布する。
両種の分布域は重ならず、本州を縦断
する分水領が分布環境となっている。
サクラマスの遡上期は搬疇から初飢器麟方で続く・論蔵方で遅くなる・鵯
道の津軽海峡地方の一部や青森県の太平洋岸地方には秋に遡上する特異な系群がいる(表A−1)。
13)
ビワマスの五一ヒ時期も4∼5月である。
14) 15)
産卵期は七種とも秋で、サクラマス9∼10月、ビワマス1◎∼11月である。したがって、春に遡上
したこれらの親魚は、秋の産卵期まで半幅近く河川内で暮すことになる。遡上魚は殆んど餌をとら
16)
ず、海洋期の貯えで生命を維持し、生殖巣を発達きせる。
遡上後のサクラマスは比較的水船の低い上申流の淵に潜み、産卵期の近づく秋に支流の産卵場
茎4)正7) 蓑3)14) ,
ビワマス10∼12℃前後であるが、
へ移動する。 遡上時の河川水濫はサクラマス6∼16℃、
夏には20℃を越える河川も多い。水温25℃以上ではサクラマスの生命は維持されない。
サクラマスの降七時の体重は203前後であるが、遡上時には略2k望程度まで成長する(表A.
13)
一2)。ビワマスは降海面が12月頃であり、海洋生活期聞が4∼5ケ月しかないので、 魚体は
18)総) 隻
やや小さいが、5σ0∼6009に成長する。 ビワマス天然スモルトの降海体重は定かでないが、
遷)19)
断片的な知見によると40∼6◎3程度と推測される。 したがって、短期聞の海洋生活で10倍
程度の増重である。しかし、忘種とも魚体のバラツキが非常に大きいことも特徴であり、生息環境は
かなり複雑であることを示している。
20)21)22)お)
サクラマスの鑑比は北海遵では雌が70%程度であるが、南方域では80%以上となる。
このような性比の偏りは、雄がヤマメのまま成熟し、虚血しない性質が強いからである。伊勢湾
10)12)13)14)
表A一士 サクラマス及びビワマスの遡上期と産卵期
地
方 魚
種
遡 上 期
産 卵 期
石 川 括
サクラマス
2∼6月
9∼10月
帯 森 県
サクラマス
5∼6月及び8∼10月
9∼10月
北 海 道
サクラマス
ビワ マス
5∼9月
4∼5月
8∼10月
下 阜 県
10∼11月
*) ビワマスと降海{生アマゴの分類学的関係について現在論議を呼んでいるが、ここでは便宜上旧分類に従う。
一3一
表A−2 遡上魚の年令、体長、体重
項
サクラマス
罵
年令3)4)5)6)
ビワ マス
3才
3才
遡上、産卵、ふ化、浮上
1年
1年
幼魚の河川生活
1黛
1.5年
生 活
1年
0・5年
平 均
54cm
33cm
範 囲
38∼65c皿
海 巨
体 長
体 重
22∼42cm
平 均
1,8269
5889
範 囲
700∼3,500夢
150∼1,200 『
1)サクラマスの体長、体重は1976年の北海道尻別川遡上魚による。
ビワマスは1978年の破阜梨長艮川天然産遡上魚による。
2)体長はサクラマスは尾叉長、ビワマスは被鱗体長。
18)19)
などで漁獲された天然産ビワマスも雌が80%以上であった。
サクラマス碓魚は3∼5月に産卵床を抜けだし、春の融雪増水蒋に下流方向へ分散し、河川の
上中流域に定着する。稚魚は初め川岸の浅所にいるが、その後、淵の落ち込みや瀬の大きな石の
後など、餌場として条件の艮い所を占め、活溌に餌をとる。魚体が小さいうちはユスリカ幼虫な
どの小型底棲動物を主面とするが、成長に伴いカゲロウ類などの水生昆虫や空申からの落下昆
24)25)
虫を盛んに摂餌し、7月頃までは尾又長7∼8c照に成長する。 水温が低下し始める10∼11月
26)
頃までには8∼11㎝程に成長し、絹岸の画みや倒木の蔭などで越冬するQ翌年の4∼6月には尾
又長12∼13㎝になり降出する。
サクラマスやビワマスの海洋での園遊は、サケ・マスの中で最も小さく、主として日本の20◎
海里内の水域で生活する。特にビワマスの田遊は小さく、殆んど内湾幌の水域のみで生活する
(図A−3)。図は分布域が最も広がる4月について例示した。サクラマスの海洋生活域は日本
10)27』)
海の沖合部まで広がっているが(図A−4)、太平洋の沖合部には圏遊しない。
春に河111カ〉ら
28)29)
降海した幼魚は、水温の上昇とともに沿岸沿いを北上し、オホーツク海などで越回する。 秋の水
温低下とともに、再び北海道沿岸に現われ、1∼2月には揖本海の極前線水域や太平洋側の三陸沿
鋤31)
岸などで越冬する。3∼4月頃から北上を開始し、その後、各地の沿岸に緩岸、遡上する。
サクラマスやビワマスは ョ働)マス卿で1磁土の蜘’グループであり・海洋での
主餌は小魚類やイカ類である。 しかし、日本海の沖合域ではオキアミ類や端脚類などの甲
殼類プランクトンも相当摂餌する。ビワマスも1∼2月頃の冬期にはラスバンマメガニなど遊泳
性の甲殼類を主に食べている。胃内容物は海域や時期によって相当異なり、胃内容物として出現
する種類も多様である(表A−3)。捕食されている魚類は浮魚類の幼稚魚が多い。伊勢湾など
ではアユ稚魚の捕食も考えられるが、1977∼78年の調査結果では985尾中1尾のビワマスで発
一4一
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・(フ
図A−3
遷976,1977年凄2月頃に長良川(+)、智川(○)、矢作川(△)、豊川(○)から放流された
ビワマス幼魚の翌年轟月における海灘での漁獲水域
N
9
o
45
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4◎。
35。
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む り む
13◎ 135 i40 ε
図A一¢ 日本海の沖舎域におけるサクラマスの春(壌976奪4月上旬)の分布域と蓑面水温
斜線は分布密慶の高い水域を示す。
一5一
表A−3 海洋生活期1こおけるサクラマスとビワマスの闘内容物種類とその出現頻度
18)19)
ビ ワ マ ス
32)
サク ラ マス
種
類
標 本 数
出現頻度(%)
493
種
類 出現頻度(%)
標 本 数
985
魚 類
魚 類
12.4
カタクチイワシ
0。3
イワシ類
キュウリエソ
4.0
トウゴロウイワシ
0.5
サンマ
4。0
シラウオ
6.1
ハタハタ
2.1
ボラ
0.2
イカナゴ
2.7
サバ
2。4
ホッケ
5.9
ススキ
1.7
アイナメ属又はクジメ属
◎.2
イカナゴ
3.4
ヨコスジカジカ属
0.3
ハゼ類
◎.6
種名不詳(消化)
8.4
メバル類
1.2
イ カ 類
9.9
アイナメ類
1.2
コチ類
0.1
端 脚 類
ユホンウミノミ
44。6
アユ
0.1
トゲウミノミ
10.1
ナマコ類
0.1
オキアミ類
チサノエッサ・ロンギペス
ツノナシオキアミ
14。7
1。7
甲殻類三脚類
カニ類
10.7
エビ類
6.◎
スナモグり類
0.1
端脚類
0.9
ズワイガニ属ゾェア
1.6
擁脚類
0.2
ズワイガニ属メガロバ
0.3
環形動物
1。9
焼脚 類
ノリ類
0.3
カラヌス・クリスタトウス
L4
水生昆虫
◎.3
ユウケータ・エロンガタ
1.1
ゴミ
1.4
空中昆虫類
1.1
消 化 物
36.0
1)サクラマスの標本は1965∼66無の3∼5月に日本海沖合域で得られた。
2)ビワマスの標本は1976∼78年目12∼5月に弓勢湾、三河湾で採集されたものだが、
若干の下流域採集魚も含むかも知れない。
一6∼
見されたに過ぎなかった。
(3)保護水面管理事業
サクラマスでは淡水生活期の河川環境条件が資源の多寡を左右する重要な要素となるが、同時
に幼魚期のヤマメは暖流釣りの好対象でもある。河川環境は戦後著しく変貌し、特に各種ダムの
建設によって、資源の著しい減少を招いた。北海道では衰退した資源を回復させるため、昭和
38年よりサクラマスの保護水面管理事業がスタートした。この事業は水産資源保護法第15条に基
づくもので、自然産卵の保護、助長に重点が置かれ、現在サクラマスの保護水面は北海道25河
川、本州2河川(青森県)に増えた(表A−4)。北海道では将来45河川まで拡大きせる計画
である。
北海道における保護水颪管理事業は①管理、②
施設、③調査の3項目から成っている。保護水面
管理事業は北海遵庁の直営で始まったが、沿岸漁
島
民の自主的な増殖意欲を向上させるため、昭和42年
より関係町村及び漁業組合への委託管理となった。
遡
20
上
管理は5月∼11月の聞、管理人を雇傭し、親
雪
ノ
汚
ゑ り
望
敷
敷
♀
肇
魚の遡上、産卵、幼稚魚の保護に当たらせる。管理
人は毎臼区域を巡回し、産卵床の確認、産卵条件
千
尾
10
の確保や遡上流路の障讐除虫に従事し、同時に密
三
園
漁防止にっとめる。
㌔
算定柵は遡上親魚の確認と生態幽谷冤を得るた
め下流部に設定されるもので、現在は新規油川あ
ない。算定柵は遡上数を算定する基本的施設であ
るが、保護水面の多くが傾斜の大きい急流河川で
あるため、増水で破損し易く、その保全が困難で
1970
正965
るいは調査のために必要な場合以外設置されてい
1975
図A−5 北海道の保護河鐸1におけるサク
ラマスの遡上数(黒丸)と董河
川当たり遡上数(白丸)
あること、→解川当たりの
予算規模が百万円前後と 表A一4
北海道及び本少lllこおけるサクラマスの保護河川ユ2)13)
指定年洞絹名
1971
少ない事もあり、多くの
指定年
淘川で設定されていない。
1963
幌内川、老部川‡
算定柵未設定洞川では、
1964
千走川、利部川、見直川
1972
下鴨津川、吾妻損*
管理過程の観察により遡
1965
遠音別瓜厚田川
1973
古宇川、頭越
上親魚数が推定され、標
1966
塩幌川、日高幌別川
1974
止別川、小鴨津川
本魚の孕卵数と産卵命数
1967
1975
暑寒貨客、余別川
によって産卵量が推定さ
1968
積丹川
1976
突谷川、汐泊川
れる。
1969
須築川
1977
及部川
保護水面では効率的な
1970
信砂川、太櫓川
1978
姫川、仁雁別川
生産事業にするため、河
河 用 名
*印は本州(青森県)
一7一
下苗太路川
川毎に重点課題を定め、実態調査、生態調査、環境調査が実施されている。全保護水面への毒魚
の遡上数は指定河川の拡大とともに増加したが、1974年を最高に、その後は河川数の拡大にも
かかわらず減少した(図A−5)。一河珊当たりの遡上数は1960年代後半から減少傾向が続い
ている。
保護水面での稚魚の生産量を適確に評価しうる資料は盛んどないが、過去8奪聞の保護水天
10河山での幼魚の分布密度は1m2当たり大体0.1∼0.5毘程度である(表A−5)。
33)
衰A−5 北海道の保護水捌河川におけるサクラマス幼魚の曜組2当たり分布密度
河 ノH 王971
1972 1973 1974
1975 1976
1977 1978
遠音別川
G.9
0.3
0。7
下苗太路li1
0。8∼9.7
0.2∼22.2
0.8∼2.6
O.8∼1.9
0.1∼0.7
0.1∼0.5
0.1∼0.4
1.2
0.1∼0。3
0.1∼三。2
G.1∼0.3
e,4∼1.2
G.2
0.5
6.3−0.4
0.2
0.3∼0.4
積 得 川
o.5∼1.5
古 宇 用
千 走 lll
O.5∼1.Q
0.G∼三.6
利 劉 川
大鴨津川
小鴨津川
0.王∼0.2
増 幌 川
0.2
日高幌別Jli
0,2
ま.e
G.2
O。2∼0.4
G.3∼0.3
0.8
0.3∼6。4
0.1∼0。2
0.0
0.7∼4.5
0.4∼5.0
0.1∼0.2
0.3∼0.6
0。2∼0.9
0.3∼0.8
0.3∼1.2
0.1∼0.4
0.2∼隻.0
0.4∼1、4
圭.0
0.1∼1.2
0.0∼0.2
0。1
0.1∼0.4
1)7∼9月の観測による。
保護水面の効果検討には、降海幼魚数量、漁獲量、遡上量及びそれらに付帯する生物学的情報
が必要であるが、漁獲量は地域沿岸だけでなく沖合や他地域の漁獲統計も検討されなければなら
ない。また、地先沿岸でも他地域産の通過群が含まれるので、評緬のためには系統群の識甥が必
要である。しかし、現在まで系統群識別のための簡単な手段は見つかっておらず、降海幼魚統計
や漁獲嶽i計が整備されていない事とも関連し、適確な保護水面管理事業の評価はできていない。
(4>人工ふ化放流事業
北海道におけるサクラマスの人工ふ化放流事業の歴史はシロザケと同様に凹いが、その手法は
シロザケに準拠して行われており、サクラマス独自の手法は確立されていない。人工ふ化放流に
は、その魚種の生態的特徴に合致した手法の開発が必要だが、これまでシロザケの陰にかくれ、
本格的な開発研究は行われなかった。
サクラマスは雪解け増水期滝後に遡上盛期を迎えるため、捕獲体勢の整備が難かしく、また、
短期聞に集中して遡上するシロザケに比べ、遡上期間が長いため、運営費の面でも割高となる。
現在の捕獲体制をとる限り、遡上量の多い特定河川を重点にした事業運営にならざるを得ないが、
近無の使用親魚数の水準は1万尾前後に低迷しており、終戦繭後に比べると数分の王に低下した
(図A−1)。學急に資源量の拡大を図るためには、親魚の確保がまず問題である。河浦生残率
や海洋生残率は不確実であるが、現在、入工ふ化放流により再生産されているサクラマスの資源
量を暫定的に見積ってみると、(表A−6)のようになり、日本のサクラマス漁獲量に占める人
一8一
エふ化放流魚の割合はあまり大きくないであろうと推定される。
早期に遡上したサクラマスの生殖巣はまだ未発達で、7∼8月頃から急速に発達する。遡上し
たサクラマスは水温が20℃以上になる夏季には水温の比較的低い上流域の深みで越夏する。こ
れに対し、人工ふ化事業では下流域で一括捕獲し、下流域の蓄養池で長期に蓄養する方法をとっ
ている。これは人工ふ化事業のシステムがシロザケを重点に設計されており、戦後、密漁防止と
不要雄魚の有効利用のため、捕獲場が淘口近くに移動した結果である。この事はサクラマスにと
って未三親魚の増大、増水時期の捕獲の困難さ、蓄養の困難さを増した。現在、捕獲から採卵ま
20)
での生残率は80%以上が確保されているが、これは捕獲時期を遅らしたり、蓄養条件の傷い所
が重点的に使用きれたりしているためで、蓄
表A−6 サクラマス幼魚の人工ふ化放流による
養技術の積極的な開発結果ではない。この事
近年の平均的資源培養量の試算
は捕獲数の減少としてはねかえっており、ま
項 目 生残率生残数
た、捕獲の多い時の依然とした高死亡率とし
捕 獲 数
て問題を残している。
サクラマスの遡と魚は雌が多いため、採卵
時に雄の不二が起こる肇があり、採捕数が少な
く、雄が極端に少ない本州地域では人工受精
蓄養生残率
親魚使用数
81%
回 の 割 合
68%
採卵親魚子
平均採卵数
の重大な瞳害となっている。
サクラマスの産卵床は河川水の良く侵透す
10千尾
8.1千昆
5,5千尾
1,900粒
総採 卵 数
14)17)
る砂礫地帯に造られ、
卵の発生や仔魚の発
10,465千粒
go%
ふ 化 率
育は季節変化する水温条件下に置かれる。し
ふ 化 数
かし、ふ化場では水温の一定な湧水を使用し
ており、ふ濡場で生れる稚魚は自然産卵の稚
魚より1∼3ケ月學く摂餌活動に入る(表A
−7)。このような発生の人為的な促進が、
9,419千罵
二心生残率
ふ上稚魚数
go%
放流幼魚生残率
15%*
8,477千尾
幼魚生残率
その後の稚魚に与える生理、生態的影響は不
1,272千昆
75%
降海型出現率
明である。
降海幼魚数
海洋生残率
直魚資源数
ふ工場で生産された稚魚は近年まで、騰の
う吸収時点で河川に放流されていた。1968
二二からは餌付けして放流きれるようになっ
954千昆
15聲
越3千罵
幻放流幼魚の河川内生残率と降海後の海洋盤
たが、放流時期はシロザケやカラフトマスと
降臨については断片的知見から想定したもの
ほぼ同じであり、パーの段階で河川に放流さ
で、実証的知見はまだ得られていない。
れる。サクラマス稚魚は放流後
1年闘河川に留るため、シロザ
表A−7 サクラマスとビワマスの発生積算温度
ケのような一括放流は不:適であ
魚
り、最近では極力二三の上流ま
で運搬し、分散放流をする方向
がとられている。しかし、放流
種 飼育水濃 受精→ふ化 受糖→浮上 備 考
サクラマス 8℃
440℃
88◎℃ 湧 水
ビワマス
450℃
830℃ 瀦川水
一9一
4∼三8℃
された稚魚はほとんど下流方向にしか分散しないため、自動車等による運搬は道路や積雪のため
34)35)36)
上限が鮒限され、それより上流域の生産力は利用しがたい。
また、放流された稚魚の分散範囲
は放流する量が多く、川が大きい場合は10数kmに及ぶが、川が小さく流量がない場合は思わし
37)38)
く分散しない。尻別川での調査によると、放流稚魚の定着密度は放流2ケ月後㎡当たり平均0.57
∼2.6尾であったが、4ケ月後には1/2∼1/3に減少した。その原因は明確でない。
(5) 種苞彗螢中産技術
種苗生産用の親雪として、天然の遡上親魚と地産の人工養成親旧の利用が考えられ、前者につ
いては人工ふ化放流事業のところで述べた。ここでは池中養成親魚による種菌生産について若千
言及する。池申親魚による種苗生産は遡上親魚が不十分な地方で期待されており、ヤマメについ
39)
ては池中養成親魚による種苗生産が多くの県で実施されており、アマゴについては1968年より
13)
岐阜水三等によって行われている。これらの研究によって、種苗生産という点ではニジマスの水
準に達していると雷える。しかしながら、これらの大部分は池申養殖や海川放流を国的とした種
苗生産で、スモルトにして降海後の成長を期待して実施されたものは少ない。岐阜、愛知、三重
18)19)
県水試によるビワマス幼魚の放流は数少ない貴重な事例である。
1976年痩と1977年度に岐黒、愛知、三重の3県で放流された81,343のビワマス幼魚は、放流
醐後から翌年5月頃まで伊勢湾や三河湾の沿岸漁業で2,851尾、長良川、豊川、宮川などの放流
洞川に遡上して7,062尾が漁獲された(表A−8)。放流血忌に対する再捕率は12.2%であった。
放流魚は降海しないうちに河川内で捕獲されたものもあり、それらも含めると蕾捕率は14.5%で
あった。再曲率は放流河川や放流時期によってバラツキが大きいが、鼠捕報告の精度にバラツキ
18)19)
表A−8 伊勢湾、三河湾におけるビワマス幼魚の放流成績
平均体重
捕 獲 毘 数*
(9) 宋降海魚
降海魚遡上魚 放流洞川 放 流 場 所 放流年還 日 放流尾数
計
上流域(破阜漿八幡町)
玉976,12.10
9β10
叡}.5
王G7
66
258
431
〃
下流域( 〃 墨俣際)
1976。12.17
9,848
8窪.3
430
627
感浄域( 〃 海津町)
1976.12.24
9,859
81.2
139
515
654
〃
〃 ( 〃 〃 )
1977.10.28
9,9GO
64.8
326
668
994
〃
〃 ( 〃 〃 )
1977。12.26
7,452
68.4
161
616
777
〃
〃 ( 〃 〃 )
1978, 2.24
5,9G2
78.7
3
6
0
0
0
194
〃
246
736
982
7,5GG
305
452
36
793
82
766
長畏川
豊 川
河口域(豊ll岡日)
1976.12.16∼23
〃
下流域(豊用新幹線下)
1留7。12.13
2,500
83。6
350
334
〃
廿日域(豊用河q域)
1978.2,g
2,500
89.9
483
316
矢作1訓
下流域(碧南市棚尾橋下)
1977.12.6
2,50⑪
83.6
5
144
〃
〃 (河口2㎞止流)
1978。2.3
2,500
89.9
25
118
窟 用
沿岸域(河目溝1合500m)
1976.12.13
4,874
70.1
0
〃
下濾(河口1二流6km)
1977.12.1∼2
6,198
84.8
81,343
959.8
合 計
861
9
4
158
39
1,259
298
610
316
2β87
313
1,888
2,851
7,062
801
*)捕獲魚は標識が係官によって渣接確認されたもののほか、漁協等の報皆や聞き叡り等による推定転層も含む。
一10一
147
があり、細かい詰めば行えない。
ヤマメやアマゴから採卵、育成した池中親心では、成熟年令が天然のサクラマスやビワマスよ
り1隼鞍壷まる傾向があり、採卵主群は生後2年圏のものになる。特に雄では生後1年目に成熟
するものがかなり見られる。両種とも産卵盛期になると雄の死亡が急増し、産卵期の途申で雄が
全滅する事もしばしばある。このような事態を回避するには電照処理によって雄の成熟を産綱す
40)4玉)
る方法が有効である。
遡上したサクラマスから採卵、蕎成した池申親魚は3年目に成熟するが、2編目でも成熟する
42)
個体がある。しかし、それらは体型も小さく卵も小型である。翁忌親魚の場合は、天然親魚に比
べて魚体も小さく、孕卵数も少ないので、大量の種苗生産のためには相当数の飼育が必要であり、
43)岨)
卵のふ化率も60%程度と低く、ふ化した梅畑も餌付完了前に死亡するものが多い。
サクラマスやビワマスの資源培養では降海幼魚を人為的に大量生産する技術の開発が、資源培
養の鍵となる。サクラマスやビワマスの場合、降海型のスモルトになるまでに満1年を要し、こ
れらを池中飼育すると長期間の管理が必要で、成長に従い大規模な施設や水が必要となる。この
事は、これまでこれらの魚種の人工ふ化放流が拡大しない重大な限霧要因となっていた。短期聞
の飼育でスモルト型を生産する技術が熱望される所以である。
アマゴは青色水槽による飼蕎で、約50%の幼魚の体表は銀白化し、スモルトらしい様椙を呈
45)
したが、背鰭や尾鰭先端の黒化は見られず、完全なスモルトにはならなかった。海水飼育による
18)19)
スモルト化の捉進も失敗した。
降海幼魚の生産で、もう1つの障讐要因は飼育魚の一部しか臨海型にならない事である。雄は
パー型のまま成熱する傾向が強いし、雌の一部も成熟し、一生を淡水型で終ってしまう。この傾
13)
向はアマゴで特に強く、通常の飼育では20∼30%程度しかスモルト化しない。このため、飼育
ロスが生じるが、アマゴでは牛の甲状壕粉末を与える事によってスモノレト型の出現を篠0%程度
19)
に引き上げる嚢に成功した。
海水馴致技術は河川内漁業や遊漁による放流幼魚の大きな閻引きを避けるため、河口向合や感
細部に直接放流する際に必要な技術であるが、岡時に生活史の初期段階で強制的に海水に移行さ
せる技術にも通じる。このような技術が開発されれが、スモルト化促進技術も不要であり、大量
の海面放流が可能となる。
アマゴの幼魚は魚体がまだ小さい4月頃は海水抵抗性が弱く、50%海水でも半数近くが1週
18)19)
闘以内に死亡する。成長に伴い海水抵抗力も増し、70∼8◎%の海水では1週間以内の死亡率
が10∼30%に減少するが、100%海水では死亡率が高い。10月になり、成熟の進み始めた雄
は再び海水抵抗力が弱まるが、反薗、雌の抵抗力は更に強まり、特にスモルト型雌では100%海
水でも80%以上の高い生残率を示す。しかし、秋のスモルト期を過ぎて継続飼育した退行型ス
モルトでは幾分抵抗力が弱まる。スモルト型アマゴは直接海水に投入しても80%程度の生残率
を示すが、1日の海水注入量を飼育水の50%以下に揮え、1週間以上かけて馴致すれば、1◎0%
近い生残率が期待できる。また、60%海水に4日間馴致後100%海水に移しても同様な成果が
得られる。しかし、スモルト型以外の幼魚については、まだ、脊弱な海水馴致法は開発きれてい
ない。
一11一
3.今後の進め方
海洋はサクラマスやビワマスの降海幼魚が大きく成長する水域であるが、海洋域では直接的な資
源培養技術は適用しがたい。しかし、培養された資源の:大半の収獲は沿岸域や耳蝉域で行われるの
で、収獲の実態や資源の再生産考を把握しておかねばならない。海算筆業者と河川内漁業潜、ある
いは資源の再生産者は利益を分け合う立場にあり、将来、資源培養が円滑に循環するためには、三
者の納得できる調整が必要である。特に、海面漁業の合理的管理は将来の大きな課題となろう。
漁業管理のための生物学的知見として、最低限、各地域起源群籍の回遊経路や成長についての情
報が必要である。現在までの知見では、各地方起源の魚群が相当入り混じって回遊しているらしいこ
とが標識放流の結果などから知られているが、サクラマスの漁獲統計は十分に活用できるほど整備
されていない。
サクラマスの産卵場は河川の上流域であり、源流近くまで利用する。本来、産卵場として利用さ
れる付近の河川環境は、これまで色々な変化を受けながらも、まだ水も清く、木々も繁っている。
しかし、そこに到る途中1こは都市、工業あるいは田畑があり、各種の堰埋、ダムがある。ダムには
魚道のついているものもあるが、ないものもあり、上流域への遡上は不可能な場合が多い。魚道の
利用実態は詳しい調査もなく、有効に機能している魚道も少ないようである。同じことが幼魚の降海
についても言える。取水口への迷い込みや、落差による傷つき、死亡などが起り、米国やカナダで
も対応策に蕃慮している。このような問題はサクラマスの遡上生態や降海生態が具体的に解明され
ないと、有効な対応策も発展しにくい。
サクラマスは春から夏に遡上するため、秋のシロザケと異なった時期に漁獲対象になりうるが、
産卵期はシロザケと同様に秋である。シロザケはほぼ完熟に近い状態で遡上するが、サクラマスは
産卵までの河川内滞在が長く、河川内で越恥しなければならない このため、遡上から採卵までの
期間を人工管理下で蓄養しようとしても、経費もかさみ、生物学的トラブルも多くなる。そのため、
これまでは秋の産卵期早耳まで自然のまま放置し、成熟する頃捕獲して採卵するなどの消極的対応
で済まされてきた。しかし、河川内での自然死亡や密漁を防止し、出来るだけ多くの親魚を確保す
るためには蓄養技術の開発が必要であり、種苗生産の計顧濫を高めるためにも安定した採卵親魚の
確保が必要である。
サクラマスやビワマスは河川に遡上後ほとんど餌をとらず、海洋豊代に貯えたエネルギーで塵事
月の長い間、生命を維持し、生蟷巣を成熟させる。このような条件の中で無事産卵し終るためには、
生理的にも生態的にも余計な無駄をなくし、最小のエネルギーで生きうるように適応してきたのであ
ろう。人工管理下で蓄養するにしろ、天然産卵のために親殺を海川で越夏させるにしろ、不必要に
エネルギーを浪費させるような測川環境や蓄養方法は好ましくなかろう。しかし、遡上後のサクラ
マス親魚についての従来の知見は、まだ一辺的であり、彼等が洪水や渇水、あるいは水温上昇など
に対応しているであろう具体的な姿は明確にされておらず、盤成熟に伴う益理機構の変化や病理学
的変化も不明である。水の利用が多目的になり、灘川水は減少傾向にあり、夏期の水温は昇りやす
くなった。川岸も開け、遡上魚は人目につきやすい。天然産卵の維持、拡大のためには彼等が潜む
場も必要である。人工あるいは天然の再生産を拡大するためには、遡上親魚の生理、生態について
の具体的把握から再出発しなければならない。
一12一
サクラマスの産卵は、通常遡上した雌と雄が番いになって行われるが、遡上数の少ない川や、性
比が著しく雌に偏っている川では、雄が不足し、淡水型のヤマメの成熱雄が代役をつとめる。遡上
親魚の多い川では淡水型の成熟ヤマメは大型の遡上雄に追い払われてしまうが、それでも産卵の
4の
瞬聞には、かけ込んでr緒に放画する。このようなヤマメ型雄の繁殖に係わる遣欧学的意義はまだ
知られていない。同様な弱毒で、サクラマス遡上魚の地域や虚心による魚体の大きさのバラツキ
(時には10倍も違うものがある)も細密環境の枳違に帰せられているが、大型魚を固定できるも
のかどうか、まだ確かめられていない。
サクラマスの卵は河毒水が艮く漫透する砂礫中に埋没され、澗川水の季簾変化を受けながら発生
が進む。水温が零度近くまで降下する冬期には、発生速度も緩やかになる。卵は渇水による凍死、
洪水による流失、水生蕗による病死等種々の減耗を受けるが、サクラマスについてのこれらの実態
はあまり知られていない。
天然再生産によるサクラマス資源量は降海幼魚の数によって大方が決まり、降海幼魚数は有川の
幼魚収容力に左右されると考えられる。河川の収容力は佃体の大きさと面積当たりの生息数の積で
示されるが、サクラマスの個体群量調節機構は個体数藁薦と生長量調節の2本立となっている。姻体
群盲の少数優位個体が一定の生長を維持するためにナワバリを持つ事で欄体面調郷が行われ、それ
かちはみだした個体は淵尻の流れの緩やかな所や川岸の浅所で殆んど生長しないまま生活する。ナ
ワバ弓が空くと次の優位個体がそこを占める。
サクラマス幼魚のこのような生産機構により、サクラマス資源は親魂量が少し減少したり、ある
範囲内での幼魚への釣りが行われたりしても、それほど資源量は減少しないであろうと考えられる
が、反面、カラフトマスのような爆発的な資源量の増大は起こりえない。このような欄体群調節機構
のため、天然再生再による資源培養では愈々の河月ゆ収容力を増す方法と幼魚の生産水面を増す方
法の2通りが考えられる。
日本の河川はダムによって遮断され、再生産の場として利用されなくなった部分も多いので、こ
の部分を利用可能にすれば生産水面の拡大余地は楓当量に達するであろう。
個々の河川収容力の拡大は、サクラマス幼魚に供給される餌生物の増加によって達成される。そ
のためには、ウグイやイワナなどの競合種の除虫や、減水、渇水等による生産力の低下を防止する
方法などが考えられる。河川収容力の嵩上げには、更に餌生物の生産量自身を高める方法とか、河
川自身を鵬池的立場から見直し、人工餌料を利用する方法など考えられるが、まだ、実現性のあ
る方法論の見遍しは立ち難い。
夏場、幼魚の生息密度の高い水域は適度の流量と、ある程度開けた澗原をもつ部分で見られ、立
木で日光がさえぎられる上流部分ではかえって低い。幼魚の環境評価は生長や季節によって変り、
夏場に生息地として好適な場所も越冬場所としては無価値である。冬場には、むしろ倒れ木とか闘
みとかが必要である。餌料条件は冬場にこそ厳しくなるのであろうレ、適当な条件が確保されなけ
れば、生存さえ危うくなるであろう。降海幼魚の生産に冬場の幼魚の潮影生活がどのような関連を
もっているのか、現在もっとも気に麿る問題であるが、積雪などによる調査の困難性から、冬場の
:幼魚の生活実態はまだ断片的にしか知られていない。幼魚の生活環境や、それに対応している幼魚
の生態は我々が概括的に知りえた以上に複雑、微妙である事は明らかであり、効率的な資源培養法
一13一
の開発には、幼魚の具体的な河川生活の解明の中から、一つ一つヒントを拾い上げて行く必要があ
る。
サクラマスの資源培養は生活史の特性から見ても、淡水生活時代の全てを一挙に人為的に代行す
る事は不可能であり、また好ましくもない。しかし、天然再生産の拡大のみでは、爆発的な資源増
は霊み得ないのも事実である。したがって、飛躍的な資源増大のためには、人為的に大量の降海幼魚を
生産する技術の開発が必要である。現在、採卵してからふ化、浮上まで、あるいは稚魚の飼育まで
の種苗技術は大筋の確立を見たと言えよう。ヤマメやアマゴの池申飼育逸話からも採卵可能になり、
今後も種苗生産技術の臨画に努力されるであろう。
しかし、親魚の遡上から採卵までの期聞及び、幼魚が5∼6c皿に成長してから翌年降海するまでの
期間の問題は依然として未解決であり、この部分が人工的資源培養のネックとなっている。現在の
親魚蓄養法は遡上魚の生理、生態にマッチした方法とは言えず、現状では規模の拡大も不可能であ
る。また、幼魚が5∼6cmに成長するまで飼育しても、そのまま河川に放流したのでは、天然の幼
魚と競合するし、天然幼魚の豊富な河川では所期の効果はあげ難い。翌無の降海期まで飼画する技
術や施設の開発が必要である。
サクラマス幼魚は砂海までに1G∼30ヨに成幽するし、大量の幼魚を長期間飼育するには、特異
な管理技術や大規模な施設が必要となろう。そのためには飼育池だけでなく、湖沼や人造湖などを
飼育水面として利用するための研究も必要であろう。このような方法は大量の投資と強力な管理体
制が必要なため、これまで踏み込まれなかった分野である。
現在、降海幼魚の大量生産技術は上記のような事情を反映して、あまり大きな発達をしていない
が、最近、まだ魚体の小さい生活史の初期段階で、降海魚の性質を帯びるような種苗生産技術が着
目されており、一般にスモルト(直面幼魚)化技術と呼ばれている。そのような技術が開発でき
れば、シロザケと類似した方式でサクラマスの資源培養が可能になり、放流幼魚を飛躍的に増加さ
せる事が可能となる。飼青幼魚中には生れた年の初夏に一部スモルト化するものがあり、その条件
を解明できれば、人為的にスモルト化を促進する事も可能になるはずである。
47)48)49)田)
スモルト化には幼魚の成長や水温、光などが微妙に関連していると考えられており、 現在、飼
育環境の調整によるスモルト化促進技術や薬物投与による促進技術が試みられつつある。この方面
の砺究は、まだ、成果をあげうるに至っていないが、降海幼魚の大量生産技術と直結するだけに、
これからも大いに力を注がれる必要がある。
同じような意味で、幼稚魚の海水馴致技術も、スモルト化した幼魚の海面放流技術に止まらず、
生活史の初期段階で強制的に海洋に放流する技術の開発をめざして展開されるべきである。スモル
ト化技術と海水馴致技術の提携は幼魚の初期数流に貢献しうる日を早めるであろう。
憂.着手すべき研究課題
サクラマスやビワマスの資源培養のネックは淡水生活面にあり、血豆の遡上から幼魚の梅島まで
の減耗にかかわる生理、生態的研究や、それらの減耗を防止、あるいは回避するための技術開発を
中心にして、当面以下のような硯究課題に着手すべきであろう。
一1魂一
(1)遡上魚の生理、生態の解明
① 遡上生態の把握
遡上行動、越夏条件、潜み場条件、遡上阻書要因の実状と対策、遡上時期、遡上量、減耗要
因、生残率
② 性成熟と産卵生態の把握
性成熱機構、産卵生態、番い形成機構、ヤマメ雄の役割、産卵水域の理化学的条件、減耗要
因、生残率
(2)幼稚仔の生理、生態の解明
①卵、稚仔の生理、生態の把握
卵、稚仔の発生、発生環境、減耗要因
②幼魚の生理、生態の把握
食性、成長、分散、定着、越夏、越冬条件、食霧種、競合種、ナワバリ、減耗要因、生残率、
個体群量調節機構
③スモルトの生理、生態の把握
相分化の生理、生態、降海生態、降海陽害要囲と対策、生残率、降海疇期、降海量
(3)採卵用量魚の拡大技術の開発
①遡上親魚の蓄養技術
遡上親魚の生理、病理、蓄養の理化学的条件、蓄養施設
②畑中養成細魚の拡大技術
ヤマメ、アマゴ親魚の有効利用、遡上親魚の池中養成、幾魚の大型化、健苗化、成熟制御、
適正餌料
(4):幼魚飼育技術の開発
大量飼育法、飼育技術、施設、管理法
(5)幼魚の淡水生活短縮化技術の蘭発
スモルト化促進技術(水温、塩分、光、成長)・スモルト化促進融海水馴致技術、人工スモル
トの生理・生態
(6)種苗放流技術の検討
放流適期、放流場所、放流魚の生態、放流効果の評価
(7)海洋生活期の生態と漁業実態の解明
成長、食性、回遊、系統群識劉法、漁業実態、漁獲統計
(8)好適系群の摘出
秋期遡上群の生理・生態、移殖の検討、湖沼型群の利用法、大型成長:群選抜育種、早期スモル
ト化群の固定
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くらます,3.さくらますに関する生物学的知見,北太平洋漁業国際委員会研報16:67−
111
(11)佐野誠三(1969) 北海道河川遡上マス調査記録,北海道さけ・ますふ化場予報23二29−44
(12)青森県水産試験場 さけ・ます保護水面事業に伴なうサクラマス調査報告書 昭和39年度∼
昭和53年度
(13)本荘銑た(1977) アマゴの増養殖に関する基礎的研究,岐水拭研報22:1−103
(14)長内稔・大塚三津男(1967) サクラマスの生態に関する研究,1 遡河サクラマスの形態と
産卵生態について,北海道水産ふ化場研報22:17−32
(15)白石芳一・鈴木喜三郎,玉田五郎(1957) 三重県馬野川のアマゴに関する水産生物学的研究
(第2報)産卵習性に関する研究,淡水研研究資料14:1−17
(16)佐野誠三(1947) 桜鱒絶食期間申における変化,鮭鱒い報44:9−14
(17)佐野誠三(1964) サクラマスの生態と繁殖保護,魚と卵104:1−7
(18)水産庁研究開発部研究課(1977) 回遊性重要資源開発試験事業,昭和51年度,降溶性アマ
ゴの放流技術開発試験報告書:149P
(19)水産庁研究開発部研究課(紛79) 回遊性重要資源開発試験事業,昭和52年度,降海性アマ
ゴの放流肉畜開発試験報告書(2):231P
(20)北海道さけますふ弓場 事業成績書,昭和29年度∼52年度
(21)秋庭鉄之(1976) ふ化事業百年史。さけます友の会
(22)本州鮭鱒増殖振興会 さつ殴込さけ・ますふ化放流事業成績表,昭和37年度∼昭和53年度
(2の加藤守(1971) 海洋生活感におけるサクラマスの性比,抱卵数および成熟,日水硬報告23
:55−67
(24)大野磯吉(1933) 北海遵産サクラマスの生活史,鮭鱒い報5(2):15−26、5(3):13
−25
(25)久保達郎・他(1973) ユーラップ川の生物群集の生産力に関する砺究,JI】3P−PF業績
:315−366
(26)井上聡・石城謙吉(1968) 冬期の洞川におけるヤマベの生態,陸水雑29(2):27−36
一16一
②7)待鳥精治・商品登志夫・留藤外夫・小笠原淳六(1978) 北太平洋の沖合水域で確認されたサ
クラマス(0鬼co娩翅6肋s㎜soμ),遠水硬報告16:1−7
(器)鳥総健二(1975) オホーツク海におけるサクラマスの分布及び生物学的組成,水産海洋研究
会報27:104−110
(29)久保達郎(19ア9) サクラマス幼魚(スモルト)の標識放流試験結果の概要について,さけと
ます20(35):52−54
(30) FUKATAK I,H,Q967)。 Noちe on the H}igrat i on ◎f 施e斑asu sal皿Qn,0観oo z海タηo乃μs
窺ごzsoμ(王∋RE−▽iO OR田) , ili むhe Japan Se匙 as (ieもer mined by taggi漁9・ βμ♂ム
ノの.5801ぞθ9.P酌。 Rθs.肋か,(18):1−11
⑳FUKAτA:KI,H・(1970)・Further n・te・n migraもi・且・f the皿亀su salmon,0駕。一
ん翅。加∫細so%(】3REVOORT),i江1もhe Japan Sea as deもermまned by もaggi捻g.
