2015年2月12日 【第6回知の市場年次大会】 特別講演・記念講演 感染症防御と対応 -エボラ出血熱等を例にして- 国立感染症研究所長 渡邉治雄 感染症のコントロールの成功 1)多くの抗生物質(抗菌薬)の発見とその効果 2)ワクチンの開発と予防接種 3)公衆衛生の向上 により いわゆる“伝染病” による致死率の低下 1 米国医務長官 (1967年) “今後、感染症の医書をひもとく必要はなくなった” と言われたが、 1970年後半から1980年代にかけ AIDS, プリオン病(BSE, vCJD)、O157(EHEC)等の新 しい感染症の出現により 1992 米国大統領府の感染症への警告 (Emerging & Re-Emerging Infectious Diseases) 1993~1994 米CDC、WHO感染症部門対策強化方針 1994:米国科学アカデミー“21世紀の医学研究におけ るフロンティアは感染症に対するワクチン及び 薬剤開発である”(Science, 1994) それに伴う膨大な研究費の増額 新興感染症の具体例 世界における新興感染症の発生例 新興ウイルス感染症 1 ウイルス性出血熱 1967 マールブルグ出血熱 1969 ラッサ熱 1976 エボラ出血熱 (1945,1956 クリミア・コンゴ出血熱) 2 ウイルス性肝炎 1969 B型肝炎 1973 A型肝炎 1983 E型肝炎 1989 C型肝炎 3 ヒトレトロウイルス病 1980 成人T細胞白血病(HTLV-1) 1983 ヒト後天性免疫不全症(HIV-1) 1986 ヒト後天性免疫不全症(HIV-1) 4 その他 1978 腎症候性出血熱 1993 ハンタウイルス肺症候群 南米出血熱 1991 ベネズエラ出血熱 1994 ブラジル出血熱 ○ウイルス性下痢症 1973 ロタ 2002 ノロ 1982 Norwalk virus =1972 1983,1994ヘルペスウイルス疾患 1983 ヒトパルボウイルス感染症 1998 ニパウイルス感染症 2003 SARS 1997,2003 高病原性鳥インフルエンザ 2009 インフルエンザ A (H1N1)2009 2010 SFTS 2012 MERS 2013 H7N9インフルエンザ 2014 西アフリカ:エボラ出血熱 日本で発生している新興感染症 新興細菌感染症 1961 MRSA(メチシリン耐性 黄色ブドウ球菌) 1965 肺炎クラミジア 1967 ペニシリン耐性肺炎球菌 1976 レジオネラ症(肺炎) 1982 腸管出血性大腸菌O157 1982 ライム病 1983 ピロリ菌(胃潰瘍) 1985 VREバンコマイシン耐性 腸球菌 1992 新型コレラ菌O139 TSLS 2010 アシネトバクター NDM1耐性菌 新興リケッチア感染症 1992 日本紅斑熱 新興寄生虫感染症 1976 クリプトスポリジウム 1986 サイクロスポーラ 2011 クドア・セプティンクタータ 2011 サルコシスチス・フェリエ 2 TSLS EHECO157 ノロウイルス HIV E型肝炎 トリインフルエンザH5N1 MRSA 新型ヤコブ病 多剤耐性結核菌 アシネトバクター NDM-1耐性菌 インフルエンザ A (H1N1)2009 クドア SFTS デング熱 実は新興感染症の多くの病原 体が動物に由来する(動物由 来感染症) 最近の主な疫学解析・検査対応 1) 腸管出血性大腸菌による集団事件の解析 (富山県を中心に発生したO111によるユッケ汚染事例) 2)ヒラメを原因とする食中毒:新しい寄生虫クドアの発見 3) 麻しん排除に向けての対応:(疫学調査やウイルスの遺伝 子型の解析) 4)新型インフルエンザ対応;中国で発生しているH7N9インフ ルエンザへの対応 5)新規のダニ媒介性感染症(重症熱性血小板減少症候群: SFTS)患者の診断法の確立と疫学調査 6)中東アジアにおけるMERS(新型コロナウイルス)患者発生: 検査体制の確立と地方衛生研究所への技術移転 7)国内発生デング熱への対応:媒介蚊対策 8)西アフリカで発生しているエボラ出血熱対応:検査の事前 対応WHOへの協力:WPRO地域への検査の技術移転 SFTSの疫学 5 患者の発生,地理的分布 