動脈硬化の危険因子と そ の 予 防 ・ 改 善 の 試 み 加齢 元 寛 志 山 俊 郎・ 序として広く受け入れられている傷害反応説に従 ことより、動脈硬化性病変の主病態は、炎症とそ えられる。句簿昌ωq8屏は、血流の方向に従って うと、内皮を傷害する因子︵高脂血症、高血圧、 はじめに 脂質が線条に沈着し、泡沫細胞の内膜浸潤が特徴 その他の血行力学的因子、過酸化脂質などの異常 の治癒過程の線維化とも考えられる。 である。コ酵o拐巳8器では、さらに結合織の増 代謝物質、ウイルスなどの病原微生物、ニコチン、 ヒトの動脈硬化性病変は、男緯昌雪お畏← 生、平滑筋細胞の増殖、リンパ球の浸潤もみられ 免疫複合体など︶により内皮が傷害され、組織の 化と考えられる。しかし、現在動脈硬化の発症機 るように な る 。 さ ら に 病 変 が 進 行 す る と 、 組 織 の 恒常性が持続的に大きく破綻すれば、内膜での炎 問緯¢雪お葵は、幼児期より出現し、可逆的変 融解を生じ、潰瘍化、血栓付着などが続発する。 症が不可逆的に進行し、線維化へ至るものと考え に進み、最終的に臓器障害を引き起こすものと考 この動脈硬化の初期病変よりみられる泡沫細胞は、 られる。 固訂2ω覧2藷←Oo日讐88α一窃一8と経時的 マクロファージ由来であり、リンパ球も存在する CLINICIAN,92No.40978 特集・動脈理化は克服できたか 大坂 は、前述した内皮の傷害 因 子 で あ る 高 脂 血 症 、 高 最も重要な動脈硬化の変動性リスクファクター 併すると、高齢者でも虚血性心疾患の発症率が高 多い。しかし、高脂血症が、高血圧や糖尿病に合 きると考えられる。 くなり、動脈硬化のリスクの高い症例では、適切 ち内皮細胞、平滑筋細胞 の 老 化 、 こ れ ら に 伴 う 細 加齢と共に、正常血圧は保持できなくなる。収 な治療により動脈硬化の発症の予防効果が期待で 胞外マトリックスの変化 も 大 き な フ ァ ク タ ー と な 縮期血圧は、加齢と共に上昇し続けるが、拡張期 は大となる。一方、血管自体の加齢変化、すなわ り、むしろ老年者においては、変動性リスクファ 血圧は、六〇歳まで上昇し、その後低下する。東 血圧、喫煙、糖尿病であり、加齢と共にその影響 クターは そ れ 程 の 重 み を 持 た な く な る 。 加齢とリスクファクター 〇歳代に相当する動脈硬化を示し、高血圧が動脈 では、すでに六〇歳代より正常血圧者の八○、九 京都老人医療センターの報告によれば、高血圧症 血清コレステロール値 、 ト リ グ リ セ リ ド 値 は 、 硬化をより早期より進展させる重要なリスクファ 収縮期高血圧も重要なリスクファクターであると 加齢と共に上昇し、五〇歳頃にピークとなり、七 考えられる。このように老年者では、高血圧が動 の高血圧による促進は、八○歳代まで認められ、 といわれている。多くの疫学的研究により、高コ ーが変化し、LDLの異化が低下することによる 脈硬化の進展に及ぼす影響は大であり、また、動 クターであることを示している。また、動脈硬化 レステロール血症の若年者に、虚血性心疾患の危 脈硬化の変動性リスクファクターの中で、高血圧 〇歳以後減少する。加齢 に よ る 血 清 コ レ ス テ ロ ー 険性が高いことが知られ て い る が 、 高 齢 者 で は 、 は治療し得る最大のリスクファクターである。 ル値の上昇の一つの原因として、LDLレセプタ 血清脂質の有意な差は認められないという報告が (305) 79CI、INICIAN,92No.409 加齢と共に、インスリン分泌能およびインスリ にみられることにも関係すると考えられる。 高血圧、高コレステロー ル 血 症 な ど の 合 併 が 高 率 化は喫煙者で著しい。これは、喫煙者において、 加する。