βZZ。ノβρ。5θβ五∼θ4. Fゴ3ぬ.」他s.、乙。∂ 。, (22) : 1−14
(32)深谷弘G969) 日本海沖合におけるサクラマスの食姓,日水碕報告21:17−34
(33)北海道立水産ふ立場 さけます保護水面蟹理事業調査実績書,昭和40年度∼53年度
(34)田中哲彦・他(1971) 人工ふ化サクラマス稚魚の河月倣流に関する硯究,第1報、目名川とそ
の支流における分散と定着についての観察。北海道さけ・ますふ化場研報25:1−17
(35)松川洋・他(1972) 人工ふ化サクラマス稚魚の河川放流に関する研究,第3報、天塩川支流パ
ンチナィ川における分散と定着についての観察。北海道さけ・ますふ化場面報26:1−9
(36)石田昭夫・他(1973) 人工ふ化サクラマス稚魚の河川放流に関する論究,第4報、目名川とそ
の支流における分散と定着についての観察一1971−1972年の結果,北海道さけ・ますふ化場
研報禦:1−10
(37)石田昭夫(1967) 小川のヤマベ(0ηoo7勿%6勧s灘s磯)の分布移動および生二一について
の観察。北水醗報告33;1−8
㊤8)小坂淳・石田昭夫(1969):小川におけるサクラマス、0駕。擁y解加s㎜s膨幼魚の生態に関
する一知見,北大水産い報20(2):65−74
(39)農林水産技術会議,水産庁農林水産試験研究年報,水産編,昭1和41年度∼53年渡:
(農0)立川互(1973) アマゴの増殖に関する硬究,第17報,電照による藍卵時期の遅延について,
岐南試面骨18:1−6
(41)鈴木栄・大渡斉(1974) 電照によるヤマメ1年魚の産卵遅延について,埼玉水試概報34:
25−36
(42)撰藤靖志。中江三郎,相原光雄(1977) サクラマスの池中養成試験,48、49無度,山形淡
水魚指事報:13−17
(43)申野文雄・相原光雄(1977) サクラマスの量産化試験(50年度),昭和50年度山形淡水
魚揚画報:62−68
(44)阿刀田光紹(1974) 池中養殖サクラマスの生態に関する知見,北海道立水産ふ化場砺報29
二97−113
(45)森茂寿・村瀬携男(1979) 在来マス類の放流に関する回忌一14,青色水槽によるアマゴのス
一17一
モルト化試験,岐水試研報24=1−8
(46)宇藤均(1併8) サクラマスの産卵とヤマメの役割,淡水魚4;136一一139
(47)久保達郎(1956) サクラマス幼魚の変態に及ぼす光の影響,ふ化場試報11:19−23
(48)久保達郎(1965) サクラマス幼魚の変態に及ぼす高水温の影響,北海道さけ・ますふ化場研報
19 : 25−32
磁9)久保達郎(1gr 4) サクラマス幼魚の相分化と変態の様相,北海道さけ・ますふ化場磯報(28)
:9−26
(50)久保達郎(1976) サクラマス幼魚の洞川生活期における移動習性,生理生態17:411−417
一18一
:B 沖合回遊型浮魚の資源管理
⑨地域性ニシン
〔事例解析担当者名〕
損
当
者
飯 小門
学林 時
篤正彦
] 隆
所 属 及 び
職 名
北海道区水産硯究所
企爾連絡室長
k海道区水産硯究所
糟ケ部研究員
k海道区水産研究所
糟ケ理研究員
1。解析のねらい
1955年頃まで北海道の大きな漁業資源であった北海道樺太系ニシンーそれは大圏遊し、3
∼4無で成熟すると沿岸に接岸し藻場に産卵する一は、その後も衰退をつづけ、今日において
は北海道周辺水域でこの産卵ニシンをみることは幽来ない。しかし、ニシン特にその卵巣カズノ
コに対する国民の疇好は依然として根づよく、このため漁業者は北洋水域に資源をもとめては諸
外蜀との闘に紛争をひき起こしてきた。またカズノコの緬格は無々上昇を続けてやまず、黄色い
ダイヤとまで言われてもなお、需要は根づよいものがあり、カナダ等から輸入されている実情に
ある。大回三型ニシンは消滅したが一方これとは別に、きわめて生活領域の小さい地域姓ニシン
といわれる地方群が、小さな資源として北海道の各水域に葎在している。その申の一つの摩岸ニ
シンは、かつて2万トン近い産卵魚群が漁獲されたという事例がある。本事例解析においてはこ
の地域性ニシンの資源を入為釣に増大させる可能性はないだろうか? あるとすればどこが闘題
なのか等について検討を行ったものである。
2.技術の現状
(1)ニシンの人工ふ化放流の歴史
ニシンをより積燧的に増殖することが可能かどうかという試みは、すでに大正宋期に考えら
れ、北海道水産試験場において1924年から1928年に人工ふ化の基礎実験が行われた。ここ
ではニシンの入工ふ化そのものは極めて簡単に、しかも高いふ化率(平均90%以上)で可能
なことが確められた。これに基づいて、厚岸齪に生活の場をもつ沼ニシンを対象に1934年
と1935籏の2ケ年閻、厚岸漁業協岡組合が主となり、駕問2,000∼6,000万粒の卵が人工ふ
化され放流された。この対象となったニシンは、後に大発生をみた厚岸ニシンと異なり、より
根付き型の沼ニシンで、当蒔の漁獲高はせいぜい70トン位であったから、人工ふ化放流の効
果判定には好都合な材料であった。しかし園憎相当年の1937駕以後は逆に当時としては著し
い不漁に終っている。
その後、対象魚を回遊盤の大きい、再猛産力もはるかに大きい北海道・樺太系ニシンにきり
かえ、北海道水試とふ化場が協同して扇本海側水域できわめて大規模な人工ふ化放流が計爾さ
れ、次第に衰退状態にあった北海道・樺太系ニシンの画復を図ることが試みられた。1939
黛と1940駕には予備的に、そして1941年からは年間200億粒∼400億粒の莫大な人工ふ化
一19一
と放流が11ケ年にわたって続けられた。この聞に費された労力と費用は極めて大きいもの
であったことが推選されるが、結果的には全く効果をみることができず、資源は衰退の一途を
たどった。このため人工ふ化を中止し、費用がかからぬ方法として自然に産卵され受精した卵
が荒天のため岸辺に打上げられた大量の卵一寄子(よりこ)を海中にもどして自然のふ化を助
1)∼7)
ける業務にきりかえられた。これよりふ化した稚仔は7,000億尾位と推定されている。 一連
のこれらの努力にかかわらず1955無頃より資源は絶望的な状態となって今鼠に至っている。
(2)ニシンの再生産の特性
前述の人工ふ化放流が何らの効果を上げなかった原因を考察すると、人工ふ化直後の稚仔を
そのまま海中に放流したものであって、卵自体の受精率、ふ化率は自然の状態でも高いもので
あるから、これでは自然ふ化の場合と変わらないと考えて艮いわけである。ニシンの大発生活
が現われるのは、ふ化以前の問題ではなくて、ふ化した稚仔が卵黄を吸収し自ら餌をもとめる
ようになった発育段階の生残率にかかっておh、生残率の高低を決定するのは、その時の餌料
8)9>
生物の有無であるとする有名なH:joパの砺究がある。このことは上面の量一即ち卵の量と子
孫の量が無関係であることを年令解析法から見出したことによるものであり、このニシンの特
性を全く無視して行われた結果という外はない。
10)
倉田はニシン稚仔魚の生き残りに関する要因を追求する一部として、稚仔魚の窒内飼育実験
を行い、特に餌料の種類(エビ、カニ切片、鶏卵黄、硅藻の1種スケレトネマ及びアルテミャ
幼生)と死亡との関係を調べたが、この際、アルテミや幼生を餌とした場合後期稚魚まで飼育
が出来たが、卵黄吸奴後1週闘から1◎日の間に常に大量箆死が起こり、ふ化後7週闘までの生残
りは10∼20%以上は期待できないと報告している(図8−1)。即ちもっとも成績の艮かっ
たアルテミヤでこの状態であったことから、生き残りをより高めることができる餌料生物を見
出すことが是非とも必要であることが分かった。
u)
厚岸湾及び湖で初めてニシン稚仔の生態研究を行った飯塚の結果では、函B−2にしめすよ
うに1曳綱当たりの採集歯数の時間的変化において、16mmで一つの変曲点がみられるが、こ
れは全長と肛門長との相対成長の変温点に合致し、浮遊生活からやや底騒への移行という生態
変化とも含致する。また19mm全長での変曲点は冒の分化がみられ始める時に相当し、より
積極的に餌を求めて沿岸回遊に移行する時に椙晒している。
ニシン稚仔を種苗として放流するためには少なくともこの体長範囲ないしはそれ以上(胃の分
化が完全になる30m血位)まで、大量に飼目する必要があろうと思われる。
(3> f曽養殖圭支術開発試験
1970年から始められたニシン増養殖技術開発試験は、近年発達してきた飼育技術を用い
て稚仔の:大量品川を克服し、放流種苗をつくりだそうとするものであり、北水硬増殖部や道内
12)
各水素、道栽培漁業総合センター、小樽水族館等の協力のもとに1972年までつづけられた。
これら諸研究の中で、卵発生と稚魚の飼育に関する研究ではまず水濫では卵発生の最適温度計
囲は3.5℃から10℃の間と推定されたこと、塩分との関係では正常ふ出率の最も高いものは
60%及び80%海水(18.28、24.37%S)であったこと、pHとの関係ではpH6.85∼
8.49の聞では総:ふ出率92.5∼1GO%、正常ふ化率85∼95%でその範囲ではpHが高いほど
一20一
,。\誰・,
華GO
qρ∫
9{》
Aエ
A2
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死 70
全 長 (闘)
60
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50
率 40
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(多)
当
30
翁
20
警
尾
数
監O
。。 5 匪。 15 2。 25 3。 35 ・0
睾◎ 20 30 40 50 ふ出後経過弱数
ふ出経過日数
60
S狙:エビ・カニ切片
Sc :SんεZθ≠伽8解。 ooos如伽吻
Cア:鶏卵黄
A1,A2;アルテミや幼生
Co:対照
図B 蓄 各種餌料を与えた場合のニシン
仔魚の死亡曲線(倉田 1959)
図B−2 摩岸湾における篇シン稚仔の一曳網
当たり採集尾数(対数)と全長・ふ
出後霞数の関係(飯塚1966)
両方の率が高くなっている。一方、pH塩53の生残卵は1日後に15%、盆日後に0となった。覇
酸ナトリウム添加による培養水のpHの上昇は卵発生にとって有効であることなどが判閥した。
また仔魚の生残に及ぼす餌料種類の影響では、ニシン仔魚に対してアルテミや幼生の外、はじ
めて鐙een w蕊er、シオミズッボワムシ、イガイ幼生等を単独あるいは混含投与し、仔魚の
生残率からそれぞれの解料効果を推定したが(図8−3)、その結果は次の獅く要約されてい
る。(1)gree識w就efはニシン仔魚の盤き残りに効果のあることが明らかになったが、それ自
体が餌料となるのではなくて、飼育水の水質を調整するためと推定された。(2)ふ謁後22、23
驕まではワムシのみの投与で良い。ワムシとアルテミや幼生を混合設与した場合、アルテミや
幼生は負の効果をもたらす。(3)ふ出後22、23闘以後はワムシ、アルテミや幼生のいつれかの
雛独投与よりも混合投与が艮い。ただし両論のうちアルテミや幼生がより効果的である。(4)イ
ガイ幼生の投与についてその効果は明らかでない。(5)使用した餌料生物の大きさからみてワム
シより小形のもの及びワムシとアルテミや幼生との申凹形のものの選定と供試の必要晶晶
に配合餌料の必要盤についても論議されている。このように、この段階では生残に関しての餌
料の問題はなおも未解決である。
一方、北方系魚介類の適正餌料生物の探索を鼠的として、道栽培漁業総合センターでは、1974隼
より、3ケ奪にわたって、厚岸湖で三二する汽水性擁脚類アカルチア(その幼生はニシン稚仔の天然
i1) 13)
餌料として確認されている。)等の生態観察と大量培養の研究を行った。この種は、卵を底
一21一
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G :グリ・一ン・ウォーター、 G十M:グリーンウォーター十イガイ幼生
G 十M十A:グリーンウォーター十イガイ幼生十アルテミや幼生
G十A:グリーンウォーター十アルテミア幼生
G十R:グリーンウォーター十ワムシ
G十R十M:グリーンウォーター十ワムシ十イガイ幼生
G÷R÷M十A:グリーンウォーター十ワムシ十イガイ幼生÷アルテミア幼生
G十R十A.:グリーンウォーター十アルテミア幼生÷ワムシ
M十Aニイガイ幼生十アルテミア幼生
A :アルテミア幼生
図B−3 餌料種類によるニシン仔魚の生残率の推移
(桑.谷,他1978より)
泥申に産出するという特性があり、冬の厚岸入内底泥申に卵の密度が4×104∼13×104/冠
と多量に存在し、これをうまく処理すれば適当な大きさの餌料が得られ、しかも低温性である
からニシン稚仔の飼育等には艮いのではないかと注鼠されている。しかし、アカルチアの培養
では成功したが大量培養まではゆかず、またアカルチァそれ自体の餌料としての価値を証明す
ることが残されている。もちろんニシン稚仔の飼育実験に供試されてはいない。今後の問題であ
る。
3.各地域性ニシンの現状
厚岸湾と厚岸湖には二つの型の産卵ニシンが古くから存在していた。一つは沼ニシンと呼ばれ、
12月上旬から5月上旬位まで主として湖に産卵するもので、今一つは桜ニシンー若しくは根室
落ニシンと呼ばれ、5月中に主として湾内で産卵する群である。これらは何れも極めて小さな資
一22一
源であった。しかるに1953年頃より厚
岸湾及び湖を産卵場とするニシン群が急
}
20◎OO
増し始め、1958年には約14,◎00トン、
】5000
また1967年には約20,000トン1こ達し
1969年位まで多獲がっついた。この産
卵ニシンが前述のどの群と関連するのか
10GOO
5000
は不明であるが、明らかに乱獲が原因と
なって、1971無以降完全に消滅してし
195◎
1960
1970
まった(図B−4)。現在、厚岸湾には
図B一曝 厚岸ニシンの漁獲量の年変化
小型のニシンがかなり来遊しているが、
(飯塚,中山 1971 より )
この群がかつて増大した群の系統なのか、
14)
或いは根付の他のニシンなのかは不尽である。また能取湖に存:在するニシンについても二つの型
の群の存在がつきとめられている。一つは、能取湖のみに生活域をもつ群と、今一つは能取湖に
産卵し外海に翻遊する群である。後者については、1974年に能取湖に永久“が開劇されて以来
外海釣性状が入りこみ(塩分の上昇)、今まで沿岸で産卵していた群が、湖内にまで産卵場を拡
:大してきたとも考えられる。これら二字の差については、酵素の再縁的変異においても贋らかに
区別された(小林、未発表)。
16)
一一方日本海側でも地域姓ニシンが存在する。厚田、浜益を中心とする石狩ニシンである。これ
らの水域では、厚田ではここ数ケ年6.5トン∼60トン、浜益で2∼35トン位漁獲されている。
また北部の稚内、留萌近海でも若千漁獲されている。
これらは厚岸や能取のニシンよりは海洋型の地域姓ニシンである。この他にサロマ湖、或いは風
連溺に生活域をもつ地域性ニシンが存在している。今までの調査では、これら地域姓ニシンは湖沼
型と海洋型とに区分されるが、資源増大の可能性を考える場合、どちらの型が良いのかは、更に
禰者の間の再生産に関する生物学的、環境学的特牲の差異をつめる必要がある。
母.今後の進め方
複雑な系統関係にある地域{控ニシンについては従来、脊椎骨数や成長度、相対成長等の比較で、
系統群の分離の試みがなされてきたが、仲々その実体は明らかにされなかった。しかし酵素の遺
儀的変異を調べることにより、海洋型と湖沼型の分離がより可能な段階になりっっある。したがって、
まず、こ.れらの研究をすすめ、夫々の系群の再生産に関与する種々の生物学的属性の差を比較検
討する方向をめざす必要がある。また、稚仔発青函としての藻場の生態的位置づけを再検討する
必要がある。一方、飼育実験による稚仔期の大量麗死をくいとめる技術の開発を進める必要があ
る。そして、その実験対象とするニシンは、系統を異にする夫々のニシンについてなされなけれ
ばならない。
これら地域性ニシンの特性値を十分みきわめた上で、資源を積極的に増養殖することの可能性
を追求することが今後の巨霊となろう。
5.着手すべき研究課題
(1)北方系魚種の餌料生物の探索とその大量培養。
一盆3一
特に北方汽水性冷水擁脚類アカルチアについて行う必要がある。この外に、底泥上に棲息す
るプランクトン等も対象にしたい。
(2)各地.域性ニシン産卵場の藻場の特性研究。
産卵場は発生直後の細魚の生活の場でもあり、独特の餌生物に対応している筈である。この
特控を把握する。
(3)北海道周辺に出現する小ニシンと地域姓ニシンとの関連。
(4)各地域性ニシンの卵質、卵数、成熟年令、成長等の詳細な比較生態学概究。
(5)酵素の遺伝的変異追求による各地域性ニシンの系統群の吟味。
引 用 文 献
(1)北海道水産試験場(1930)北水試旬報、103,106,108
(2) (1931) 同上128
(3)梶田与之亮(1932)同上190
(4)諌早隆夫・高橋武司、川合豊太郎(1932)同上173
(5)川合豊太郎(1934)同上246
(6)高橋武司(1936)同上315
(7)北海道水産辮化場(1942−1953)昭和16年度一昭和27年度事業報告書
(8) Hjort.」,(1914)Rapp. Proe一「▽brb.,20
(9) Hjorも.」. (1926) Jour・ du Cons・, 1 (1)
(qo)倉田博(1959)北水研研究報告20
(11) 飯塚篤(1966) 罷工31
(12)桑谷幸生・渋谷三五郎,和久井卓哉,中西孝(1978)にしん増養殖技術開発企業化試験報告
(昭和47∼49年度)
(13)北海道立栽培漁業総合センター一(1977)昭i和51年度指定調査研究総合助成事業報告書
(14)飯塚篤・中山裸蛇(1971)北西太平洋のにしん資源状態に関する資料(1970年)
(15)北海道立網走水産試験場(1978)昭和50∼52年度指定調査研究総合助成事業総括報告書
(地域性ニシンの生態調査)
(16)三上正一・田村真樹・高昭宏(1968) 北水試月報25(7)
(B) モジヤコ
〔事例解析担当者名〕
担 当 者
所 属 及 び 職 名
三谷文夫
南西海区水産研究所外海資源部長
E藤 力
@ ” 外海資源部第1研究室長
ヤ岡藤雄
ャ西芳僑
@ 〃 〃 主任研究官
@ 〃 〃 研究員
一24一
1。解析のねらい
近年、はまち養殖用の種苗となるモジャコが不漁であるうえ、その対象も次第に小型のもの
(15∼20恥狙)へと移ってきている。また、親ブリ(3才魚以上)を対象とする沿岸定置網への
入網乱数も極度に低減している。モジャコや親ブllの不漁の原困についてはいろいろのことが考
えられるが、①モジャコの発生量そのものが相当に減ってきていること、②天然の流れ藻の量が
照和30隼代に比べて激減していること(特に、太平洋南西海域において)、という事実は否定
できない。
ブリは生育の初期(2−3ヵ月間。その聞のブリの稚魚をモジャコと呼んでいる)を流れ藻
とともに過ごすから、流れ藻の減少はモジャコの生活基盤を相当大きくおびやかしているに違い
ない。
そこで、モジャコをふやすためには、ブリの産卵親魚をふやす必要があるが、それにはまず、
海齎に流れ藻または適当な漂流物をふやしてやることによって、モジャコの減耗をある程度やわ
らげることができるものと期待される。そのため、次のことを確かめるための解析作業を行っ
た。
(1)流れ藻分布量の経年推移
(2)モジャコ来遊量の経年推移
(3)ブリの卵・稚気の減耗実態
(4)モジャコの減粍と流れ藻との関係
2.技術の現状
σ)流れ藻分;布量の経年推移
南西海区水産研究所において昭和471年以降54年の各4月に関係県水試と共岡で実施した
モジャコ調査の時の流れ藻の分布状況を図8−5に示す。この8力年についてみると、年によ
り多少の相違はあるが、流れ藻の比較的多い水域は、鹿児島近海域と紀夢水道入口であるが、
豊後水遵や熊野灘でも多い年がある。これらに反し、日向灘や土佐湾で少ない。流れ藻の分布
量の年変化の大きい水域は鹿児島南方海域で、昭和48年には少なかったが、49、50年目は
著しく多く、51、52犀には少なく、53、54年には再び増加するといった2奪毎の増減面向が
みられる。紀国水道入口や熊野灘では黒潮の接岸時に多く、離岸蒋には少ない傾向がみられる。
次に、流れ藻の種類は全海域については未確認であるが、大野(高知大)によると昭和54
年5∼6月の土佐湾及び紀鶴水道南部のものは、アカモク,ヤッマタモク,ヨレモクなどが
:大部分で、いずれも瀬舞内海に自生している代蓑種であるといった特徴がみられる。
(2)モジ》コ来遊量の経無推移
モジャコの信頼し得る採捕毘数を知ることは非常に困難なことである。したがって、採捕尾
数をもとにしてモジャコの正確な来遊量や発生量を求めることはいつそう困難で、現状ではむ
しろ不可能に近い。
また、毎年、モジャコ漁期1ζは関係各県水鳥を中心にいろいろな漁況調登が行われているけ
れども、その定量化についてはまだ手がつけられていない。
その申で、大分水試が永奪にわたって標本船によるアンケート調査を実施しているが、これ
一25一
屡977
げ
ρ
o
鐙露
卿
1975
図B−5 轟月における流れ藻の分布状況
(図中の黒塗り部分は流れ藻が多く、斜線部分はやや多いことを示す。
矢印は黒潮二軸、破線内が調査した海域部分を示す。)
一26一
は太平洋帆西海域におけるモジャコ来
4
遊量の傾向を示す貴重な資料である。
来
3
はまちの養殖指数は昭和30帳代繭
遊
半まではせいぜい数100万罵であった
量
指
2
から、モジャコ採捕についてそう問題
数
1’
は起こらなかった。しかし、30年代
/
0
40
後半から、はまち養殖業が急速に発展
45
5G
し、モジャコの需要が増大したため、
図B−6 モジャコ採捕船凄日壌隻幾たりの
モジャコの採捕尾数もまた急速に増:心
モジャコ採捕尾数の経年推移
し、明らかに過度の採捕が行われるよ
うになった。そして、それにつれてモ
55年
(30∼40隻の標本船調査iによる)
(大分水試資料)
ジャコの来遊量は急速に減ってゆき、毎年、不漁に悩まされることになった。図B−6はその
経過を鮮明に物語っている。
(2)ブリの卵・稚仔魚の減耗状態
①卵期の減耗
高知察水産試験場が昭和45年5月にブり親密から採卵・採精して人工受精を試みている。
図B−7はその人工受精卵の生残率の疇聞的変化を実験的にみたものである。これによると、
卵は受精後次第に減耗しているが、受精後24時聞目までは実験区1の生残率は実験区2の
それよりやや高い。一方、受精後28時問以降では実験区2の生残率は実験区1のそれより
やや高くなっており、特にふ化時の両者の生残率にやや大きな差がみられる。しかし、その
生残率の時間的変化は実験区1・2ともよく似た様相を示している。すなわち、卵が比較
的多量に減耗する時期は、受精後16∼24時閥(のう胚期)と受精後磁∼56時間(ふ心血
前の時期)にみられる。そして、前者の滅耗の程度は後者のそれより島い。
このように、卵期の減耗は段階的に生じているが、それがいかなる理由によるのか、また
それは飼膏環境下だけのことで天然ではそうでないのかどうか、などについては不明である。
②稚仔魚期の減耗
この時期の減耗状態を飼育実験と薩南海域における稚仔魚の採集状況から述べる。前考は、
高知県水油試験場が1968,1969,隼ともに5月にブリの人工受精をし、そのふ化仔魚を
飼幸してその滅耗状況を調べたものである(図8−8)。後者は、鹿児島漿水産試験場が特
雛ネット(口径2×1。5m、側長8猟のネットを船速約4。5ノットで2時間曳縄)を憂いて
薩南海域で採集したブリ稚仔魚のデータから作成したものである(図8−9)
図13−8の実験区Aによると、ふ化後4∼明日(全長:4∼5mm)の仔魚の生残率は0.66
を示し、この値は飼育期閥を通じて最も低いものとなっている。ふ化後12田目以降ではそ
の減耗は段階的にみられるが、各発育毅階毎の生残率は比較的近似している。すなわち、ふ
化後12∼20日(全長6∼1◎職)の生残率は0.92を示し(ふ化後12∼30日一全長6∼
15mrの生残率は0.96)、ふ化後36∼45鷺(全長20∼30 m鶏)のそれは0.88、また、ふ
化後36∼60臼(全長20∼60臨)のそれは⑪.96である。
一27一
No
1。。。よ\。
、
◎噂一一・...….一 実験区一A
500
∼
受
糖
仔
稚
亀
成長のよいもの
堵1
\
魚
100
○一〇
、\∴一,
100
100
実験区一B
の
50
50 全
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5G
玉0
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5
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噤D『FT…『 嚶增D….r 「「…『丁一γ[ .一一.T 一「鞘.一τ
准2 24 36 48
受精後経過時駕
峯一一 嚠黶D『.『
60
80ur∼
mm
@
『一丁一}つ…一.一一竃一.ア「 一「一
10 20 30 40 50 60
DGγ∼
ふ化後経過日数
図B−8 人エ受精卵から脳ヒしたヅリ稚仔魚の生き残り
図B−7 プジ人工受精卵の生残率の時間的変化
と成長の臼変化
(高知水試1970を一部改変)
(高知水試1970を一部改変)
尾 又 長
一方、図B−9
罠 勘合罠 建ミ匪
によると、ふ化後
バ れ くつ や り
一⊥⊥丁⊥「}
25∼32黛(昆又
長12.5∼17。5搬醗)
飛 喩 絶
の生残率は0.61
幽
\
舞 腎鍔
を示し、 さらにふ
イヒ1後32∼56日
沁00
(罵又長17.5∼
57.5m狙)のそれ
は◎。83である。
稚
仔
これら2つの値は、
魚
図8−6の飼膏実
験から示される値
( ふイヒ後20∼35
の
数
壌oo
黛の生残率0。91一
実験区8、ふ化後
36∼60日の生残
率0.96一 実験区
麟鯵
A)よりいずれも
\論
低いものである。
これは、実験的手
10
法では減耗要素に
\
逸散が入らないの
に対して天然海域
ではこれが働くた
めと思われる。
そこで、卵期か
…r「…T「 r’一「一㎜コ
ら稚魚期までの減
1◎ 20 30 40 5◎ 6◎
Doア5
粍について、高知
ふ化後経過猿数
県水産試験場の実
図B−9 薩南海域におけるブジ稚仔魚の見掛けの生残率
験結果から求める
(鹿児島水試1979より作成)
と、卵の数を1と
すると1.5c盤の仔魚の数は卵のそれの1/50∼1/250を示し、さらに6c膿のそれは1/125
∼1/2,50◎となる。
③ 漁獲による減耗
モジャコの漁獲率は、標識流れ藻の再捕率とほぼ岡程度とみなして、0,1∼◎.5程度とさ
れている。そこで、録向灘で操業している宮崎県籍のモジャコまき綱船の日別統計を使って、
一29一
モジャコの漁獲率の目安を求めた。
図B−10に昭和47年5月5日∼
505 Y=一一7皇6118X÷214,.2277
10日における努力量とCPU皿との関
係を示す。図によると両者の関係は負
2000
の1次回帰式で示される。1次式のy
;
ぎ
切片は努力量が0の時のCPUE、つま
り、漁獲腿始薩前の来遊量を示し、1
岩
次式の勾配は単位努力当たりの間引き
に
\_
508
507
589
り1000
幅・・
量を示している。したがって勾配/シ切片
は、単位努力当たりの漁獲率を示すこ
とになる。日々の漁獲率は、単位努力
当たり漁獲率と日々の努力量との積と
0
して示される。つまり努力量とCPUEと
ては、漁獲率の目安を得ることができ
10 20
漁獲努力歪劉匙(隻 )
の聞に負の相関がみられる期間につい
図B−10 モジャコまき綱船の漁獲i努力量
そうである。図B−10の例での漁獲
率は0.e3∼0.50となる。昭和47年
とCPUEとの関係
日向灘(昭和47年5月5β∼5月10日)
漁期の図以外の期聞について漁獲率を
求めると、0.1∼0.7の範囲にあり、
その平均値でみると0.3∼0.4となる。昭和44∼46
年漁期の漁獲率もこれとよく似た値を示す。
これら漁獲率の値0.1∼0.7は、標識流れ藻の再捕状況から推定されたモジャコの漁獲率
0.1∼0.5と極めてよく似た値を示している。
(4)モジャコの減耗と流れ藻との関係 .
