微分方程式Ⅰ 演習問題 7 2015 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ※ 今回は常微分方程式の解の存在と一意性定理についての解説回であり、新しい微分方程式の解法は登場しませんでし たので、確認問題 7-2. は 1 階微分方程式の 総合演習 としました。なお、次週の小テストの計算問題は これまでに 講義で扱った微分方程式から ランダムに出題 しますので、確認問題 7-2. を中心に復習しておいて下さい。 確認問題 7-1.∗ (リプシッツ条件と初期値問題の解の一意性) dy = y 1/3 を考えよう。この微分方程式 dx の右辺に現れる関数 y 1/3 が (y に関して) リプシッツ条件を満たさない dy 理由を簡潔に説明しなさい。また、初期値問題 = y 1/3 (x = 1 のとき dx y = 0) の解が一意に定まらないことを確認しなさい。 条件 y ≥ 0 の下で微分方程式 [ヒント:講義で扱った例と全く同様に考えられます] ルドルフ・リプシッツ*1 確認問題 7-2. (1 階微分方程式総合演習) 以下の微分方程式の一般解を求めなさい。 (1) 3x2 dy = −2x2 + 4xy + y 2 dx (4) (cos x) dy = −y 3 sin(x) dx (2) − sin(x) + cos(y) dy =0 dx ( 2 ) x + y2 2 2 x + y sin dy x2 ( 2 ) = dx x + y2 xy sin x2 (3) dy + x2 y = 2x2 dx (5) (6) dy − 2y = 6x dx チャレンジ問題 7. (懸垂線) [やや難] 均一な紐の両端を持って、たるみの無い様に自然に垂らすときに紐が描く曲線の方程式を求めよ う。曲線の最下点を原点とする xy 平面を考え、紐の描く曲線を表す関数を y = φ(x) とおく。また、 重力加速度を g で表し、紐の線密度 (単位長さ当たりの質量) を ρ とする。各点 (x, φ(x)) に於いて はその接線方向に互いに逆向きの張力 T (x) が加わっているものとする (作用反作用の法則)。x 軸か ( π π) − < θ(x) < と書くことにしよう。 2 2 以上の準備の下で区間 x = x ∼ x + ∆x の間にある紐の微小成分 ∆s に加わる力の釣り合いの式 ら点 (x, φ(x)) での紐の接線に向けて測った角度を θ(x) を立式しよう。水平方向には張力の水平成分しか力は加わっていないので −T (x) cos θ(x) + T (x + ∆x) cos θ(x + ∆x) = 0 ······ ⃝ 1 が成り立つ。また、鉛直方向には張力の鉛直成分と ∆s への重力が加わる。微小区間 x ∼ x + ∆x に 於いては、∆s の長さを微小線分の長さ √ (∆x2 ) + (∆y)2 で近似してしまっても良いので (但し ∆y = φ(x + ∆x) − φ(x) とおいている)、結局 *1 Rudolf Otto Sigismund Lipschitz (1832–1903) −T (x) cos θ(x) − ρg √ (∆x)2 + (∆y)2 + T (x + ∆x) cos θ(x + ∆x) = 0 ······ ⃝ 2 ······ 3 ⃝ 1, ⃝ 2 より微分方程式 を得る。等式 ⃝ d (T (x) cos θ(x)) = 0 dx √ ( )2 d dy (T (x) sin θ(x)) = ρg 1 + dx dx 4 ······ ⃝ 3 より T (x) cos θ(x) = k (定数関数) が得られるので、⃝ 4 に代入して整理すると最終 が得られる。⃝ 的に x と y に関する微分方程式 √ d2 y =C dx2 が得られる (但し C = ( 1+ dy dx )2 5 ······ ⃝ ρg とおいた)。 k 1, ⃝ 2 から微分方程式 ⃝ 3, ⃝ 4 が導かれることを説明しなさい。 (1) 式 ⃝ dy = tan θ(x) が成り立つことを説明しなさい。また、そのことを用いて (2) y = φ(x) に対して dx 4 から微分方程式 ⃝ 5 を導き出しなさい。 式 T (x) cos θ(x) = k と式 ⃝ [ヒント: 点 (x, φ(x)) での接線の傾きを θ(x) を用いて表すと……?] dy 5 は x と Y に関する 1 階の常微分方程式となる。これを解くことに とおくと、⃝ (3) Y = dx よって紐が描く曲線を表す関数 y = φ(x) を求めなさい (初期条件 φ(0) = 0, φ′ (0) = 0 に注 意すること)。 ∫ [ヒント: 不定積分 √ 1 √ ds は t = s + 1 + s2 と置換して計算しよう*2 ] 2 1+s y y = φ(x) T (x + ∆x) θ(x + ∆x) φ(x + ∆x) ∆s ∆y ρg φ(x) θ(x) √ (∆x)2 + (∆y)2 θ(x) T (x) ∆x O *2 x x x + ∆x 1 年次に用いた石原繁・浅野重初著『理工系入門 微分積分』(裳華房) の 121 ページ 例題 2 を参照。 【略解】 確認問題 7-1. g(y) = y 1/3 の グ ラ フ は y = 0 に 於 い て limy→+0 g ′ (y) = 1 limy→+0 √ = +∞ (つ ま り 接 線 が y 軸 と 平 行) に な る の 3 3 y2 g(y1 ) − g(y0 ) で 、y = 0 の ご く 近 く で は を幾らでも大きくす y1 − y0 る こ と が 出 来 る 。し た が っ て g(y) に 対 し て は リ プ シ ッ ツ の 条 件 y = 0 での接線 g(y) = y 1/3 y O |g(y1 ) − g(y0 )| ≤ K|y0 − y1 | が全ての y0 , y1 に対して満たされるよ うな実数 K は存在し得ない。 ( ) 32 dy 2 2 1/3 (C は任意の実数) と =y を y ̸= 0 として変数分離法を用いて解くと y = x+ C dx 3 3 なる。この関数のグラフは x 軸上の点 (−C, 0) で x 軸と接する (つまり接線の傾きが 0 となる) こ dy とが容易に確認出来る。一方で定数関数 y = 0 も勿論 = y 1/3 を満たす。したがって、関数 dx 0 ( ) 32 φ(x) = 2 2 x+ C 3 3 は C > −1 なる実数 C に対して全て初期値問題 が一意に定まっていないことが観察出来る。 (x ≤ −C のとき), (x ≥ −C のとき) dy = y 1/3 (x = 1 のとき y = 0) の解となり、解 dx 確認問題 7-2. 参考までにこれまでに学んだどの種類の微分方程式に該当するかも併せて記載してお きます。 (1) [同次形] y= x(1 + 2Cx) (C は任意の実数) または y = −2x 1 − Cx ※ 解 y = x (C = 0 としたとき) および解 y = −2x に注意すること (変数分離法の際に「右辺 = 0」となる箇所から出てくる解) (2) [完全微分形、変数分離形] (3) [1 階線形] y = 2 + Ce cos(x) + sin(y) = C (C は任意の実数) − 31 x3 (C は任意の実数) 1 1 = − log|cos(x)| + C 等も可) 2y 2 2C − 2 log|cos(x)| ※)解 y = 0 に注意すること (「右辺 = 0」の箇所から出てくる解) ( 2 1 x + y2 (5) [同次形] − cos = log|x| + C (C は任意の実数) 2 x2 3 (6) [1 階線形] y = −3x − + Ce2x (C は任意の実数) 2 (4) [変数分離形] y = ±√ または y = 0 ( チャレンジ問題 7. 1 式は h1 (x + ∆x) − h1 (x) = 0 と書き直せる。両辺 (1) h1 (x) = T (x) cos θ(x) とおくと、⃝ を ∆x で割って ∆x を 0 に近づけると、導関数の定義より h′1 (x) = 0 となる。つまり d 3 式が従う。同様に h2 (x) = T (x) sin θ(x) とおくと ⃝ 2 式は (T cos θ) = 0 であるから ⃝ dx √ h2 (x + ∆x) − h2 (x) = ρg (∆x)2 + (∆y)2 と書き替えられる。両辺を ∆x で割って ∆x を 0 に近づけると √ )2 ( h2 (x + ∆x) − h2 (x) ∆y = lim ρg 1 + lim ∆x→0 ∆x→0 ∆x ∆x √ ( )2 d dy ∴ h′2 (x) = (T sin θ) = ρg 1 + dx dx ∆y dy = であることに注意しよう)。 ∆x dx (2) θ(x) の定義より、(x, φ(x)) に於ける y = φ(x) の接線の傾きは tan θ(x) であるが、一方で dy 微分係数の定義より (x, φ(x)) に於ける接線の傾きは φ′ (x) = で表される。したがって dx dy = tan θ(x) が成り立つ。 