剖検でも、大動脈および冠動脈の粥状硬 心筋梗塞や突然死のリスクが非喫煙者に比して増 喫煙と冠動脈疾患は相関し、高齢の喫煙者は、 の変化を示す。これらの変化は、高血圧、血管の 酵素活性の低下、エンドセリン産生能の上昇など ロスタサイクリン産生能、アンギオテンシン変換 老化内皮細胞は分裂速度も遅く、機能的にも、プ 細胞は形態的に変化し、分裂寿命も短い。また、 と考えられる。例えば、高齢者から分離した内皮 動脈硬化の発症、進展に大きく関与しているもの くものと考えられる。 選択的透過性の低下、再生修復能の低下に結びつ みられ、 高 齢 者 で は 一 般 に 耐 糖 能 が 低 下 す る 。 ま 血管壁の細胞外マトリックスも加齢により変化 ン作用の低下、インスリン拮抗ホルモンの上昇が た、高齢者では合併症が多く、心肺機能、運動機 し、コラーゲンの増加とエラスチンの減少、1型、 近、細胞外マトリックスと細胞の相互作用が注目 ㎜型コラーゲン比の変化などが知られている。最 高脂血症などの動脈硬化の リ ス ク フ ァ ク タ ー の 合 され、血管壁においても、内皮細胞、平滑筋細胞 耐糖能の低下につながる。糖尿病では、高血圧、 併も高頻度にみられ、食事 療 法 、 適 度 の 運 動 療 法 が、細胞外マトリックスにより機能制御を受けて 能、意欲などが低下し、運動量が低下することも などによる耐糖能の改善が重要である。 血管壁は、主に内皮細 胞 、 平 滑 筋 細 胞 、 細 胞 外 血管壁の加齢変化 えば、エラスチンは加齢によりアミノ酸組成が変 なり、細胞および組織の加齢変化につながる。例 の加齢変化は、この相互作用にも影響することに いることが報告されている。細胞外マトリックス マトリックスよりなる。これら自体の加齢変化も、 CLINICIAN,92No.40980 (306) 齢によりこれらのパターンが変化すれば、エラス る遺伝子組み換えの可能性も示唆されている。加 墨江ぎ8一こ鑛が起こり、また、>一仁遺伝子によ らヨ簿貫Φヨ肉Z>へのスプライシングに際し巴8雫 が明らかにされ、エラスチンの震凶目鋤曙ヨ菊Z>か 最近、ヒトエラスチン遺伝子の完全な塩基配列 増加する。 化し、>ω℃”9仁︾一亀などの極性アミノ酸の割合が ︵東京都老人医療センター 内科︶ るものと考えられる。 より、動脈硬化の発症の予防が早期より可能にな リスクファクターの研究も必要であろう。それに ーとしての高血圧や高脂血症を含めて、子供への 幼児期にすでにみられる。成人のリスクファクタ は、中年以後である。しかし、動脈硬化性病変は、 動脈硬化性病変が臨床的に問題となってくるの おわりに D血管の機能と障害、佐藤昭夫監修、安藤 進、川島誠 文献 *︵東京都老人医療センター 免疫輸血科科長︶ チンのアミノ酸組成に変 化 が 起 こ り 得 る も の と 考 このようなエラスチン の 分 子 構 造 の 加 齢 に よ る えられる。 変化は、カルシウム、脂質などの生体成分との結 一、井藤英喜、大山俊郎編集、藤田企画出版株式会社、 一〇〇〇〇 o oO 刈∼o げ仁ヨ鋤コ①一鋤ω臨口閃①コΦ旨匪o一’OげΦヨ.N①““O oo O o OOH のω90ωげF]≦﹂≦・9巴﹄Oげ鋤轟9ΦユN餌鉱oコo脇ooヨ℃一簿Φ 一九九一年 合に影響を与え、動脈硬化の進展に影響するもの と考えられる。また、培養平滑筋細胞は、固相の エラスチンにより遊走を阻害されるが、LDL処 理により阻害効果が緩和 さ れ る 。 動 脈 硬 化 に 際 し 、 平滑筋細胞は内膜へ遊走し増殖するが、エラスチ ンの加齢による変化は、この反応を促進する可能 性 が あ るものと考えられる 。 (307) 81 CLINICIAN,92No.409
© Copyright 2024 ExpyDoc