モジャコ期の自然減耗、とくに共食いを含む食害による減耗が大きいことが知られている。
三重県浜島水試が昭稲42鐸に行った減耗対策試験のなかで、流れ藻による効果について次の
ように報告している(萩野1969)。流れ藻の有無など条件を異にした2m立方の小割網3
個(A、B、 C)のなかに、それぞれモジャコを放養して19日聞における減耗状態を実験し
ている。その結果を表B−1に示す。
この実験は昭和42年5月13∼19日の前半と、5月20∼30日の後半の2回に分けて行い、
この間給餌は1日2回飽食するまで行った。この実験の結果、前半の7日間ではCの歩留りが
73%に対し、集魚灯区(勾が87%、流れ藻区(鋤が89%と、A、 Bに効果がみられている。
後半の11日聞ではAから集魚幻を撤去したのでCと同条件になったため、Aの歩留りが63
%、Cが61%とその差は少なくなったが、 Bでは幼%となり、流れ藻を入れた効果がよく分
かる。また実験全期間について8、Cを比較してみると、 Bの歩留りが71%であるのに対し、
Cが44%と約27%の差があって、流れ藻の著しい効果がみられた。
このような実験結果からみて、天然状態のなかにおいても、共食いや他の捕食:種による食:害
によるモジャコの減耗を軽減するために、流れ藻の効果は大きいと考えられ、流れ藻が著しく
一30一
衰B心嚢 モジャ認の滅耗と流れ藻との関係
実験期三等
放 養 尾 数
(5月13日)
(萩野 1969 )
A
8
C
大型群(平均体重9・19)
233
235
234
小型群( 〃 342)
520
520
520
753
755
754
658
671
551
項目 小割別
計
前 半 実 験
経過後の回数
(5月13∼19日)
歩留 り(%)
87.4
後 半 実 験
男呼尾数
658
(5月2G∼30日)
経過後の尾数
412
歩留 り(%)
経過後の平均体重(g)
88.9
73.1
671
551
538
334
62.6
8◎.2
60.6
7.4
7.3
8.4
全 期 間
放養回数
753
755
754
(5月13∼3◎鎖)
経過後尾数
412
538
334
歩留 り(%)
54.7
7L3
44.3
小割Aは、前半のみ集魚灯使周、Bは小割申2/3位に流れ藻を投入、 Cは集魚灯も流れ
藻もないもの。
減少しているといわれる現在、流れ藻の造成、放流の必要性が認められる。
3.今後の進め:方
(1)事例解析の結果から得られた問題点
①モジャコの正確な採捕量・来遊量・発生量を知ること。
モジャコの採捕は各県とも許可漁業であるから、厳重な監視のもとに行われているはずで
あるが、採捕尾数についての公式報告はそのままではほとんど科学的使用には耐え得ないの
が現状である。しかし、この現状を學急に改善することは、現実には、非常に困難である。
したがって、この現状のもとでいかにして真実の数字を得ればよいか、という対応を鳶えた
方が現実である。例えば、標本船を選んで海上での採捕からはまち養殖業者の手にわたるま
での流通過程を克開に追跡調査してみると、その間における実際の採捕尾数と減耗状況が判
明するであろう。もし、正確な採捕尾数が得られれば、それから来遊量や発生量を知ること
は、そう難しい問題ではない。これらの量は、将来、ブリの資源の総合的管理を行うに当た
って、不可欠の要素である。
②流れ藻の分布量を知ること
広大な海面に浮漂する流れ藻の分布量を知るには、航空機を用いることが最も手取り軍く、
また事実、現在でも盛んに用いられている。しかし、その回数が不十分で、ある時にこれだ
け篠在していた、という断片的な情報しか得られない。したがって、観測回数をもっとふや
すとともに、観測記録の数量化が必要である。
③流れ藻へのモジャコの蠕集機構の解明
モジャコがなぜ流れ藻に集まるのか、という聞題は、古くから多くの研究者の興味をそそ
一31一
り、いろいろの説が出されているが、必ずしも定説があるわけではない。現実に、藻の種類
や大きさや沈み方や新旧などによって、モジャコの集まりぐあいが異なる以上、モジャコに
とって付きやすい藻と付きにくい藻とがあるはずである。この閥題の解明はブリの家魚化シ
ステムにおける最も基本的な部分である。この解明によって、有効な人工流れ藻の開発が可
能になるであろう。
④璽くはぐれ”モジャコの存在量の推定
流れ藻以外のところにもモジャコはある程度分布しているらしいことは、これまでの調査
からほぼ見当がついてきた。しかし、その量的関係については全く見当がつかない。このこ
とも、ブリの海洋牧場を推進するに当って、明らかにしなければならない基本的知見の1つ
である。
⑤モジャコ・ブリをめぐる異種漁業種類間の利害の調整
ブリは、その発青・成長の各段階によって、それを利用する漁具・漁法がかなりはっきり
区分けされており、漁業者間の対立は深刻である。ことに、モジャコ採捕業者、沿岸定置網
業者、まき網業者、一本釣り業者の聞においてそうである。ブリの家魚化システムを実施す
るに当っては、事前にこれら関係漁業者間で十分な合意が必要である。
⑥人工流れ藻を大量に投入した場合の、海洋汚染の予防と船舶の航行安全への配慮
これは海上保安庁からの要望であるが、当然、十分に配慮すべきことで、やはり、事前に
関係省庁問の合意が必要である。
(2)研究開発の:方向
①初期生態と流れ藻への蝟集機構の解明
a.、実験飼蕎による初期生態の解明
人工受精によって得られたブリの稚仔魚を水槽で飼育して、ブリの初期生活史を明らか
にしていく。特に、運動器官の発達と遊泳との関係、消化器官系の発達に伴う食性の変仏
味覚・視覚器宮の発達、及び呼吸生理など、生理生態に関する基礎的資料を得ることに努
める。
b.産卵生態と流れ藻への蠣集機構の解明
モジャコの分布の実態把握、流れ藻に集まる魚類の実態の把握、モジャコの食性、流れ
藻の有無によるモジャコ塊死率の比較実験、黒潮内側域の微細海洋構造などを中心に、沖
合の産卵海域から沿岸水域へ入ってきて流れ藻に付くまでの過程を明らかにする。
②中、後期生態の解明
a.流れ藻からのモジャコの離脱機構
流れ藻を離脱してゆく前後のモジャコの生理・生態・形態を比較することによって、そ
の機構を解明する。
b.流れ藻離脱後のブリ幼魚の回遊と分布
離醗直前のモジャコに標識放流を実施し、その後の経過を追う。また、天然に分布して
いるブリ幼魚の採捕に努め、分布の実態を明らかにする。
一32一
③流れ藻の形成機構の解明
流れ藻の起源を明らかにするために、その種組成を調べるとともに、沿岸域における主な
海藻群落の種組成とその生育量を調査する。
また、流れ藻の集積機構を明らかにするために、黒潮内側域の表層の流況を開らかにする
とともに、天然の海藻群落から生薄中の海藻を切りとって、その標識放流実験を行い、漂流
経路を推定する。
④人工流れ藻の大量投入によるブリ稚魚の生残率の向上に関する実験
天然海藻群落の造成実験、人工流れ藻の開発、及びそれの大量投入によって、ブリ稚魚
の生残率の向上を選る。
⑤人工種苗の大量放流によるブリ資源の水準の向上技術の開発
人工流れ藻の有効性が確認されれば、次に、ブリの人工種苗を人工流れ藻とともに大量に
放流して、ブリの資源水準のカサ上げを行う。
⑥ブリ資源の総合的管理技術の開発
ブ11は黒潮の内側域をかなり広範囲にわたって回遊するから、添加された資源を局地的に
管理することは不合理である。そのため、全繭的な規模でブリ資源の最も合理的な利用方法
を考えねばならない。それに基づいて、ブIl資源の総合的な管理技術の開発を図る。
尋.着手すべき研究課題
(1)モジャコ採捕量の実態調査
これにはかなり難しい画題であるが、いっかは必ず手をつけなければならない課題である。
何人かの良心的なモジャコ採捕業者の協力を得て、採補から販売にいたるまでの各段階におけ
る実際の採捕並数と滅耗状況を調査する。
(2>髄空観察による流れ藻記録の数量化
水産航空株式会社によって、照和30年代から今日にいたるまでの流れ藻の観察記録が保存
されている。これの客観的な数量化を図ることができれば、モジャコと流れ藻との関係や、
流れ藻とブリ資源との関係などを解明するうえで、貴重な手がかりとなる。
(3)ブリ漁業の現状の詳細な把握
資源添加の効果を判定するためには、添加が行われる以蘭の実態を詳細に把握しておかねば
ならない。そのため、効果の予想される金沿岸域について、かなりきめの細かい漁業実態調査
を行っておく。
(4)実験論による初期生活史の解明
人工受精によって得られたブリの稚隠魚を利用して、ブリの生活初期における各種の生理
及び生態に古する実験を行う。
(5)流れ藻に蠣集しているモジャコ及びその他の魚類の実態調査
モジャコの流れ藻への歯面機構を解明するために、どのような流れ藻にモジャコやその他面
くの魚類の稚魚が付きやすいかを、海域別及び月別に調査する。
(6)流れ藻以外のところに分布・生患しているモジャコの実態調査
特別に試作されたモジャコ採捕用のパッチ網型稚魚採集綱を用いて表層曳き及び50m深
一33一
までの申層曳き調査を行い、その分布量を推定する。
(7)流れ藻の種類と分布調査
流れ藻の起源を知り、その形成機構やモジャコの付きやすい流れ藻の種類・構造などを解明
するために、流れ藻の種類と分布量を調査する。
(8)モジャコへの標識技術の開発
体長7、8cmのモジャコへの標識は現状では非常に困難である。しかし、この技術が開発さ
れれば、モジャコの回遊・分布に関する知見は飛躍的に増大するであろう。そのための標識放
流の技術開発を行う。
(9)人工流れ藻の開発試験
どのような人工流れ藻にモジャコが付きやすいか、また、海洋汚染の原因とならないよう、
適当な期間で分解し、かつ、無害であるようなものは何か、などの条件を満たす人工流れ藻の
材質・構造・色彩・大きさなどについて開発試験を行う。
(10)天然海藻群落の造成実験
ホンダワラ類の中でもヤツマタモクやヨレモクは割合い人工的に乗場を造りやすいといわれ
ている。天然の流れ藻をふやすために、このような海藻を使って藻場の造成実験を行う。
(11)黒潮内側域の微細海洋構造の解明
ブリの人工種苗を放流し、天然の生産力を利用して成長を図りつつ、目的の水域に到達せ
しめるためには、両水域聞の詳細な海洋条件を知っておく必要がある。そのため、黒潮北縁部
から沿岸域へかけての50m以浅の表層について、海水の輸送、水温、塩分及び酸素量など
の蒔空間的微細海洋構造を明らかにする。
引用文献
(1)萩野卓次(1969) ハマチ稚魚の減粍対策試験,三重浜島水試昭和42年度事業報告,404
−410
(2)花岡藤雄(1979) 南山海域におけるモジャコの来遊状況,日本水産学会富国支部例会発表
要旨
(3)鹿児島県水産試験場(1978) 天然ぶり仔資源保護培養試験昭和53年度申聞報告会資料,
49PP(プリント)
(4)高知県水産試験場(1970) ブリの採卵・ふ化ならびにふ化塩魚の飼育に関する虚弱,高知
水試調査研究報告 で(1) 28−114
(5)古藤 力(1977) モジャコの漁獲率,南酋海区ブロック会議外海漁業研究会発表要旨(プ
リント)
(6)大分県水産試験場(1979) 天然ぶり仔資源保護培養試験昭和54年度中間報告会資料,
11pp (プリント)
一34一
(C)ク日マグq
〔事例解析鐙当者名)
所属及び職名
担 当 者
上 御 照 治
遠洋水産砺究所 浮魚資源部長
V 富千 臣
@ 〃 浮魚資源部左任概究宮
凄.解析のねらい
クロマグロは日本近海に来遊、分布するマグロ類のうち最も沿岸瞥のもので、古くから鎖本各
地の沿岸定置、ひき縄、まき網、はえなわ等の漁獲対象となっている。本種はマグロ類の中で最
も大型になり、寿命が長く、また上級変動が大きいことが特徴で、これが漁獲量の大幅な年変動
の原因となっている。一度大きな年女群の加入があると、これが長期にわたって漁獲の対象とな
る。本種に若年魚の一時期に北米沿岸に渡洋圃毒するが、生涯の大部分の期間、臼本周辺海域に
分布する。マグロ類の申で本種は最も商品価値が高い魚種で需要が大きいにもかかわらず、漁獲
変動が大きいために漁業として安定{生に欠けるところがある。
マグロ類のように、多産姓の浮魚でしかも高度回遊控の魚類に、人為的な資源管理が可能かど
うかは、なお論議の余地がある。しかし、マグロ類のうちでは、クロマグロが最もその可能姓を
持っており、以上のような資源の性格からみて、日本周辺海域へ相当量の人工種苗を放流するこ
とによって、入為的に卓越加入群を形成し、自然の資源レベルの低下期にも安定した漁獲を得る
ことが期待され、資源管理が可能となると考えられる。本種の資源量から推して、100万毘程度
の放流でも資源増大に寄与し得ると思われる。
クロマグロの潜在的な生産力は甚だ大きい(1尾の産卵数は約1,00◎万に達する)が、大量の
人工種菌生産ができるかどうかは、親魚養成が可能か否かにかかっていると判断される。
マグロ類の飼育は従来囲難なものとされていたが、近奪クロマグロの養殖試験が諸所で活発化
し、技術的進歩が顕著になったので、以下に、これらの事倒を解析し、島隠養成の可能性と種苗
育成の見通し等について述べる。
2。対象資源の性格と技術の現状
(1)クロマグロ資源の特徴
技術開発のために、対象資源の性格についての正確な把握が要請されるが、既往の研究結果
から、クロマグロ資源の特徴は以下のように要約される。 (末尾の引用文献は1部のみ示し
た)。
クロマグロの主産卵場は、台湾、沖縄近海の黒潮源流、反流域にあり、産卵期は5∼6月と
D
推定されている。産卵場及び産卵期が始較的狭い範囲、短い二二に限られているのが他のマ
グロ類とは異なる。産まれてから1∼2ケ月、体長10センチメートル程度に成長するまでは
産卵場の近くで過ごし、その後は黒潮に乗って北.ヒし、8∼9月には体長2◎∼30センチメー
トル(体重200∼500グラム)の若魚一体側に横縞模様が現れるのでヨコワと呼ばれる一
一35一
に成長して南西日本の沿岸域に来遊する。これら当才群は夏季に太平洋側、日本海側を北上し
て三陸沖や北海道西岸に達するが、秋になると南下してくる。北上群、南下群とも沿岸の定置
網やひきなわ漁の対象となる。冬季は九州南方海域で越冬する。この時期の魚体は体重3キロ
グラム程度にな・ているが・冬季はあまり蒔しない・
産卵場または越冬場から、夏季に臼本近海を北上する当才及び1才群のかなりの部分は、太
平洋を横断してカリフヤルニや水域へ回遊する。カリフォルニや水域へ渡った魚群は、沿岸域
で季節的な南北移動を行いながら、2∼3隼滞留した後沖合に出て、再び日本近海へ戻って来
る。標識放流調査の結果、日本近海で放流された当二身が約1年後にカリフォルニや近海で2
尾再捕され、またカリフォルニヤで放流された2∼3才魚が放流2∼5年後に日本近海で9尾
再捕されており、魚群の東西圓遊は立証されているが、こうした渡洋回遊の詳細については、
まだ不明の部分も多い。日本周辺の魚群は沿岸から沖合に分布し、季節的な南北回遊を行い、
6∼7才になって成熟すると南の産卵場へ回帰する。なお、最近、日本近海でも本種の産卵が
みられるようであるが、その規模や南の主産卵場との関係などについては明らかでない。
以上がクロマグロの生活史の概要であり、これを模式的に示すと図8−11のようになる。
本種はマグロ類の中で最も寿命が長く、16才’、300キログラムに達することが知られている。
2)
年令と成長の関係は図8−12に示した通りである。抱卵数について厳密に調べられた報告は
ないが、魚体の大きなものでは1,000万粒以上に達するようである。
日本近海で漁獲されるクロマグロの漁獲量(図B−13)と魚体組成の年変化からみて、漁
獲の豊凶は加入量の大小に左右きれていることが考えられる。1950年代から1960年代の中頃
にかけては、卓越した年下群が2∼3奪継続して現われ、それらが7∼8年間にわたって漁獲
マ
。
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諺伊
・グ・
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、
で議
鍮
まきあみ漁嶋
。。
@ 慶卵暢 。・
●.・・ 稚 漁 ・.の
=、・ 6才以上 。●
●’o 怐@ o■
曾 ヨコワの主要水揚げ地
図B−1霊 北太平洋におけるクロマグ自の回遊想定図
一36一
k9
C覇鳶
80
28◎
4
ρ
♂
240
24◎
4
200
20◎
4
4
’
’
♂
i60
}60
〃
》
’
壷
婁
♂
V
動、”
120
12◎
♂
4
’
80
8◎
ダ
ダ
♂
θ
’
〃ρ
40
40
つ
ρ
@ 〃
も
@ 4♂
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年 令
図B一遷2 ク鑓マグ購の年令と体長・体重との関係2)
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年
図B一凄3
貨本の漁業別ク獄マグ鳳漁獲i量の年変化(ヨコワを除く)
一37一
り凄
76
対象となり好漁をもたらした。ところが、1970年代の前半は、こうした卓越年々の加入がな
く、漁獲量の少ない年が続いた。しかし、1973∼1974年には卓越年級群の串現が認められ、
1977無以降の漁獲増大に貢献するものと期待されている。また、何卑先か正確な予測が難し
いが、資源レベルの低下期がおとずれると思われる。
以上のようなクロマグロ資源の性格から、前述のように、資源培養の意義と可能{生が考えら
れるわけであるが、クロマグロの生態として、幼魚期に、モジャコ(ブリの稚魚)とは違って、
流れ藻などに付く習性を持たないため、天然から集約的に大量の種苗を得ることは不可能であ
る。したがって、種苗の生産は養成した親魚からの採卵、ふ三智魚の人工育成に依らざるを得
ない。
(3)技術の現状
水産庁による「資源培養型漁業開発のための研究」の一環として、1970駕から3ケ年実施
された「マグロ類養殖技徳開発試験」は、マグロ類の人工採卵、幼魚飼育に対する初めての試
みであり、遠洋水産研究所及び関係大学、県水産試験場の協力により多くの成果があげられ
た。この3力年計画の試験終了後も、2、3の研究機関は、関連研究を続けており、これらの
3)∼13)
砺究によってクロマグロ養成の技術開発が進められている。
①クロマグロ幼魚の育成
5∼6月に台湾・沖縄近海で産まれ、8∼9月に体長20∼30センチメートルに成長して
日本近海に来遊し、定置網または曳縄によって採捕された幼魚を海悔いけす網に収容して、
短期養成が試みられた。
クロマグロは非常に敏感な魚で、手でふれると死に易く、蓄養初期の死亡率は非常に高か
つた。その後採捕方法や採捕地から蓄養地までの幼魚輸送方法等に改良・工夫が重ねられた
結果、歩留りがよくなり、越冬飼育することも技術的に可能となった。幼魚の採捕方法とし
て、ひきなわの鉤にr振り出し(テンビン釣り)」を用い、かつ、3∼4ノットの低速で曳
く方法、また、幼魚の輸送方法として曳航網を用いる方法が、最もよい結果が得られた。3
年間の試験は、沼津、尾鷲、串本、対馬、高知県の古満目等で実施されたが、いずれも毎年
の蓄仁尾数は数十尾、多くても200∼300尾の規模であった。しかし、その後の試験研究の
進展により、最近では麦,000罵の規模での幼魚の育成が行われるようになった。
クロマグロ幼魚育成の環境条件としては、冬季でも水温が14。∼15℃以下にならない場所
が適していると判断された。本州中部以南の太平洋岸から九州西岸にかけての海域はこの条
件を満たしている。また、外洋水の影響の強いところがクロマグロ幼魚の育成に好適であるが、
実験の結果、幼魚は短期間の塩分低下は大きな障害にならないこと、しかし溶血酸素の欠乏
に対する抵抗力が小さいことが分かった。既往の経験によると、天然から採捕する場合、体
重1キログラム以上の幼魚は養成種苗として遍当でなく、小型のものほど蓄清鑑の生き残り
がよい結果が得られている。
前述したように、本紀は◎才後半から1才’∼2才にかけて太平洋を横断する大きな回遊を
行う魚であるが、幼魚は固いけすに収容された後、狭い環境にもよく順応し、水質の急激な
変化とか台風による高波の影響等、環境の急変がなければ、いけす内においても高い生残率
一38一
70
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1974 τ9ア5 1976 19ア7 1978
3 年 舎
年
図B−14
養成クQマグ隣の成長
(高知課試、吉満目)5)
図8−15 網生籔による飼育ク轟マグロの成長
(近大水硯、串本)13)
を示した。
ハマチ養殖の場合と同様な餌料を与えたが、養成クロマグロ幼魚の成長は図B−14、図
B−15にみられるように速く、夏季の蓄養開始時に体重200グラム程度であった幼魚が、
1年後には6∼7キログラム、2年後には約20キログラム、4年後には60キログラム程
度に達する成長を示し、天然における戚長を凌ぐほどであった。
このように成長が速いこと、いけす網への順応がよいこと、また養成魚の市場価値が高い
ことは、クロマグロの養殖対象魚としての適性を示すものである。種苗の安定的な供給が保
証されれば、クロマグロ(ヨコワ)養殖の企業化も可能であろうと判断されている。
②クロマグロ親魚の養成
幼魚の蓄養をさらに進めて親魚養成にまで発展させようとする試みは、前述の「マグロ養
殖技術開発試験」(1田0∼1972年)後も2、3の研究機関で続けられている。さらに、
1976母から6ケ無計画で「沖合漁場利用養殖技術企業化試験」が発足し、高知県水試はク
ロマグロをとりあげている(試験地は宿毛湾)。近畿大学水産研究所では、とくにクロマグ
ロの親魚養成を騒的とした長期飼育を串本で行っており、1979年8月現在、5卑魚(1974
年生れ)を約5◎尾、3簿魚を2◎◎尾、2隼魚を2,000罵、1無魚を2,000罵、当才魚を約
2,000尾、それぞれ養成申である。当主魚ははじめ直径8三n、深さ6mの円筒形金綱いけす
に飼いつけ、成長に従って薗径16斑のいけす、更に細径30憩、深さ8狐のいけすへ移し、
養成が続けられた。1978隼の夏には満4隼魚(体重40∼80キログラム)のもので雄魚の
成熟が認められた。1979年には5年魚(推定体重50∼100キログラム)が6月下旬から
7月上旬にかけて、いけす内で追尾行動を行い、自然産卵がみられ、浮上卵約16◎万個が採
一39一
集された。産卵時の表層水温は21.8∼25,6℃であった。採集卵の90%以上が受精してお
り、好適な条件下では80%以上のふ化率が得られたことから、艮質の卵と認められた。
予備的な研究段階ではあるが、海中いけす網方式によるクロマグロの親魚養成の可能性が立
証されたわけであり、今後の技術開発研究の重要なステップを踏み出したものといえよう。
③クロマグロの種苗生産
天然のクロマグロ親魚からの採卵、ふ化飼育実験は、親魚の入手が困難なために行われて
いない。しかし、前述したように、近畿大学水産研究所で養成されたクロマグロ5年魚のい
けす内産卵によって、研究を推進する上で明るい見通しが得られた。近畿大学では、親魚の
産卵行動を確認した鷹後に、海申から卵を採集して、ふ化につづく初期飼育を行い、同疇に
種々の環境条件の下に飼膏実験が試みられた。その結果、クロマグロのふ化に好適な水濫範
囲は22∼27℃と想定きれ、高い正常ふ化率が得られる海水比重の範囲は22.00(δ15)以
上、pHの酸性側限界は5.0附近と結論された。仔魚の成長については、ふ化後30日で約
3センチメートル、40日で約5センチメートルに達した。
一方、クロマグロの種苗生産砺究に直接応用できると考えられる成果としては、クロマグ
ロに近縁なキハダマグロ、ソウダガツオ及びハガッオについての種苗育成試験結果がある。
キハダにおいては、ふ化後38日、金長5センチメートル、ソウダガツオではふ化後1ケ月、
全長約10センチメートル、ハガツオでは約100日の飼育で金長30センチメートル近くま
で育成できた。
④:地中海におけるクロマグロ養殖の試み
大西洋のクロマグロの産卵場として、繭側ではメキシコ湾、東飼では地中海が知られてお
り、メキシコ湾では産卵期は4∼6月、地中海では6月中旬∼7月申旬が産卵盛期とされて
いる。
地中海ではシシリー島周辺が主産卵場の一つであり、本種の養殖硬究のための適地と考え
られている。1978、1979年と定置網や突操船により、天然親魚の採集、採卵が試みられた
が・まだ翻βを得帽的を達していなし’漉卵行騰観察によれ1醤購‘恥雌のまわ
りを回転運動をし、産卵場所は表層(水深5m前後)のようである。
3.今後の進め方
研究構想を示すと図B−16のようになる。天然幼魚の活け込みからスタートして、幼魚から
親旧の育成(5∼6年を要する)と採卵、仔稚魚の育成に至る部分について、現在までに、前述
したような砺究成果が得られ、基礎的技術レベルはかなりの段階に達している。
すなわち、クロマグロの種苗生産にいたる技術開発の見通しは得られているといえるが、安定
的な大量種菌生産技術が完成しているわけではなく、そのためには解決を要する問題がまだ多く
残されている。それらは以下にあげるような課題である。
(1)親魚養成に関して:幼魚の採捕や育成場への輸送方法については、技術改艮が進んでいるが、
育成期閻中の死亡率が依然高いことが大きな問題点である。育成期間中の網替時に大量死亡が
みられることを関連して、いけす網の構造、大きさや魚の収容密度(魚の成長に応じた)、
いけす網の交換技術の研究が更に進められる必要がある。また、育成環境の面とともに、魚の第
一40一
ラ天然幼魚・
‘の酌込み声
出 葡
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クロマグロ貴鍾簸養
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図B−16 研究構想一流れ図一
吸、感覚栄養生理や魚病予防技術の研究も課題として残されている。さらに、海幽いけす方
式から、完全管理が可能な陸上大型水槽方式への移行への可能性も、検討を要する課題である。
(2)種箇生産に関して:親魚は非常に大型(体長160㎝、体重80kg程度)なので、採卵は自然状
態のま、で産卵きれたものを集める以外に方法はない。こうした採卵方法は多くの海産魚で試
みられ、成功しているが、クロマグロの場舎には親魚の養成施設が大規模なため、効果的な集
卵が大きな問題となろう。そのために、人工的催熱技術、産卵に適した環境条件の把握、産卵
行動の調登等が主要な研究課題である。
採卵された卵からふ化した蒲魚を種苗サイズまで飼育することは、他の海産魚についての既
柱の知識を動員すれば、技術推i進が可能であろう。しかし、クロマグロ仔稚魚の急速な成長と
魚食性生態の藤島発現は、魚種に顯著な姓質と考えられるので、好適な初期餌料生物の大量培
養技術や人口餌料の続発が、クロマグロの:大量種苗生産にとって蚕要である。
(3)人工種苗の大量放流と資源管理技術の開発に関して:この硯究の最終霞標は、謡初に述べた
ように、人工種苗を大量に放流して資源の増大を図り、人為的に卓越年譜群を作ることにある。
そのためには、天然における回遊生態及びその条件を明らかにし、人工種苗の放流適所、適
期を決めなければならない。さらに、放流効果を高めるために、若年期における渡洋吟遊群と
日本近海への滞留群に分れる機構、爾群の割合の推定等の醗究も必要である。これらの研究の
ために、漁獲調査とともに標識放流が有効な方法であり、天然幼魚及び入工種苗の山方につい
て標識放流技術の開発研究を推進する必要がある。
4.着手すべき研究課題
前述した研究上の問題点や今後の研究開発の方向に対応して、当面着手すべきと嵩えられる醗
究課題を示すと以下のようである。
α)採卵用親魚の養成技術の開発
①天然幼魚の育成技術の向上
② 親魚の養成技術(養成場造成技術を含む)
③疾病予防技術(魚の生態生理、病理の解明を力む)
(2>人工種苗生産技術の開発
①養成親魚の成熟促進と採卵、集卵技術
一41一
②初期餌料大量培養技術と人工餌料の開発
③稚仔期の生残率向上技術(疾病予防を含む)
(3)種苗の大量放流と資源管理技術の開発
①天然クロマグロの回遊生態の解明
②種苗の標識放流技術(天然幼魚と人工種苗について)
引用文献
(1)矢部博・上柳昭治・渡辺久也(1966) クロマグロの初期生態およびミナミマグロの仔魚に
ついて,南水着報 23:95−129
(2)行縄茂理・薮田洋一(1967) クロマグロ7’加彫鳩飾翅ηz4s(Linnaens)の年令と成長
について,南水研報 25:1−18
(3)上柳昭治・森慶一郎・西川康夫・須田明一編集一(1973) マグロ類養殖技術開発試験報告
一1970年4月∼1973年3月,遠洋水研報・S−Series 8:165pp.
(4)原田輝雄・面喰英水・岡本茂(1976) クロマグロおよびハガッオの3年飼育、近大農学部
糸己要9:21−28
(5)広田仁志・生田敬昌,森田正一(1976) クロマグロの養成について、栽培漁業技術開発研
究5(1):1∼9
(6)遠洋水産研究所(1976) マグロ類の初期飼育および養殖試験報告一昭和48、49年度試験
結果一 51PP。
(7)遠洋水産研究所(1978) 同 上 一昭和50、51奪度試験結果一 69PP・
(8)遠洋水産研究所(印刷中) 同 上 一昭和52、53年度試験結果一
(9)高知県水産試験場(1977) 沖合漁場利用養殖技術開発企業化試験一廉流系魚類一出藍51
年度駅究成果報告書:56PP。
(10)遠洋水産研究所(1978) 同 上 一昭和52三度研究成果報告書一84PP
(11)遠洋水産研究所(1979) 同 上 一昭和53年度研究成果報告書一125PP
(12)上柳昭治(1978) 日本におけるマグロ類の増養殖に関する研究,第5回国際海洋開発会議
Preprints (1) C 1:31−39
(13)原田輝雄(1併8) 日本におけるマグロ類の増養殖に関する最近の研究,同上 C1:65
−72
(14)ジャン皿イブ・ルガル,グザビエ・バール(1978) 地中海産クロマグロ類の生物学、漁業
及び養殖に関するシンポジウムの報告 五〇辮θ7 熔(2):45∼55
(15)日本科学協会(1979) マグロ類栽培漁業の開発研究(中間報告書):27pp。
一42一
C 回遊型底魚の資源管理(マダイ・ヒラメ)
〔事例解析担当者名〕
担 当 者
倉
所 属 及 び 職 名
博
南西海水産研究所
内海資源部
内海資源部長(グループリーダー)
上
田
科 夫
〃
〃
〃 第1研究室長
岸
田
達
〃
〃
〃 第1研究室研究員
伊
藤
弘
〃
〃
〃 第2研究室長
山
口
義 昭
〃
〃
〃 第2研究室主任薪究官
国
行
一 正
〃
〃
〃 第2研究室主任研究宮
正
木
康 昭
〃
〃
〃 第2研究室研究員
岡
本
亮
〃
増 殖 部
増殖第1研究室長
福
原
修
〃
〃
〃第2研究室研究員
石
岡
宏 子
〃
〃
〃第3研究室研究員
下
里
寿 彦
〃
〃
〃第3研究室研究員
馴
藤
山 一
日 一
〃
通
山
正 弘
小
西
富
坂
本
畔
外海資源部
外海資源第2研究室長
〃
〃
〃 第2研究室主任研究官
芳 下
〃
〃
” 第1研究室研究員
和 夫
〃
海 洋 部
海洋部第1研究室長
久 雄
〃
〃
〃 第1研究室研究員
叫 格
西海区水産研究所
底魚資源部
底魚資源第2研究室長
池
本
麗 子
〃
〃
〃 第2研究室研究員
田
中
克
〃
浮魚資源部
浮魚資源第2研究室研究員
慶∼郎
〃
〃
下関支所第1研究整主任研究宮
森
四
丁
清 一
〃
〃
〃 第1研究室主任研究官
花
丁
信 夫
〃
〃
〃 第3研究室長
小
鵯
喜久雄
〃
〃
〃 第3研究室主任研究官
罪
森
遽 夫
〃
〃
〃 第3研究室研究員
花
凸
靖 子
〃
〃
〃 第3研究室研究員
尾
形
哲 解
日本海区水産研究所
資 源 部
資源三三2研究室長
安
永
義 賜
〃
浅海鯛発部
浅海開発第3研究室研究員
三
石
裕 一
〃
〃
舅.解析のねらい
國遊型鷹魚類は、タイ類、スズキ、ヒラメ、カレイ類のほか、クルマエビ、ガザミ、ケガニ、マ
ダコなど、国民的需要が大きく産業的に重要な高級魚介類を多く含んでいる。したがって、それら
一43一
の資源培養システムの確立は、我が国沿岸漁業の体質強化を魍る上で最も強力な基盤となりうる可
能性をもっている。このため早くから、いくつかの魚種については、種苗生産を中心とする栽培漁
業技術の開発が実用段階に達しており、クルマエビ、ガザミ、マダイなどすでに事業化された魚種
も少なくない。
回遊型底魚類の多くは外海で産卵する。卵仔魚は、1ヵ月前後の浮遊生活ののち、着底期
が近づくと沿岸浅所に来遊して、潮聞帯から水深20∼30m以浅の海底ないし底層で変態し、そ
こで数ヵ月間の幼魚期をすごす。漁業資源への加入量の大小は、沿岸域に滞留する幼魚期までの生
存率に左右される。このような生態特性があるために、回遊性底魚では種苗放流や発育場の環境制
御を含む資源培養技術を適用して、資源の効果的な増大を図りうる可能性が生ずる。
我が国の沿岸漁業を「獲る漁業」から「造る漁業」へ転換させるために、国家的な規模ですでに
10数年に及ぶ努力が続けられている。その結果、高度経済成長期を通じて損なわれた沿岸漁業資
源は、一コ口魚種については、めざましい回復をみた(図C−1)。しかし、漁獲量の増大傾向は
なお往年の水準以下で足踏みしており、国民的需要が強い各種高級魚介類を飛躍的に増大し、全面
的に造る漁業の態勢を実現するまでには到っていない。
その理由は、第1に従来の栽培技術が単一の種個体群を対象として開発され、海域生産力を総合
的に高度利用するための技術開発が立遅れたことにあり、第2に対象海域の環境収容力を支配して
2,500
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30 50 40 45 50
昭和 年次
図C−1 瀬戸内海における栽培対象種漁獲量の経年変化、種苗大量放流
開始年次はクルマエビ辱5年、マダイ、ガザミ48年
一44一
いる制限要因の種類やそれらの作用機序を解窪し、それに基づいて全体としての収容力を拡大する
のに十分実用的な技術が開発されなかったことにある。したがって、造る漁業の態勢確立のために
早急に取り組むべき技術開発の基本的方向は、第1にすでに開発された対象種の技術を海域特性に応
じて憾み合わせ総合的な生産システムに作り上げること。第2にそのようなシステムの生物生薩を支え
ている環境収容力を効果的に拡大する手法の開発である。
ここでは、園遊高古魚類のうち概筏の知見が比較的豊富なマダイとヒラメを素材として、このよ
うな基本方針にそった技術開発を進めるに当たって何が主要な問題でありそれらはどうすれば解決で
きるかを浮きぼりにしようと努めた。具体的には次の4項目について、既往の事例を解析した。
(1)幼魚発育場の環境収容力
② 養殖親魚産出卵の有効利用
(3)順化による種苗性の強化
(4):幼魚の混獲防止
2.技術の現状
(1)幼魚発育場の環境収容力
この問題へのアプローチはいろいろな側面が考えられる。第1に発育場への稚仔移入機構であ
る。移入量が対象生物の発育富商と環境とのどのような関係に支配されているかが焦点である。
第2に移入量や移入時期の違いが発育場における恋々の生活様式に及ぼす影響である。環境収
容力の理解には、生物の環境適応がどれほどの幅をもっているかを解明する必要がある。第3は
幼稚魚の食:性である。生物の個体維持は栄養と防禦とが基本であるが、マダイ、ヒラメ幼魚では
食害生物が少ないので、栄養の側面がとくに注早きれる。第4は共存する各種島島群間の優位姓
である。生活空間の占膏や食物獲得にみられる虫聞愈愈は、理化学的環境特姓とともに、収容力
の大きさを左右する最も有力な要因である。
① 発育場への稚仔移入機構
回遊型底魚類の多くは外海で産卵され、浮遊生活初期の水平分布は流況に支配される傾向が
強いが、仔魚から稚魚への移行に伴い浅海域に来遊集合して発育場を形成する。水平的には
接岸移動であり、ある種の定位機構を伴う。底魚では接岸移動は岡時に底顧への垂直移動を
伴なう。
既往の事例によれば、浮遊期仔魚は恒流に運ばれて地形姓の環流域に集積される。したがっ
て、発育場は、恒流特性によって、仔魚の移入と移娼とのそれぞれの難易を懇み合わせた類型とし
て特徴付けられる。好適発育場は移入の難易よりもむしろいったん移入した心心が移出しにく
い条件と結び付いている。
海水流動から独立した自律的な運動は、マダイでは全畏7㎜くらいから現われ、1◎m鍵をこ
えると遊泳力の発達に伴って一層顕著となる。稚魚は意向的に浅所に移動し12∼15阻で着
幽する(図C−2)。着意場の選択は、現象的斎こは、海底付近の餌生物(コポペーダ)の分布
密度に左右されるという。
霞岳の心痛分布特性は発育に伴い、また日魚雷にも変化する(図C−3)。初期仔魚(2
一45一
浮遊期旋仔魚
採集憲点(椎魚ネット)
0
湾 i
⑩)・
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採集定点(桁網)
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底生期幼穣1魚
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曾幽 ㊧ 鴇繍識㊥
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5
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竃。 特
金 長 翻
志々 湾の水深分布と幼稚1子
幼稚仔の酋長組戚
採鰹定点
図C−2 志々伎湾におけるマダイ幼稚魚の補給機構
∼3厭m)の分布域は申・底層に申心があり、
採 集 尾 数
72 斜4 408 2騒 蓋09 74 28 ユ6 5 4 2 2 聖
7mmくらいまで底層指向が強まる。その後分
布層は上昇し始め、10mmをこえると表層
出現頻度が高まる。この表層指向性は接岸着
底移動に必要な定位機構と密接な関連が想定
されている。日周的な垂直移動は浮遊生活期
を通じて多少とも明瞭に認められ、餌料プラ
ンクトンとの遭遇の機会を増大させるための
適応的意義が推測されている。
旬く・聡) ワ 4
6
8
LO
12
特定の発育場における二三補給量の変動は、
箋渓
系統群全体としての産卵量と生存率だけでな
く、主に流況に左右される発育場への配分率
が複合した結果を反涌している。浮遊生活期
の稚仔の生存率の制御は、栄養獲得と防御を
基本とする稚仔の環境適応の解明に技術開発
の糸目を求めるべきであろう。
② 幼魚の生活様式
底生生三期の幼魚の発育場は、地形的に
は閉鎖的な内湾から開放的な外海砂浜域に
餌、 餐、 rこ 融
図C−3 志々伎湾におけるマダイ仔魚の生長に伴う
いたる水深30m以浅の浅海域に広く形成
垂直分布の変化(上、夜間;下、昼間)
黒地は底i層、斜線地は申層、点地は表層の
される。藻場の存在は必ずしも不可欠では
分;布割合(%〉を示す。 一
ないが、好適発育場の環境特{生は、共通し
一46一
て、海水流動の滞留と撃発な餌料ベントス類の生産を伴っている。
特定発育場における稚仔補給量の年変動は2∼3倍から10◎倍近い例までみられる。一般的
に、年変動は開放的な発育場で小さく、閉鎖的な発育場で大きい傾向がある。補給量の増大は、
マダイ幼魚では、やせ型の体型や生長の遅れのほか生活空間の拡大や餌生物の多様化をもたら
す。生活空聞の拡大は最適餌料(ヨコエビ類)の密度が比較的小さい海域にも生息する現象と
して、また餌生物の多様化はより小型餌料の摂取という形で、それぞれ現われる。
マダイ幼魚の生長速度は、水温、生息密度競合種の多少のほか先住着底群の有無によっても
影響される。同一発育場における學癒着底群と晩期着底群との体長差は時聞の経過とともに増
幅される傾向があり、晩期着底群の生長は著しく阻害される。
マダイ幼魚個体群の量的水準がどの発育段階で調節されるかについて、志々伎湾と油谷湾に
おける研究結果は興味ある違いを示した。志々伎湾では発育場離脱期の資源量は浮遊稚仔移入
量にほぼ比例したが、一方濾谷湾では稚仔移入量の年変動(8∼16倍)に比べて底生幼魚資
源量の年変動(1.8倍)は開らかに小さく、浮遊生活から底生生活への移行期に密度依存的減
耗が起り、環境収容力に見合った水準に調節される酊能性が想定された。一見矛盾するこのよ
うな現象は、マダイの環境適応の異なった側薦を反映しているのではないかとも考えられ、統
一的な理解に到達できれば、環境収容力の解明に極めて有力な手がかりとなるに違いない。
③食性と摂餌生態
一 発育場におけるマダイ幼稚魚は、全長3c無までは浮遊牲のコペポーダや尾虫類が餌料のうち一
半分を占めるが、底生生活に移行してからは選択的に底生小動物をねらい、ヨコエビ、ワレカ,
ラ、アミ、多毛類、エビ類、クモヒトデなどのうち優先する種類を食べる。生長に伴い段階的
に大型餌料を摂るようになるが(図C−4)、海底表面から上に生息する種類を選択的に捕食
し、海底に潜伏する種類はあまり食べないと判断できる。
海洋の生物生産系を合成過程を代表する櫨物プランクトンを基礎とする系と、分解過程を代
表するデトリタスを基礎とする系とに大別すると、マダイ、チダイは浮遊生活期には前者に属
しているが、底生生活期には後者に移行し、図C−5に示すような食物連鎖構造の申に位置付
けることができる。
天然稚仔の1回の飽食量は、体重の7∼2%で大型偲体ほど低率である。ただし、飼育欄体
にワムシを与えた場合の飽食量は全長4∼9田田で11∼7%の範囲にあり、天然欄体よりも高
率である(図C−6)。1回の飽食餌料(ワムシ)の消化磯目は、平均6.75田鵬の飼育仔魚で
は1∼2.5時間であるが、継続的に摂馨した場合の消化蒋闘は短縮される傾向がある。また、
チグリオパスを食べた場合は約3時間であるという。導車個体の日聞摂餌量は、餌料密度が3
∼15個体/寵6の範囲では、体重の40∼70%に達するが、1∼2聖体/寵‘の密度では摂餌
量は年少する。
瀬戸内海の発育場で、餌料生物の生息密度は藻場周辺の方が藻場がない海域よりも大幅に(約
4倍)高いことを示す資料が得られた。藻場の発達は大量のデトリタスを供給し、それを基盤
とするヨコエビ類や多毛類などのデトリタス生産系を卓越させる可能性を示すものである。
このことは、マダイ発育場の環境収容力の拡大策を考えるに当って纒めて重要である。
一47一
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図C−5 志々伎湾におけるマダイ幼魚をめぐる食物連鎖構造
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図C−6 マダイ体長と摂餌量の関係 図C−7 油谷湾調査iにおけるマダイ、チダイ幼魚
の海域別年間累積採集襲撃の変化。稚仔
A.Bは飼育個体(点線は
補給量の年変動とチダイによる発育場の
占有がマダイの薫底に及ぼす影響を承す。
飽食量、鎖線は平均髄)、
Cは天然個体の飽食料
ヒラメは稚魚期には底生性コペポーダを食べているが、幼魚期には遊泳性の甲殻類(アミな
ど)や魚類(シラス)を食べる。底生生活期にも、マダイがデトリタス生産系に属するのに対
して、むしろプランクトン生産系に属する魚食性魚類として育つ。発育場は、河口を申心とし
た浅海砂泥質海域である。着底稚魚から15㎝の幼魚まで育つのに必要な餌の量は、蛋白量と
して1尾当たり68.29(甲穀類換算で682.39、魚類換算で341.2ク)である。1万尾の幼魚
を増産するには3.4トン(1日当り平均16幣)の餌料魚類の生産を保証しなければならない。
④生態的優位性
マダイ幼魚は、発育場において、同種及び異種の魚類個体群と館と生活空聞をめぐって競
合する。最大の強敵は同種の早期着底群である。それが晩期着儀群の生長を著しく阻害するこ
とはすでに述べた。
異種個体群では生活様式が酷似するチダイが外海性発育場における最も強力な競合相手であ
一49一
る。両点は産卵と主要な発育の季節を半年ずらせることで「すみ分け」ている。しかし、チダ
ィ幼魚の着底量が多く発育場の占有が長びくときは、マダイの季節になっても発育場はふさが
っていて、マダイ稚仔の着底が阻害されることがある(図C−7)。
マダイと同時期に外海から稚仔が移入するマエソやトカゲエソは、浮遊仔魚や着底稚魚の水
平分布に特徴的な違いがみられ、それは環境に支配されるというより、むしろ競合種を含めた
総体としての環境にいかに主体的に反応するかを反映していると考えられた。この知見は、着
底面の選択に当たって共存:する競合種の影響が無視しえない要因であることを示唆している。
志々伎湾のマダイ幼魚は、スジハゼ、アミメハギとは生活空聞をめぐって、サビハゼ、ヒメ
ジとは餌をめぐって、それぞれ競合している。マダイは常に優位性を保持しており、主導的な
役割を果しているが、一方競合相手の方はマダイの来遊に伴って生活様式の変更を強いられて
いることを示す事実がえられた。
(2)養殖親臨産出卵の有効利用
直話、小割式マダイ養殖の急速な発展に伴って、養殖生籔の中で自然産卵される受精卵は飛躍
的に増大する傾向がある。この課題は単にそれらの卵の有効利用を図るという発想から、さらに
進んで養殖技術を背景とした優良形質卵の量産とふ化放流を中心とし、さらに不合理に混獲され
る幼魚の種苗としての有効利用を組合せた資源培養システムの確立を目指すものである。
事例解析によれば、基本的な問題はマダイでは第1に養殖場の立地条件であり、第2に採卵用
親旧の年令構成である。ヒラメの場含は、餌付きが悪いことによる低い歩留りのほかに、海面を
利用した小割養殖が難iかしいことに問題がある。
①養殖マダイの産出卵数
現在我が国で養殖中のマダイ親魚から年間どれくらいの受精卵が産出されているかは推測の
域を出ないが、一応次のように試算することができる。昭和52養殖年の収獲量は9,402トン
であった。平均体重1k望とすると9,402,000尾(内半数が雌)になる。雌はすべて52年春に
(満2才、500∼6009)産卵したと仮定すると、1尾当り10∼20万粒として、総産卵数
はおよそ4,700∼9,400億粒に達する。重量では約400∼800トンに栢当する。
産出卵は収獲量の4∼8%に相当する養殖蛋臼量の損失に当たり、養殖経営としては好ましく
ないが、偶体重1鞠まで養成する限り、2才の春の自然産卵は現状では避けられない。したが
って、禍いを転じて福とするためには、養殖生簑の中で容易に自然産卵するマダイの特性を利用
した資源培養技術の発想が望まれる。
上の産出卵から期待される生産効果は次のように試算することができる。九州西岸のマダイ
に関する推定値に基づき、浮遊性扇凧魚期(産卵から全長1.5c紐まで)を40日で経過し、日
間生残率はG.853、底生初期(全長1.5から3㎝まで)を15日間で、日聞生存率0.950画面
れば、3cm稚魚の生産尾数は、
4,700∼9,400億粒×0.85340×0.95015ホ3。8∼7.5億尾
と推定される。3cm以降の年間自然死亡率を0.3とし、漁獲率0.3で1∼4才魚を漁獲すると
仮定すれば、およそ2。3∼4.5万トンの漁獲が期待できる計算になる。この数量は昭和52年
の我が国沿岸漁業によるマダイ総漁獲量の1.4∼2.6倍に相当する。いささか現実離れの感が
一50一
強いが、それだけ養殖親魚の産出卵が莫大な量に達することを如実に物語っている。
② 養殖親臨産出卵の生き残り
莫大な数量にも拘らず、産蹟卵の生き残り天然資源への加入は、現状では、あまり効率的で
ないと思われるふしがある。なぜなら、マダイ卵素魚は、本来外海で産まれて接岸する特性を
もっているのに、養殖場産出卵は逆に沿岸で産まれて沖含へ運ばれるからである。とくに河川
水が流入する内湾の恒流は、底層に流入し表層を流出することが多いので、湾内産出卵は短期
聞で外海に運び去られる。
卵の比重は親魚の体液滲透圧に左右されるから、多少とも低塩分の沿岸養殖場で産れた卵の
比重は比較的小さい町能性が強い。したがって、天然産繊卵に比べて分布層は表層に集申し、
外海へ運ばれるとますますその傾向が強くなり、そのことが波浪による減耗のほかイワシ類な
どの浮魚による集中的な食害を招きやすい。
この問題は、マダイ、ヒラメなど外海産卵型の園遊性巌魚類に共通しており、採卵用品魚の
養殖場は、少なくとも塩分と流況を基準として外海性の適地に立地しなければならないことを示
している。
③麓排卵の質
晶質は親魚の年令や成熱条件によって影響を受ける。一般に採卵用親魚の年令は4∼7才が
最適であるといわれているが、この範囲内でも高令魚ほど大型卵を多数産幽し、ふ化素魚は大
型でより高い生き残りが期待できる。さらに、同一晶晶の産出卵でも、約1ヵ月にわたる産卵期
閥の比較的初期の方が後期よりも大型で良質である。
養殖場が沿岸にある場合は、冬期間の低水温が親魚の生理機能を低下させ緑山武を誘発する
ことがあり、翌春の産出卵に悪影響を及ぼす。さらに、採卵用親魚集國は、遣伝的な劣勢因子
の蓄積を防比するために、少なくとも二酉彪の規模で維持しなければならないといわれている。
③ 訓練による種苗性の強化
魚介類を人工的な環境で飼育すると、生理的にも生態的にも野生個体とは違った特{生をもつこ
とがある。その違いは、多くの場合、養殖種苗としては重大な支障とはならないが、放流種苗と
しては必ずしも好都合ではない。しかも、この事実は一方では対象生物のもっている潜在能力の
うち放流種苗として好適な特性を人為的に強化しうる可能性も意味している。そこで、この課題
ではマダイを素材として、家魚化された魚の生理特性を解明すると同時に、種苗適性を強化する
可能監について検討した。
①養殖魚の環境順応
養殖マダイは、4c照以上になると天然魚よりもはるかに速く生長する。この現象は餌料条件
の違いを反映したもので、入工給餌によってマダイの潜在能力が発揮された1例である。
養殖魚は天然魚に比べて、尾又長に対する全長、体高、弓長、眼径などがいずれも有意に
小さく、両者は明瞭に判別できる(図C−8)。この現象は、生育環境の違いが生活形の違い
に反映した1例と考えられ、マダイの環境順応を理解するひとつの手がかりになる。
魚体の成分組成では、養殖魚における脂肪の蓄樟と、その結果としての水分の減少が最
も顕著な特徴で、マダイだけでなく多くの魚類に共通している。このような影響が現われるの
一51一
25
天然魚
相
対
養殖魚
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数 15
劣
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一2.30
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1.3
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ふ 化 後 日 数
図C−9
マダイ仔魚の成長に伴う平均遊泳速度
給餌前(黒丸〉と給餌後(白丸)に計測
一52一
30
1圭.o
35
2.5
は、マダイでは2∼3㎝の着底期になってからで、エネルギーの配分がそれまでの器官形成か
ら生長ヘスィッチオーバされることを示唆している。
② 訓練による行動力の強化
遊泳力や害敵からの逃避能力を訓練によって強化しようという試みはカワマスでその例があ
り、抗弁耐性や筋肉グリコーゲンの癬復κ効果が認められている。
マダイでは、遊泳力は仔魚後期における器官形成に伴って、体長8田狙から10㎜の間で短期
閥に急速1こ増大する(図C−9)。この段階まで強い通気条件下で飼育した個体は、静水飼育
欄体よりも移し替えなどに伴う操作に対する醜性が一段と強化されることが分かっている。
この事実は、マダイの種苗生身工程に流れや麗乱条件を組み込むことによって、運動能力を増
進できるのではないかという期待を抱かせる。
(4)幼魚の混獲防止
回遊型底魚類は幼期発育場が沿岸浅海域に形成され、したがってそこでの生息密度が生活史の
うちで最も高いため、商品価値が不十分なまま各種の沿岸漁業に混獲されることが多い。これら
の幼魚は、すでに緬体発生における危期を経過しているので、漁獲されなければ、成体ないし高
価格商暴サイズまで高い歩留りで生き残り、漁業資源への確実な加入が期待できるものである。こ
の課題では、マダイとチダイについて、漁業による資源利用の実態解甥を通じて、効果的な幼魚
の保護策を検討した。
① 漁業による資源利用の実態
瀬戸内海のマダイは、照禰43∼45年平均で63。2%(約68G万罵)が当才魚(平均体重
23ダ)のうちに漁獲された。1才魚(平均体重1109)まで含めると76。1%(約820万尾)
に達し、マダイ資源の大半が小型底びき網や刺し網によって、生後2年以内に獲られてしまうこ
とになる。当才魚の漁獲は、50年代に入って一層増大し、2,0◎0万尾に達するだろうと推定
きれている。
臼本海沿岸でも岡三な実態があり、定置網、晋智網、底びき網によって漁獲されたマダイの
年令組成は、1才以下の低回格段階(1尾300円以下)の割合がいずれも90∼99%に達し
表C−1 日本海沿岸におけるマダイ資源の利用状況
(年令別推定漁獲屋数割合、%)
1尾当たり
年 令
単価(円)
新 湊
定 置 網
能 津
昭 53
定 置 網
輪 臨
七 毘
昭48−51平均
昭 δ3
寸心網・底びき網
永 見
聡53.6∼11月
昭53.6∼11月
定 麗 網
定 置 網
0
13
61.1
41.2
26.2
94.8
96.4
1
3◎◎
28.5
58.2
64.4
4.9
3.3
盆
1,0◎0
7.2
O.6
7.8
o.3
0.3
3
1,80◎
1.3
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G.8
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一
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一
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5,◎00以上
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一
一
一
一53一
ている(表C−1)。
四 園
南西外海域のチダイでも似たような
〆一’《
実態があり、2cm級からばっち網、地
!−
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@ 、.