dx k 4 式に代入して T (x) cos θ(x) = k より T (x) = であるから、⃝ cos θ(x) 4 式が従う (導関数の定義より lim となり ⃝ ∆x→0 √ sin θ(x) = ρg k cos θ(x) 1+ ( dy dx √ )2 ρg dy = tan θ(x) = dx k ∴ ( 1+ dy dx )2 が成り立つ。 (3) Y = √ dY dy 5 は とおくと、⃝ = C 1 + Y 2 と書き直される。これは変数分離形の微分方程 dx dx 式であるから ∫ ∫ 1 √ dY = C dx 1+Y2 = Cx + α (α は任意の実数) が成り立つ。ここで左辺の積分を計算するために t = Y + (t − Y )2 = 1 + Y 2 ∴ ∴ √ 1 + Y 2 と置換すると、 t2 − 1 2t 2t · 2t − (t2 − 1) · 2 t2 + 1 dY = = dt (2t)2 2t2 Y = と計算出来るので ∫ )2 }−1/2 2 t +1 t2 − 1 · dt 1+ 2t 2t2 ) 2 ∫ ( 2t t +1 = · dt t2 + 1 2t2 ∫ √ 1 = dt = log|t| = log|Y + 1 + Y 2 | t 1 √ dY = 1+Y2 ∫ { ( と計算出来る (積分定数は省略した)。したがって log|Y + √ 1 + Y 2 | = Cx + α が成り立つが、初期条件 φ′ (0) = 0 より x = 0 のとき Y = 0 だから log|0 + √ 1 + 02 | = C · 0 + α ∴ α=0 が従う。α = 0 を代入して計算を進めると √ 1 + Y 2 | = Cx √ ∴ Y + 1 + Y 2 = eCx √ 2 ∴ 1 + Y 2 = (eCx − Y )2 log|Y + ∴ Y = dy 1 1 e2Cx − 1 = eCx − e−Cx = Cx dx 2e 2 2 が得られる。この式を更に x で不定積分すると、積分定数を β として y= 1 Cx 1 −Cx eCx + e−Cx +β = e + e +β 2C 2C 2C が得られる。再び初期条件 φ(0) = 0 より x = 0 のとき y = 0 であることを考慮すると β=− 注意 1 eCx + e−Cx 1 であることが確認出来る。以上より求める関数は y = − である。 C 2C C たるみの無いように紐を自然に垂らした際に紐が描く曲線を 懸垂線 1 eCx + e−Cx − を 2C C x −x e +e 良く観察してみると、この曲線は 双曲余弦関数 y = cosh(x) = の 2 1 1 グラフを (x, y 軸方向に) 倍に相似拡大し、y 軸方向に − だけ平行移動 C C catenary と呼ぶ。本問で求めた懸垂線のグラフの式 y = して得られるものであることが分かる。懸垂線を表す方程式を最初に発見した のはスイスの数学者ヨハン・ベルヌーイ*3 であると言われている。 babababababababababababababababababab 【自由研究 1】 関数 √ 1 の積分 1 + s2 チ ャ レ ン ジ 問 題 7. で 計 算 し た 不 定 積 分 ∫ 1 √ ds は 、双 曲 余 弦 関 数 を 用 い て 1 + s2 et + e−t と置換して計算することも出来ます。こちらの方法でも同様 ∫ 2 √ 1 √ の結果 (つまり ds = log|s + 1 + s2 | + C) が得られることを確認してみま 1 + s2 s = cosh(t) = しょう。 *3 Johann Bernoulli (1667–1748) 図 1 懸垂線と放物線: 似たような形ですが、微妙に違う曲線なのです babababababababababababababababababab 【自由研究 2】 懸垂線 手元にある均質なチェーン状の細い鎖*4 (ネックレスやウォレットチェーン、お風呂の栓に ついたチェーンなど) を上の図の上端に合わせて垂らしてみたとき、鎖が懸垂線 (外側の膨 らんだ曲線) に沿って垂れ下がることを実際に確認してみよう (図が小さいときには、拡大 コピーをとってやってみて下さい)。 *4 手芸用の紐や糸だと軽すぎて上手く垂れ下がってくれなかったり、変な癖がついてしまったりして上手くいかない場合 が多いので、出来ればチェーン状の鎖を使用することをお薦めします。最近では 100 円ショップでも手に入るみたいで すよ。
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