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New idea in China market
CDI の中国『新思考』第 20 回
中国内販拡大のために
インターネットとどう向き合うか
第3回(全 6 回シリーズ)
―メディアとしてのネット・販売チャネルとしてのネット
コーポレートディレクション(CDI)中国 董事 伊藤 淳氏
い事業構造の中で、なぜまったく無名の企業 キメ細かく消費者の不安を解消するような仕組
がわずか 3 年余りで中国全土で高い認知度を みを用意している。
得るとともに、急激な売上拡大を果たすことが
できたのか? その要因としては以下の2 点が挙 ■ EC の成否を分けるもの
げられる。
以上の内容を読んだ読者は、
「
(上記は)当た
『早
1点目は
「圧倒的な広告投入」。知名度ゼロ り前のことで、結局はネット業界の常である
と思うかも知れない。
からのスタートであるから、認知度を高めるた い者勝ち』ではないのか」
めには大規模な広告宣伝が不可欠だ。実際、 しかし、VANCLのビジネスモデルを考え付いた
VANCLの 09 年のインターネット広告宣伝費は のはVANCLが最初ではない。VANCLの創業
(批批吉服飾
(上海)有
5.2 億 元に上るとされ
(CR-Nielsen調べ)、こ から遡ること2 年、PPG
はVANCLと同じく直販アパレルメーカー
れはほぼVANCLのその年の売上高
(6 億元) 限公司)
通側が無名の新興事業者であってもそれほど に匹敵する。他社との比較で見ても、インター として05 年10月にサイト販売を開始していた。
大きな影響はない。一方、無名の新興メーカー ネット広告に限れば中国全土でも第 2 位、広告
PPGは、VANCLと同じように男性向けアパ
が自社製品をECチャネルのみで販売するのは、 投入量上位の常連である聯想(レノボ)や、外資 レル、特に製造・販売の定型化がしやすいシャ
製品・メーカーに対する信頼・ブランド力向上 自動車メーカーなども上回る金額である。
の面から非常に難しいと考えられていた。
ツを中心に販売を始めた。ファンドから得た潤
この圧倒的な広告投入で認知度向上を図る 沢な資金を背景に積極的な広告投入を行うと
しかし、近年ではメーカーにもネット専業プ マーケティング戦略は、市場の黎明期から拡 ともに、アフターサービスにも力を入れ、やは
レイヤーが出現している。ネット専業のアパレル 大初期においては有効だ。特に中国では認知 り「注文後の素早い配送」 、
「一定期間内は返
メーカーとして急成長するVANCL
(凡客誠品) のための先行投資的に大量の広告投入を行う 品可能」などを謳った。その結果、開業以来
はその筆頭だ。VANCLは07年創業。同年10 ことが多い。ネット事業ではないが、2000 年 毎月30%以上の売上成長を果たし、07年に
月に自社サイトでのEC事業を開始以降、売上 代前半に、低温度帯物流が浸透し始め、市 は売上 8 億 元
(推定)に達した。正にPPGは、
高は07年の500万元から、2 年後の 09 年に 場が急拡大期にあった乳 製品市場において、 VANCLの前を走るネット専 業メーカーの雄
6 億元、2010 年には20 億元
(予測)
と驚異的 人気TV番組
「超級女声」のスポンサーを務め だったのだ。しかし08 年初頭に、膨れ上がっ
伊藤淳(いとう・あつし)氏 コーポレイトディレクション
(CDI)
中国オフィス董事
なスピードで成長している。服飾品の中でも流 一気に認知度を高めトップメーカーに躍り出た た広告費用負担から資金繰り難が伝えられ、
行の影響を受けにくい男性向け製品を中心に 蒙牛乳業や、のぼせ・炎症の予防という機能 広告代理 店・サプライヤーなどからの債務 返
据え、高品質のカジュアル衣料を適正価格
(既 性を訴求するTVCMを大々的に打ち、広東省 済圧力が高まるとともに、08 年 3月には創業わ
存チャネルより安価)で提供するというコンセプ 中心の地域商品、用途の限定された漢方薬に ずか 5カ月のVANCLに1日平均の販売数量で
京都大学理学部卒。同大学大学院理学研究科修士課
程修了。02 年にコーポレイトディレクション東京オフィス入
社。08 年、中国オフィス董事に就任し上海に着任、現在
に至る。
ト、
ベーシックなデザインと豊富なカラーバリエー 過ぎなかった
「涼茶」カテゴリを一躍全国区に 追い越されると、そのままズルズルと売り上げを
■流通業からメーカーに広がる EC
数年前まで中国BtoC型ECの担い手の大半
は、流通事業者だった。販売チャネルを店舗
からネットに移すことで流通コストを圧縮し、そ
れを販売価格に還元するというモデルは、ネッ
トの価値を分かりやすく発揮できるからだ。特
に商品自体にブランド力があり、品質・価値を
サプライヤーが担保してくれるような商材は、流
のユニクロ」
とも称される。ユニクロと大きく違う 舗がなく顧客接点が限られるネット専業プレイ
ション、自社工場は持たず提 携OEM事業者 した王老吉などはその好例である。
へ依託する生産体制などから、しばしば
「中国
落とし、最終的には09 年12月に業務停止に
2 点目は
「質の高いアフターサービス」だ。店 追い込まれた。
一度はトップを走っていたPPGとそれをあっと
のは、
「ネット専業」と、先に述べたように創業 ヤーだからこそ、消費者の企業・製品に対す いう間に追い越していったVANCL、何がその
以来実際の店舗はまったく持たず、すべてネッ る信頼を高め、ブランドを確立するためにもア 成否を分けたのか? もちろんメーカーとしての
ト経由で販売している点だ。
フターサービスは極めて大事である。VANCL 製品品質にも差があったかも知れない。しかし、
はメーカーとしての信頼度はゼロからのスタート
だったため、
「注文後 24 時間以内の配送」
「商
■ EC 専業者のブランディング
販売チャネルがネットに限られるという、消費 品到着後 30日間はいつでも返品可
(送 料 含
者に認知されづらく購買体験もしてもらいづら む)
」など、流通事業者が行うECと比べてもより
両社の決定的な差を生んだのは、
「ネット事業
に対する構造的理解」の深さの違いと、それに
基づいた
「広告投入とアフターサービスの作りの
差」にあったのだ。
(次号110 号に続く)