!
びき網に、4c礁級から船びき綱、定置
九
ノ
網、小型底びき網に、さらに13c組級
(1才、1009)から沖合底びき網に、
\1
/
じのゆずハコ ノ
ノ しの ノ
州
/ 、 ∫
!
、咽腰・’
それぞれ混獲されている(図C−10)。
/
1
年間水揚量は全体でおよそ3,000万尾
‘
に達すると推定された。
\
ノ
②混獲防止策
ノ
ノ
養殖種苗向けに採捕する場合は別と
!
して、混獲漁業に対する規制は、主要
対策資源以外の魚介類幼魚の保護を目
的とすることになり、実際的な効果は
期待し難い。したがって、対策として
図C−10 南西外海域におけるチダイ幼魚の
混獲漁場(黒、旧びきとぱっち網
;斜線、中型、小型底びき網)
は、差し当たって、対象種幼魚を混獲漁業
の漁場から隔離するか、あるいは逆に混獲漁業を発育場から隔離するか、そのいずれかの方法
が老えられている。
隔離法としては保育魚礁の設置、音響馴致による幼魚の行動制御などの技術が実用化試験の
段階にある。これらの技術が天然産幼魚の保護にも十分な効果を発揮できるよう一層の工夫が
望まれる。
3.今後の進め方
既往の生物知見と技術の現状の解析結果に基づいて、回遊三無魚類の生物生産の飛躍的増大や、
それを軸として海域生産力の総合的な高度利用システムの組み立てを考えてみると、今後早急に取
り組みを必要とする研究課題がいくつか浮び上がる。卵糸魚や種苗の生産と放流を軸とする「連の
栽培技術に関する諸問題を∼応別とすれば、それらの課題のねらいは結局のところ対象とする種個
体群が海洋生態系の中で生き残っている仕観みに関して、より広く、一層深い理解に到達すること
につきる。現行の栽培技術は、生き残りの仕組みに関する科学的認識の現状に基づいて組み立てら
れたものである。新しい技術の発想には、新しい認識が必要である。逆に、科学的認識の深まりや
広がりは、新しい一層高度な発想を生み出すに違いない。
効果的な研究課題を組み立てるために、残された問題点を整理してみると次のように集約すること
ができる。
④ 生活圏の形成機構
② 浮遊生活期の生残機構
③発育場の環境収容力
一54一
(1)生活圏の形成機構
資源量の変動は系統群を単位として起こり、産卵数と生残率とによって決まる。特定の発育場へ
の移入量は、さらに生残個体の配分率に左右される。したがって、資源の増大策は基本的には系
統群を対象として計画されなければならない。造成し管理すべき海域は究極的には、系統群とし
ての生活圏が及ぶ範囲の拡がりをもっことになる。
回遊型緩魚類の生活圏は、一般に、産卵場、発育場及び越冬場を拠点として形成されるこれ
らの擁点間の隔たりは、魚種ごとの生活様式や対象系統群の占有海域が種としての分布範囲のど
こに位置するか、などの条件によって違った現れ方をする。例えば、霞本近海のクルマエビで
は生活圏は産卵場と発育場とを両極として形成され、最大200㎞程度である。一方、黄海におけ
るコウラィエビの生活圏は発育場と越冬場とを両極として形成され、その範囲はおよそ700㎞に
も及ぶ。マダイ、ヒラメなどの魚類では、生活圏の拡がりは必ずしも明確でない。また、瀬戸
内海のマダイでは、生活圏の狭い地付群と広い回遊群とがあるといわれているが、生活様式の違
いや交流の有無など系統群の解析は行われていないし、栽培対象種としての適牲も検討されたこ
とはない。
生活圏の拡がりと四時に、その範囲に含まれていなければならない環境類型の組み合わせが解明さ
・れる必要がある。回遊型底魚類は、原則として、発生初期の浮遊生活期とその後に続く底生生活
期とでは全く異なる2種類の環境類型が必要である。その聞に介在する「変態」の前後では、食
性を含めた生活様式が大幅に異なるからである。さらに上の環境類型は、海水流動を媒介として
互いに結び付いていなければならない。これらの知見は、海洋牧場の造成を計画するに当たって、
最も基本的な不再欠の情報である。
この間題の解明には、差し当たって、系統群を解析する効果的な手法の開発が急務である。直
接的な手法としては各種の標識法があり、霞くから用いられているが、既存の標識法は主に成魚
を対象としているため、幼魚には適用し難く、数年にわたる熱心は期待できないものが多い。新
らしい発想に基づく多様な手法開発とその実用化の努力が必要である。間接的な手法としては、
形態計測学及び生化学の技法の応用が考えられるが、まだ実用化されるまでには至っていない。
(2)浮遊生活期の生残機構
海産魚介類の多くは莫大な数の卵を産み、浮遊生活期に臼間死亡率15−20%にも達する極
めて高率の減耗期を経過する。回遊型底魚i類も例外ではない。この現象は、基添的には、それら
の魚介類における多難戦略に反映しているのであるが、一方では、浮遊生活期の生残率のわずか
な向上が漁業資源への加入量水準を大幅に増大する多能姓を内包する。鯛えば、貸間生残率の
0.85から0.88への3.5%の向上は、30臼後の生残欄体数に2.8倍の違いをもたらす。
浮遊生活期の生残機構の毛繕は、資源培養のための新しい多様な技衛の発想を保証するもの
であるが、そのためには生葎曲線の作製と解析とが最も効果的である。マダイに関する概往の知
見は、この問題についてもいくつかの貴重な手がかりを与えてはいるが、いずれも定性的な段階
に建まっており、定量的な解析に耐えられるデータの集積が切望される。
この問題の取り組みに当たって最大の阻害要因は、海の申では精度の高い無体群の計測が極めて難
しいことである。移動控が強い魚介類では、繍体数現葎量の1回の計測にも大仕蜜な採集のく
一55一
り返しと統計的な処理が必要であり、手々がかかる上に精度が低いなやみがある。浮遊生物につ
いては、微細な分布構造とその時間的な変遷を把握できない。このような現状を改善するには、
微小なプランクトンから数センチの魚まで、大きさと運動姓に応じて、颪接かつ迅速に処理でき
る計測装置の開発と実用化が最:大のカギである。
研究の焦点は、差し当たって、浮遊生活期の卵稚仔及び餌料プランクトンの水平的、垂直的分布
とその変化の実態を把握し、適応的な役割を解明することである。近年、欧米諸国では、プラン
クトン生物の分布にみられるパッチの形成とその生態的意義に関する硯究が急選こ蓄積されつつ
あるが、我が国でもこの分野の研究の充実が切望される。一方で、種苗生産事業の急速な進展に
伴い、飼育個体群に関する豊富な生物虚報が集積されるのに好都合な条件があるだけに、一層
その感が深い。我が国の現状は、海からの情報を整備することによって、浮遊生活面をもつ多数
の有用魚介類について加入量変動を予測し制御するために有効な群集生態モデル及び数理モデル
を組み立てるのに最も有利な条件を備えているといえよう。
(3)発育場の環境収容力
回遊遣出魚類の資源を人為的に増大させるのに技術的に最も可能性の高い発育段階は発育場に
着塾した初期段階である。生活領域が最も岸に近い浅海域であるのと、個体群が比較的狭い海域
に高密度に集積されるためである。しかし、人為的管理がしゃすいという有利な面と岡暗に、生
活空聞が海域としては最も狭い部分に限定されることによって量的に制約されるという不利な面
とがある。したがって、資源の増大には、稚仔の移入機構を含めて発育場の成立条件を解明して
空聞的な拡がりを拡大すると同時に、対象種の収容密度を高めるための技術開発が重要な課題と
なる。
①浮遊期卵稚仔の移入機構
対象系統群の産卵場と発育場とを結ぶ海水流動による卵稚仔輸送機構の解明が焦点である。
表層の海水流動については、すでに多くの情報があるが、國亜型底魚類の卵稚仔の主要分布層
である中・底層の海水流動の実態とそれが物質輸送に果たす役割は、十分に理解されているとは
言い難い。
卵稚仔輸送に関する既筏の知見のうち、発育場の地形の開放度が移入量変動に影響するとい
う事実や、地形性の環流域の形成条件によって移填入の様式が異なるという発見はとくに重要
である。これらの知見は、流動環境を制御することによって、卵稚仔の発育場への移入を促進
し、移出を防止:しうる可能{生を示すものであり、それを手がかりとしてさらに研究を深めて、
いかに技術化するかが今後の課題である。研究の進め方としては、発育場をいくつかの類型に
区分し、卵稚仔の移出入の実態を比較生態的に検討するのが最も効果的であろう。
この問題に関連したもう一つの課題は、海域における錯綜した海水流動のうち目的に合う特
定の流れの利用を可能にしている卵稚仔側の環境適応の実態解明である。例えば、マダイの
卵は難球をもち、健全な受精卵は通常の海水中では表面に浮上する。事実、種苗生産工程では
浮上卵だけが使用され、沈降卵は生き残る見込みがないといわれている。ところが自然の海では、
明らかに健全な卵仔魚が中・底層に集中分布している。このような、一見矛盾する現象の統一
的な理解は、一層高度な科学的認識をもたらし、一段ときめの細かい栽培技術の発想を生み出
一56一
す有力な契機となるに違いない。
②生態的優位性
マダイ幼魚については、発育場に共存する他種の幼魚に対して、生活空間や餌の獲得に関し
て比較的優位にあることが知られているが、その優位性を一層強化することによって環境収容
力を拡大しうる可能性が老がえられる。
研究の方向は大別して二通りある。一つは幼魚の行動力を強化することであり、飼育工程に
訓練装置を組み込むことによって人工種苗に適用しうるだろう。もう一つは、マダイ幼魚の優位
性が環境のどのような特性と結び付いているかを明らかにする方向である。この問題はまだ手
がかりさえ得られていないが、いくつかの環境特姓をもった発育場について比較群集生態学的
検討を行うことで、技術化の糸口を見出すことが期待される。
③餌料生物生産の盛大
発育場の環境収容力の大ききを決定する上で、餌料生物の生産性が決定的な制限要因である
ことはいうまでもない。底生生活期のマダイの食性に関する事例解析の結果に基づいて、発育
場における餌料生物生産の増大を図るための基本方向は次のように集約することができる。
a.デトリタスを中心とする魚雷過程の生産系の拡大を図るべきである。
b.藻場の造成はデトリタス生滋強の拡大に有効である。
c.表在控ベントスの増大を焦点とすべきである。
d.餌料生物サイズはマダイ幼魚の大きさによって一定の限界があるが、種類は幅広い代替性
がある。
したがって、今後敵り組むべき砺究の方向は、アマモなどの大型海藻類を基盤とするベントス
生産系における物質とエネルギーの移動を定量的に把握することであり、さらにそれが発育場
生態系における表在姓ベントスの生産に果たしている役割を解明することである。そのような努
力を通じてはじめて、マダイ幼魚の餌料生物の効果的な増産技術の開発が期待できる。
もう一つの方向は、主要ベントス類の生活史や生産様式の解明であり、生態効率や奪閥回転
率などに関する知見の集積が必要である。
曝.着手すべき研究課題
(1)系統群の解析
①幼魚の有効標識手法の開発と応用
② 系統群特性解析手法の開発と応用
③系統群の地理的拡がりと発育場の配置
④ 産卵場の海水流動構造と卵青仔の配分機構
⑤地付欄体群の形成機構
② 浮遊期の生残機構の解明
① 卵仔魚の定量採集と同定法の確立
② 生息環境変動と卵仔魚の環境適応
③卵酒仔及び餌料プランクトン分獅の動態把握
一57一
④卵稚仔の水平・垂薩移動の機構
⑤卵稚仔の生き残りモデルの組み立て
(3)発育場環境収容力の解析
① 沿岸海域の環境特性解析
②環境構造と卵稚仔の移出入特{生
③食物連鎖構造の動態把握
④ 生物群集における主要構成種の生態と生活史の解明
⑤植物プランクトンの生産を起源とする物質とエネルギー移動の定量的把握
⑥大型海藻の生産を起源とする物質とエネルギー移動の定量的把握
⑦環境特性による生物群集の種間関係変化の解析
⑧生物群集解析のための各種モデルの組み立て
一58一
D 二枚貝類の資源管理(イタヤガイ・アカガイ)
〔事例解析担当者名〕
担当者名
所 属 及 び 職 名
(イタヤガイ)
大 内 明
鐵添海区水産研究所 浅海開発部長(グループリーダー)
田 中 邦 三
〃 浅海醐発部 浅海開発第3研究室長
(アカガイ)
野 上 和 彦
繭西海区水産概究所
増殖部増殖第2研究室長二
俘 藤 克 彦
〃
〃 増殖第2研究室醗究員
梅 沢 敏
〃
〃 〃 〃
福 原 修
〃
〃 〃 〃
学 添 三 朗
養殖研究所
大村支所長
山 ロ 一 登
〃
大村支所主任研究宮
(A) イタヤガイ 1.解析のねらい
困民の申高級魚介類への指向は、近奪とみに高まってきているが、中でも貫高への需要は根強い
ものがある。ここで取り扱うイタヤガイは、ホタテガイと岡様その貝柱がとくに美味であり、古く
から鳥取地方の民謡、貝殻節で知られている二枚貝である。
イタヤガイは、古くから鳥取・臨根両県沿岸域が主産地としてよく知られているが、漁獲量変動
が極めて大きく不安定な種である。このことは、各種環境条件の複雑な相互作用によって発生初期
時代の生き残り如何が発生量に大きな変動をもたらしているものと推定される。したがって、ここ
では大量発生の機構をあらゆる角度から解析し、これらを通して生産の安定供給を図るための技術
的ポイントを摘娼しょうとするものである。
本研究は、主たる生産の場である馬取、臨根両県沿岸域を対象として行うもので事例解析の主点
は次のとおりである。
(1)天然発生量の安定増大技術
(2) 増養殖技術
(3)漁場管理とくに欄体群制御技術
2.技術の現状
(1)天然発生量の安定増大技術
イタヤガイは、外洋に棲む暖海性二枚貝で鳥取、島根両県沿岸域を申心として石川県外海域、
福岡県玄海灘が著開な漁場として知られている。発生量には隼変動がみられ、しかも多くの場合
2∼3年で漁が終焉し、継続しないという特徴がある。
一59一
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35 37 39 4圭 43 45 47 49 5董 (歪1三)
図D−2 石川県外海域におけるイタヤガイ
図D−1 イタヤガイ漁獲量年変動(殻付重量)
1曳網当たり漁獲密度(単位個)
(石川県∼島根県)
※農林水産統計
※町中茂他、イタヤガイの調査結果に
ついて(昭和44年)から
イタヤガイの分布は古くからの記録があるが、1)その中から特微を拾ってみると、漁場は等深線
に沿って長く形成されていての多くの場合水深20∼70m帯に分布し3)また、海底が粗粒砂ん
中盛砂の比較的粗い砂面の頗に漁場が形成される爵)このことは、幽しのよい場所に醐が
作られることを意味し、漁場形成の上で大きな意味をもつものである。分布の濃密域は年によっ
て変動するが3)分布域は狭く、石川県を例にみると9㎞×1㎞と樋く限られた海域3)に重なるよ
うにして密生している。生長段階別の分布様式は、まだ十分に解明されていないが、発生群と産
卵親貫群とは棲み分けしているようである墨)これまでの文献によると、水深の浅い海域には大型
の貝が、より深い海域には小形ないしは幼学が分布しているようである。5)
イタヤガイは雌雄同体で三二後放言し受精する同時型受精に分類される9)産卵期は海域によ
って相違すると思われるが、千葉県館山沖で2・3月が産卵盛期了)九州北部海域では1月中∼5
月中でその醐は2月中・下旬予)融県では11∼5月と長いがその盛期は2∼3月?)そして島
10)
根県東部では3月下旬∼4月が盛期とされ、
地理的な産卵期の相違はあまり見られないようで
ある。産卵はどこで行われるかは解明されていない。しかし、稚貝の分布から比較的沖合
深部とも推定されるが今後の調査にまたねばならない。
イタヤガイの発生過程は、もちろん水温などによって相違する。しかし、平均的には、受精後
三一塵夜で艀化(D型幼生、約100μ)し浮遊生活を送るが1ケ月を経る頃から器物に付着し、
2ケ月余り付着生活を送るようになる。その後、殼長10∼15mmの大きさになる頃からは器物か
ら離れ着底生活へ移行する。U)
浮遊幼生期から付着期、そして着底初期のいわゆる発生初期時代は減耗がとくに大きいと推定
されるが、これまでに、ほとんど減耗過程とその要因に関する研究はなされていない。着底後の
幼稚貝の減耗について若干の知見があるが、これを見ると島根県水試が稚貝に標識を付け、何圓
一60一
か虫けて放流し働を行っている.その結果は、ほとんどが館などで死滅していた32)過去の
多くの文献によると貝桁網による死因の漁獲状況を調べた結果、着底聞もない幼艮が多量入悔し
た多くの例が示すように5)幼稚員期の減耗も意外に大きいことが知られている。また、着記した
場が泥の場合はその多くが死滅する王2〕壕ど底質との関係も自然減耗では無視娼来ないと思われる。
イタヤガイの成畏は、鼠本海面取沖のものがよく調べられているが、それによると、満1奪で
鞠58㎜、満2年で鞠75㎜、満3年で平均85練成長するき)垂下式による養殖の例では、
11)
満1年で8cm前後にも成長し天然のものにくらべて成長が學く養殖には適している種といえよう。
イタヤガイは先述のように、ホタテガイに、比べてはやや暖水牲で水濫10∼200Cの範囲に
多く棲息している。養殖の場含水温26∼27℃以上では麗死員も見られるように、高水温には
弱いが、ホタテガイと比べると強いようである。成長段階による環境適応、蛸脚条件などの物
理・化学的環境については、ほとんど調べられていない。
(2)増養殖技術の開発
繭提となる種苗生産の現況についてまずふれよう。種苗生産には天然採苗と人工採薗の二法が
あるが、天然採苗については、51奪頃から島根県水試鹿島浅海分場で行われ、その技法にっ
いては未完ながら一応のめどは立てられている。しかし、効果的な採苗方法、例えば、どの海域
のどの水深に何蒔頃、採苗器を入れたら効率がよいかについての基本となる問題は解決されてい
ない。一方、人工採藤11)についてみると、現在十分な冤通しは立てられていない。現在のとこ
ろ広島出水試が殼
長1㎝余の稚貫を
1万個単位で採苗
浮
されているに過ぎ 子
ず多くの品題を抱
海面・一ダ
えている。すなわ
一一タ
ダ
3鵬
チ
ち、浮遊幼生期の
イタヤガイに適し
25臼a
た植物性餌料の大
量培養技術、原生
動物のi発生防止等
が問題となってい
沈
子
,削、、、∫職
そ1幌臓1騨㍉ミ∵鑑∫…謄1・’∫f’誤軍淑;:’言、・こ・∼こ1ごll言=歌ミ∫翼1・,曜・∴ザ
∴’ノ・
る。次に、天然採
苗及び養殖技術の
図D−3 イタヤガイはえなわ式天然採苗施設(島根粟の例)
実際についてみよう。
佐鴛は、13)廃品県雨曇沖の水深28mの海域でコレクター(エンビ波型板2枚を璽ね、玉ネギ
袋に収容したもの)を1【n毎に垂下し、実験を行っている。これによると、3月に投入、7月
取り上げた結果、顎調に採苗され、イタヤガイは申層以下に多く付言する傾向がみられている。
養殖については前記採苗した稚貝平均2q皿ものを真珠籠(35×35(鵬)に収容し、飼育最適密
度等を検討しているが、1籠当たり10∼20個が成長がもっともよかったとしている。養殖によ
一61一
る心内における減耗は密度に比例して高まる傾向がみられた。
(3)漁 場 管 理
イタヤガイは右殼を砂中に、誌面を上向きにして着底生活しているが、体の多くを砂より露出
14)
しているため移動が大きく、移動防止のための施設の必要性が述べられている。
鳥取公水試は
昭和40・41年4・6・7月、2,350掴の成貝に付標し放流実験を行っているが、これによ
ると、移動は南東方向が全体の47%を占め、移動距離は最大6㎞で3㎞以内の再捕が全体の81
%を占めていた。このように深浅移動は少なく、等深線の方向に大多数が移動していた♂5)この
実験では、予想した程大きな移動は見られていない。しかし、移動の実体は季節によっても相違
することが考えられるので、今後更に実験を重ねる必要がある。しかし、他の二枚貝に比べて
は移動が見られるので、漁場管理については十分注意することが必要である。
3.今後の進め方
(1)天然発生量の安定増大技術
イタヤガイは、前記のように稚貝の突発的な大発生に基づく資源の形成によって漁業が成り立
っている。異常発生の機構については明確にされていないが、多岐に亘る環境条件の相互作用に
よって発生初期、中でも浮遊幼生の生き残り如何が結果的に大量発生に結び付くとする見方をと
るならば、流れによる浮遊幼生の分散・集積の状況と生き残りとの関係、幼生串画期における餌
として取り込み瑠能な10μ以下の餌料プランクトンの多寡と生き残り関係などを海洋条件も含
めて把握する必要がある。岡時に稚貝発生量あるいは成貝の現存量と浮遊:幼生量との関係について
も明らかにしておく必要がある。
イタヤガイは、付着期を経て心底生活を送るが、この付着期を人為的にうまく管理することに
よって生き残りを高めることが可能である。また、付着器物をこれら水域に設置することによっ
て稚貝の脱落を防ぎ、これにより生き残りを高めることもできる。このためには基本となる付着
基質の天然海域での実体を知ると同時に、主産卵海域及び浮遊幼生の分布実体を明らかにしてお
く必i要がある。
産卵後、約3ヵ月を経る頃から稚員は器物から離れて着底生活を送るようになるが、着底場の
環境のよしあしは減耗に大きく影響すると思われる。すなわち、イタや稚貝を泥底に放流した結
果、そのほとんどが死滅した例が示すように、底質と生存条件、あるいは、ヒトデ、魚類などに
よる食害の影響、カシパン、クモヒトデ等の生物が場を占拠して他生物を寄せ付けないといった
生物環境も含めた環境諸条件と生き残りとの関係を明らかにする必要があるし、また、浮遊幼生
の分布と主要着底域などを物理的環境条件も含めて検討する必要があろう。
② 増養殖技術の開発
種苗の大量確保は、当然のことながら増養殖を図る上での先決条件となる。すなわち、母貝
の少ない今日では十分な量の種苗を放流するのでなければ再生産力を具える面倒集団の形成は容
易でないし、また、養殖漁業を展開する上でも必須条件の一つであると考えられる。
天然採苗による採菌技術については島根県水試等の努力によって、実りつつあるが、効果的採
苗のための、採苗適期、採苗海域等解決されねばならない問題が山積している。このため、浮遊
一62一
幼生の水平、垂薩分布、蠣集条件等を広範な海域を対象とし、物理・化学的環境を含めて調査す
る必要がある。天然採苗は発生量によって年変動があると考えられるので、人工採苗による安定
生産が不眠欠である。人工採苗については、多くの技術上の問題が未解決で量産のめどが立って
いない。目下の所、自家受精と異常発生との因果関係、養成に必要なイタヤガイ餌料生物の大量
培養技術、原生動物発生の抑制技術の開発等が急がれている。
一方、養殖については、島根県隠破島海域で小規模に行われているが、当面次の点について解
決せねばならない。
①種苗の大量確保
②種苗の學期確保、魚期養成
③養殖管理技術
④外海域での養殖技法
(3)漁場管理技術
イタヤガイは前記のように、他の二枚員に比べて移動が大きく放流海域あるいは着底海域から
逸散することが考えられるので、その実体を少なくとも四季にわたって抑える必要がある。また、
前記の調査結果得られた知見をもとに、実験漁場を設置し、各種生き残り条件を含め検討する必
要がある。
屡,着手すべき研究課題
イタヤガイ大量発生機構の解明
(1)浮遊期・付着期における減耗過程とその解明
① 浮遊幼生の分散・集積機構と生き残りに及ぼす影響
②餌料プランクトンの多寡が生き残りに及ぼす影響
③付着器質の探索と付着海域での付着器質の存在の意義
② 着盛期における減耗過程とその要因
①棲患場の環境条件の把握
②食害及び競合生物等生物環境条件の把握
③成長段階別分布と減耗実体の把握
(3)稚仔発生量と漁獲量変動との関係の解明
①浮遊幼生量と奪級別現存量
(4)繁 殖 生 態
① 雌雄同体の場合の繁殖生態と生き残りの関係
②産卵海域の把握
く5)種苗の安定生産技術の確立
① 天然採苗・人工採苗技術の開発
② 養殖技術の開発
⑥ 漁場管理技術
①とくに成貝の逸散防正技術
一63一
②生態系改変によるイタヤガイ資源の増大技術
引 用 文 献
1)鳥取県水産試験場(1925) 板屋員調査,大正13年度鳥取県水試事業報告4;26∼35
2)鳥取県水産試験場(1927) 板屋貝調査,昭和元年馬取県水試事業報告2:10∼23
3)町申茂,田島遽生,橋田新一,内木幸次(197G) イタヤガイ(異常発生)の調査結果につい
て,石川県水試事業報告(昭和42年度),37∼57
4)小林啓二(1971) 鳥取県沿岸海域のイタヤガイについて一互鳥取砂丘域における大発生、鳥
取県水試報告8:13∼24
5)平松達男・玄海丸乗組員(1957) 玄海灘におけるイタヤガイの分布と漁獲状況について(豆)
昭和31年度福岡県水磨事業報告12∼22
6)田申彌太郎(1971) 雌雄同体、卵生型二枚貫での自家受精、イタヤガイ・水産増殖18(4)
209∼210
7)田中邦三 館由湾のイタヤガイについて、千葉県水磨(資料)
8)平松達男(1949)イタヤガイの成長と産卵期について・福岡県水試報告・福岡県水試事業報
告昭零日24葺三胎].9∼25
9)鳥取県水産試験場(1926) 板屋貝調査試験38∼53
10)大島展志(1977) イタヤガイ天然採苗試験(予報),昭和50年島根県水心事業報告288
∼292
11)堀田正勝(1977) イタヤガイpecもea albicansの幼生と稚魚の飼育について(予報),
広島県清寂研究報告9:37∼44
12)鈴本博也(1979) 隠岐島々前におけるイタヤガイの採苗と放流について,島根県栽培漁業セ
ンター,イタや貝養i殖シンポジウム資料
13)佐竹武夫(1978) イタヤガイ養殖試験1∼頂,島根県農試事業報告27G∼283
14)田中彌太郎(1977) 員類増殖場の形成条件、イタヤガイについて,水産土木,14(1)19
∼24
15)小林啓二(1971)鳥取県沿岸海域のイタヤガイについて一1標識方法と再捕結果からみた移
動と成長,鳥取県水蜜報告8:1∼11
一64一
(B) ア カ ガ イ
1.解析のねらい
アカガイは北海道乙部から九州に至る雲底域に広く分布する比較的大型の二枚貫で、特に瀬戸内
海や九州の内湾域では成長も早く、高価なため沿岸漁業の重要な漁獲対象資源の一つである。また
増養殖対象種として近年急速に重要視されるようになった。
二枚貫類は一般に豊凶の差が大きく、アカガイもこの例にもれず時に大量発生がみられる。アカ
ガイ漁は一般に他の漁獲の少ない冬期に行われるため、豊凶は漁家経済に及ぼす影響が極めて大き
い。
冷温離産研究も進展畷飼励ものを・千騨位で生産すること綱能と豹∼)二二育成、
鮪藁薦も講的賄われ多)3)4)5)生態的一高積されつつある力確卵母賠源の不足、
赤潮や食害生物等による影響のためか漁獲資源は低迷している。
周防灘及び大村湾は大部分が泥底海域でアカガイの生息に適した条件を具えていると考えられ、
今後の概究成果に基づく資源管理を行うことによりアカガイ資源の二大と安定した漁獲が得られる
ものと考えられる。
このようなことから瀬戸内海(周防灘)並びに大村湾におけるアカガイの発生機構要因や生息条
件等について生物、環境の禰面より以下の事を検討し、今後の研究課題や技術開発の方向を策定する。
①大量発生時前後のアカガイ資源の動態、環境等資料の収集解析。
②アカガイの生理、生態、害徹生物等の資料の解析。
③アカガイの養殖、移殖放流の資料の解析及び減耗要因の検討。
2.技術の現状
(1)周防灘におけるアカガイ資源の動態と環境条件
周防灘におけるアカガイの漁獲量は昭和元年に山口衆で250トンみられたが、3年には100ト
ンに、7年には5◎トンと急減し、昭粕15年には5トン以下になった。その後昭和36隼に大
分県下で発生がみられ、昭和41奪2溜3月にはじめて福岡県下でアカガイを目的とした貝二二
の操業が行われ28トンの鞭をあげた9)昭和41鞭以降の周防灘,出る漁獲量厳D−1
に示したように3察それぞれ異なった様相を示している。山口累では41∼45駕までは農林統
計にアカガイの資料がなく漁獲量は不明であるが、42年度は周防灘中央域で1漁協だけで、
1,◎◎0トン近くの漁獲がみられた。46・47年度には1,0◎0トン以上を記録したが、50年に
は145トンとなりその後少し増えている。福岡県では43年に16,50◎トンと急増したあと急滅し、
蓑D−1 周防灘におけるアカガイ漁獲量(カラ付、トン)
年
ァ名
山口県
41
汢ェ県
蝠ェ県
420
510
T7
S5
42
46
47
48
49
50
51
52
1,573
1,084
545
214
145
169
205
16,500 5,◎00
@5
@2
@129
L800 @6◎ @12◎
@641 Q,489 @330 P,524
W15
P12
Q99
U2
43
44
45
*山口県は農林水産統計、福岡、大分累は漁協等の資料より水試で推算した結果による。
一65一
48年以降は数トン以下になった。大分県では43年から急増し45駕には2,500トンを示した
が二三は急減したあと47隼には1,5GOトンとなったがその後減少した。このようにアカガイの
漁獲量は年変動が著しく大きい。
現在までの周防灘におけるアカガイの主要漁場は図D∼4に示したように泥底域のほぼ全域に
わたっている。福岡県では照和41年度は申部と南部に、42年痩は北部と南部に、43、44
年度は北部に、45隼度は中部と北部に、46矩度は北部と中部に47年度は沖合部に濃密な生
患がみられ主i要な漁場を形成したf)7)8)9)10)11)山口県では昭和42年度に周防灘中央域
に、43∼47年度には新南陽沖に、46年度は光沖に濃密な生患がみられ主要な漁場を形成し
た’2)大頒では中津から蘇半顯部にかけて主要な醐を形成した.1違)以上のように比纐
永く漁場価値を維持している海域もあるが、主要漁場は年々変っているようである。
大分県
0
肇0
20
3Gkm
図D一等 周防灘こおけるアカガイ主要漁場の変遷
今まで述べたように漁獲量の変動とともに漁場の変遷も著しい。この漂因を探るため福岡県
豊前水試の資料によって漁獲されたアカガイを各年級に分け、各年度に獲られたアカガイは何年
貝が欝で、その群はいっ生ま批かを翻した’)15)福岡県で1媚和41年2∼3月に_部
海域ではじめて操業し28トンの漁獲をあげた。図D−5に示すように43年に16,500トン
を漁獲されたあと漁獲量は急減している。41年度の漁獲内容は38年生れの3年貫が83%、
39年生れの2年貝が10%、37奪以前生れの4年貝以上が7%、40年生れの1年員が1%
で主群は38年生れの3駕貝であった。42年度は40年生れの2奪貝、43年度は41年生れ
の2年貝、44年度は42年生れの2年貝、45年度は中央部、北部とも43年生れの2犀員と
一66一
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1
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図D−5 周防灘福岡県海域におけるアカガイの漁獲量変動と年級組成よりみた発生率
1年○、2年鯵、3年癒、4年以上あ、図申の数字は漁獲及び調査年度を示
す。
一67一
41年度を除き全て2年貝が漁獲対象主群である。その後は漁獲量が下るとともに少し様相が異な
り46奪度は2、3年貝が、47年度は2年玉と一部1年忌が、48∼50年度は47年生れの
1、2、3年貝が主群となっている。山口、大分県下でもこの状況はほぼ同様である。このよう
に漁獲対象となるのは通常2年貝で、一部産卵する個体もあるが、産卵量は少なく、大部分は産
卵しない未成貝で占められている。一般に好漁場では生面密度が高いため漁獲率が高く、産卵主
群となる3∼6年貝は獲られやすいため生き残りが少なく、産卵の絶体量が不足し資源量に影響を
及ぼすものと謡えられる。福岡県の例でも多量発生奪は昭和38、40∼43年の5ケ年でその
後は発生量が減少している。
周防灘では海岸域や東部中央域を除けば大部分が泥底海域で、アカガイ漁場は泥の強熱減量10
%以上、泥率70%以上の比較的有機物の多い、流れのゆるやかな堆積的環境に多くみられるよ
うであるが薄)正7)18)未だその特性や大量発生との関連は把握されていない。また初期減耗の
大きい浮遊幼生期の餌料量との関連は明らかにされていない。
(2)大村湾におけるアカガイ資源の動態と環境条件
大村湾におけるアカガイは、従来よりモガイ等とともに少量が混獲されていた程度であったが、
漁獲の対象種として大量に採取され始めたのは昭和38、39鋸前後の大量発生をみてからのこ
とである。湾内アカガイ生産量については、統計資料がなく、くくその他の貝類”として他州とと
も},_骸示されていた.したが。て、癬析に当た。ては、農鞭誰料19)轍。して湾内統
計事務所、各漁業協同組合の聞きとり及び原簿等による分析によってアカガイを類別し、若千の
補正を加えて大村湾アカガイ生産量を求めた。これらを表1)一2、
表D−2 大村湾における
図D一6に示す。ここ20年間の湾内生産量は・前半39年の515 アカガイ漁獲量
トン、後半48年102トンをピークとして、平均50トン前後の
生産量であるが、豊凶の年変動が著しいことを示している。昭和
19)
40年における湾内アカガイ推i定量は、
殼長6∼10c田の成員
で約1,500万個、1,900トンであり、分布は図D−7に示すよう
に大村湾南部の津水湾が濃密で、次いで箕面西方海域、彼拝沖合
域に多く分布している。また殼長2∼6c撮の幼貝は約1,200千万
個と推定されており、その分布は、ほとんどが湾内南部海域で、
他に彼杯沖域にわずかに認められる程度となっている。最近6ケ
無(昭和47∼52年)聞のアカガイ漁獲高を集計し、各漁業協
同組合別の比率を示すと表D−3、図D−8となり前述の分布図
と対比して主要採貝漁業を伺い知ることができる。
昭和38奪以来、大量発生によるアカガイ漁業も、昭和40年
夏季における例年にない大規模な赤潮の発生によって、海底の無
酸素又は貧酸素現象との関連でほとんど金面に近い被害を受け、そ
の影響は昭和46犀まで続き、生産は皆無に近い状態となうた。
暇和47奪より再び発生がみられるようになり、現在まで湾内資
源は維持されてきていると推定される。
一68一
年
漁獲量幣
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0
0
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
41,000
0
7,000
30,000
515,000
27,000
10,418
0
2,◎00
0
0
0
48,254
102,349
26,447
53,978
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38,788
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図[)一7 大村湾におけるアカガイ分布
35
照
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昭禾瞬0年7月
凡例は10m2内の個体数
(塩川・入江1965)
図D−6 大村湾におけるアカガイ漁獲量
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図D−8 昭和爆7∼52年にわたる36ケ年間
図D−9 大村湾水系模式図
のアカガイ漁獲総量の大村湾内各漁協
(長崎水試:大村湾調査
昭牽03匪年よリ)
別漁獲高箆率
一69一
大村湾の環境とアカガイの棲息との関連についてみると、
表D−3 昭物忌7’》52年に
大村湾は、佐世保湾を経て外海と連らなる湾目の狭い閉
わたる6ケ年聞のア
鎖醜内湾であり、湾内の水系は図D_92聚示すように、
外海水は湾口より西彼粁沿岸に沿い南下し、形上湾口付近
カガイ漁獲総量の湾
内各漁協別漁獲高比
率
まで至る。一方、注水湾及び東彼杵沿岸に発達した沿岸水
漁業組合名
は沿岸沿いに北上し、川欄付近で流入した外海水と混合し
漁 獲
高
%
むons
湾奥に向うとともに、一部は落潮時に流出する。また湾の中
針 尾
央部には、この2水系にあまり影響されない固有水が存在
するとされ、湾内の海水流動は比較的悪く、その上水深が
1,700
0.6
佐世保南
3,850
1.4
川 棚
東 彼 粁
大 村 市
3,154
1.1
4,527
1.6
45,198
16.3
大村市東
79,636
28.9
多 良 見
30,907
11.2
の年変動にかかわりなく、毎年夏季に、湾中央部付近に溶
大村市南
80,463
29.1
存酸素量の欠乏した水塊が鵠現することである。つまり、
西 彼 粁
14,035
5.1
12∼4月の冬期は、酸素量6罐汐/4程度を示し、表層か
瀬 川
12,450
4.5
浅いために気象の影響を強く受けやすく、夏季においては
成層が発達しやすい条件をそなえている。このようなこと
から、大村湾の環境の特異な現象としては、水温、塩分等
ら底層まで大差はみられないが、成層の発達する6月から
7月にかけて底層水塊の溶存酸素量は急激に減少し、鉛直混含の始まる9月目で持続し、10
彫なれば恢復する劉また、このことについて轟木23)は、艇8月を中、旅著しい囎が形成さ
れ、盛夏の底層水の低酸素域と低水温域はほぼ一致し、成層の大きい年ほど成層の低酸素化の規
模も大きいとして、底層水の溶存酸素量と水温との聞に正の桐関関係を認めている。一方、長崎
県水法試験鵬24)の大命観測記録をもとに、昭和28隼∼51年目枡、る約13輔の水温
及び溶存酸素量(何れも全湾の平均値)の平均値(表D−4、図D−10)から各年の差の変化
をみると、図D−11−1∼3、図D−12−1∼3、図D−13−1∼2のとおりとなる。こ