4 患者数 A) 3 2 1 0 J F M A M J 8 J A S O N D 月 患者数 7 6 5 4 B) No. of patients 3 2 患者数:28名(2013.1~8.26) 4 ・九州、四国、中国、近畿地方13県 ・5種類のマダニからウイルス遺伝子(+) 3 ・患者が報告されていない和歌山、福井、山 2 梨、静岡の4県のマダニからもウイルス(+) 1 0 0's 10's 20's 30's 40's 50' 60's 70's 80's 年齢 発生動向調査より 1 0 J F M A M J J A S O N D Month C) f patients 8 7 6 5 4 3 デング熱感染地別診断週別報告数 (2014年第1~39週、n=292) 70 60 国外 n=143 50 国内 n=149 報 告 数 40 30 20 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 診断週 一日に報告されている患者数(人) 累積患者数(人) *世界では毎年、5千万人のデング熱患者、 50万人のデング出血熱患者、2.4万人の死者 感染症発生動向調査より2014年10月1日現在 エボラ患者 患者総数:21296人 死者総数: 8429人 (2015.1.14日現在) 9000 8000 7000 6000 5000 4000 シエラレオネ 3000 2000 1000 0 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2014/5/29 2014/6/26 2014/7/24 2014/8/21 2014/9/18 年月日 4 2014/10/16 2014/11/13 2014/12/11 ワクチンや治療薬の開発 ・ 抗体; ZMapp(エボラウイルス抗原に対する MoAbのカクテル) ・ ワクチン; ChAd3(アデノウイルスにエボラウイルス 抗原遺伝子を組み込んだ)(GSK) VSV-EBOV(VSVウイルスにエボラウイ ルス抗原遺伝子を組み込んだ(Merck) ・抗ウイルス薬: ファビピラビル(アビガン):抗インフルエン ザ薬として開発されたが、エボラウイルス の増殖抑制効果もあり 実験室のレベルと病原体のレベル分類 実験室の封じ込めレベル P4 最も安全な実験室 P3 安全な実験室 P2 一般的な実 験室 ヒトに無害な病原体 P1 を扱う実験室 病原体のバイオセーフティレベル エボラ出血熱、ラッサ熱等のウイルス (最も安全に扱う必要があるもの) 高 検 査 室 の 安 全 性 の 程 度 低 病 原 体 の リ ス ク の 程 度 5 結核菌、狂犬病、H5N1、HIV等 BSL4 BSL3 食中毒菌、季節性インフルエンザ、 はしか、水痘等 BSL2 ヒトに無害な病原体 生ワクチン等 BSL1 人々の健康を感染症から守るために 厚生労働省 国立感染症研究所 地方衛生研究所 感染症対策ネットワーク 保健所 検疫所 医療機関 WHOの感染症発生に関する情報収集網 (WHO global network of networks):早期感知と迅速対応 WHO Regional and Country Offices WHO Collaborating Centres/ Laboratories MOH/National Disease Control Centres Epidemiology Training Networks Industry UN Sister Agencies GOARN NGOs Media Electronic Discussion sites FORMAL INFORMAL 6 新興感染症のコントロール 多くの機関(厚労省、感染研、地方衛生研究 所、保健所、大学等)との連携で 新興感染症の早期検知、迅速対応 を行い、感染症の拡大を阻止し、健康被害 の最小化を図る 国民に正確な情報を提供して、過度に怖が らず、正しく対応できるようなリスクコミュニケ ーションの重要性;メディア、各関連機関等 7
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