チリ政治情勢報告(9月) 平成27年10月 1.概要 (1)内政面では,教育

チリ政治情勢報告(9月)
平成27年10月
1.概要
(1)内政面では,教育制度改革の一環である補助金受給私立校の無償化開始
に関する発表が行われた。また16日にコキンボ沖で発生した大規模地震とそ
の津波により死者が15名に達し,バチェレ大統領及び閣僚らも被災地を訪問
して対応にあたった。
(2)外交面では,ボリビアとの「海への出口」問題に関し,国際司法裁判所
は管轄権を有さないとのチリの主張が退けられ,裁判行程が再開されることと
なった。
(3)10月5日発表のAdimark GfK社調査による9月のバチェレ大統領の支持
率は25%(前月比+1ポイント),不支持率は70%(前月比-2ポイント)
となった。
2.内政
(1)教育制度改革:補助金受給私立校の無償化に関する発表
本年1月に初等・中等教育における教育制度改革法が成立した際,補助金受
給私立校(国家からの補助金を受給している私立の初等・中等教育機関)の学
費無償化のために一定の条件を満たすことに合意し,取り決めに署名した学校
に対しては,国家からの補助金額を徐々に増やしていき最終的に学費が無償化
されることが規定されていた。2016年中の無償化に向けた取り決めへの署
名締切りは9月1日に設定されていたところ,1日,デルピアノ教育大臣は,
これまでに739校の補助金受給私立校の署名があったことを発表した。
「デ」
教育大臣は,これにより来年以降22万8481人の生徒が無償化の恩恵を受
けることになると述べた。なお現在チリ国内には2,249校の補助金受給私
立校があり,今般署名しなかった学校も今後条件を満たして署名することで,
2017年以降の無償化の対象となる。
一方,高等教育の無償化等を含む法案については,当初は本年後半に提出予
定であったが,経済の停滞により財源確保の見通しが立っていないこと等から
本年中の提出が危ぶまれている。
(2)コキンボ州を震源とする大規模地震の発生
16日,チリ北部の第4州(コキンボ州)沖を震源地とした大規模な地震(マ
グニチュード8.4)が発生し,第3州(アタカマ州)から第9州(アラウカ
ニア州)にかけて揺れが観測された。ONEMI(国家緊急対策庁)の発表(1
1
0月7日時点)では,同地震による死者は15名,避難者57名,何らかの被
害を受けた人は2万6,773名。また,2,404軒の家屋が半壊し,2,
281軒が倒壊。その他,道路の切断や停電,断水等が起こったほか,地震発
生後の津波によりコキンボ港が深刻な被害を受けた。バチェレ大統領は17日
午前9時過ぎにモネダ宮殿において記者会見を実施。その後,関係閣僚(保健
大臣,エネルギー大臣,経済大臣)及び国会議員らとともに現地入りした(公
共事業大臣及び住宅・都市計画大臣は既に現地入り)。また9月18日の独立
記念日に際し,前後の日程で祝祭行事に「バ」大統領も出席予定であったが,
地震の発生を受けて一部行事が中止となった。10月現在,被災地での瓦礫除
去や避難所生活を送っている人々への対応等が続けられている。
3.外交
(1)ボリビアとの「海への出口」問題:ICJの管轄権に対する先決的抗弁
に関する判決
ア 判決概要
(ア)24日,国際司法裁判所(ICJ)において,チリ-ボリビア間の「海
への出口」問題に対するICJの管轄権の有無に関する判決が発表され,IC
Jは,チリが提出した先決的抗弁(本件に関しICJは管轄権を有さないと主
張するもの)を棄却し,管轄権を有するとの決定を行った。
(イ)チリは,ボリビアとの間で結ばれた1904年平和・友好条約によって
本件は既に解決されているため,ボゴタ条約第6条(注)に基づきICJは管
轄権を有さないと主張していた。しかしICJは,本件に関しボリビアが(I
CJの)判断を求めていることは,チリはボリビアの太平洋への主権的なアク
セス獲得について交渉する義務を有するか否かであり,これは条約によって統
治されている問題ではないとして,チリの主張を退けた。
(ウ)ただしICJは,ボリビアによる提訴の中では,ICJに対し,チリが