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図D一霊◎ 大村湾の:水温、溶存:酸i素量の周年変化WT:水温、 DO:二丁酸素量
(昭稲28∼31、42∼44、46∼51年の13年間、全湾平均)
一70一
れらの図からみても、7、8月については、底層水の水温が低い年は感心酸素量も減少するとい
う傾向を伺うことができる。
表D−4 大村湾の水温、溶存:酸素量の周年変化
(昭和28∼31、42∼44、46∼51年の13年平均)
(大村支所定点は昭和35∼52年の18年平均)
長崎県水産試験場、大村湾佐世保湾漁場環境調査報告より作成
平均水温
℃
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3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
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14.6
19.5
23.1
27.1
28.8
27.1
22.6
17.4
12.3
22.5
26.1
27.8
25.1
22.5
16.6
19.2
22.5
25.1
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17.5
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23.1
17.5
15.1
21−25
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10.3
17.2
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22.6
25.2
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23.1
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9.1
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9.0
10.1
8.◎
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10
9.0
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8.2
14.7
2
3
(3)*
8.4
14.3
5
14.9
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二二酸素量
笏〃6
用脚
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0
2
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4
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6.63
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11
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5.66
5.28
5.21
5.06
5.65
5。翫
5.65
5.39
5.34
5.63
5.04
5.72
5.84
6.36
5.09
5.31
4.89
5.61
5.53
5.30
5.37
4.94
4.99
5.74
5.62
5.82
6
5.84
5
5.82
10
6.68
6.79
5.75
5.14
4.90
4.87
4.38
4.89
11−15
6.71
6.67
5.47
4.57
3.74
3.72
2.89
4.67
5.52
5.49
16−2◎
6.56
6.53
5.25
3.60
3.◎1
2.40
2.67
4.67
5.49
5.54
21−25
6.70
5.29
5.02
3.78
2.89
1.70
2.86
4.75
5.39
5.54
水温及び酸素量の2っの環境因子からみたアカガイの棲息条件は、水温の上限は27℃、酸素
量の下限は0。5寵〃6とされており、大村湾の環境としては、底層(10m以深)において27
℃以上の水温が長時間出現するような年はほとんどないようであり(表D−5)、アカガイの棲
慰は十分可能であると考えられる。
しかしながら、底層水の溶存酸素量が年によって極端に減少し、無酸素の状態が湾内の広い範
囲に、また長期にわたり出現する場合があり、このような年には夏季において棲息が不蔚能となり、
アカガイの棲患量は極度に減少するものと考えられる。一方、10m工専の海域においては、ア
カガイの聖恩を規制するものとしては、無、低酸素化現象よりも、むしろ27℃以上の高水温
(表D−5)の出現にかかってくるものと考えられる。
表D−2、図D−7に示した:過去における、大村湾アカガイの漁獲高の著しい年変動も、主と
一71一
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大村全湾平均値よりの各年の差の変化
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Q 、 、 、 、 、 、
や2
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一
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㌔
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q
、、、
u
SEP O
SE:P O
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f 、
一
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C 、
一2
g 亀
δ l l 匿 隆 I l l 留 幽
口莚 42 ム3 44 45 ∠お 47 48 49 5◎ 51年
図D一肇3−1
大村湾における水温、溶存酸素蟹(7∼9月)
の平均値(13ケ年)よりの差の変化
(津水湾) ・水温 o溶存酸素
F
、b
’
’ 」
C 、
掾@ O
、
一1
’
脚
一2
6
o
1
「 監 1 匡
1 1
「 匹
ヨ召 42 43 44 45 46 47 ∠8 ム9 50 51 左ド
図D一13−2 (長与地先)
c
cシ
して底層水の無酸素化現象の出現と連動しているものと解析される。
表D−5 平均水温27℃以上の出現状況(5m以深)・(全湾平均)
5m 10m
年 月
July
5une
28
29
30
S2
43
44
Aug
Sepも
年 月
June
July
Aug
Sepも
28
29
30
S2
43
21.4
23.3
26.9
25.8
囮 國
國 團
26.6
26.0
26.7
25.6
46
47
S8
49
Q8.2
Q6.1
23.0
25.6
27.0
24.8
44
46
47
S8
49
50
22.5
26.5
28.3
23.7
27.3
24.5
50
51
25.2
22.1
團
21.9
5・1
21.0
22.2
年 月
June
July
Aug
Sept
年 月
Ju丑e
28
20.8
23.3
26.3
25.6
28
29
30
20.3
20.9
25.5
21.4
25.1
Q1.9
26.4
25.6
27.4
25.5
30
42
43
44
46
47
48
24.7
20.7
24.5
Q1.2
22.1
娃9
50
51
囮 囮
園
26.9
25.9
25.9
25.7
23.8
21.1
21.4
23.8
24.8
20.7
23.0
25.8
25.4
25.5
Q6.3
24.6
26.1
24.7
囮圏
26.4
2農.7
Julア
Aug
Sept
22.5
宏4.8
25.7
21∼25m
26.3
20.5
25.0
26.4
20.6
11∼15m
29
圓國
国
園
26.8
25.4
26.5
26.8
25.8
24.9
國 圃
25.9
24.9
42
43
44
46
47
48
49
50
51
21.6
26.4
23.4
圃
23.6
26.7
25.0
25.3
26.1
25.6
25.2
26.0
24.3
24.8
25.5
18.9
24.2
25.4
24.6
25.8
國
24.5
(3)増養殖技術の現状評価
1)周 防 i難
①アカガイ種苗生産の現況
種苗生産研究は天然採苗と人工採苗の両面から行われているが、天然母貝資源の少ない現
在では人工採苗による種苗確保がより効率的なため当面これに主力を注がざるを得ない。技
術上残された問題点はあるが、曜和51年度から山口県内海栽培漁業センターで約しOOO万
個の殼長1厭m稚貝を生産するに至った。中聞育成技術開発研究も進み、この稚貫を事業的規
模で馬長20∼40mmに育て、歩留りを約30%に向上させるまでに至っている。今後は歩
一76一
留りの向上と種苗としてどの程度の大きさが好適か検討する必要がある。
② 養殖における減耗要因
放流種苗の適正な大きさ、密度、環境やへい死要因、成長、成熟等を検討するため人工種
齢鯉した養瀦験が行われている.その結果について旧例厳D−6に示した95)由口
湾では暇和51年度:は中層で8月上∼中旬に大量へい死がみられ、この時の水温は28℃で
あった。4鐵の海底でも同様なへい死がみられ、最高水温は26。4℃を示した。一方水深23
mの光港ではヒトデの食害があったにもかかわらず生残率48%を示し、最高水温は山口湾
よりややおくれて22.6℃と低い値を示した。7月から麗始したものは夏期のへい死はあま
りみられず11’}12月に約20%へい死したにとどまった。52年度は山口湾ではへい死
の様縮が前年とやや異なり中層でも夏と秋に約3◎%ずつのへい死にとどまり、生残率も32
%を示した。水温が平年に比べ2℃程度低く、これが影響したのではないかと推測される。
海底では大量へい死はみられなかった。光港では夏のへい死はあまりみられず秋から冬にわ
ずかなへい死がみられた。52年度の山口県下24カ所の成績は中東部の深い海域では7◎
一8◎%の生残率を示すが申薦部の浅海域では8∼10月に大量へい死がみられた。
広島湾奥域の大野瀬戸における54年の結果はかごの鷹に海底泥を約5c磁敷いたものと泥
を入れないものではへい死の様子が少し異なり前者では9月まで62%の生残率を示したが
その後10月にかけて大量へい死(40%)した。後者は4月から徐々にへい死し12月現
在で両方とも生残率は12%にとどまった。泥を敷いたものは潜泥して三糸でしっかりと定
着し、殼皮もはげず天然での生息状態に近いものと推瀾された。
以上の結果から大量へい死のみられるのは主として夏期の浅海域であり、これらの海域で
は高水温になりやすく、また潮汐流に伴う湾奥水と沖合水の交換によって水温変化が著しい。通
常環境変化の比較的小さい海域に生息するアカガイにとってはこのような水温変化はへい死
に結びつく大きな要因と考えられる。
③人工種苗放流の減耗要因
天然アカガイの移殖放流は1∼2年貝が大量に漁獲された驕和40年代に瀬戸内海各地で
行われ35)好結果を得られたところもあるが、その後瀦の不足で現在はほとんどみられな
くなった。天然種苗の滅耗要因についてはほとんど調査されていない。
人工種苗の放流も各地で試験的に実施されているが、その効果についてほとんど分かって
いない。ただ山口限光漁協の稚貫生産組合が51年5月に殻長40鵬、重量159のアカガ
イを15,000個放流し、1鋸後に重量107甥のものを約5,0◎0個、取りあげた例がある。
放流効果のあがらない原困として放流種苗の移動、害敵生物による食害、産卵後の疲弊、
生息環境の悪化(低酸素水塊、高水温)放流種苗の質、大きさ、放流量の不足、再二二徳、
密漁等が考えられる。このうち種苗の移動は放流後39臼までの閥に簸高1.5田しかみられ
ず、特に考慮する必要はなさそうである。害敵生物は由口県下松、光市地先ではヒトデが主
で種苗放流後急激に集まり最高11個体/瀟2となりアカガイ密度の高い場所に多く集まる傾
向を示した。ヒトデはアカガイを泥中から抜き出して食べ、食べつくすと急激に減り、共食:
いもみられた。アカガイは放流後18∼39日にほとんど食審された至)生殖巣の成熟は1年
一77一
表D−6 アカガイかご養殖試験結果
試験海絨
1
由 織 湾
山 q 湾
山口県光港
出口県光港
撮 口 湾
山 口 湾
山口日光港
慮口県光港
山q日光港
広脇目大野沖
広廃県大野沖
設鍛水深(m)
4
2
23
23
4
2
23
鈴
23
5
5
設 置 場 所
海 底
申 願
海 底
海 底
海 底
中 層
海 底
海 底
海 底
海 底
海 底
かごの大きさ
@ (㎝)
30×30×15
T0×50×30
33×40×15
30×30×15
45×30×15
45×30×i5
45×30×15
45×30×15
30×30×15
45×30×!5.
45×30×15
45×30×15
貝の収容数(個)
60四30G
50∼100
60
紛
50
50
50
26
50
50(泥)
50(泥なし)
水 源 (℃)
11.2∼26.4
1玉.0∼28.0
11.0∼22.6
1LO∼22。6
9.8∼26.8
7.9∼27.8
19.6∼24.2
14.0∼24.9
最高水温期日
51,841
51。8.11
51.9.4
51.9.4
52。9.8
52.8.5
52。9.17
54.8.3(ト9.26
堀素量(%¢)
16,26∼ま8.03
9.62∼18.42
18,28∼17.91
18,28∼17.91
16.42∼18.44
17.8∼18.52
漏分率 (%)
79.2
89.2
89.2
圭6.5∼18.37
79.2
醐 左
岡 左
16.55∼玉7,27
同 左
89.2
→
f
DO (緩/8)
2.1∼7.5
2.2∼7.6
4.0∼7。4
3.0∼5.0
最低DO期錫
52.9.29
52.9.29
52.9.1?
54,7,暫
幽 始 期 日
51.6.4
51.6.4
51.6.5
5L7.31−8.1
52.7.22
52.7.22
52。7.23
52.7.23
52.4
54.4.26
54.4.26
終 了 期 日
51.12.15
52。12.15
52.1.8
52.1.14
53.1.20
53.1.20
52護2.10
52.12.1G
52.12.10
継 続 中
継 続 中
39.8(15.3)
39.8(15・3)
39.8(玉5.3)
5L6(36.0)
41.8(24.9)
41.8(24,9)
41.8(24,9)
64,4(8L4)
50・4(36・3)
32.7
32.7
53.9(42.3)
53.4(40.6)
58.0(68.8)
70.2(92.6)
58.3(50.4)
57.0(49.6)
53.2(48.2)
67.2(99.4)
65.3(72.8)
53.3
i12月現在)
50.8
王8.3
10
48.3
72.5
68.0
32.0
84.4
80.8
86.7
玉2.4
玉露.8
i12月現在)
i12月現在)
11削12月
8月一ヒ{・1月
7月下∼8月下旬
X月下層1且ヒ旬
9月毛∼下旬
4∼10月
富の大きさ㎜
e始時 (9)
貝の大きさmm
I了時 (の
生残率 (%)
主なへい残時期
8月.ヒ∼申旬
8月上酎中旬
へ い 死 盤
大 難
大 量
ヒトデの食害
約20%
除々に
実旛 場 所
山口内海水試
同 左
劉 左
隅 左
岡 窟
1G月下∼
9月申∼
10月下∼
i犯月現在)
@12月上旬
@12月申旬
各約30%
約10%
20%
約10%
40%
燈油に
問 左
岡 左
岡 左
罵 左
南西水砥
岡 在
@12月上旬
貫ではほとんどがみられず、2年貝も一部の喜喜がわずかに成熟する程度で、放流種苗の産
卵による疲弊は考えられない。低酸素に対する抵抗性もかなり強く、5∼10%の酸素飽和
度海水中で1週間へい死がみられず、通常の海域では低酸素の影響は考えなくてよい。以上
のことから海域によって生物相が異なり人工種苗放流後の滅細越困も違うであろうが、山口禦
沿岸については放流初期の減耗の大部分はヒトデによる食害と考えてよさそうである。
以上、周防灘におけるアカガイの資源管理を行うために必要な技術の現状について概略を述べ
たが、アカガイの利用方法が将来あまり変化しないならば漁獲対象となるのは主として未成貝
の2年貝である。したがって再生産を図るには漁獲対象群とは別の母貝集団(3∼5隼員)を造
成する必要がある。このための技術開発が最も重要なものとなろう。
2)大 村 湾
大村湾におけるアカガイ資源維持回復のための増殖事業としては、近年になってからである。
天然採苗事業としては、長崎県漁連が地元漁業協同組合と協力して、昭和52年より実施し、
岡年夏季(7月下∼8月上旬)に津水湾、形上湾等において天然採苗を行い、稚貝約3万個を
採取し好結果を得ている。しかし53年度は僅少の付着で期待した結果は得られていない。こ
れら稚仔を低層籠垂下法により越冬せしめ、翌年3月までの生残率は約30%を示したが、夏
季にいたりそのほとんどが死滅した。採苗後満1年に至るまでの越夏の技徳的解明が本湾内で
の大きな問題点として指摘されている。一方、人工種苗による申聞育成事業としては、照覇53
年72万個を濾水、形上面等3ケ所で底層籠垂下により、また54年度1こは80万個を湾北部
瀬川、佐世保市地先海域で各々実施したが、生残率が低く、とくに夏季におけるへい死対策が
問題点として残されている。大村支所においても、これら盛夏条件を予察的に検討するため、
。1。 ℃
錆自m.
DR WT
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SG
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60
3
鱒誤?・。’tl這
25.
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DR
20
2G.
動 % %
40
◎o
努 影
%聚3 彰
(瑠54)
図D−14 アカガイ養成のへい死経過
WT:水温、 SG:地重、 RF 降雨量、DRへい死率
一79一
建。
人工種苗による育成試験を実施したが図D−14に示したように水温27℃を越えた時点で急
激にへい死が高まることが観察されており本四の夏季における蒋徴としての低酸素域の出現と
ともに水濫が重要な要因の一つとして指摘される。
3.今後の進め方
子鼠灘、大村湾における資源動態の事例解析から、資源増大に働く環境条件と生物学的条件が明
らカ〉になった。
環境的にはアカガイの稚貝期、成工期における減耗の主体となる夏の底層水の無酸素水塊の形成
機構と機序を明らかにすることが天然漁場の利用方策を確立するに当たり還要であろう。また、生
残率の埴加を図るためには稚貝期を除けば潜泥性の二枚貝であるアカガイの体制と行動を把握し、
生活段階に応じた環境適応の機構及び適応の限界について明らかにし人為的に減耗阻比を図る管
理技術を開発する必要がある。
資源工大の手段としては、第一に種苗確保の方策(天然採苗、人工採苗、)を明らかにすること、
とくに天然種苗生産過程において、浮遊期幼生及び沈着期幼生の生態を海域の生産力と関連させ
て減耗実体を明らかにする。第二に大量の種苗を用い産卵下等集団を造成する過程の問題点(種苗
越夏時のへい死原困と対策、食害生物の生態と防除、放流時、成貝時の密度等)を明らかにするこ
と。第三に以上の知見をもとに、さらに貫類の棲愚環境に水産土木学的な改変を加え図D−15の
アカガイの資源管理のサイクルを完成させる。
天 然 資源
培 養 資 源
母 艮
産
@卵
(浮 穿
天然採苗生産
V淳期 遊)幼(
人工種苗生産
中 間 育 成
@丁
t)( 幼潜 貝在 若 年 成 貝 親 貝
着 着
冝@稚
申間育成
一一一一一…一一一
天然着鷹
天然採苗種苗放流
人工種苗放流
旧離育成場
鼾¥部1 漁 獲
㎜
殻漁場
量再潔
國(2年貝)
期 貝
(2∼4無貝)
母 貫 集 団
母 貝 集 団
i3’》5年貝)
i3∼5年貝)
図D−15 アカガイ資源管理行程
一80一
一一一一
ァ園
瑠.着手すべき研究課題
(1)環境適応機構の解明
潜泥性二枚貝であるアカガイの体制(水管と挙足筋等の機構)と行動(潜泥能力、逃避、移動
能力等)を環境(水質、底質等)との関連で明らかにするとともに環境に対する適応の条件、機
構及び限界を究明する。
② へい死原因の解明
放流した種苗(人工・天然)は成貝、産卵母貝に成長するまでに各種要因によって発死する。
特に、放流の初期から8∼10月目かけて高水温となる海域では大量へい死が発現する。この対
策を虜らかにするため種苗形質、環境適応についての研究を行う。
一方、放流初期にはヒトデ等の食害、競舎生物の義心により棲所を奪われ、その結果放流効果
を著しく低下させている。アカガイの棲息場における食霧、竸合生物の生態を明らかにし防除法
を確立する。
(3)産卵母貝集団の造成条件の解明
a.廃熱、産卵機構の解明
産卵母員集団を確保し、再生産を図る場合、成熟及び産卵iのメカニズムを明らかにし、
母貝集団の適正配置を意図すべきである。
b、母貝集団の養成技術の開発
種苗を母貫まで効率よく養成し、また産卵された幼生群を効率的に採苗するためには母貝の
位置、幼生群の動向についての知見が必要である。このため、底質、底層水の餌料環境、流水
三等について総合的研究を行う。
引 用 文 献
(1)出口県内海栽培漁業センター(1978)山口内海栽培漁業センター事業報告書,昭和51,52
年慶36∼37
(2)中村雅人他(1976)山口県内海水試,昭和5◎年度指定調査研究総合助成事業報告書1∼26
(3)高見東洋他(1977)山口県内海水試,昭和51年度指定調査研究総合助成事業報告書1∼30
(4)山口禦内海水回(1978)照和52年度指定調査研究総合助成事業報告書1∼33
(5)出口県内海水試(1979)昭和53年度指定調査磯究総合助成事業報告書1∼18
(6)平松達男・多胡信良(1967)福岡県豊 前三二研究業務報蕾,昭和41年度41∼47
(7)福岡豊前三二(1969)栽培漁業〉[(斑)8∼17
(8)福欄豊前二二G970)福岡豊前水試研究業務報告,昭和44二度298∼3GO
(9)有馬功(1971)福岡豊前水試厨究業務報告,昭鵜45年度154∼159
(10)有馬功(1972)福岡豊前水試研究業務報告,昭和46年度179∼185
(11)林 功(1974)福岡豊前水試研究業務報告,昭和47二度109∼123
(12)由口県内海栽培漁業iセンター(1978)山口県のアカガイ1∼23
(13)大分県浅海漁業試(1975)大分浅海漁試事業報告,昭頼48年度39∼44
(14)大分県浅海漁業試(1976)大分浅海漁試事業報告,曜和49無度53∼62
一81一
(15)林 功(1977)福岡県豊前水試研究業務報告,昭和50年度87∼94
(16)山口,福岡,大分県(1975)西瀬戸地域漁業調査報告書,昭和46∼49隼度80∼107
(17)野上和彦(1973)農林水産生態系における汚染物質の循環と指標生物に関する研究,47犀
度研究成績報告書182∼193
(18)野上和彦(1974)農林水産生態系における汚染物質の循環と指標物に関する硲究,昭和48
年度221∼228
(19)長崎県統計情報事務所(1959∼1978)長崎県農林水産統計年報
(20)塩川司・入江春彦(1966)長崎大学水産学部薪究報告,21:103∼113
(21)長崎梨水産試験場(1956)大紺湾調査(総括概論)1∼25
(22)森 勇(1961)日水誌,27(5)389∼394
(23)轟木重敏(1978)長崎県水産試験場研究報告,4:1∼6
(24)長崎県水産試験場(1953∼1955,1967∼1969,1971∼1976)大村湾・佐世保湾漁
場環境調査
(25)南西海区ブロック会議(1977)貝類の生物学並びに増養殖技術に関する概往資料,1∼53
一82一
岩礁生物の資源管理
召
(アワビ、コンブ、ホンダワラ)
〔事例解析損当者名〕
所 属 及 び 職 名
担 当 者
菅
野
菊
地
浮
尚
東北区水産研究所増殖部長(グループリーダー)
溢
吾
〃
増殖部魚介類研究室長
血
久
〃
〃 魚介類研究室研究員
和
夫
〃
〃 藻類研究室長
鉤
〃
〃 藻類研究室研究員
也
〃
〃 〃 〃
秋
山
鬼
細
谷
口
和
斎
藤
雄之助
南西海区水産研:究所増殖部長
月
館
潤 一
〃 増殖部増殖第3研究室長
吉
川
浩 二
” ” 多曽殖第3研究室研究員
1.解析のねらい
我が圏の沿岸域のかなりの部分を占める岩礁地域での有用動櫨物を対象とする漁業生産は、沿岸
漁業の原点とも言うべき採貝藻によるものが主体であって、その生産性は低く、自然の生産力を超
える増殖生産の技術は確立されていない。岩礁生物の入為的な計画的生産拡大の技術が、別枠研究
「浅海域の増養殖漁場の開発に関する総合研究(昭和45∼49年度)」によって飛躍的に進み、エゾア
ワビ漁業を発展させるために必要な技術体系が提案きれ、その部分技術としてアワビの餌となる海
藻類について海申造林技術の基礎が明らか1こされ、また実証されるに及んで、この岩礁地域での漁
業生産の拡大に大きな期待が寄せられるようになった。
漁場環境が多様な岩礁地域の自然の生物生産の仕組みに人間が関与して、海洋牧場としてより高
度に管理きれた計画生産の場を作り出すためには、これまでの知見に加えて、有海増殖対象種につ
いて、人工生産種苗の種苗{生・環境収容力、海藻群落の遷移、漁場管理の巧拙等を生物学的止木技術
的に考察し、“獲れば獲るほど殖える資源のつくり方”の生産技術体系を確立することが急務とな
っている。“獲れば減る”という従来の岩礁域の生産についての固定概念の打破と新しい生産管理
の技術の実証がも岩礁域の漁業生産を飛躍的に発展させる上で重要な鍵をにぎっている。この事瀦
解析は岩礁域の生物生産に関係する主要な貝類・藻類の計画的な生涯管理に結びつく要素技術とし
てのコンブ科植物、ホンダワラ科植物、アワビ類の増殖技術の現状を解析し、今後の増殖技術開発
の方向、着手すべき硯究課題を抽出することを昌的としている。
事倒解析の対象とした重要種について、それぞれ次のような解析鼠標を設定した。
(1) コンブ科植物
一83一
㌔
o
。 喩。
o
o
多
み
蕗.
夢 曾
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一 「缶
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アカモク(S.んoγ駕γ客)
アラメ(1%Sθ幅α尻σ穿C麗s) カジメ(Ec規0短αCα⑳)
㌔
馨。 ㌔
o
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5 豊 塁薩蓼
o _ _
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一 、 一 覧ニ
8
ゾ 一誓
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♂’ヨレモク(S. 孟0γ孟ゼ‘θ)
オオバモク(8αγ9αs{凱糀γ輌σgo協απ%祝)
ノ篇ギリモク(&sεγ剛ゼ∫o‘ゼ臓)』
図E−1 岩礁生態系の主要大型海藻の外布
一84一
岩礁域の動物資源の餌料として重要なコンブ科植物群落を戯事的に存続させるために、多年生海
藻のアラメ・カジメの天然群落の生産拡大制限要因を解明する。また海申造林技術の高度化を図
るため、コンブ群落造成漁場での動植物間の種間関係を検討し、造林技術の体系化を図る。
(a)ホンダワラ科植物
沿岸域の有用水産動物稚仔の成育場、成体の摂餌場としての内海域のアカモクによるガラモ場
造成事例を、アカモクの生態と生育環境面並びに造成技術について解析し、またアカモク陣場の
効用を高めるためのガラモ場の海藻の種類構成を解析する。外海域については天然のホンダワラ
類群落の構成種や分布状況及び種苗育成並びに野卑造成技術の現況を解析し、外海域におけるガ
ラモ場造成の適種の選定や造成技術についての闘題点を明らかにする。
(3)アワビ類
ノ
これまで行われてきた種苗放流を申心とする資源の増殖的手法の実態を朋らかにし、漁業生産
量を増大きせる上での問題点とその技術的解決の方向を明らかにする。
2.技術の現状
(1)コンブ科植物の生態と増殖技術
①寒流域のコンブ入工群落
a.コンブの分布南隈地の宮城県江ノ島漁場の事例
東北地方、三陸沿岸では、アワビ・ウニ等の植食動物による食害が極端に大きく、無節石
灰藻のみが臼く岩礁を包むように生育している、いわゆる磯焼け漁場が多くみられる。このよう
な漁場から、主な食害動物であるアワビ・ウニを除去するとともに、母藻コンブを養殖し、
胞子の放出をうながして、人工群落を形成する一連の技術については「浅海域における増養
殖漁場の開発に関する総合研究」として詳しく報告されている。この技術により、窟城累江
ノ島における磯焼け漁場に1974年にはコンブ群落組成の80%以上を占め、その平均密
度が数十本、現存量約7◎トン、という極めて密度の高いコンブ群落が造成きれた。しかし
ながらその翌年には現存量約40トンに減少した。その理由については1974年秋から
1975年冬にかけての水母が高かったことと躍食動物による摂餌強度が過剰であった点が
報告きれている。その後この漁場は地元漁業協周組合の自主管理によ尻効率的に維持きれ、
1977年にはまた高い密度のコンブ優占群落が出現したが、1979年には入工群落前と
薄様、コンブが全く認められなくなった。この理由として、まず第一に1979年の春、夏、
秋を通じての高水温の影響が湾えられ、また前年度のコンブ発芽期にアワビ・ウニによる摂
餌圧をコントロールできなかったことが推察きれる。このようにコンブの分布南限地である
窟城県門ノ島附近の漁場では隼による穂生の変異が大きく、極根としての安定した状態でコ
ンブ群落を技術的に維持する1こは、躍食動物の巧みな調整が必要であり、また海況変動によ
る植生変化又は二次遷移の経過を十分に把握する必要がある。
b。青森県下北半島沿岸漁場の事例
青森県一ド北半島沿岸、易国津地先は海藻類の豊富な地域であり、優秀なコンブ地帯でもあ
る。この地先では、かってコンブ漁場であった場所に、現在多年生紅藻類の一種アカハダが
一85一
密生し、安定した極相状態を墨している。この漁場に、秋から冬にかけて多数のウニ(1,000
個体/m2)を放流したところ、放流約6ケ月後には放流点を疑心に約44m2の面積のすべて
の海藻、これらのウニによる食害により消滅した。さらにこの時点でこの附近のウニの全個
体を除去したところ、その年の8月には60本(8.8忽)/瓢2のコンブ群落ができあがり、
翌年の7月には9本(5んの/㎡の二年コンブの群落へと生長したことが明らかにきれてい
る。
我が国の海藻は、その体の高き、生長方向等から分類して、マコンブを巨形帯状海藻とし、
最も大型になる海藻類の一種として位置づけられている。また漸深帯の遷移について、植生
は小型のものから次第に大型に、きらには同形多年生へと移行するときれている。この説で
はコンブ群落等は極相として安定するはずであるが、実際をこはごく短期聞のうちに他の海藻
群落に置き換わることがよく見られる。現在のところこのような現象を適確に把握した研究
も少なく、その原因についてもほとんど明らかにきれていない。しかし、青森県水産増殖セ
ンターが先の「浅海別枠恨事」を基盤に、その後の研究を発展きせ、ウニの強力な摂餌力を
偏向要因として導入し、新たな入工的遷移を引き起す引き金とした事実は増殖技術の上から
も興味深い。
②暖流域アラメ・カジメ群落
a.アラメ・カジメ群落についての知見
アラメ・カジメの地理的分布は附図に示すごとくである。また生育水深はアラメは約5m
で時に10正n位まで観察きれており、カジメは約30mとされている。これら両種の群落は
植食動物のアワビ・サザエの娘漁場を形成するため、群落の拡大と造成が思考きれ始めてい
る。またしばしば磯焼け現象が起きることから、その原因究明や回復手法の開発に関心が示
されるようになった。最近では静岡県下田市田牛地先におけるカジメ群落の消滅とそれによ
るアワビの生畜の褒退についての報告がある。
b.カジメの生長と現存量
カジメは成体となるのに2∼3年を要し、寿命は6∼7年である。個体重量の季節的変化
は12月から1月が最小で4月以降に葉部が繁茂し、6,7月で最大となる。カジメの現存
量については生育場所により約2忽/㎡から10卸/㎡までと差が知られている。株数も岡
様、生育場所の違いによる差がかなり認められ、一搬的には20∼30個体/…n2が平均的な
群落の生育密度のようである。なお密度が何らかの理由により1∼2個体/㎡と減少した時、
次の新しい落磐群が一斉に発芽、生長することが認められている。
c.アラメの生長と生産量
アラメに関しては年令査定の方法が発見されていないため、その寿命についてはよく分かつ
ていない。1年昌の藻体は単羽状で、初年の終り頃には単羽状の葉はその基部を残し、枯死
する。2年罵以降は残存部がここで左右に分岐し、多少内側にねじれ、生長点が分岐した部
分の各上部に移り、多少伸長しつつ上端より新葉を多数発する◎この新葉は常時30枚程度
持つ個体で、年間約50枚を新成し、これは約2忽で群落当たり20んひ/m皇の純生産量となる。
なお、1年霞の茎葉体では春の生長期ldケ月間で6∼10(窟生長する。
一86一
d アラメ。カジメの増殖技術
アラメ・カジメを対象とした増殖試験は近海、神奈川、静岡両県の水底を申心に試みられ
ている。静岡察水試では、最近群落の嚢退が目立つ地域について生育量の変化を精査すると
ともに、過去の黒潮の大蛇行期とカジメ群落衰退とが一致することを指適している。また、
産血50年以降下田市困牛地先で認められるカジメ群落の衰退についても沖側より岸側に向
って枯死区域が拡がって来たこと、この時期に黒潮の直接的な接岸があったことを報告して
いる。なおこの漁場では昭和54年の夏1こ、限られた区域内で、満1年を経たカジメ葉体の
出現が認められている。しかしこの沼牛地先のようにかなり広い範囲にわたっての群落の消
失では、その全面的側部に永い時聞を必要とする。沿岸岩礁域の生産力を常に高く保っために
は、もしアラメ・カジメ群落が自然環境条件の変異により破壊されても、できるだけ早期に
回復される技徳が必要である。このための支援技術の一つとして遊走子の大量補給を鼠的と
した母藻移植がある。現在のところ、ごく小規模に試みられただけで直接i群落形成に結びつ
くような結果は得られていないが、母藻投入時にゴムやネットでブロックに止めた仮根部が
数ケ月後に自力で着生できるようになるなど、食害等の問題はあるものの一定の明るい結果
が得られている。
神奈川県・長崎曲水試では群落形成のための母藻群落の人工造成を目指し、アラメ・カジ
メのロープ養殖試験を試みている。ロープ養殖では現在までのところ、天然の場での成体と
周様に生長し遊走子嚢を形成するという成熟葉体は得られていない。1年以内の幼体につい
ては、人工的に遊走子付けした繭糸から芽胞体を得、初期葉体の生長が確認きれていること
から、養殖施設の設置時期やコンブで行なわれている促成栽培技術等を用いることにより、
今後成果々∫期待できるであろう。
(2)ホンダワラ科植物の生態と増殖技術
①アカモク群落造成技術
内海産1年生ホンダワラ類であるアカモクについては、成熟、卵放出、畠山の着生、生育、
幼体の生長などについて時期や水濫、光等の環境条件との関係等生態についてかなり明らかに
されている。
これらの硯究を基として投石等による基質造成及び成熟為体投入、種苗培養とそれを用いて
の藻場造成が行われており、アカモクはホンダワラ藻場造成として実用化きれている曜一の種
類であるρ単一的な基質材投入及び成熟藻体の投入による方法では、腐藻のごく近傍に基質
材が存在するように行えば、既存藻場における群落密度の増大、古謡面積の拡大は可能となつ
ている。しかし、付近に藻場が葎在しない場所での新しい意向造成では後述の培養種苗による
方法も良いとされている。種苗培養は成熟藻体を採集し、陸上タンク内におき、脱落した幼胚
を集め、洗浄後、幼胚懸濁液を作成し、浅く海水を張り、付着器材を入れたタンク内に撒布し
て採懐し、これをタンク内で培養する方法で、培養中の海水の水質、光等の管理に問題はある
が、技術としては一応完成している。これを用いての藻場造成としては、海苔網で種苗培養を
行ない、これを綱管パイルを支柱として水平に張って、アカモクを生長させて人工藻場を造成
する方法と、上記と霊境の方法で申聞育成した種網を岩礁や投石材の上に農開して藻場造成を
一87一
図る方法が行われている。前者については永続的盛場形成について、後者については展開方
法等に多少の問題点はあるが、藻賜を造成し得た事例は多く、技術としては一応完成している。
以上のごとくアカモクによる藻場造成が実用化された理由としては、アカモクが一年生で生
長が速いことや五六が大型で採細しやすいこと等、造成珍種であることもあるが、造成場所が
内湾域で、波漫、潮流等の制御が必要でなく、水質については汚染のない適地が選ばれ、濁り
については造成水深を調節するなどの考慮が払われたこと、及び食:害生物による被害が少ない
