チリ政治情勢報告(8月) 平成27年9月 1.概要 (1)内政面では,チリ南部における先住民問題及び治安悪化に関連した抗議 デモが発生し,政府の対応が問われた。 (2)外交面では,バチェレ大統領がエルサルバドル,メキシコ,パラグアイ を訪問し,中南米諸国との関係強化に向けた取り組みが行われた。 (3)9月2日発表のAdimark GfK社調査による8月のバチェレ大統領の支持率 は24%(前月比-2ポイント),不支持率は72%(前月比+2ポイント) となった。 2.内政 南部先住民問題関連抗議デモ等の発生 ア 17日,チリ南部における先住民問題(当館注:マプチェ族はかつて祖先 が所有していた土地の返還を要求しており,一部グループは過激化し犯罪や暴 力行為を繰り返す等の問題が発生)に関し,これまでの政府対応に不満を持つ 60人以上の先住民がアラウカニア州(第9州)のCONADI(国家先住民 発展組合)の建物を占領し,土地返還要求及び同地域の「非軍事化」を訴えた。 その後,同州の市庁舎を始めとする複数箇所において同様の建物占領事件が発 生した(当館注:占領は20日間以上続き,最終的には警察が強制退去させ, 30名以上が逮捕された)。 イ 他方,過激派先住民グループにより繰り返し被害を受けているトラック運 転手連盟(CNTC)は,抗議活動の一環として14台の燃やされたトラック を荷台にのせて24日に南部テムコ市(第9州)を出発した。一行は27日に 首都圏州の入り口に到着したが,内務省の指示を受けた警察に止められた結果, 50キロに及ぶ渋滞が発生。この抗議活動は他のトラック関連組合の反響を呼 び,国内の主要幹線道路や港等においても多数のトラックが道を塞ぐ事態が発 生した。同日夕方になって内務省は一部トラックのサンティアゴ入りを許可し, ブルゴス内務大臣が連盟の代表者と会合した。代表者らは南部における暴力を 終わらせるための措置を取るよう要求する書簡を提出し,事態は収束したもの の,各方面より政府対応への批判があがった。 3.外交 (1)対ボリビア関係(駐ボリビア・チリ総領事に対するモラレス大統領発言 への抗議コメント) 1 4日,モラレス・ボリビア大統領が,(ボリビア国内の)反政府勢力との会合 を行い,政府の不安定化を試みたとして,ミレンコ・スコクニック駐ボリビア・ チリ総領事の国外追放を検討する旨発言した。これに対しムニョス外相は,「駐 ボリビア・チリ総領事は,堅実な職業外交官である」と強調した上で,チリが ボリビアに対して即時かつ無条件での外交関係の再開を提案したにも関わらず, ボリビアに二国間関係を改善するための政治的意思が欠けていることについて 遺憾の意を表明した。また「ム」外相は,チリ政府としては駐ボリビア・チリ 総領事をボリビアから退去させる意向はなく,逆に,今後もボリビアとの外交 的コンタクトを格上げしたいという目的は変わりない旨表明した。 (2)チリ・アルゼンチン間インフラプロジェクト 12日,チリ国会において,2009年にチリとアルゼンチンが両国間の輸送 インフラを整備する目的で締結した「統合・協力条約」の附属議定書が承認さ れた。同議定書には,①メンドーサとロス・アンデスをつなげる中央アンデス 鉄道トンネル,②チリ第6州にあるラス・レニャス国際トンネル,③アルゼン チンのサンフアン県とチリのコキンボ州を接続するアグア・ネグラ国際トンネ ルの3つのプロジェクトが含まれる。同議定書の批准によって3プロジェクト の建設が可能となる。ウンドゥラーガ公共事業大臣は,近く,アルゼンチン側 との調整を行い入札予定表を完成させたいと述べた。 (3)バチェレ大統領のエルサルバドル訪問 11-12日,バチェレ大統領がエルサルバドルを公式訪問し,サンチェス・ セレン・エルサルバドル大統領との会談(ムニョス外相,セスペデス経済大臣 同席)や,両大統領による共同宣言への署名,企業セミナーへの出席等が実施 された。また今般の「バ」大統領によるエルサルバドル訪問に合わせ,両国間 で以下の合意文書に署名された。 ア チリ経済省及びエルサルバドル観光省による,観光協力に関する覚書 イ チリ国家人権機関及びエルサルバドル人権擁護機関による協力協定 ウ チリ大学及びエルサルバドル大学による基本同意書 エ チリ輸出振興局(ProChile)及びエルサルバドル輸出・投資促進機構(P ROESA)による,両国間の貿易促進にかかる共同宣言 (4)バチェレ大統領のメキシコ訪問 13日-14日,バチェレ大統領はメキシコを国賓として訪問し,ペニャ・ニ エト墨大統領との首脳会談や企業セミナー,ジェンダーに関する講演会等を実 施した。「バ」大統領は,メキシコは,民主主義や人権,法の支配,自由貿易 2 の促進等において,チリと共通した立場を有しており,両国はOECDや太平 洋同盟,CELACやAPEC等においても協力関係を築いている旨述べた。 また今般の訪問中に両国間で以下の合意文書に署名された。 ア 両国の中小企業による投資への融資における協力を促進するための覚書 イ 消費者保護に向けた協力促進のための覚書 ウ 国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)に派遣されるメキシコ 軍に対する,チリ軍との合同訓練の機会提供にかかる覚書 エ 両国間での文化活動促進のための覚書 オ 両国間での観光分野での協力にかかる合意文書 (5)バチェレ大統領のパラグアイ訪問 21-22日,バチェレ大統領はパラグアイを公式訪問し,カルテス・パラグ アイ大統領との首脳会談を実施した(ムニョス外相,パチェコ・エネルギー大 臣,ゴメス=ロボ運輸通信大臣,ガリレア公共事業次官,ボルタ・アントファ ガスタ州知事らが同行)。また,「ム」外相及びロイサガ・パラグアイ外相は, アントファガスタ州におけるパラグアイの輸出入品の保税地区の運用を開始す るためのハイレベル委員会設置にかかる覚書等に署名した(当館注:右は19 68年の協定で規定されて以降,長く運用に向けた検討が滞ってきたが,20 04年に,ラゴス大統領(当時)により,再度検討が開始された。同制度のも とでは,アントファガスタにおける1700平方メートルが保税地区としてパ ラグアイに提供され,パラグアイからの輸出入品を,同地区で180日間無税 で保管することが可能となる(その後90日間の延長が可能)。また「バ」大 統領の今般訪問には,公共事業分野での関係者も多く同行し,ブラジル,パラ グアイ,アルゼンチン及びチリを通り,太平洋と大西洋をつなぐ道路の建設に 関する検討が進められた。 (6)フレイ・アジア太平洋特派大使の中国訪問 21-28日,北京及び上海において,中チリ間の貿易・投資促進を目的とし たイベント「チリ・ウィーク」が開催され,フレイ・アジア太平洋特派大使(1 994-2000年まで大統領)が出席した(セスペデス経済大臣,ウンドゥ ラーガ公共事業大臣,レボジェドDIRECON総局長らのほか,チリ企業関 係者約50名が同行)。「フ」特使は,中国の高虎城商務部長との会談等を行 い,中チリFTA(2005年発効)深化のための交渉を開始すること等に合 意した。また,この機会にチリ投資セミナー(鉱業,エネルギー,農業,食糧, インフラ分野)やチリ産食品のプロモーション等,約50のイベントが実施さ れた。 (了) 3
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