ボリビアと交渉する義務の有無を判断することが求められており,ボリビアが
太平洋に主権的にアクセスする権利を有すると判断することまでは求めていな
い点,また,1904年平和・友好条約の法的ステータスについて宣告するこ
とも要求していない点に言及した。
(注)ボゴタ条約第6条では,同条約が署名された1948年時点で,両国間
の取り決め,仲裁機関の裁定,あるいは国際的な裁判所の判決によって解決済
みの問題,または有効な条約が存在するものに関しては,ICJの管轄権から
除外されると規定されている。
イ 24日に発表されたバチェレ大統領によるコメント概要
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(ア)チリが(ICJに対し)先決的抗弁を行ったことは正しかったと自分は
確信している。ICJによる管轄権の有無に関する今般発表は,チリの領土保
全に全く影響を及ぼさない。この意味において,ボリビアは何も獲得していな
い。
(イ)ICJは,段階的に行われる(チリ-ボリビア間での)交渉の結果を予
め決定することはできないと宣言した。我々は,ボリビアによる提訴は土台に
欠けており,権利と野望(aspiracion)を混同し,チリ-ボリビア間の歴史,特
に1904年条約や,両国間で行われてきた様々な外交的対話を歪曲している
ものであるとの確信を維持している。チリはボリビアとの間で,いかなる未解
決の領土・境界問題も有していない。政府は,チリの領土保全がいかなる状況
下でも脅かされることがないよう,適切な全ての手段を用いることを約束する。
ウ 今後のICJにおける裁判行程
(ア)チリによる答弁書の提出(今後6ヶ月以内に,ボリビアの申述書(20
14年4月に提出)に対する答弁書を提出)
(イ)ボリビアによる抗弁書及びチリによる再抗弁書の提出
(ウ)口頭弁論
(エ)ICJによる判決判決(2017年末あるいは2018年となる見込み)
(2)バチェレ大統領による第70回国連総会出席
9月25-28日,バチェレ大統領は第70回国連総会に出席するためムニョ
ス外相と共にNYを訪問した。一般討論演説(28日)での発言概要は以下の
とおり。
ア 国際情勢やポスト2015年開発アジェンダ等に言及。
イ シリア内戦の難民を受け入れるとのチリ政府の決定や,2016年以降に
アフリカ地域での国連PKO活動に参加するとのチリの意向を発表。
ウ
国連安保理を改革し,常任理事国数を増やしたり,少なくとも人道に反す
る罪の場合には拒否権の発動を制限したりする必要があるとの考えを述べ
た。
エ キューバ及び米国の国交正常化への祝意を表明。
オ コロンビア政府及びFARCによる和平合意を評価。チリは,両者による
対話や国際法の尊重を激励する。
(3)ムニョス外相のキューバ訪問
3-4日,ムニョス外相はキューバを公式訪問した(保健省,スポーツ省,運
輸通信省,国防省のハイレベルや,組合,30人以上の企業関係者等が同行)。
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ロドリゲス・キューバ外相との外相会談等を実施した「ム」外相は,米国とキ
ューバの外交関係再開に対するチリ政府の評価を強調するとともに,経済封鎖
の終了に向けた取り組みへの支持とチリの連帯を示した。
(4)ベネズエラ反体制派指導者判決に関連するチリ外務省声明
12日,チリ外務省はベネズエラの反体制派指導者であるレオポルド・ロペス
氏及び4名の学生指導者に対し,ベネズエラの裁判所第一審において有罪判決
が言い渡されたことに関し,懸念を表明する声明文を発表したところ,ベネズ
エラ外務省より内政干渉にあたるとして批判があり,14日,チリ外務省が新
たに声明を発表した。右声明の中では,政治的,経済的,社会的権利の行使に
関する外部からの建設的な問題提起は歓迎されるものであるとして,チリとベ
ネズエラの友好関係が,両国を国際基準及び互いの尊重のための枠組みの遵守
へと導くよう期待する旨に言及した。
(了)
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