ことなどがあげられる。
②多壷焼ホンダワラ群落造成技術
瀬戸内海及びその周辺海域における藻場調査資料を基にホンダワラ科題物の分布について解
幽した結果、これら海域には29種のホンダワラ科植物(うち27種が多年生)が分布し、環
境条件を異にする細分きれた区域毎にそれぞれ特徴的ないくつかの代表種をもつ群落が存在す
ること、これらは内湾的あるいは外洋的姓格のより強いものとに分けられること、またいくつ
かの種の間では相互に混生しやすい組み合せがあること等が明らかになった。
多年生ホンダワラ類のうち、生態1こついて調査研究が行われている種は、ヤッマタモク、オ
オバモク、マメダワラ、ノコギりモク、その他の外国産種で、現存量の季節的消長、成熟生態、
生育と水温、塩分との関係等がある程度明らかにされている。
多年生ホンダワラ類による藻場造成についてはヤッマタモク、ノコギリモク、ツクシモク等
で基質材投入後の親仁投入による造成試験、ジョロモク、マメダワラ、ヨレモク、オオガモク
についての種苗培養及び造成試験が行れている瓜後述する食害防除策が不十分なことやこれ
らの生長が遅いことなどから、筏による人工浮心揚や囲い網による食害防除策を講じての試
験で成果をあげているのみで、技術としては未だ実用化きれていない。
③蚕食動物と海藻との関係の制御
我が國の申南部海域に生息する植食媛物には、魚類、巻貝類、ウニ類、アメフラシ類等多種
類のものがあることはアワビ増殖のための調査や藻場造成試験の結果から知られているが、こ
の海域での動植物相の相互関係、即ち藻類群落の遷移に及ぼす食害の影響についての謂査研究
は全く行われていない。
この海域では面食姓魚類がいること、漁獲対象とならない植食動物類が多いことから、上記
の調査研究も困難であるが、また食害防除策も生育量調節を行うことは困難であり、他の方法
にたよらざるを得ない。現在、特殊な形状や装置をもつコンクリート・ブロックを基質梶とし
て造成を行い、底生の腰垣動物による食害を防止する方法と天井網をもつ囲い網で食害を防比
する方法が試みられているが、前者は魚類の食害を防止できず、後者は囲い網の維持管理に経
費と労力を要し、大規模な盛場造成1こは実施し難く、未だ完全な技術とはなっていない。
④ホンダワラ類の繁茂期及び流聯詩の制御
モジャコ、カサゴ等の有用魚類の稚公魚の生育場となる流れ藻については、出現種類、出現
期、季節ごとの構成種類の比率等がかなり明らかにきれており、また一方、主な出現種類の繁茂
期、成熟盛期や流離して流れ藻となる機構も朋らかにされている。したがって隠場造成において・
特定種類の選択あるいは繁茂期を異にする種類の組み合せ等によって、季節による流れ藻の量的
一88一
制御の可能性がみいだされる。しかし現在、流れ藻の制御を目的とした試聴造成の事例はない。
(3) アワビ類の増殖技術
①開放系養殖技術体系
アワビ生産の計画的な発展を図るために、自然科学的立場から、「浅海別枠研究」では開放
系養殖技術の体系を次の様に考えた。
採 卵……周年採卵を可能にする母貝の飼育
人:1採苗技術
一一
ィ 管理方法の醗
育 成…’・・種苗用稚寅の大量飼育装置工程の
規格化
アワビ漁業
の発展方策
il
開放系養殖
技術の確立
餌料……人工造林
漁場改良技術
一! 翻
棲み家一■
中聞育成場
成貫用
分布規成用構造物
この技術体系は永年に亘って5,0◎0∼6,000トンの生産を得ているこ.れまでの資源保護の立
場に立脚する消極的な生産技術を続ける限り、アワビ類の飛躍的な生産の増大はあり得ないと
考えた結果として組み立てたものである。鋼枠研究では、東北地方三陸沿岸の磯焼けと呼ばれて
いる有用海藻類の不毛水域での生産を面上きせるための技術として、海山造林技術の理論的根
拠の確立と造林技術の実証が行われた。この結果、開放系養i殖技術を組み立てる人工採苗技術と
漁場改良技術の各要素出盛の近無の著しい発展に伴って、この技術体系は自然科学的には、
確実な系として成立するかのように考えられている。
沿岸漁揚開発整備関連事業の大規模増殖場造成事業、幼稚仔膏成場造成事業、大型パイロッ
ト団地などの諸事業にも、この技術体系の要累技術が、直接、あるいは間鴨的に取り入れられ
ている。エゾアワビの主生産地帯である東北三陸沿岸では開放系養殖を実際の現場で蒙業化す
る構想も進められている。
しかし、この開放系養殖技衛体系の大きな聞題点は、収獲する技術が欠けていることにある。
人工採苗技術によって種苗を漁揚に放流しても、また漁揚改良技術によって餌料や極み家が整
渇きれたとしても、収獲する技術が、従来の資源保護型の採捕する方法では、生産量は従来と
同じである。漁場に資源培養した「アワビがいても、生産量は増加する見込みがない。特に、我
が国北方域のエゾアワビ地帯の鈎取り漁法1こよって採捕する地域では、従来の方法を続ける限
り、生産の飛躍的な発展は望めない。逆に南方域のクロアワビ地帯の潜水漁法によって収穫す
る地域でも、計画的な資源維持のた:めの漁場改良技術を再検討する必要がある。海女や海士に
よる素もぐりの潜水による収穫では生産量に限界があるのは自明の理である。これらの地域で
は生産を拡大する技術体系を社会・経済的背景も踏まえて再検討する必要があろう。
②エゾアワビ漁場での生産の実態
東北地方三陸沿岸のエゾアワビ漁場の生産の実態についての事例解析の油揚調査からも、現
一89一
状の漁法と漁場行使による生産技術を開放系養殖の技術体系に移行させるに必要欠くべからざ
る条件は、種苗放流と収獲の問題にあることは明らかである。
a.岩手県気仙郡広田町の広田漁協の生産技術の現状
この地先でのエゾアワビ漁は主として船上からの鈎取り、いわゆる貝突き漁である。明治24
年までは周年採捕であり、海面のおだやかな日に行われ、海底のアワビを探すのにカヤの実
やクルミを口に含み、これをくだいて水面に撒布し、水面が平らになる瞬間にアワビを採集
するという、収獲能率の著しく低い.ものであった。明治23年に箱眼鏡が使用されるに及ん
で、アワビの漁獲能率は向上し、明治24年には早くも漁獲を制限するための口開けの制限
が行われ、明治27庫には箱眼鏡の使用が禁止された。また:、この時代から産卵期を禁漁と
している。朋治34年1こはアワビの餌となる海藻類の採取を禁止する試みが行われ、また明
治37年に漁獲体長は殼長3寸(9(狐)以上にすることを組合の内規で設定し、その後、大
正2年に岩手県条例として施行きれている。きらに昭和15年から漁場に投石が行われ、更
に第二次世界大戦以降、漁場造成の為の投石やコンクリート・ブロックの投入が行われてい
る。
現在、開日(アワビを収獲できる日)は11月に2∼3圖、12月2回、1月0∼1回、
年間合計5∼6圃であり、開口日は3入の開口委員によって、天候、海況を検討した上で決
められている。操業は朝6時から11疇までの5時聞である。漁法は鈎取りであり、その技
能のオリンピックが開口の日に展開される。技能を反映して成績の良い者と悪い者とでは収
獲量に三倍以上の差ができる。良い者では1圏の口開けで120∼130如(金額にして約
噸
4◎万円)を収獲する。
この広田地先のアワビ生産の実態は、三陸沿岸金域のアワビ生産地得の共通するものであ
る。この地域でアワビの生産を考える上で重要なことは次の通りである。
ア)エゾァワビ資源は小さく、漁獲強度が増加すると、生産対象資源に著しい影響を与える。
資源保護については著しく漁民の関心が高い。
イ)現在の漁法や漁場行使は二二中期から行われているものであり、蜷域社会に根づいた生
薩様式である。漁場には組合の専用を入り合い漁場があり、専用漁場での増殖事業や資源
保護対策は実旛し易い。
ウ)天然産・入工産の種笛放流がこれまでに行われてきたが、この意義は資源保護の実物教
材、あるいは組合による漁場行使の開確化の為に行われているものであり、決して生産の
増大には結びついてはいない。したがって、現状では種苗をいくら放流しても、収穫技衛
が確立されない限り、生産の増加はあり得ない。
b.種苗放流の意義
アワビの人工種苗生産技術の発達は著しい。100万個単位でのエゾァワビの人工種苗の
生産が各道県の栽培漁業センター、民閥機関で行われ、その種苗放流が可能になってきた。
この種菌によって新しいアワビの生産体系を確立することが、198◎奪代の大きな課題と
なろう。
三陸沿岸のエゾアワビは、ごく近年まで、外国貿易を目的として乾三等の加工品の生産用
一9◎一
に採捕きれてきた。厳しい資源保護の下に、加工処理に適した11月と12月口開幽してい
た。身入りの落ちる1月の採捕は極力さけ、また2月に海藻の幼芽に集まるアワビは資源保
護のために採捕しないことを原則としている。しかし、このエゾアワビの流通は、現在では
ほとんど生鮮品であり、1月以降にアワビの採捕ができない理由は消滅している。
東北地方三陸沿燦のエゾアワビの生産は、大規模な種苗放流と収獲技術の開発によって、
はじめて新しい生産技術体系へと移行していくであろう。
3 今後の進め方
(1)コンブ科島物による岩礁生態系の環境収容力の増大
①寒流域のコンブ人工群落の高い一次生産を常時確保するため、コンブ群落に始まる二次遷移
の機構を解明することが重要である。また雑海藻の侵入と雑海藻申心の群落への遷移を阻比す
るために偏向要因を導入し、偏向遷移を人為約にうながし、コンブ優占群落を安定して維持す
る増殖技術のシステムを開発する必要がある。
②暖流域のアラメ・カジメ群落については、群落の成立条件の把握、即ち群落褒退条件を明ら
かにするとともに、凋落が激しい地域の圃復過程を把握することが重要である。また、群落の
早期園復を霞的とした大量遊走子定着技術の開発、群落の造成や拡大を目的に偏向要因として
のウニ等の植:食動物の大量放流によって群落定山面を確保した上、1年生大型海藻の養殖によ
って漁場のアラメ・カジメ幼葉体の食害箪を低下きせる技術を開発することが重要である。
(2)ホンダワラ科植物による岩礁生態系の環境収容力の増大
①アカモクによる造成技術については、その再生産が行われる適地条件を明らかにすることが
必要である。また、アカモクは1年忌で生育量の季節的・経年的変動が大きく、藻場としての
安定性に欠ける点があるので、藻場の機能の安定、増大を図るためには、内湾域でも繁茂期
を異にする多年生ホンダワラ類を混生きせた藻場造成を技術的に検討する必要がある。
②多年生ホンダワラ類については、群落の分布、生態に関する知見や種苗培養、造成試験及び
流れ藻の構成に関する調査等の結果からみて、内海域ではハハキモク、ヤツマタモク、外海域
ではノコギリモク、オオバモク、ヨレモク等が、まず造成適種と考えられる。しかしこれらの
種類については、まだ群落としての季節的消長、群落形成と環境条件との関係等群落生態に対
する知見や、幼胚の着生、生長等初期生態や生長と環境条件等個体としての生理生態について
の知見がほとんどなく、種苗培養及び造成技術の開発が遅れている。
したがって今後、流れ藻の起源であることも含め、藻場の機能を十分に発揮できる合理的な藻場
を造成する技術を確立するためには、まず、天然におけるホンダワラ類藻場について種類構成、
種類別の個体及び藻場の季節的並びに経年的変動を明らかにし、これらと環境条件との関連を
明らかにするとともに、特に多薙生ホンダワラ類について、その生育と水温、塩分、光の強き、
海水の流動等の環境条件との関係及び幼胚の放出、着生と海水の流動、着生基質との関係等、
群落構成の機構を明らかにすることが必要である。
③藻場造成の最大限審要因となっている二食動物の食害については、我が圏の申・南部海域で
は、植食動物の種類,量摂食量等について研究が十分でなく、したがって動植物の質的、量的関
一91一
係が明らかでないので、生物的手法による食害防除策が見出きれておらず、囲い網等による直
接的防禦法がとられている。しかしこの手法にも欠点が多く、植食動物の生態を明らかにし、
ホンダワラ類をはじめ群藻を構成する海藻類の生態とあわせて動植物相の量的関係を関らかに
して、植食動物と餌料海藻の現存量の調節による造成爵的海藻の保護や培養種苗の展開時の大
きさ・量の調節等生物的手法を開発するとともに、物理的直接防禦手法の改善も必要となる。
(3)アワビ類の生産技術体系の確立
①全国的に代表的なアワビ漁場の現状の生産技術体系を解析して、漁場特性、採捕の技術を異
にするアワビの生産地二品の技術開発の今後の方向を朋らかにしておく必要がある。
②天然漁場でのアワビ類と海藻群落の関係を、アワビの二二,分布,行動,鳥餌,海藻群落構
成種の生態,群落遷移等について、解明することが必要である。
③アワビの山酔生産種苗のもつ、種苗姓(経済性、生残率等)を無品にするとともに、漁場特性
に晃合った種苗の放流密度を決定する手法の開発が必要である。
④採捕し易い漁場の開発や効率的な収穫方法の検討甑現状のアワビの社会的生産環境を十分
に配慮した上で、放流種苗の収穫を目標に行う必要がある。そして、最終的には種苗放流から
収獲に至る生産の技術体系を、モデル漁場において実験し、生産技術の運用を実証的に朋確に
することが必要である。
4 着手すべき議題
(1)餌料海藻としてのコンブ科謡物群落に関する研究課題
①コンブ造成群落の維持と安定化
コンブ造成群落の二次遷移の解開とその群落管理手法の開発を偏向要因の導入等によって行
なう。
② アラメ・カジメ群落の成立実態の把握
アラメ・カジメの生活帯と環境傾度との関係と、群落構造を明らかにする。
③アラメ・カジメ群落の生産力測定指針の策定
④群落造成用アラメ・カジメ種苗の確保とその大量育成技術の開発
(2)幼稚仔育成海藻群落としてのホンダワラ科植物群落に関する研究課題
①ホンダワラ類の群落生態の解開
流れ藻の起源としての機能も含め、藻場の機能の安定と増大を図るため多年性ホンダワラ
類による藻場造成技術の開発の基礎として、二言内海西部域ではアカモク、ヤッマタモクを、
三部域ではノコギリモク、ハハキモク、紀鶴水出域ではオオバモク、ヨレモク、豊後水道域で
はネジモク、トゲモク等を主体とした藻場を対象に、藻場及び構成種の季節的、経年的な質
的、量的変動を把握するとともに、これらと環境条件との関係を開らかにする。
②ホンダワラ類の着生機構と群落形成。
天然における再生産による永続的な盗品の造成及び制御技術の開発の基礎として、ヤツマ
タモク、ノコギリモク、ヨレモク等を対象として、:幼胚の放出、着生と海水の流動や基質等環
境条件との関係を明らかにする。
一92一
(3>岩礁生態系における植食動物(アワビ・ウニ類)の個体群の維持と生態に関する研究課題
①植食動物の海藻群落に及ぼす摂餌圧の灘定
② アワビ種苗の放流量と漁場の環境収容力
③岩礁生態系におけるアワビ偲体群の生態
一93一
F 海中構築物による環境改変
〔事例解析担当在名〕
担
所 属
当 者
充
及 び
職
名
水産工学研究所 水産土木工学部長
四
村
山
本
正
明
〃
水産土木工学部
篠
田
邦
裕
〃
〃
〃 耐 究員
影
山
智
将
〃
〃
〃 〃
上
北
征
男
〃
〃
漁場施設研究室長
木
村
晴
保
〃
〃
〃 主任研究宮
吉牟田
長
生
〃
〃
環境改変硬究室長
乃
万
俊
文
〃
〃
漁場水理研究室長
秀
島
好
昭
〃
〃
〃 硯 究員
漁港水理研究室長
囲 資料収集について茨城県水産試験場真岡氏、山口県外海水産試験場藤井氏、大分県水産試
験場國武民、田染氏他の方々の協力を頂いた。
1 解析のねらい
造る漁業の主要技術の一つである栽培漁場造成技術の進展は緊急の課題であり、既に行政では沿
岸漁場整備開発事業として、魚礁設置による漁場造成、藻場、干潟、作れい、水路掘削、消波堤等
による増養殖の造成改良、海底堆積物の除表等による漁場環境の維持保全の三種霞について実施さ
れている。このほかに漁業構造改善事業によっても小規模の漁揚整備事業が推進きれている。
これらの事業は既存の経験剛の上に推進されている。これを漁場環境科学として解関し、その技
術化を行うことが必要である。
沿岸域の良好漁場は、岬、半島、島、礁周辺に見られ、千潟、砂浜、及び岩礁域においても、
夫々の地形、水深、海水流動、底質環境によって適性生物が庄みわけ、かつ、場の利用がなきれて
いる。これら良好漁場の水理環境特姓を見出すために資料のある既存海中構築物周辺の水理環境の
解析を行った。二三構築物として茨城県鹿島港突堤、山口県下関外海の岩砕礁、大分県豊後高田地
先干潟をとりあげた。
茨城県鹿島港突堤については、港湾建設前後の波、流れ、漂砂に関する観測資料を解析し、港湾
建設に伴う環境変化とこれらをもたらした原因系との関連を検討する。さらに、鹿島灘一欝で生活す
るチョウセンハマグリ及びコダマガイに関する港湾建設前後の資料の解析により、これら貝類の
生息状況の変化と、環境変化との関係を推測する。
山隣県下関外海岩砕礁では、白州礁造成に伴って底層付近の速度分布、混合等流れ環境の変化、
この変化による底生生物相の変化、魚群の婿集効果、などについて調べる。
豊後高贈地先干潟では、干拓、河川改修、海岸堤防、さらに大規模なノリ養殖によって砂浜性二
枚貝をとりまく環境が変化したといわれており、既存の資料から、干潟感潮域の大きさと千潟上の
一94一
物質分散の特性、午潟域における二枚貝浮遊幼生の分散の特牲と漁獲量の推移について検討し、知
見の整理及び問題点の摘出を行う。
2 技術の現状
海中構築物によって漁場環境がどのように変るかを予測する技術は、極めて立遅れている。その
理由は海中構築物に関する研究は、従来、防災的観点に立った力学に関するものであったこと、流速
分布や波位相速度等、平均流に関するものであったことなどから、海水の実体、そこに溶存・懸濁
する物質の移動に関する知見が乏しい。また人工構築物の築造は主として海岸に限られ、海底や海
中における経験の乏しきから現象の解明が遅れていた。ここで明らかになったことは、
①水産生物環境は、海水そのもの、及び海底地形であり、これは海水の流動特性によって支配さ
れる。
② 海水は、沿岸の微細流に到るまで水塊として運動し、特に鉛直混合は起こりにくく、現象掘握の
ためには連続流体としての水理・海洋学を発展的に充足する必要がある。
③地形の作用による水塊混合によって新水塊が形成きれる。
④並存、懸濁、浮遊生物の輸送拡散は、水塊の運動と密緩に関係する。
⑤地形性構築物によって漁場環境を改:面するための海洋エネルギーは、波、海・潮流、内部波・
内部潮汐である。
鹿島灘
以下に各対象地区ごとに検梅内容を述べる。
(1)鹿島港突堤
鹿島港の位置及訊突堤形状を図F−
1に示す。鹿島灘におけるチョウセンハ
マグリの稚貝は緩流や吹き寄せの生じる
/
特殊な地形をもつ汀線付近(水深一2m
北防波堤
ご
麟灘 稚貝発判所
i北海浜埋、ン:地鹿ll占港
三品)に密画がみられることがある。こ
南海浜理立地
れらの稚貝は成長するに従って、沖側へ
拡散移動するが、水深5mまでが主棲息
場であるといわれている。また、地形に
図F一望 稚貝発生場所の形状と謁査地点
よって集中分布する傾向があり、サンド
バーの沖飼斜面に多いとされている。貫類の棲息場藤である水深5m付近というのは、小さな疇
化の時には砕波点となる。また、波高L5 m以上の時には海底砂が完全掃流状態となることが分
かっている。
一方、砂浜海岸へ突堤を建設することにより周辺の波・流れの環境が変化し、これに付随して
砂運動も変わる。この場合、突堤をはさんで漂砂の上流側には粒径の大きな砂が堆積し、下流健
は侵食されて砂粒径は小さく、環流を生ずることが多い。
港湾建設前の鹿饒海岸は、前浜勾配1/1◎∼1/30の砂浜海鐸で、汀線から100∼150憩
のところに沿岸砂洲が発達していた。しかしながら、砂洲の頂部と谷部の水深は、それぞれ0.5
∼2m及び1.5狐∼3鰍で、規模はそれ程大きくはない。台風等の影響により、水深5m以浅
一95一
は海底水深の変化が大きいが、10蹟以深での水深変化はごくわずかである。底質は、水深15
総程度まで水深に関係なく大部分が粒径0.125∼0.25㎜である。このように鹿島海岸の底質
粒径が、苫小牧、新潟、宮崎といった他の海岸と比べて小さいこと。特に砕波帯から沖浜までほ
とんど一様な細砂から成る点は注聴すべき特徴である。
鹿島海岸に来襲する波浪は、年闘を通じてNE、殺NE方向、即ち汀線に対してほぼ直角(N
60。E)か、わずかに北寄りの波が圧倒的に多い。夏は鷺NE以南の波が多く、冬はNE以北方
向の波が圧倒的である。春秋は両者がほ買岡程度であるが、秋はE寄りの波がわずかに多く、春
はN寄りの波がわずかに多い。最も静穏なのは夏、次いで冬、最も海況の悪いのは秋、次いで春
である。波は、9月∼王0月にかけての台風時期に最も大きくなる。また、日常的に波があり、
静穏な時でも数十センチの波高が存在するが、季節風による波の影響は小さい。波高の出現頻度
は対数正規分布を示し、申央値が0.97鍵、偏差0.23鐙、周期の出現頻度は正規分布を示し、
中央値9.7sec、偏差1.7secであるQ
周辺海域での平時の流れは微弱で1◎㎝/sec以下である。波高が増大すると流速が増大し、
20cm/i銘以上の流れは波高2田以上の波によって、50c磁/sec以上の流れは3。0醗以上の波
によって起こされる。しかし、波向と流造との関係は明瞭でない。砕波帯内の表層流については、
春から夏は北向き、秋から冬は南向きが卓越しているが、無間を通ずると北向きと南向きの出現
圖数差はわずかである。
砕波帯、前浜における底質移動速度は沖浜帯におけるものと比較にならないほど大きい。沖浜
轡の底質移動方向は主として波向と一致しているが、一部離岸流に乗って沖方向へ向う移動もあ
る。季節的には、冬期は南向きの漂砂が卓越し、夏期は北向きが卓越するが、年間集計は北向き
も南向きも20万㎡前後である。
昭禰37年に全長280mの試験堤が建設されたが、その結果、冬期は堤近くの北健で沿岸砂
洲が発達してb譲型の形状を示し、南側では砂洲が見られずsもep型の形状を示した。夏期は冬
期と逆の傾向がみられた。また、冬期夏期とも両側に沿って、沖へ向かう流れを生じた。波向下
手側の流れは、堤近くがそれより外側の部分より静穏なことによる反流や堤体付近の水位上昇に
よるものと推定された。
昭鵜39葎8月に船溜が完成し、その後の埋没状況をみると、船井内は波高が非常に高い時よ
りも、波高1∼2醗程度の申程度の波の蒋に最も埋没した。これは波高の大小による漂砂の移動
形態の桐違による。
鹿島港の外防波堤の形がほ皮整った昭霜48年3月の状況をそれ以前と比較すると、南防波堤
前壷では、昭和40年4月∼45年8月の聞は堆積傾向を示し、45年8月∼48年3月では洗
掘傾向を示している。洗掘期には、洗掘域の沖合に、堆積域を生じている。一方、北防波堤に隣
接する北海岸の海浜変形は、北防波堤に近い地域の著しい堆積と、その北側の汀線の後退に特徴
づけられる。この汀線変化は、防波堤により生ずる波の遮へい域の境界付近に起こる典型的なも
のであり、汀線後退が生ずる範囲は局所的である。この洗掘には奮防波堤の影響が大きい。
昭和52年6月に北防波堤に隣接する北海浜埋立予定地内で、高密度のチョウセンハマグリの
稚貝が発見された。現地は恥毛50年までは、埋立地北の防波堤及び護岸の建設も進んでおら
一96一
ず、繭防波堤の遮へい域内ではあるものの比較的大きな波が当たっていたと考えられる。昭和51
∼52年にかけて、整備が行われ、一部で外海と接するのみの半閉鎖状の水域測乍られた。大量
発見された稚貝は、この時期に産卵きれたものである。同じ埋立地内に棲患密度が高いところと
低いところが見られ、密度が高いところの底質粒径は0.125∼G.250㎜が卓越していたが、棲
息がほとんど見られない場所は、2mm以上が20%にも達する荒い砂を多く含んだ場所であった。
密棲地の粒径は鹿島灘汀線申の最も細かいものと岡程度で、分級度も小さく、埋立地内は細かい
砂が堆積する静穏な水域が保たれていたと考えられる。これらから、粒度の細かい淘汰度のよい
砂質のところに稚貝が出現しやすい傾肉にあると言えるが、室内飼育では静かに飼育管理するこ
とにより好結果を得ていること、稚貝を粒径の異なる砂の申で飼育しても生残に差がみられない
という報告もあることから粒度組成そのものが稚貝の生残に関与するのではなく、波浪や流れの
ない穏やかな環境が稚員の生残を高める効果をもたらしたものと考えられた。
昭和53年6月に行った調萱では、昭稲52年の調i査で見られた北海浜埋立予定地内のチョ
ウセンハマグリの高密棲は見られず、代わりに、52庫の調査では採集されなかったアサリの稚
貝が、53年の調査では採集きれている。これは、52年には埋立予定地内の底質が外洋とさほ
ど変わらなかったのに対して、53年になると急速に底質が悪化し、アサリの発生により適した
泥分の増加域へと移行していることを示している。一方、52年には目立たなかったが、53隼
には鹿島港の南海浜から波崎町の利根川河口にかけての約17㎞の範囲にかけて、チョウセンハ
マグリ及びコダマガイの稚貝が高密度に棲恩していた。原因の一つとして、利根川と鹿島港防
波堤にはきまれたこの海域が、海流の滞留域となり稚貝の発生に掘条件をもたらしたことが考え
られる。
(2)下関外海岩砕礁
①三三礁の概要
岩砕礁は図F−2に示すように、下関市蓋井島東部2㎞、水深約3◎mの地点及び六連島
北東部水深約16mの地点の2ケ所に関門航路下せつ工事に伴って発生した石材により築造さ
れた。岩砕礁の規模は、図F−3に示すように蓋井島水域のものは、東西約200m、南北約
300餓、平均高さ2,5m(最高高き7斑)であり、六連馬海域のものは、北東から南西に向
っての長軸(約28組)、北西から南東に向っての短軸(約28m)、北西から南東に向って
の短軸(約15阻)を持つ随円形で礁高さはし5盤程度である。底質は両地点共砂及び貫混り
砂である。岩砕の塵径は10∼30㎝程度が大部分で、大きいものは1mを越える。石質は、
粘板岩が主で角ばった形状であり、表面が新しいので投入三期によって初期付着生物相が異な
る。
②水塊 構造
岩砕礁設躍位置での流れ構造は、六連島沖の海域について魚礁設置前に一般的流況として観
測されている。それによると、当地置の流況の概況は、魚礁設置地点が図F−2に示されるよ
サ
うに、関門海膜の入口近辺にあり、六連島の北東側に位置し、:本土と六連島の海譲部に位置す
るため、島及び海嫉の影響を受け南東流が卓越し、酉流の時三三は少ない。特に底層では、
ほとんど西流はなく、流速は恒流成分で約20c田/sec程度:、三流時40∼50(皿/sec程度で
一97一
60
50
如
翻・o
岩二上
・・
20
i
25
下
、
15 8 関
舗
市
20 θ
ノ3
252
15
彦
関 島10
洞
北九タ{怖
キ
麓
/0 海
門
10 10
O踊 5km
図F−2 岩砕礁位置図
X
X
手
3凄し
Y
30
34罰3鵬
X,
支・
身
20粗
搬
30
Y層
Y
(蓋千島付近)
(六連島付近)
図r−3 岩酔礁の形状
一98一
あり、上下層では顕著な時で20偬/sec上層が下層より大きい。また、水渥、塩分の鉛直翁布
は、近傍水深20灘以深の地点では、上層で水温約26℃∼26.5℃、塩分量33.24%。∼
33.42%o、一F層では、25.5℃∼26℃、33.42%o∼33.96。ノloである。一方、水深20
m以浅地点の浅海域では、水温は上・下圏とも変化なく26℃前後で、塩素量は、上層33.96%
∼34.15%o、下層33。42。%o程度で上層の方が0.5∼0.6%o高い。このような逆転層の形成
は水塊が混合過程にあることを示す。これは、沖合水が六連島に当たり、上下眉の混合が行わ
れた結果であろう。岩砕礁設置後の流況については、観測資料が得られなかったが上述のよう
に島による地形性混合の様子が伺える。
③ 生物 相
造成直後(’73年9月)の底生動物群の状態は、種類では死殼を含む二枚貝類、腹足類が多
く、次いで環形動物、節足動物の順で、投入前の調査と大差がなかったが、憎体数では貫高以
外の動物に増加の傾向がみられた。特に環形動物では、投入前の約5。5倍、同じく節足動物で
は約3倍となった。
造成2年後に一新礁に着生している動物の構成C75年8月)は、表F−1に示すように、
個体数では節足動物が最も多く、次いで環形動物、軟体動物の順となる。また周辺の砂質海底
では認められなかった原索動物のホヤ類が比較的多く出現した。
3iohc hdex(個体数/種類数、以下BI値とする)では、岩砕礁と同じ水深の他の海
底での調査結果を比較すると、B1値が2∼4倍高い値を示した。また砂質又は泥砂質の付
近海底の底生動物相が魚礁造成によって、どの程度変化したかを知るために、,73年と,?5年
に岡一の5地点で採取した結果を表F−2に示した。この表によれば、二丁礁の投入によって、
約2ケ年間に平均出現種類数で約1.5借、周じく個体数では約2.8倍、お1値は約1.5倍に増
褒F−1 岩さい魚礁着生動物(造成2年後)
定点
6 5 3 2 13
小 計
平 均
5 8 2 10 3
28
i 86) (46) ( 4) ( 57) ( 11)
5.6
@(204)
i40.8)
剩逑ョ物
@4 5 4 3 3
@ 19
@3.8
゚足、甲殻類
@24 22 30 22 24
@122
i283) (221) (594) (4 9) (298)
i1,825)
@2≦.4
i365 )
@36 31 41 24 25
@157
@3L4
i139) (27◎) (336) ( 38) (118)
@(901)
i18◎.2)
@23 16 26 15 18
@ 88
@17.6
@(749)
i149.8)
@ 18
@3。6
﨑ハ
原体腔動物
ツ形動物
賰フ動物
サ の 他
合 計
β 王
i 23) ( 32) ( 42) ( 22) ( 22)
i157) ( 59) (232) (1エ4) (187)
@6 1 4 3 4
i 28) ( 1) ( 24) ( 18) ( 31)
98 88 107 77 77
i715) (629) (1,232) (678) ((路7)
7齢69 7●15 11畳51 8.80 8。66
欄内上段数字は種類数、下段は個体数
一99一
@(141)
@(101)
442
i3,921)
i28.2)
i2◎.2)
88.4
i784.2)
81
7.29
V.42
P4.96
T.盟
W.51
T.61
蓑F−2 岩さい魚礁藩生鋤物の推移
定点
12
14
16
15
1
13
合 計
平 均
1973 1975
1973 1975
1973 1975
1973 1975
1973
1975
1973 1975
1973 1975
@ 薙次種別
棘皮動物
2 7
i 33)( 89)
3 3 4 2 0 2
i 40)( 68) i 9)( 60) i 0)( 48)
3
i2腿)
0
i 0)
9 17
i 82)( 489)
L8 3.4
゚足動物
@ 1 8
@ 2 4
@ 4 2
@2 3
@ 1
@ 1
i 16) i 4)
@ 10 18
i 67)( 159)
@2.0 6。0
ツ形動物
@14 25
@ 19 23
@35 20
@8 14
@11
@5
@81 93
P6.2 18.6
P70.6)(276.7)
腹足類
60 57
63 92
76 56
0 36
65
0
199 306
39.8 6L2
二枚貝
61 67
54 77
i9,◎86)(12,856)
i9,575)(28,332) i4,311)(16,578) i 5)(3,192)
71 63
5 41
60
0
191 309
38。2 6L8
3 6
i 97)( 96)
6 7
7 3
0 2
2
0
16 2◎
3.2 4。0
197 146 15 98
142
6
i25,902)
i然)
506 762
10L2 152。4
2.0 39.3
182.4
軟体動物
6
7
そ の 他
合 計
B I
i 16)( 88)
i210)(440)
i8,256)(2,785)
141 170
i17,695)(16,908)
125.5 99.5
i 9) ( 16) i 33)( 7) i 5)( 32)
i288) (168) i314)(270) i21)(120)
i3,65G) (7,574)
i1,496)(4,295)
i115)(124) i 78)( 36)
147 206
i 0)(1,372)
i 0)( 16)
i13,677)(36,887) i6,241)(21,416) i31)(4,836)
93。0 179.1
欄内上段数字は種類数、下段は個体数
31.7 146.7
i240) i20)
i853)(1,338)
P6.4)(97。8)
P3。4)(3L8)
i9,535) i 0) i13,402)(25,753) i2680.4)(5150.6)
i15,289) i 0)
i 22) i 0)
4.0
i22,974)(77,908) i4594.8)(15581.6)
i290)( 294) i58.0)(58.8)
i37,668)(105,999)
i7533.6)(21189.8)
瓢.4 139.4
害している。岩心礁に集まった魚種は、ベラ、カワハギ類、カサゴ、マダイ、フグ等であり、
釣魚された魚類の胃内容物にみられる生物は、甲殻類、多毛類、端脚類、フジツボ類で、胃内
容物総出歯数の約80%、出現種類数の約60%が礁やその周辺で採取された底生生物と岡種
のものであった。
魚礁周辺の魚群分布調査は、魚探船によって、魚礁を申心とした東西、南北コース夫々約
400田の範囲内で行われた。その結果、魚群縁の数は、時聞によって変動し、夕刻の17蒔
頃と朝の7時8時頃に多く出現している。
流れと魚群分布との薦係は、垂直的な流れの乱れとは特に関連があるような傾肉は認められ
なかったが、流れが強い時間に出現した申層魚群は、いずれも潮上側に多かった。
(3)豊後高濁地先干潟
①干潟の概要
豊後高田地先の干潟は、周防灘の南東部に位置し、寄藻川と桂川の河口域に形成されており、
潮位差がきわめて大きく、大潮時には4餅こも達するため、当日線が距岸2喩にも及び、干
潟面積は約5請ある。千歯の地形は、図罫一4に示すように河目部を中心にほぼ溺状に形成き
れている。桂川と話題川の醐海川水1ま、河口部の藁測で合流したのち1本のミオとなって酉に
大きくわん議し、再び東偲の導流堤ぞいを沖に向って流れている。
昭和51年に潰1定した干潟の地盤高は、図刃一5に示すように、河口の酉岸翻が÷2.OInで
もっとも高く、等地盤高線は沸含にむけて舌状に張り出し、勾配が約1/1,000の傾斜のゆる
やかな干潟である。なお、地盤高の経年変化は過去の測深資料がないため明らかでないが、左
岸側の深き約50C劔層の底質が
粒径の大きい砂質であったこと
から、左岸側はかなり地盤が高
,〆噂
熱意三難
くなっているように考えられる。
面諭29奪と51年の底質ii周
査結果から、申央粒径値をみる
と昭和29奪の干潟の粒径は、
ほぼ油鼠が中粒砂であったが、
ノ/迄≧ゐ灘
呉 崎
無
ご ロ ごの コ ト
∼ ! 」 i㍉、、。
51年には、ミオの西側の沖合
域では申粒砂、地盤の高い申央
げ の の り り
±0● 三 ! .! ボ
ぽ ご げ ち
+0。5.∼! 牽1.5
やしδ!
部から岸側にかけては細粒砂の
+1。5 所が多く、また、ミオの直線域
÷290 。。。.
.9..・・。一.’.’・●
_ .
では申粒砂と粗粒砂が多い。こ
のことから、現在の干潟の粒径
は、昭和29奪当蒋に比べ、
ジー鋪ll;臨き
ミオの論義域の申央部から岸側
にかけてが細粒化している。と
ころで、昭和42隼頃から、当
圏F−5 干潟地盤高(S。51)
一101一
完成 備 考
大正初期 全長2.7K醗
着コニ
㊥
高醗港導流堤
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
堤 堤 ⑳
堤 防
『F拓第 1二[区 s21
ii灘i難(完成年次は潮ぬ究了時)
干拓第2工区 s28
干拓第3工区 s32
ド方シノ支麟} s34
s36 コンフリー1>舶レ 全長6◎On3
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図F上塗 高田地先海岸地形等の変遷
一102一
千潟の沖合では、のり養殖が盛んになり、しかも、その養殖盛期が年間を通じて最も波浪の強
い冬期であることから、底質の織董化の主な原因は、ノリ養殖により波浪が弱められたためと
考えられる。
②干潟生物とその推移
昭和29年と51年の千島生物の調査結果を表F−3に示す。
裏F−3 昭秘29年及び51年の干潟生物講査結果
(数値は金調査点の1m2当たりの平均出現姻体数)
調i査
調査壽 年月
29.5 29.8 29。11 30。3
平均値
嘉月
51●5 51.6 51。7 51.11
平均値
朧触
45 45 45 45
ハマグリ
14.1 31.7 27.4 23。3
24.1
ア サ リ
201.2259。1243.7 42.7
シオフキ
23.2 14.0 4.7 4。7
11.5
イボキサゴ
27.0 10.5 12.4 一
12.4
ユウシオガイ
7帯2 16騨9 6.6 11醤6
10.5
ウ ミニナ
10.1 11.0 0.7 12.9
8.7
ア サ リ
2.5 1.4 2.2 1.2
L8
ヤドカリ類
4.4 7。5 2.7 5璽2
4.9
コブシガニ
G.3 0.5 1.4 0.1
0.5
ユウシオガイ
2.2 6.4 5.1 2。7
4.1
アラムシロ
1.1 ◎.2 0.1 0.1
0.3
アラムシロ
5.7 4.6 1.7 1.9
3.4
カガミガイ
0,1 0.2 ◎.3 0.5
0.2
コメツキガニ
0.9 2顧3 5.0 ◎曹2
2.1
チゴガニ.
0.1 0.1 0.1 0.1
◎.1
ハマグリ
1.8 1.3 2。0 0.7
L4
楓シ盤
21 21 21 19
186.6
51年は軟体動物が25種類、節足動物が15種類、環形動物が3種類、腔腸動物が1種類、
紐形動物が1種類の合計45種類である。このうち出現量が多く、この干潟における優占種と
考えられるものは、アサリ、イボキサゴ、ウミニナ、ヤドカリ類、ユウシオガイ、コメッキガ
ニ、ハマグりの順で、そのうち、とくにアサリは1m2当たり23.◎∼289.1欄と最も多い。一
方、29年度では、ハマグリ、シオフキ、ユウシオガイ、アサリ、コブシガニ、アラムシロ、
カガミガイ、チコガニの順に多く、特に、ハマグリが1m2当たり14.1∼31.7個で最も多い。
このように、この22年の閥1こ当干潟に繊現する干潟生物の種類は明らか1こ変化しており、そ
のうち特に昭和29年当時優占種であったハマグリとシオフキが約1/20に減少し、かわっ
てアサりが約100倍に増加して優占種となっているのが特徴的である。このような優占種の
変化は、前述した地盤高や底質の変化と密接に関連しているようである。
③ハマグリ、アサリ、ノリの漁獲量の推移
大分県におけるハマグリとアサリの主漁場は周防灘に薦した豊前海の干潟である。昭覇28
年から53年までの三種の漁獲量の推移を農林統計資料で示せば図F−6となる。ハマグリの
漁獲量は、最:高が32無の413’で、紹和28年から41年までは181∼413≠の範囲
で、年変動がかなり大きいものの、ほぼ横ばい状態が続いていたが、41∼42年に千葉、熊
本、大分など全国的な規模で発生した原因不明の大量へい死のため、42年からは急激に減少
し、46年にはわずか1渉となった。その後47∼53年にかけては資源の回復がみられ、52
一103一
七
20,000
Cトつハマグリ
10,000
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窪
28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 年
図ヨー6
ハマグリ、アサリ及びノ琴生産量の推移
(実線は大分県、破線は高田地区)
一1◎4一
∼99渉の範囲で推移している。一方、アサリの漁獲量は、28∼30年には110∼240
’であったが、アサリの需要の増大とともに種苗放流などの増殖手段が講じられ、次第に増加し、
52∼53年には12,500∼15,400’と約100倍近い伸びを示している。
冬期風浪の干潟への入射の変化を通して、千潟環境に変化を与えたと考えられるのり養殖の
変化を麟F−6及び図F−7に示した。
融ひび養殖
S.32∼37年
図F−7 ノリ養殖漁場の変遷
④環境の変遷
この干潟をとりまく環境、なかでも地形の変遷を図一一4に示す。
=F拓は高田港導流堤で一応当該干潟から隔離されているが、昭和21年から41年まで逐次
行われ、延べ592haの水薩が消失した。この結果、干潟生物に多大な影響を与えたことは想
縁に難くない。その影響は、一つには、干潟への千三前の水域からの生物資源の添加が消失し
たこと、もう一つは干潟生物の浮遊期幼稚仔の分散に影響を与えたことである。後者について、
例えば高田港導流堤沸に東西方向の往復流を考えると、千拓以前は浮遊幼稚仔は東流の際、導
流堤の反流域に入るものもあり、棺当期闘干潟近隣に滞留できたものが沖健へ直接流去するよ
うになったことが考えられる。
河川堤防・海岸堤防の改修は、河川堤防については昭頼28奪の台風災審の改修で行われて
いるようで、その際、通水断面の変更があったか定かでないが、今田の溺川改修は洪水を河道
部に長時聞滞留きせることなく、一時に流下きせる低水二二が主で、洞道部は流水の抵抗とな
らないよう整形きれるのが普通である。この方式はもちろん治水のためには重要なことであるが、
手潟付近での滞留蒔間を必要とする浮遊幼生にとっては、上げ潮蒔に河道内に入っても、下げ潮
時には直ちに流下きせられるので、問題がある。海岸堤防も台風災害の改修が行われているが、
これの生物への直接的影響は大きくないと考えられる。ただ波の反射拳が異なることのため、
前面の底質粒度組成の変化をひき起こすことが考えられる。
⑤こ:枚貝生産と環境との対比
地区における二枚貝生産、璽にノリ、干拓面積の推移は、図F−6に示すようであるが、こ
の生産量の変化は物理的環境変化だけによるものではなく、経済的要因にも大きく影響きれて
いる。地区における二枚員の採取は、かっては自家消費が主であったといわれるが、貝の価格
上昇に伴い、ハマグリ、アサリも稚貝放流を行い、生産拡大を図っている。そのような三
一105一
会経済的環境及び地形・物理的環境の変化変遷の結果として、ハマグリは(禁漁区を設けて
いるにも拘らず)滅少し、アサリは著しく増加している。これは干潟がハマグリに不適、アサリに
好適な環境に変化していることを意昧するのではなかろうか。
ハマグりが再生産を開始するに要する最少年月は4年、アサリは2∼3年といわれる。したがっ
て生産量と環境との対比を行貌こは、このことが考慮されねばならない。そこで前者で5∼6年、
後者で2∼4年遅れて影響が現れると老え、図F−6を考察すると、ノリの生産増とハマグリの
減少、アサリの生産増と干招による海面消失量とは関係あるようにみえる。前者は、ノリの量
産のため、干潟へ来襲する冬季風波が弱められ、砂の細粒化や泥分の増大につながり、後者に
ついては、説明がつけ難い。浮遊期の拡散減耗、着定環境の変化等、定量的評価法の開発によ
って説明する必要がある。
3.今後の進め方
(1)鹿島港突堤
チョウセンハマグリ,コダマガイの稚貝の棲患密度を上げるためには、静穏な滞流水域を作る
ことが必要条件であることが分かった。しかしながら、その静穏度がどの程度であればよいのか
がまだ明らかにきれていないし、滞流域では底質の泥分増が生じやすい。鹿島港の北海浜では、
季節により波向きが変わることもあって、防波堤による遮へいが十分でないと考えられ、防波堤
建設後も稚員の棲息密度は高くなかった。この意味では、ただ単なる長大突堤を出しただけでは
必ずしも生産力向上につながるとは言えない。今後の進め方としては;
①稚貝の棲息密度向上のために最:小限必要な静穏度を求める方向に研究を進め、更に㊥淀の静
穏度を得ることができる最も効率的な堤防の形状及び配置についての醗究へと進んで行かな
くてはならない。
② 静穏な海域を作ると、その海域の底質が悪化するので、周一種の稚貝を採り続けることが可
能な底質を常に維持するための技術の開発が必要である。具体的ξこは堤防の形状と配置を変え
ることにより可能な部分が多い。
③流れ環境と稚貝の生残率の聞の関連性が、既存の文献資料からだけでは、いま一つはっきり
しなかったので、現地調査及び模型実験による取り組みが必要である。
さらに、離岸堤、突堤等の海申構造物付近での員類あるいは魚類の異常発生に関する他の多く
の事例を集め、解析をする必要がある。
(2)下関外海岩砕礁
前述の2の②で検討したように、海の水塊構造は、上圏から下層にいくにつれて緩成層をなす密
度分布をもち、鉛直混合の少ない安定した水塊構造をもつ。
今当地区の流れ場についてみると、前述のように上層・下層水の密度は(ρ1)Upρer‡1.02171、
(ρ2)Lower駕1。02216、流速は(U1)Upρer=50 c環/sec、(瑞):Lower翫30㎝/s㏄である。
魚礁の設置水深をh=32憩、上下層の境界面をh1茸7mとすると、下層の厚さはh2竺25 mと
なる。このような時、この海域での内部波の存在についてみると、内部界面波の安定・不安定現
象は、次式で与えられ、
一106一
露悪{li三縄}
ここに、ε讐(ρゴρ1)/ρ2
であり、数値を代入すると
R乞竃1、86>1
となって、この程度の弱い成層でも安定して混合の生じないことが分かる。
また、上・下層密度の反転している場所も観灘できる。これは静的平衡はあり得ないから、地
形による混合過程にあると理解される。混合によって新水塊が生じ、次の混合を受けるまで安定
した水塊として移動することの示唆を得た。このように地形の影響は極めて大きく水塊形成に寄
与する。すなわち、礁などの海底の起伏が存在すると、その規模に応じて流れは影響を受け、流
線が屈齢する地形波、内部跳水による混合、湧昇降下流の発生、海底構築物の流軸方向下流側で
の過流域の発生が予察される。しかしその発生条件、規模についてはほとんど分かっていない。
これについて胆らかにする必要がある。
生物掘の変化と環境変化の対応についてもその因果関係が題らかでないが、底棲生物棺の分窃域
分布量は底層の環境境界層(物質分散の急激に増大するまでの層)の問題として解析する必要が
ある。
(3)豊後高田地先干潟
高射地先の二枚貨の生産量の推移と、物理的環境との鮒比を検討した結果、その中で浮遊期幼
生の分散には、干拓等による干潟面積の消失、河道整形に伴う滞留瞬間の減少が関係すると考
えられ、成育場としての底質の変化は、のり養殖による冬季波浪の減殺がまず考えられる。また、
生産量の推移は社会経済的な要因にも当然影響され、それらの複合としての結果である。このこ
とから、
①干潟における分散特性と干潟形状の解析。
②干潟の波浪至悪による底質選民作用の解明。
③底質制御のための波・流れエネルギー工法の開発。
などが物理環境解析として関らかにきれることが必要であり、これとこ枚貝の浮遊:幼生分散との
関係、最適着底環境の解明を併せ行う必要がある。
塗.着手すべき研究課題
以上3地区の特微釣事例解析から、摘出きれる研究課題を要約し、一般化して表示すると表F−
4のようになる。
大課題1は、水産生物の生活空間である水環境の微細構造とその制御を、2は底環境を底質と底
層流の相互関係において制御することを、3はこれら制御施設の開発とその設計に関する課題をあ
げた。これら課題の相互関連を図F−8に示す。
一107一
表F−4 事例簿析より摘出された研究課題一覧表
〔大) 申課題
細 部 課題
小 課 題
〔1.水環境の制御と管理技術〕
(1)海浜流の制御
① 渦流・循環流発生技術
O離岸堤による渦流徳環流の発生
O砕波欝での懸濁物の分散
②海水交流技術
o越波堤による海水交換
oミオ筋工と卵稚仔の着底
(2)岩礁による流動拡敬
の制御
(3)湾における海水交換
①湧昇・降下流発生技術
。礁による流況改変
②渦流・循環流発生技術
Q海底入工臨等による流況改変
①海水交換制御技術
o導流堤による海水交換制御技術
o潮汐流利用による海水交換
の制御
。密度流による海水交換
②混合拡散綱御技術
o内部波の変形・砕波と混合拡散
Q内部波の空間分布瀾定
(4) 河口域における流動
① 混合拡散制御技術
環境制御技術
o砂浜域洞口水の流れ、砕波によ
る分散
②海水交換制御技術
Q湾内河口水の分散
③堆積物の制御技術
○河口の浮泥、漂砂対策
〔2.底環境の制御と管理技術〕
(1)砂泥域の環境の制御
①砂泥環境制御技術
Q二二域底質と生物相
○海底底質の改変
o離岸堤等による漂砂移動制御
Qヵスプと底質変化
(2)岩礁、転石域の環境
①岩礁・転石内の微細流鋼御
o岩礁・転石内の生物相(流れ藻)
の制御
(3)二二環境の制御技術
◎流動機構の解照と制御
②岩礁・転石制御技術
o転石・礁の変動抑止工
①藻場の水理と浮遊懸濁物質の
o藻場内の流動と懸濁防止
o濡場の懸濁物捕捉機構
集積
〔3・制御施設の開発〕
(1>海底構造物
①流動抵抗
o底層流による構造物の流体抵抗
力の解明
②内部波波力
o内部波制御構造物に働く波力の
解明
③洗掘埋没
o底層流による構造物周辺の局所
洗掘の解明
一1◎8一
申 課 題
(a)海申構造物
小 課 題
細 部 課 題
①流動 抵抗
②内部波波力
o中層浮施設の流体抵抗力の解明
。申層浮施設に働く内部波波力の
解明
③波 力
・申層浮施設に働く表面波力の解
明
④係 留
o係留系の解開、深海用中層基礎
群の開発
(3)海面構造物
①波 力
o浮施設に働く波力の解明
②漂流力
o浮施設に働く漂流力の解明
③係 留
Q衝撃力緩和装置の開発
④浮消波工
○浮消波工の消波機構の解開
・設計外力の解明
o透過園析波の合成等静穏域の波
浪推算
⑤生物荷重
o水深別、海域特性鋼の付着生物
重の解明
(4)海岸構造物
①水増波力
o砕波帯付近の構築物に働く水申
波力の解明
O砕波帯付近の構築物の局所洗掘
②洗掘埋没
機構の解明と対策工法の開発
1騨楠樽 備 }一 一一一一一「
じ 一一一㍊好適生物環境←一
L_ __ _ _ _ _ _ _棚3 1
1 1
底環境制御
砂 泥改 変
Y 砂 制 御
・転石制御etc
水環境制御
制 御 施 設
制御罵エネルギー
突堤・離岸堤
湧昇・降下流発生
ア流堤・海底構築物
C中構造物・海面構
「物・区画海面
Z術
Z術
ェ流・海流・吹送流
熾粕g・密度流
ャれ藻eも。
ャ合拡散制御技術
ョ 力
Q流・穏環流発生
波潮 汐
?むC
ベントス環境改善
底棲魚貝類環境改変
煤@場 造成
環境モニタリング
水質・水濫
度
ャ動・気象
プランクトン・ネクトン環境改善
卵・稚仔の集積・輸送拡散
n存懸濁物質の適正収支
ャれ場の多様化
図F−8 栽培漁場環境制御技衛系統図
一109一
G広域魚病への対策
(ブリ、サクラマス、二枚貝類)
〔事例解析担当者名〕
撫 当 者 名
阪 口 清 次
所 属 及 び 職 名
養殖研究所病理部長(グループリーダー)
原 武 史
〃 病理部病原生物研究室長
乾 靖 夫
〃 〃 病理研究室長
弛 田 和 夫
〃 〃 病理砺究室研究員
佐 古 浩
〃 〃 病原生物研究室二三二
三 口 勝 之
〃 〃 病原生物研究室概究二
水 本 三 朗
養殖研究所大村支所長
松 里 寿 彦
三酉海区水産研究二三殖部増殖第3三二室研究員
梅 沢 敏
” 〃 増殖第2研究室研究員
奢.解析のねらい
我が困1こおける水産増養殖業の著しい発展は、他国に類をみない規模のものとなって食生活の向
上に大きく貢献している。しかし、高密度飼育技術が採用されるに及んで、種々の疾病が各地で見
られ始めて、被害は年々増加の傾向を示すようになってきた。これらの疾病は落魚化システムを
進める上で、生産随害の大きな要因となることが予想される。
本課題は既往の知見を整理し、解斬することによって、海洋牧場における生産阻害となる諸要因
を排除し、より多くの水産資源を有効に利用するための技術を確立することにある。そのために、
古くから行われてきたいくつかの養殖或いは増殖形態をとってきた事例をモデルとして、その変遷
の中で出現した疾病の経時的変化を明らかにし、病害発生に係わる法則牲を見出すとともに、それ
を排除する技徳を開発してマリーンランチング計懸の推進を図ろうとするものである。現実には、
対象種が異なると生産限害三三もそれぞれ異なることが多い。そこで、特徴のある疾病被害の変遷
を経てきた三種の増養殖事例について、その疾病の実態を解析する。
鋤 暖海性魚類の餐殖(ブリ)
1.解析のねらい
ブリの生産二丁要因の排除技術開発のためには、天然資源における疾病の発生状況を解析し、研
究の方向を定めることが重要であるが、現在天然ブりの疾病に関する構報は著しく不足している。
一方、ブリ養殖は海産魚養殖の申心として発展しており、過去における病害発生の記録や、病害防
除の砺究も比較的多い。ホ調査は、ブリ養殖を申心として、魚病、とくに細薦性疾病、寄生虫性疾
病を主に、調査解析し、それら疾病発生における法則性を開らかにしょうとするものである。ここ
に明らかにされた法則性に基づき、今後、予想される生産阻害要因を排除するための技術を開発し、
一110一
その方向性を探るものである。
2 技衛の現状
(1) ブリ養殖における
各種疾病の特徴と蔓
昭和48犀度
延機構
図G−1に昭和48
不 明
年度と52年度のブ
その他
じ料性疾愚
リ養殖における全国
えらむし症
の疾病別被害額の比
ノカルディア緯
率を、また、7k産庁
ビブリオ翁
が行った昭秘47年
謹撰舗霧
度及び52年度にお
緑等親
ける養殖業におけ
類結節症
る病害の発生状況を
運鎖球繭症
(紛30
表G−1に示した。
20
三〇
◎
63.9
口
10
o
20
30
これらから明らかな
國G一蟹 昭私48、52年度におけるブリ餐殖業の震病別被讐額の比率
ように、ブ9養殖に
裏G−1 養殖魚類の主要疾病の発生頻度
魚種
カ頻・
ハ マチ
iを8ノ
ピプリオ溺
生産嬢の75一%以上
で発生しプヒ疾病
マダイ
i27)
サケ・マス
ア ユ
@(4a)
@(36)
淡水骸ビフ’リオ病
ビブリオ病
類結節症
連鎖球蓬症
はだむし症
えらむし症
ノカルディア症
允いのえ癒
ラζ病
王PN
HHN
せっそう病
ビブリオ療
細薦甦鯉病
水カビ病
生産県の50%以上
で発隻しπ浜病
海産アエの
@ビブリオ病
くちぐされ病
水カビ病
グルギア症
らようちん病
嶽点癖
コ イ
@(38)
ウ ナ ギ
@(36)
えらぐされ病
イカリムシ症
くちぐされ病
うむじらみ髭
穴あき病
わたか’
臼点覇
宴Rディナ症
ひれ赤病
えらぐされ病
ダクチロギル7症
キロドネラ症
ギログクチルヌ症
わだかぶり病
星ぐされ病
べこ病
康つかさ病
はりがねむし症
ギロタアチルス窪
クルマエビ
@(13)
、、k ’
^ヲチロギルス症
拷コディナ症
瀦
シ轟一ドモナヌ病
ビバギナ撞
イクヲオフォヌヌ病
ロンギコラム症
クドア症
カラムナリス痢
トリコデ{ナ病
キロトネラ病
えらカリグネ症
う蟄じらみ症
灘牲肉芽腫症
エビヌティリヌ症
エルガシルヌ症
ミクソボルヌ症
杯頭条虫症
細菌性臼震症
赤斑病
生薩県の25%以上
廠頭粂虫症
で発生しπ疾病
パラコ臼病
精該細麟性鯉病
フサリウム症
アンギリコラ病
えら黒
イカリムシ症
えら腎炎
(えら黒癩)
(原函未知)
皮ふミキシデ{ウム症
腹水病
トリコ7イリア症
るい 薦
のう
ぶり糸状虫症
出血性腹水症
躰赤シヌテ{ス病
生産県の25%『未講
で発生した疾病
リンオシステイヌ病
連鎖球菌症
エドワード病
腹水症
細 腎朦病
鼓綴症
黒,、
ウ{ルヌ性腎炎
、状薦症
らぐされ
イク勃フォヌス症
ヘキサミタ症
グルギァ症
和タンチルス症
鉤頭虫症
功レミン篇一ラ症
腹腔内真菌症
エルガシルス症
注:( )内は養殖爽施隈数
一111一
おける病害は、主としてビブリオ病、ノカルディア病、類結節症、連鎖球菌症等の細菌感染症に
起因しており、他に寄生虫症及び餌料性疾病の病害もみられる。これらのうち水産増養殖に
おいて聞題となり得る細菌感染症並びに寄生虫症の主たるものについて、以下に蔓延状況並び
に感染、発症、蔓延機構を述べる。
① ビブリオ病
魚薩魚のビブリオ病は宵くから知られており、養殖ブリにおいても養殖開始当初より、その
発生、病害が知られていた。本病の病因菌の伝染性は少ないが、養殖漁場では菌が常在してい
ると考えられ、その発症、蔓延は宿主の生理条件に強く左右される。各種寄生虫の寄生、環境
変動に伴う生理異常、特に粘液分泌異常が本病発生の引き金となるときれている。本病はモジ
ャコ期に発病がみられることから、今後種苗養成期の阻害要因となる事が予想される疾病であ
る。
②滑走細菌症
本症はもともとマダイ、クロダイ稚魚の疾病として発見きれたが、養殖ブリも罹病し、海産
魚の疾病としてはかなり広範囲に発生している。諸病魚は稚魚期を除き夢死に至ることは少な
いが、他の感染症の感染条件を形成すると云う点で問題となる疾病と云える。本症の病因菌は弱
い伝染性を持ち、水温、菌濃度等の病因菌のために条件形成により発病が成立するとされてい
る。
③連鎖球菌症
現在ブリ養殖で最も被害の大きい疾病である。昭和49年に数ケ所の漁場で発生し、翌矩に
は金国20ケ所以上に広がった(園G−2−1∼2)特異な疾病である。罹病魚は高水濃時に、
変敗餌料を多食したものに多く、本症の発生は、変敗餌料による消化管壁の炎症、あるいは毒
素による肝機能低下が起った時に、多量の病因菌を摂取した結果と考えられている。発症
及び漁場内蔓延機構を図G−3に示した。塞菌の伝染性は弱いが、海水申、海底泥中での生
総出が高いため、漁場汚染の危険性がある。本症自体は養殖魚に特有のものと考えられるが、
生育場の環境整
備という観点か
らは、注意を要
する疾病と思わ
れる。
④ 類結節症
辱 .篇
導φ
塞症は昭和39
年頃より、宮崎
県、高知県など
解4
釣
グ少
でごく小規模に
発生していたが、
年々発生が拡が
り、昭和44主
図G−2−1 連鎖球菌症発生漁場分布図(昭和爆9年)
一112一
にはほぼ全国的
な蔓延をみたも
のである(図G
−4)。主とし
てモジャコに被
豊 :離
愁前
の被害をもたら
鈎
す疾病である。
グ癖
本薗に対して
は、ブリ以外の
多くの海産魚に
○
も感受性があり、
図G−2−2
ブリ養殖場周辺
連鎖球欝症発生漁場分布図(昭和50年度)
に生証する雑魚が本症の病因菌を保菌
している可能性が強い。モジャコの漁場
内搬入に伴なって、これらの魚からモ
ジャコへの感染が趨るとも考えられる。
モジャコ餌付用ミンチ肉の使用に起因
する有機汚染は、漁場内の菌の増加を
もたらし、漁場全体での本病の大発生
の基盤ともなる。漁場聞の蔓延は主と
して保菌種苗の移動に起困ずると考え
られる。叢菌は海水耐性が低く、常在
図G−3 連鎖球菌症における感染と蔓延機構
しないが伝染牲
は強い。感染蔓
鴛ず,
延の様式を模式
「 、 「 「 「 ’
的に図G−5に
示した。:本症は
モジャコに大き
な被害がみられ
ll:二:画
ることから、増
養殖の阻害要因
として、重要な
問題となり得る。
㌧
図G一瑠 類結節症蔓延経過
一113一
⑤ノカルディア病
昭和42年三重漿尾鷲湾の養殖当才
づりで始めて発見された疾病で、主と
ぴ
一;
疇〉¢《+
して保函越年魚の移動に伴って、10
年間で全国に蔓延した(図G−6−1
∼2)。病因菌の起病力は比較的強く
i
I
黍
lゆ
妙鰍魚
容易に感染が成立する。漁場聞の伝染
ゆ
i②
乙
甲 発馬
i。
排菌
2
は保菌魚の移動に伴うものがほとん
活魚移動
どである。感染はビブリオ病と同様に
外傷からのものが多く、漁場内の伝染、
図G−5 類結節症における感染と蔓延機構
蔓延は排菌魚
(病死魚)と健
二二の接触が主 爵 財魚
と考えられる。 ⑨越鰍’2輔
嘱陶闘猫癩生いけす鰐が魚、会解{移入
本菌は清浄海水
4幽一発症生いけす飼湾魚、一套置移入
申での生存能は
低いが、有機汚
・⑲
尊φ
辱
染きれた漁場で
は常在する可能
性がある。
釣
⑧
碇くグ
⑫
グ少
⑥単世代吸虫症
βθ解4伽勿β
s召π01β,
図G−6一1 ノカルディア症発生漁場分布図(昭和46年)
κθ’670がπ6
んθ’θ700θγ00に
代表されるもの
で、これらは寄
生虫単体の漁場
内への搬入、増
殖、保虫魚移動
による他魚場へ
⑤
㊥
の蔓延へとの経
過をたどる。
辱 、瀞
ゆのの
㊧ミ.一葺…鶯…ヨ顎峯繹一一a
、ク動
(図G−7)
⑦微胞子虫症
ブリの微胞子
虫症、粘液胞子
図G−6−2 ノカルディア症発生漁場分布図(昭i類鼻7奪)
一114一
虫癌、心臓クドァ症、アマミクドア症
等がこのタイプに属する。:本症は既に
天然域で罹病した個体の漁場内発症に
一 1 」一
よるものであり、感染の防除は困難で
i .く・
3
ある。このタイプのものは、上述した
銀虫魚i移動 ’臓 繁舷
ロロ の のロウ
寄生虫担俸 霞弊,繁績
}》く議
ように天然において感染するものであ
匹
ることから、増殖技術開発においても
重i要な問題になる可能性が強い。
(2)天然モジャコ及び当才魚種苗養成期に
おける疾病
図G−7 巣箆代吸虫疲における感染と蔓延機購
本項では、ブリ養殖用種苗のモジャコ
の採補時における疾病罹病の現状と、放流用種苗として予想される大きさまでに罹る疾病につい
て調査検討した。
隔子45年に愛媛県で行ったモジャコ100尾における調査結果では、二十代吸虫十数種、単
世代吸虫一種、線虫3種等の寄生がみられ、全体として寄生率は41%にも達していた。岡一魚
群の保菌状況をみると、漁場への搬入直後の魚体からの函の検出率は底いが、搬入後10日目に
は著しく高率になる。また、宮崎県5∼20日コイル沖採捕のモジャコ3◎尾について行った
類結節痘原因菌調査では、原因薦保菌魚0罵、他の細菌検出魚9尾であった◎天然モジャコを採
捕してから、当馬魚養成用種苗として販売するまでの勲閥に罹る疾病とその閥題点を図G−8に
まとめた。ここにみられるように、モジャコ採捕聴の疾病は採捕方法の技術的な問題、餌付時の
餌料、飼育技術に起因するものが多い。
絹 死 田
モジや諏翰送
モジヤコ撚補
養麟ステージ
↑
↑
↑
雪
宇
㌻
シ
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食
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↑
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↑
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綾 類
類
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鮎
糖
蹄
体
形
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需
節
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欠 症
量
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醐次的病饅
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労
ス
投薬
レ
ト
欝
単
重lt
スレ
繼z虫
症
開 願 点
o採拍磯覇力ア
ッブ
○採擁数激増
○探捕魚体竃小化
0撮赫技嬉の飯下
○活1潟過剰収容
○翰送時r践懸疑
○衣完全餅料1 酸化,変敗, ボ適}
Q、汁歓法不麺
○舞附技捧∫低下
o撮菌魚移動
O覇密収容
○漁場悪化
○漁場狭小
渚レ劇投薬
麹G−8 当才魚種笛養成期における癌病と問題点
一115一
豪生賓よ り人
的に除去
(3)地域的疾病
ブリ養殖における疾病のうち、増養殖において生産胆害要因となり得るもので、地域に特有
の疾病について述べる。
①アマミクドア症
奄美大島や沖縄付近では、ブリの年令や放下時期と関係なく、3∼4ケ月間の飼育で粘液胞
子虫のクドア丁丁子虫が10∼100%寄生する。本虫は筋肉内寄生のため、感染した魚へ
の嫌悪感から食用としての価値を失なう。そのため、これらの地域では現在ブリの養殖は行
われていない。なお上記地域を除き、塞土各養殖場では本虫の寄生は知られていない。
② ブリ、イレダイのGalacむosu斑症
長崎県北部漁場ではハマチ、イシダイが8月申旬以後狂奔、難死する病魚が知られており、
狂奔症あるいはメスリと呼ばれている。本症はGalacもosum属メタセルカリアの脳内寄生に
よることが疑われている。
③イクチオフォナス症
本本症は各地のブリ養殖場でも散見されるが、三業的な被害が発生するのは三重県に限定され
ている。6月下旬∼7月上旬頃のモジャコに尾鷲湾周辺で門門されるサバ、イワシ等を生魚の
まま直接聴骨すると発生し易く、放養魚の10∼20%が難死する。
以上にあげたものは、いずれも地域特性の強いものであり、マリーンランチング計画の実施地
域選定に際しては、深く考慮しておく必要がある。
3 今後の進め方
(1)流行性疾病の防除
前述したブリ養殖に多発する細菌性疾病は養殖と云う特殊な状態でのみ発現する場合が多い。
しかし、ビブリオ病や類結節症等はモジャコ期に多発するものであり、増養殖における種苗育成
においても、当然同様の生産阻害が心配され、今後の研究課題として取り入れる必要がある。
連鎖球菌症及びノカルディア病の項で述べたように、これらの病原葭により、現在すでに地
域汚染の恐れも出ている。養殖漁場と増殖の場が岡一の水系に根拠を置く限り、これらの問題を
養殖場における特有の疾病として見過ごすことはできない。今後、集約的な養殖場と資源培養型
漁場の共通問題としての環境整備のための研究はもちろん、一旦環境を汚染した時には,生
産の大きな隠害要因となる病因菌の生態研究の必要がある。とりわけ現状における天然資源の保
菌状態の把握は急務といえる。
(2)放流用種苗蕾成における隠害要因
本研究の技術の開発に当たっては、健全な放流用種苗の確保が不可欠である。栽培漁場の種苗と
なるモジャコ奮成課題は、現在の当才養殖用種苗膏成と基本的に変わるものでなく、この意味に
おいては、この時期における採捕技術、消毒技術、餌付技術等の養殖技術改良に関する研究は、
そのまま、種苗育成のうえでの阻害要困排除のための研究課題である。また、これと併行して、
放流用の健苗のスクり一ニングのための技術礒究も重要な課題といえる。
案調査では限られた情報からではあるが、天然のモジャコがすでにかなりの寄生虫をもってい
一116一
ることが判明した。天然種苗における寄生虫の保虫並びに細蕗の保菌状態を更に詳しく把握し
ておく必要がある。
(3)地域特異性疾病の排除
アマミクドア症に代表されるように、ブリ養殖において、特定の地域での風土病的疾病が養殖
の決定的な隙審要國となる。これは単に養殖に限られたことでなく、資源培養形技術の実用化に
おいても周様の隠審が起る薄能姓が強い。この意味では少なくとも本調査で明らかになったブリ
養殖において問題となっている地域特有の疾病が天然歯にどのような影響を与えるかを把握する
研究が必要である。
4.着手すべき研究課題
上記の硯究の進め方から、今後緊急に着手する必要があると考えられる研究課題を以下に記す。
α〉天然ブリの生長段階における病態調査
天然資源における病原菌の保菌及び寄生虫の保虫状態を生長段階に応じて調査し、細菌及び寄
生虫疾病による隙害要因排除のための基礎資料を得る。
② 放流用種苗の消毒技術並びに診断技術の確立
モジャコの消毒技術並び放流罵の健全種苗のスクリーニング技術開発のための研究を行
う。
(3)モデル地域における放流魚の罹病追跡調査
地域に特有の疾病の排除を図るとともに、放流後の阻害要因排除のための基礎資料を得る。
㊤)冷水牲海産魚の増殖(サクラマス)
1.解析のねらい
サクラマスは太平洋及び日本海など極東の一部に生患している。その生活史はふ化後1年以上溝
川に滞留していわゆるヤマメとしてパーの段階を経過し、翌隼の4月から6月にかけてスモルトとなっ
て降卒し海洋生活に入り、1隼後の春に墨壷となって醐上してくる。サクラマスは淡水生活が長い
こと、春に潮上してくる等サケと異なるばかりでなく、生態的にも開らかにきれていない部分が多
い。また、近年北海道におけるサクラマス資源は減少の一途を逓り、サケ・マス増殖事業において
もサケの飛躍的増加とは好対称である。
このように生態的にもサケと異なり、しかも資源量の少ないサクラマスについて、オホーツク海
剣の渚滑面を老心にその資源薇少の原因を調査し、増殖事業における疾病の発生事例を解析するこ
とによって閥題点を整理して、サクラマス資源培養のための阻害要因を排除しようとするものであ
る。
2.技衛の現状
サクラマスは、価格の面では高いが、サケやカラフトマスのように大量に漁獲されないこともあ
って、北海道では日本海側あるいはオホーツク海翻の一部で地域的な漁業として、一本釣りあるい
は定置網等で漁獲されるのみである。
一117一
サクラマス資源を維持培養するための阻害要因としては次のようなことが考えられる。
(1)稚魚期の河川生活が長いことから、渓流釣りの対象としてヤマメが利用きれ、降聴するスモル
トが減少している。この対策として保護水面あるいは資源保護河川が指定されているが十分とは
いえない。 表G−2 渚滑川におけるサケ・マス類の採卵状況の推移
単位;粒
(2)沿岸部でサケ定
置網の終漁期に未
渚 滑 川
川 名
年 度種 弓lj
成熟魚(クログチ)
サクラマス
カラフトマス
サ ケ
逗0
16馬○00
966,000
馬829,000
41
660,600
86,000
6,412,000
互2
尊96,000
1,39馬≧○○
868,500
ない。標識放流等
ね3
1,エ○ユ.,000
535,000
1,083,毎00
によって海洋生活
恥
956,000
5,眞85,000
5,188,000
期の生態を解明す
耳5
258,000
る必要がある。
46
375,000
1,687,000
1,877,0qo
貯
48
430,000
688,000
9,769,000
0
3,903,000
1,867,000
49
22,000
2,830,000
3,088,000
50
O
939,000
2,37了,000
ている。(表G−2)
51
2了,000
1,578,000
2,097,000
(4)親魚の遡上時期
52
15,000
2,631,000
1,368,000
を斜里川について
53
57,000
6尊5,000
5,094,000
が言越されている
が、統計上はまつ
たく集計されてい
(3)種苗放流が十分
に行われていない
ため、渚滑川にお
ける採卵数は昭霜
43年から減少し
7,3尊2.000’
みると図G−9の
ように、4月中旬から6月であるが、盛
期は5月上旬である。しかし、この時期
は雪どけによる増水もあって、河口部の
地形変化あるいは採捕施設の流失を伴う
1,000
捕
ことが多く親魚採捕が困難である。
(5)遡上から採卵までの蓄養期閥が長いも
獲
のでは6か月に及ぶことから、夏期にお
数
500
ける高水温を経過しなければならないこ
ともあって、生理異常あるいはストレス
等が誘因となってせっそう病、水カビ病
等によるへい鷹がみられる。
⑥ サクラマスの魚病についてみると、ウ
ィルス病では最近OMVと称するHerpes
virusが発見きれ、サケ稚魚に病原姓
0
溝 5 6 月
図G−9 斜里娼におけるサクラマスの旬別捕獲数
(昭湘51年鼻月∼7月)
一118一
があることが報告きれているが、詳細は今後の研究に待たねばならない。一方、現在、池申養殖ニ
ジマス、アマゴ等で問題となっている伝染性造血器壊死症(IHN)ウイルスが天然のサクラマ
スから発見されている。しかし、サクラマスでは発病例は知られていないが、運搬者の役目をし
ないとも限らないので注意する必要があろう。
細菌感染症としては蓄養申にみられるせつそう病があるが、渚滑川で発見されたせっそう病は、
原因菌が色素産生能がないこと、カゼインの消化性,インドール産生性,V:P反応及びセロビオ
ーズの分解姓等の性状で我が圏を始め諸外国のものと異なり、・4θ70彫心ossβ伽。瑠露4θ
s励sρ.耀so観∫4広と命名されている。せっそう病の予防法としてワクチンの接種が行われ、
実用化への可能性が鳥喰されている。
寄生虫性疾病は原虫類ではChiloneUaをはじめIchthyo卿もilius,Cosもia及びHe−
xa面ta等が稚魚期の池申飼育においてみられ、早期に処置することが被害を大きくしないため
に必要である。Nose磁aは心臓筋肉あるいは体側筋肉に寄生するが、カワシンジュガイの生息
している河川では一蓋的に地下水を使用することによってかなり予防が可能である。
吸虫類では里etrao聡chus、鉤歯虫類、自足動物のLepeophもheifus等があり、はかにカ
ワシンジュガイの有鉤子の寄生もみられる。以上の審生虫のなかでNose鵬,Haρ10spo嫉δ,
Teもra◎nch犠s,Acanthocepha至us,Lepeophtheirus、カワシンジュガイの有鉤子の
6種類が天然のサクラマスから発見きれている。
⑦ 食贔としての公衆衛生上の閾題として、海洋生活期のサクラマスの画讃虫として広節裂頭条虫
1)ゆ勿〃060地γ画廊1認κ剛及びアニサキス線虫憾痂sσ規ssかが知られている。したが
って、天然のサケ科魚は生食する習慣はないが、冷凍されたものでは感染幼虫も死滅するので聞
題はない。
3 今後の進め方
サクラマス資源の増大を阻害する要因としては魚病聞題も麿過できない現状であり、今後の研究
の進め方について考察すると次のとおりである。
(1)全生活環における魚病の実態把握
サクラマスは稚魚期、河川滞留期、海洋生活期、潮上期に分けてウイルス、細爾、寄生虫。真
三等各分野から魚病の原因生物の調査を行うことによって、将来に予想きれる移殖放流の際の防
疫に役立てることができる。
(2)ウイルス病の防除法の確立
現在の化学療法剤ではウイルス病を治療できないため、ウイルス病は予防する以外1こ手段がな
い。池申養殖においては種卵をヨード製剤で消毒するとともに、ふ化櫨飼育臨画も消毒を徹底
させるばかりでなく、特定の飼育管理者以外の立入禁止などによって防疫を行っている。しかし、
この方法のみでは十分ではないので、ウイルス病の防除法を確立する必要がある。
(3)蓄養期聞申の親魚に対する魚病の予防治療技箭の開発
蓄養が長期間に及ぶためにせっそう病の発生は不可避であり、予防のためのワクチネーション
あるいは治療法の開発が必要である。
一119一
尋.着手すべき研究課題
(1)魚病の実態把握
各地のサクラマスについて成長段階ごとにウイルス学的、細菌学的、寄生虫学的、真菌学的研
究を実施し、基礎的資料の蓄積を行う。
②細女性疾病予防のための免疫技法の応用に関する砺究
魚類の免疫学的磯究は遅れており、免疫のメカニズムを開らかにするとともに、集団免疫技法
を開発する。
(3)魚類の化学療法に関する基礎研究
魚類養殖では各種の抗菌性物質が投与されているが、化学療法学的にはまったく解明されてい
ないので、主要な疾病について治療技術を確立する。
(4)ウイルス病の防除に関する研究
ウィルス病は予防以外に対策はないので、種卵。種苗の消毒法を検討するとともに、養殖池、
飼育水、器材等の消毒法を開発する。
③ 有用二枚貝類の養殖(アコヤガイ・カキ)
1.解析のねらい
二枚貝類の資源を培養し、維持管理するためには、生産阻害要因となる病害を排除することが必
要である。そのためには、天然海域における疾病の発生状況を把握し、研究推進の方向を見定めな
ければならないが、対象とされている二枚貝については疾病発生の実態がほとんど明らかにされて
いない。
ここでは、貝類養殖として歴史が長く、また幾多の技術的変遷を経てきた真珠養殖及びカキ養殖
を申心にして、養殖過程で発生した病害の実態を調査解析し、各種の疾病の発生と蔓延の機構を検
甜する。ここで得られる結果を基に、璽電二枚貝類の資源管理”研究を進めるうえで限害となる要因
を排除する技術を確立するための指針を得ようとするものである。
2.技衛の現状
(め 真珠及びカキ養殖における各種疾病
真珠、カキ養殖における既往の病害事例を大別すると、多毛類などによる員殼病審と各種の寄
生虫類による疾病が挙げられる。細菌性疾病は、カキでは比較的多く報告されているが、アコヤ
ガイでは事例が少ない。
①多毛類による員殼病害
環形動物の多毛類による貝殼の病害で、アコヤガイ、カキ、ホタテガイ、アカガイなどはと
んどの二枚貝類が被害を受けている。とくに、真珠養殖では密殖と漁場老化に伴って急激に
蔓延、現在では最も顕著な病害の主役となっている。
②穿孔海綿による紅殻病害
海綿動物の1種が貝殼に穿孔するため、貝殼は多孔質となって破損し易い。発生や被害はご
く少ない。
一120一
③ブケファルス吸虫症
ブケファルス吸虫の幼生が軟体部に寄生して起こるアコヤガイの病害で、罹病貝は衰弱し、環
境条件の変化によって蜷死し易い。本来。暖海域の漁場に限られて発生していたが、三珠母貝
が大規摸な範囲で移動されたきい、新らたな発生漁場が各地で串現して大きな被害を持たらし
た。
④プロクトエケス吸虫症
プロクトエケス吸蛍のメタセルカリアがアコヤガイ、カキ、サザエなどの生殖腺や心房壁な
どに寄生して起る病害で、真珠養殖では挿核手術後に異常に高い蜷死率を示すことがある。天
然海域に広く分布している。
⑤二頭条虫症
テェロセファラム条虫の幼生が、アコヤガイ、カキ、ヒオウギ、サザエなどに寄生して面こる
疾病である。軟体部に寄生している場合には、虫体を中心として繊維性の最高が形成きれ、そ
の周辺部は炎症嫁を面するので、赤い血色素をもっているアカガイではそれが赤斑として眼に
付き易い。とくに、鮨料理など生食:で利用きれるアカガイでは商品価値を金く失なう。
⑥ 異鴬卵塊症
マガキの卵細胞内にある種の胞子虫が寄生し軟体部に黄白色の膨隆部を生ずる疾病である。
著しく嫌悪感を与えるので商撮懸値を失う。我が困沿岸のカキ養殖場には広く分布してい
る。
⑦細菌感染症
広島湾で養殖していたカキが紹柏21年頃から大量に鰭死したが、病理、細菌学的硬究によ
って、細菌感染症によるものであると推定された。松島湾では異常艶死の際のカキから菌結
節、膿傷を有するものが認められて細菌感染症が疑がわれたが、十分な根拠は得られなかった。
アコヤガイの細函感染症は、徳島県で1事例が認められている。
(2)主要疾病の解析
①養殖技術の変遷と疾病の発生経過
明治40年の企業劒始以来、順調な経過を辿ってきた真珠養殖業は、戦後さらに発展したが
昭和41奪の生産量をヒ。一クとして三二生塵、品質低下、加うるに海外市場の不況で急激に減
退した(図G−10)。
真珠養殖は現在では筏式による中層養殖法で行われているが、大正未期までは地まき養殖
法がとられていた。地まき養殖時代の蝿残原因をみると、赤潮発生による被害が圧倒的に多く、
U養殖申のアコヤガイのほとんどが全減の惨状を呈した”、などの記録が多く残されている。筏
式養殖法に移ってからは逃避などの対策が容易になったことで、赤潮による被害はほとんどみ
られなくなった。
筏弐養殖法になって養殖中の員の管理が容易になったことに併せて、海外での真珠の需要が
傭びたことで爽珠ブーム時代を迎え、照和25年の真珠生慶量の3。8トンは昭和41年には130
トン、と驚異的に増加した。しかし、このような量産に伴って多毛類による貝殼病害が著しく
蔓延し、各地でアコヤガイの難死率が増大して大きな被害を表わした。きらに、金国的な規模
一121一
一ブケプアルス吸蛎一一一一一
一多毛類による総一戯口薩睡羅難轟錘羅羅琵野晒藝琵鑛平井琵羅羅羅翻
/20
/00
真
馨80
全 国
護6・
量
三 重
ン・
20
長 繭
愛 媛
昭 瀦25’
30
40
35’
45
50
図G一型0 翼豫生産量の推移と主要疾病の発生
で養殖が展開されるにつれて、貝の移動も広範囲に向けて行われたため、それまでは暖海性
海域に局限して発生していたブケファルス吸虫症も各海域へ蔓延して大きな被害を示すように
なった。
糞珠養殖業の変遷の中で疾病として大きな被害を持たらしたものとしては、上記の多毛類と
吸虫類による病害がとくに挙げられる。
②主要疾病の発生の蔓延機構
a 多毛類による貝殼病害の蔓延と問題点
昭和30三三には局地的な発生がみられるに過ぎなかった貝殼病害は昭和33年頃から急
激に発生、その後は年ごとに増加して現在では母貝、手土釜の別なくほとんどの養殖場で発現し
ている。とくに、過密養殖で底質などが悪化した養殖漁場の環境は多毛類の棲息、繁殖の好
条件を作り、病害の多発海域となり易いことが開らかにきれている。
アカガイを培養・生産する場合は泥質の海底を利用するが・底質環境の悪化は多毛類の棲
息条件の増大と深く関連していることから、とくに漁場環境の保全と維持に留意しなければ
ならない。
b ブケファルス吸虫症の蔓延と問題点
昭和30年代に入って急速に伸びた真珠の量産と大珠真珠生産への指向は、暖海域から大
型母貝の搬入と共に罹病畏を多く持ち込む結果となった。これによって、罹病員が各地に蔓
延し、さらには吸虫の生活環をも完結させるに翌つた海域も各地に出現した。揚所によって
は20∼40%にも達する罹病率を示すまでに急激に増大して、経営状態を著しく悪化きせ
大きな問題となった。
一122一
本疾病に蘭しては・真珠養殖漁場の拡大と罹病貝の広範囲への移動が、蔓延と病害を著し
く増大きせた原因と考えられる。他の魚類養殖に比べて遅れている貝類の防疫対策の必饗
姓を強く提起する事倒である。
c 二頭条虫症の蔓延と問題点
罹病貝の出現、発生の推移を紀僕半島南部の海域での天然アコヤガイでみると、曙和37
年には全く発見きれなかったものが昭粕42年頃から少しづっ認められ始め、さらに昭和
45奪には1個体当たり70∼2GO昆もの寄生数を示すまでに増加した。瀬戸内海のアカ
ガイでは、門門46年の調査で罹病貝は金く発見できなかったが、昭撫49年には突如被害
が現れて問題となった。これに関しては、放流に用いた種苗が隣接国から搬入したもので
あることから、その申に罹病貝が混在していたのではないか、との疑問が強く持たれた。
本疾病は、現在ではかなり広範囲の天然海域に分布していることから、今後、研究の実施
地域の選定に当たっては十分検討されなければならない問題である。
3 今後の進め方
本総合研究の全体に書えることではあるが、とくに貝類の増養殖では、種苗を一旦広い生産の
場へ放養すると収獲までは人為的な保護や管理は十分及びにくい。また、何らかの疾病が発生、蜷
死し始めたとしてもその発見は容易ではない。それだけに栽培漁場内へ種苗を搬入する場合には、と
くに流行性疾病を持つ罹病貝は絶対に持ち込まないという心がまえが大野である。また研究実施趣
域選定に関しては、各種の病原生物についての生活環が存在するか、また、その可能姓がある否か
を充分調査研究しておくことが大切である。とくに、寄生姓疾病は生活環が一旦形成きれると、広
い海域内での生態系のなかでの旙環であるだけにそれを排除することは殆んど困難となる場合が多
い。
本総合研究で対象種とされている重要な一種であるアカガイでは、かなり広範囲の海域で二頭
条虫症の発生が知られている。この疾病が裁培漁場内で蔓延、きらに生活環が完結されるならば、アカ
ガイの生産は致命的損害を蒙むるだけでなく、栽培漁場本来の機能をも消滅させることになりかね
ない。また、多毛類による貝殻病害は、アカガイの生産が泥質海底の揚で行なわれるという点で漁
場環境の保全、維持は勿論、きらに員類の生理状態の低下は病虫の貝殼侵蝕と黛殼内薦への侵入、
すなわち、病害の発現と大きく係わっているので、過密養殖は避けるなど貝の健康状態の管理には
常に心がけることが大切である。
尋 着手すべき研究課題
種々の問題を解決するため、今後緊急に対応又は着手する必要のある研究課題を整理すると以
下のことが考えられる。
(1)天然産アカガイの疾病把握
成長段階別に疾病の種類を詳細に調査し、それらが生産隠警要因としてどのように影響するか
の内容を検討する。
② 貝類疾病の簡易検査法の検討
一123一
貝類は貝殼をもって軟体部を覆っているので、一般に疾病の診断が容易でない。これらについ
て、罹病、罹虫状況を簡単に検査する技法を確立する。また、健康状態の指標化を検討する。
(3)各種病原生物の生態把握
天然海域における病原生物の生態を把握し、宿主とのかかわり、感染機構を開らかにして肪除
対策技術を確立するための知見を得る。
(4)赤潮、低酸素条件下における抵抗性
アカガイは、泥質海底を利用して生産する点で、赤潮やそれらの沈積、分解による貧酸素水塊に
遭遇する可能性が高い。研究実施海域選定の条件としても、アカガイ類の環境条件に対する抵抗
性を把握する必要がある。
一124一
引
用
文
献
1) 江草周三(1978)「魚の感染症」恒星社厚生閣
2) 室賀清邦(1975)Vibrio 段nguillaru孤およびその感染症に関する研究,広島大学水畜
産学部紀要 14
3) 松里寿彦(1973)マダイ稚仔魚期の疾病,昭和47年度別枠無届成果,浅海域における増養殖
漁場の開発に関する総合研究
4) 楠田理一(1973)養殖ハマチ類結節症1こ関する研究,昭和48年度農林水産業特別試験研究費
補助金による研究報告書
5) 叡旨県水産試験場(1973)昭和47隼度指定調査研究総合助成事業「魚病研究」報告書
6) 宮崎県水産試験場(1971)昭和45年度指定調査研:究総合助成事業「病害防除研究」報告書
7) 水産庁調査研究部(1972)(1977)魚病発生状況調査結果
8) 江草周三(1977)養殖ハマチにおけるクドア症に関する研究,農林水産業特別試験硯究費補助
金による研究報告書,東京大学農学部
9) 南西海区水産研究所(1974)養殖ハマチ類結節症発生被害状況共同調査資料
10) 楠田理一(1965)海産魚の潰瘍病に関する研究,京都府水産試験場業績 25
11) 増村和彦他(1977)人工生産マダイ,クロダイ稚魚の滑走細菌感染症,魚病研究 12(3):
17レ・177
12) 農林水産省特別油鼠(1966−1978)養殖魚における病害の予防に関する研究
13) 松里寿彦(1975)養殖ハマチのリンホシスティス病について,魚病研究10(1)
14) 粟倉輝彦(1979)北海道における寄生虫症について「サケ・マスの疾病に関するシンポジウム」
魚病薪究談話会講演要旨
15) 福井玉夫(1958)サケ・マスの寄生虫(上篇),横浜大学論 10(1)581∼634
16) 木村喬久他(1979)魚病に関する硯究一XXVヤマベ親魚体腔液から分離された新しいウイル
スについて,昭和54年度碍本水産学会春季大会講演要旨集 40
17) 木村喬久他(1979) 魚病に関する研究一XXIX新ウィルス0瓢V(仮称)の病原姓につい
て,昭和54年度日本水面学会秋季大会講演要量集 98
18) 木村喬久(重970) 催乳蓄養中のサクラマスならびにカラフトマス親臨に発生した細菌姓疾病ξζ
関する研究,北海道きけ・ますふ一場研究報告,24:9∼100
19) 水本三朗(1968)アコヤガイ員殼の病害に関する研究頂,国立真珠砺報 13:1624−1634
20) 阪口清次(1968)アコヤガイに寄生する吸虫の生漬史ならびにその病害について,国立三珠研
報13:1636−1688
21) 阪口清次他(197G)アコヤガイに寄生するP∫ocもoece8属の吸虫に関する研究玉,国立稟珠
臨幸浸 15:1931−1938
22)
片隅一男他(1975)アカガイに寄生する幼条虫について,兵庫水温研報 15:75−79
23)
阪口清次(1973)海産貫類に寄生する幼条虫について,南西水研報 6:1−8
24)
松墨寿彦他(1977)マガキの異常卵塊に関する研究1,広島水試研報 8:9−25
25)
松尾吉恭(1957)広島湾産マガキの異常へい死について,広島医学 5(9):726−736
26)
沼纈健一他(1965)松島湾におけるカキの大量へい死に関する研究搬,東北水研報 25:39
一47
一125一
H ブイロボットシステムの運用
〔事例解析担当者名〕
担 当 者
所 属 及 び 職 名
近藤 正 文
西海区水産硯究所 海洋部長
艨@上 尚 管
@ 〃 海洋部 海洋第1研究室長
ハ 井 一 野
@ ” 〃 海洋第1研究室研究員
{ 地 邦 明
@ ” 〃 海洋第1概究室研究員
沢 田 保 平
東海区水産研究所 海洋部長
? 浦 健 三
@ ” 海洋部 海洋第2研究室長
1.解析のねらい
浅海・内湾域はその特性から魚貫藻類の増養殖漁業が盛んに行われ生産性はかなり高いが、
都市への人口集中、人間の生産活動に伴う都市排水、工場排水、さらには農業・家畜排水等の海域
への多量の流入、増養殖に伴う自家汚染等の人為的負荷によって浅海・内湾域はかなり富栄養化し
ている。それは徐々にではあるが沿岸域にまでひろがってきている。このように海域が富栄養化す
ることによってプランクトン食姓魚種の増加、汚染に弱い宮西類の減少、ベントス組成の変化等自
然海域の生態系に変化がみられている。このことは、低次生物生産に直接白蓮に関与している物理
・化学環境の変化によって左右されるといっても過言ではない。しかし、河川水の流入、気象の変
化の影響を受けて刻々変化する漁場環境や対象となる生物の行動、現存量等について現在得られて
いる調査船による情報はリアルタイム・ベースの情報ではない。
近年、増養殖技術の進展に伴い、漁場管理についても高度な技術が必要である。このような技術
への要講を反映して、漁場環境についても従来よりも「きめ」の細かい、かつ、リアルタイム・ベ
ースの情報が強く要求されている。特に、漁業暦、海洋麿の作成と漁家作業日の予1艶、病害発生予
測、異常水塊(貧酸素水塊等)の発生予測と速報、汚濁水、温排水、河m水等の流入(阻害要困)
による漁業二二の予測と速報等がある。また、浅海・内湾域の漁場環境は、気象、河川水の影響を
藏接・間接に受けるので時・空問的に著しく変化し易いから連続観測しないと環境の実態は把握で
きない。従来のように調査船による観灘だけではこれを満足させることはできない。その点では、
ブイロボットでは水弾下の環境諸要素や気象条件を連続観測できる。
そこで、全国の浅海・内湾域に現在多数設置され稼動しているブイロボットによる連続観測デー
タが、漁場環境変動の実態をどの程度把握しているかその有効性を実証するとともに、将来のブイ
ロボット観澗システム設計の指針に役立てる。
2.技術の現状
漁場環境の実態を把握する場合、従来は一隻の調査船で長時聞かけて多項目の調査を行い、この
資料をもとに漁場環境の実態とその変動について類推してきたが、浅海・内湾域のように刻々変化
一126一
する海洋状態をどの程度把握しているか闘題である。つまり、、観察及び計測の手法が水産
技術のなかでは閥題である。しかし、近年はブイロボットによって浅海・内湾域では連続的に観測
が行われるようになり、漁場環境に蘭する情報が充実してきた。ここでは、神奈川県小田私記、伊
勢・三河湾、瀬戸内海及び有明海におけるブイロボット観測資料に基づいて解析した結果を報告す
る。
(1> ブイロボット観測の現状
この観測装置は塔方式とブイ方式がある。水産関係機関においてブイロボット観測は1972
年から実施されており、このうち、現在稼動しているブイロボットは、伊勢・三河湾に6基、瀬
戸内海に12基、有明海に8基が設置され、各水域、各県によってその目的は異なるが観測が継続
して実施されている。
① 観測の目的
ブイロボット観測を行う目的は各水域ぐ各機関によって多少異なる。大まかには、解勢・三河
湾では、環境変動の実態把握を主体としており、その情報をノリ養殖その他の漁業協岡組合へ
提供している。瀬戸内海では、漁場環境、漁海況予報、ノリ養殖場の環境把握及び赤潮、貧酸
素水の出現状況の把握等かなり広い分野にわたり情報を得ようとしている。また、有明海では、
ノリ養殖場の環境変動の実態を把握して、その情報をノリ漁業者へ提供するととも1こ、環境と
ノリ成育との関連及び漁場環境変動予察方法の開発、海洋調査方法の開発を検討する方向で実
施している。
②ブイロボットの設置場所
ブイロボットは観測の目的によってその設置場所は決定されなければならないが、海上周か
らの情報の伝達は無線方式になっているとはいえ、三山基地局との距離には限度があるので、
表H−1に示されるように比較的に沿岸部に設置されている。
③ブイロボット装置の仕様
ブイロボット装置の基本的な構成は図H−1に示されているとおりである。陸上の基地局か
ら設定された時聞帯に指令を出すと、海上局はこれを受けて観測を行い、灘定値をデジタルパ
ルス符号に変換して基地局に送信する。基地局ではデータがタイプアウトされるようになって
いる。中継局は基地局と海上局の距離が遠かったり、その中間に山などがあって電波の送受信
に障害が生ずる場合に設置されるものである。
④ 観漂璽項目と二四亘時間間隔
観測は、その民的によって取り付けるセンサーは異なる。現在どんなセンサーが取り付けられ
ているかを列挙すると、、水温、塩分、pH、二二:酸素、流向流速、気温、風向風速等である。し
かし、これらのセンサーが一基のブイロボットに取り付けられているわけではない。
一般に、多項目にわたって観測している場合には、すべての観灘要素が完全に測定できてい
ることはない。センサーは短旧聞での測定は可能であっても、長時間の観測に耐え得るものは
少なく、多要素を灘記する装置ではいつもどれかの要素が欠測されるような状態である。常時
観測が行われているのは、水温、塩分、気温である。
観測時間間隔は、当初は15分間隔を採用していたが、莫大な観測データの処理やブイロボ
一127一
表H−1 観測塔及びブイの設置場所
距摩
設置
設鍛場所
聴県名 実施海域
愛知
47
〃
48
〃
荏7
伊勢・ 蒲郡毒三谷町雌
O河湾 n
〃
〃.
ユ重
〃
繭知多町豊丘地
渥美郡国原瞳地
津毒地先
1.5㎞
1.8
測
観灘方式
距離
年度
47
観
水 深
水温 塩分
pH
項
溶存 流向
_素 ャ速
設麗場
劉
濁痩
風向
卵ャ
墾地局 鰍ニの
9 m
ブイ無線
式
2
2
1
1
1
1
1
13 m
ブイ無線
式
2
2
1
1
!
1
1
〃
ブイ無綜
2
2
!
1
1
1
1
〃
2
2
2
2
1
2
2
1
13.5m
12
式
〃
無線周波数
鞭 離
気温
水 試
15㎞
411。5MZ
伊勢湾腰試
13.1
41L5
1
〃
認.2
中 継
1
〃
38.6
407.35
1
無
48
〃
〃
俘勢湾答志島北
3
16
線中
〃
継
48
桑名南地先
窪
13
5
18
〃
〃
〃
47
大阪
瀬戸内海
47
兵顧
〃
明石市中崎沖合
0.03
7
タ有線方式
ワ 一
1
1
1
〃
0.02
有 線
喚8
縄由
〃
牛窓町鹿屋る地先
0.5
7
ブイ無線
式
1
1
1
〃
0.55
411.5
崖7
広島
〃
広蕊諦仁保町
4
〃
2
1
〃
〃
1
47
山口
〃
48
徳島
〃
48
香川
〃
48
愛媛
〃
泉俊野市票俊野
`沖合
ャ目クマ島北偲
2
〃
20
1
1
1
1
1
水 試 22
照 広 舗
_林環務祈
411.5
6
411.5
48
49
47
〃
〃
福由市靹町{山酔
Q北側
山口市秋穂沖合
鳴戸南北灘町大
Y沖合
高松衛星爵地先
新居浜市沢津漁
`沖合
9}予三島市沖合
福岡 有朋海 軍陣塩塚川沖
4.8
9.2
〃
2
9
9.1
〃
2
0.51
郷
0.8
12.5
0.9
12
脅線
〃
?継
〃
無線中
〃
1
耀
県 福 康
_林募:麟所
12.2
1鋤
水 試
10
411.5
2
2
建
1
軍門分場
6
〃
1
1
1
1
水 試
2.3
〃
2
2
2
栗予分場
13
姐1.5
? 継
3
1.3
21.5
満潮時5.7
2
2
楽2
1
2
1
〃
※2
1
〃
豪2
ユ
1
1
(D
(1)
継
〃
タ無線方式
ワ 一
q〃 θ
2
〃
1
1
奪明水論
407.35
41.3
8
411.5
49
〃
〃
達6
佐賀
〃
47
〃
ク
49
〃
〃
48
大分
(鶴)
大牟田市三三濾港
ォ
o.1
Jl田町地先
3
亭陽郡福蜜町地
3
鹿鶴市地先
(大分市地先)
2.8
(10,2)
灘潮嵐6.2
〃
〃 0.5
満潮蒔6.5二F”0
満翻寺6・5
ア〃 o
満潮時6.5
〃
q〃 o
(21)
(ブイ無
?方式)
1
〃
16.1
1
〃
15
1
〃
?
1
1
〃
(県 庁)
(1)
411.5
13.7
(13>
玉 411,5
/
49
〃
〃
簸後高田市沖
8.7
11
〃
1
1
13
〃
1
1
1
1
47
疑騎 奮明海
島原市阻碍沖合
0.7
48
態本
宇土市網繰地先
4
〃
8
〃
無
1
浅海漁場
1
氏@験 場
1
!
1
12
庵原分場
0.8
のり研究所
1.2
41L5
411.5
線中
中 継
49
〃
〃
玉名郡長洲町
1.2
n
〃
繕
1
玉
鶴測項幾欄「2」は表籐、底魍に設躍してあるQ盗2は水温1、のり温1である。
田賦温 26基(伊勢三測湾6塾,瀬筒内海12蒸,有陽海8基)
一128一
1
1
〃
3.4
硅㏄,35
(基地’1ず)
(海」二局)
気混毒
可分計
送騰灘辮編舞裁
Pli計
慰・織変調羅送受信部
流向計
二号
受僑部
のり温計
指令儒号 観潤指全 嚇「
作成離 償日盛1』;五一1;
AC103V
or200V
定搭
麹,
譲池
各郎へ
12V
定格
充電 アルカリ
12V
鵠蹴躊 蓄電池
各部へ
電灘ミ
8
(中継鵬〉
工ξ線
無線
送受信機
送愛山機
Li1継
定烙
12V
AC10GV
充竃器
アルカリ
バソテリー
定格12Vv
各離へ
図H−1 ブイロボット装置の構成
ットの電池の消費等の問題から、潮汐周期、環境の変動スケール、欠測が起きた場合の再現性
などを考慮して検討した結果、現在ではほとんどのところで1時間間隔で観測を行っている。
⑤ブイロボットの稼動状況
常時観測されているのは水温、塩分、気温である。一部、pH:、流向流速、溶存酸素を観測し
ているので、水域ごとの観灘鳳的によって、また、保守管理、経費等のことから稼動状況は水
域によって異なる。有明海の場合を例にとると次のとおりである。
当初は、周年稼動を鷺標として設置されたが、観測情報の利用度の高さ、夏期のセンサー精
度維持の囲難さ、保守管理、経費などの問題から現在の年間における観灘体制は、
3月下旬:ブイロボットを海上から撤宏して陸揚げ
4月∼6月上旬:専門業者に依頼して整備調整
6月申旬∼8月中旬:計測器の整備調整
8月下旬∼9月申旬:ブイロボット海上設置及び試運転
9月下旬∼3月申旬:本観測、常時データの確認と装置の点検と故障の有無、精度の維持
⑥ 保守管理業務
定期的に行う業務と日常に行う業務に分けて実施している。
定期業務:観測装置の整備、塔やブイの補修及び塗装(2年ごと)、標識灯の点灯確認
(1回の電池交換周期は夏期で3か月、冬で2か月半)
一129一
日常業務:陸上部では、テレメーターのチェック(表示灯、儒号音、親時計と子時計の合わ
せ)、タイプライターの点検(特殊信暦の有無、データの確認、記録紙の残葎量確認)、海上
部では、電源電圧、ターミナル部の接続状況の確認、センサー部の清掃、記録値補正のための
現場測定値との照合などを月に4∼5回実施している。
⑦ブイロボット観測装置の補修、修理の状況
ブイロボット装置による観測を行っている各県水試からの報告に基づいて、観湖項隠及び修
理状況を表H−2に示す。
並幅塔、ブイ部分については、2∼3年に一度の防蝕塗装が行われている。送・受信部分の
故障はあまり無いが、一部でタイプライター、テレメーターのプリント基板の劣化、調整不良
などが挙げられている。次に、センサー部分であるが修理しないものはなく、センサー部分
のすべての交換もかなり行われている。かなり観測密度の高い水温、塩分においてもその例に
もれない。底層観測用のセンサーでは、キャプタイヤーとセンサー部分の接続部の漏水やキャ
プタイヤーからの漏水が多く、初歩的な部分での故障がある。これらのセンサー部分の故障期
聞申はすべての観測が中止される場合もあり得るので、センサーの予備が必要である。
⑧ブイロボットの補修、点検に要した臼数、人員
資料を得るためにブイロボットの補修点検は欠くことのできない作業であり、これらを各水
域合計の15県分でみると、各県によって異なっているが、1か月平均で海上作業は約4日田程
度で延人血は10人程度が必要とされている。しかし、一県で数基のブイを有している場合と
一基の場合とでは異なることは当然である。
⑨ 必要諸経費
ブイロボットの一基当たりの補修点検費は、15∼300万円と各県によってかなりの差が出て
きている。このことは1∼2年でオーバーホールされた後の必要諸経費が重複された場合の差
と考えられる。一方、修理費は10∼180万円とこの場合もかなりの差がみられるが、修理の
場合は条件によって異なるのは当然である。このほかに、船舶、陸上での経費を含めるとブイロ
ポットの維持管理費はかなり多額を要する。しかし、このような経費は、ブイロボットによる
観測データの勲爵性を考えると、調査船による調査経費、調査船の維持管理費に比べてはるか
に/」\さい。
⑩ ブイロボット観測によって繹られた情報の処理と利用状況
得られた情報はそのままファイルして保存しているところもあるが多くは「次、二次処理してノ
リ養殖その他の漁業のために環境情報として田、旬、月ごとに漁協や関係機関に公表されてい
る。一部の県では毎日の観測値を新聞に、また、10Bごとに漁協、薦係機関に電話、葉書で
連絡している場合もある。いま、有明海の場合を例にとると、
基地局のタイプライターで打ち出されたブイロボット観測データーは、一次処理としてデー
ターチェック及び補正を行った後、各観測項目ごとに一賃の最高、最低、平均値、標準偏差を
計算し、それらの値と昼聞満潮時の測定値とを記録し作表する。その例を観測値整理表として
表H−3に示す。
一13◎一
褒絹一2 現在の観測項輿及び修理の状況について
修 理 の 状 溌
所 属 機 腿
現在の観測項農
塔、ブイの部分
送、受腰部分
愛 知 県
表麟の水温、塩
アルミ材の質蝕に封ず
集線箱の水漏れ、膨理、
ェ、気温
髢h蝕塗装
池の異状吸湿による
t漏れ、その他微細な
a理(メーカ舗で点検
C理)
表魍の水温、堀
3年差一度ドックする。
三 重 県
岡 山 県
山 口 県
水面下0.5田の
?温、塩分、pH
昭和51奪にブイ本体が藪覆事故の時、ブイ1基はほとんどの部分を修理した。
ヨする故障はほとんど
ネい)
ェ、気温
兵 庫 県
ドックの都度(無線に
睡部部分(センサ「)
2回塗装、3園防蝕板
送電用網代ワイヤー
謚キ
i220【n)取換
水颪下0.5魚の
?温、塩分・頑
ランプ取替4鱈
表題の水温
な し
デジタルメータヘタイプ
宴Cター(4園)、鮒
蒹「路(2回)鯵理
な し
水温・巌分センサー1圓駁換、蘇センサー取換、3洞故騨
pHセンサー5鯉修理6厨嗣より中止、水
キ、壊分センサー6弼鰹理
水温センサー2藏交換
垂g 〃 2圓”
cO 〃 2園〃
齣w水サンプリング機構修理
香 川 県
水面下O.5mの
?温,堀分
な し
な し
な し
愛 媛 県
表顧の水温,堀
ブイ外面は3奪に一度
繪ヒし再塗装している
1薙に1園点検してい
驍ェ、大きな故障はお
センサー部の故障が特に多い。
ォていない。
@デンターの儒頼毯がうすい。
Q)S.W囎センサー、塩分センサーは付着
@物の影響が大きく週1圓は掃除を要する。
R)ケーブルとセンサーの接合部から漏水
@が多い。
福澗県(膏明)
ェ
表魍の水温,水
ハ下0.5組の塩
2隼に1度塗装工事を
sう。鋸管レールの交
ェ,気温
キ防蝕亜鉛板交換。
小時計交換、タイプラ’イター鯵理、プリヒー
g働路の修理、レベル
イ整、IC交換
P)DOセンサー隔膜部の劣化がコいうえ、
O地金抵抗体の損燭 予縮センサーと交 →O金属部の電蝕 議し専門業者に修
@ 理依頼。
@ 簿理不能時はメー
@ カーに送り修理。
n漏水 ゆ予備々ンサーと交換し、専。各部のゆるみ 門業者に分解整備を依頼。
銭 賀 県
水窓下0.5搬の
5年で鍵材が電蝕作用
?温,堀分,気
ナ%に消耗する。2爺
ノ1繍の割合でサビ落
キ
オと塗装。
1)睦上局タイプライ
@ターはベルトの切断、
@りレ機構の不良
STセンサー漏水、白金:抵抗体の亀裂、サーシスターの破損、フジツボ日付着物の着
ォ、水試で適時溜掃。
Q)陵と罵テレメーター
ヘプリント墓板の劣
サ、信暦強弱の調整
@不良
R)海上局テレメーター
@はり一ドフィルターの故
ユ1C不良、送受信
リ替不良膨理はその
s田代理店が簸理す
@る。
長 翁 県
水蔭下0.5mの
?温,塩分,気
キ
熊 本 県
電蝕板の取替え1奪に
P画、船底掃除(付着
48年以降奪平均2翻
フ障諺理
気温計 48奪以降3鴎修理
センサー部分については、設置後毎奪メー
Jーに送り点検を実織している。
ィ除虫塗装)1難に1
@或いは2奪に1回。
水画下0.5田の
毎年点検を実施してい
センサー一取付けの際に
?温,塩分
驕B54年痩はブイの
ヘ鯉測局、中継穏戴び
ノ基地罵の送信、受壷
`エン替えと塗装行事
行った。
舶ェの竃極(テレメーター)
齊イの補修点検を実旛
オた。設金程毎年メー
Jーに送り点検を実施
オている。
一131一
沒?}縫騰響讐。。.
表H−3 観測値整理表
自動観測装置資料表
福岡県有明水産試験場
水
気 温
ヨ 付
日平均
機関名
畳 間
梺ェ時
7.0
12.2
12.3
2
9.5
13.5
玉3・7
ブイ番号
資料 蹟平
標準
昼 一
1
51年12月
分
塩
温
最高 最低
1
ブイ位置,
最高 最低
マ値
ホ差
葬ェ時
9.8
24
11.Q
0,824
28.3
28.5 21.3
10.3
22
12.4
0,828
29.0
資料 鎖平
マ値
標準
ホ差
29.2 22.5
犠
22
26.6
L827
L910
27.9
2,318
25.6
3
11.9
14.1
15.5 10.6
21
13.6
1,024
29.9
30.3 20.3
21
4
11.5
14.0
14.3 12.4
18
13.6
0,585
30.2
30.3 24.7
18
28.3
1,880
5
11.3
13.9
14.3
1L8
17
13.5
0,620
30.3
30.3 21.8
17
28.2
2,303
6
10.2
13.8
14.0 12.6
17
13.4
0,427
30.1
30.4 11.4
17
鴛8,0
4,336
7
7.1
13.2
13.6
1L9
17
13.◎
0,557
29.9
30.5 27.5
17
29.4
1,087
8
8.2
12.9
13.◎
10.7
17
12.2
0,681
29.6
29.9 21.8
17
28.0
2,357
9
4.1
11.5
1L8
9.9
17
11.◎
0,495
28.7
29.2 23.6
17
露7.5
1,582
11.1
28.1
1,495
10
8.5
11.7
12.0
10.0
18
旬平均
8.9
13.1
13.5 11.0
18
12.5
11
11.3
12.0
12.2 10.0
18
11.3
12.6
18
12
6.9
12.4
9.0
11.6
0,668
0,702
0,854
29.4
29.8 25.4
18
29.5
29.8 22.0
18
27.8
29.4
29.6 25.5
18
27.9
1,393
29.9 21.6
18
27.9
2,133
29.9
備考
大潮
次に二次処理は、各ブイロボット観測定点の各要素の変動解析と、生物、縛にノリ養殖清鉋
との対応などを行っている。ノリ養殖は環境条件によりそれぞれに対応した管理方策が講じら
れているために、漁業者は毎顧の環境変化に高い関心をもっている。有明海湾奥部の福岡県・藤
高県を例にとると、毎日得られたブイロボットの連続観測データを整理解析して漁業情報とし、
さらに、昼聞満潮時の値を加えて日報として新聞社やテレビ局を通して通報している。その状
況を図H∼2に示す。
1次処理
1. データ紙回収
2。データチェック
3. 計算機にデータ1めput
4. 整理表に記入
5. アナログ化
1.変動解折
2.生物欝澱との短応
3. 環境要素聞の対患
4. 欠測時の繍完
処理方法
5.変動予灘
データ タイプ印字・
1筋3∼4項震
(気温、水温.塩分、流向流速)
1韮1一・・24廼}
欝側昼観満潮時データ抽雄
rl澱…祈 聞8祉
ラジ才ユ社
テレビ1社
印澱…漁連、漁協53団体
関連機闘 12機欄
図H−2 情報の処理と利用方法
一132一
棚1欺況
ブイロボット観測情報のノリ養殖漁業への応驚の一例として挙げると、ノリ養殖は年闘を通
して水温の下降期に入った初期から年最低期にいたる期間に行われる。このような水温下降期
に・気象や暖かい沖合水の移流の影響を受けてノリ漁場の環境は一時高温又は、横ばいと状
態で経過する時がある。このような時にはノリの病霧が発生し易い。また、ノリの生育に
非常に関連の深い栄養塩類を多量に含んだ河川水の流入によってかん養された低塩分の沿岸水
の挙動を把握することはノリの生産と環境との関連を追究していくうえで重要である。このよ
うな漁場環境の変動をリアルタイム・ベースとしてとらえるのはブイロボットシステム以外に
その方法はない。このように、ブイロボット観測は漁場環境の変動の実態を把握するとともに、
その情報がノり養殖漁業管理にかなり役立っていることは事実である。しかし、多量のブイロ
ポット観測資料は解析手法が開発されてないために十分に利活用されているわけではない。
(2) ブイロボットによる連続観測{列一その1
有明海段畑部の福岡県沿岸部に設置されたブイロボットによって、1973年9月實1日から
11月30日の間に観測された水温・塩分の変動を図H:一3に示す。図申の実線は畳間満潮時、
破線は日平均の値を示し、鱒印とO印は月の朔と望で、その日が大潮であることを示す。図から
みても分かるように、水温・塩分ともに満潮時の値が平均値を上回る。これは、満潮時に高温・
高塩分の沖合水が観血点付近へ移流してくるためである。しかし、このような変化傾向の中で一
時的に、9月23日、10月23日、10月30日には満潮時の値が平均値を下回っている。ま
た、11月4∼5日には満潮時の値は高めに推移しているが、平均値ではむしろ低温を示し、そ
の差は大きい。このことは、比較的高温・高塩分の沖合水と測川水の流入によってかん養された
比較的低温・低塩分の沿岸水との交流が大きく、環境変動の激しいことを意益する。このような
変動が生物現象と大きな関わりをもつものと考える。
㈲ ブイロボットによる連続観測例一その2
神奈川県小窯和湾内に3基の観測塔が設躍されている。この自記連続観澗資料を用いて湾内の
環境変動について解析を行った。小酌和湾は三浦半島西部に位置し西に向かって開いた小湾で、
丁丁部ではノリ養殖が行われている。
杉浦2)は畑禰の融資糖整理検討し、以下のように噛している。
自記連続観測資料を整理する段どりは、まず、自記紙の「読み取り」を行ったのちに、水温、
塩分の変動図を作図することから始まる。そして、その変動図から、激しく複雑に連続的な変動
カーブを多く集積して、いくつかの特徴的なタイプに分類することが湾内環境要素の変鋤の実態
を適確にっかみ得る第一段階である。
多量の自記連続観測資料から長期及び短期変動を調べるのには、解読器(アナライザ∼)があ
れば、自動観測塔が持ち帰る最大の精度のものを読み取ることができ、能率的である。読み取っ
た資料は莫大な露なので、これらを解析するには、その取り扱い方は統計釣あるいは、確率的な
考え方に基づくのは当然であろう。
また、変動図から不規則な振動の特徴(周波数や振幅)を見つけ出さなければならないが、単
に、振動や波の特微を晃出すというだけではなくて、その特徴を摘娼して何に使うのかをあらか
じめ明らかにしておかなければならない。要するに、細かい振動の特質を明らかにしなければ湾
一133一
内における環境要素の変動の実態をつかみ得ることはむずかしい。また、環境要素の変動様式が
判断できれば、その違いから、湾内の水塊の移動の模様を推定できるものと思われる。このよう
なことから、各々の資料について、自己相関係数、パワースペクトル、相互相関係数等を求め、
周期や水塊の移動を求め、流速を推定することができるとしている。
一 a.もblgh皇id‘
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25 謁 5
S◎ρ. 0唱
10 1§ η ≧5 3◎ 5 }0 15 20 25
ゆコ
○ 鯵 ○ 馨
図H−3
有明海湾凸部におけるブイロボットによる観測例
1973年9月21∼11月30日の日平均水温、
塩分と満期時の水温、塩分、鯵と○は月の朔と望
を示す。(小野。心根壌〉による)
一134一
3.今後の進め方
浅海・内湾域はその特性から魚貝藻類の養殖が盛んに行われているが、その漁場環境は時・空間
的な変動が激しく、しかも複雑であるから、このような海域では、従来のような一隻の調査船だけ
による調査方法では、複雑な生物現象に対応した有効な漁場環境情報の把握はむずかしい。その点
では、ブイロボットによる連続観測では刻々変化する漁場環境をリアルタイム・ペースでとらえて
おり、この情報とノリ養殖漁家作業、流入河川水(低塩分で窟栄養)の挙動、病害発生、気象の変
化等の記録と結びつけて解析した結果、かなり高い一関踊係が得られた。ブイロボット観測資料の有
効性が実証されたわけである。
しかし、ブイロボットによる観測は長期にわたって行う必要があるが、それに耐え得るセンサー
は水温だけである。異常水塊の発生、河川水の挙動を知るためには、酸素、塩分センサーや、また、
特に低次生物生産に闘する情報を収集するための栄養塩、SSセンサー等の開発が望まれる。また、
ブイロボットによる観測資料は莫大な量に達するために、データの利活用はまだ十分でない。それ
は、データの解析手法が確立されてないからであり、前出の自記記録紙の解読器とともに、データ
の解析技術の開発を行う必要がある。
それが進展することによって、浅海・内湾域の漁場環境変動予察精度は著しく向上し、増養殖漁
場管理技術、漁場保全技術を著しく充実させ漁家作業計画が具体的に立てられる。さらに、多量デ
ータ処理の機械化によって研究能率は著しく向上する。
「.㎜’一’一’ …㎜巳「
1・ ・ {
1 漁 家 i
聾鱗舛
飾 N 特
コ リ り ら サ の \鷺⑭
塵i)漁協醐
⑳唖〉⑳
駅
〃/[:巫巫]
定線観測 一 一
A 水 試
B 水 試
慈動観撰嵯
驚 戴
ノ
センター
区i亜コ\
定隷観測
畠動観測
ドの の コロロマ
1湾川欝報i
3
1気象郵貯l
l榊襯襯脚_一一縣一6・脚隼
llll:『轟ノC水田
そ
味
D 水 試 く一㎜
定隷観灘
⑭
良融観翻
ソ
(漁協〉(⑳(璽1
僻 管 鮎
プ
ミゼ
{二3こ三=二〕
_⇒一鯉.豊」L_.
L竺_三,」
図H−4
一135一
以上のように、ブイロボットによる観測データや情報は漁協や漁家へ提供しているが、これらの
サービスは県単位でなく、有囲海、瀬戸内海、鍵勢・三河湾といったように水域ごとに一本化して、
情報儀達のネットワークの整備を図れば多くの利用ができ、効率的である。その一例を図H−4に
示す。
技術的な問題としては、前出のように、各種センサーの開発、ブイロボットの更新、維持管理費
は高額となる。その経費の確保が必要。また、オーバホールする経費力沙ないために大修理を要する
時点でやむなく観灘を中止せざるを得ない場合もある。さらに、亜鉛酸空気湿電池の利用で電源の
安定は図られているが、電源経費の占める割合が高いので、安価で安定姓の電源の開発が必要であ
る。
曝.着手すべき研究課題
(1)ブイロボットから得られた資料の解析
ブイロボットによる観測疇間聞隔
ブイロボット資料の標準化
ブイロボットにおける欠測の取り扱いについて
(2)ブイロボットを利用しての環境特性の解析
ブイロボット定点の水温の変動
ブイロボット定点の塩分の変動
ブイロボット聞の櫓門関係
養殖漁場環境の中でのブイロボットの位置づけ
(3)浅海・内湾域の養殖漁場の環境特性
漁場水温・塩分の季節変化
河川水が漁場環境に及ぼす影響
沖合水が漁場環境に及ぼす影響
沿岸水と沖合水の交流交換
気象・海象が漁場環境に及ぼす影響
漁場環境の長期・短期変動
漁場環境の変動法財性の検討
(4)漁場環境変動とノリ生産との関係
環境変動によるノリ病害
環境変動とノリ生産
文 献
1)小野伸育・雷根元徳(1979) 自動観測資料の標準化一H:,沿岸環境変動予察方法につい
ての丁半報告書 41∼48
2)杉浦健三(玉969) 増養殖漁場の環境研究一H,さかな 61∼73 東海区水産醗究三
一136一